プロジェクトチーム・リーダーシップの再検討
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(2) 36. (710). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 6 号(2008年 2 月). 当する作業遂行中に抱える問題解決に有効な外. が多数存在するときの組織活動方針の決定要因. 部情報探索と支援,そして,プロジェクトチー. として,上述の社会ネットワーク研究と共通す. ムメンバー間の活動調整が, 「公式の」 プロジェ. る「情報提供」を挙げており,本稿の検討を進. クトリーダーだけでなく,プロジェクトチーム. める上で具体的手掛りを提供していると思われ. メンバー全員の分担により達成されていること. る.第 3 に,プロジェクトチームのリーダーシッ. が 実証結果 で 示 さ れ て い る(e.g., Allen, 1984;. プ研究における主流の見方で検討対象とされて. Ancona & Caldwell, 1992; Roberts & Fusfeld,. こなかったフォロワーがリーダーを選択すると. 1981) .このように,主流の見方における研究. いう見方を提示している.つまり,「分散型リー. と社会ネットワーク研究で行われているように. ダーシップ」の見方は,プロジェクト遂行過程. プロジェクト活動に関わる個人の役割行動に注. の「情報の流れ」に注目することで,現在主流. 目するとき,プロジェクトチーム内にリーダー. の見方とは異なるプロジェクトチーム・リー. が多数存在し,プロジェクトチームのリーダー. ダーシップ検討への見方があり得ることを示唆. シップが成果達成に向けてどのように発揮され. し て お り,今後 の プ ロ ジェク ト チーム・リー. ているのかを理解することに困難をもたらすと. ダーシップ検討にどのような見方が妥当である. 思われる.. のかを検証する価値があると思われる.. こ の よ う な 困難 を 克服 す る 手掛 り と し. そこで本稿は,プロジェクト遂行過程におけ. て,「分 散 型 リ ー ダ ー シ ッ プ( distributed. る「情報の流れ」を検討上の視点として,今後. leadership) 」という見方がある.この見方で. のプロジェクトチーム・リーダーシップ検討に. は次のような主張が示されている.すなわち,. 有益な見方を得ることを目的に以下の構成で検. 共通目標達成に向けて相互依存的関係で職務遂. 討を進める.第 1 に,一般に標準とされるプロ. 行するグループの活動方針は,組織上層部の権. ジェク ト 遂行過程 の 検証 に よって,プ ロ ジェ. 威により「公式に任命される」リーダー 1 人の. クト活動方針がどのように決定されているか. 影響力で決定されるのではない.リーダーとな. について確認する.第 2 に,チームの意思決定. り得る人物は,組織上層部の権威に基づいて. に関するコミュニケーション構造(Ilgen et al.,. 人々を指導するのではなく,むしろフォロワー. 1995)を利用して,プロジェクト遂行過程の検. として従う人々が受容れ可能な範囲で有効であ. 証から得られた手掛りの妥当性を確実なものと. ると認める方向性を示し得る人物である.具体. する.第 3 に,プロジェクトチーム・リーダー. 的に 言 え ば,一連の組織活動には様々な問題. シップの再検討として,それまでの検討結果に. が存在し,活動に関わる人々の関係における相. 基づく理論的基盤の構築を試み,本稿の見解を. 互作用の中で問題解決に有効な知識や情報を. 示す.最後に,本稿のまとめと今後の展望を述. 提供する人々がリーダーとなり得るのである,. べる.. と 主張 し て い る(Gibb, 1954; cf. Gronn, 2002; Slanack, 1975) .. 2.プロジェクト遂行過程における検証. 「分散型リーダーシップ」の主張における特. 一般的に標準とされるプロジェクト遂行過程. 徴として,次の 3 点を挙げることができよう.. は,大まかに始動,計画,発足,実行,終結と. 第 1 に,主流 の 見方 の よ う に リーダーと し て. いう 5 段階の一連の流れとして示し得る2). 「始. チームメンバーを指揮することが期待される. 動段階」では,顧客または母体組織の目標達成. 「公式に任命される」リーダーの存在だけでな. に向けた取組みを開始するために,母体組織の. く,その他のリーダー達の存在を検討対象に入. 執行部が公式的にプロジェクトリーダーを任命. れるべきことを示唆している. 第 2 に, リーダー. する. 「公式に任命された」プロジェクトリー.
