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J-STAGE Advance published date: 2020.12.24 https://doi.org/10.2150/jieij.20000599
北九州市小倉城を対象とした
夜間景観照明デザインの計画と評価
専門会員 松下 美紀(福岡女子大学大学院) 非会員 庄山 茂子(福岡女子大学) 正会員 森田 健(元 福岡女子大学)Plan and Evaluation of Nightscape Lighting Design by Analyzing the Case of Kokura Castle in Kitakyushu Fellow Member Miki Matsushita (Doctoral Program Fukuoka Women's University),
Non Member Shigeko Shoyama (Fukuoka Women's University) and
Member Takeshi Morita (Former Fukuoka Women's University)
ABSTRACT
This study examines lighting design plans and the subsequent evaluation of the case of Kokura Castle and the peripheral area in Kitakyushu that was chosen as one of Japan s New Three Most Spectacular Night Views. A social experiment was conducted, analyzed, and evaluated. Then, on the basis of the results, plans for a nightscape for the future were presented. Kitakyushu city developed guidelines for private companies that plan to execute the lighting designs. The guidelines state that urban development should first consider visitors perspectives and the lighting designs should be conducted carefully as each facility is an important point element. From the social experiment conducted at Kokura Castle and the peripheral area, it is clear that two things are present; Intent of Restriction, which is directly connected to the implementation of lighting plans, and Methods of Restriction, which suppress direct effects on the peripheral area. The results of Visual Thinking Strategies demonstrate that participants could fully understand the intent of the designer. Additionally, it is clear that people expect a high artistic quality in the lighting effects. For implementations of lighting designs, it is necessary not only to have the Intent of Restriction, which considers the structures of buildings and investigations of the surrounding environmental factors, but also to have a logical sensitivity philosophy that captures the stories behind places.
KEYWORDS : nightscape, lighting guidelines, Intent of Restriction, lighting sensibility philosopher, Visual Thinking Strategies
