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妊娠期の夫婦関係に関連する要因

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*1元佐賀大学大学院医学系研究科修士課程(Former Master's Course in Nursing Sciences, Graduate School of Medical Sciences, The University of Saga) *2佐賀大学大学院医学系研究科(Graduate School of Medical Sciences, The University of Saga)

2011年11月1日受付 2012年3月29日採用

原  著

妊娠期の夫婦関係に関連する要因

Factors related to marital adjustment in couples

during pregnancy

岩 尾 侑充子(Yumiko IWAO)

*1

斎 藤 ひさ子(Hisako SAITO)

*2 抄  録 目 的  本研究の目的は,妊娠期の夫婦関係を明らかにし,夫婦関係に関連する要因を検討することである。 方 法  産婦人科外来で妊婦健診を受ける妊婦206組の夫婦の夫婦を対象とし,無記名自記式質問調査,妊娠 期の夫婦関係は夫婦間調整テストを用い,身体的側面,心理的側面,社会的側面,経済的側面より夫婦 関係に関連する要因を検証した。 結 果  妊娠期の夫婦関係は,夫婦間調整テストの結果から,73.3%の夫婦が良好な関係であると認識してい た。この夫婦関係に関連する要因は,妊娠期の夫婦関係意識尺度について検討した結果, 「パートナー の受容」,「経済・生活の充実」,「夫の支援・信頼」,「良好な人間関係」,「出産・育児への期待」の5因子 が関連していた。 結 論  妊娠期の良好な夫婦関係が育児期へ継続するために,夫婦間の信頼関係や充実した経済的側面が重要 であることが示唆された。 キーワード:妊娠,夫婦,夫婦関係 Abstract Purpose

The purpose of this research is to investigate the Marital Adjustment Test and factors related to marital adjust-ment in couples during pregnancy in Japan.

Methods

A Questionnaire was conducted on 206 pregnant women undergoing health checkups for pregnant women on an outpatient basis at the department of obstetrics and gynecology and their husbands with the objective of elucidat-ing marital relationships durelucidat-ing pregnancy as well as related factors.

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妊娠期の夫婦関係に関連する要因

Results

The results of the Marital Adjustment Test showed that 73.3% had a favorable marital relationship during preg-nancy. Based on the results of the marital relationship awareness scale and the Marital Adjustment Test, the follow-ing five factors were identified as befollow-ing related to marital adjustment durfollow-ing pregnancy: "acceptance of spouse", "wealth of life", "husband's trust and support", "favorable interpersonal relationship", and "expectations toward childbirth and child-rearing".

Conclusion

These findings suggest that establishment of a smooth relationship of trust between husband and wife is im-portant for enabling marital adjustment that is favorable during pregnancy to remain favorable during child-rearing. Key words: pregnancy, couple, marital adjustment

Ⅰ.緒   言

 妊娠期は胎児の存在の実感や母親になる自覚が強く なり,新しい家族を迎えるための準備期間の時期であ り,女性は妊娠に伴う身体的変化を経験し,母親にな る自覚を強くしていく。また,妊婦を取り巻く周囲と の関係と環境は,妊婦へ身体的,精神的影響を及ぼ す(佐々木,2005)ことが明らかになっていることから, 妊娠に伴う不安や葛藤を和らげ,妊娠や子どもへの肯 定的感情を発達させていく過程において,周囲との関 係は重要な要因であると考えられる。また,現代の夫 婦のあり方は多様化し,都市化や核家族化した母性を 取り巻く環境の中で,離婚率は増加傾向であり,産後 うつや子どもの虐待などの問題が顕在化している状況 にあるが,親子関係を優先する社会・文化的背景が影 響しているためか,妊娠期の夫婦関係に関する報告は 極めて少ない。  妊娠期の夫婦関係に関する先行研究を概観すると, 妊娠・分娩期の妊婦の心理的安定には夫婦関係の安定 が大きく寄与していることが明らかになっている(大 日向,1982)。また,安田(2001)の研究では,妊娠期 の不安や胎児への肯定的感情には夫婦関係調和(Mari-tal Dyadic Adjustment Scale)が強い影響力を持ってい ることが報告されている。海外では,妊娠後期におけ る情動は夫が妻に比べて感受性が鈍いことが報告され (Assor & Assor, 1985)ている。また,夫婦関係の良好 さ,満足度からの愛情的・情緒的なサポートは日常生 活的などのストレスを減少させ,母親としての自尊感 情や有能観を高めることが明らかにされている(Shea & Tronick, 1988)。また,夫婦の互いの愛情や結婚の 満足感は第1子の誕生以降著しく低下し,妻から夫へ の感情は特にその傾向が強く表れることが報告され ている(Belsky & Robin, 1990; Wallace & Gotlib, 1990)。 しかし,本邦では妊娠期における夫婦関係,特に夫婦 間における調査は行われていない状況である。本研究 では,妊娠期における夫婦関係を明らかにし,それに 関連する要因を検討した上で,妊娠,出産,育児へと 変化するライフサイクルの中で,妊産褥婦へどのよう なケアが必要なのかを考える手がかりとしたい。

