要旨:筆者は、神戸ファッション美術館との学館協同事業の一つとして、復元研究を行い、細部にわたって計測をした 第一次資料を基に、第二次資料および構成図を作り、実物ドレスの制作を行った。 本論文では、18 世紀中葉の衣服制作の技術的な変遷を解明するために、制作時期が、およそ 10 年離れているとされ る 2 体の復元したドレスについて、裁断と縫製などの衣服制作技術について、比較検討を行った。 ドレスは、布地が手織りの織物で作られているため、縫製段階で、「ねじ曲げる」「折り目をずらす」などの工夫がさ れていた。例えば、腰の膨らみを強調するために、手織りの織物の特性である独特の打ち込みの甘さを用いて、「ねじり」 を入れ縫うことにより、元に戻ろうとする糸の力を用いて、布地を押し上げ膨らみをもたせるなどの技術や、織り布を 倹約するための「布テープ」によるほつれ止めの手法の発達などがあげられる。ドレスの復元制作の過程から、18 世紀 中葉の衣服製作の技術の変遷を考察した。 キーワード:縫製、裁断、技術、ローブ・ア・ラ・フランセーズ、ルトゥルーセ・ダン・レ・ポッシュ、 1.はじめに 筆者は、神戸ファッション美術館と学館協働事業と して、フランス宮廷衣装の復元研究をしている。復元 研究として、18世紀フランスの宮廷衣裳のドレスの計 測を行い、第二次資料の制作を行った(1)。本論文で は、この第二次資料を用いて、フランス宮廷衣装の ローブ・ア・ラ・フランセーズの復元制作を行った際 に、現代の衣服製作の方法理論では理解できない点が 多くみられた。そこで、布の裁断方法や縫製の技術に ついて、考察する。 2.ローブ・ア・ラ・フランセーズの技術調査 2-1 生地の裁断に際しての考慮点について 復元制作を行う第一次資料であるドレスは、1770年 に制作されたとされるローブ・ア・ラ・フランセーズ で、ドレスの採寸技術および縫製技術の調査を行っ た。この生地は、美術館資料に1740年から1750年ごろ に織られたとする記載があり、グリーン地の花模様の カヌレ織りである。ドレスの装飾は、共布のフリルと 数種類のフライフリンジが用いられ、さらに花模様の 上に刺繍が施された精緻なドレスである。 2-2 裁断方法 見頃の布地方向は、縦糸方向の「縦布目」に裁断さ れていたが、袖部分は、布地を横に用いて、「横布 目」に裁断されていた。図1のように、花模様は、左 右対称に紋様が合うように縫製され、白い大きな花が 全体にバランスよく配置されていた。 また、後ろ見頃に縦にたたまれた襞のヴァトープ リーツと呼称される部分は、紋様が左右対称になるよ うにされていた。このことから、紋様配置を重視し て、裁断を行っていたと推測された。 例えば、胸元の紋様のS字曲線が、上腕部のこのS字 曲線に連続するように裁断されていた。 また、胴体から袖部分にかけて、真横から見た際 に、上腕部に白い大きな花模様が連続した紋様になる
18世紀のフランス宮廷衣裳の復元研究
―縫製技術について―
学芸学部 被服学科 伊豆原 月絵
図1 マネキンに着装させたドレス・後ろ部分 大阪樟蔭女子大学研究紀要第1号 研究論文ように紋様を揃えた布を用いていた。 以上のことから、裁断に際しては、紋様配置を第一 に考慮して制作されたといえる。 2-3 立体裁断の方法 裁断に際しての留意点は、紋様が途切れることなく 連続して配置できるように考慮されていることがわ かった。また、紋様を左右対称に合わせながら、織り の耳部分のみを縫い代にして、2枚の布を縫い合わ せ、背中のヴァトープリーツ部分を折りたたんでいた ことがわかった。 裁断された布は、合計8枚あり、左右の脇には、ウ エスト部分まで「三角まち」を挟んで接ぎ合わせてい た。 ドレスの採寸を行い、第二次資料を作成したが、実 際に構成図(以下パターン)を作成する際に、細かな 部分で、不明点がでてきた。 現代用いられているパターンの多くは、人体に合わ せて、立体裁断という方法を用いて作られ、それらの 資料を数量的に平均し、一般的な人体に合うように作 られている。現代のドレス制作者は、それらの基本的 なパターンをもとに、それぞれのデザインに応じて、 パターンを補正して制作している。 現代のパターンは、主に衣服の構成を平面に近づけ て、それに、襞やダーツ、切り替え線などをいれて、 縫製すると、立体になるように考慮されている。しか し、この復元したドレス制作の場合、次のような布の 裁断方法をとったと考えられる。 最初に、布を柄に合わせて長方形に接ぎ合わせる。 次に、人体にこの布をあてて胴体のドレスの部分の大 まかな形状に裁断を行ったと考えられる。 前部は、胸あてに相当する逆三角形の形の、スト マッカーを下着であるコルセットにとめて、CB(背中 心)を直接、人体に合わせて、後ろ見頃側から前に包 み込むようにして、前身頃に縦長のダーツを紋様に合 わせながら、たたんでいったと思われる。 