資 料
日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 20, No. 2, 74-84, 2006
妊産褥期にある女性の不安の程度とその要因
Severity of anxiety and related factors
among women during gravid and puerperal period
佐 藤 喜根子(Kineko SATO)
* 抄 録 目 的 産褥期にある女性の精神障害は,その後の育児にも関係する。本研究は支援策を考えるうえで必要な 妊産褥期別不安の程度と妊娠末期に産後うつ病の予測の有無,並びに各時期の不安に関係する要因を探 ることを目的とした。 対象及び方法 対象はA市内にある3つの総合病院で出産した189名である。調査期間は2000年8月から翌年8月まで と2004年6月から2005年1月までである。調査方法は妊娠末期と産褥期の5日・1ヶ月・3ヶ月目にSTAI を,産褥5日目にSteinのmaternity blues scoreを,そして産褥期5日・1ヶ月・3ヶ月目にEPDSを調査 した。他に社会・経済的・産科学等の不安に影響を及ぼす要因をアンケートで調べた。分析には重回帰 分析を用いた。 結 果 STAIの状態不安と特性不安は,前者が後者より,妊娠末期が産褥期より高かった。maternity blues は産褥5日目で23%あり,EPDS得点が9点以上を示す産後うつ病の危険因子を有する者は産褥3ヶ月目 に14.2%あった。また,不安要因として妊娠末期は,STAIから「出産の経験」と「姉妹の手伝い(の有無)」 が抽出できた。そして産褥期は3つの尺度(STAI, Stein, EPDS)で測定したものから複数の尺度で抽出されたものは,産褥5日目は「夫の協力(の有無)」「経済困難」「妊娠契機」であり,産褥1ヶ月目は「妊娠契機」 であり,産褥3ヶ月目は「夫の協力(の有無)」「妊娠の契機」であった。 産後うつ病予防に対する予測のチェック体制には,他の尺度と正の相関を示すことから,妊娠期にも 使用できるSTAIが望ましいと考えられた。 しかし,重回帰分析からは妊娠末期のSTAIでは,特性不安のみが産褥期の特性不安と産褥3ヶ月目 のEPDSに関連することがわかった。 結 論 今回の調査で,産後うつ病の予測に対しハイリスク者の抽出に,妊娠末期のSTAI(特性不安)で予測 が可能であることがわかった。また,産褥の時期別に抽出された関連要因は,産褥期全体で夫の協力や 妊娠の計画性等の生活環境の因子であることがわかった。妊娠末期,産褥期の時期に応じた支援の工夫 が必要である。 キーワード:産後うつ病,STAI,EPDS,Steinのマタニティブルーズ・スコア
*1東北大学医学部保健学科(School of Health Sciences, Faculty of Medicine, Tohoku University)
Abstract Purpose
It is recognized that mental disorders in women in the puerperal period have an influence on subsequent child-care. In order to establish effective support measures, the present study aimed to investigate the following: the level of anxiety experienced by women at various stages of pregnancy and the puerperal period, the possibility of predicting the incidence of postpartum depression in the end-stage of pregnancy, and the factors associated with anxiety in each stage of pregnancy and the puerperal period.
Subjects and Methods
Subjects were 189 women who gave birth at one of 3 hospitals in A City. The survey periods were from August 2000 to August 2001, and June 2004 to January 2005. The survey methods adopted were the State-Trait Anxiety Inventory (STAI) for subjects in the end-stage of pregnancy, and on the 5th
day, and the 1st and 3rd
month of puerpe-rium; the Stein Maternity Blues Score for those on the 5th
day of puerperium; and the Edinburgh Postnatal Depres-sion Scale (EPDS) for those on the 5th
day, and the 1st and 3rd
month of puerperium. A questionnaire survey was conducted in order to investigate the factors that affect various forms of anxiety, such as social anxiety, financial anxiety, and anxiety regarding obstetric issues. The analysis used the multiple-regression analysis.
Results
The level of state anxiety measured by the STAI was found to be higher of trait anxiety, and the levels were higher in the end-stage of pregnancy than in the puerperal period. The maternity blues score was 23% among sub-jects on the 5th
day of puerperium, and those who were at risk for postpartum depression, as indicated by a score of 9 or higher on the EPDS, scored 14.2% in the 3rd
month of puerperium. Regarding anxiety-related factors in the end-stage of pregnancy, “childbirth experience,” and “support from female siblings (availability)” were extracted from the STAI. Factors that were extracted from more than one of the three scales (STAI, Stain, and EPDS), in the puerperal period were “cooperation from husband (availability)” “financial difficulty” and “opportunity to become pregnant” for the 5th
day of puerperium, “opportunity to become pregnant” for the 1st
month of puerperium, and “co-operation from husband (availability)” and “opportunity to become pregnant” for the 3rd
month of puerperium. Regarding a prediction system for the prevention of postpartum depression, the STAI, which can be adopted for the pregnancy period, was considered to be preferable because it showed positive correlations with other scales. However, following fact was proven from the multiple regression analysis. In STAI (Trait-anxiety) in the term preg-nancy, there puerperal period all trait-anxiety relation. And, there was the relation with EPDS of the 3rd month of puerperium in STAI (Trait-anxiety) in the term pregnancy.
Conclusion
The present study revealed that it is possible to predict the incidence of postpartum depression by identifying mothers at high risk in the end-stage of pregnancy using the STAI (Trait-anxiety). Furthermore, it was found that the related factors extracted according to the mothers’ puerperal stages were associated with the living environ-ment, such as cooperation from the husband, and planning for pregnancy. Therefore, it is necessary to develop a support system for both the end-stage of pregnancy and the puerperal period.