1. はじめに 日本では,2004年に景観法が制定され,地方自治体,特 に政令指定都市などが景観行政団体として主体的に地域の 「景観計画」を策定し,「豊かな生活環境の創造」や「地域の 活性化」を図り,良好な環境形成を進めることとなった.そ の中で近年は昼間の計画だけでなく,夜間の景観照明計画が 多くの地域・都市で必要と考えられるようになってきた.夜 間照明の果たす役割は当初,防犯の観点からの明るさの確保 に向けられていた1)が,地域の自然や風土,歴史,文化など を基にした快適な光環境の創造やまちづくりなど,文化的概 念から考えられるようになった2).その中で,いくつかの地 域や都市では積極的な取り組みが進められ,報告も行われて いる.例えば,小林らの東京都立川市を対象とした街路全体 の光環境計画3)や山形県金山町や長野県蓼科高原を対象とし た地域の風景と歴史を活かす光環境計画の報告4-7),ウオー ターフロントを対象とした稲葉らの東京首都圏の報告8),ま ちづくり教育へ展開した阿久井らの報告9)がある. また東京都では2007年に策定された「東京都景観計画」 に追記される形で「良好な夜間形成のための建築計画の手引 き」10)が2019年8月に発行され,東京ならではの夜間景観と 良質な光の誘導を図る方針を示している. 大阪府では光のまちづくり推進委員会により,2010年に 掲げた構想の「光の都・大阪」を実現するために「光のまち づくり技術指針」11)を作成しており,行政や民間でライト アップ設備整備を行う際の光による景観づくりの考え方や技 術的側面における参考書の役割を担っている. 地方都市の金沢市は夜間景観形成条例として,市全域に対 して「照明環境景観地域」,また上乗せとして重点地域には 「夜間景観形成区域」を指定し,それぞれの対象地域に対し て実施計画書や行為の届け出を責務として課している12).こ のような視点から夜間の景観照明計画が取り組まれ,景観法 による照明に係る行為の制限である景観形成基準に基づいた 計画が進められてきている.しかし,夜間の景観照明計画策 定の意義や必要性は理解され,策定への動きは試みられるも のの,それに係る負担の大きさから,十分な計画策定までで きていない地域・都市も多い.また,策定されていても,そ の狙いと手法が一致していないことや曖昧な表現に終わって いることも多いことが指摘されている. 入江と福島13)は2013年1月までに制定された16都市の夜 間景観に関する記述内容を分析して,その多くに「魅力的な 夜間景観の創出」や「周辺環境との調和」が述べられている
ものの,その表現は抽象的で何を意味しているのかが不明瞭 であることを指摘している. 原田と横江14)は,2017年1月末のデータを基に,104市に おける「景観計画」の策定状況や,「景観計画」における照 明に関わる行為の制限(景観形成基準)についてどのような 手法がどのような意図で設けられているのかを分析し,以下 のように指摘している.「制限手法」は全体では多様な種類 が見られたが,自治体個別では採用している制限手法の種類 は少ないこと,「制限の意図」には対象を限定しない大きな 括りでの表現や,意図や狙いがはっきりしない記載が多いこ と,さらに,「制限手法」と「制限の意図」の対応がはっき りしない例が多いことを指摘している.その理由として原田 と横江は,景観法や景観法運用指針において,「制限の意図」 を明確に記載することを求めていないことを挙げている.本 来,意図や狙いを伴わない(関係が明確に示されていない) 制限手法は,望ましい状況ではないが,このことは夜間景観 照明計画の難しさを示しているとも考えられる. これらのことから,夜間の景観照明に照明デザイナーなど の専門家の関わりが少ない,またはその関わりが一時的であ るなどが,「制限の意図」に基づく計画の考え方と「制限手 法」の実施内容に繋がりがないことや,さらに実施成果に対 する考察が十分に行われず,成果の蓄積,知見の蓄積が十分 でない状況を生じさせると考えられる. そこで本研究は,筆者(松下)が照明計画の専門家として 「制限の意図」と「制限手法」の関係を踏まえた,一連の計 画立案から実施・評価までの社会実験を,北九州市小倉城を 対象に実施し,そこから得た成果をまとめ,今後の夜間景観 照明計画への知見として示すことを目的とする. 2. 北九州市小倉における夜間景観照明デザイン社会 実験 2.1 北九州市小倉における夜間景観照明デザインの背景 北九州市は福岡県の北部に位置し,関門海峡に面した九 州最北端の都市である.九州の玄関口として栄えた歴史を持 ち,1963年に門司,小倉,若松,八幡,戸畑の五市の対等合 併を経て,九州初の政令指定都市として誕生した.その後, 小倉都心地区では商業・文化・行政・業務施設など都市機能 の集積が進んでいる.戦災被災を受けなかったため,城下町 の町割りを基本とした街区構成が現在も継承されている. 夜間景観においては,2018年に一般社団法人夜景観光コ ンベンション・ビューローが主催する「日本新三大夜景都 市」の選考に,一般市民の投票によって,北九州市は長崎 市,小樽市に並んで選ばれた.これは北九州市が持つ視点場 の豊富さと工場夜景など経済発展の歴史に焦点が当てられ, 内海の北海道室蘭市における工場夜景観光15)の報告にもあ るように,歴史背景の多様性が夜間景観に評価される時代を 反映した結果と考えられる.