恩送り 中垣芳隆 新しい年が明けました。今年は卯年、平成に入っての沈滞したムードを一掃するような、 心が跳ねる年であればと願います。 ここ数日ピーターラビットならぬタイガーマスクさん達の慈善行為が報道されています。 新聞各紙の社説にも、中には政治家批判の道具に利用しているものも見受けられますが、 おおむね好意的に取り上げられています。一つの小さな火がつぎつぎと分火し、あたかも 燎原の炎の様相を呈し、旬日を待たず、昔懐かしい矢吹錠さんや伊達政宗さん、坂本龍馬 さん、果ては肝っ玉かあさんまでが登場とは何となくおかしく心温まり、思いがけず新年 のお年玉をいただいた気持ちがします。ふと、高校生の時に読んだ「春宵十話」の著者で 数学者の岡潔先生の次の言葉が頭をよぎります。「人の人たるゆえんはどこにあるか。わ たしは一にこれは人間の思いやりの感情にあるとおもう。」 タイガーマスクさんのメッセージの一つに「君たちが20年後に世の恵まれない子供たち にお返しをしてくれれば・・・」とあったようです。思いやりの気持ちが次々と世代を越 えて繋がれていく、「恩送り」という言葉、今日では膾炙されることはありませんが江戸 の時代にはよく使用されていたとか。 ひるがえって私たちの教職という仕事に引き寄せてみれば、労働者か聖職かという議論 を離れて、授業の中で、また授業外においても、次のまたその次の世代に「生きる上で欠 かすことができない何か」を一人一人が送り伝える責を負うているように思います。 本学の教職課程を履修している学生達に、今まで教えを受けた先生で記憶に残る先生は と問うと、「親身になって相談に乗ってくれた先生」、「授業のわかりやすかった先生」 等々、中にはエピソードを交えて、いかに彼女たちの考え方、生き方に影響を与えている かを話してくれます。 同じ問いを我が身に問いかけますと小学校の1,2年生時の担任の先生が心に浮かびま す。高等学校卒業まで自然豊かな牧歌的な奈良市で育ったのですが、夏の暑いある日、友 達と二人で佐保川の辺りのたんぼでおたまじゃくし集めをして遊び、バケツに随分と集め、 それを先生にプレゼントしようと旧家のご自宅に持って行ったことがありました。 腕白坊主二人の始末におえないプレゼントにきっと戸惑われたことと思うのですが、先 生は冷蔵庫からアイスキャンデーを二人にくださり、「暑いのに、沢山集めてた持ってき てくれたのね。ありがとうね。もうじきカエルになりそうな子たちは大丈夫ね。でも残り の小さい子たちのお母さんは心配してないかしらね。」と言って、大きめの数匹を庭の池 に放ち「あなたたちが持ってきてくれたこの子達は先生が大事に大きくするね。」 その後、二人を伴い、先ほどのたんぼで「さーお母さんのところに気をつけて帰るのよ。」 と残りのおたまじゃくしをバケツから放たれました。 もう亡くなられて随分の歳月が経ちますが、天国でもやはり教鞭を取って腕白坊主に教 えを伝えておられるのでしょう。
DSpace at My University: 英語教育リレー随想 12号(2011.1) 恩送り
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