Ⅱ.研 究 方 法

1.調査対象者  産婦人科外来(5施設)に妊婦健康診査のために病院 や医院の産婦人科に通院する妊婦とその夫を対象とし た。 2.調査期間  2007年10月∼12月。 3.調査の配布・回収方法  本研究の趣旨と方法に同意・協力を得られた各産婦 人科医院・病院の外来の妊婦,または夫婦に対し,看 護師,助産師,または医師が無記名自記式質問紙453 組を配布した。質問紙は,夫婦で相談しないで各々自 宅で記入し,1つの封筒に入れ郵送するよう依頼して 回収した。 4.調査項目 1 ) 基本属性 妻:年齢,最終学歴,就業形態,交際月数,結婚月数, 就業形態,家族形態,妊娠週数,定期健診異常の有 無,初経産,子どもの数,産後の支援者,夫婦の会 話時間。 夫:年齢,最終学歴,就業形態,産後の支援者,夫婦 の会話時間。 2 ) 夫婦間調整テスト  夫婦関係を測定するものとしてMarital Adjustment

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究者の責任において処分すること,および質問紙の提 出により同意の確認とすることを明記し,口頭で説明 し同意・承諾を得て実施した。

Ⅲ.結   果

1.対象の背景(表1)  回答は,回収した209組の内,妻のみの回答2組と 別居夫婦1組を除き,夫婦で全回答を得られた206組 (回収率45%)を分析対象とした。妻の平均年齢は30.7 歳(SD=4.7),夫の平均年齢は32.2歳(SD=5.0)であ った。92.7%の妻は,は夫を産後の支援者とし,夫の 85%は妻の支援者という回答だった。また,夫婦の 会話時間は「1時間以上」と回答したものが,夫婦各々 65.5%であった。 2.妊娠期の夫婦間調整得点  夫婦間の比較のためpaired-t検定を行った結果,妻 の夫婦間調整得点平均116.1点(SD=23.8), 夫の平均 120.4点(SD=21.3)で,妻は夫より有意に低かった (p=0.011)(表2)。また,夫婦間調整得点が夫婦共に 100点以上は,73.3%(p=0.000)だった(表3)。 3.妊娠期の夫婦関係意識項目の夫婦比較(表4)  夫婦間の比較のためpaired-t検定を行った結果,「夫 は精神的な支えとなっている」,「赤ちゃんに触れるつ もりで,よくお腹に手を当てる」,「出産の準備を考え ている」,「夫(と妻)の収入は充分である」,「経済的 に安定している」が妻は夫より有意に高かった。また, 「現在,夫は家事を積極的に手伝っている」,「夫(妻) は私の気持ちをくんでくれている」,「どんなことでも 話し合える関係である」,「行動する時は,赤ちゃんの ことを意識して行動している」,「出産を楽しみにして いる」,「夫は育児を楽しみにしている」が妻は夫より 有意に低かった。 4.妊娠期の夫婦関係意識の妥当性・信頼性(表5)  夫婦間調整得点に関連する要因を明らかにするため に作成した25項目の「妊娠期の夫婦関係意識項目」の 構成概念妥当性を検討するため,妻と夫の全データを 投入して因子分析を行った。まず,主成分分析(バリ マックス回転)を行ったところ,6因子性で,25項目の 用許可を得て用いた。この尺度は15項目から構成され, 得点は2点から158点の範囲にあり,高得点ほど夫婦 関係が良好と認知されることを示す。100点以上であ れば夫婦間の調整がよく,夫婦関係がよいと評価され る。夫婦間調整テストの信頼性については日本語版 の作成者である三隅らが報告したクロンバックα係 数が0.70であり,内的整合性が確認されている。本研 究のα係数は0.723で,内的整合性があることが再確 認できた。なお,夫婦間調整テストは項目により配点 が異なることが特徴で,特に項目1は,結婚生活全般 における幸せの程度を問うもので,「とても不幸」から 「とても幸せ」までの7段階評定(0, 2, 7, 15, 20, 25, 35) のリカートスケールである。項目2から9はお互いの 考え方がどの程度一致しているかということについて, 意見や考え方を問うもので「いつも一致する」から「全 く一致しない」までの6段階から最もあてはまるもの を1つ選択する。項目10∼15は,それぞれのあてはま る回答の選択肢に配点されている。 3 ) 妊娠期の夫婦関係意識項目  先行研究(佐々木,2005;佐々木・植田・鈴木他, 2004)をもとに夫婦関係に関連する要因として身体的 側面(健康度,夫の家事支援など),心理的側面(妊娠 の受容,胎児への関心,出産育児への関心,夫の支援 への期待など),社会的側面(周囲や地域の人間関係), 経済的側面(収入満足度,経済的安定)から25の質問 項目を抽出し,各項目は5段階評定で1∼5点(「1. 違う」 から「5. そう思う」)で得点化し,「妊娠期の夫婦関係意 識項目」を作成した。 5.分析方法  データの集計・分析には統計解析ソフトSPSSver 15.0を 用 い た。 基 本 統 計 量 の 算 出 の 他,χ2検 定, paired-t検定,因子分析,重回帰分析等によって検討 した。有意水準は5%未満とした。 6.倫理的配慮  対象施設の病院長および看護部長に,研究目的,方 法,意義,倫理的配慮などを説明した依頼文書を直接 説明し,研究協力の承諾を得た。調査対象者には,質 問紙の説明文に,研究目的,方法,意義,プライバシー 保護,研究協力は自由意志に基づくこと,回答を断っ た場合でも不利益のないこと,結果の公表,さらに調

