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Academic year: 2021

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二大政党化と参議院二人区

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茨 木 瞬 ** * 本稿の完成は,筆者の指導教員である和田淳一郎先生(横浜 市立大学)のご指導の賜物であり,御礼を申し上げる. また,本稿は,公共選択学会第 14 回大会(2010 年,慶應 義 塾 大 学 ),Australasian Public Choice Conference 2010 (University of Canterbury,New Zealand),国際研究集会 「計量・数理政治学のフロンティア」(2011 年,学習院大学) で 報告 し た 論文 に 修 正 ・加 筆 し たも の であ る . 谷口 尚 子 先生 (東京工業大学),福元健太郎先生(学習院大学),名取良太先 生 (関 西 大 学) を 始 め ,貴 重 な コメ ン トを 下 さ った 諸 先 生方 に感謝したい. ** 著者は横浜市立大学国際マネジメント研究科. ※ 本稿はレフェリーの審査を経たものである.2011 年 12 月 受理. 2010 年 7 月 11 日に行われた第 22 回参議院議 員選挙は,野党である自民党が 51 議席を獲得し, 与党である民主党の 44 議席を上回る結果となっ た(表 1 参照).その中で注目されたのは,ほと んどの二人区で民主党が二人の候補者を擁立した ことである.当時幹事長であった小沢一郎衆院議 員の指示の下,民主党は二人区である 12 道府県 のうち 11 道府県で二人の候補者を擁立した 1) 一人区 二人区 三人区 五人区 合計 21 12 5 1 39 12 51 8 12 6 2 28 16 44 0 0 2 1 3 7 10 2 1 3 6 9 0 0 0 0 0 3 3 0 0 0 0 0 2 2 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 29 24 15 5 73 48 121 民主党 合計 公明党 共産党 社民党 国民新党 みんなの党 たちあがれ日本 新党改革 日本創新党 幸福実現党 諸派 無所属 自民党 政党 選挙区 比例区 合計 . しかし結果は,各選挙区で片方の候補者のみの当 選(片倒れ)となった. 表 1 第22 回参院選における定数ごとの各党の獲得議 席数 本論では,二大政党の間で,二人区における複 数候補者擁立がどのような要因によってなされる のか,また 2010 年の参院選における“小沢戦 略”の結果が成功と言えるのかについて分析して いく. 1.1 二大政党化 まず,二人 区におけ る複数 候補者擁立 戦略分 析の前提となる二大政党化について,内閣総理大 臣の指名などで,優越が認められている衆院選の データを用いて確認する. 「小選挙区制は二大政党制を生む」という命題 は デ ュ ベ ル ジ ェ の 法 則 と し て 知 ら れ て い る . Duverger (1951) は,小選挙区制においては第 3 党の議席率がその得票率をはるかに下回るという 1) 10 道府県で二人の公認候補者を擁立し,1 県で公認候補者 と 推薦 候 補 者を 一 人 ず つ擁 立 し た. 新 潟県 で は ,社 民 党 推薦 の 現職 議 員 に配 慮 し た ため , 二 人区 で 唯一 二 人 の候 補 者 を擁 立しなかった.

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機械的効果と,有権者が当選の可能性が低い政党 に投票して一票を無駄にすることを避けるという 戦略的投票行動を指す心理的効果により,この命 題の成立を主張している. 全国レベル での二大 政党制 の確立に疑 いを持 つ例はあるが,一般に単純小選挙区制の選挙区レ ベルでは,有効な候補者数が 2 になるという傾 向は広く認められ,Reed (1990, 1997) は,さら に,日本の衆議院中選挙区制(大選挙区単記非移 譲式投票制)においても適用できるとし,M 人 選出の選挙区において,有 力候補者数は次第に M+1 人に収束していき,次々点以降は泡沫候補 となるとした.この命題は Cox (1994) の有権者 の戦略的投票モデルによっても支えられ,広く日 本の研究者によって認められるものとなっている. 図 1 は,小選挙区比例代表並立制が実際に導 入された 1996 年度(第 41 回)を挟む衆院選に おいて,各政党が獲得した議席数を帯グラフにし て表示したものである.比例区を含んだこのデー タでも,二大政党化を見て取れるが,小選挙区の みの結果を示した図 2 では,1996 年からの二大 政党化はより顕著に現れる.