また、前身頃の足りない部分は、残布を使用して接 ぎ合わせていることがわかった。 脇部分は、ウエストまでを体にフィットするように 布をつまんで、人体にあわせ、裁断していたと思われ る。 スカートの横脇部分は、体に合わせて左右から襞を たたんでいたと思われる。 袖は、前身頃の延長を、胴体部分の脇をとおり、後 ろ見頃にとめつけて、袖付け口であるアームホールを 作っていた。 3 縫製の方法 3-1 ローブの縫製について ローブの見頃の脇の縫い代は、およそ40㎜ほどの余 分をとって裁断され、縫い代部分の始末は、「くるみ 縫い」にされていた。 左右の脇の「三角まち」の前見頃側は、ポケット口と して口が開けられ、縫い代は三つ折りにされて、縫い とめられていた。 ポケット口より上部30㎜の位置で切り込みが入れら れていた。 また、切り込みより下のスカート部分では、襞がた たまれているが、縫い代部分は、見頃に縫いとめられ ていた。 ローブの裾部分では、後ろより前に向かって裾丈が 短くなっているが、裏の処理は布を裁断せず折り込ん で縫いとめられていた。 肩の部分から、バストの位置にかけても、布が裁断 されずに、布をつまみ、斜めに折り込まれ、縫いとめ られていた。 後ろ衿ぐりの部分は、台形の布で「くるみまつり縫 い」でとめられていた。 共布のフリル装飾には多くの接ぎ合わせがあるが、 縫い代は裁断されたままの状態で、タックが寄せら れ、ところどころ縫いとめられていた。 図2 実物ドレス裏のタック部分 4 ルトゥルーセ・ダン・レ・ポッシュについて 4-1 生地について 次に、復元研究として、1780年に制作されたとされ る図3のローブ・ア・ラ・フランセーズのドレスの採 寸および調査を行った。このドレスは、着装方法とし て、ローブの腰から下の部分をからげて膨らませて着
装する、ルトゥルーセ・ダン・レ・ポッシュ(1)として も着装が可能である。 生地は、ストライプの間に小さな花柄を配した 「絣」、または、「解し」で、シネ・ア・ラ・ブラン シュ(2)と呼称される(以下、このドレスについてシ ネ・ア・ラ・ブランシユと呼称)。このドレスの装飾 は、共布のフリルが用いられ、胸元にはボビンレース が装飾されていた。 図3 シネ・ア・ラ・ブランシユのドレス 4-2 裁断方法 見頃の布地方向は、縦糸方向の「縦布目」に裁断さ れていたが、袖部分は、布地を横に用いて「横布目」 に裁断されていた。 袖部分は、袖の中間から接ぎ合わされていた。 特に美意識をもって紋様を左右対称に揃えたという 様子はみられず、布の有効利用を第1に配慮して制作 されたと思われる。 4-3 立体裁断の方法 特に紋様の配置に配慮している様子もないことから 鑑みると、着用者の身長に合わせて、ドレス丈を決め て、紋様を適宜合わせながら合計6枚に裁断されたと 思われる。 織りの耳部分を用いて縫い代とし、花紋様を揃え て、まず2枚を縫い合わせ、ヴァトープリーツ部分を 折りたたんでいた。 残りの4枚を縫い合わせていく際には、左右の脇部 分はウエスト位置手前まで縫い合わせて、CB(背中 心)を直接人体に合わせて、体を前に包み込むように あて、前身頃に、縦ダーツをたたんでいったと思われ る。 前身頃布と後ろ見頃布を合わせ、ウエストの位置 で、ウエスト手前までを、ほぼ水平に切り込みを入れ てあった。 ウエストにフィットするように見頃部分の布をつま み、裁断してあった。 袖は、前身頃の延長を、後ろ見頃にとめつけて、 アームホール(袖付け口)を作り、見頃布の内側に縫 いあわされていた。 4-4 縫製の方法 縫い代部分は、別布のテープで覆われ、図3のよう に、隠されていた。 また、ローブの見頃の脇の縫い代は、10㎜ほどの幅 に裁断され、縫合されていた。 図4 鉤留めと布テープを用いた前合わせ部分 また、脇から後ろにかけては、前見頃との間に別布 をはさみ込んで縫いつけられていた。 スカートのウエスト部分は、ほぼ水平にウエストに 向かって裁断され、特に始末をせずに、そのまま内側 に折り込まれていた。 折られた縫い代には、布テープを通すための隙間を 開けて、およそ3㎜間隔で「並縫い」されていた。 ウエスト部分では間際まで切り込みが入れられ、別 布のテープを縫いつけてあり、縫い代が覆い隠されて いた。 布テープは、見頃とスカートの境の位置の裏側に、 縫いとめられていたが、縫い合わせる際に、強引に、 はさみ込んで縫いつけられていた。 ローブ裾部分では前に向かって短くなっていたが、 裏の裾には別布があてられているため、縫い代の始末 を確認することはできなかった。しかし、別布の内側 に深く折り込まれている様子は、みられなかった。 袖は横布目で裁断され、途中に接ぎ目があるが、裏 には別布が縫いとめられているため、こちらも、縫い 代の状態は確認できない状態であった。