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妊娠期の夫婦関係に関連する要因 表1 対象の背景 項   目 妻(n=206) 夫(n=206) 平均 SD (range) 平均 SD (range) 年齢 交際月数 結婚月数 妊娠週数 30.7 36.6 41.3 26.4 4.7 30.9 36.3 9.2 (18-42) (0-156) (0-210) (8-40) 32.2 5.0 (21-47) N % N % 最終学歴 中学校 高等学校 専門学校 短期大学 大学 大学院 その他 4 55 40 49 55 3 0 1.9 26.7 19.4 23.8 26.7 1.5 0 10 53 28 7 86 18 4 4.9 25.7 13.6 3.4 41.7 8.7 1.9 専業主婦 有 無 64142 31.168.9 就業状況 正社員・常勤 パート・アルバイト 自営業 その他 52 13 3 138 25.2 6.3 1.5 67.0 186 3 13 4 90.3 1.5 6.3 1.9 家族形態 核家族 複合家族 189 17 91.78.3 同居人 (複数回答) 配偶者子ども 義父 義母 実父 実母 義理の兄弟姉妹 実の兄弟姉妹 その他 206 94 6 6 4 8 1 2 0 100.0 2.9 2.9 2.9 1.9 3.9 0.5 1.0 0 妊娠週数 初期(∼15週) 中期(16∼27週) 後期(28∼42週) 35 60 111 17.0 29.1 53.9 初経産 初産 経産 113 93 54.945.1 子どもの数 0人 1人 2人 3人 4人 114 63 22 6 1 55.3 30.6 10.7 2.9 0.5 定期健診 正常 異常 169 37 82.018.0 定期健診異常ありの診断名 (複数回答) 妊娠高血圧貧血 切迫流産 切迫早産 その他 3 27 5 8 3 1.5 13.1 2.4 3.9 1.5 産後の支援者 (複数回答) 夫実母 義母 姉妹 友人 その他 191 135 49 30 5 5 92.7 65.5 23.8 14.6 2.4 2.4 175 85 85 25 7 5 85.0 41.3 41.3 12.1 3.4 2.4 夫婦の会話時間 30分以内 30分∼1時間 1時間以上 20 51 135 9.7 24.8 65.5 15 56 135 7.3 27.2 65.5