それを契機に北九州市では,産 業遺産のライトアップや歴史的建造物への照明事業に対す る行政の取り組みが進んでいる.筆者(松下)は市の指定文 化財であり,2016年に世界文化遺産に登録された「明治日 本産業革命遺産:官営八幡製鐵所関連施設」の構成資産のひ とつである八幡製鉄所東田第1高炉跡のライトアップ(2016 年)(図1)や若松区と戸畑区を結ぶ若戸大橋のライトアッ プの照明デザイン(2018年)を手がけた(図2). 2.2 小倉都心地区夜間景観照明ガイドラインの策定 小倉都心地区における夜間景観照明ガイドラインを策定す る事業が,2017年に筆者(松下)を中心として実施された16). このガイドラインは景観照明デザインを行政主体の計画だけ でなく民間施設が実施できるための計画書として作られた. さらに北九州市は照明に係る行為の制限を図るだけでなく, その意図として小倉都心地区の特徴を活かした芸術的な観点 を取り入れ,人の感性に訴える小倉都心地区独自のガイドラ インを目指した.構成は,「これから照明計画を実践する場 合の着目すべき点」や「民間事業者がライトアップを行う際 の実践的で具体的な手法」,「ライトアップを検討するための 支援体制」の3項目からなり,建築物や店舗のライトアップ, サイン照明,緑地公園などの公共空間,歴史的建造物や個性 ある通りなどのケーススタディと照明コンセプトの作成方法 や照明デザイン手法など具体的な提案を含んでいる. 小倉都心地区での夜間景観は,市民が生活するためにス ムーズな移動や安全で安心な環境をつくる「暮らすひと」の 視点と,来訪者が夜のまちの散策やまち並みを楽しみ,風土 や歴史文化,時節を感じる「訪れるひと」の視点の二つを基 本にした.それに加えて,個々の資源として,景観形成をし ている民間施設や公共施設の「点」の照明,そして主要な道 路,河川などを連続的な照明で繋ぎ,まちの骨格を作り回遊 性を向上させる「線」の照明,さらに個々の点や線は折り重 なり,「面」としてまち全体の一体感を生み出し調和のとれた 夜間景観形成を創り出すことを目標とした.抽出された9つの 照明デザインケーススタディは,2020年6月現在,すでに7箇 所が完成もしくは整備中であり,ガイドラインに沿った計画 が着実に進んでいる.これは行政主体ではなく,広く民間施 設にアプローチして,照明デザイナーが参画することで,民 間業者の行う照明デザインが進み,短期間,ローコストで景 観照明が実現できることに理解が示された結果と考えられる. 図 1 八幡製鉄所東田第1高炉ライトアップ Fig. 1 Lighting up of the first Higashida blast furnace.
図 2 若戸大橋のライトアップ Fig. 2 Lighting up of Wakato Ohasi Bridge.
2.3 小倉城天守閣における夜間景観照明デザイン実験 小倉城は細川忠興によって1609年に築城され,その後,小 笠原忠真が1632年に入国し,小倉城を中心に城下町として 繁栄した.1837年城内から発した火災によって全焼したが, 1959年市民の熱望によって天守閣が再建された.天守閣は 「唐造りの天守」と呼ばれ,4階と5階の間に屋根の庇がなく 5階が4階よりも大きくなっていることが特徴である.また, 城の石垣は切り石を使わない野面積みで素朴ながらも豪快な 風情を有している.周囲には北九州市庁舎,議会棟,警察署 庁舎,大型商業施設があり,生い茂った樹木にも囲まれ,遠 景から小倉城の全貌を見ることができない.隣接する紫川に 架かる鷗外橋からの中景と小倉城下の近景で全体を見ること ができる.また,小倉城天守閣は城全体が掘に囲まれている. 多くの優れた近代建築の前には,池や水景があり,水面に建 物を映し込むことで二面性を表現した手法が多くみられるが, 小倉城でも同様に,堀が水景を作っていることから,訪れた 人は水面に映り込む二つめの天守閣を見ることができる. 遠景から城が見えないというデメリットを,水面に映った 小倉城が現れる近景の視点を,夜間にはメリットに変えるこ とをデザインすることにした.以上のことから導き出した照 明コンセプトを「水鏡の城」とし,堀の水面を鏡のように, 図 3 小倉城ライトアップ完成予想パース Fig. 3 Expected completion image of Kokura Castle.
図 4 照明器具配置計画(案)と調査写真 Fig. 4 Lighting design plan and photos of field study.
図 5 天守閣東側(正面)の照射位置検討図
Fig. 5 Examination light direction of east side of the castle (front View).
図 6 天守閣南側の照射位置検討図
Fig. 6 Examination light direction of south side of the castle.