(3) プロジェクトチーム・リーダーシップの再検討(平井). (711). 37. ダーは,顧客や母体組織の上級マネジャーとの. のようなチームミーティングを経て作成される. 相談を通じて大まかなプロジェクト基本方針を. チームとしてのプロジェクト計画書には,「実. 決定する.. 行可能な」プロジェクトのビジョンや戦略,作. 「計画段階」で,プロジェクトリーダーはプ. 業,予算,スケジュール,最終的に提供される. ロジェクト基本方針の具体化のために,本人の. 具体的成果物が明記され,顧客や母体組織の執. 持つプロジェクト遂行に関する知識や経験,組. 行部を含めた検討会議で承認されると,「公式. 織内に蓄積されている過去に実施された類似プ. 的な」プロジェクト計画書となり,プロジェク. ロジェクトの報告書,周囲の経験者や人々から. トは実行段階へと移行する3).. の情報収集を行う.そして,それらの情報をも. 「実行段階」では,各プロジェクトチームメ. とにプロジェクト成果達成に必要とされる作. ンバーは「公式の」プロジェクト計画書に従っ. 業,予算,スケジュールの見積りを行い,プロ. て作業が進められるように,所属する各職能部. ジェクトリーダーによる「雛形」としての暫定. 門で作業計画の説明と作業進行の監視,監督を. 計画書を作成する.暫定計画書が顧客や母体組. 行う.そして,作業進行中に計画変更の必要性. 織の上級マネジャーに承認されると,プロジェ. や不測の事態が生じた場合,プロジェクトチー. クトリーダーは暫定計画書に記した作業達成に. ムへ報告し,チームとしての対処を行う.実行. 必要な知識,技能,経験を持つと思われるプロ. 段階で生産される製品,プロセス,サービスと. ジェクトチームメンバーを組織内の各職能部門. いう具体的成果物が顧客または市場に提供され. から選出する.この時,プロジェクトチームの. 始めると,プロジェクトは「終結段階」へと移. 編成となり, 発足段階へとプロジェクトは進む.. 行し,成果物が顧客や市場で利用されるとき,. 「発足段階」における主な目的は,プロジェ. 一連のプロジェクト活動による最終的成果への. クトリーダーの作成した暫定計画書をプロジェ. 具体的評価が明らかとなる.最後に,一連のプ. クトチームメンバー達の作業を通じて実行可能. ロジェクト遂行過程はプロジェクト報告書とし. な計画書とすることである.まず,初期のチー. て記録され,後の類似プロジェクトの参考資料. ムミーティングで,プロジェクトリーダーは各. として組織に蓄積される.. チームメンバーに対して暫定計画書の概要説明. 一連 の プ ロ ジェク ト 遂行過程 を「情報 の 流. と,プロジェクト成果達成に向けて作業を分担. れ」を中心に改めて振り返ると,次のように表. して行い得るように各チームメンバーの専門領. せよう.まず初期のチームミーティングで,「公. 域に即した作業割当を行う.各チームメンバー. 式の」プロジェクトリーダーが,顧客や母体組. は,プロジェクトリーダーが暫定計画書を作成. 織の目的というプロジェクトに要求される成果. した時と同様の手順で,自ら担当する作業範囲. に関する情報を,暫定計画書の説明と作業割当. に関する作業,予算,スケジュールの見積りを. を通じて各チームメンバーに伝える.各チーム. 所属する職能部門で入手し得る情報に基づいて. メンバーは,受け取った情報に従って所属する. 作成し,実行可能な作業計画書とする.各チー. 職能部門で情報収集し,各職能部門における作. ム メ ン バーが 作成 す る 作業計画書 は,適宜行. 業現場の情報を反映した実行可能な作業計画書. われるチームミーティングで進捗報告される.. を作成する.この作業計画書はチームミーティ. チームミーティングは,各チームメンバーの進. ングでの報告を通じて各職能部門の現場情報を. 捗報告に基づいて関連する作業の担当者間で協. プロジェクトチームに伝達し,その情報に基づ. 議と活動調整が行われ,分担された作業が顧客. くチームメンバー間の協議と活動調整の結果と. や母体組織の目的を満たす 1 つの具体的成果物. して実行可能なチームとしてのプロジェクト計. 提供を達成すると思われるまで継続される.こ. 画書が作成される.その後の実行段階で,各職.
