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選択の自由と課題の慣れは曖昧性への選好を調整する

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DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.34.34

選択の自由と課題の慣れは曖昧性への選好を調整する

1,2

堀   麻 佑 子

a

*,沼 田 恵 太 郎

b

,中 島 定 彦

c

,嶋

恒 雄

c a神戸学院大学人文学部 b大阪大学大学院人間科学研究科 c関西学院大学文学部

Freedom of choice and stimulus familiarity modulate the preference for ambiguity

Mayuko Hori

a

*, Keitaro Numata

b

, Sadahiko Nakajima

c

, and Tsuneo Shimazaki

c a Faculty of Humanities and Sciences, Kobe Gakuin University

b Graduate School of Human Sciences, Osaka University c School of Humanities, Kwansei Gakuin University

People prefer unambiguity to ambiguity in decision making under ambiguity. This phenomenon, known as “ambiguity aversion,” is thought to be influenced by environmental and psychological factors. The present research demonstrated the effects of choice opportunity (the availability of choice of cards), competition (the presence vs. absence of a competitor), and stimulus familiarity (familiar playing cards vs. unfamiliar tarot cards) on choice of ambiguity. Participants preferred the ambiguous deck of cards when they were allowed to choose playing cards. In the tarot-card task, however, they did not show a preference for the ambiguous deck even if they could choose the cards by themselves. The competition factor had no effect on the participants’ choice. These findings indicate that choice opportunity and stimulus familiarity affect decision making under ambiguity.

Keywords: decision making, ambiguity aversion, stimulus familiarity, choice opportunity, illusion of control

曖昧性は“情報の量,タイプ,信頼性,一致度に依存 する性質であり,相対的な可能性の推定において個人の 確信度に影響を与えるもの”と定義される(Ellsberg, 1961, p. 657)。過去研究では,曖昧性は忌避されやすい ことが繰り返し指摘されてきた(Adachi, Yama, Van der Henst, Mercier, Karasawa, & Kawasaki, 2013; Einhorn & Hog-arth, 1986; Klein, Cerully, Monin, & Moore, 2010)。この現 象は曖昧性忌避(ambiguity aversion)と呼ばれ,“ヒト はいかに不合理な決定を行うか”という観点から,これ まで盛んに研究が行われてきた。

曖昧性忌避の現象は頑健とされる一方で(Keren & Gerritsen, 1999), この傾向がみられないことや(Fox & Tversky, 1995), 曖昧性がむしろ好まれるケースがあるこ とも報告されている(Heath & Tversky, 1991)。曖昧性に 関する意思決定は,選択肢の提示方法などの状況要因 (Fox & Tversky, 1995)だけでなく,より多くの情報を得 ると感じる有能感(Heath & Tversky, 1991)や,結果を制 御できると感じるコントロール感(増田・坂上・広田, 2002a)などの心理的要因によっても左右されると考え られてきた。 た と え ば, 増 田 ら(2002a)は制御幻想(illusion of control)の生起が曖昧性に関する意思決定の規定因の一 つであると主張している。Langer (1975)は制御幻想が “スキル状況に含まれる要素がチャンス状況に導入され ることで,個人が不適切な自信を感じる(p. 311)”こと で生じ,“客観的確率よりも不適切に高く成功確率を期 待すること”と定義した(p. 313)。また,スキル状況に 含まれる要素として“選択(choice)”,“競争(competi-tion)”,“親 近 性(familiarity)”,“関 与(involvement)” Copyright 2016. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. * Corresponding author. Department of Psychology, Faculty

of Humanities and Sciences, Kobe Gakuin University, 518 Arise, Ikawadani-cho, Nishi-ku, Kobe, Hyogo 651–2180, Japan. E-mail: hori@human.kobegakuin.ac.jp

1 本研究の一部は関西心理学会第126回大会にて発表 した。 2 本研究の一部は,坂田裕介氏と小林雄樹氏が著者ら の指導下に関西学院大学卒業論文(2008年度,2010 年度)として収集したデータを再分析したものであ る。