図 7 天守閣北側の照射位置検討図
ライトアップされた天守閣を美しく映り込ませる計画を行っ た(図3). 2.3.1 照明コンセプト 「水鏡の城」を実現させる照明デザインの考え方は以下の 通りである. ①ランドマークとしての存在を確立させる.ランドマークと して象徴的に照らすためには,城の白壁を夜間にも際出せ ること,さらに中景の視点として小倉城を中心に360°から 見えるように照らした. ②幻想的な風景をつくる.天守閣の荘厳なライトアップに加 えて,水面に映り込む城のライトアップ,及び野面積みの 石垣を照らすことで城全体を反転させて二面性の光景をつ くった. ③構造美の美しさを見せる.最上階が下階より大きい特徴的 な造りや,破風の造形,大棟の鯱,垂木などの細部を照ら して,構造の美しさを表現した. 2.3.2 照明器具配置及び照射位置 効果的かつ昼間に照明器具が目立たないよう計画するた めに,周辺の建物や緑地帯など取り付け可能な場所の調査 とテストライティングを行い,隣接する北九州市庁舎議会 棟の屋上と堀の左岸と右岸にある緑地帯,及び連接する公 園や小倉城内公園の樹木群に照明器具(投光器)を設置した (図4∼図7). 図 8 議会棟屋上でのテストライティングの様子 Fig. 8 Lighting testing on Kitakyushu city assembly building.
図 9 議会棟屋上の照明器具配置計画図
Fig. 9 Fixtures’ positions on Kitakyushu city assembly building.
図 10 堀右岸でのテストライティングの様子 Fig. 10 Lighting testing on the right bank of the moat.
図 11 堀(右岸及び左岸)の照明器具配置計画図 Fig. 11 Fixtures’ positions on the right bank of the moat.
図 12 最終照明器具配灯図 Fig. 12 Final lighting plan.
2.3.3 照明器具の仕様 省エネルギーの観点から最大の照明効果を最小の照明器具 台数と電気容量で可能することを考慮し,テストライティン グの結果,以下に示す照明器具の種類と使用台数を決定し た.また,色温度は白壁に対する効果を考え5000 Kを選択 した(図8∼図12). A. LED投光器(22800 lm, 188 W, 5000 K, 配光27°×8台) B. LED投光器(53700 lm, 593 W, 5000 K, 配光27°×5台) C. LED投光器(39500 lm, 354 W, 5000 K, 配光53°×3台) D. LED投光器(1330 lm, 21.4 W, 5000 K, 配光3°×4台) 小倉城天守閣の四周に配置された照明器具(投光器)は合 計で20台,使用電力は約6 kWである.また,グレアをカッ トするためにいずれの投光器にもフードを取り付けることと した.投光器を取り付けるポールの高さは5.6‒7 mとし,公 園内の樹木群にポールと照明器具を隠しながら,さらに枝葉 に光がカットされないような場所を選定した.地面に設置 した投光器は,ボックスの中に入れ,その前面にはガードを 取り付け,人が直接照明器具に触れ無いように安全性を高め た.使用台数が決定した後,照明器具の配光データに基づき 3DのCGシミュレーションで照度の確認を行い,最終決定と した(図13). 図 13 配光データに基づく3D CGシミュレーション Fig. 13 3D simulation based on photometric data. 2.3.4 照明効果の確認 城の四周のライトアップでは,庇,破風,鯱,そして水面 に近い石垣を的確に照射することにより,真っ暗な水面に映 り込んだ小倉城は,昼間の映り込みとは異なる,鏡に映った ような幻想的な姿が表現され,近景の視点として計算された 照明デザインの効果がコンセプト通りに実現でき,象徴的な ライトアップが完成した(図14). 2.4 小倉城周辺の夜間景観照明デザイン実験 小倉城は周りを白壁で囲まれた小倉城庭園や八坂神社,勝 山公園や紫川に囲まれている.また市役所や警察署があり, 通勤路として通行者に利用されている.小倉城のライトアッ プ前は,城周辺の暗がり防止のため,高容量のLEDスポッ 図 14 完成後の「水鏡の城」(写真提供 北九州市) Fig. 14 Completion image of “castle mirrored in the water.”
図 15 周辺施設への照明デザインの考え方
Fig. 15 Consideration of lighting for peripheral area of Kokura Castle.
図 16 周辺施設への照明デザインイメージ図 (図 15a, b, cの視点から)
Fig. 16 Design image of peripheral area of Kokura Castle (viewpoint a, b, c of Fig.15).
