長期外来リハビリテーションにより就労に至った被殻出血の一例
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(2) 長期外来リハビリテーションにより就労に至った被殻出血の一例. 451. 図 1 来院時の MRI 所見. 図 2 介入開始時の起立動作. 図 3 介入開始時の着座動作. あった(図 2,3)。 なお,症例には本報告の目的と趣旨,個人情報の保護. 理学療法介入. に関する説明を書面と口頭にて行い,本人の署名をもっ. 理学療法介入は 36 ヵ月間実施した。外来リハ開始か. て同意を得た。. ら介入 28 ヵ月目までは 1 回 60 分の理学療法を週に 2 回,.
(3) 452. 理学療法学 第 44 巻第 6 号. 介入 28 ヵ月目以降は 1 回 60 分の理学療法を 2 週間に 1 回実施した。. の速度は,快適に歩行ができる程度に設定し,1.2 km/h (0.33 m/sec)より歩行能力に準じて漸増を図り,介入. 本症例が就労するにあたり家族が毎日送迎することは. 24 ヵ 月 に は 2.2 km/h(0.61 m/sec) ま で 上 昇 さ せ た。. 困難であり,就労の前段階として,具体的な交通手段を. 以後,同速度にて介入 36 ヵ月まで継続して実施した。. 獲得することが必要であった。そのため,理学療法では,. 公共交通機関の利用に対しては,自宅と勤務先間の移. 歩行能力の向上や公共交通機関の利用などの通勤手段の. 動に必要なバスと電車の乗降練習を実施した。. 獲得を目的に介入した。まず,初期の目標として対称的 な起立や着座動作の獲得を設定した。症例は,起立動作. 経 過. 時に麻痺側上下肢の筋緊張亢進を認め,麻痺側下肢への. 開始初期は,歩行能力の改善や家屋内の動作の自立を. 荷重が不十分であり,対称的な姿勢コントロールが困難. 目的に介入した。介入の結果,起立や着座動作の対称性. であった。そのため,対称的に両足底へ荷重ができるこ. の改善を認めた(図 4,5) 。麻痺側立脚終期から遊脚期. とを目標に,背臥位にて両膝立て位をとり,体幹の姿勢. に膝関節屈曲が認められ,ぶん廻し歩行の改善を認め. コントロールの関与が少ない条件で両足底への荷重およ. た。介入 4 ヵ月目には,タマラック継手付短下肢装具を. び足関節背屈位での股関節伸展運動の練習を,ハンドリ. 装着し,T 字杖利用下にて歩行が可能となった。歩行速. ングを行いながら実施した。また,端座位にて足関節底. 度の変化を図 6 に示す。介入により歩行速度の向上を認. 屈位から床面へ踵を接地させるようハンドリングを行い ながら麻痺側下肢への荷重練習も実施した。麻痺側下肢. め, 介 入 26 ヵ 月 目 に は,10 m 歩 行 速 度 が 3.0 km/h (0.84 m/sec)に改善した。. への荷重が可能となり,起立や着座動作の対称性の改善. 歩行速度の向上や生活範囲の拡大に伴い,本人より. がみられるようになってからは,起立や着座動作の練習. 「仕事がしたい」という発言があった。仕事をしたい理. を自宅でも実施するよう指導した。なお,自宅で行う際. 由は,「普通の人と同じように生活したい」や「自分で. は,麻痺側の踵が床に接地していることを確認するこ. 自由に使えるお金がほしい」というものであった。その. と,麻痺側上肢を非麻痺側上肢で把持し対称的に体幹を. ため,介入 13 ヵ月目より就労支援を目的とした介入へ. コントロールするよう指導を行い,1 日 200 回を目標に. とリハ計画を変更し,併せて,市内の就労支援移行事業. した。さらに,介入 10 ヵ月頃より手すりを利用した 2. 所の利用も開始した。就労支援移行事業所の担当者と連. 足 1 段での階段昇降練習を開始し,介入 14 ヵ月頃より. 携を図りながら就労の問題点に対するリハを行い,理学. 杖を利用した 2 足 1 段での昇降,介入 21 ヵ月頃より手. 療法では通勤手段の獲得へ目的を変更した。まずは,就. すりを利用した 1 足 1 段での昇降へと難易度を段階的に. 労支援事業所と自宅間の移動の自立を目的に,交通アク. 上げながら実施した。また,介入 16 ヵ月頃よりトレッ. セスのよいバスの利用に対する介入を行い,介入 21 ヵ. ドミルを利用して歩行速度の向上を目的とした歩行練習. 月目よりバスの乗降練習を開始した。実際にバスに乗車. も実施した。トレッドミル歩行練習は,外来理学療法ご. した結果,高いステップの昇降と大勢の人の中での移. とに実施し,実施時間は 15 分間とした。トレッドミル. 動,不安定なバス内での移動,乗車整理券の取得,料金. 図 4 介入後の起立動作.