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の4要因を挙げている。これらの諸要因と制御幻想との 関連についてはこれまで別個に検討されてきた(Bouts & Van Avermaet, 1992; Dunn & Wilson, 1990, Langer, 1975)。 増田ら(2002a)の研究1では,このうち選択と競争 の要因が曖昧性の選択に与える影響について検討した。 実験課題はカードを用いた けの事態であり,参加者は 曖昧性の異なる4つの裏向きのトランプの山(デッキ) から1つを選び,さらにその中から1枚を選んだ。引い たカードが当たりであれば賞品が与えられると教示し た。トランプの山は,当たりの含有数が不明な高曖昧性 場面が2つと,含有数が明確な低曖昧性場面が2つの計 4つであった。自由にトランプの山を選択でき,かつ競 争相手がいる場合に,高曖昧性場面が多く選択される傾 向があった。なお,増田ら(2002a)のその後の研究で は質問紙を用いることで,また,増田・広田(2004)は 増田ら(2002a)と異なる けの事態を用いて,選択の 要因を検討し,これらの要因が曖昧性の選択に影響を与 えることを認めた。これらの知見は心理的要因が曖昧性 の選択に影響することを支持しており,制御幻想が生じ ることで“自身の行動により好ましい結果を得ることが できる”という参加者の誤信念が高まり,曖昧な場面を むしろ好むようになる可能性を示唆している(増田ら, 2002a)。 ただし,制御幻想の有無が曖昧性の選択に影響すると いう主張については,問題がないとはいえない。なぜな ら,増田ら(2002a)の研究1では,選択と競争の要因 が付加されることで高曖昧性場面を好む傾向がみられた ものの,統計的な支持は得られていないからである。な お,研究1では,参加者が自由にトランプの山を選ぶこ とができるか否かにかかわらず,最終的に1つのトラン プの山の中から1枚のカードを選ぶことができたため, 選択の効果が薄れてしまった可能性を彼ら自身が指摘し ている。また,制御幻想を生じさせる4要因のうちの2 つ,親近性と関与についての検討はいまだ行われておら ず,“参加者の誤信念により曖昧な場面が好まれる”と いう仮説の是非については,さらなる検討が必要であ る。 本研究では増田ら(2002a)の研究1の追試と拡張を 行い,制御幻想の生起に関わる要因が曖昧性の選択に影 響を及ぼすか否か検討を行う。増田ら(2002a)が扱っ た選択と競争に加え,これまでに検討されてこなかった 親近性の影響についても吟味する3 選択の要因については,増田ら(2002a)の手続きを 変更して検討する。具体的には,増田ら(2002a)では4 つのトランプの山すべてで,その中から自由にカードを 選べたが,本研究では必ず選んだ山の一番上のカードを 引く。この変更により,選択の有無を明瞭に参加者に示 すことができるため,検討対象であるトランプの山の間 の選択の効果が強まることが予想される。 なお,本研究で扱う親近性は,課題に対する馴染みの 有無である。具体的には,日常的に接する機会の多いト ランプと,接する機会の少ないタロットを用いた場合で 曖昧性の選択に違いがみられるか否かを検討する。両者 には4種類の絵柄につき,1から10までの数字のカード が含まれる。そのため,課題構造を変えることなく,親 近性の効果について検討できる。 増田ら(2002a)で示されたように,制御幻想の生起 に関わる要因が曖昧性の選択に影響するのであれば,本 研究でも同様の傾向がみられることが期待される。つま り,カードの山を参加者が自由に選択できる場合や,競 争相手がいる場合,馴染みのあるトランプ課題の場合 に,高曖昧性場面への選好がみられると予測される。 方 法 参加者 参加者は大学生192名であり,平均年齢は 20.7歳であった。参加者の半数はトランプ課題,残り半 数はタロット課題に従事した。また,各課題では単独群 と競争群に半数ずつ割り当てた。したがって,計4群構 成であり,各群の参加者は48名であった。トランプ課 題における単独群の参加者は男性24名,女性24名であ り,競争群は男性23名,女性25名であった。タロット 課題における単独群の参加者は男性20名,女性28名で あり,競争群は男性23名,女性25名であった。いずれ の参加者も本研究で用いた課題,および類似の課題に関 する実験への参加経験をもたなかった。 実験材料 トランプ課題では紙製のトランプ(縦 88 mm×横63 mm)を用い,当たりカードはスペードま たはクローバー,外れカードはダイヤまたはハートとし た。なお,カードの裏面は半数が赤色,残り半数が青色 であり,高曖昧性場面と低曖昧性場面で使い分けた。 タロット課題では紙製のタロット(縦 112 mm×横 72 mm)を用い,当たりカードは剣または杖,外れカー 3 本研究では,関与については検討しない。そもそも 選択と関与は区別されず,実験操作が重複する場合 が多いことが指摘されている(増田・坂上・広田, 2002b)。たとえば,カードを引くのが実験者か参加 者かという違いは,カードの選択の有無であるが, 手続きへの関与の有無とも考えられる。そのため, 本研究では選択,競争,親近性の 3要因に着目し た。