トライトが設置されており,城下の風情とはほど遠い光環境 であった.先に述べた「訪れるひと」の視点から,情緒性や 回遊性を重視した光環境と小倉城が桜の名所として名高いこ とから四季折々の季節感を取り入れた照明の考え方を抽出し た.その内容を下記に示すとともに,個々の考え方を図15 に,照明デザインイメージを図16に示す. ①景観要素に対して光の拠点をつくりメリハリを与えること で目的を作り回遊しやすくする. ②全体を一様に明るくせず,陰影のある光の配置で城下の情 緒ある雰囲気をつくる. ③視線誘導型の照明効果で視覚的に誘導する. ④小倉城のライトアップを象徴的に見る視点場をつくる. ⑤桜や紅葉等,その季節に応じたライトアップを行う. 抽出された考え方を基にした周辺施設の照明デザイン手法 を以下に示す. 2.4.1 小倉城庭園の白壁の照明デザイン 小倉城を眺める視点場となる堀の前の通りは「歴史の道」 と名付けられている.小倉城正面には小倉城庭園の白壁が長 く続いている.ここでは,小倉城ライトアップ効果の障害に ならず,通行者のための夜間の明るさ感を補完するために, 白壁への間接照明を計画した.白壁は庭園の周りを囲んでい るが,途中にはクラックした道が紫川まで続いている.図 15に赤ラインで示した白壁にはその瓦屋根を利用して,防 水用LEDライン照明(長さ950‒980 mm)650 lm, 21.4 W/台 を合計120台連続して,屋根構造の中に取り付けた.白壁を 上部からの間接照明として鉛直面を照らすことで,足元部分 は約20 lxの照度となり,「歴史の道」の明るさ感が確保され ている(図17, 図18). 2.4.2 手摺用フットライト照明 堀の周りには木製の手摺が設置されている.通行者へ安全 のための路面照度の確保と回遊を図る視線誘導照明を手摺に 取り付けた.照明器具はフットライトを5m間隔で10台設置 した.通路幅が広いためフットライトの配光を前面に照射 し,さらには堀の水面に映り込まないように角度を計算した オリジナルな照明器具を制作した.使用電力LED12W/台 で色温度は3000 K,表面にはグレアカットのためにルーバー を取り付けている.歴史の道の中央地点で約5 lxである. フットライトを手摺と同色の濃茶色に塗装し,器具の高さを できるだけ低くすることで昼間には目立たず,小倉城のライ トアップ効果を遮らないデザインとした(図19, 図20). 図 19 手摺用照明器具取り付け計画図と詳細図及び照度分布図 Fig. 19 Plan of lighting installation for handrail and its
illuminance distribution.
図 20 完成した手摺用フットライトのデザイン Fig. 20 Completion images of handrail. 2.4.3 なまこ壁のボラード照明 庭園の壁の一部にはなまこ壁があり白壁が途切れている. なまこ壁は小倉城庭園の入場門としての趣を造っている.な まこ壁へは,壁から600 mm離した位置に石材製のオリジナ ルボラード照明LED10 W,色温度3000 Kを3台制作配置して 柔らかく照らした.照明側はスリットから光が漏れるように 設計しており,昼間には照明器具ではなく石のベンチに見え るように個性化と景観配慮を図った(図21, 図22). 2.4.4 街灯用ポールスポットライト クラックした通路の一部には明るさを確保するためにポー ルスポットライトを用いた.4 mのポールに23.3 W/台のス ポットライト2灯式(向きは可変)を設置した.低いポール 高さを生かし,季節によってはスポットライトの向きを変え て,鬱蒼と茂った樹木をライトアップした光のトンネル効果 図 17 白壁の照明器具取り付け計画図と詳細図及び照度分布図
Fig. 17 Plan of lighting installation for white wall and its illuminance distribution.
図 18 完成した白壁の照明デザイン Fig. 18 Completion images of white wall.
