1. はじめに 鋼橋建設において, これまで鋼材の宿命であるさびの 発生による鋼材の劣化を抑制するため, 塗装など防錆 ・ 防食のメンテナンスが適宜行われている。 しかし, これ ら防錆 ・ 防食のための維持管理費の多くは塗装費用に 当 て ら れ, こ れ は 上 部 工 建 設 費 用 の 5 ~ 15% に も な る といわれている。 現在, 公共工事コストの削減が進むな か, 直接的な工事コスト低減に加え, ライフサイクルコス ト (LCC)1)2)3)の低減に取り組むことで, 総合的にコストを 縮減することが主流となってきている。 鋼 橋 建 設 に お い て LCC の 低 減 と い う 観 点 に た っ た と き, 鋼橋の維持管理における防錆 ・ 防食費用を低減さ せる必要がある。 そのため鋼材自体を改質することによ り防錆 ・ 防食性を高め, 無塗装で使用が可能な耐候性 鋼 材 を 採 用 し た 鋼 橋 建 設 が 多 く な っ て い る。 日 本 で は 1960 年 代 後 半 か ら 耐 候 性 鋼 材4)が 橋 梁 に 採 用 さ れ 始 めた。 し か し 耐 候 性 鋼 材 が 採 用 さ れ た 鋼 橋 で も, 緻 密 で 密 着性に優れ安定化したさび層の形成には環境の影響を 受けやすく, 架設後の点検 ・ 調査が必要である。 一部 では耐候性鋼橋はメンテナンスフリーであるという認識が あるが, このような管理を必要とするミニマムメンテナンス 橋である。 特に飛来塩分が多い地域では, 塩分付着に よる腐食が進行し続けるため, さびが安定化せず想定し ているさびとは異なるさび状態の橋梁も存在する。 この ように, 耐候性鋼橋が本来持った機能を損なわないよう にするためにも, 簡便かつ正確な点検 ・ 調査が求めら れる。 耐候性鋼橋の一般的な調査方法としては, 目視によ るさび外観評価法がある。 これはさびの粒径の大きさや 色調を評価基準として, 評価者が目視してさびの状態を 判 定 す る 方 法 で あ る。 こ れ は 簡 便 に 行 え る 調 査 方 法 で あるが, 評価者の主観により正確な評価をすることは容 易ではない。 2. さび外観評価レベルを基にした評価の流れ さび外観評価法の評価基準は 1 ~ 5 のレベル3)に分 類される。 まず, その事例写真を示す。 ここで, 評価レ ベルの良いレベル 5 から示す。 レベル 5 : さび粒子は小さく均一, 色調は明るい。 図 1 評価レベル 5 事例写真 ( 原稿受付 :2010 年 9 月 24 日 ) *建設環境工学科 **建設環境工学専攻 ***長岡技術科学大学建設工学課程
画像処理による耐候性鋼材の
さび外観評価レベルの判別方法に関する研究
杉田 尚男* ・ 野中 陳旭** ・ 野添 裕輔***Research on the Distinction of Weathering Steel's Evaluated Outward Level of Rust Using Image Processing By Hisao SUGITA, Noriaki NONAKA and Yusuke NOZOE
Abstract : The Weathering Steel with its properties of rust is resistant to atmospheric corrosion. Because of a rust layer produced on the steel is compact and stable. The steel using without coating is very economical and superior from the viewpoint of saving materials and energy.
However, the rust on Weathering Steel is influenced by the environment. Therefore it is necessary to inspect and examine the steel after construction. There is a evaluation of outward rust as the method. And the method is evaluating the rust from Level 1 to Level 5. But there are some points at issue of the method. It is that evaluation is changed by subjectivity of a person evaluating the steel.
In the present study, it proposed the method of distinguishing the rust appearance evaluation that used the picture processing as a technique for solving the problem.