Keywords : postpartum depression, STAI, EPDS, Stein Maternity Blues Score
Ⅰ.緒 言
次世代を担う子どもの育成は,単に栄養を与え発育 を促すことだけではなく,母親をはじめとして,子ど もを取り巻く人々の子どもに対する精神・心理的なサ ポートが重要である。母親の産後うつ病などの精神障 害は,児の情緒や発達(Murray, 1992)および配偶者に 対し,影響を及ぼすといわれている(Areias他, 1996)。 充分な愛情と健康で育ってこそはじめて自己尊重がで き,さらに他人に対する思いやりや信頼感が獲得され, 社会生活ができることになる。そのためには出生直後 から,より安定した両親をはじめとした子育て環境の 保障が必要となる。 日本では,出産のほとんどが病院の中で分娩・産褥 早期を迎えるが,これまでは主として,身体的ケア が重点的となり,心理社会的なケアは十分に行われ ているとは言い難い状況にあった。その反省から,最 近は分娩早期の母児接触や母児同室,入院児に対する 父母とのスキンシップであるカンガルーケア(上嶋, 1996;堀内, 1997)などを意識的に実施し,入院中か らの母親の愛着形成促進を実施しつつある。しかし 短期間の入院中での支援には自ずと限界がある。その結果子育てに対する心理的不安が生じ,それが育児や 生活上に支障がでてくるのは,退院後が多い(亀井, 1999;蛭田, 1999)。その時には専門的な支援者も身 近におらず,頼りの多くは1985年頃から発行が相次 いだ育児雑誌等となり,自分の予測や実状と一致しな い状況にますます不安が増強するという悪循環が生じ てくる。 著者はこれまで周産期にある女性の不安や退院後の 相談の時期と内容等について調査してきた。その結 果マタニティブルーズの発生頻度は欧米と比較して 調査した地域に於いても大差なく,早急に支援策が望 まれることを明らかにした(岡村&佐藤, 1996;佐藤, 1999)。 今回はその支援体制を構築するうえで必要とされる 情報として,妊産褥期にある女性の時期別の不安の 程度と各時期の不安に関係する因子を抽出すること, そして産褥期の不安の予測に妊娠末期のSTAI(State-Trait Anxiety Inventory Form X)が有効であるかを探 ることを目的とした。
Ⅱ.研究方法
1.対象と調査期間 2000年8月 か ら2001年8月 ま で と2004年6月 か ら 2005年1月までに,A市内の総合病院の3施設(A・B・ C病院)に通院し,同病院で出産した妊産褥婦242名 に調査を実施した。妊婦は,特に合併症がなく,胎児 の異常の指摘もない妊婦とした。そのうち研究に必要 なデータが全て回収出来たのは189名(回収率78%)で あった。2000年8月から2001年8月まではAとB病院, 2004年6月から2005年1月まではC 病院であった。 同地域(A市内)での実態を知るうえで時期は異なるが, 2者間には属性や研究で使用した各尺度の平均と標準 偏差の比較で(M,標準偏差,t検定)差が認められ なかったことから,今回は両者の標本数を合わせて検 討した。 なお,3つの病院の特徴は共通項が多く,診療機関 であると同時に研修教育機関病院でもあり,年間平均 分娩件数は約500件∼800件である。いずれも第3次救 急指定病院で,他院から緊急母体搬送されてくる症例 数が多く,その数は年間の分娩数の約14∼16%であ り,帝王切開術の割合は18∼20%(2004)である。出 生後母児が同室になるのは,B病院の一部LDR(Labor delivery recovery)を除いては,病院の構造・機能上 12∼24時間後がほとんどである。 2.調査方法と倫理的配慮 自己記述式質問紙を妊娠末期(36 1週)と産褥5日 目,産褥1ヶ月目に依頼し同日回収とした。また産褥3ヶ 月目には郵送法で回答を求めた。調査研究は妊娠末期 に研究の趣旨を説明し,同意し協力が得られた妊婦に は,「産褥期も縦断的に協力を求めること。拒否をし ても通常の妊婦管理には,なんら障害が生じないこと。 途中で拒否をしても不利益を生じることはないことを 保障すること。すべて統計的に処理し,個人を特定し ないこと。」を文書と口頭で伝えた。なお,本調査で は特に意図的な心理的介入等を目的としていないこと から,施設内の倫理委員会には諮っていない。 他に対象者の分娩時の助産記録のデータ(分娩週 数・分娩様式・出生児体重等)も併せて調査した。こ れらの収集に当たっては,妊婦の署名による同意書を もって了解が得られたことを確認として,カルテ,助 産記録,問診表(クリニックカード)を参照とした。 質問紙は,以下の通りである。 ①対象者の属性(年齢・職業・最終学歴・家族構成等) ②育児の支援者と情報源 ③生活環境(住居と経済・社会資源等) ④栄養方法⑤日本版STAI Form X(State-Trait Anxiety Inventory Form X):Spielberger(1972)が作成したもので,そ れを中里他が,日本語版として作成したものを使用 した。不安検査の結果として示される不安は,検査 時の状況にはあまり左右されない性格特性として表 される特性不安(Trait anxiety)と,個人が置かれて いる状況との関わりでとらえられる状態不安(State anxiety)が大切であるとされ,STAIは両者を同時 に測定可能な尺度として作成された。特性不安・状 態不安とも20項目の質問で,項目毎に1∼4点に点 数化されている。その合計点で評価する。評価は5 段階に分かれており,女性の普通の範囲は特性不安 が34∼44点であり,状態不安が31∼41点である。 ⑥EPDS(Edinburgh Postnatal Depression Scale): 産