(4) 長期外来リハビリテーションにより就労に至った被殻出血の一例. 453. 図 5 介入後の着座動作. 図 6 歩行速度の変化. の支払いが問題点として挙げられた。高いステップの昇. バイスを行った後,家族との乗降練習を実施した。結果,. 降とバス内での移動に関しては,訓練室内にて高いス. 不安は解消され,介入 36 ヵ月目には電車の乗降が自立. テップを想定した昇降練習やバランス練習,狭い空間を. した。. 歩く練習,屋外歩行練習などを実施した。乗車整理券の. 当初,症例は事務職を希望していたが,失語症の影響. 取得と料金の支払いに関しては,電子マネーを利用する. により事務職での採用はかなわなかった。しかしなが. こととし,首から下げて使用できるよう工夫した。実際. ら,就労支援事業所のサポートもあり,スーパーで販売. のバスの乗降練習を理学療法士とともに数回行った結. する野菜の袋詰めなどの仕事を得ることができ,障害者. 果,バスの乗降が可能となったが,家族より「ひとりで. 雇用枠での就労が可能となった。現在も週 5 回,5 時間. バスに乗せるのは不安」との発言があったため,本人と. 程度の就労を継続している。. 家族による乗降練習も実施した。介入 26 ヵ月目には不 安が解消され,ひとりでバスを利用することが可能と. 考 察. なった。また,通勤のためには電車の利用も必要であっ. 介入開始時,0.17 m/sec であった歩行速度が,介入. たため,電車の利用に対する介入も行った。電車の利用. 26 ヵ月目には 0.84 m/sec まで改善した。脳卒中片麻痺. について本人・家族と面談を行ったところ,電車への乗. 患者の先行研究において,麻痺側下肢への荷重率が移動. 降と電車内の移動が不安な点として挙げられた。これら. 能力に関連していることが報告されている 4). 4‒8). 。なかで. は,脳卒中患者の起立動作において,両. の点については,バス利用の問題点と同じと判断して直. も Chou ら. 接の介入は行わず,不安解消のために本人と家族へアド. 下肢にかかる床反力の差が 30% 未満の者は歩行能力が.
(5) 454. 理学療法学 第 44 巻第 6 号. 高かったことを報告している。よって,初期の目標とし. 度で歩行できる能力や高い認知機能を有している必要が. て対称的な起立や着座動作の獲得を設定した。具体的な. あると思われた。介入の結果,介入 26 ヵ月目にはバス. 介入は,Rain らの著書. 9). で述べられている理論に基づ. いた。これによって,課題練習単独で行うよりも歩行速. の乗降が自立し,介入 36 ヵ月目には,電車の乗降が自 立した。冨田ら. 19). は,IQ の中でも動作性 IQ は,脳外. 10). 傷患者の社会的能力をよく反映し,知的側面から社会復. また,動作を反復して練習することが脳卒中患者に対す. 帰について検討する際に有用な指標のひとつとなり得る. る治療の重要なポイントとなることが報告されてお. と報告している。今回,0.8 m/sec 以上の速度での歩行. 度や応用歩行の改善を認めたことが報告されている. 。. 11). ,動作の習熟のためには治療介入以外の時間にも. が可能となったことに加えて,元々動作性 IQ が保持さ. 動作練習ができるよう指導する必要があると考える。今. れていたことが公共交通機関の利用を可能にした要因で. 回セラピストによる介入に加えて,自宅での練習が継続. あると思われた。また,Grahn ら. して行えたことが起立や着座動作の対称性の改善やそれ. ンが生活の質(Quality of Life;以下,QOL)を含む帰. に伴う歩行速度の向上につながったと思われた。介入. 結の予測因子となり得ることを報告している。また,安. 15 ヵ月頃より歩行速度の向上が停滞した期間があった. 藤. が,介入 18 ヵ月頃より再度歩行速度の向上が認められ. る意欲低下により,就労支援に難渋した一例を報告して. り. 12). 21). 20). は,モチベーショ. は,身体機能の改善を認めたが,社会復帰に対す. は,3 週間の通常の理学療法で. いる。