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平均 SD (range) 平均 SD (range) 合計点 116.1 23.8 (40-155) 120.4 21.3 (57-157) 0.011 * 項目 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 幸せ程度 家計 気晴らし 愛情表現 友人 性生活 しきたり 人生観 親戚関係 問題解決 趣味共有 暇な時間 結婚後悔 再度結婚 信頼度 25.7 3.6 3.7 5.4 3.8 9.8 3.6 3.8 3.7 6.5 6.4 7.4 10.7 12.6 9.3 7.9 0.8 0.9 1.7 0.7 3.5 1.2 0.9 0.8 4.3 2.7 3.8 4.8 5.5 1.1 (7-35) (0-5) (0-5) (0-8) (1-5) (0-15) (0-5) (0-5) (1-5) (0-10) (0-10) (2-10) (0-15) (0-15) (2-10) 27.1 3.7 3.6 5.5 3.9 10.1 3.7 3.8 3.8 6.1 6.4 7.3 12.2 13.4 9.6 7.4 0.8 1.0 1.9 0.8 3.8 0.9 0.9 0.8 4.3 2.7 3.8 4.0 4.5 0.5 (7-35) (1-5) (0-5) (1-8) (0-5) (0-15) (1-5) (0-5) (0-5) (0-10) (0-10) (2-10) (0-15) (0-15) (9-10) 0.034 n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. 0.000 0.019 0.000 * *** * *** paired-t検定  *p<0.05  **p<0.01  ***p<0.001  n.s.:not significant 表3 夫婦間調整得点 (n=206) 100点以上 100点未満 p値 妻 100点以上 151(73.3) 8(3.9) 100点未満 29(14.1) 18(8.7) 0.000 χ2検定 n(%) 表4 「妊娠期の夫婦関係意識項目」の夫婦比較 妻(n=206) 夫(n=206) paired-t検定 有意確率 平均 SD (range) 平均 SD (range) あなたは健康ですか 現在,夫は家事を積極的に手伝っている 出産後,夫は家事を積極的に手伝う感じがする 夫は妻のからだを気づかってくれている 夫は精神的な支えとなっている 妻は今回の妊娠を喜んでいる 夫は今回の妊娠を喜んでいる 今の生活は充実している 私たちは自分の感情が素直に出せるような関係である 夫(妻)は私の話を聞く態度を示してくれる 夫(妻)は私の話を理解してくれる 夫(妻)は私の気持ちをくんでくれる 私たちには共通の話題や興味がありそれについて話せる どんなことでも話し合える関係である 行動するときは,赤ちゃんのことを意識して行動している お腹が大きくなることで,赤ちゃんの存在を実感する 赤ちゃんに触れるつもりで,よくお腹に手を当てる 出産を楽しみにしている 出産の準備を考えている 妻は育児を楽しみにしている 夫は育児を楽しみにしている 夫(と妻)の収入は充分である 経済的に安定している 妻の職場や地元の人間関係はうまくいっている 夫の職場や地元の人間関係はうまくいっている 4.5 4.0 4.2 4.5 4.6 4.9 4.9 4.4 4.6 4.4 4.3 4.3 4.2 4.5 4.6 4.8 4.7 4.8 4.6 4.5 4.3 3.6 3.9 4.3 4.3 0.8 1.1 1.0 0.8 0.7 0.4 0.3 0.8 0.6 0.8 0.8 0.8 1.0 0.8 0.7 0.5 0.6 0.6 0.7 0.7 0.8 1.1 1.1 0.8 0.8 (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) (3-5) (3-5) (1-5) (2-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) (2-5) (1-5) (2-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) 4.4 4.6 4.1 4.6 4.2 4.9 4.9 4.4 4.6 4.5 4.4 4.5 4.3 4.6 4.7 4.8 4.3 4.9 4.3 4.4 4.5 3.3 3.6 4.2 4.2 0.8 0.8 0.9 0.6 0.8 0.4 0.3 0.7 0.6 0.8 0.8 0.7 0.8 0.6 0.5 0.5 0.9 0.3 0.8 0.8 0.7 1.1 1.0 0.8 0.8 (1-5) (1-5) (1-5) (3-5) (1-5) (3-5) (3-5) (2-5) (2-5) (1-5) (1-5) (2-5) (1-5) (2-5) (3-5) (1-5) (1-5) (4-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) (1-5) n.s. 0.000 n.s. n.s. 0.000 n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. 0.008 n.s. 0.006 0.029 n.s. 0.000 0.001 0.000 n.s. 0.018 0.000 0.000 n.s. n.s. *** *** ** ** * *** ** *** * *** *** paired-t検定  *p<0.05  **p<0.01  **p<0.001  n.s. : not significant