後うつ病のスクリーニングとして高い信頼を得てい るEdinburgh大学のJ.L. Cox(1987)の作成した調査 表である。 エジンバラ産後うつ病調査表 と訳され ている(岡野, 1991)。10項目で構成された質問に0 ∼3点で回答し,その合計点(総計30点)で評価する。 日本での区分点は9点であり,それ以上を 産後う
つ病 の可能性が高いと予測する。
⑦SteinのMaternity blues score :
Stein(1980)がMater-nity bluesを 測 る 目 的 で 作 成 し た 尺 度 を 江 尻 他 (1993)が日本語訳で使用したものと同じものを使 用した。質問は13項目で構成され,各々0∼2点な いし0∼4点に点数化されており,合計得点は0∼ 26点で高得点者ほどbluesの傾向が強い。Steinの基 準では合計得点が,8点以上の者をMaternity blues と判定している。 ①∼③は妊娠末期に,④は産褥1ヶ月目に調査し, ⑤は妊娠末期・産褥5日目・1ヶ月目・3ヶ月目,⑥は 産褥5日目・1ヶ月目・3ヶ月目,⑦は産褥5日目に調 べた。 3.分析方法 回答者の属性や分娩時の状況,栄養方法と妊娠 末期・産褥5日目・1ヶ月目・3ヶ月目に各測定尺度 (STAI・EPDS・Stein のmaternity blues score)の測定 値の単純集計を行った。次に各尺度の測定値を従属変 数とし,「妊産婦の背景要因(年齢・分娩週数・初経産 別・学歴・職業の有無・夫の年齢・夫の非協力度・経 済認識・妊娠契機・結婚形態・里帰りの有無・情報 源・手伝いの有無)」と「分娩時の状況(出血量・自然 分娩・出生児体重)」と「産褥期の栄養方法(栄養方法・ 母乳栄養・ミルク栄養)」を説明変数として逐次重回 帰分析を行った。分析にあたり,説明変数の中で,数 量化できないもので2変量のものは0または1,3変量 以上のものは1,2,3…とコード化し分析にあたった。 また,産褥期の不安の予測に妊娠末期のSTAIで予測 可能かどうかを調べるために,妊産褥期別,測定尺 度別に相関関係を調べた後に,産褥5日目のSTAI と
Steinのmaternity blues score,産褥5日目・1ヶ月目・
3ヶ月目のEPDS得点を従属変数に,妊娠末期のSTAI を説明変数として逐次重回帰分析を行った。分析には SPSS11.0Jを使用した。
Ⅲ.結 果
1.対象者の属性 対象者は189名であり,年齢は17歳から41歳,平均 年齢は29.1歳(標準偏差5.7)であり,25∼34歳が全体 の67.7%を占めた。夫の年齢は22歳から54歳で,平均 31歳(標準偏差5.7)であった。初産は95名(50.3%)で, 経産は94名(49.7%)であった。有職者は94名(49.7%) で,学歴は高校までが101名(53.5%),短大以上は87名 (46%)であった。夫の協力度では,「協力している」と 受け止められている割合は172名(91%)であった。ま た,正期産は179名(94.7%),早産は5名(2.6%)であっ た。出生時の児の体重は正常域が163名(86.2%)を占 め,自然分娩は143名(75.7%),出血量の正常域は98名 (51.9%),母乳栄養のみは100名(52.9%)であった(表1)。 2.妊産褥期別の不安の程度 1 )STAIの場合(状態不安と特性不安) 妊娠末期の状態不安得点は平均42.4(標準偏差8.7) で,最小と最大は21と68であり,「高い」(42∼50点) 者は67名(35.4%)で,「非常に高い」(51点以上)者は 35名(18.5%)であった。また産褥5日目は平均38.4(標 準偏差10.2)で,最小と最大は20と69で,「高い」(42 ∼50点)者は41名(21.7%)「非常に高い」(51点以上) 者は23名(12.6%)であった。さらに産褥1ヶ月目は平 均39.6(標準偏差9.6),最小と最大は20と73で,「高い」 (42∼50点)者は43名(22.8%)「非常に高い」(51点以上) 者は24名(12.6%)であった。また,産褥3ヶ月目は平 均36.9(標準偏差9.1)で,最小と最大は20と70で,「高 い」(42∼50点)者は35名(18.5%)で,「非常に高い」(51 点以上)者は12名(6.1%)であった。 また,妊娠末期の特性不安得点は平均40.8(標準偏 差8.5), 最小と最大は23と64で,「高い」(45∼54点) 者は50名(26.5%)「非常に高い」(55点以上)者は14 名(7.4%)であった。産褥5日目は平均39.6(標準偏差 9.4)で,最小と最大は20と71で,「高い」(45∼54点) 者は38名(20.1%)「非常に高い」(55点以上)者は11名 (5.8%)であった。また産褥1ヶ月目は平均39.5(標準 偏差9.6)で,最小と最大は20と78で,「高い」(45∼54点) 者は37名(19.6%)「非常に高い」(55点以上)者は14名 (7.4%)であった。そして産褥3ヶ月目は平均38.2(標 準偏差10.3)で,最小と最大は20と72で,「高い」(45 ∼54点)者は26名(13.8%)であり,「非常に高い」(55 点以上)者は12名(6.1%)であった(表2・表3)。2 )Steinのmaternity blues scoreの場合
産褥5日目の平均は5.2(標準偏差3.7)であり,最 小は0で,最大は17であった(表2)。8点以上は51名 (26.9%)であった。
3 )EPDS:エジンバラ産後うつ病尺度の場合