(4) 38. (712). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 6 号(2008年 2 月). 図 1 4 人編成のチームにおけるコミュニケーション構造 出所:Ilgen et al., 1995. 能部門に公式的に達成が要求される作業に関す. ダーだけでなく,各職能部門出身のプロジェク. る情報は各チームメンバーを通じて伝達され. トチームメンバー達が,各自の担当する役割遂. る.そして,実際の作業で計画変更の必要性や. 行における情報提供を通じてプロジェクトの成. 不測の事態が生じた場合の現場情報も各チーム. 果達成に向けた活動方針決定に影響を与えてい. メンバーがプロジェクトチームに伝達し,対処. ると言える.以上の検討結果は,一連のプロジェ. することにより最終的なプロジェクト成果が達. クト遂行過程における情報提供を通じてチーム. 成される.. 活動の方向性に影響を与える多数のリーダー達. このように「情報の流れ」に注目するとき,. の存在を認識する見方が,プロジェクトチーム. プ ロ ジェク ト の 使命 で あ る 具体的成果物提供. のリーダーシップ検討に有益である可能性を示. は, 「公式の」プロジェクトリーダーが提供す. していると思われる.そこで節を改めて,プロ. る顧客や母体組織の目的に関する情報と,プロ. ジェクトチームの活動方針決定における「情報. ジェクトチームメンバー達によって提供される. の流れ」をより具体的に検証することで,本節. 各職能部門 の 現場情報 に よって 達成 さ れ て い. で得た検討結果の妥当性を確認する.. る.言い換えれば, 「公式の」プロジェクトリー.
(5) プロジェクトチーム・リーダーシップの再検討(平井). 3.活動方針決定過程における検討. (713). 39. 門出身のチームメンバー達に担当作業を割当て る.各チームメンバーは,自らの専門領域であ. Ilgen ら(Ilgen et al., 1995)が示したチーム. る職能部門に関連する情報を利用して,プロ. の意思決定における情報利用に関するコミュニ. ジェクト成果達成に有効と思われる実行可能な. ケーション構造は,上述のチーム活動方針決定. 作業計画書を作成し,チームミーティングで報. における「情報の流れ」を具体的に検討するこ. 告する.プロジェクトリーダーは,各チームメ. とに有効な材料の 1 つであると思われる(図 1. ンバーから報告された作業計画書を各職能部門. 参照) .図 1 には,記号 A,B,C,D で表され. で実際に作業可能な情報として利用し,チーム. てい る 4 人編成 の意思決定チームが描かれて. の代表者として活動方針を意思決定する.その. いる.メンバー D はチームの代表者として意. 一方,各チームメンバーが報告する作業計画書. 思決定 を 表明 す る リーダーの 役割 を 務 め,他. は,他のチームメンバーに対しても関連する作. の A,B,C の 3 人は各自担当する専門領域の. 業を行う職能部門の現場情報を提供し,それぞ. 立場から,部下としてリーダーの意思決定へ助. れの作業計画が実行可能となるための関連作業. 言するチームメンバーである.チームメンバー. 間での活動調整を容易にする.さらに,実行段. A,B,C のそれぞれは,自らの専門領域に関. 階では,各チームメンバーは所属する職能部門. する入手可能な情報(X1 から X6)を利用して. のプロジェクト作業遂行の監視と監督を行い,. 意思決定を行い,提案する.リーダーは部下達. 計画変更の必要性や不測の事態が発生した場合. から受けた提案を手掛り(情報)として利用. の 作業現場情報 を プ ロ ジェク ト チーム に 報告. し, チームとしての意思決定を表明する.また,. し,その報告に基づいてプロジェクトチームと. 図 1 で示されているケースでは,各自の意思決. しての対処行動が決定される.. 定における情報利用の可能性が各メンバーと各. 