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妊娠期の夫婦関係に関連する要因 内,「あなたは健康ですか」の共通性が低いことがわか った。そこでこの1項目を除外した24項目で再度因子 分析を行った。一般化された最小二乗法(プロマック ス回転)を行い,初期の固有値は1.0以上となった。プ ロマックス回転により6因子が抽出された。共通性は 0.366以上0.864以下で比較的高い値であった。因子名 は第1因子より順に「パートナーの受容」,「出産・育 児への期待」,「経済・生活の充実」,「夫の支援・信頼」, 「妊娠の喜び」,「良好な人間関係」とした。  6つの因子は,ある程度まとまって意味のある因 子構造をもち,構成概念妥当性はある程度確保され た。抽出後の因子負荷量の平方和は第1因子より順に, 26.731,6.948,7.878,3.339,3.656,3.357で,累積負荷 量平方和は51.909で,6因子で「妊娠期の夫婦関係意 識」という概念の5割以上が説明された。因子間の相 関係数は0.7以下であり,共変動を示すものはなかっ た。以後,これら24項目を「妊娠期の夫婦関係意識尺 度」と呼ぶ。6因子中5因子のクロンバックのα係数は 0.7以上であり,信頼性はある程度確保できた。 5.夫婦間調整得点に関連する「妊娠期の夫婦関係意 識尺度」6因子(表6)  25項目の「妊娠期の夫婦関係意識項目」より,因子 分析によって作成された24項目の「妊娠期の夫婦関係 意識尺度」の6因子を独立変数,夫婦合計の夫婦間調 整得点を従属変数として強制投入法による重回帰分 析の結果,「パートナーの受容」,「経済・生活の充実」, 「良好な人間関係」,「夫の支援・信頼」,「出産・育児へ の期待」の5因子が選択された。 表5 妊娠期の夫婦関係意識24項目のプロマックス回転後の因子パターン 一般化された最小二乗法(プロマックス回転) (n=412) 質問項目 第1因子 共通性 α係数 第Ⅰ因子:パートナーの受容       夫(妻)は私の話を理解してくれる       夫(妻)は私の気持ちをくんでくれる       夫(妻)は私の話を聞く態度を示してくれる 0.972 0.837 0.674 0.864 0.772 0.664 0.879 第Ⅱ因子:出産・育児への期待       赤ちゃんに触れるつもりでよくお腹に手を当てる       出産の準備を考えている       お腹が大きくなることで赤ちゃんの存在を実感する       妻は育児を楽しみにしている       夫は育児を楽しみにしている       行動するときは赤ちゃんのことを意識して行動している 0.837 0.651 0.537 0.496 0.410 0.374 0.546 0.426 0.434 0.732 0.659 0.372 0.767 第Ⅲ因子:経済・生活の充実       経済的に安定している       夫(と妻)の収入は充分である       今の生活は充実している 0.990 0.898 0.250 0.897 0.802 0.524 0.784 第Ⅳ因子:夫の支援・信頼       出産後,夫は家事を積極的に手伝う感じがする       現在,夫は家事を積極的に手伝っている       夫は妻のからだを気づかってくれている       夫は精神的な支えとなっている 0.936 0.710 0.537 0.290 0.700 0.547 0.522 0.543 0.733 第Ⅴ因子:妊娠の喜び       妻は今回の妊娠を喜んでいる       夫は今回の妊娠を喜んでいる       出産を楽しみにしている 0.850 0.601 0.518 0.649 0.428 0.366 0.637 第Ⅵ因子:良好な人間関係       どんなことでも話し合える関係である       私たちは自分の感情が素直に出せるような関係である       私たちには共通の話題や興味がありそれについて話せる       妻の職場や地元の人間関係はうまくいっている       夫の職場や地元の人間関係はうまくいっている 0.852 0.698 0.391 0.257 0.245 0.820 0.601 0.510 0.403 0.402 0.714 抽出後の累積負荷量平方和(%) 51.909 6.948 *因子相関行列(0.180∼0.621)

