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産業・雇用構造の転換と求められる人材像--雇用環境の変化と自律的キャリア形成

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Academic year: 2021

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(1)商経学叢. 第57巻 第1号2010年7月. 産 業 ・雇 用構 造 の転i換と求 め られ る人材 像 雇 用 環 境 の 変 化 と 自律 的 キ ャ リア 形 成. 川. 芒 ノ1』. 要 約2008年9月. 彦. の"リ ー マ ン シ ョッ ク"に 始 ま る世 界 的 な 景 気 後 退 は,日 本 の 就 労 ・雇 用. 環 境 を め ぐる多 くの 問 題 を 顕 在 化 させ た 。 そ の 後,完 全 失 業 率 は5%台. で 推 移 し,有 効 求 人. 倍 率 も0.4水準 で あ る。 非 正 規 雇 用 者 は09年 初 に33%を 越 え,年 後 半 に は非 正 規 労 働 者 の 失 職 が24万 人 超 に到 るな ど,旧 来 の 雇 用 環 境 ・慣 行 は 劇 的 に変 化 して い る。1990年 代 中 葉 か ら の15年 を 通 じた グ ロー バ ル 化,IT化. の 進 展 に 伴 い,企 業 の 競 争 環 境 は 急 速 に変 化 した 。 戦 後. 日本 の 高 度 成 長 を 支 え た 終 身 雇 用,年 功 序 列,企 業 別 組 合,と い った 雇 用 制 度 は 過 去 の もの とな った が,一 ・ 方 で,そ の 後 の 市 場 主 義,成 果 主 義 人 事 制 度 等 へ の 反 省 もな され つ つ あ り, 今 日の 経 済 激 動 の 中 で 新 た な 制 度 が 模 索 され て い る。 今 日,日 本 の 職 業 人 は,自 身 の 価 値 観,職 業 経 験 と就 労 形 態 を 客 観 的 に認 識 し,計 画 し, 開 拓 して,キ. ャ リア を 自発 的 に形 成 す る こ とが 求 め られ て い る。 これ は 高 度 経 済 成 長 下 で の. 終 身 雇 用 を 前 提 と した 旧 来 の 日本 型 雇 用 ・人 事 制 度 の 下 で は 重 視 され て こな か った 論 点 で あ る。 本 稿 は,こ う した 日本 の 雇 用 ・労 働 環 境,人 事 政 策 の 変 化 を 検 討 し,キ ャ リア 形 成 と求 め られ る人 材 像 につ いて 考 察 す る もの で あ る。. キ ー ワー ド. 雇 用,労. 働,組. 織. 人 事 政 策,キ. ャリア. 原 稿 受 理 日2010年6月14日. Abstract. The global. recession,. revealed. many. underlying. Japan.. This also rendered. triggered. by "Lehman. issues around obsolete. such systems. seniority. system,. and the company. Japanese. post-war. rapid economic growth.. Japanese. professionals. their careers by identifying, pational. experience,. the employment reer formation. Key words. planning,. and working. /labor. unions,. and workers. conditions. Personnel. in some part,. that. 2008,. circumstances. in. employment,. the. had bolstered. the. as the lifetime. are challenged. to autonomously. build up. and developing their own sense of value, occu-. styles.. This paper is to study these changes. and personnel. and the models of human. Employment,. Shock" in September. the work/employment. policies of Japan,. resources.. policies,. Organization,. Career. in. and discuss ca-.

(2) 第57巻. 1.は. 2008年9月. 第1号. じ. め. に. の 米 証 券 会 社 大 手 リー マ ン ・ブ ラザ ー スの 破 綻 に端 を 発 す る金 融 不 安 は,世. 界 的 な 生 産 縮 小 と それ に伴 う雇 用 環 境 の 悪 化 を も た ら し,日 本 にお いて も企 業 の 生 産 ・収 益 の 縮 小 か ら,雇 用 環 境 を 急 速 に悪 化 させ た。 そ こで は,派 遣 労 働 者 の 雇 い止 め(契 約 更 新 止 め)な ど に よ る失 業 ・生 活 困 難 や 大 学 新 卒 生 の 内定 取 り消 しな ど,厳. しい雇 用 情 勢 を. 社 会 問 題 と して 顕 在 化 させ た。 しか し,こ う した雇 用 問 題 は,近 時 の 景 気 後 退 に よ る情 勢 悪 化 も さ る こ とな が ら,1990 年 代 以 降 の 日本 及 び世 界 的 な 雇 用 構 造 の 転 換 に起 因 す る と こ ろが 大 き い。 経 済 の グ ロー バ ル 化 と企 業 間 競 争 の 激 化,ネ. ッ トワー ク化 され た情 報 技 術(IT)の. 普 及,米 国 ス タ ン ダー. ドの 経 営 手 法 の 普 及 等,世 界 経 済 の 一 体 化 は,各 国 の 雇 用 構 造 に一 定 の 共 通 変 化 を もた ら して い る。 同時 に,雇 用 構 造 は各 国 の 社 会 構 造,企 業 形 態,文 化 に根 ざす と こ ろ も多 く, 日本 特 有 の ミク ロ,マ ク ロの 変 化 も見 られ る。 変 化 の 底 流 に は,少 子 高 齢 化 に よ る総 人 口 減 少 社 会 へ の 転 換 と い う,先 進 国 共 通 で あ りな が ら,各 国 特 有 の 社 会 構 造 の 変 化 が 基 底 に あ る こ と も明 らか で あ る。 1990年 代 を 通 じた,短 期 的 な成 果 を 求 め る株 式 市 場 の圧 力 に よ る企 業 経 営 の 変 化 に よ り,終 身 雇 用,年 功 序 列,企 業 別 組 合 と い う所 謂 「日本 型 雇 用 の3種 の 神 器 」 は過 去 の も とな り,雇 用 の 流 動 化,雇 用 形 態 の 多 様 化,能 力 主 義 ・成 果 主 義 人 事,企 業 倒 産 やM&A の 進 展 な ど,雇 用 環 境 も変 化 を 遂 げて い る。 同時 に,急 激 に変 化 す る経 済 ・社 会 環 境 の 下 で,個. 々の 就 労 者 の キ ャ リア形 成 も,個 人 の 主 体 性 が 強 調 され る よ う にな った 。 これ まで. の 企 業 戦 略 ・成 長 と一 体 化 した個 人 の キ ャ リア発 達 が 望 めな い以 上,旧 来 の 「企 業 依 存 型 」 社 員 か ら 「自律 ・自立 型 」 社 員 へ と,求 め られ る人 材 像 も変 化 して い る。 一 方 で ,1990年. 代 以 降,日 本 企 業 は,既 存 の 正 規 雇 用 者 の 雇 用 を 守 る こ とを 目的 に,雇. 用 コ ス トの 緩 衝 材 と して の 非 正 規 雇 用 者 の 雇 用 を拡 大 して きて い る。 期 間 工 等 の 非 正 規 雇 用 者 の 活 用 と い う雇 用 政 策 は従 来 よ り見 られ た もの で あ るが,特 新 卒 者 の 採 用 抑 制 に よ る 「ニ ー ト」 「フ リー タ ー」 問題,近. に2000年 代 に入 り,大 卒. 時 の 「内定 取 り消 し」 「派 遣 切. り」 な どの 社 会 問 題 を 提 起 して い る。 以 下 で は,マ ク ロの 経 済 ・雇 用 統 計 の 検 討 を 通 じて,日 本 の 雇 用 環 境 の 変 化 を 概 観 し, 近 時 の 雇 用 に お け る問 題 点 を 明 確 にす る と共 に,産 業 界 よ り求 め られ る人 材 像 につ いて, 各 種 提 言 及 び キ ャ リア理 論 を 紹 介 し,変 化 の 時 代 に お け る個 人 の キ ャ リア形 成 につ いて 検 一2(2)一.