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ドは金貨または聖杯とした。カードの裏面は半数に赤色 シール,残り半数に青色シールを貼り,高曖昧性場面と 低曖昧性場面で使い分けた。トランプ課題とタロット課 題で場面ごとに裏面を違えたのは,場面間の識別性を高 めることで,選択時に無用の混乱を参加者に生じさせな いことを意図したためである。 実験状況と手続き 参加者2名を隣合わせに着席さ せ,同時に実験を行った(Figure 1)。実験者は参加者ら と机を挟んだ対面に着席した。参加者らの前に,10枚 のカードからなる山を奥側(実験者側)に2つ,手前側 (参加者側)に2つ,後述の手順により置き,参加者に4 つのうちどれか1つの山の一番上からカードを1枚引く ことを求めた。この際,参加者には,カードを引くこと で けに参加すること,当たりを引くと賞品がもらえる ことを教示した。 カードの山の設置は以下の手順により行った(Fig-ure 2)。まず,実験者が20枚のカードを手にし,当たり 10枚と外れ10枚が含まれていることを参加者に見せた 後,この20枚を裏向きによくシャッフルしてから10枚 ずつの山を2つ作った。このようにして,各山に含まれ る当たりの割合が不確実(0∼10枚)であることを参加 者に示した。これが高曖昧性場面であり,この2山は参 加者から見て奥側に,左右に並べて置いた。 次に実験者は,別の20枚のカードを参加者に見せた。 この20枚は,当たり5枚と外れ5枚からなる10枚のカー ド2組であり,組ごとに裏向けてよくシャッフルし,1 組を1山として参加者から見て手前側に左右に並べて置 いた。この2山は各山に含まれる当たりの割合が確実(5 枚)であるため,低曖昧性場面となる。 競争の効果について検討するため,単独群と競争群を 設定した。単独群では,隣にもう1名の参加者が同席す るが実験は個々に行うこと,隣の参加者とは無関係に, 各自が引いた当たりの数に応じて賞品を与えることを教 示した。一方,競争群では隣の参加者と競争し,当たり を引いた数が多い方に実験者が賞品を与えることを教示 した。 また,選択の効果について検討するため,上述の各群 内に制約条件と自由条件を設定した。単独群では,制約 条件は実験者が左右どちらの列から山を選ぶかを指定 し,参加者は残された列の奥側の山(高曖昧性場面)と 手前側の山(低曖昧性場面)のうち一方を選択した。自 由条件は参加者が自由に4つの山から一つ選択できた。 競争群では,2名の参加者のうち実験者が指名した一方 が左右の列を自分で決めてから,2つの山のどちらかを 選択した。その後,もう一方の参加者は残された列の2 つの山から1つを選択した。実験者が指名した参加者が 自由条件,その後に山を選択する参加者は制約条件であ る。なお,次の試行では実験者が指名する参加者を入れ 替えて実施した。 単独群,競争群ともに制約条件と自由条件で 1回ず つ,計2回カードを引いた。条件の実施順序はカウンタ バランスした。課題終了後に“トランプ(タロット)の 存在を知っていたか”と,“トランプ(タロット)を使っ て遊んだ(占い等をした)ことがあるか”について,“は い”か“いいえ”で回答した。実験終了後に,実験目的 を説明し,実際に参加者が当たりを引いた数を伝えた が,当たりの数にかかわらず,全員に同額程度の菓子を 参加報酬として与えた。

Figure 1. Setting of experimental condition.