Laakso and Taagepera (1979) に従い,衆院 選 で 各 政 党 が 獲 得 し た 議 席 数 に よ り , Herfindahl 指数の逆数で有効政党数を表すと, 表 2 のようになる.小選挙区制導入以後,有効 政党数は,小選挙区の議席数のみのデータではも ちろん,全体のデータでも減少し,直近の 2009 図 1 衆院選獲得議席数 図 2 衆院選獲得議席数(小選挙区のみ) 年の衆院選では,全体の議席数でも有効政党数は 2.10 であり,小選挙区のみの議席数での有効政 党数は 1.70 となっている.有効政党数からも分 かるように,日本政治における二大政党化は明白 である. 表 2 衆院の議席数における有効政党数 1983 1986 1990 1993 1996 2000 2003 2005 2009 全体 有効政党数 3.24 2.58 2.71 4.20 2.94 3.17 2.59 2.27 2.10 小選挙区 有効政党数 2.36 2.37 2.29 1.77 1.70 衆院選結果より 1.2 候補者擁立に関する先行研究 現在までの ところ, 選挙制 度改革以降 の衆議 院小選挙区候補者擁立に関しては,2 つの視点か らの研究が存在する.一つは小選挙区の候補者擁 立によって,並立された比例代表の得票数が増え る連動効果(interaction effect),あるいはそれ を狙っての候補者擁立が図られるとする汚染効果 (contamination effect)に関する一連の研究であ る(水崎・森1998; Heron and Nishikawa 2001; 西 川 2003; Reed 2003; Maeda 2008; Umeda 2010).

もう一つは,県議選の選挙制度に注目した堀内・ 名取(2007)である.堀内・名取(2007)は, 1996~2005 年までの衆院選の小選挙区における Laakso and Taagepera による有効候補者数の平 均値は,M+1 の法則に適合した数である 2 人に 収束していない結果となっており,その理由とし て,「(大選挙区も使われる)県議選の有効候補 者数が,衆院選の小選挙区における有効候補者数 を増大させる.」とした.

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先行研究において,並立する比例区や県議選の 影響などをも含め,衆院選に関する研究は行われ ているが,参院選に関する研究は行われていない. 選挙制度改革以降,二大政党制への道が見える衆 議院に対して,参議院選挙区選挙の動きは複雑で ある. 表3 は,全国区が比例代表制となった 1983 年 以降の,参議院の各選挙区の候補者の得票数で, Laakso and Taagepera に従い Herfindahl 指数 の逆数で有効候補者数を計算し,定数ごとにその 平均値を求めたものである.参院一人区の有効候 補者数は,堀内・名取(2007)などが示す衆議 院小選挙区と同等で,衆議院の選挙制度改革以前 と比較しても,変化はない.三人区以上は M+1 を大きく超え,増加傾向にあるとさえいえるかも しれない.一方で,二人区は,衆院選の小選挙区 制導入以後,2010 年の参院選を除き,有効候補 者数が減少している.また,2007 年度の有効候 補者数は2.99 であり,M+1 人を唯一下回った結 果 と な っ て い る .2007 年度の参院選において M+1 人を唯一下回った二人区で,民主党は 2010 年に 12 中 11 の二人区に複数の候補者を擁立し た. 表 3 参院選挙区選挙における有効候補者数 選挙区 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010 一人区 2.40 2.35 2.43 2.26 2.81 2.95 2.47 2.34 2.35 2.49 二人区 3.48 3.30 3.32 3.21 3.48 4.33 3.87 3.18 2.99 4.04 三人区 5.17 4.92 4.77 4.96 4.61 6.59 5.13 4.62 5.11 5.75 四人区 5.54 6.54 5.36 6.09 6.41 7.14 6.32 7.14 五人区 8.34 6.80 第 2 節で複数候補者擁立の効果をコストベネ フィットの両面から示し,第 3 節で複数候補者 擁 立 戦 略 の 可 能 性 を 探 り , 第 4 節でいわゆる “小沢戦略”の総括を行う.最後に有権者の視点 も踏まえ,参議院二人区の評価をもって本論を閉 じたい. 2. 複数候補者擁立の効果 参院二人区における複数候補者擁立の効果とし て,1 つのコストと 2 つのベネフィットが考えら れる.すなわち,共倒れの期待コストと二人区独 占および比例区得票増という期待ベネフィットで ある. 参院二人区 における ,二大 政党による 複数候 補者擁立の大きなコストは共倒れである.政党が 複数候補者を擁立することで,両候補者間で票の 取り合いが生じ,共倒れとなってしまう可能性が ある.また,共倒れの期待コストの大きさは,第 4 の候補者が有力候補者なのかどうかによって変 わる.第 4 の候補者とは,第 3 政党の候補者ま たは二大政党が共に二人ずつ候補者を擁立したと きの 4 人目のことを指す.第 4 の候補者が有力 候補者であれば,第 1~3 の候補者の得票が減少 するので,共倒れの期待コストは増加すると考え られる.二大政党の片方が単数候補者擁立であれ ば,無所属や第 3 党の台頭で共倒れとなること もありうるが,複数候補者を擁立した政党は,う まくいけば独占,悪くても片倒れ(片方当選)で 済む可能性が高い.一方で,二大政党が共に複数 候補者を擁立することになると,共倒れとなって しまう可能性は高まる.二大政党は,二人区で確 実に 1 つの議席を確保するためには,単数候補 者擁立を決断するはずである.つまり,共倒れの ようなコストを上回るほどのベネフィットがなけ れば,各政党は複数候補者を擁立しないであろう. 各政党が複 数候補者 を擁立 することに よるベ ネフィットとして,二人区独占と比例区の得票増 という2 つが考えられる. 二人区独占は,定数 2 の選挙区で 2 つの議席 を獲得し,他の政党に比べその選挙区で 2 議席 のアドバンテージを受けることになる.しかし, 複数候補者擁立政党の候補者 2 人の合計得票数 が,次点となる候補者の得票数の 2 倍以上を獲 得しないと,そもそも議席を独占するは不可能で ある.つまり,二人区独占を狙うためには,その 選挙区における複数候補者擁立政党の力がかなり 強いことが必要である. 次に,二人 区の選挙 区に複 数候補者を 擁立す れば,支持者の増加により,比例区での得票が増 加することが考えられる.例えば,男性票の獲得 が期待できる候補者と女性票の獲得が期待できる