以上 の よ う に,Ilgen ら(Ilgen et al., 1995). 情報を結ぶ破線で示され,チーム内のコミュ. のコミュニケーション構造に基づいてプロジェ. ニ ケーション 経路 が リーダー D と チーム メ ン. クト遂行過程における活動方針決定を検証する. バー A,B,C 間の実線で描かれている.これ. 場合においても,プロジェクトリーダーの意思. らは,チーム内の意思決定に関する次の 3 点の. 決定,関連作業者間の活動調整,実行段階にお. 特徴を表している.すなわち,第 1 に,各チー. ける計画変更や不測の事態への対処行動決定と. ムメンバーは各自の専門領域に関係する入手可. い う チーム の 活動方針 は,各職能部門出身 の. 能な情報に基づき意思決定し,リーダーの意思. チームメンバーがもたらす情報により影響を受. 決定に対して提案を行う.第 2 に,リーダーを. けて決定されている.したがって,プロジェク. 含むチームメンバーは,自らの意思決定に必要. トチームメンバーは,各職能部門の情報をプロ. な情報を担当する専門領域に関係する範囲内で. ジェクトチームに提供することを通じて,プロ. 直接入手することができるし,コミュニケー. ジェクトチーム活動の方向性に影響を与えてい. ション経路上の他者を通じて入手することも可. ると言えよう.. 能である.第 3 に,チームの代表者であるリー. し か し,図 1 の コ ミュニ ケーション 構造 の. ダーは,各専門領域の部下からの提案とその他. ケースでは,特定の情報を複数の人物が直接利. のコミュニケーション経路から得る情報を利用. 用し得ることが示されており,上述のプロジェ. してチームとしての意思決定を行い得る.. クトチームメンバーの活動方針決定の影響力に. そこで改めてプロジェクトチームの活動方針. 関する見方を確実なものとするには,この情. 決定過程を見ると,発足段階の初期チームミー. 報利用可能性に関する検討が必要である.既に. ティングで,プロジェクトリーダーは各職能部. 示してあるように,プロジェクトチームの使命.
(6) 40. (714). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 6 号(2008年 2 月). は顧客や母体組織の目的を具体的成果物として. て,一連のプロジェクト成果達成までの過程に. 提供することであり,その成果物は当該企業に. は,「情報提供」を通じて影響を与える多数の. とって新規となる新製品である.プロジェクト. リーダー達が存在することを認識した見方が有. チームは使命達成に向けて成果物提供を実行可. 益であると思われる.. 能なものとするために情報収集と実行可能なプ ロジェクト計画書を作成し,実現へ向けた取組 みを行う.すなわち,プロジェクトが成果達成. 4.プ ロジェクトチーム・リーダーシップの再 検討. を前提として活動する限り,プロジェクトチー. これまでの「情報の流れ」に注目したプロ. ムの取組みにおいて必要とされるものは,成果. ジェクト遂行過程の検討は,「公式の」プロジェ. 達成を確実なものとする各職能部門に存在する. クトリーダーだけでなく,チームメンバー全員. 最新の実行可能な,そして,正確な情報である. が各職能部門からもたらす情報を通じて,チー. と言えよう.. ムの活動方針決定に影響を与えていることを示. 「公式の」プロジェクトリーダーやチームメ. している.ここで改めて「分散型リーダーシッ. ンバー達が,特定の職能部門に関する情報を入. プ」の主張を示すと(Gibb, 1954; cf. Gronn, 2002;. 手する可能性は十分あると考えられるが,それ. Slanack, 1975) ,共通目標達成 に 向 け て 相互依. らの情報入手は当該職能部門の外部者としての. 存的関係 で 職務遂行 す る グ ループ の 活動方針. 立場において実現し得るものである.職能部門. は,組織上層部の権威により「公式に任命され. に多数存在する情報の中から新規性のあるプロ. る」リーダー 1 人の影響力で決定されるのでは. ジェクト成果達成に有効な, 最新で実行可能な,. ない.