アルカリろ紙法による京阪神地域を主とする近畿地方大気汚染状況の調査(第8報) 1985年-1988年における汚染成分量の変動

アルカリろ紙法による京阪神地域を主とする

近畿地方大気汚染状況の調査(第

8

報)*

1985

年一

1988

年における汚染成分量の変動

安 田 博 幸 ，

井 上 美 由 紀 ， 井 村 由

(武庫川女子大学薬学部)

森

真由美

M

e

a

s

u

r

e

m

e

n

t

o

f

N

i

t

r

o

g

e

n

D

i

o

x

i

d

e

s

i

n

t

h

e

A

i

r

o

v

e

r

t

h

e

K

i

n

k

i

D

i

s

t

r

i

c

t

by t

h

e

F

i

l

t

e

r

幽

p

a

p

e

rM

e

t

h

o

d

.

"

'

唖

.

A 1

9

8

5

-

1

9

8

8

S

u

r

v

e

y

.

Hiroyuki Yasuda

，

Miyuki Inoue

，

Yumi Imura and Mayumi Mori Faculty 01 Phαrmaceutical Scien

c

.

ω，

Mukogawa Women's Universi汐，Nishinomiya663， Japan.

Nitrogen dioxides in "the air over tte Kinki district (Japan) was surveyed by the K2COγcoated filter paper method to study the status of air pollution during the period

1985-1988.

The degrees of pollution were expressed in mg/day/100 cm2 and presented in graphs. Pollution by Nitrogen dioxides has genera11y remained on the same level since 1985.

緒 言

当研究室長が本調査研究に取り総んで以来，すでに 20年が経過した. 1960年にスター卜した所得倍増計爾を国是とする この溺の高度経済成長は， 10年間でさ長婆都市閣を公 害の慈と化した.そのとき，狂気的なこの閣の悲しむ べき姿を，大気汚染の数鎖的グラフとして記しとどめ て，愚かなわが

t

佐代の反省の碑(l、しぶみ)として残 すべく， 1969年にわれわれはこの調査を始めたので あった. 1970年代にわが公譲先進国は，一転して公害紡止 先進国への転身を行った.すなわち，政府主導の各種 の強力な汚染妨止策の実施とともに 2度の石油ショ ックによる民間の省エネノレギー努力の甲斐あって，こ

*

(第7報):武態JII女子大学紀要(第33築)薬学編所収 の国の大気汚染は，近年，ょうやく一定値にi以来した かの綴がある.これは，われわれのこれまでの近畿地 方の各地のSOx' NOz

l

設の変動調査の結果ともよく 一致している.ただし，この一定値は，大都市聞にお いては， r環境白書~ (環境庁編，昭和 61~63 年度版) の期待する値をこえた，住民の健燦維持が保証される 一定値ではなく，なお，疾患発生の引き金になりうる 危険値であるところに問題がある. この現実に深い憂いを抱きつつ，今問，ここに， 1985年1月から， 1988年12月までの4年間にわた る，近畿腐の皇室素酸化物 (N02)盤についての測定調 資の結果を考察所見とともに，第8報として報告す る. なお，従来継続してきた硫黄菌室化物(SO，)盤に関 する調査結果は，ベージ数の都合で今回併裁できなか ったので，別の機会に報告したい. η ノ ω

持させた5cmx13cmの東洋ろ紙 No.526のろ紙片を 1 ヶ月間百葉箱中，または，その施設のない一般家庭に あっては溺露のかかり難い軒下に懸まをして，大気中に 爆した後，閲収し，その5cmxlOcmの雨簡に捕祭さ れた，酸性カゃスを水で抽出し，一定畿に希釈したもの を測定用検液とする.この検波を用いて，祭素酸化物 (N02)についてのスノレファミン塩鮫とナブチノレエチ レンジアミンによる翠色を波長530nmの光で吸光度 を測定し，標準淡度液の吸光度との比較から算出式に より，察素酸化物N02設を ，mg/day/lOOcm2として 算出する.この鎮の大小は，その訊JI定地の大気汚染度 の大小を示唆する.

