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床次正安先生を偲ぶ

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Academic year: 2021

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159 日本結晶学会誌 第63巻 第2号(2021) 日本結晶学会誌 63,159-160(2021)

床次正安先生を偲ぶ

日本結晶学会名誉会員・第30代会長,床次正安先生 は本年2月16日心不全により急逝されました.満87歳で した.前日には親しい方々と団欒されていたとのことで すから,真に急なことで青天霹靂の思いです. 先生は鉱物学,結晶学,物質構造科学の分野において 永年にわたり御自身の多くの学術的基礎研究のみなら ず,先駆的な研究方法・研究施設の推進,学界の各種団 体の会長や委員を務められ,その発展,学術行政への貢 献,後進の人材の育成に強い情熱を燃やしてこられま した. 先生は,1933年静岡市生まれで,東京大学理学部地学 科地質学鉱物学コース卒業,大学院修士課程に進学修 了の後,小野田セメント株式会社中央研究所の研究員と して2年半ほど過ごされ,1962年末に東京大学物性研究 所結晶I部門細谷資明教授の助手として着任され,研究 を進められました.その後,1967年大阪大学産業科学研 究所焼結電子材料部門の助教授として,森本信男教授 とともに研究・教育にあたり,この間2年間にわたりド イツ連邦共和国マールブルク大学客員教授としてヘル ナー教授とともに硫塩鉱物の結晶構造の研究を進めら れました.1981年東京大学理学部鉱物学教室第1講座の 教授として就任,1994年に定年退職となり,東京大学名 誉教授の称号を受けられました.さらに,1995年からは 埼玉工業大学電子工学科の客員,常勤の教授,同学の 先端科学研究所の客員,常勤の教授として後進の指導・ 育成にあたり,2010年3月に退職されました. 先生の御研究の第1歩は,定永両一教授とともに進め た岩石鉱物の変成作用に重要な位置を占めるムライト 3Al2O3・2SiO2−2Al2O3・SiO2の結晶構造の研究であり,

シリマナイト,アンダリューサイトとの構造関係を議 論したものだと思います.L. Braggらによる名著Crystal Structures of Minerals(1965, London, Bell & Sons Ltd)に も引用されており,注目される成果の1つです.物性研 において,細谷教授とともに進められた酸素マイナス2 価イオンO–2原子散乱因子の研究の成果(Acta Cryst. 19,

486(1965))は,無機・鉱物の結晶構造の研究を進める 多くの研究者に広く活用され,数多くの研究成果が発 表されています.また,当時,高温半導体として着目さ れてきたシリコンカーバイトSiCについて,その積層に よって生じる多型の長周期構造に深い関心を抱き,情 報理論の応用という観点 から積層構造を明らかに するというユニークな解析 法を提唱されました(Acta Cryst. 23, 18(1967)).この ような研究成果に基づき 1966年末に理学博士の学 位を授与されています. 大阪大学産業科学研究 所では,森本信男教授は じめ多くの院生とともに 多様かつ幅広い領域に研 究を進められました.火山 岩で重要な位置を占める輝石の結晶構造が,その組成 と微細な組織によって単斜晶系や斜方晶系に変化する ことをX線回折や新たに導入した分析電子顕微鏡による 詳細な観察によって議論しています.また,東大物性研 究所の秋本俊一教授らとの共同研究では,上部マントル 構成鉱物で予測されるカンラン石型−スピネル型構造の 固相間転移において,その中間相として着目された変形 スピネル型相について,同形の物質についてそれらの詳 細な結晶構造解析を進め,多形の構造の関係を明らか にしています.さらに,産研金属結晶部門の大塚和弘博 士らとともにCu-Al-Ni系合金のマルテンサイト型相変 態の構造研究を京都大学附置の原子炉実験所中性子源 を活用した単結晶中性子回折によって進めるなど,先進 的な研究活動を進められました.この御研究は,東大に お移りになった後も,葉金花博士,筑波大学に移られた 大塚教授とともにTi-Ni系合金を含めて,放射光源を用 いた低温単結晶X線回折実験により,温度変化に伴う構 造変化を追跡し,その相変態のメカニズムを明らかにさ れました.その後も,多岐にわたる結晶物質について結 晶構造の関係やそれらの変化について構造化学的考察を 行っておられます. 先生は,先を見据えた新たな研究方法・設備にも大変 なご関心をおもちでした.阪大産研の頃は国内最初と もいえる500 mA, 60 kV級回転対陰極による実験室強力 X線源の開発,鉱物微細組織の局所構造の観察とその極 小部分の化学組成分析を同時に行うことのできる透過 型分析電子顕微鏡の導入を実践しました.また,筑波の 葉金花氏のご提供による

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160 日本結晶学会誌 第63巻 第2号(2021) 堀内弘之 放射光実験施設の設立については,その当初より深くか かわり,適切なモノクロメータの選定や単結晶回折装置 の設計製作そしてその設置に尽力されました.装置は後 進に引き継がれ,多くの研究者により多様な研究成果を 生み出してきました.放射光実験棟の建物が完成した当 初,まだ中には何1つないまったくがらんどうの中に立 ち,その先に輝く情景を描いておられていたようです. さらに,放射性廃棄物の処理・処分に関連する岩石・鉱 物学上の知見に関心を抱かれ,国内外の関連委員会に 参画され,後にブラジル・サンパウロ州立大学との4年 にわたる国際共同研究で,ブラジルにおける放射性鉱物 の産出地域の調査研究を現地の研究者と共同で行われ ました. 床次先生は何事を進めるにも情熱的でした.物性研に お勤めのころ,御研究の合間に当時の讀賣ランドのス ケート場に通い始め,初めはヨチヨチ歩きのご様子でし たが,めきめきと上達し,1万メートルを30分を切るよ うになっていたように記憶しています.このスケートは, 東大御退官後は奥様共々のフィギュアスケートに発展 し,御夫婦で楽しんでおられたようです.阪大産研の頃 は,雨の日となるとグラウンドでサッカーなり,院生諸 君と一緒に汗と雨でびしょ濡れになって競い,研究室に 戻ると研究の議論に口角泡を飛ばすという日々でした. このような薫陶を受けた学生・院生諸君は各地の大学や 会社の研究室に進み活躍してきました.先生の御研究に 対する態度は,先に記したように多くの研究グループと 分野横断的に深く広く交流し,研究や教育に活かしてお られたのが印象的でした.阪大では蛋白質研究所角戸研 究室のグループと‘X線の会’や中の島に設置されてい た当時では貴重な存在の単結晶回折計利用を通しての 飲み会を含めた研究交流が先生にとっては後の研究活 動に大きく影響されていたように感じます. 先生を偲び,筆者が先生と接した個人的視点から追 悼の辞に筆をとりました.最近はお会いする機会もなく 時が過ぎてしまい,教育論,研究への姿勢などお話を伺 いたかったのですが残念です.先生のお宅に押しかけて いろいろな話題を楽しんだ学生・院生諸君や研究仲間の 方々もそれなりの歳となってしまいましたが,今は懐か しい思い出として残っていることでしょう.遙か以前の ことですが,先生がドイツへのご出張の折,可愛らしい 工芸のピアノを見つけて,私の娘に頂戴し,先生の細や かで温かな心を感じました.今は先生への鎮魂歌を奏で ているようです. 先生のこれまでの御業績に敬意を表しますとともに, これまで賜わりました御指導と励ましに深く感謝し,御 冥福を心よりお祈り申し上げます. (堀内弘之)

参照

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