表1 対象者の属性(%) 妊婦の年齢 平均29.1歳 標準偏差5.7歳(最小17歳∼最大41歳) ∼19歳 7名(3.7),20∼24歳 28名(14.8),25∼29歳 65名(34.4),30∼34歳 63名(33.3), 35歳∼ 26名(13.8) 夫の年齢 平均31.0歳 標準偏差5.7歳(最小22歳∼最大54歳) 20∼24歳 25名(13.2),25∼29歳 46名(24.3),30∼34歳 68名(36),35歳∼ 45名(23.8),不明 5名(2.6) 分娩経験 初産 95名(50.3),経産 94名(49.7) 職業の有無 あり 94名(49.7),なし 95名(50.3) 夫の職業 あり 182名(96.3),なし 6名(3.2),不明 1名(0.5) 最終学歴 中学 11名(5.8),高校 90名(47.7),短大以上 87名(46),不明 1名(0.5) 夫の協力度 よく協力 146名(77.2),たまに協力 26名(13.8),ほとんどなし10名(5.3),まったくなし 6名(3.2), 不明1名(0.5) 経済認識 大丈夫 104名(55),苦しい 61名(32.3),とても苦しい 24名(12.7) 妊娠契機 計画外 103名(54.5),計画的 86名(45.5) 結婚形態 既婚 176名(93.1),シングル 13名(6.9) 里帰りの有無 なし 122名(64.6),あり 67名(35.4) 実父母手伝い あり 161名(85.2),なし 28名(14.8) 義父母手伝い あり 36名(19),なし 153名(81) 姉妹の手伝い あり 24名(12.7),なし 165名(87.3) 友人の手伝い あり 28名(14.8),なし 161名(85.2) 情報源雑誌 あり 125名(66.1),なし 64名(33.9) 情報源身内 あり 148名(78.3),なし 41名(21.7) 情報源友人 あり 72名(38.1),なし 59名(31.2),不明 58名(30.7) 情報源医療関係者 あり 21名(11.1),なし 110名(58.2),不明 58名(30.7) 分娩週数 早期産 5名(2.6),正期産 179名(94.7),不明 5名(2.6) 出生児体重 2,500g未満 13名(6.9),2,500∼3,800g未満 163名(86.2),3,800g以上 7名(3.7),不明 6名(3.1) 出血量 500g未満 98名(51.9),500∼1,000g未満 62名(32.8),1,000g以上 20名(10.6),不明9名(4.7) 分娩様式 自然分娩 143名(75.7),その他 46名(24.3) 栄養方法 母乳のみ 100名(52.9),混合(母乳>ミルク) 52名(27.5),混合(母乳<ミルク) 21名(11.1), ミルクのみ 10名(5.3),不明6名(3.2) ミルク栄養 あり 83名(43.9),なし 100名(52.9),不明 6名(3.2) 母乳栄養 あり 173名(91.5),なし 10名(5.3),不明 6名(3.2) 表2 妊 産 褥 期 別STAI とEPDS な ら び にStein のMaternity
blues scoreの平均値と標準偏差(N=189) STAI
EPDS Maternityblues 状態不安 特性不安 妊娠末期 産褥5日目 産褥1ヶ月目 産褥3ヶ月目 42.4( 8.7) 38.4(10.2) 39.6( 9.6) 36.9( 9.1) 40.8( 8.5) 39.6( 9.4) 39.5( 9.6) 38.2(10.3) 5.4(3.6) 5.6(3.6) 5.0(3.4) 5.2(3.7) 表3 STAI:状態不安得点と特性不安得点が高得点を占める 割合(N=189(%)) 状態不安 (高い:42〜50点)(非常に高い:51点以上) 妊娠末期 産褥5日目 産褥1ヶ月目 産褥3ヶ月目 67(35.4) 41(21.7) 43(22.8) 35(18.5) 35(18.5) 23(12.6) 24(12.6) 12( 6.1 ) 特性不安 (高い:45〜54点) (非常に高い:55点以上) 妊娠末期 産褥5日目 産褥1ヶ月目 産褥3ヶ月目 50(26.5) 38(20.1) 37(19.6) 26(13.8) 14( 7.4) 11( 5.8) 14( 7.4) 12( 6.1)
最大は21であった。また9点以上で「産後うつ病」の 可能性を示したものは37名(19.6%)であった。また 産褥1ヶ月目は平均5.6(標準偏差3.6)であり,最小は 0,最大は20で「9点以上」を示した者は32名(16.9%) であった。また,産褥3ヶ月目は平均5.0(標準偏差3.4) で,最小は0,最大は16であり「9点以上」を示した者 は27名(14.2%)であった(表2・図1)。 3.妊産褥期別における女性の不安因子の分析 妊産褥期に生じる様々な問題を「妊産婦の背景(年 齢・分娩週数・初経産別・学歴・職業の有無・夫の年 齢・夫の協力度・経済認識・妊娠契機・結婚形態・ 里帰りの有無・情報源・手伝いの有無)」と「分娩時の 状況(出血量・自然分娩・出生児体重)」と「産褥期の 栄養方法(栄養方法・母乳栄養・ミルク栄養)」の側面 を,妊産褥各期別に調査した尺度をそれぞれ時期毎に, 従属変数として逐次重回帰分析を行った。「状態不安」 と関連を示した変数は,妊娠末期が「初産経産」(β= 1.35, p=.047),産褥5日目は「夫の協力度」(β=0.44, p=.000)「職業の有無」(β=0.21, p=.048),産褥1ヶ 月目は「職業の有無」(β=0.26, p=.028)と「初産経産」 (β=0.23, p=.049),産褥3ヶ月目は「学歴」(β=0.26, p=.035)であった。「学歴」が負の関連を示し,他は正 の関連であった(表4)。 また,「特性不安」と関連を示した変数は,妊娠末期 が「姉妹の手伝い」(β=0.18, p=.016),産褥5日目が 「経済困難」(β=0.32, p=.005)「義父母の手伝い」(β= 0.26, p=.02),産褥1ヶ月目は「妊娠契機」(β=0.31, p=.011),産褥3ヶ月目は「夫の協力度」(β=0.31, p= .01)「妊娠契機」(β=0.24, p=.04)であった。「義父母 の手伝い」と「妊娠契機」が負の関連を示した(表5)。 「Steinのmaternity blues score」と関連する要因は,