測定結果

以下に金測定地の測定結泉を地域的に大，'djlして， N02'設:l(mglday 11OOcm2)対測定月のグラフに図示 する.スケーノレは第1報1)以来一定にしてあるから， これにより，同一地域内，および他地域間との比較も 関瞭然であり，既報ト7)との比較対照、もただちに

灘定地

浪Ij定地はこれまでの報告1-7)とほぼ問じく，大板 市，尼崎市を中心地域として，商から兵庫燥姫路市， 明石市，淡路島，神戸市(兵隊区，東灘区)，芦屋市， 商宮市，宝塚市，伊丹市，大阪府議中市，吹岡市，泉 南郡IP甲町，京都府京都市(北区，右京区)，奈良県奈 良市(東部，中心部，筒部)，極原市，生駒市および 滋賀県草津市にまでわたっている.なお，事情により 今沼から，奈良県の山地部で、あるE吉野郡下市町は宇陀 郡菟間野町に変更し，極原市は途中より大和高岡市へ と，一部で測定地を変更したところがある.又前報7) にはなくて，今回，新たに調変に加えた地点は，加古 川市，寝震川市，守口市，茨木市，高槻市，東大阪市， 堺市である.測定地の選定についての配慮は前報まで と悶じである.

測定法

これまでと向じく，福井昭三氏の開発したアノレカザ

滋賀県

/ ・ 1 J ¥ ﹄ 〆

f

'

¥

t

，

i

O

宇陀

京都府

、

.

、

・

J

・j

・

¥

f

0

・ 奈 良 東 部

、

_O

奈良中央 ﹂

O

奈良西部

O

大和高田 、 ¥ 、

J

ハ

O

生駒 J

・

4 1

_・

¥

/

・

1

・ } ，

i

，

1

・

1

・

_K バ 堂島小

F

s

d

f

け ホ ト f 判 明 ﹀ 県

l i l y

，山

)

歌

f

和

/

に

﹁

ぬ 回 A V

O

草 津

L

.

h /

できるようになっている.

奈良県

0

北 区

1

0

右京区

i

ろ紙法8)を採用した.すなわち，炭酸カザウムを保

兵庫県

測定地所在地図 Fig. 1.

1. 京都府・滋賀操下各地での測定値 N02 …Oー 京 者11~ヒ(京都市北区紫野) イ診-Ji¥者1511京(京都市右京区太秦) 合藷ー滋賀主主漆(業湾市上笠) 0.1 山 口 U C C H ¥ h M W P ¥ 司 E 10 11 12 9 8 7 6 5 4 3 2 10 11 12 1 fl 9 8 7 6 5 4 3 2 月 1986年 1985年 Fig.2-a. NOz 0.1 百 U O O 円 ¥ h d ω 唱¥由 E 10 11 12 9 6 7 8 5 4 3 1988年 2 10 11 12 1 月 9 8 7 6 5 4 3 1987年 2 月 イ〉一生 駒(生駒市生駒合) 『⑧ー奈良残部(奈良市あやめ池) τ斗ー奈良中央(奈良市近鉄奈良尾R前) 「配奈良東部(奈良市衛畑町) ベ吋怒 鼠(樹原市中間町→久米町) 大和言語Hl(大和語道沼市本絡調Tl 一鰯ト宇 陀(宇陀郡吉転倒聖子町) Fig. 2-b. 2.奈良県下各地での測定値 N02 0.1 山 口 U C C 門 ¥ h d ω 司 ¥ 担 保 町 10 11 12 9 8 7 6 5 4 3 2 10 11 12 1 月 Fig.3-a. 9 8 7 6 5 4 3 2 月 1986年 1985

i

F

NOz 0.1 引 き CG ぐ な ぞ 申 E 10 11 12 9 8 7 6 5 4 3 2 10 11 12 1 月 9 8 7 6 5 4 3 2 月 1988年 Fig. 3-b. - 23-1987年

3.大阪市(新淀川以東)の学校での測定鎖 N02 0.1 百 円 ﹀ CC 円_¥ h 何 一 以 ¥ 回 目 出 10 11 12 9 8 7 6 5 4 3 2 10 11 12 1 月 9 8 7 6 5 4 3 2 月 1986年 1985年 Fig. 4-a. 4.大阪市(新淀川以西)の学校での測定値 N02 0.1

o

_o Cコ 伊 . . ， 、¥ 〉、

'

"