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6.妻・夫の夫婦間調整得点と「妊娠期の夫婦関係意 識尺度」6因子との関連(表7)  妻の「妊娠期の夫婦関係意識尺度」の「パートナーの 受容」(r=0.688),「夫の支援・信頼」(r=0.578),「良 好な人間関係」(r=0.575),「経済・生活の充実」(r= 0.532)と妻の夫婦間調整得点には,中程度の相関(以 下,相関係数0.4以上の中程度の相関を「相関」ありと 表現する)が認められた。また,夫の「妊娠期の夫婦 関係意識尺度」の「出産・育児への期待」(r=0.488), 「パートナーの受容」(r=0.477),「良好な人間関係」(r =0.456),「妊娠の喜び」(r=0.410)と夫の夫婦関係調 整得点には,中程度の相関が認められた。

Ⅳ.考   察

 妊娠期は女性の生涯において,子どもの誕生へとつ ながる大きなライフイベントであり,家族役割が大 きく移行する時期にあたる。夫婦間調整得点が夫婦 共に100点以上が73.3%であることから,妊娠期の夫 婦間の人間関係は概ね良好であることが明らかにな った。夫婦関係の不満足群は夫の援助がないことが多 く,夫婦関係の満足感は生活の充実感や心身の健康と 関連していることを報告している(丸山・吉田・杉山, 2004)が,本研究では多くの妊婦は核家族の環境であ り,「妻の出産後の主な支援者はどなたですか」の質問 に,92.7%の妻は夫を産後の主な支援者とし,85%の 夫は妻の主な支援者と意識していることから,妊娠期 の夫婦関係はより重要であることが示唆された。 おける夫婦の認識の差異があることが明らかとなった。 この点は,妊娠後期における情動は夫が妻に比べて感 受性が鈍いという調査(Assor & Assor, 1985)と関連が あり,夫は,妻の夫婦間調整得点が低いことを認識す る必要があると考える。妊娠期の妻は,妊娠・出産に よる身体的かつ精神的な変化を実際に体験しているこ とから,妊娠期の妻に対する夫の言動や態度,思いや りなどが心身に影響することは十分考えられる。また, 質問項目で,妻が夫より有意に低かった項目は「幸福 感の程度」,「結婚しなければよかったと思うことはあ りますか」,「もしあなたが生まれ変わり結婚まで同じ ような人生を歩むとして,次にうちあなたはどれを選 びますか」,「あなたはあなたのパートナーを信頼して いますか」の4項目である。この回答における認識の 差異が明らかになったことから,より円満な夫婦生活 を営むために,夫は妻との認識の差異を理解すること が重要である。米国では出産後の夫婦関係は研究参加 者の半数に関係の悪化が認められるという調査(Bel-sky & Robin, 1990)と,女性は夫婦関係満足度が第2 子出産後,著しく低くなるという調査(堀口,2000)が あるが,妊娠期に既に夫婦関係については夫婦間の認 識の差異があることが明らかになったことから,出産 後,良好な夫婦関係を維持するためには,夫婦間の認 識の差異を減らすために,夫婦の信頼関係をより高め, 夫婦共通の理解をすることが重要であると推察される。  また,妊娠期の夫婦関係に関連する要因を明らかに するための質問項目「妊娠期の夫婦関係意識項目」の 夫婦比較より,現在の夫の家事手伝いの状況や夫婦相 互の気持ちの理解などが妻は夫より有意に低く,夫の 精神的支えや,経済的に安定し,収入が充分であるこ とや出産の準備を考えていることなどが妻は夫より有 意に高い結果が得られたことから,夫は妻の気持ちを 理解し,妻が必要とする家事労働などへ具体的に関心 を向け,行動することが必要であり,妻は精神的に安 定した環境で妊娠期を過ごしていることが示唆された。 また,妻は夫より,夫が妻の気持ちを理解し,どんな 6因子 パートナーの受容 経済・生活の充実 良好な人間関係 夫の支援・信頼 出産・育児への期待 0.307 0.180 0.143 0.122 0.120 *** *** ** * ** 自由度調整済み決定係数R* 0.456 数値は標準化係数β 重回帰分析強制投入法 *p<0.05 **p<0.01 ***p<0.001 表7 妻・夫合計点と「妊娠期の夫婦関係意識尺度」6因子の相関 第1因子 パートナーの受容 第2因子出産・育児への期待 第3因子経済・生活の充実 第4因子夫の支援・信頼 第5因子妊娠の喜び 第6因子良好な人間関係 妻 合計点 夫 合計点 0.668**0.477** 0.388**0.488** 0.532**0.395** 0.578**0.380** 0.251**0.410** 0.575**0.456** Pearsonの相関係数 **p<0.01