(3) 産 業 ・雇 用 構 造 の 転 換 と求 あ られ る人 材 像(荒 川). 討 す る(1)。. 2.日. 2.1.経. 本 の 雇 用 ・就 労 環 境 の 現 状. 済 環 境 と雇 用 情 勢. リー マ ン ・ブ ラザ ー スの 破 綻 に象 徴 され る世 界 不 況 は,わ が 国 の 雇 用 環 境 の 変 化 を 社 会 問 題 と して も大 き く顕 在 化 させ た。 特 に男 性 ・若 年 及 び 中高 年 派 遣 労 働 者 へ の 影 響 が 注 目 され た。 経 済 環 境 の変 化 を 見 る と,2008年 悪 の14.4%減. 第3四 半 期GDPは13.5%減,第4四. と,日 本 経 済 は 急 激 に 縮 小 した 。 そ の 後,2009年. 半 期 に は戦 後 最. に第2四 半 期 よ り3期 連 続. の プ ラ ス成 長 へ と転 じた もの の,日 本 経 済 は6年 連 続 の プ ラ ス成 長 か ら,2008年 イ ナ ス3.7%,2009年. 度実質マ. 度 マ イ ナ ス2.6%へ と2年 連 続 の マ イ ナ ス成 長 へ と転 換 した(2)。. これ に伴 う雇 用 調 整 も急 速 で,有 効 求 人 倍 率 も2009年6月. に は0.44倍 と過 去 最 低 を 更 新. し,前 年 同 月 に比 べ て ほ ぼ半 減 して い る。 完 全 失 業 率 は2009年7月 記 録 したが,そ の 後5%前. 半 で 推 移 し,2010年1月. に5.6%と 過 去 最 悪 を. に は4.9%に 低 下 した。. その 後 の 外 需 と公 共 投 資 に支 え られ た急 速 な 生 産 回 復 は,(製 造 大 企 業 を 中心 に)企 業 業 績 と マ ク ロの 成 長 率 の 回 復 を 短 期 に も た ら して い る。2009年3月 心 に経 常 利 益 の大 幅 回復 が み られ た。2010年 のGDPは. 期 決 算 で は,大 企 業 を 中. 内 閣 府,民 間 経 済 予 測 機 関 と も に. 1.4%前 後 の プ ラス 成長 を 予 想 して お り,今 後 の雇 用 拡 大 が期 待 さ れ る。 しか し,V時. 回復. と いわ れ る急 速 な 企 業 収 益 の 改 善 の 一 方 で,生 産 規 模 は依 然 と して2007年 の8割 程 度 に と ど ま っ て い る(3)。 完 全 失 業 率 も2010年4月. 時 点 で5%台. で 推 移 して お り,厳 しい雇 用 情 勢. は予 断 を許 さな い。 こ う した2008年 後 半 以 降 の 景 気 の 急 激 な 悪 化 と雇 用 調 整 は,特 に非 正 規 雇 用 ・派 遣 労 働 者 の 就 労 ・生 活 の 困 難 を ク ロ ー ズ ア ップす る こ とを 通 じて,戦 後 日本 の 雇 用 構 造 の 変 化 と 課 題 を顕 在 化 させ た と いえ よ う。. (1)本 稿 は,受 理 後,第8回 韓 国 日本 学 総 合 会(韓 国 日本 学 会 ・第81回 学 術 大 会)に お い て 一 部 報 告 し,貴 重 な コ メ ン トを 頂 い た 。 韓 国 選 挙 研 修 院 ・高 選 圭 教 授,弘 益 大 学 校 ・金 雄 基 講 師 他 の 諸 先 生 に感 謝 す る。 (2)「 月 例 経 済 報 告 」 内 閣 府 平 成22年 各 月 。 「平 成22年 度 の 経 済 見 通 し と経 済 財 政 運 営 の 基 本 的 態 度 」 平 成22年1月22日 閣 議 決 定,等 。 (3)日 経NEEDS予 測2010年2月15日 一3(3)一.