「夫の協力度」(β=0.41, p=.000)「情報源が雑誌」(β =0.30, p=.003)「妊娠契機」(β=0.33, p=.001)「児 の体重」(β=0.18, p=.048)であった。 「妊娠契機」が負の関連を示し,他は正の関連であっ た(表6)。 「EPDS」と関連する要因は,産褥5日目には「義父母 の手伝い」(β=0.27, p=.008)「経済困難」(β=0.23, p=.020)「初産経産」(β=0.28, p=.007)「妊娠契機」 (β =0.35, p =.001)「身内からの情報」(β =0.3, p =.004)であった。「経済困難」のみ正の関連であった。 また産褥1ヶ月目は「妊娠契機」(β=0.24, p=.049), 産褥3ヶ月目は「夫の協力度」(β=0.42, p=.000)「妊 娠契機」(β=0.35, p=.002)「初産経産」(β=0.27, p =.01)に関連が見られた(表7)。 100 80 60 40 20 0 (%) 産褥5日目 産褥1ヶ月 産褥3ヶ月 □9点未満 ■9点以上 図1 産褥各期のEPD9点以上の割合 表4 「STAIの状態不安」を目的変数とした逐次重回帰分析(N=189) 時 期 抽出された変数 偏回帰係数 標準化係数(β) t 有意確率 妊 娠 末 期 初産経産 2.71 1.35 2.00 .047* R=0.156 R2=0.024 F(1, 162)=3.84* 産 褥 5 日 目 夫の協力度 5.19 0.448 4.33 .000** 職業の有無 4.09 0.212 2.01 .048* R=0.561 R2=0.314 F(2, 67)=3.15* 産褥1ヶ月目 職業の有無 4.44 0.26 2.25 .028* 初産経産 3.93 0.23 2.00 .049* R=0.34 R2=0.12 F(2, 62)=3.15* 産褥3ヶ月目 学 歴 3.44 0.26 2.15 .035 R=0.26 R2=0.072 F(1, 60)=4.00 *p<0.05 **p<0.01
4.妊産褥期別のSTAI・Steinのmaternity blues score・ EPDS尺度間の関連
妊娠末期と産褥5日目と産褥1ヶ月目,産褥3ヶ月 目に調査したSTAI(状態不安と特性不安)・EPDS・
Steinのmaternity blues scoreの間では,すべてに有意
な正の相関(p<0.01)を示した(表8)。
5. 妊 娠 末 期 の「STAI」と 産 褥 期 の「STAI」「Stein の
maternity blues score」「EPDS」の関連
妊娠末期の「STAI」が産褥期の不安を予測可能かど
うかの関連をみるために,産褥期の「STAI」「Steinの
maternity blues score」「EPDS」得点を従属変数,妊娠
末期「STAI」を説明変数とした逐次重回帰分析を行っ た。その結果,産褥5日目・1ヶ月目・3ヶ月目のいず 表5 「STAIの特性不安」を目的変数とした逐次重回帰分析(N=189) 時 期 抽出された変数 偏回帰係数 標準化係数(β) t 有意確率 妊 娠 末 期 姉妹の手伝い 4.99 0.18 2.44 .016* R=0.18 R2=0.03 F(1, 162)=3.84* 産 褥 5 日 目 経済困難 4.35 0.32 2.88 .005** 義父母の手伝い 6.50 0.26 2.38 .020* R=0.405 R2=0.164 F(2, 67)=4.97** 産褥1ヶ月目 妊娠契機 5.98 0.31 2.62 .011* R=0.31 R2 =0.09 F(1, 63)=4.00* 産褥3ヶ月目 夫の協力度妊娠契機 3.624.43 0.310.24 2.632.00 .01** .04* R=0.4 R2 =0.16 F(2, 59)=3.23* *p<0.05 **p<0.01 表6 「STAIのmaternity blues score」を目的変数とした逐次重回帰分析(N=189)
時 期 抽出された変数 偏回帰係数 標準化係数(β) t 有意確率 産 褥 5 日 目 夫の協力度 1.83 0.41 4.44 .000** 情報源雑誌 2.42 0.30 3.11 .003** 妊娠契機 2.36 0.33 3.42 .001** 児の体重 0.91 0.18 2.01 .048* R=0.69 R2 =0.479 F(4, 65)=3.64** *p<0.05 **p<0.01 表7 「EPDS」を目的変数とした逐次重回帰分析(N=189) 時 期 抽出された変数 偏回帰係数 標準化係数(β) t 有意確率 産 褥 5 日 目 義父母の手伝い 2.51 0.27 2.76 .008** 経済困難 1.20 0.23 2.38 .020* 初産経産 2.04 0.28 2.79 .007** 妊娠契機 2.53 0.35 3.40 .001** 身内からの情報 2.62 0.30 2.94 .004** R=0.61 R2=0.38 F(5, 64)=3.33** 産褥1ヶ月目 妊娠契機 1.87 0.24 2.01 .049* R=0.24 R2 =0.06 F(1, 63)=4.00* 産褥3ヶ月目 夫の協力度 1.83 0.42 3.9 .000** 妊娠契機 2.39 0.35 3.1 .002** 初産・経産 1.88 0.27 2.4 .01* R=0.57 R2 =0.32 F(3, 58)=4.12** *p<0.05 **p<0.01