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結 果 Figure 3およびFigure 4にトランプ課題とタロット課題 の制約条件と自由条件における場面選好率を示す。場面 選好率は制約と自由条件で,高曖昧性と低曖昧性のどち らの場面を好んだかの人数の割合である。 トランプ課題においては,単独群の自由条件では制約 条件と比べて低曖昧性場面よりも高曖昧性場面が好まれ た。これら条件間の違いは有意であった(マクネマー検 定,χ(1)=4.35, p=.037)。競争群でも単独群と同様の傾2 向がみられた(χ(1)=4.32, p=.038)。単独群と競争群の2 結果について2要因の比率の差に関する交互作用の検定 を行ったところ,選択と競争の要因の交互作用はみられ なかった(Z=0.15, p=.881)。したがって,トランプ課 題では選択の効果はみられたものの,競争の効果はみら れなかったといえる。 一方,タロット課題では単独群(マクネマー検定, χ(1)=0.05, p=.831), 競争群(χ2 (1)=0.70, p=.404)とも2 に条件の違いはみられなかった。また,選択と競争の要 因の交互作用はみられなかった(Z=1.05, p=.294)。し たがって,タロット課題では選択および競争の効果はみ られなかったといえる。 親近性の効果を検討するため,各群に比率の差に関す る2要因(選択・親近性)の交互作用の検定を行ったと ころ,単独群では,選択と親近性の要因の交互作用がみ られたが(Z=2.00, p=.046),競争群ではみられなかっ た(Z=1.02, p=.308)。これらは親近性の要因が曖昧性 の選択に影響することを示している。 課題終了後に行った質問では,参加者全員がトランプ を使用したことがあると報告した(100%)。これに対し タロットは,参加者全員がその存在を知っていたもの の,使用したことがないと報告した(0%)。これらの結 果より,本研究において,タロット課題はトランプ課題 よりも親近性が低かったことが確認された。 考 察 本研究ではLanger (1975)が示した制御幻想を生じさ せる4つの要因のうち,選択,競争,親近性が曖昧性の 選択に及ぼす影響について検討した。選択の要因は,2 つのカードの山を含む左右の列を自由に選べるか否かに よって制約条件と自由条件を設定して検討した。競争の 要因は,競争相手の有無によって単独群と競争群を設定 して検討した。親近性の要因は,馴染みの程度が異なる トランプとタロットを用いて検討した。 その結果,制約条件に比べて自由条件では高曖昧性場 面が選好され,その傾向は単独群と競争群で同様であっ た。これらの事実は選択の効果がみられたこと,および その効果が競争の有無にかかわらずみられたことを示 す。先行研究である増田ら(2002a)では,選択の効果 がみられたのは単独群のみであったが,本研究では競争

Figure 3. Preference ratios of the low vs. high ambiguity as functions of choice opportunity (forced vs. free choice) × com-petition (play single vs. competitive play) × task familiarity (familiar playing cards vs. unfamiliar tarot cards). The black and white bars respectively indicate bets on low and high ambiguity. Numerals in the bars indicate the number of partici-pants.

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の有無にかかわらずみられた点が異なる。ただし,序論 で述べたように競争の要因については増田ら(2002a) でも統計的な支持は得られていない。本研究では実験課 題におけるカードの選び方を,増田ら(2002a)とは異 なる方法で行ったことで,選択の効果がより顕著とな り,単独群と同様に競争群でも選択の効果がみられた可 能性がある。また,単独群では,トランプ課題でみられ ていた選択の効果はタロット課題ではみられず,競争群 でも同様の傾向であった。これらの事実は,親近性の要 因が曖昧性の選択に影響を及ぼすことを示しており,先 行研究にない新しい知見である。 本研究から,Langer (1975)が指摘した制御幻想に関 わる4要因のうち,選択と親近性が曖昧性の選択に影響 を及ぼすことが明らかとなった。しかし,競争の効果は 本研究ではみられず,先行研究である増田ら(2002a) でも統計的に有意ではなかった。これらの知見は,増田 ら(2002a)が示唆した“制御幻想の生起により曖昧な 場面をむしろ好むようになる”という考えとは一致しな い。また,本研究や増田ら(2002a)では,曖昧性の選 択の背景で実際に制御幻想が生じていたか否かについて は測定そのものを行っていない。これらを踏まえると, 増田ら(2002a)が主張したように,特定の独立変数の 操作が,“より好ましい結果を得ることができるという 信念”である制御幻想を生起させ,“曖昧性を低く知覚 した結果”として,曖昧性忌避の減弱が生じるという因 果連鎖を支持することは難しいと考えられる。むしろ, 特定の独立変数の操作は制御幻想や曖昧性忌避に影響す るが,これらは独立した現象であり,一種の偽相関の関 係にあるという共通原因構造も想定される。 Langer (1975)は,制御幻想の生起について“スキル 状況に含まれる要素がチャンス状況に導入されることで 生じる”と述べている。スキル状況とは行動と結果に因