レベル 4 : さび粒子は小さく均一, 色調は暗い。 図 2 評価レベル 4 事例写真 レベル 3:さび粒径は 1 ~ 5mm, 色調にばらつきがある。 図 3 評価レベル 3 事例写真 レベル 2:さび粒径は 5 ~ 25mm,うろこ状の剥離がある。 図 4 評価レベル 2 事例写真 レベル 1 : さび粒径は 25mm 以上, 層状の剥離がある。 図 5 評価レベル 1 事例写真 また, 評価レベルごとの基準を以下の表に示す。 表 -1 さび外観評価の評価基準 以上の基準から, さび粒径によりレベル 3 と 4 の間を 大 別 す る こ と に し た, 以 下 の 図 に 判 別 評 価 の 流 れ を 示 す。 図 6 判別評価の流れ 3. 画像処理の概要 (1) 画像平滑化処理 写真やスキャナによって取り込まれた画像には画像の 劣化が生じ, これを雑音 ( ノイズ ) という。 この雑音の中 でランダム雑音は以下の性質がある。 ・ 画面上のどこに雑音が乗るか不規則である ・ 雑音の大きさが不規則である さらに, 画像が撮られた状況によっても雑音はランダ ムに現れる。 画像処理を行ううえでこの雑音を取り除か なければ, 正確な処理が行えない。 また, 画像の中で隣り合った部分でも色の濃淡の差が 大 き い と こ ろ が で き る 場 合 が あ る。 特 に 雑 音 が 混 じ っ て いる場合は, それが顕著に現れる。 そこで,これらを取り除く方法として 3 × 3 メディアンフィ ル タ を 用 い た。 3 × 3 メ デ ィ ア ン フ ィ ル タ は, 対 象 処 理 画素のピクセルとその近傍 8 ピクセルの濃度のうち中央 値を求め, それを目的の画素の濃度とする処理である。 この方法は, エッジや線など重要な情報を失うことなく 雑音を除去できる。 また, 滑らかに変化するエッジに対 してはその形状を保存するなどの特徴がある。 そのため, 2 値化処理やラベリング処理の前処理として使用すると 有効である。 (2) 2 値化処理 2 値化処理とは, 濃淡を持つ画像の中から抽出したい 部 分 を 画 像 の 中 で 分 離 さ せ, 形 と し て 抽 出 す る 方 法 で ある。 これは, 得られた画像の濃淡情報をある閾値で区 分し,その部分だけを白としほかの部分を黒くすることで, 画像を 2 階調に変換するという処理を行うものである。 ここで本研究では, 閾値を求める際にヒストグラムを用
いた。 図 7 にその例を 示す。 下の図を 見ると, ヒス トグ ラムの谷になっている部分で閾値が決定される。 本研究 でもできる限り谷になる部分に注目した。 図 7 ヒストグラムから閾値を求める例 (3) ラベリング処理 ラベリング処理とは, 2 値画像上の連結領域に順番に 番号をつける処理のことをいう。 そして, その処理によっ て番号のついた特定の領域を抽出でき, まとまった複数 のグループができる。 特に, ラベリング処理後にその領 域のピクセル数がわかるため, 本研究ではさびの大きさ の抽出に利用する。 図 8 ラベリング処理の概要 本 研 究 で 用 い る ラ ベ リ ン グ 処 理 と し て, ラ ベ ル を 付 け る 画 素 が あ っ た 場 合 そ の 近 傍 8 画 素 を 走 査 す る 方 法 を 用いた。 この方法では, 対象画素の上下左右だけでな く斜めの画素も走査する。 これによって, 連結部分が円 状になっていて上下左右に連結画素が見つからなかっ た場合でも, 斜めの画素を走査することにより連結画素 を発見することができる。 特に本研究では, 連結画素で あ る さ び の 部 分 が ど の よ う な 状 態 で あ る か わ か ら な い た め, この方法が有効であると考えられる。 4. 平滑化処理の有用性 メ デ ィ ア ン フ ィ ル タ に よ る 画 像 平 滑 化 処 理 を 用 い て 特 徴 を 引 き 出 す。 例 と し て 評 価 レ ベ ル 1 の 画 像 平 滑 化 処 理による画像の違いを以下に示す。 図 9 評価レベル 1 の画像平滑化処理前 図 10 評価レベル 1 の画像平滑化処理後 画像平滑化処理により画像の雑音が取れ, 画像の明 暗がはっきりと現れる。 この処理を全画像に行う。 5. 判別基準値の検討 以下の図に, 閾値決定の根拠の一部である評価レベ ル 1 の RGB5)6)7)によるヒストグラムを示す。 図 11 レベル 1 画像の RGB ヒストグラム 図 11 を見ると, 90 階調の部分で赤と緑が谷になって いる。 ここから本研究では, 90 階調を閾値として 2 値化 処理を行った。 次に, 2 値化処理前後のレベル 1 画像を示す。 図 12 2 値化後のレベル 1 本研究ではこの画像を基に判別評価を行った。