(4) 第57巻 2.2失. 第1号. 業 率 の推 移 と構 造 変化. 日本 の 雇 用 統 計 に表 れ る数 字 自体 は,解 釈 の 余 地 も あ り,2009年 後 半 に失 業 率10%に した米 国 に比 べ れ ば 日本 の 失 業 率5%前. 達. 後 の 水 準 は 依 然 低 い と の見 方 も あ ろ う。 実 際,. 2009年 第1四 半 期 以 降,日 本 企 業 は所 謂 ワ ー ク シ ェ ア リ ング,つ ま り時 間 短 縮 を 通 じて, 米 国 流 の レイオ フや 解 雇 を伴 わ ず に雇 用 を守 っ た と い う側 面 も あ る。 米 国 で は景 気 指 標 と 失 業 率 に正 の 相 関 が あ り,そ れ に対 して 日本 の 雇 用 の 景 気 へ の 弾 力 性 が 低 い こ と は労 働 経 済 白書 等 の 分 析 が 指 摘 す る と こ ろで あ る④。 長 期 に見 る と,日 本 の 完 全 失 業 率 は,1994年 の 後 上 昇 し,1999年 以 降2000年 代 に は ほ ぼ4%を. まで2%台. の 水 準 で 低 位 安 定 して いた 。 そ. 越 え て 推 移 して い る。 この 時 期 は,米 国. 型 の株 主 重 視 の 経 営 が 注 目 さ れ,企 業 経 営 が カ ンパ ニ ー 制 や 執 行 役 員 制 度 の導 入,EVA 経 営(5>とい った,企 業 価 値 の 時 価 評 価 や 短 期 利 益 重 視 の 経 営 へ と変 化 を と げた 時 期 で も あ る。 ま た,1996年. の 企 業 の イ ン トラ ネ ッ ト ・ブ ー ム は企 業 の 情 報 技 術(IT)導. 入,情. 報. ネ ッ トワ ー ク化 を 加 速 し,瞬 時 ・大 量 の 情 報 流 通 が,企 業 行 動 ・ワー ク ス タ イル に変 化 を も た ら した。 樋 口美 雄(2009)は,1997,8年 の 特 徴 を,1)失. を 日本 の 雇 用 構 造 の 転 換 期 と して 位 置 づ けて い る(6)。 そ. 業 率 の 高 止 ま り,2)非. 正 規 雇 用 者 の 増 加,3)労. して 指 摘 して い る。 こ こで は,こ の う ち前2者. 働 市 場 の2極 化,と. につ いて 分 析 し,さ ら に若 年 失 業 の 現 状 と. 課 題 を考 察 す る。. 2.2.1失. 業率の上昇. 日本 の 失 業 率 は,戦 後 一一 貫 して2%台. に と ど ま って お り,欧 米 各 国,特 に 欧 州 諸 国 の. 10%を 超 え る高 失 業 率 と は際 立 っ た差 異 を 見 せ て い た。 企 業 業 績 の 悪 化 に伴 う正 規 雇 用 者 の 解 雇 は合 理 的 条 件 を満 た さな い限 り違 法 と され る判 例 は,先 進 国 で は最 も厳 しい と いわ れ る法 的保 護 を 日本 の 被 雇 用 者 に与 え て き た(7)。日本 の 特 に大 企 業 で は実 質 的 に正 規 雇 用 者 の解 雇 は ほ とん ど で き な い。 こ う した 条 件 下 で の長 期 雇 用 の 保 障 は,製 造 業 を 中心 と し,所 謂 「団 塊 の 世 代」(8)を 労 働 供 給 の主 要 な源 泉 と した,戦 後 の 高 度 経 済 成 長 期 に は,経. (4)「 平 成18年 度 労 働 経 済 白書 」 厚 生 労 働 省 (5)EVA(EconomicValueAdded)=(売 上 高 一営 業費 用 一税 金)一(投 下 資 本 ×資 本 コス ト) (6)「 我 が 国 の経 済 ・地 域 の 構 造 変 化 に 関 す る研 究 会 」 報 告 書2009年8月 財務省財務総 合政策 研究所 (7)整 理 解 雇 の4条 件:① 解 雇 の 必 然 性,② 解 雇 回 避 努 力 義 務,③ 解 雇 基 準 の 公 平 性,④ 労 働 者 へ の説明義務。 (8)1947∼49年. の 第 一 次 ベ ビー ブー ム 時 の 出生 世 代 。 最 大 の 同 一 世 代 人 口を 抱 え る。 -4(4)一.

(5) 産 業 ・雇 用 構 造 の 転 換 と求 あ られ る人 材 像(荒 川) 営 上 も 合 理 的 な シ ス テ ム で あ っ た 。 一 方,経. 営 者 は,こ. う した雇 用 調 整 の 困 難 な 中で 業 績. 低 下 や 社 内 人 事 構 成 の 変 化 に 対 応 して き た 。 八 代 尚 宏 は,1990年 要 減 少 へ の 対 応 と して,①. 慢 性 的 な 長 時 間 残 業 の 縮 減,②. 者 の 契 約 更 新 の 打 ち 切 り,の3点 完 全 失 業 率 は,バ た 後,再 5.4%を. 企 業 内 配 置 転 換,③. に3%を. 越 え,1997,8年. ニ バ ブ ル 崩 壊 と い わ れ た2000年. リ ー マ ン ・シ ョ ッ ク 後,急. 速 に 上 昇 し,2009年7月. 1月4.9%へ. ら に5月. 1997年 ∼2003年. に は5%台. に一 旦 落 ち着 きを 見 せ. 以 降 の2002,3年. 記 録 し た 。 そ の 後 の 景 気 の 持 ち 直 し に 伴 い4%前. と 低 下 し,さ. 非正規雇用. を 指 摘 して い る(9)。. ブ ル 崩 壊 後 の1995年. び 上 昇 し,ITミ. まで の 日本 企 業 の 雇 用 需. に過 去 最 高 の. 後 で 推 移 し て き た 。2008年. に 過 去 最 高 の5.6%に. の. 達 した 後,2010年. で 推 移 し て い る(1① 。. の 失 業 率 の 急 上 昇 期 と 前 後 して,企. 業経営者の雇用への姿勢の変化が指. 摘 さ れ て い る 。90年 代 以 降 の 米 国 型 経 営 の 浸 透 は,短. 期 の 収 益 追 及 と 株 主 ・株 価 へ の 配 慮. を 日 本 の 経 営 者 に も た ら し,こ. の 時 期,雇. が で き つ つ あ っ た と い わ れ る 。 特 に,企. 用 削 減 を 合 理 的 な 経 営 手 法 と して 称 揚 す る 風 潮 業 の 資 金 調 達 方 法 の 変 化 は,株. 行 動 へ の 圧 力 を 強 め た と も い え よ う 。 こ の 時 期,日. 式 市 場 か らの 経 営. 本 企 業 の 資 金 調 達 は,高. 度成長期の銀. 行 や グ ル ー プ 企 業 を 中 心 と し た 株 式 の 相 互 持 合 い に 代 表 さ れ る 間 接 金 融 か ら,グ 化 に 伴 う 一 般 市 場 や フ ァ ン ドか らの 直 接 金 融 へ 転 換 し た 。 ま た,そ 整 は 業 績 悪 化 の 表 出 と 見 られ 株 価 は 低 下 して い た が,1998年. ロー バ ル. れ まで は企 業 の 雇 用 調. 以 降 は雇 用 調 整 と株 価 は正 の. 相 関 を示 す よ う にな っ た。 こ の 時 期 以 降,正. 社 員 の 新 規 採 用 が 抑 制 さ れ る 一一 方 で,パ. 著 と な る 。 非 正 規 労 働 者 の 雇 用 は2007年. ー ト ・派 遣 労 働 者 の 増 加 が 顕. ま で 一 貫 して 増 加 して お り,そ. 者 は90年 代 後 半 か ら2000年 代 前 半 の 減 少 と,そ. の 後 の2004年. の一方で正規雇用. 以 降 の 増 加 を 示 して い る 。 こ. う し た 非 正 規 雇 用 の 増 加 を 八 代 は,「 雇 用 ポ ー トフ ォ リ オ の 変 化 」 と して 指 摘 して い る 。 正 規 雇 用 者 は 長 期 雇 用 に 伴 う 熟 練 に よ る 生 産 性 の 向 上 が 望 め る 一 方 で,雇 い,企. 用 調 整 に困 難 を 伴. 業 に と っ て は ハ イ リ ス ク ・ハ イ リ タ ー ンの 人 的 資 産 で あ る 。 一 方,雇. 用 調 整 は容 易. だ が 限 定 さ れ た 仕 事 しか で き な い 非 正 規 雇 用 者 は ロ ー リ ス ク ・ロ ー リ タ ー ン の 資 産 で あ る と い う 。90年 代 の 長 期 不 況 は,企 せ を 求 め,非 さ ら に,雇. 業 に こ う し た 「雇 用 ポ ー トフ ォ リオ 」 の 適 切 な 組 み 合 わ. 正 規 雇 用 者 の 増 加 を も た ら した。 用 調 整 の 速 度 を 見 る と,米. て い る の に 対 して,日. 本 で は4.0%か. 国 で は2008年5.1%か. ら5.1%と,変. (9)「 日本 的 労 働 市 場 改 革 の 方 向 性 」 八 代 尚 宏 ⑩ 「労 働 力 調 査 」 総 務 省 統 計 局 一5(5)一. ら2009年9.3%へ. 化 幅 で 見 て,日. と急 上 昇 し. 本 の 雇 用 調 整 は米 国 ほ ど. 一 橋 ビ ジネ ス レ ビ ュー2007年. 冬.