れの時期でも「特性不安」との関連が示された。また 産褥3ヶ月目では「EPDS」との関連が示された。妊娠 末期の特性不安と関連が認められたものは,「産褥5日 目の特性不安」(β=0.72, p=.000),「産褥1ヶ月目の 特性不安」(β=0.66, p=.000),「産褥3ヶ月目の特性 不安」(β=0.63, p=.000),また産褥3ヶ月目の「EPDS」 (β=0.56, p=.000)であった(表9)。
Ⅳ.考 察
今回対象の妊産褥婦の平均年齢は29.1歳であり,初 産と経産がほぼ半々であった。2003年の日本での初産 の母親の平均年齢は28.3歳,第2子出産時の平均年齢 は30.6歳,第3子出産時の平均年齢は32.5歳からみると, 平均的な標本であることがわかる。また対象とした施 設は救急指定病院であり,ハイリスクの妊婦の受診が 多い所であるが,帝王切開術の割合が18∼20%であ り,2004年に20床以上のベッド数を有する病院での手 術数の割合18%と比較しても大差がない。母体の合 併疾患と胎児の異常を有する妊婦は当初より対象とは していない。 その様な背景の中で,妊娠末期にSTAIの状態不安 で得点が「高い・非常に高い」は併せて53.9%であっ た。同時に特性不安得点が「高い・非常に高い」は併 せて33.9%という結果であった。このことから不安特 性が高い者だけが不安に思っているわけではないと いうことがわかる。この傾向は産褥期も同様であっ た。しかし今回は個別的な不安得点の変動をみていな い。今後は個別の変動をみることが必要であると考え る。一方,マタニティブルーズは今回の調査では,産 褥5日目で26.9%であり,同じSteinのmaternity blues scoreの尺度を用いた岡野(1991)の25.8%と,工藤(1996)の30%と近い値であった。症状はthe third day blues, the fourth day blues と表現されるように,分娩
3∼4日後に涙もろさ,集中困難,困惑,不安などが
生じてくるが,出現のしかたは一定せずにばらつきが あるとされる。それゆえに,産褥5日目にスコアの高 い褥婦には経過を把握しながら,個別に悪化しないよ
表8 妊産褥期(妊娠末期・産褥5日目・1ヶ月目・3ヶ月目)におけるSTAI、EPDS、Steinのmaternity blues scoreの関連
状態不安
妊娠期 特性不安妊娠期 状態不安産褥5日特性不安産褥5日 産褥1ヶ月状態不安 産褥1ヶ月特性不安 産褥3ヶ月状態不安 産褥3ヶ月特性不安 産褥5日EPDS 産褥1ヶ月EPDS 産褥3ヶ月EPDS 産褥5日STEIN
状態:妊娠期 1 状態:産褥5日 0.39** 0.396** 1 状態:産褥1ヶ月 0.402** 0.456** 0.593** 0.577** 1 状態:産褥3ヶ月 0.351** 0.521** 0.414** 0.575** 0.602** 0.598** 1 特性:妊娠期 0.689** 1 特性:産褥5日 0.447** 0.720** 0.656** 1 特性:産褥1ヶ月 0.405** 0.662** 0.531** 0.776** 0.759** 1 特性:産褥3ヶ月 0.354** 0.63** 0.448** 0.697** 0.55** 0.702** 0.826** 1 EPDS:産褥5日 0.347** 0.513** 0.659** 0.682** 0.507** 0.640** 0.451** 0.535** 1 EPDS:産褥1ヶ月 0.322** 0.547** 0.416** 0.593** 0.685** 0.793** 0.559** 0.589** 0.617** 1 EPDS:産褥3ヶ月 0.318** 0.543** 0.445** 0.663** 0.511** 0.615** 0.770** 0.819** 0.596** 0.667** 1 STEIN:産褥5日 0.396** 0.449** 0.709** 0.649** 0.543** 0.565** 0.440** 0.450** 0.664** 0.551** 0.544** 1 表9 産褥期の不安得点を目的変数,妊娠末期の「STAI」を説明変数とした逐次重回帰分析(N=189) 抽出された不安 偏回帰係数 標準化係数(β) t 有意確率 産 褥 5 日 目 特性不安 0.79 0.72 14.19 0.000** 特性不安 R=0.72 R2 =0.519 F(1, 187)=6.63** 産褥1ヶ月目 特性不安 0.74 0.662 12.07 0.000** 特性不安 R=0.66 R2=0.438 F(1, 187)=6.63** 産褥3ヶ月目 特性不安 0.73 0.637 9.15 0.000** 特性不安 R=0.63 R2 =0.405 F(1, 123)=6.85** EPDS 特性不安 0.22 0.56 7.65 0.000** R=0.56 R2=0.323 F(1, 123)=6.65** *p<0.05 **p<0.01
うな支援方法が大切であると考える。
またEPDSでは,9点以上は産褥5日目に19.6%と産 褥1ヶ月目は16.9%,産褥3ヶ月目は14.2%であった。 従来産後うつ病の発生頻度は,およそ10%前後といわ れてきた(O Hara & Zekoski, 1988;島, 1994)。単に9 点以上というだけで産後うつ病の確定診断にはならな いとはいえ,参考にすれば若干増えている。この傾向 は調査した時期や地域性によって変化しているものと 思われる。一般に産後うつ病は出産後2∼3週間以後 に発症するとされる。マタニティブルーズの延長線上 に産後うつ病が発症しやすいことを考えれば,むしろ 産褥1ヶ月目は産後うつ病の早期発見のために,チェッ クする好機であると考える。産褥3ヶ月目に顕著な減 少がみられないことから,産褥1ヶ月目に検査する意 義は大きいと考える。