5.復元した 2 体のドレスの比較 5-1 裁断方法の比較 ローブ・ア・ラ・フランセーズについては、紋様に 配慮して、裁断が行われたと思われるが、シネ・ア・ ラ・ブランシユについては、縞模様で、小花であるこ とから、裁断の際の「柄あわせは」には、時間を要し ていないと思われる。 図5 ローブの脇、紐でギャザーを寄せている 5-2 ドレスの生地の必要尺について ローブ・ア・ラ・フランセーズでは、ローブの脇部 分を人体に合わせて立体で裁断し、襞を寄せるため に、裁断段階では、布を多めに用意する必要がある。 しかし、シネ・ア・ラ・ブランシュでは、耳以外の縫 い代は、見られず、布をほとんど裁断することなく、 図5のように紐でギャザーを寄せる方法をとってい る。したがって、布を最小限に抑えることができる。 また、袖部分については、両ドレス共に袖は布を横 地に用いて横布目に裁断されていた。 これは、縦布目で裁断するよりも横布目で断裁する 方が、生地の使用量は最小限に抑えられる。 また、シネ・ア・ラ・ブランシュについては、両袖 ともに、縦布目で、約300㎜の布を裁断し、途中で接が れていることがわかった。 5-3 縫い代についての比較 ローブ・ア・ラ・フランセーズの縫い代は、「織り の耳」部分を用いていたが、シネ・ア・ラ・ブランシ ユは、布テープを用いて、「まつり縫い」を行い、裁 ち端を隠すように処理されていた。 ローブ・ア・ラ・フランセーズでは、長方形に裁断 された布をそのまま使用し、衿ぐりや、前裾の部分 は、裏に折り上げて縫いつけられていた。 6 縫製方法の比較 1.両ドレスともに、背中の後ろ見頃では、ヴァトー プリーツをたたんでいる。2.縫製工程は、最初にプ リーツを折ることから始められていると考えられる。 しかし、後ろ見頃の裏は、1.グリーンドレスで は、後ろ見頃の裏には別布はなく、ダーツと襞をたた むことのみで体に沿わせられていた。2.布の接ぎ合 わせについては、どちらも耳部分を縫い代とし、縫い 代は割られていた。3.シネ・ア・ラ・ブランシユで 図6 重ねて折り込んだ襞 図8 ローブの腰部分のギャザー 図7 ローブ腰のふくらみ
は、後ろ見頃の裏に別布が貼られ、紐が通されたコン ベール形式で仕立てられていた。紐を引き締めること で腰部分を体に沿わせることができた。また、わずか ではあるが、寸法の調節も可能にしたと推察できる。 後ろ見頃の内側(裏)の縫製方法をみると、ルトゥ ルーセ・ダン・レ・ポッシュについては、個々の人体 に合わせて、制作されていない可能性が高い。この紐 による調整は、胸の大きさや身体の厚みなどの個々の 差異があっても、大まかなサイズ調整をとることがで きたと考えられる。 また、ローブ・ア・ラ・フランセーズは、着用時に は、胸あてのストマッカーにローブを直接糸で縫い付 けていたが、シネ・ア・ラ・ブランシュでは、「鉤留 め」が使用されているため、着脱が簡便になった。 また、副資材なども発展しドレス制作を簡単にする 方法として布テープなどが用いられたことがわかっ た。 7.結論 本論文では、18世紀中葉の衣服制作の技術的な変遷 を解明するために、制作時期が、およそ10年離れてい るとされる2体の復元したドレスについて、裁断と縫 製の技術について比較検討を行った。 ドレスの裁断方法に関しては、どちらのドレスも布 に挟みをいれることを最小限に留めていたことがわ かった。往時は、手織りで、美しい織りや絣りの技法 を用いた布は、希少であり、布を布地幅いっぱいに用 いて、裁断することもほとんどせず、布を貴重に扱っ ていたことが、確認できた。 ドレスの技術は、縫製では、例えば、腰の膨らみを 強調するために、手織りの織物の特性である独特の打 ち込みの甘さを用いて、襞部分に「ねじり」を入れて 縫うことにより、元に戻ろうとする糸の力を用いて、 布地を押し上げ、膨らみをもたせている。また「折り 目をずらす」ことで、曲線を表わすなどの微細な技術 が確認できた。 復元制作をすることで、サイズ計測だけでは、わか らなかった細部の縫製技術や往時の人々の衣服製作に 対峙する姿勢も鑑みることができた。 謝辞 神戸ファション美術館と主任学芸員の浜田久仁雄氏 が、貴重な収蔵品の衣装を研究資料として、貸与くだ さったことに、心より感謝申し上げます。 脚注 (1)ルトゥルーセ・ダン・レ・ポッシュ:ローブ・ ア・ラ・フランセーズの着装方法をいう。ルトゥルー セ・ダン・レ・ポッシュと呼ばれ、ローブの脇部分か ら、裾を引き出して、後ろの腰や脇の部分に襞を寄せ て膨らませて、からげる着装方法。 イギリスで、散歩のときなどに、裾の長いローブを短 くからげて着装したことに始まり、市民女性の日常着 の装いであったものが、1760年頃にはフランス貴族の 間でも流行した。 (2)シネ・ア・ラ・ブランシュ:シネ・ア・ラ・ブラ ンシユとは「絣かすり」、または、「解ほ ぐ し お りし織り」のことをい う。18世紀中葉に流行したが、縦糸を括り、紋様を染 めてから、織る先染めの手法であり、高度な技術を要 する貴重な織物である。 参考文献 1) 伊豆原月絵、高木麻里、他3名:フランス宮廷衣 裳の復元研究−計測方法と資料の整理−大阪樟蔭 女子大学論集、第47号、p85-94、2009