今回の結果は,本症例が身体機能の改善や公共交. 歩行能力に著変のなかった脳卒中患者に対してトレッド. 通機関の利用,就労などに対して意欲的であったことも. ミル歩行練習を行った結果,歩行能力の改善を認めたこ. 影響している可能性も考えられた。. た(図 6) 。Hesse ら. 13). は,ボバースコン. 症例は,余暇活動に利用できるお金が少なく困ってい. セプトに基づく歩行練習を単独で行うよりもトレッドミ. た。今回,新規の就労が可能となったことで,発症前と. ル歩行練習を付加した方が歩行速度の向上が認められた. 比較し収入は減少したものの,症例が余暇活動に費やす. と報告しており,トレッドミル歩行練習の付加が介入. ための十分な賃金を得ることができた。これにより,. 18 ヵ月目以降の歩行速度向上に寄与した可能性も考え. ショッピングや友人と外食にでかけることなどが可能と. られた。先行研究では,被殻の後外側に病変を呈する者. なったことで,外出や人と会う機会が増加し,QOL の. とを報告している。また,Eich ら. 14). や,脳卒中患者の. 向上が図られた可能性があると推察される。経済的な自. 歩行速度は,錐体路の損傷の程度よりも,被殻や島,外. 立が図れることは,QOL を高めるうえで重要な要素の. は,非対称的な歩行を呈すること. 包およびその周辺の損傷の影響を受けること. 15). が報告. ひとつであると思われた。. されており,本症例は歩行能力の向上が得られにくい可. 今回,公共交通機関の利用が可能となったことは,就. 能性があったが,介入後の変化として,歩行速度の向上. 労につながった要因のひとつと思われたが,本症例には. や屋内外の移動の自立が図れており,被殻周辺の病変を. その他にも就労に関する問題点があった。症例は失語症. 有する症例であっても,長期に亘って患者の経過を考慮. や右上肢の麻痺により両手動作が困難であったことで就. した介入を継続することによって,歩行能力の向上が図. 労可能な職種が限られていた。言語聴覚士や就労支援事. れる可能性があると考えられた。. 業所との連携を図り,症例や家族とも十分に相談をしな. 歩行速度や生活範囲の拡大に伴い,症例より就労に対. がらアプローチを行ったことも,新規の就労につながっ. する希望が聞かれたため,リハ専門医と協議したうえで. た要因と思われた。就労支援の問題点は多岐にわたるた. 就労に向けた介入を行うこととなり,理学療法では,公. め,理学療法士のみで解決することは困難である。その. 共交通機関の利用などの通勤手段を目的とした介入へと. ため,藤田ら. 計画を変更した。脳卒中患者の職業復帰に関する最低条. の連携を図りながら支援を行うことが重要であると思わ. 件として,正確に作業ができることや作業の耐久性があ. れた。. ることと併せて,公共交通機関等を利用して通勤できる 能力の獲得が必要であるとの報告がある. 16). 。さらに公. 22). や渡部ら 23)が示すように,多職種と. 結 論. 共交通機関の利用に関しては,回復期リハ病棟を退院後. 今回,慢性期の脳卒中片麻痺患者の就労支援を行っ. に電車やバスを利用しているものは,歩行速度や階段昇. た。本症例は就労するにあたり通勤手段を獲得する必要. 降,バランス能力などの身体機能と併せて,認知機能が. があった。長期介入により歩行能力の改善が図れたこと. 17). 。また,歩行速度. や動作性 IQ が保持されていたこと,家族の協力のもと. と外出状況の関係を調査した研究では,歩行速度が. 練習が行えたことにより公共交通機関の利用が可能と. 0.8 m/sec 以上であれば外出可能なレベルとなることが. なった。また,言語聴覚士や就労支援事業所と連携を図. 有意に高かったと報告されている. 18). ことから,本症例が公共交通機関の. り,症例や家族とも十分に相談をしながらアプローチを. 利用ができるようになるためには,0.8 m/sec 以上の速. 行ったことも,新規の就労につながった要因と思われ. 報告されている.