の演出や,紅葉の時期に赤く染まった葉のライトアップなど 季節の表情変化に対応可能とするため色温度は3000 Kとし た(図16Cの視点). 2.5 考察 小倉城とその周辺における照明デザインは昼間の歴史的景 観を壊さぬように,いかに照明器具を目立たせずに夜間照明 の効果を出せるかが大きな課題であった.前述した種々の工 夫により照明器具が全く目立たずに,施設や周辺環境に溶け 込む計画となった.また,小倉都心地区夜間景観照明ガイ ドライン16)の中で定義した如く,小倉城のライトアップを 「点」とし,歴史の道の照明デザインを「線」として回遊性 を繋ぎ,小倉城周辺一帯を「面」とした一連の照明デザイン が完成した(図23).社会実験開始から2年の歳月を掛けて 竣工し,訪れる人の視点を大切にした北九州市小倉を象徴す る夜間景観となった. 3. 小倉城夜間景観照明デザインの印象評価 環境デザインに対する検証評価を行う場合,環境心理学 分野で多く用いられる手法は,SD法を代表とする事前に質 問と回答形式を用意するアンケート調査である17).この方法 は,多くの人の回答を比較的容易に集めることができ,その 結果を解釈しやすく設計することが可能である.しかし仮説 検証型となり,用意した質問の範囲を超えた結果は得ること ができず,即ち結果が調査者(デザイナー)の想定した範囲 に限定されることが多い.本研究では,評価者がデザインさ れた環境の中からデザイナーの想いを感じとったのか否かと ともに,デザイナーの想いを超えた評価の生まれる可能性を 検証するため,現在美術鑑賞分野で行われてきている対話型 鑑賞18)の手法を応用した新しい環境評価を試みた.対話型 鑑賞は,芸術作品についての情報や解釈を鑑賞者に対して一 方的に専門家が伝えるのではなく,鑑賞者が自分自身と向き 合うこと,さらに他者との対話を通して作品を鑑賞する方法 である.筆者らはこの方法が持つ,鑑賞者が自分自身及び他 者との対話を通して深い鑑賞に導かれるプロセスに着目し, 環境デザイン評価の分野においても環境デザインを行った当 事者(デザイナー)や調査者の想定範囲を超えた評価の視点 が評価者間の対話の中から得られるのではないかと考え,本 調査への適用を試みた. 3.1 調査方法 調査対象は,小倉城がライトアップされ,その姿が堀の池 に映る「水鏡」といわれる場(ポイント)の照明デザインで ある.対話型鑑賞について経験を有するファシリテーター 1名に対して5∼10名の参加者により構成した評価グループ による調査を,2019年9∼11月の日没後に3回実施した.1 回の調査は,調査内容の説明を加えおおよそ1時間30分程度 で実施した.参加者は,ファシリテーターの指示に従い,約 10分程度の各自で自由に評価地点の観察を行った後,感じ たこと,発見したことを互いに自由に発言した.他者の発言 に誘発され,見出した新たな視点も自由に発言することが推 奨された. 3.2 分析と結果 参加者の発言はボイスレコーダーに記録され,後日文字起 こしを行った後,テキストマイニングによって発言された言 葉の関連性が分析された.潜在的論理の分析には,計量テキ スト分析用フリーソフトとして提供されているKH Coder19) を利用した. 3回の調査に参加した18人(20∼40歳代女性,建築に関す る経験なし)の発言をテキストデータとして保存するととも に,発言の趣旨を損なわないように類似の統一処理を行い, 2439語を分析対象とした.その中から名詞と形容詞435語を 抽出し,出現回数の多い語を表1に示す.「城」・「光」・「照 明」の名詞や「白い」・「強い」の形容詞など想定可能な語と ともに,「夜空」・「風」・「月」など評価現場ならではの環境 要因や,それらの関係を示す「共存」・「包容」などの語が現 れるとともに,「気高い」・「細かい」・「硬い」などの形容詞 語も見られた.それらの頻出語の出現パターンの似通った 語,即ち共起の程度の関連を分析するため共起ネットワーク 分析を行い,その結果を図24に示す.本研究データは,1つ の発言に含まれる語の数が少なく,それぞれの語が一部の発 図 21 なまこ壁の照明器具取り付け計画図と詳細図
Fig. 21 Plan of lighting installation for tile and plater wall.
図 22 完成したなまこ壁の照明デザイン Fig. 22 Completion images of tile and plater wall.