2) JAMES-SARAZIN、Ariane:Gazette des atours de Marie-Antoinette、RMN、Centre historique des Archives nationals、2006
3) Nancy Bradfield: Costume in Detail Women's Dress、1730-1930、Costume and fashion Press、 1981
4) Norah Waugh : The Cut of Women's Clothes 1600-1930、Theatre Art B00ks、1968
5) Janet Arnold : Patterns of Fashion 1560-1620 Specific Media Group ltd.1985
6) AF Ellen Anderson : DANSKEDRAGTERM Modden i 1700-arenne、Nationalmuseet、
Studies on the Reproduction of French Court Dress
-About the Needlework of Clothes
Osaka Shoin Women's University Faculty of Liberal Arts Department of Clothing Science Tsukie IZUHARA
Abstract
The objective of the study is to clarify the change in the technique making dresses of 18th century ladies of the French court. I did the restoration research made a reproduction of French Court Dress as one of the Academic Cooperative Research with the Kobe Fashion Museum. It based on the primary source a narrow scrutiny measured of the size and detail of the dresses. In this article, I weigh the technique of sewing dress making on the two dresses, in the time when two dresses were made, there is a difference of about approximately 10 years. It can blow up a hoop skirt by twisting cloth sewing by a hand woven. It pushed up a piece of cloth with the power of the thread that cloth was going to be restored. In addition, there was the development of the technique of the raveling stopper by "the cotton tape" to save the edge of a fabric that is woven so that it will not ravel. In this article, the change in the needlework of clothes of the mid-eighteenth century was studied.
Keywords: rococo, sewing , technique, robe à la française, robe retroussée dans les poches kobenhaven、1977
7) 伊豆原月絵:祝祭の衣装展-ロココ時代のフランス 宮廷を中心に- pp.98-99、目黒区美術館、2009