(6) 第57巻. 第1号. 景 気 に 弾 力 的 で は な い と も言 え る 。 し か し 同 時 に,日 1998年2001年. は3年. 本 の 失 業 率 の 約0.9%上. か か っ て い た の に 対 し て,2008-09年. は1年. で1.1%上. 昇 す るの に 昇 して い る。. リ ー マ ン ・シ ョ ッ ク 後 の 雇 用 調 整 は 日 本 で も 急 激 で あ っ た こ と が わ か る 。. 2.2.2雇. 用構造の変化. 1990年 代 前 半 ま で は 日 本 の 雇 用 者 の8割 の ピ ー ク で あ る1997,8年. は所 謂. 「正 規 雇 用 者 」 で あ っ た 。 正 規 雇 用 者 数. の 正 規 雇 用 者 数 は,約3,800万. 人 。 そ の 後,2008年. 人 に ま で 減 少 して い る 。 一一 方,「 非 正 規 雇 用 者 」(ll)は1997,8年 は 約1,760万. 人 に ま で 増 加 し,雇. 用 者 の34.1%に. 達 し た 。3人. の 約1,100万 に1人. に は 約3,300万 人 か ら2008年. に. が 非 正 規 雇 用 者 とな っ. た。 こ う し た 非 正 規 雇 用 者 の 構 成 は,パ 嘱 託,そ. ー トタ イ マ ー,ア. ル バ イ ト,派 遣 労 働 者,契. の 他 に 分 類 さ れ る 。 い ず れ も 有 期 雇 用 者 で あ る 。1997年. 心 と す る 短 時 間 労 働 の パ ー トタ イ マ ー,ア. ル バ イ トの 増 加 は,雇. 業 選 択 肢 を 拡 大 す る も の で も あ っ た 。 しか し,1998年 を 中 心 と し た パ ー トタ イ マ ー の 増 加 と 同 時 に,男. 約社員 ・. 頃 ま で の 主 婦 ・若 者 を 中 用 形 態 の 多 様 化 と して 就. 以 降 の 非 正 規 雇 用 者 の 増 加 は,女. 性 を 中 心 と し た 派 遣 労 働 者,フ. 性. リー タ ー. の 増 加 が 顕 著 で あ る 。 特 に 企 業 の 固 定 費 で あ っ た 「人 件 費 の 変 動 費 」 化 の 手 段 と して,ま ず,バ. ブ ル 崩 壊 後 の 大 学 新 卒 採 用 の 抑 制 で 就 職 氷 河 期 に あ っ た 若 年 層 が,ま. (派 遣 対 象 職 種 の 原 則 自 由 化1999年,派 遣 の 上 限3年. 遣 契 約 期 間 の 上 限 の3年. へ の 延 長2007,等)に. よ る 派 遣 労 働 者 が,急. イ トで 生 計 を 立 て る 若 年 労 働 者=フ. リー タ ー は,1997年. に 増 加 し社 会 問 題 と な っ た 。 各 種 対 策 に よ り2007年 常 用 換 算 派 遣 労 働 者 は,2004年89万. 人 か ら2007年. 非 正 規 雇 用 者 数 の 増 加 を 見 る と,女 か る 。 同 時 に,派 が 多 く,ま. 遣 労 働 者,契. へ の 拡 大2004年,製. 制緩和 造業派. 速 に 増 加 した 。 卒 業 後 も ア ル バ の151万 人 か ら2003年. に は217万 人. に は181万 人 ま で 減 少 し て い る 。 一・ 方,. ま で に174万 人 ま で 拡 大 し て い る ⑫。. 性 の 増 加 を 上 回 る 形 で 男 性 が 増 加 して い る こ と が わ. 約 社 員 ・嘱 託 の 労 働 時 間 は 正 規 雇 用 者 と 同 程 度 で あ る こ と. た パ ー トタ イ マ ー の 中 に も 常 用 型 パ ー トタ イ マ ー が 含 ま れ る 。90年 代 以 前 は 正. 規 社 員 が 担 当 して い た 職 務 を,こ トタ イ マ ー が 担 う こ と で,企. ω. た,規. れ ら雇 用 者 の3%程. 度 を 占 め る派 遣 労 働 者 や 常 用 型 パ ー. 業 は 景 気 の 変 動 に 感 応 して 雇 用 を 変 動 さ せ,人. 件費を コン ト. 「非 正 規 雇 用 者 」:正 規/非 正 規 雇 用 者 とい う統 計 上 の 設 定 はな い 。 「正 規 雇 用 者 」とは 企 業 に よ る無 期 限 の雇 用 そ の 他 の 保 障 を得 る こ とが で き る労 働 者 とい う こ とを 含 意 して い る。 「 非 正規雇. 用 者 」 は そ れ 以 外 の 労 働 者 で あ るが,本 稿 で は,パ ー ト ・ア ル バ イ ト,契 約 社 員,派 遣 労 働 者, 嘱託等の有期雇用労働者を指す。 ⑫ 「平 成20年 度 労 働 者 派 遣 事 業 報 告 の 集 計 結 果 につ い て 」 厚 生 労 働 省2009年11月26日 一6(6)一.