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候補者の 2 人を擁立するというように,互いに 別々の支持層である 2 人の候補者を擁立するこ とにより,比例区での得票を別々の支持層からの 得票により増加させることができるかもしれない. 3. 複数候補者擁立戦略の可能性 前節で述べた 1 つの期待コストと 2 つの期待 ベネフィットは,過去および今回の参院選でどの くらいの大きさがあったのであろうか.全国区が 比例代表制となった1983~2010 年の参院選につ いて見ていきたい. 実際のデー タを見て いくに あたって, 二人区 における複数候補者の擁立について具体的にグル ープ分けをする必要がある. 上位政党が 同一選挙 区にお いて何人の 候補者 を支持しているのかによって,二人区を 2 つの グループに分ける.一つは,二大政党が一人ずつ 公認または推薦をしている選挙区である.このグ ループを単数候補者選挙区と呼ぶ.二つ目は複数 候補者選挙区であり,具体的には, ①一つの選 挙区で同 じ政党 からの公認 候補者 が二人出馬している選挙区 ②一人の候 補者を公 認して いる政党が 同じ選 挙区の別の候補者も推薦している選挙区 ③同じ政党 が複数の 候補者 を推薦して いる選 挙区 の 3 つの場合を指す.(泡沫政党が複数候補者を 擁立したケースは除いた.) 3.1 二人区における共倒れの可能性 1983~2010 年までの参院二人区において,共 倒れとなった事例は 2 つある.1 つ目は,1989 年の熊本である.1989 年の参院選では,リクル ート事件や,消費税導入,農産物自由化,宇野首 相の女性問題が焦点となり,自民党への逆風が強 くあった.また,社会党の「マドンナブーム」に より,社会党が 46 議席を獲得し,自民党の 36 議席を上回った.熊本選挙区では,自民党が 2 人の公認候補者を擁立し,社会党や社会民主連合 が推薦した無所属の女性候補者と,現職であり, 公認争いのもつれから自民党を離党し,無所属で 立候補した候補者,および共産党の候補者と 2 つの議席を争った.結果は,社会党・社民連推薦 の無所属候補者と,自民党を離党した現職の無所 属候補者が当選した.前者は反自民感情に後押し され,「マドンナブーム」にも乗ったことで票を 伸ばした.後者は,現職であるという知名度に加 え,公認争いのもつれから自民党を離党したこと で,反自民票と同情票が集まったと考えられてい る.一方で,自民党候補者は,逆風に加え,農政 不信により,農業団体の基盤が揺らいだことが共 倒れの原因となった. 2 つ目は,1998 年の岐阜である.この選挙区 では,二大政党である自民党と民主党がそれぞれ 1 人の公認候補者と 1 人の無所属推薦候補者を擁 立し,実質 4 人での争いとなった.民主党は, 設立直後であり,社会党右派系の旧総評系(日本 労働組合総評議会)と,民社系の旧同盟系(全日 本労働総同盟)の労組対立が原因で,公認候補の 一本化に失敗したことで,2 人の候補者を擁立す ることとなった.一方自民党は,現職の議員を公 認し,県連が推す候補者を推薦という形で擁立し た.民主党が公明と選挙協力をしたことで 2) いずれにせ よ,複数 候補者 擁立におけ る期待 コストの決め手は第 4 の候補者の存在である. 前 述 し た 2 つの共倒れの例のうち,1 つ目の 1989 年の熊本県は,社会党の躍進により社会党 推薦の候補者が 1 位当選した.残り 1 つのイス を実質 3 人の保守系候補者が争い,自民党が共 倒れとなった選挙である.元自民党の保守系現職 無所属候補者が第 4 の候補者となった特殊な例 であるといえる.2 つ目の 1998 年の岐阜県は, ,互 いの支持母体からの基礎票を軸に,無党派層を吸 収できたことから,自民党の共倒れにつながった と考えられる. 2 つ目の事例のように,二大政党が共に複数候 補者を擁立することになると,共倒れとなってし まう可能性は高まる. 2) 1998 年の参院選では,民主党と公明が選挙協力をした 7 県 (青森,神奈川,新潟,長野,愛知,岐阜,広島)のうち,新 潟以外の6 県の候補者が当選している.