さらに今回,STAI とSteinのmaternity blues score とEPDSの各尺度別に,対象となる妊産褥期の女性の 各時期の不安要因を探った。その結果逐次重回帰分析 において,STAI の状態不安と関連が認められた変数 は妊娠期では「初産経産」であった。これは出産の経 験の有無によって不安の大きさが違うことを意味する が,決定係数が極めて小さく単純に妊娠の経験の有無 だけを重要視してはいけないと考える。また,産褥5 日目では「夫の協力度」と「職業の有無」の関連が認め られた。中でも「夫の協力度」は標準化係数が他と比 較して大きく,一番影響を与えていた。このことはこ れまでにも発表されてきた,夫のサポートが乳幼児期 の子どもをもつ母親の精神的支援に大きな役割を持っ ている(宮中, 1999;両角他, 2000)ことと同様であっ た。今回の調査の質問内容には,物理的な夫の協力だ けではなく,妻が感じる精神的な部分での協力内容を 含んだものとした。このことは夫からのサポート感も 母親の育児不安を軽減するという結果(坂間他, 1999) と一致した。また「職業の有無」では,今回の調査で は有職者は丁度半分であった。有職者は不安が少な かったが,この傾向は有職者の母親の精神的側面の疲 労が軽く(光岡等, 1999)状態不安が軽度である(島田, 1990)と一致する。これは産褥1ヶ月時の関連要因に も抽出され,有職者の女性は仕事を持つことでストレ ス回避行動のとりかたや工夫等,何らかのものを得て いるのではないかと考える。 また,産褥3ヶ月目は「学歴」が負の関係を示した。 学歴が短いほど不安が高かった。しかし中卒が5.8% と少ないことや決定係数が低く,大きな影響を与える 因子であるとは言い難い。 次に,STAIの特性不安に関連した要因は,妊娠期 は「姉妹の手伝い」であった。「姉妹の手伝いがない」 に不安得点が低く,「手伝いがある」に不安得点が高 かった。このことは,不安のある者があえて姉妹の手 伝いを求めたとも考えられる。しかし今回の調査では 「手伝い」の有無別では,「なし」が87%を占めており, そのまま解釈するには早計ではないかと考える。また 決定係数も標準化係数も低く,この要因のみでは大 きな影響を与えているとは言い難い。また,産褥5日 目には「経済困難」と「義父母の手伝い」が選択された。 「経済困難」が苦しいほど不安得点が高かった。産褥5 日目は退院時で一度に高額の入院費用請求となる。こ のような医療経済事情が不安要因の背景にあるのでは ないかと考える。また,「義父母の手伝い」が負の関連 を示した。「手伝いあり」の方に不安が高い結果であっ たが,手伝いでも,心理的なサポートという意味では 逆効果になるということが示唆される。 産褥1ヶ月目では,「妊娠契機」が選択された。しか し,決定係数が極めて低く大きな影響を与えていると は言い難い。同様に産褥3ヶ月目でも「妊娠契機」に加 えて「夫の協力度」の2つの要因が抽出された。「妊娠 契機」に関しては,計画外の妊娠であったものに不安 が大きかった。このことは,その後の育児態度や対児 感情等への影響が考えられ,妊娠期や出産時などに前 向きで積極的な態度や感情が形成されるような,賞賛 や激励等の意識的な支援・指導体制がのぞまれる。 次にSteinのmaternity blues scoreに影響する要因で
は,「夫の協力度」「雑誌からの情報」「妊娠契機」「児の 体重」が選択された。決定係数が他より高くmaternity blues score の分散の47%を説明している。しかし選 択された独立変数の標準化係数はそれほど大きくはな く,中でも「児の体重」の影響は少ないと考えられる。 また,EPDSに影響する要因として,産褥5日目に は「義父母の手伝い」「経済困難」「初産経産」「妊娠契 機」「身内からの情報」が選択された。「経済困難」のみ 正の関連で,他は負の関連であった。選択された独立 変数の標準化係数はあまり高くはないが,他の尺度か らは選択できなかった「身内からの情報」があげられ た。身内から情報が得られた者に不安が高い結果だっ たが,医療者側からの情報や他の情報との整合性に混 乱をする結果だとも考えられる。保健指導時には身内 から得られた情報に配慮した対応も必要である。また, 産褥1ヶ月目は「妊娠契機」が選択された。しかし決定
係数も標準化係数も低く,ことさらに大きな影響を及 ぼす要因とは考えがたい。産褥3ヶ月目は「夫の協力度」 「妊娠契機」「初産経産」が関連を示した。「夫の協力 度」は産褥5日目と3ヶ月目にSTAIとmaternity blues scoreでも関連性が認められる。夫への妻に対する産 後支援の必要性などの教育等が必要であると考えられ る。また「妊娠契機」はSTAIの状態不安を除く全ての 不安尺度で選択された。妊娠が計画外であると産褥期 も長期にわたって心理的な相談窓口が必要とされると いうことかもしれない。
次に検査の際に用いた尺度(STAIとSteinのmater-nity blues scoreとEPDS)で,妊娠末期・産褥5日目・
1ヶ月目・3ヶ月目との関連性をみた。その結果全て に於いて,有意な正の相関を示した。このことは妊娠 末期のSTAI で産褥期のマタニティブルーズの予測や 産後うつ病になる可能性のある女性をチェックできる ことが示唆されると考える。しかし一方で,相関係数 が0.7でも49%,0.8でも64%の説明力しかなく,今回 は0.3という値もあることから,その他の状況等を考 慮する必要が大切であると考える。 そこで今回逐次重回帰分析を行った結果,産褥5日・ 1ヶ月・3ヶ月目の特性不安と産褥3ヶ月目のEPDSが 妊娠末期の特性不安と関連性が認められた。標準化係 数も比較的高かった。つまり,妊娠末期のSTAIの特 性不安は産褥期の特性不安と産褥3ヶ月目のEPDSの 予測が可能であるが,産褥のマタニティブルーズを予 測することはむずかしいと考えられる。