(7) 産 業 ・雇 用 構 造 の 転 換 と求 あ られ る人 材 像(荒 川) ロ ー ル す る 構 造 を 形 成 して き た と 考 え られ る 。 前 節 で 指 摘 し た よ う に,正 し,非. 規労働者を温存. 正 規 労 働 者 で 雇 用 需 要 の 変 動 に 対 応 す る と い う 「雇 用 ポ ー トフ ォ リオ 」 の 組 み 換 え. 構 造 が 形 成 され た。 実 際,2009年1-3月 80万 人,女. 期 の 非 正 規 雇 用 者 の 構 成 を 見 る と,パ. 性 は708万 人 と,女. 性 が 圧 倒 的 多 数 を 占 め て い る。 一 方,派. 人,女. 性78万 人 で あ る 。 リ ー マ ン ・シ ョ ッ ク後 の2009年1-3月. と,ま. ず,パ. で あ り,こ は36%減. ー トタ イ マ ー の う ち 男 性 は 約. ー ト ・女 性 の22万 人 減 少 が 最 大 で,つ. 遣 社 員 は 男 性28万. 期 の 前 年 同期 比 増 減 を 見 る. い で 派 遣 労 働 者 ・男 性 の21万 人 の 減 少. の 二 形 態 が 他 の 雇 用 形 態 か ら群 を 抜 い て 減 少 数 が 多 い 。 特 に 男 性 の 派 遣 労 働 者. 少 と 急 激 な 雇 用 調 整 対 象 と さ れ て お り,そ. の 状 況 の 厳 し さ が 伺 え る 。 一 方 で,女. 性 の ア ル バ イ ト,契 約 社 員 ・嘱 託 数 は む し ろ 増 加 す る な ど,こ. う した 層 が 雇 用 調 整 に よ る. 業 務 停 滞 の シ ョ ッ ク ア ブ ソ ー バ ー に な っ た と も 考 え られ る 。. 2.2.3産. 業 構 造 と雇 用 構 造. リー マ ン ・シ ョ ック後 の 失 業 は,雇 用 構 造,産 業 構 造,社 会 構 造 の 変 化 を 背 景 と して, その 深 刻 度 を増 した と考 え られ る。 失 業 者 の 離 職 理 由 を見 る と,勤 め先 都 合 に よ る失 業(非 下 傾 向 に あ っ た もの が2008年9月. 自発 的 失 業)が,2004年. 以 降 急 増 し,同 月85万 人 か ら2009年7月. 以降低. に は170万 人 で. ピー ク に達 した 。 そ の 後12月 に は104万 人 に低 下 して い る。 非 自発 的 失 業 は,勤 め先 に よ る正 社 員 の 解 雇,倒 産 と と もに,非 正 規 労 働 者 の 雇 い止 め,契 約 解 消 を含 ん で い る。 ま た, 完 全 失 業 者 の う ち世 帯 主 が74万 人 と21ケ 月 連 続 で 増 加 して お り,そ の 深 刻 度 も増 して い る と思 わ れ る。 一 方 ,男 女 の 雇 用 状 況 を 見 る と,失 業 率 は1998年 以 降,女 性 が 男 性 を 下 回 って お り,女 性 の 男 性 に比 べ た雇 用 の 安 定 性 は,長 期 的 な 産 業 構 造 の 変 化 と して 指 摘 され て い る。1998 年 以 降,男 性 の 雇 用 者 数 は全 体 と して 景 気 に対 応 して 増 減 して い るの に対 し,女 性 の 雇 用 者 数 は 一 貫 して 増 加 して き て い る。 リー マ ン ・シ ョ ック 後 の 傾 向 を 就 業 者 数 で 見 て も, 2009年12月 に は,男 性 が 前 年 同月 比82万 人 の 減 少 で あ るの に対 して 女 性 は 同26万 人 の 減 少 に と ど ま って い る。 こ う した女 性 の 就 業 の 安 定 性 は,2000年. 代 に入 り,産 業 構i造の 転 換 が,就 業 構i造に影 響. を与 え た もの と考 え られ る。 産 業 別 就 業 構 造 を 見 る と,2003年. 以 降,建 設 業 就 業 者 が 一 貫. して 減 少 して い るの に対 して,医 療 ・福 祉 分 野 の 就 業 者 は一一 貫 して 増 加 して い る。 また, 製 造 業 が 景 気 変 動 に よ り就 業 者 数 の 増 減 を 繰 り返 す の に対 して,サ ー ビ ス業,情 報 通 信 業 一7(7)一.

(8) 第57巻. 第1号. は お おむ ね 増 加 傾 向 に あ っ た。2009年12月 時 点 で,医 療 ・福 祉 の 就 業 者 は628万 人 で あ り, 建 設 業 の526万 人 を上 回 って い る。 建 設 業 や製 造 業 の 重 厚 長 大 産 業 は,こ れ ま で男 性 の 就 業 比 率 の高 い産 業 で あ る。 そ のGDP構. 成 上 の 比率 の低 下 と,医 療 ・福 祉,サ ー ビ ス産 業. を 中心 と した産 業 の 拡 大 は,女 性 の 就 業 可 能 性 を 拡 大 して い る。 そ の 一 方 で,産 業 構 造 の 転 換 は製 造 業 ・建 設 業 の 男 性 労 働 者 の失 業 を加 速 した も の と考 え られ る⑱。 男 性 ・派 遣 労 働 者 に顕 著 に現 れ る雇 用 調 整 は,こ う した 日本 の 産 業 構 造 の 転 換 が もた ら した もの で あ る と も考 え られ る。. 2.2.4雇. 用 構 造 の 転 換 と問 題 点. 近 年 の 雇 用 構 造 の 転 換,特. に非 正 規 労 働 者 の 拡 大 に よ る雇 用 調 整 は,さ ら に長 期 的 な 社. 会 問 題 を提 起 して い る。 年 齢 階 層 別 失 業 率 を見 る と,1998年. か らの10年 を見 て も15歳 か ら24歳 の 若 年 層 の 失 業 率. が 群 を抜 いて 高 く,次 いで,男 性 で は55-64歳,女. 性 で は25-34歳 の 失 業 率 が 高 い傾 向 に あ. る。2009年12月 時 点 で も,総 数 で は 完 全 失 業 率4.8%で 8.4%,25-34歳6.1%,55-64歳4.7%と. は あ る が,男 女 総 計 で15-24歳. 若 年 層 と 中高 年 層,特. に若 年 層 の失 業 率 の 高 さが 際. 立 って い る。 こ う した若 年 失 業 者 の 問 題 は,ニ ー ト ・フ リー ター と して 注 目 され,そ の 対 策 が 講 じ られ て き た(14)。 こ う した若 年 層 の失 業 は,教 育 訓 練 機 会 の 喪 失 とそ れ に よ る就 業 機 会 の 喪 失 と い う悪 循 環 を も た ら し,ひ いて は 日本 の 労 働 力 の 質 ・量 の 低 下 を もた らす 極 めて 重 大 な 問 題 で あ る。 既 に述 べ た よ う に,日 本 企 業 は1990年 代 を 通 じて,人 件 費 の 変 動 費 化 を 図 り,非 正 規 雇 用 者 の 拡 大 と雇 用 者 の 階 層 化 を 進 めて き た。 それ は高 度 成 長 期 に形 成 され た 年 功 序 列 に よ る評 価 ・報 酬 シ ス テ ム の 限 界 へ の対 応 と い う側 面 もあ る。 長 期 ・終 身 雇 用 を 前 提 と した 「ヒ トあ りき」 か ら,欧 米 ア ン グ ロサ ク ソ ン流 の 「ポ ジ シ ョ ンあ りき」 の 思 想 へ の転 換 で あ り,年 功 賃 金,職 能 資 格 制 度 に よ る報 酬 か ら年 俸 制 等 の 成 果 主 義 へ の 移 行 の 試 み で あ っ た。 正 規 雇 用 者 の 職 務 を非 正 規 雇 用 者 に代 替 させ る と い う企 業 施 策 は,賃 金 ・年 収 の 格 差 と教 育 投 資 に 顕 著 に表 れ る。 正 規 社 員 の平 均 年 収 は40-50歳 代 で最 高 段 階 に達 す る傾 向 に あ り,上 位 層 で は 平 均800万 円 台 に上 昇 す るの に対 して,パ ー トタ イ マ ー ・ア ルバ イ トの 年 間 収 入 は一 生 を 通 じて300万 円以 下 で あ る⑮。 ⑱ ω ㈲. 総 務 省 は 「労 働 力 調 査 」の 産 業 別 就 業 者 数 の 産 業 項 目を2009年 以 降,詳 細 化 して お り,特 にサ ー ビス 業 の 分 類 に注 意 が 必 要 で あ る。 こ こで は 傾 向 を 述 べ るに と どめ る。 リー マ ン ・シ ョ ック後 の 政 府 施 策 につ いて は山 下 孝 久(2010)を 「平 成18年 度 労 働 経 済 白書 」 厚 生 労 働 省 一8(8)一. 参照。.