"0 、¥ i? 10 11 12 9 8 7 6 5 4 3 2 10 11 12 1 月 9 8 7 6 5 4 3 月 1986~ 2 1985年 Fig. 5-a. 5.兵康県下各地での測定値(1) N02 0.1 " g u c c 円 ¥ ヘ 円 必 唱 ¥ 四 E 9 8 7 6 5 2 10 11 12 1 月 9 3 4 1986年 Fig.6-a. 8 7 6 5 4 3 1985年 2 月

ベ〉大阪市志向屡小学校 (大阪市此花区島屋) 一@大阪市立伝法小学校 (大阪市Jlt花区伝法) -Q一大絞市立金島小学校勘;(大阪市北区堂尚北町) N02 0.1 町 民 U O O 円 ¥ h z v ¥ 問 自 10 11 12 9 4 3 2 10 11 12 1 月 9 8 7 4 3 2 月 1988年 1987年 Fig. 4-b.

べ

Cト大阪市立出来島4、学校(大阪市商淀川区出来島) イ麹一大阪市立総 史小学校(大阪市頭淀川区飯泉) -0-11:.崎市立枕 j額小学校(尼崎市杭綴町) イ多ー尼崎市立開 明小学校(尼崎市防明) ゼト武廠JII女子大学薬学部(西2富市校)11間

n

N02 0.1 M E C C H ¥ h c -Y ¥ m E 1988王手 1987年 Fig. 5-b. N02 ゼミー持経(芦際市政

F

当今度) ベロー宝塚(宝塚市中筋山手) ベD-尼崎(尼崎市昭和巡り街道 2号線沿) ー 争 伊 丹 ( 伊 丹 市E吉野) す翠ー西宮(iJ!i宮市川!京町i潟i車道路仰1]) 0.1 窓 口 O 円 三 忍 ¥ 明 器 10 11 12 9 8 7 6 5 4 3 1988年 2 月 10 11 12 Fig. 6-b. - 25-9 8 7 6 5 4 3 1987年 2 月

6. 兵庫県下各地での測定値 (2) N02 0.1

N E

g H

¥

な 司 ¥ 四 祭 9 3 4 6 7 8 9 10 11 12 1986年 2 月 10 11 12 8 7 6 5 4 3 1985:ド1 2 月 Fig. 7-a. 7.大阪府下各地での測定値(1) N02 0.1 山 口 UCC 円 ¥ h M H 句 ¥ 申 告 4 3 2 10 11 12 1

R

9 8 7 6 1986:三9 5 4 3 1985年 2 月 Fig.8-a.

8

.

大阪府下各地での測定鐙

(

2

)

N02 0.1 日 5 0 0 同 ¥ h d u 旬 ¥ 四 日 10 11 12 9 8 7 6 5 4 3 2 10 11 12 1 月 9 8 7 6 5 4 3 2 月 1986年 Fig. 9-a. 1985年

N02 (妓路市北条) (明石市二見田

T

-

+

明石市大久保町) (神戸市兵摩区荒出町) (神戸市東議室区魚崎) (洲本市物部→三原郡緑町) (加古川市尾上町) --0-姫路 ...明石 1ケ 神 戸 吋 色 ァ 神 戸 ベ 〉 淡 路 島 イ沼ー加古川

3

i? 10 11 12 9 8 7 6 5 4 3 1988年 2 10 11 12 1 月 9 8 7 6 5 4 3 1987年 2 月 一0-重量 中 (霊堂中市庄内幸語

n

イ勢一吹 国(吹関市千黒山→吹El3市i宰警合) ベコ一郎 (泉南君~I鞠町) イ翠ー守 口 (守口市大盟主国

n

つ傘「大阪市内高速道路下(北区商天溺) ベ子大阪市大正区(大正区泉尾) Fig. 7-b. N02

出

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月 月 0.1 日 5 0 0 H ¥ h 2 v ¥ 問 自 1988年 Fig. 8-b. 1987年 ベ 〉 茨 木 ( 茨 木 市 中 河 原 町 ) →診ー i高 機(/l話機市お古代-'1番目

n

ゼミー草案髭JlI(筏E塁打l市番泉北之町) 〈子一東大阪(東大阪市三島) 必審ー堺 (堺市深井沢町) N02 0.1 日 8 0 0 H ¥ h M H_唱¥聞 E 10 11 12 9 8 7 6 5 4 3 1988年 2 10 11 12 1 月 Fig. 9…b. 門 J S η /旬 9 8 7 6 5 4 3 1987年 2 月