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自民党・民主党の候補者 4 人の争いとなり,互 いが第 4 の候補を持ったといってよい.民主党 が議席を独占したが,このときの(民主党の得票 数の合計)÷(自民党の得票数の合計)を計算し たところ,125.11%であったため,民主党または 自民党の得票数が片方の候補者に片寄っていれば, 共倒れはしなかったと考えられる.しかし,両党 とも得票数をきれいに半分ずつ分け合った形にな ったため,民主党の独占となった3) まず,同一 政党によ る二人 区独占の可 能性は どのくらいあるのであろうか.同一政党複数候補 者のいる選挙区において,二大政党が公認または 推薦している候補者の得票数を比較してみよう. 具体的には,(複数候補者政党の得票数合計)÷ (他方の政党の得票数)を計算し,パーセンテー ジで表示する . 3.2 同一政党による二人区独占の可能性 次に,2 つのベネフィットの大きさについて, 実際のデータから見ていく. 4) 表 4 は,各年度の二人区において,単数候補 者選挙区,複数候補者選挙区がいくつあったのか について表示するとともに,複数候補者選挙区に ついては,上記の計算結果に応じて 0%~100%, 100%~200%,200%以上の 3 段階に分け,年度 ごとで表示したものである.なお,200%以上の カテゴリーでは,複数候補者を擁立している政党 が両候補者で均等に票を分け合えば,両候補者と も当選することができるので,200%以上のカテ ゴリーにおいては,複数候補者の政党が実際に両 方当選したのか,または片方のみ当選したのかに ついても表示した.200%以上のカテゴリーの選 挙区は半分以下であり,1998 年以降は 1/3 しか ない.さらに,衆院選の小選挙区制導入以前の参 院選二人区においては,200%以上のカテゴリー . 3) 2004 年の静岡県では自民党の得票が偏り,2010 年の宮城県 では自民民主両党の得票がそれぞれ偏ったため,共に 1 議席 ずつ分け合うことになった. 4) 1998 年の岐阜,2004 年の静岡,2010 年の宮城では,二大 政党の両方が複数候補者を擁立しているが,その場合は,(得 票 数 の合 計 値 が 多 い方 の 政 党 の 得票 数 の 合計 値 )÷( 得 票数 の合計値が少ない方の政党の得票数の合計値)で計算した. に含まれている選挙区の過半数が両方当選してい たが,民主党と自由党が統合した 2003 年以降の 参院選のうち,得票数の合計値の比が 200%以上 の選挙区は一つ(2007 年の北海道)のみで,両 候補者が当選した選挙区はない. 表 4 複数候補者選挙区における二大政党の得票数の 比較 単数候補 者 選挙区の 数 全体 全 体 自 民 社 会 新 進 民 主 0%~ 100% 100%~ 200% 200%以 上 両方当 選 片方当 選 1983 (第13回) 6 9 9 0 0 4 5 3 2 1986 (第14回) 7 8 8 0 0 3 5 4 1 1989 (第15回) 9 6 6 0 2 4 0 0 0 1992 (第16回) 10 4 4 0 0 1 3 3 0 1995 (第17回) 18 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1998 (第18回) 7 11 9 3 0 8 3 2 1 2001 (第19回) 8 7 6 1 0 3 4 0 4 2004 (第20回) 11 4 3 2 0 4 0 0 0 2007 (第21回) 10 2 0 2 0 1 1 0 1 2010 (第22回) 1 11 1 11 0 11 0 0 0 年度/選挙区 複数候補者 (複数候補者200% 以上) 各選挙区での得票数比較 選挙区の数 ※ 複数候補者の選挙区の数において,全体数が自民と民主の数の合計 と合わないのは,1998 年の岐阜,2004 年の静岡,2010 年の宮城にお いて自民及び民主双方が複数の支援に入ったためである. 衆院選の選挙制度改革以降の,すなわち 1995 年以降の参院選において,独占があった例も 2 つのみである.1 つ目は,共倒れの 2 つ目で記し た 1998 年の岐阜における民主党の独占であり, 2 つ目は 1998 年の鹿児島である.この選挙区で は,自民党が現職と新人の 2 人の公認候補者を 擁立し,民主党・社民党・新党さきがけが非自民 統一候補として推薦した現職の無所属候補者,自 由連合の公認候補者,共産党の公認候補者と争っ た.結果は保守王国である鹿児島県において,自 民党の公認候補者が議席を独占した.2 人の自民 党公認候補者は,衆院選の選挙区別に候補者の票 割り 5) 5) 衆院選 1 区と 5 区は現職の候補者,2 区と 3 区は新人の候 補者が受け持った.(4 区は市町村ごとに分けた.) をしたことで,うまく票を配分することが できた.現職の自民党公認候補者は,参議院議員 を 4 期務めているという知名度に加え,県農政 連と全林政連県支部の支援を受け,投票前から当 選は確実であると言われていた.そのため,残り の議席を自民党公認の新人候補者と非自民統一候 補者として推薦された現職の無所属候補者で争う