(9) 産 業 ・雇 用 構 造 の 転 換 と求 あ られ る人 材 像(荒 川) 一方. ,企. 業 内 教 育 に 関 して も,正. 規 雇 用 者 ・非 正 規 雇 用 者 へ のOFF-JT,OJTの. 企 業 の 比 率 は,そ れ ぞ れ 正 規 雇 用 者OFF-JT60.1%,OJT48.9%に OFF-JT17.4%,OJT18.3%と. 占 め る 一 方 で,職. 業 生 活 の 設 計 主 体 に 関 す る 意 識 で は,正. 「自 己 開 拓 」 と 答 え て い る の に 対 し て,非. で あ る 。 非 正 規 雇 用 者 で は 「わ か ら な い 」 と の 回 答 が29.9%と た 能 力 開 発,キ 要 性 か ら して,若. 正規雇用者. 大 きな 格 差 が あ る。 職 務 能 力 の 開 発 の 責 任 は企 業 に あ る と. す る 企 業 が 依 然 と して65%を 雇 用 者 の41.7%が. 対 して,非. 実施. 正 規 雇 用 者 は21.7%と. 規. 低 水準. 高 率 を 示 して い る(1④ 。 こう し. ャ リア開 発 意 識 は就 業 可 能 性 の 大 きな 要 素 とな る。 若 年 時 の 能 力 開 発 の 重 年 層 の 失 業 率 の 高 さ は 今 後 の 日 本 企 業 ・産 業 の 競 争 力 の 低 下 に つ な が る. 重 大 な 問 題 で あ る と いえ よ う。. 3.キ. 3.1.キ. ャ リア形 成 の 理 論 と現 状. ャ リア形 成 の考 え 方. 1990年 代 以 降 の 長 期 不 況 の 中で,日 本 の 企 業 の 雇 用 構 造,人 事 制 度 の 転 換 と と も に,求 め られ る人 材 へ の 要 請 も転 換 を 遂 げ た。 その 間,就 職 氷 河 期 と いわ れ る大 学 新 卒 採 用 の 低 迷 期 を通 じて,産 官 学 連 携 の 下,学 校 後 社 会 で の 必 要 能 力 要 件 と して 個 別 ス キル の 整 理 が 行 わ れ て き た 。 ま た,欧 米 を 中心 とす る キ ャ リア理 論 にお い て も,「 イ ンテ リ ジ ェ ン ト ・ キ ャ リア」 「バ ウ ンダ リー レス ・キ ャ リア」 とい わ れ る よ うに,急 激 に 変 化 す る外 的 環 境 の 中で,外 的 環 境 にオ ー プ ンで,変 化 に柔 軟 に形 成 され る キ ャ リアへ と視 点 の 変 化 が 見 ら れ る。 キ ャ リアの 包 括 的 定 義 と して は,金 井(2007)の. 定 義 が あ げ られ る。 つ ま りキ ャ リア と. は 「人 生 全 般 を基 盤 に して 繰 り広 げ られ る,長 期 的 な 仕 事 生 活 に お け る,具 体 的 な 職 務 ・ 職 種 ・職 能 で の 「諸 経 験 の 連 続 」 と 「節 目で の 選 択 」 が 生 み 出 して い く,回 顧 的 展 望 と将 来 構 想 の 意 味 生 成 ・パ タ ー ン」 で あ る。 この よ う に キ ャ リア と は職 業 生 活 を 中心 と しつ つ 人 生 全 般 を視 野 に入 れ た選 択 と経 験 の 積 み 重 ね で あ る。 こ う した キ ャ リアの 選 択 と経 験 の 蓄 積 に あ た って,特. に2000年 以 降,様. 々な 理 論 的 提 言 が な され て きた 。 日本 にお け るキ ャ. リア論 の 展 開 は,「 節 目 ご と の キ ャ リ ア デ ザ イ ン」(金 井)や,ク. ラ ンボ ル ツ を 援 用 した. 「計 画 され た 偶 発 性 」 と 「日常 の ジ ョブ ス トレ ッチ」(花 田,高 橋)が 注 目 され る⑰。 こ う した キ ャ リア理 論 の 諸 説 は,よ. り効 果 的 な 行 動 特 性(コ. ⑯ 「平 成17年 度 能 力 開 発 基 本 調 査 」 総 務 省 qの 「働 く人 の た め の キ ャ リアデ ザ イ ン」 金 井 壽 宏2008年PHP新 一9(9)一. ン ピテ ン シー)に つ いて の 提 言 で. 書.

