多孔質炭素電極を用いた水溶液中の一価のカチオン
の選択的吸着 : 分子動力学シミュレーションおよ
び電気化学実験による研究
著者
山本 祐士
2019 年度 修士論文要旨
多孔質炭素電極を用いた水溶液中の一価のカチオンの選択的吸着
-分子動力学シミュレーションおよび電気化学実験による研究-
関西学院大学大学院理工学研究科
化学専攻 玉井(清原)研究室 山本祐士
【緒言】 電気二重層キャパシタは,電圧操作によってイオンを容易に吸脱着できる1),2)特性を持 ち,近年ではこの特性を生かした脱塩装置としての利用が注目されている。その電極材料として は,多くのイオンを吸着することができる比表面積の大きい多孔質炭素がよく用いられている。 この多孔質炭素は,近年の技術発展により,細孔径をオングストロームスケールで制御すること が可能となった。この細孔径制御された多孔質炭素を電気二重層キャパシタの電極とすることで, 細孔の大きさや電圧の大きさによって,吸着するイオン種が異なることが予測される。これを応 用して,電気二重層キャパシタの原理を利用した,特定のイオンを水溶液中から取り出す資源回 収装置の開発ができるのではないかと考えた。しかし,電解質水溶液中での電極近傍における水 和したイオンの分子構造や熱力学的状態はよく分かっておらず,吸着するイオン種の選択性も明 らかにされていない。本研究では,分子動力学シミュレーションを用いて一価のカチオンが細孔 に入るまでの自由エネルギー障壁を計算し,様々なカチオン種の多孔質炭素への選択的な吸着の 可能性を調べる。さらに,実際に多孔質炭素電極を用いて電気化学吸着実験を行うことでシミュ レーションとの比較を行う。 【実験】 この計算機実験では,水分子 729 個と,溶質 として LiCl,NaCl,KCl,CsCl のいずれかのカチオンと アニオンの 1 ペアを混ぜた 4 種類の水溶液に,炭素原子 で構成された多孔質電極を入れた系について,300 K,1 atm の条件でシミュレーションを行った。図 1 はこのシ ミュレーションの計算モデルを表している。 電極の細孔内外における様々な位置において,カチオ ンにかかる力を 2 ns の時間で平均することで算出し,そ の力を積分して得られた Potential of Mean Force (PMF)か らカチオンが細孔に入るまでの自由エネルギー障壁を求 めた。この計算は,電極の細孔径による影響を調べるため に,6 Å,7 Å,8 Å,9 Å,10 Å の 5 種類の細孔径につい て行った。さらに電圧による影響を見るために,それぞれの細孔径について,電圧を印加しない場 合,正負電極間に電圧 0.5 V 印加した場合,正負電極間に電圧 1.0 V 印加した場合の3種類の電圧図
1 細孔径 8 Å の計算モデル
電解液 細孔 炭素電極で計算を行った。
次に,実際にキャパシタ脱塩法(Capascitive De-Ionization : CDI)による実験を行い,カチオン種 による吸着量の違いを確認した。本研究では,LiCl と CsCl の混合水溶液と多孔質炭素電極を用い て CDI 実験を行った。この実験は,電極に電圧 0.6 V を2時間印加した場合と,電圧 1.2 V を2時 間印加した場合の2種類について行った。また,吸着実験前後の溶液中のカチオン濃度の変化か らカチオンの吸着量を調べた。 【結果】 図 2 はシミュレーションで計算 した,電圧非印加時の各細孔径における,カ チオンが細孔に入るまでの最も大きな自由 エネルギー障壁の大きさを示している。電 圧 0.5 V と 1.0 V 印加した場合についても, 図 2 と同様に自由エネルギー障壁を求め, 温度 300 K のときの熱エネルギーkBT = 0.6 kcal ∙ mol-1と比較することで,カチオンが細 孔内に吸着することが容易であるかどうか を調べた。電圧非印加の場合では,今回調べ た細孔径の細孔には吸着し難いことが分かった。しかし,電圧を 0.5 V,1.0 V と印加した場合に は,カチオン種による選択的な吸着が可能であると考えられる結果が得られた。また,計算した各 電圧,各細孔径における吸着するカチオンの自由エネルギー障壁から,印加電圧の大きさや細孔 径の調整によって,多孔質炭素電極に吸着させるカチオン種を選ぶことができる可能性を示唆す る結果が得られた。 今回の CDI 実験で用いた炭素電極は,その細 孔径分布を調べると,8.6 ~15.4 Å の細孔径を持 っており,ピーク細孔径が 8.6 Å であることが 分かった。この炭素電極を用いた CDI 実験の結 果,各種イオンの吸着量を調べると,電圧 0.6 V 印加した場合と 1.2 V 印加した場合の両方で Cs+の方が Li+よりも多く吸着されていること が分かった。この実験の結果を,表 1 のシミュ レーションの 0.5 V と 1.0 V の自由エネルギー 障壁の結果と比較すると,0.5 V では全体的に Li+の自由エネルギー障壁の方が小さく,実験結果 とは逆の関係になっていたが,1.0 V では全体的に Cs+の自由エネルギー障壁の方が小さく,実験 結果と良い相関が得られた。
1) M. A. Anderson et al., Electrochim. Acta 55, 3845-3856 (2010). 2) S. Porada et al., Prog Mater. Sci., 58, 1388-1442 (2013).