(1) 判別評価の流れ① 画像にラベリング処理を行い, 結果を正規化した。 以 下の表にそれを示す。 表 2 ラベリング処理の結果 レベル 1 2 3 4 5 平均値 1.51 1.23 1.03 0.62 0.23 標準偏差 11.06 1.39 1.40 0.77 0.26 こ の 結 果 か ら, 大 き さ の 平 均 値, 標 準 偏 差 が 1 mm2 以下のものは, 色調による判別評価とした。 (2) 判別評価の流れ② さ び の 形 状 が 大 き く 不 均 一 な も の を 判 別 評 価 す る た め, レベル 1 ~レベル 3 をラベリング処理し, 結果を正 規化した。 以下の図にそれを示す。 図 13 大きさの平均値による判別基準 図 14 大きさの標準偏差による判別基準 これを判別の基準とする。 さび画像をさび粒子の形状により大別するための, さ び粒子の大きさに関する数値を示す。 表 3 さび画像を形状により大別するためのさび粒子の大きさの基準値 (mm2 ) さび粒子の 大きさに関 する値 平均値 最大値 標準偏差 基準値 1 6 1 これらの基準値により画像を大別する。 またこの基準値以上の画像では, 上に示したグラフを 用いて, 各値の間を比例配分し評価レベルを判別する。 (3) 判別評価の流れ③ さびの形状によって判別できないレベル 4 ~レベル 5 を, 色 調 の 違 い に よ っ て 判 別 評 価 す る た め, 彩 度 と 色 相のヒストグラムを比較した。 図 15 レベル 4,5 の彩度のヒストグラム 図 16 レベル 4,5 の色相のヒストグラム この結果から , 彩度の最頻値が異なり , 色相の広がり が異なっている。 こ こ か ら, 彩 度 の 最 頻 値 と 色 相 の 標 準 偏 差 を, 色 調 による判別の基準とした。 次の表にその値を示す。
表 4 色調による判別基準 3 4 5 16 28 59 37.3 34 24 レベル 彩度の最頻値 色相の標準偏差 また, 以下の図に判別のためのグラフを示す。 図 17 彩度の最頻値による判別基準 図 18 色相の標準偏差による判別基準 このようにして判別の基準を決定した. 6. 画像処理による さび外観評価レベル判別方法の流れ 画像処理の結果から得られた基準値を基に, 実際のさ び画像へのさび外観評価レベル判別方法の流れを示す。 図 19 さび外観評価レベル判別法のフローチャート ( 導入部分 ・ 大別部分 ) 図 20 さび外観評価レベル判別法のフローチャート ( レベル 5 ~レベル 3 判別 ) 図 21 さび外観評価レベル判別法のフローチャート ( レベル 3 ~レベル 1 判別 ) 本研究ではこのような流れで, 実際のさび画像に対し てさび外観評価レベルの判別方法を提案する。
7. 結論 ・ 本研究では, 画像処理によるさび外観評価の判別方 法を提案した。 ・ ここまでで得られた結果から, 画像処理を用いたさび 外 観 評 価 判 別 法 は, 耐 候 性 鋼 材 の 点 検 ・ 調 査 の 方 法として客観性を高める点で有効である。 ・ しかし, 今回得たデータのみによる計算では, 結果に 偏りが出る可能性がある。 ・ また, 本研究で扱ったような特に暗い画像では, 結果 に乱れがあり, 正確に評価できない場合もある。 以上が, これまでの結果から得られた本研究の結論であ る。 8. 今後の課題 本 研 究 で は, 限 ら れ た デ ー タ か ら 基 準 値 を 出 し 評 価 の判別を行ったが, これらのデータだけでは正確な評価 が行えない場合がある。 そこで, 今後の課題としては, 多くのデータを検証し, より正確な評価レベルの判別を可能とすることであると考 えた。 また, これを用いて耐候性橋の点検 ・ 検査を実際に 行い, どの程度確実性や実用性があるかという検証も今 後の課題である。 さらに, 本研究で用いなかった基準値を基に評価レベ ルを判別することで, どのような違いがあるのか検証する ことも必要である。 参 考 文 献 1) 北原武嗣, 出雲淳一, 栁貴之 : 横浜市近郊の耐候 性鋼橋の腐食環境と腐食状況に関する現地調査, 鋼 構造年次論文報告集第 13 巻, 2005 2) 国土交通省 : 「公共工事コスト縮減対策に関する新行 動指針」 及び建設省新行動計画の概要, http://www.mlit.go.jp/tec/cost/cost/koudou/5kisya-sin1.gai2.htm, 2000 3) ( 社 ) 日本鉄鋼連盟, ( 社 ) 日本橋梁建設協会 : 耐候 性鋼の橋梁への適用 ( 解説書 ), http://www.jisf.or.jp/bridge/pdf/tai.pdf 4) ( 社 ) 電力土木技術協会 : 技術用語, 耐候性鋼材, http://www.jepoc.or.jp/tecinfo/tec00035.htm 5) 八木伸行, 井上誠喜, 林正樹, 中須英輔, 三谷公二, 奥井誠人, 鈴木正一, 金次保明 : C 言語で学ぶ実践 画像処理, オーム社, 1992 6) FEST Project 編集員会 : 実践画像処理, ( 株 ) リンクス出版事業部, 2001 7) 片平昌幸 : 基本的な画像処理手法について, http://www.mis.med.akitau.ac.jp/%7Ekata/image/ indexj.html