(10) 第57巻. 第1号. あ る と いえ る。 常 時 変 化 す る環 境 の 中で よ り満 足 度 の 高 い キ ャ リア あ る い は 自己 形 成 を と げ る人 に共 通 す る行 動 特 性 と して 提 示 され て きた 。 特 に2000年 以 降,キ. ャ リア 論 の 潮 流. は,変 化 の 時 代 に お いて よ り柔 軟 に リス ク を チ ャ ン ス と して 活 用 しつ つ 発 達 す る 自我 の 形 成 に注 目 して い る。. 3.2.求. め られ る人 材 像. 一 方 ,産 業 界 を 中心 に特 に若 年 層 を 対 象 と した職 業 人 と して の 能 力 要 件 に関 す る提 言 が 提 出 され て き た。 経 済 産 業 省 研 究 会 の 提 出 した 「社 会 人 基 礎 力 」(⑧ は 業 界 別 の詳 細 な 適 用 可 能 性 報 告 も あ り,広 範 に援 用 され て い る。 こ う した基 礎 力 概 念 は,個 別 要 件 に分 解 され て 個 々 に対 応 ・ 養 成 され るべ くカ リキ ュ ラ ム形 成 が 行 わ れ て き た。 「社 会 人 基 礎 力 」と は,経 済 産 業 省 の 定 義 に従 え ば 「職 場 や 地 域 社 会 の 中で 多 様 な 人 々 と と も に仕 事 を行 って い く上 で 必 要 な 基 礎 的 な能 力 」 で あ り,「前 に 踏 み 出す 力(ア. ク シ ョ ン)」 「考 え抜 く力(シ. ンキ ン グ)」 「チ ー. ムで 働 く力(チ ー ム ワー ク)」の 三 つ の 能 力 か らな る。 本 概 念 は,諏 訪 ⑲ の指 摘 す る よ うに, あ くまで 「基 礎 力 」 で あ り,人 間性 や基 本 的生 活 習慣 の上 に立 って,他 の 「基 礎 学 力 」 「専 門 知 識 」とい った能 力 が発 現 す る た め の基 礎 的能 力 で あ る。 個 々 の要 件 の個 別 充 足 よ り も, 他 の 要 件 の 発 現 を 支 え る,ま さ に基 礎 で あ るべ き力 で あ る。 一 方 ,産 業 界 ・企 業 の 求 め る人 材 要 件 と して,日 本 経 団連 は 「知 力」 「行 動 力 」 と と も に 「志 と心」 を挙 げ て い る⑳。 こ こで は,「 知 力 」 は基 礎 学 力,論 理 性,戦 略 性,専 門 性 と 表 現 さ れ,ま た,「 行 動 力 」 は 実 行 力,コ. ミ ュニ ケ ー シ ョ ン能 力,情 報 収 集 能 力,プ. ンテ ー シ ョ ン能 力 と表 現 さ れ て い る。 一・ 方,「 志 と心 」 は,人 間 性,倫 理 観,社 任 感,職 業 意 識 の 高 さ,と. レゼ. 会 性,責. して ま と め られ た。 前 二 者 が,個 人 に閉 じた 能 力 で あ るの に対. し,「志 と心」 は,他 者 と の 関係 性,社 会 の 中 で の 役 割 認 知 に 深 く関 わ る。 企 業 等 の 組 織 の 中で,各 成 員 は 自 らの 役 割 を 認 知 し,課 業(タ. ス ク)を 通 じて 他 者 へ の 責 任 を 果 た す こ. とが 求 め られ る。 道 徳 心 ・職 業 意 識 ・責 任 感 等 の 用 語 で 表 現 され る 「心 と志 」 と は,役 割 認 知 に基 づ く自 己意 識 の 開 発 能 力 で あ る と も いえ よ う。 こ う した視 点 は,既 に著 者 が 指 摘 した よ うに(2008),道. 徳 性 の 発 達 段 階 に お け る 「認 知 能 力」 と 「役 割 取 得 能 力 」 の 発 達. と して解 釈 す る こ とが で き よ う。 「認 知 能 力 」 と は,世 界 を知 り,自 分 と世 界 の 関係 の 均. ⑧ 9 ① q q ⑦. 「社 会 人 基 礎 力 に 関 す る研 究 会 中 間 報 告 書 」 経 済 産 業 省2006年2月 「RIETIセ ミナー 資 料 」 諏 訪 康 雄2006年4月 「21世紀 に生 き抜 く次 世 代 育 成 の た め の 提 言 」 日本 経 団 連2004年4月 一10(10)一.

(11) 産 業 ・雇 用 構 造 の 転 換 と求 あ られ る人 材 像(荒 川). 表1社 分. 類. 前 に踏 み 出す 力 (ア ク シ ョン). 考 え 抜 く力 (シ ンキ ン グ). 会人基礎力の能力要素. 能力要素. 内. 容. 主体性. 物 事 に進 ん で 取 り組 む 力 例)指 示 を 待 つ の で はな く, 自 らや るべ き こ とを 見 つ け積 極 的 に 取 り組 む. 働 きか け力. 他 人 に働 きか け巻 き込 む 力 例)「 や ろ う じ ゃな い か 」 と 呼 び か け 目的 に 向 か って 周 囲 の人 を 動 か して い く. 実行力. 目的 を 設 定 し確 実 に行 動 す る力 例)言 わ れ た こ とを や るだ けで な く自 ら 目標 を 設 定 し,失 敗 を 恐 れ ず 行 動 に移 し,粘 り強 く取 り組 む 。. 課題発見力. 現 状 を 分 析 し 目的 や 課 題 を 明 らか にす る力 例)目 標 に向 か って,自 ら 「こ こ に問 題 が あ り, 解 決 が 必 要 だ 」 と提 案 す る。. 計画力. 課 題 の 解 決 に向 けた プ ロセ ス を 明 らか に し準 備 す る力 例)課 題 の 解 決 に向 けた 複 数 の プ ロセ ス を 明 確 に し,「そ の 中 で 最 善 の もの は 何 か 」 を 検 討 し,そ れ に 向 けた 準 備 を す る。. 創造力. 新 しい 価 値 を 生 み 出 す 力 例)既 存 の 発 想 に と らわ れ ず, 課 題 に対 して 新 しい 解 決 方 法 を 考 え る。. 発信力. 自分 の 意 見 を わ か りや す く伝 え る力 例)自 分 の 意 見 を 分 か りや す く整 理 した 上 で, 相 手 に理 解 して も ら う よ う に的 確 に伝 え る。. 傾聴力. 相 手 の 意 見 を 丁 寧 に聴 く力 例)相 手 の 話 しや す い 環 境 を つ くり, 適 切 な タイ ミン グで 質 問 す るな ど相 手 の 意 見 を 引 き出 す 。. 柔軟性. 意 見 の 違 い や 立 場 の 違 い を 理 解 す る力 例)自 分 の ル ー ル や や り方 に 固 執 す るの で は な く, 相手の意見や 立 場 を 尊 重 し理 解 す る。. 情況把握力. 自分 と周 囲 の 人 々や 物 事 との 関 係 性 を 理 解 す る力 例)チ ー ムで 仕 事 を す る と き,自 分 が どの よ うな 役 割 を 果 た す べ きか を 理 解 す る。. 規律性. 社 会 の ル ー ル や 人 との 約 束 を 守 る力 例)状 況 に応 じて,社 会 の ル ー ル に則 って 自 らの 発 言 や 行 動 を 適 切 に 律 す る。. チ ー ム で 働 く力 (チ ー ム ワ ー ク). ス トレ ス コ ン トロー ル カ. ス トレス の 発 生 源 に対 応 す る力 例)ス トレ スを 感 じる こ とが あ って も,成 長 の 機 会 だ と ポ ジテ ィ ブに 捉 え て 肩 の 力 を 抜 い て 対 応 す る。. 出所)「 社 会 人 基 礎 力 に 関 す る研 究 会 一 中 間 取 り ま とめ 一 」 経 済 産 業 省2006年1月. 衡 化 を 図 る知 的 能 力 で あ り,「 役 割 取 得 能 力」 と は,自 身 と 同様 に他 者 の 思 考 や感 情 を 推 し量 り,受. け 入 れ,調. 整 し,他 者 と の 関 係 を 構 築 す る 能 力 で あ る 。R.コ. ー ル バ ー グ は,こ. の 二 つ の 能 力 が 同時 に発 達 して 初 めて 道 徳 性 の 向 上 が 見 られ る と主 張 す る。 様 々な 他 人 と 協 働 す る就 業 環 境 の 下 で は,知 的 能 力 と して の 「認 知 能 力 」 だ けで はな く,社 会 の 中で 自 分 以 外 の 他 者 を認 識 し,尊 重 す る 「役 割 取 得 能 力 」が 重 要 とな る。 こ う した 「道 徳 性 」 は, 一11(11)一.