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構図になっていた.そのことを受け,自民県連は, 新人候補者を「重点候補」とし,当時総裁であっ た橋本龍太郎など十人以上の党幹部が支援に訪れ たことで,終盤に勢いがつき,得票数では自民党 公認の現職候補者までも抜き,トップ当選を果た した.一方で,現職の無所属候補者は,社民党の 議員でありながら,非自民統一候補とするために 無所属で立候補したが,各党の足並みが揃わず, 票が伸び悩んだ.自由連合が独自で公認候補者を 擁立したこと,公明が非自民統一候補者を推薦せ ず,自主投票になったことも敗因の一つに挙げら れるだろう. しかし,そ の後の参 院選に おいて独占 の例は ない.二大政党化以降,同一政党が二人区独占を 享受できる可能性は少なくなっていると考えられ る. 3.3 比例区得票増の可能性 同一の政党が選挙区において複数候補者を擁立 すると,支持者の増加による比例区の票の増加も 考えられ,比例区において当選人数を増やす可能 性がある.1983~2007 年までの参院二人区にお いて,複数候補者を擁立したことのある政党であ る,自民党と民主党の比例の絶対得票率を計算し, 「単数候補者と複数候補者ではどのくらいの絶対 得票率の差があるのか」について分析を行った. 自民党は全国区が比例区となった 1983 年から 2007 年までのデータ,民主党は成立後初の参院 選である 1998 年から 2007 年までのデータを用 いた.この間,二人区であったことがある道府県 は 20 あり,両党ともこの間二人区には少なくと も 1 人の公認(推薦)候補を立てているので, 自民党は137 ケース,民主党は 60 ケースとなる. 「厚い保守地盤」「○○党への風」といった表現が 使われるように,絶対得票率には,道府県ごと, あるいは選挙ごとの波があるので,県ダミー,年 次ダミーをコントロール変数として使用した6)

6) 行った実証は unbalanced panel data による two-way fixed

effect モデルと同等である.two-way の random effect モデル はbalanced panel data によるしかないわけだが,期間あるい は道府県数を減らすことにより様々に整えた balanced panel data でも,候補者数による絶対得票率への効果は,random . 実証の結果はそれぞれ表 5 及び表 6 のように なる.予想される得票が多いから複数候補者を擁 立したというCausality の問題は排除しきれない わけだが,県ダミー,年次 ダミーといった形で 「厚い保守地盤」「○○党への風」といった要素に 配慮しても,二大政党の双方で,単数候補者選挙 区と複数候補者選挙区の間には約 2 パーセント ポイントの絶対得票率の差があることがわかった. 二人区におけるこの値は,複数候補者を擁立する ことで比例区における当選人数を 1~2 名増加さ せうる値であり,比例区への影響という面では, 同一の政党が複数候補者を擁立するベネフィット は十分にあると考えられる. 表 5 複数候補者擁立の比例区への影響(自民党) データ数: 137 系列名 係数 標準誤差 t値 t値の確率表 現 絶対得票率 0.01849 0.005125 3.608162 0.0005 決定係数 0.919929 0.89917 F値 44.31445 0 自由度修正済み決定係数 F値の確率表現 自民党 表 6 複数候補者擁立の比例区への影響(民主党) データ数: 60 系列名 係数 標準誤差 t値 t値の確率表 現 絶対得票率 0.01969 0.006237 3.156802 0.0031 決定係数 0.96801 0.950332 F値 54.75645 0 自由度修正済み決定係数 F値の確率表現 民主党 4.“小沢戦略”の総括と結論 2010 年の参院選挙において,民主党はほとん どの二人区で複数候補者を擁立した.なぜ自民党 ではなく民主党で,複数候補者擁立がなされたの であろうか.また,なぜそれが 2010 年であった のであろうか.ヒントは,小沢幹事長と,民主党 静岡県連に象徴される民主党地方県連との対立に