リーダーとなり得る人物は,組織上層部. そして,正確な情報を適切に選択し得るのは,. の権威に基づいて人々を指導するのではなく,. 所属する職能部門の専門知識や価値志向を良く. むしろフォロワーとして従う人々が受容れ可能. 知るチームメンバーであると言えよう.特に,. な範囲で有効であると認める方向性を示し得る. 各職能部門の内部情報は,外部者にとって入手. 人物である.具体的に言えば,一連の組織活動. することは困難であると思われ,むしろ職能部. には様々な問題が存在し,活動に関わる人々の. 門に所属するプロジェクトチームメンバーの方. 関係における相互作用の中で問題解決に有効な. が事実を知り得る可能性があり,それらの事実. 知識や情報を提供する人々がリーダーとなり得. を考慮に入れた正確な情報提供を実現すると思. るのである,と示されている.これまでの本稿. われる.. の検討結果と「分散型リーダーシップ」の主張. 以上 の 検討 に よ り,プ ロ ジェク ト 成果達成. を比較するとき,今後のプロジェクトチーム・. に向けたチームの活動方針は, 「公式の」プロ. リーダーシップ検討に有益な見方は,「分散型. ジェクトリーダーがもたらす情報だけでなく,. リーダーシップ」の見方である可能性が高いと. プロジェクトチームメンバーがもたらす情報に. 言えよう.. よって決定されていると言えよう.言い換え. しかし,これまでの検討は,主にプロジェク. ると,プロジェクト成果実現に向けて, 「公式. トチームメンバーによる各職能部門からプロ. の」プロジェクトリーダーの影響力よりも,プ. ジェクトチームへの「情報の流れ」に注目して. ロジェクトチームメンバー達による各職能部門. き た.ま た,前節 の 検討結果 で は,「公式 の」. の現場情報提供を通じて与えられるプロジェク. プロジェクトリーダーによる代表者としての. ト活動方針への影響力の重要さを本節の検討は. チームの意思決定に対して,チームメンバーが. 示していると思われる.したがって,今後のプ. 「情報提供」を通じて影響力を与えている可能. ロジェクトチーム・リーダーシップ検討にとっ. 性を指摘しているに過ぎない.本稿の議論では,.
(7) プロジェクトチーム・リーダーシップの再検討(平井). (715). 41. 「公式の」プロジェクトリーダーが果たすリー. 式 の」プ ロ ジェク ト リーダーに 注目 す る 見方. ダーの役割について検討していない.そこで本. は,プロジェクトチーム・リーダーシップに関. 節では,どのような情報を「公式の」プロジェ. する一部分を観察する研究に過ぎないと思われ. クトリーダーが,プロジェクトチームにもたら. る.そ の 一方,「分散型 リーダーシップ」の 見. していたかを改めて振り返り,プロジェクト. 方は,これまでの検討で示されているように,. チーム・リーダーシップにおける「公式の」プ. プロジェクト成果達成に向けた現実のプロジェ. ロジェクトリーダーの役割を検討する.この検. クトチーム活動に存在する様々な問題へ対処す. 討によって初めて,プロジェクトチーム・リー. る多数のリーダー達の存在を示している.それ. ダーシップの再検討として,今後のプロジェク. ゆ え,「分散型 リーダーシップ」の 見方 は,プ. トチーム・リーダーシップ検討にとって有益な. ロジェクトチームを共通目標達成に向けて導く. 見方に関する本稿の見解を示し得ると思われ. リーダーシップが,どのように発揮されるかを,. る.. より実態に即して検討することを可能にする見. これまでの一連の検討を振り返ると, 「公式. 方であると思われる.. の」プロジェクトリーダーが情報提供を通じて プロジェクトチームの活動方針に明確に影響を. 5.まとめと今後の展望. 与えていたのは, 「発足段階」 における初期チー. 