(12) 第57巻. 第1号. 実 務 就 労 に お け る 自他 の 「信 頼 」 へ とつ な が り,特 に グ ロー バ ル 化 し,様 々 な 要 員 の 協 働・ 協 力 関係 の構 築 を要 す る現 在 の企 業 環 境 で は特 に重 要 な能 力 で あ る とい え よ う。 ま た。 情 報 技 術 の 普 及 に よ る組 織 構 造 の フ ラ ッ ト化 や 裁 量 労 働 制 等 の 分 散 自律 型 就 労 形 態 の 普 及 の 中で の 就 労 に は,死 活 的 に重 要 な 要 件 ⑫1)で あ る。. 4.展. 望. と 課 題. 2008年 末 に文 部 科 学 省 ・中央 教 育 審 議 会 は,学 士 力 を 再 定 義 し,グ ロー バ ル 化 した 変 化 の 時 代 に対 応 す る大 学 教 育 の あ り方 に 関 す る提言 を 提 出 した⑳。 提 言 の 中心 は,日 本 の 大 学 生 の 習 得 す べ き能 力=「 学 士 力」㈱ と大 学 教 育 の再 定 義,そ して 国 際 的 に通 用 す る透 明 で 明 確 な学 位 基 準 の 設 定,で. あ る。 特 に前 者 につ いて,21世. 紀 型 市 民 にふ さわ しい学 習 成 果. の 達 成 を求 め,大 学 教 育 に 「何 を教 え るか 」 よ りも 「何 が で き る よ う にな るか 」 に力 点 を 置 くよ う に求 めて い る。 つ ま り,知 識 の 活 用 能 力 や 創 造 性,生 涯 を 通 じて 学 び続 け る基 礎 的 能 力 の 獲 得 が 国 際 的 に求 め られ て い る と し,こ う した能 力 の 養 成 を 求 めて い る。 これ ま で の 産 業 界 か らの 即 戦 力 論 議 に翻 弄 され た大 学 教 育 界 を 戒 め る形 で,産 業 界 が 求 め る能 力 も課 題 探 求 力 や 汎 用 性 あ る基 礎 的 能 力 で あ る と明 言 して い る。 本 提 言 の 求 め る教 育 の 方 向 性 は,実 は これ まで の 産 業 界 か らの 提 言,学 会 に お け る キ ャ リア論 の 展 開 と軌 を 一 に し, それ を踏 まえ た もの で あ り,漸 く教 育 界 か らも,所 謂,実 社 会 に お いて 本 来 必 要 な 能 力 要 件 へ の 認 識 が 高 ま っ た もの と いえ る。 雇 用 構 造 が 変 化 し,企 業 の 競 争 環 境 が 急 速 に変 転 す る今 日 に あ って,変 化 の 時 代 に求 め られ る もの は,自 分 の キ ャ リアを 一 定 方 向 に高 め続 け る力,新. たな ラ イ フ キ ャ リアを 模 索 し続 け る力,で. あ る と いえ よ う。. 産 業 構 造 が 変 化 し,企 業 の 雇 用 政 策 が 変 化 す る 中で,雇 用 支 援 策 は,企 業 に対 す る雇 用 創 出支 援 と,労 働 者 へ の 職 業 転 換 へ 向 け た能 力 開 発 ・教 育 支 援 を,両 輪 と して 展 開 す る必 要 が あ る。 産 官 学 の 連 携 の 下,特. に若 年 層 へ の キ ャ リア教 育 及 び汎 用 的 基 礎 教 育,さ. らに. は就 業 後 の 職 業 ・技 能 教 育 の 環 境 整 備 が 求 め られ る。. ⑳ ⑳ ⑬. 「エ ン プ ロイ ア ビ リテ ィ(被 雇 用 能 力)」 の 検 討 の 多 くは依 然,ス キ ル 要 件 に と どま って い る。 「学 士 課 程 教 育 の 構 築 に向 けて 」 中 央 教 育 審 議 会 答 申 文 部 科 学 省2008年12月 「学 士 力 の参 考 指 針 と して 答 申 は,① 知 識 ・理 解,② 汎 用 的技 能,③ 態 度 ・志 向性,④ 総 合 的 な 学 習 経 験 と創 造 的 思 考 力,と して 整 理 して い る。 -12(12)一.

(13) 産 業 ・雇 用 構 造 の 転 換 と求 あ られ る人 材 像(荒 川). 参. 樋 口美 雄(2009)『. 考. 文. 献. 日本 の 雇 用 構 造 の 変 化 』(「わ が 国 の 経 済 ・地 域 の 構 造 変 化 に 関 す る研 究 会 報 告 書 」. 所 収)財 務 総 合 研 究 所 大 久 保 幸 夫(2009)『. 日本 の 雇 用 」 講 談 社 現 代 新 書. リクル ー トワー ク ス研 究 所(2009)『. 雇 用 の 現 状2009年 版 』 同. リクル ー トワー ク ス研 究 所(2010)『. 雇 用 の 現 状2010年 冬 号 」 同. 総 務 省 統 計 局(2009年)『. 研究所 研究所. 労 働 力 調 査 』(基 本 調 査,詳 細 調 査,及 び 長 期 時 系 列 デ ー タ). 八 代 尚宏(2007)『. 日本 的 労 働 市 場 改 革 の 方 向 性 」 一・ 橋 ビ ジネ ス レ ビ ュー2007年 冬. 山下 孝 久(2010)『. 雇 用 の 現 状 と雇 用 対 策 等 を め ぐる問 題 』(「立 法 と調 査 」 所 収). 金 井 壽 宏(2008)『. 働 く人 の た め の キ ャ リア デ ザ イ ン」PHP新. 経 済 産 業 省 研 究 会(2006)「 日本 経 団 連(2004)『21世 荒 川 一 彦(2008)「. 社 会 人 基 礎 力 に 関 す る研 究 会. 書. 中間報告書』経済産業省. 紀 に生 き抜 く次 世 代 育 成 の た め の 提 言 」 日本 経 団 連. 大 学 生 の キ ャ リア意 識 形 成 に 関 す る一 考 察 」(「人 材 育 成 学 会 第6回 年 次 大 会 報 告. 論 文 集 」 所 収)人 材 育 成 学 会 L。 コー ル バ ー グ. 岩 佐信 道(訳)(1987)『. 中央 教 育 審 議 会 答 申(2008)「. 道 徳 性 の発 達 と道 徳 教 育 」 広 池 学 園 出版 部. 学 士 課 程 教 育 の 構 築 に向 けて 」 文 部 科 学 省.

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参照

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