Figure 4. The number of participants’ bets in four conditions: Single-group at the playing-card task (top left panel), compe-tition-group at the playing-card task (top right panel), single-group at the tarot-card task (bottom left panel), and competi-tion-group at the tarot-card task (bottom right panel). The cell A indicates the number of participants who chose low-ambi-guity both in forced and free choice conditions. The cell B indicates the number of participants who chose low-ambilow-ambi-guity in forced choice condition, and high-ambiguity in free choice condition. The cell C indicates the number of participants who chose high-ambiguity in forced choice condition, and low-ambiguity in free choice condition. The cell D indicates the num-ber of participants who chose high-ambiguity both in forced and free choice conditions.

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果関係があり,コントロール可能な状況を指す。一方, チャンス状況とは,偶然や確率によって結果が決まるコ ントロール不可能な状況を指す。Bouts & Van Avermaet (1992)はスキル状況に含まれる要素がチャンス状況に 導入されると,注意がチャンス状況に向かなくなること を示唆した。すなわち,特定の独立変数の操作により, 確率などに規定される外的な環境要因よりも,自身の行 動である内的な要因に注意が向けられ,制御幻想が生じ ると考えられる。 このような注意の集中(focused attention)の問題は曖 昧性の選択においても生じているかもしれない。つま り,選択や親近性の操作によって,当たりの確率や曖昧 性といった外的要因よりも,自身の選択などの内的要因 に注意が向けられ,曖昧性を低く感じた可能性が考えら れる。選択や親近性の要因が曖昧性の選択に影響する過 程については,増田ら(2002a)の誤信念仮説や,Bouts & Van Avermaet (1992)の注意集中仮説を含めて,今後 詳しく検討する必要があるだろう。たとえば,制御幻想 の生起を示す指標としてはコントロール感の主観評価を 用 い る こ と が 多 い(堀・ 沼 田・ 中 島,2014; 増 田 ら, 2002b)。曖昧性の選択を指標とした研究においてもコン トロール感を測定することで,意思決定の過程を精査 し,“ヒトはいかに不合理な決定を行うか”という問題 について,さらにアプローチできる可能性がある。 ところで,Langer (1975)は親近性の要因を刺激の親 近性(stimulus familiarity)と,反応の親近性(response familiarity)に分類した。Bouts & Van Avermaet (1992)は 刺激の親近性を扱った けの実験を行い,一般的なトラ ンプを用いた場合の方が,珍しい絵柄のカードを用いた 場合よりも高い金額を けることを示した。一方,反応 の親近性を扱った研究にはLanger (1975)がある。事前 に課題の練習を行わせた群の方が,事前の練習がなかっ た群と比べて課題への解答に対する確信度が高かった。 これらの研究は異なる従属変数を用いているが,親近性 の操作が意思決定に影響するという点で共通している4 本研究で検討したのはLanger (1975)が分類した2つの 親近性のうち,刺激の親近性であると考えられる。反応 の親近性については未検討のため,曖昧性の選択と親近 性との関連についての検討がすべてつくされているとは いえない。今後, 反応の親近性についての検討も行う必 要があるだろう。 日常生活では本研究の曖昧性場面のように確率が一つ に決まらない場面が大半である。曖昧性への否定的態度 である曖昧性耐性の低さについては抑うつや強迫性障 害,不安などの心理的不適応との関連も報告されている (西村,2007)。いかに曖昧性を受容するかという問題 は,精神的健康の維持にとって重要であり,加齢・発達 との関連も示唆される(増田・坂上・広田,1997)。今 後,曖昧性に関する意思決定を左右する要因の探索や, その過程を明らかにすることが望まれる。 引用文献

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4 制御幻想に関する研究では,“制御幻想は従属変数 の測定が,研究ごとにばらばらである”という指摘 がされている(増田ら,2002b, p. 133)。そのため, 従属変数の異なるこれらの研究を単純に比較するこ とは慎重であるべきであろう。これら制御幻想の研 究を巡る問題については,増田ら(2002b)を参照 されたい。

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Figure 1. Setting of experimental condition.
Figure 3. Preference ratios of the low vs. high ambiguity as functions of choice opportunity  (forced vs
Figure 4. The number of participants  bets in four conditions: Single-group at the playing-card task  (top left panel) , compe- compe-tition-group at the playing-card task  (top right panel) , single-group at the tarot-card task  (bottom left panel) , and

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