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妊娠期の夫婦関係に関連する要因 ことでも話し合える関係とは意識していないことから, 夫婦間の親密性を高めるために,夫婦で語り合う時間 が必要ではないかと推察される。  また,妊娠期の夫婦関係に関連する要因を明らかに するための質問項目「妊娠期の夫婦関係意識項目」よ り作成された「妊娠期の夫婦関係意識尺度」より,6因 子「パートナーの受容」,「出産・育児への期待」,「経 済・生活の充実」,「夫の支援・信頼」,「妊娠の喜び」, 「良好な人間関係」が抽出され,妊娠期の夫婦関係意 識尺度の構成概念は確認されたといえる。妊娠期の夫 婦関調整得点には「パートナーの受容」,「経済・生活 の充実」,「良好な人間関係」,「夫の支援・信頼」,「出 産・育児への期待」の5因子が関連し,夫婦共に夫婦 関係の根幹である「パートナーの受容」,「良好な人間 関係」因子が関連していることが明らかとなった。ま た,妻は「夫の支援・信頼」,「経済・生活の充実」因子 が関連し,夫は「出産・育児への期待」,「妊娠の喜び」 因子が関連していることが示唆された。以上のことか ら,夫婦関係に関連する要因として,妻は心身共に安 定した生活を送るためには,日常生活上,実際に夫の 支援や信頼と経済や生活の充実が不可欠であり,夫は 経済や生活の充実よりも妊娠・出産・育児に関する肯 定的感情が関連していることが明らかになった。  妊娠期の夫婦関係の良好な関係性を維持するために は,夫婦関係の認識の違いを受容し,夫婦共通の理解 が得られるよう夫婦が互いに各々のニードを理解する ことが重要である。また,経済的な安定を基盤として, 夫婦間の信頼関係をより高めるため,夫婦が互いに精 神的サポートを意識する必要があると考えられる。

Ⅴ.研究の限界と今後の課題

 今回の研究では,ある地域における妊娠期の夫婦関 係について明らかにすることができたことは有益であ る。しかし,回収率が45%であることから,良好な 夫婦からの回答が多くなった可能性は否定できないた め,一般化することには課題がある。また,妊娠期の 夫婦関係意識尺度は,夫婦別の因子分析では因子を十 分説明できず,夫婦全体で因子分析を行ったため,妻 と夫の特性を測定することに限界があった。また,信 頼性・妥当性を高めるため,妊娠期の夫婦関係意識尺 度の質問項目を精緻化し改良する必要がある。また, 女性のライフサイクルにおける心理的な支援という視 点から,出産というライフイベントの経験により夫婦 関係がどのように変化していくかという検討が今後の 課題と考える。

Ⅵ.結   語

1 . 妊娠期の夫婦間調整得点は,妻は夫より有意に低 かった。妊娠期の夫婦間調整得点は,夫婦共に100 点以上が73.3%だった。 2 . 妊娠期の夫婦関係意識尺度の6因子「パートナー の受容」,「出産・育児への期待」,「経済・生活の充 実」,「夫の支援・信頼」,「妊娠の喜び」,「良好な人 間関係」が抽出された。 3 . 妊娠期の夫婦関係に関連する要因は,「パート ナーの受容」,「経済・生活の充実」,「夫の支援・信 頼」,「良好な人間関係」,「出産・育児への期待」の5 因子であった。 謝 辞  本研究にご協力いただきました夫婦の皆様,施設お よび看護師,助産師,医師の皆様に心より感謝申し上 げます。  本研究は,平成19年度佐賀大学大学院に提出した 論文を加筆修正したものであり,その要旨を第49回 日本母性衛生学会学術集会において発表した。 文 献

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参照

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