effect モデル,fixed effect モデルのいずれにおいても 2 パー セントポイント内外であることが示される.

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あると考える. 第 3 節においてわれわれは 1 つの期待コスト と2 つの期待ベネフィットを取り扱った. 2010 年の参院選において共倒れを引き起こし うる第 4 の候補者の存在はそれほど大きいもの ではなかったと考えられる.2010 年の二人区に おいて,第 3 政党はみんなの党または共産党で あった.複数候補者選挙区 11 道府県のうち自民 民主双方が複数候補者擁立を行った宮城県を除い た 7) 民主党は,曽我・待鳥(2008)にあるように, そもそも足腰(地方組織)が弱いという定評があ るが,国政においては,2009 年に行われた第 45 10 県において,複数候補者を擁立した民主 党の得票数の合計÷第 4 の候補者の得票数を計 算したところ,200%以上が 9 道府県あり,残り の1 県も 192%となっていることから,二大政党 が複数候補者同士で激突しない場合は,第 4 の 候補者の力は弱く,共倒れの期待コストは低かっ たと考えられる. しかし,参 院選にお いて, 選挙区の候 補者と 比例区の候補者は別々であり,地方県連にとって は,地方区の独占こそが複数候補者擁立の主要ベ ネフィットである.独占の可能性が低ければ,ベ ネフィットなき複数候補者擁立は躊躇されよう. ただし,政 党全体と しては ,二人区に 複数候 補者を擁立することによって,比例区の得票増と いう面でのベネフィットが存在する.それは比例 区の議席増をも起こしうる大きさである.実際に 選挙活動を行う地方県連が二人区において複数候 補者擁立を回避したがるのは自然だが,党中央に は二人区に複数候補者を立てるインセンティブが より強く存在する. 中央に力が ある政党 ならば ,地方県連 が推す 候補者に加え,比例区の得票増を狙って,党中央 が推す候補者を同じ選挙区に擁立するであろう. 1994 年に成立した政党助成法による政党交付金 の制度以降,各政党は徐々に力が地方県連から中 央に集中してきている. 7) 自民党が唯一複数候補者を擁立した宮城県では,県連が公 募 で選 ん だ 候補 者 が 公 認候 補 者 とし て ,現 職 の 候補 者 が 自民 党推薦の無所属候補者として立候補した. 回衆議院議員総選挙で 308 議席を獲得し,第 1 党となり与党になった.このことはますます中央 の力を強くし,地方組織が嫌う複数候補者擁立, “小沢戦略”を強行できたと考えられる.典型的 なのは長野の選挙区で,2 人目の候補者擁立を反 対していた県連に対し,党本部が 2 人目の候補 者を強行的に擁立した.この強硬姿勢にも,中央 主導がうかがえる. 一方で自民党は,一般に地 方県連の力が強い. このことは,地方議会における自民党所属議員の 圧 倒 的 な 数 を 見 れ ば 明 ら か で あ ろ う . ま た , 2010 年の参院選においても,公募制が中央では なく,各都道府県連主導で行われたことにも表れ ている.さらに,衆院選の中心が小選挙区になっ たことから,派閥の力で自民党が 2 人を擁立す ることは難しくなっていると考えられる.つまり, 自民党は党として 2 人を擁立「しない」のでは なく擁立「できない」のである 8) 8) 自民党が唯一複数候補者を擁立した宮城県では,県連が公 募 で選 ん だ 候補 者 が 公 認候 補 者 とし て ,現 職 の 候補 者 が 自民 党推薦の無所属候補者として立候補した. .以上のストー リーをまとめると,表 7 のようになる.表 7 は, 二大政党が参院二人区において行った戦略による 期待獲得議席数を,ゲームマトリックスで表した ものである.2007 年以前の参院選のようにプレ ーヤーが両党共に地方組織である場合,利得は表 7 の上の表が示す比例区での議席増+aが無いよう なペイオフマトリクスになり,均衡は(単数候補 者,単数候補者)となる.しかし,2010 年の民 主党のように中央がプレーヤーとなる場合は,表 7 の下の表が示すように,そちらサイドのペイオ フに比例区での議席増+aが加わり,均衡は(単 数候補者,複数候補者)となる. では,第 22 回参院選における複数候補者擁立, すなわち“小沢戦略”は成功したといえるのだろ うか. 複数候補者選挙区における(民主党の得票数の 合計)÷(自民党の得票数の合計)はすべての選 挙区で 100%~200%の間(最小で 101.58%,最 大で 172.95%)であったため,例えうまく票を 分割したところで,二人区独占の可能性はなかっ