Ⅴ.結 論
妊産褥期にある女性の時期別の不安の程度と不安に 関係する因子の抽出,そして妊娠末期のSTAIで産褥 期の心理的支援を必要とする女性の予測が可能か否か をSTAI,Steinのmaternity blues score,EPDSで試み た。その結果以下の点が明らかとなった。 1 .STAIの状態不安は,妊娠末期が産褥期よりも高 いが,産褥期はほぼ一定していた。不安得点が高い 褥婦は25∼30%であった。一方,特性不安も同様 の傾向ではあったが,その割合は状態不安より少な く,特性不安の高い者だけが不安を感じているわけ ではなかった。Steinのmaternity blues scoreでは「8 点以上」を示す者は,産褥5日目は23%を占め,こ れまでの日本の結果と同様であった。一方EPDSは 産褥5日目で「9点以上」であった者は19.6%であり, 産褥1ヶ月目は16.9% ,産褥3ヶ月目14.2%であった。 顕著な減少には至らず,長期的な支援の必要性があ ると考えられた。 2 .3つの尺度を用いて妊産褥期の女性の不安因子を 分析した結果,妊娠末期に関連した要因は,影響が それほど大きくはないが「出産の経験の有無」と「姉 妹からの手伝い」であった。また産褥5日目に関係 する要因で比較的影響が考えられるものは「夫の協 力度」「職業の有無」「経済困難」「妊娠契機」等であっ た。そして産褥1ヶ月目は「職業の有無」「出産の経 験の有無」「妊娠契機」等であり,産褥3ヶ月目は「夫 の協力度」「妊娠契機」「出産の経験の有無」であった。3 .使用したSTAI, Steinのmaternity blues score, EPDS
の各尺度間の関連は,すべて有意な正の相関(p< .01)を示した。また逐次重回帰分析を行った結果, 妊娠末期のSTAIで産褥期の不安が予測できるのは, 産褥5日目・1ヶ月目・3ヶ月目の特性不安と産褥3ヶ 月目のEPDSであった。 これらの知見をふまえ,今後の母子保健活動に生か していきたい。 文 献
Areias, M.E.G., Kumar, R., Barros., H. & Figueiredo, E. (1996). Correlates of postnatal depression in mothers and fathers, British Journal of Psychiatry, 169, 36-41. 上嶋仁美,服部満生子(1996).ポジショニング,小児看護, 19(3), 329-331. 江尻孝平,工藤尚文,野間純,正岡博,高本憲男(1993). 母体合併症と精神障害の関連,周産期医学, 23(10), 1417-1421. 岡野禎治(1991).本邦における産後精神障害研究の実態, 周産期医学, 23(10), 1397-1404. 岡野禎治,野村純一,越川法子他(1991).Maternity Blues と産後うつ病の比較文化的研究,精神医学33,1051. 岡村州博,佐藤喜根子,佐藤祥子(1996).妊産褥婦の不 安の特性とその経時的変化─STAI を用いた検討─, 平成7年度厚生省心身研究報告書,49-51. 亀井睦子,益子恵美,蛭田由美(1999).産後の母親の不 安の変化の要因(第1報)─STAIの結果から─,母性 衛生, 40(2), 325-331. 工藤尚文,多田克彦,岸本康夫他(1998).母体合併症が 産後の精神状態に及ぼす影響,平成7年度厚生省心身 研究報告書,39-41. 坂間伊津美,山崎喜比古,川田智恵子(1999).育児スト
レインの規定要因に関する研究,日本公衆衛生雑誌, 46(4), 250-262. 佐藤祥子・佐藤喜根子・桜井理恵他(1999).産褥期の電 話訪問の有効性,東北大学医療技術短期大学部 紀要, 8(1), 81-86. 島悟(1994).マタニティ・ブルーズと産後うつ病の診断学, 精神科診断学, 5, 321-330. 島田三恵子,松浦賢長,宮原忍(1990).育児中の母親の 不安に関する研究─STAI 得点と属性等との関連─, 母性衛生, 31(2), 221-228. 水口公信,下仲順子,中里克治(1991).日本版STAI 状態・ 特性不安検査,三京房,3-16. 蛭田由美,亀井睦子,益子恵美(1999).産後の母親の不 安の変化の要因(第2報)─苛立事尺度の結果から─, 母性衛生, 40(2), 332-339. 堀内勤(1997):カンガルーケア─新生児医療の新しい出 発,日本小児科学会誌, 101, 1259-1262. 光岡摂子,小林春男,奥田昌之,池口恵観,吉原達也(1999). 乳幼児を持つ母親の疲労と育児不安,体力・栄養・免 疫学雑誌, 9(1), 30-39. 宮中文子,松岡知子,山口三貴子(1999).乳幼児期にお ける父親の役割が母性意識の発達に及ぼす影響,日本 助産学会誌, 12(3), 108-111. 両角伊都子,角間陽子,草野篤子(2000).乳幼児を持つ 母親の育児不安に関わる諸要因─子ども虐待をも視野 に入れて─,信州大学教育学部紀要, 99, 87-98. Murray, L. (1992). The impact of postnatal depression on
infant development Journal of Child Psychology and Psychiatry 33, 543-561.
O’Hara, M.W. & Zekoski, E.M. (1988). Postpartum depres-sion, a comperehensive review. in (R. Kumar & I.F. Brockington, eds.) Motherhood and Mental Illness 2, London: Academic Press.