図 23 完成した小倉城ライトアップと歴史の道の照明デザイン (写真提供 北九州市)
Fig. 23 Completion photo of lighting up for Kokura Castle and peripheral area.
言の中にしか含まれていないことが多いため,集計単位を段 落とし,共起関係の絞り込みにはJaccard係数を用いた.相 対的に強い共起関係を描くため,その設定を0.2以上とする とともに,関係の強さを線の太さで,語の出現回数を円の大 きさで表現した.本分析においては,付置位置は関係性を意 味しておらず,線の有無が共起関係を意味している. 共起ネットワーク分析で得られた結果から,天守閣の照明 コンセプト①「ランドマークとしての存在を確立」に対して は,強い「白い」「光」に「照明」された「城」そのものの 印象評価だけでなく,「黄昏」の「ブルー」に染まった「夜 空」,城の「奥」の「暗い」部分,照明により凹凸が強調さ れた「石垣」との関係が認められた.照明コンセプト②「幻 想的な風景を作る」と③「構造美の美しさを見せる」に対し ては,堀の周囲にある「木々」とその「グリーン」の色,周 囲の歩道に設置された照明の「暖かみ」のある「オレンジ」 色などとの「対比」によって環境デザインが評価されるとと もに,その照明による城の「細かい」「ディテール」が「美 しい」「模様」として認識・評価され,さらに堀の池に映し 出された城が周辺環境要因である「風」と「波」によってゆ らぐ様に対する評価が認められた. 4. 本研究の成果とまとめ 本研究では小倉城天守閣とその周辺を対象として計画立案 から実施,及びその評価と成果をまとめ,今後の夜間景観照 明計画への知見を示すことが目的である.実施された小倉城 天守閣の照明効果に対して完成後に行った対話型鑑賞評価か ら,デザイナーが意図したデザインコンセプトが忠実に伝わ り,評価されたことが確認された.さらに,黄昏,夜空,堀 の水面の揺らぎなど時間経過や見る人の心の状態によって印 象が変化することも読み取れた.照らされた対象物を見て 表出された形容詞は著者(松下)の予想を超えて,より詩的 な物語が背景に感じられ,情緒的に捉えられる結果であっ た.このような歴史的景観においては,芸術要素の高い印象 が求められており,演出に直結する「制限の意図」と,周辺 への影響を直接的に抑える「制限手法」を明確にすることに より,意図した照明効果が得られることが明らかになった. これらの成果から,今後の夜間景観照明計画においては,照 らされる対象物を技術的や経済的な観点から「制限手法」を マニュアル化するとともに,誰がどこから,どの季節に来訪 し,どのような気持ちで見ることが多いのか,加えて建築の 審美性や歴史的背景などの詳細な調査に沿った「制限の意 図」を明確にするデザイン手法が必要とされ,そこに照明デ ザイナーなどの専門家が果たすべき役割があると考えられ る.また同時に,ユーザーが容易にプログラムを変更できる 技術の進化に対応して,安易に「照明の意図」の変更が行わ れないように,完成後のデザインに対する照明デザイナーな ど専門家の責務と権利を確立していく必要が示唆された. 今後はさらに,本研究で用いたデザイン手法や評価方法な どの技術や論理的な裏付けをもとに,より実施を重ねて「光 の感性哲学」という新しい考え方を確立し,照明の新技術の 研究者と協働しながら,学術的に照明デザイン手法を立証し ていきたいと考えている. 本研究は北九州市建築都市局総務部都市景観課及び地域 団体や地元事業者,商業団体,学生等の参加協力を経てガイ ドラインが完成し,それを基に社会実験を行うことが可能に なった.実際の照明工事にあたっては北九州市企画調整局都 市マネージメント政策課の方々の多大な尽力により実現でき た.また,本研究の実験・調査の一部は,福岡女子大学国際 文理学部の石井咲桜子氏をはじめ多くの学生の協力を得た. 全ての関係各位に記して謝意を表します. 表 1 頻出名詞と形容詞語(出現回数2回以上) Table 1 Frequent nouns and adjectives
(appeared more than two times).
図 24 共起ネットワーク分析 Fig. 24 Co-occurrence network analysis.
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