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表 7 参院二人区における二大政党の複数候補者戦略 と期待獲得議席数 (太線は2007 年以前の参院選において各政党が行った 戦略を指す.) 1 1 1 1 1 2or1or0 1 0or1or2 単数候補者 複数候補者 自民党 (地方) 民主党(地方) 単数候補者 複数候補者 (太線は2010 年参院選において各政党が行った戦略を 指す.) 1 1+ a 1 1 1 2or1or0+ a 1 0or1or2 単数候補者 複数候補者 自民党 (地方) 民主党(中央) 単数候補者 複数候補者 たと考えられる. しかし,各選挙区で 1 議席ずつ獲得し,比例 区でも全国平均を上回る絶対得票率が確保できた わけで,党中央としては成功したといえるであろ う.自民党がほとんどの選挙区で候補者を 1 人 しか擁立「できないであろう」こと,第 3 政党 の力が弱かろうことなども,“小沢戦略”採択の 理由として織り込まれていたに違いない. 5. おわりに 本論は,政 党の視点 から, 複数候補者 擁立戦 略の効果を論じた.しかし,選挙において最も重 要なのは有権者である. 第1 節で示したように,参院二人区は M+1 法 則を達成しているようにも見えるが,M+1 法則 が想定するように,3 人の有力候補者が三つ巴の 戦いを行っている選挙区とはなっていない. 表 8 は,各年度の参院二人区における各政党 の 獲 得 議 席 数 を 示 し た も の で あ る .2004 年~ 2010 年の参院二人区において,当選した候補者 全員が二大政党のどちらかの公認または推薦を受 けており,そのすべての選挙区で二大政党が議席 を分け合っている.参院二人区は,二大政党が議 席を等しく分け合う,与野党の勝敗に関係の無い 選挙区となっているのが実態である. 表 8 参院二人区における各政党の獲得議席数 政党 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010 自民党 18 19 14 17 15 15 15 15 12 12 民主党 16 13 15 12 12 自由党 1 共産党 1 1 1 2 社民党 1 新進党 14 社会党 9 9 14 8 5 民主改革連合 2 護憲・ヒロシマの会 1 連合の会 1 民社党 1 公明党 1 新自由クラブ 1 無所属 1 1 2 1 合計 30 30 30 28 36 36 30 30 24 24 ※ 推薦を受けている無所属候補者は,獲得議席最大の政党の候補者と して数えた. 各選挙区に おける候 補者の うち,得票 順位が 二位(最下位当選)と三位(最上位落選)の得票 数を比較し,得票数の開きを考察することで,当 落線上で候補者が接戦となっていたのかどうかを みることができる.具体的 には,各選挙区での ( 最 下 位 当 選 者 得 票 数 ) ÷ ( 最 上 位 落 選 得 票 者 数)を計算し,パーセンテージで表示する.図 3 は,各年度の中央値 9) ま た , 図 4 は,得票順位が二位(最下位当 選)と三位(最上位落選)の得票数を比較した図 3 の折れ線グラフに加え,第 3 節で分類した単数 候補者選挙区と複数候補者選挙区のそれぞれにお いても各年度の中央値を計算し,折れ線グラフに よって表示したものである.全体の中央値と比べ, 単数候補者選挙区の中央値の方がさらに最下位当 を折れ線グラフによって表 示したものである.衆議院選挙制度改革以降,得 票数の開きが年々大きくなっていることがわかる であろう.特に,民主党と自由党が統合し,現在 の民主党の体制となった 2003 年以降は開き方が さらに拡大している.2010 年度の中央値が下が っているのは,一つの選挙区において複数の候補 者を擁立することで,二大政党のどちらかが 3 位得票となったためである. 9) 一部に完全無風区の選挙区があり,値が極端に大きい値と なっているため,中央値を代表値とした.