(6) 長期外来リハビリテーションにより就労に至った被殻出血の一例. た。就労支援の問題点は多岐にわたるため,個々の症例 の問題点を把握し,包括的に支援することが重要と思わ れた。 本論文に関して開示すべき利益相反はない。 文 献 1)平松和嗣久,豊田章宏,他:脳卒中発症後の職場復帰.リ ハ医学.2004; 41: 465‒471. 2)幅田智也,豊澤祥世:脳卒中後の職業復帰状況.総合リハ. 2003; 31: 871‒874. 3)立花智弘,豊永敏宏:若年・壮年脳卒中患者の職業復帰と 就労支援.MB Med Reha.2014; 172: 45‒52. 4)Chou SW, Wong AM, et al.: Postural control during sitto stand and gait in stroke patients. Am J Phys Med Rehabil. 2003; 82: 42‒47. 5)長田悠路,山本澄子,他:脳卒中片麻痺患者の起立動作に おける運動学的・運動力学的評価指標.理学療法学.2012; 39: 149‒158. 6)村田 伸,大田尾浩,他:脳卒中片麻痺患者における下肢 荷重力と立ち上がり・立位保持・歩行能力との関係.理学 療法科学.2008; 23: 235‒239. 7)明崎禎輝,山﨑裕司,他:脳血管障害患者における歩行自 立のための麻痺側荷重率.高知リハビリテーション学院紀 要.2006; 8: 27‒31. 8)明崎禎輝,山﨑裕司,他:脳血管障害患者における 6 分 間歩行距離と麻痺側下肢荷重率との関連.理学療法科学. 2009; 24: 41‒44. 9)Raine S, Meadows L, et al.: Bobath concept: theory and clinical practice in neurological rehabilitation. Wiley Blackwell, 2009. 10)Brock K, Haase G, et al.: Does physiotherapy based on the Bobath concept, in conjunction with a task practice, achieve greater improvement in walking ability in people with stroke compared to physiotherapy focused on structured task practice alone? A pilot randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2011; 25: 903‒912. 11)Veerbeek JM, van Wegen E, et al.: What is the evidence for physical therapy poststroke? A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2014; 9: e87987.. 455. 12)Hesse S, Bertelt C, et al.: Restoration of gait in nonambulatory hemiparetic patients by treadmill training with partial body-weight support. Arch Phys Med Rehabil. 1994; 75: 1087‒1093. 13)Eich HJ, Mach H, et al.: Aerobic treadmill plus Bobath walking training improves walking in subacute stroke: a randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2004; 18: 640‒ 651. 14)Alexander LD, Black SE, et al.: Association between gait asymmetry and brain lesion location in stroke patients. Stroke. 2009; 40: 537‒544. 15)Jones PS, Pomeroy VW, et al.: Does stroke location predict walk speed response to gait rehabilitation? Human Brain Mapping. 2016; 37: 689‒703. 16)遠藤てる,杉浦 亨,他:脳卒中後片麻痺患者に対する 職業前訓練と職場復帰─病院におけるアプローチ─.OT ジャーナル.1991; 25: 436‒442. 17)小川真寛,澤田辰徳,他:回復期リハビリテーション病棟 退院後の患者における公共交通機関利用の予測因子.作業 療法.2016; 35: 149‒158. 18)Schmid A, Duncan PW, et al.: Improvements in SpeedBased Gait Classifications Are Meaningful. Stroke. 2007; 38: 2096‒2100. 19)冨田祐司,宮野佐年,他:重症脳外傷患者の社会復帰状況 と WAIS-R との関係;重症脳外傷患者の知的能力に関す る問題点(第 3 報).リハ医学.1999; 36: 593‒598. 20)Grahn B, Ekdahl C, et al.: Motivation as a predictor of changes in quality of life and working ability in multidisciplinary rehabilitation. A two-year follow-up of a prospective controlled study in patients with prolonged musculoskeletal disorders. Disabil Rehabil. 2000; 22: 639‒ 654. 21)安藤文浩:身体機能は改善したが,意欲低下のため就労支 援に難渋した 1 症例.訪問リハビリテーション.2015; 5: 61‒64. 22)藤田早苗,長嶺枝理佳,他:脳血管障害者の復職支援と院 内作業療法士の役割.職業リハビリテーション.2004; 17: 55‒62. 23)渡部幸博,松本太蔵,他:脳卒中を呈した症例への就労支 援への介入.鳥取県作業療法学会誌.2016; 12: 28‒30..
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