考察と結語

近畿地方，とくに，奴神間の大気汚染の現状は，い まなお大阪地裁法廷で係争中の大阪・商淀川公害訴訟 に象徴される.N02をIB環境纂準(日平均 0.02ppm)， 浮遊粒子状物質を環境基準(lni'さ怒り日平均O.1Omg)， 80₂を環境基準(日平均 0.04ppm)な超えて排出しな いよう，国，阪神高速道路公罰，企業10

f

1:に求める 伎民原告側の提訴は，第一次(1978年 4月)，第二次 (84年 7月 )，第三次 (85年 5月)を合わせ，原告総 数は725人に及ぶ.j&淀川公害訴訟は，工場だけでな く幹線道路も大気汚染の懇玉として，追及している点 に今日的窓味がある. 12年の長期にわたったこの裁 判も本1990年結審し，同年秋には，判決が下る予定 である.一方，われわれのこの20年間の潟支をにおい ても，当初の確認隠擦とした

1

奴神間小学校の大気汚染 の劣悪さが，他地域と比べていかにきわだっているか が，終始記録され続けてきた.われわれは，深い思い をもって，判決を注視したい. いま，経済発援と背中合わせの環境劣化が，全国的 にひたひたと進行中であることと，交通事故死亡者数 が再び年間1万人を超えて，なお増加しつつある事実 とは，決して無関係ではなく N02汚染もまた，当 然それとの連動の結果に外ならない. わが国の車社会は，もはや歯止めのきかない暴走傾 向にある.閣は福祉思家を

a

賛する前に，この王手社会 の渓状に速やかに抑制のための思い切った手をうつべ きである.さもなくば，“一絡 (=企業)功成って寓 骨(口住民)枯る"の諺通り，この国の人達の潜在的 体力疲弊による協力の慢性的減衰の恐ろしさは，速か らず顕在化するのではなかろうか.事社会の健全な制 御こそわが国の命還を決する一大目標であると考え る.

謝 辞

本調査に熱心に協力された本学薬学部学生，谷口弘 美，宮本呂美，幸絢子，松本美左子(以上第21期 )， 大関家予，木村出番奥，谷崎京さを，古家とし子(以上 第22期 )，小早川底:子，中

J

I

I

浄惑(以上第23期 )， 明河孝美，角 真紀子， E日中雅子(以上第24期)の 諸君主の労に謝窓を表するとともに，測定地点を援供し てご協力下さった，大級市立堂島小学校，向島屋小学 校，

I

湾出来島小学校，悶伝法小学校，向姫里小学校， 尼崎市立杭瀬小学校，間関明小学校の各御当局ならび に橋本洋子，刻近和子，熊谷幸子，何回弘子，向井恵 子，外山容子，東裕子，本郷佐代子，清水聡，有馬 一夫，西山孝次，安田勝幸，岡際哉，安東明美，上 野世主喜子，今出あい子，芦分靖子，佐藤智子，柴問主喜 代子，山本京，野入尊子，木戸元得，土井礼子，堀山 志朱代，木村宏、浮潟，桜井利江，稲葉慈子，浅井耀子， 鳥越博子の諸氏のご厚慈:に深く感謝致します.

文 献

1)安国博幸，何本洋子，武庫川女子大学紀聖書(自 然科学編)， 18， 329-341 (1970). 2)安田博幸，岡本洋子， i湯本美和子，武庫川￨女子 大学紀要(薬学編)， 20-21， 15-23 (1973) . 3)安田博幸，湯本美和子，橋本洋子，武摩川女子 大学紀委(薬学綴)， 25， 45-60 (1977). 4) 安田 f尊重~，井口裕子，武庫川女子大学紀要(薬 学綴)， 27， 63 -73 (1979). 5) 安問除、宗，井上美由紀，弁口裕子，武庫川女子 大学紀要(薬学編)， 29， 15 -24 (1981). 6) 安田博幸，弁上美由紀，武庫

J

I

I

女子大学紀婆(薬 学編)， 31， 29-39 (1983) . 7) 安 EB博幸，井上美由紀，武庫}II女子大学紀重要(薬 学編)， 33， 43-53 (1985). 8) 福井昭三，分析化学， 12， 1005-1011 (1963).