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選と最上位落選との間に得票数の開きがあること がわかる.一方で,複数候補者選挙区の中央値に は得票数の開きがあまりなく,衆院の選挙制度改 革の如何に関わらず,激しい選挙が行われていた ことが想像される. 図 3 参院選二人区における最下位当選の得票数÷最 上位落選の得票数 図 4 複数候補者・単数候補者別の最下位当選の得票 数÷最上位落選の得票数 選挙は議会 の構成を 作るた めに行われ るもの で,投票が政党の議席数に影響を与えなければ意 味がない.二大政党制を前提にすると,二人区で は独占を巡る争いこそが求められるが,それには 同一政党の複数候補者擁立が必要となる. しかし,二 大政党制 下の選 挙は政党対 政党の 戦いが自然なものであり,単記非移譲式投票制の 下では,“小沢戦略”に象徴されるような,同一 政党の候補者同士が争うという内部分裂を起こし うる形を採らざるを得ない.参院選挙区選挙の定 数の1/3 をしめる二人区は,大選挙区の中で最も 小さいとはいえ,政党対政党の戦いを大きく歪め ているのではなかろうか. 参考文献

Cox, Gary (1994) “Strategic Voting Equilibria under the Single Non Transferable Vote”, American Po-litical Science Review 88(3), 608-621

Duverger, Maurice (1951) Les parties Politiques, Li-braire Armond Colin(岡野加穂留訳 (1970)『政 党社会学』 潮出版). 堀内勇作・名取良太 (2007)「二大政党制の実現を阻害 する地方レベ ルの選挙制 度」『 社会科学研究 』58 (5, 6): 21-32. 蒲島郁夫編著 (2004)『参議院の研究』木鐸社. 川人貞史 (2004)『選挙制度と政党システム』木鐸社. Laakso, M. and R. Taagepera (1979) “Effective Num-ber of Parties: A Measure with Application to West Europe”, Comparative Political Studies 12, 3-27. 待鳥聡史・曽我謙悟 (2007)『日本の地方政治―二元代 表制政府の政策選択―』名古屋大学出版会. 待鳥聡史・曽我謙悟 (2008)「政党再編期以降における 地方政治の変動―知事類型と会派議席率に見る緩 やかな二大政党化―『選挙研究』24-1: 5-15. 西川美砂 (2003)「2001 年参院選における政党システ ムへの選挙制度の影響」『選挙研究』18: 12-25. Reed, Steven (1990) “Structure and Behaviour:

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Two-member Districts under a Two-party Sys-tem

Shun Ibaragi

For the Upper House election in 2010, the DPJ ran multiple candidates in most of the two-member districts. In this paper, we argue the mechanism of two-member districts and whether the result of, what is called, “Ozawa strategy” of the Upper House election in 2010 succeeded.

Chapter 1 shows that two-party members have occupied most of the seats in the Diet since the Japanese Lower House implemented election reforms in 1994, and the effective number of candidates of two-member districts in the Upper House in 2007 was 2.99―the only number to be lower than that projected by the M+1 rule.

In Chapter 2, we argue the effect of running multiple candidates in two-member districts of the Upper House and show one cost, both can-didates lose of a two-member district, and two benefits, monopolization of a two-member dis-trict and the influence on nationwide propor-tional districts.

In Chapter 3, we argue the possibility that a party runs multiple candidates. By the data of past elections in the Upper House, the possibil-ity that both candidates lose and a party mo-nopolizes two-member districts seems to have diminished more and more since the institu-tion of a two-party system. On the other hand, with regards to influence on nationwide pro-portional districts, a nationwide party can en-joy benefits by running multiple candidates in each two-member district.

Chapter 4 shows the reason why DPJ, not LDP, take the multiple candidates strategy and why it happens in 2010 and we argue whether

the result of, what is called, “Ozawa strategy” of the Upper House election in 2010 succeeded. It is said that the result of “Ozawa strategy” succeeded because the possibility of a party monopolization of a two-member district was low, DPJ, however, gained one seat in each dis-trict and the votes in a nationwide proportional district increased.

表 7  参院二人区における二大政党の複数候補者戦略 と期待獲得議席数  (太線は 2007 年以前の参院選において各政党が行った 戦略を指す.) 1 1 1 1 1 2or1or0 1 0or1or2単数候補者複数候補者自民党(地方) 民主党(地方)単数候補者 複数候補者 (太線は 2010 年参院選において各政党が行った戦略を 指す.) 1 1+ a 1 1 1 2or1or0+ a 1 0or1or2単数候補者複数候補者自民党(地方) 民主党(中央)単数候補者 複数候補者 たと考えられる.   しかし

参照

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