本稿 は,今後 の プ ロ ジェク ト チーム・リー. ムミーティングで「雛形」の暫定計画書を通じ. ダーシップの検討に際して有益な見方を得るた. て顧客や母体組織の目的に関する情報提供をす. めに,「情報の流れ」に注目してプロジェクト. るときである.このような情報提供は,各プロ. 遂行過程の検証とプロジェクト活動方針決定に. ジェクトチームメンバー達が,どのような問題. おける検討を行ってきた.その結果,プロジェ. に取組むべきかに関する意思決定に有効なチー. クト成果達成に向けた一連の遂行過程で,プロ. ム全体としての共通目標を与える.言い換えれ. ジェクトチーム内でそれぞれに割当てられた職. ば,このような共通目標が提供されることによ. 務を遂行する中で得られる情報提供を通じて,. り,チームメンバー達の各職能部門における情. 「公式の」プロジェクトリーダーを含むチーム. 報収集とチームメンバー間の活動調整が,顧客. メンバー全員が,プロジェクト活動に対して影. や母体組織の目的を満たす方向へ向かい得ると. 響力を与えていたことを確認してきた.つまり,. 言える.したがって, 「公式の」プロジェクト. プロジェクトチームのリーダーシップは,「公. リーダーは,顧客や母体組織の上層部の担当者. 式の」プロジェクトリーダー 1 人の影響力に依. として彼らの情報をプロジェクトチームに伝え. 存しているのではなく,プロジェクトチームメ. ることで,活動方針決定に影響を与える存在で. ンバー全員が影響力を持ち,そのことによって. ある.このような意味で, 「公式の」プロジェ. 成果を達成しているという検討結果を示した.. クトリーダーは,一連のプロジェクトチーム活. この検討結果は,現在主流の見方とは異なる視. 動においてリーダーの役割を果たす多数のリー. 点を持つ「分散型リーダーシップ」の見方が,. ダー達の 1 人であると言えよう.. 今後のプロジェクトチーム・リーダーシップ研. 以上により,プロジェクトチームのリーダー. 究における有益な見方である可能性を示唆する. シップは,一連のプロジェクト遂行過程におい. 結果であるように思われる.. て, 「公式の」プロジェクトリーダーだけでな. 最近 の 研究 で は,「分散型 リーダーシップ」. く,プロジェクトチームメンバー全員の分担に. の考え方をプロジェクトチームのリーダーシッ. より成果を達成すると言える.また,これまで. プ検討へ適用することの有効性と,少数では. の検討結果により,現在主流となっている「公. あるが蓄積され始めている研究成果を展開す.
(8) 42. (716). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 6 号(2008年 2 月). ることの必要性が指摘されている(Day et al., 2004) .そして,社会ネットワーク研究の分析. シップへの具体的な検討を進める必要がある.. 手法を利用したプロジェクトチームに関する実. 謝 辞. 証研究 で は, 「分散型リーダーシップ」がプロ. 本稿の執筆に際し,ご助言いただきました査読. ジェクト業績へ効果的であることを示唆する結. 者の先生へお礼を申し上げます.指導教官の田中. 果を得ている(Mehra et al., 2006) .また, 「情. 教授から多大なご指導を賜り,大変感謝しており. 報の流れ」に注目する社会ネットワーク研究で. ます.また,田中研究室院生の方々からのご支援. は,プロジェクトチームメンバーによる多様な. に感謝を申し上げます.. 「情報提供」が,プロジェクトの共同作業や業 績向上,達成期間短縮へつながるという実証結 果が示されている(Cummings & Cross, 2003 ; Cross & Parker, 2004; Morten et al., 2001) .こ れら の 指摘 や 研究成果は,プロジェクトチー ム・リーダーシップ検討における「分散型リー ダーシップ」の考え方の適用可能性をさらに検 討する手掛りがあることを示している. そして, 「情報の流れ」に注目する社会ネットワーク研 究の考え方や分析手法を取り入れることで,プ ロジェクトチームメンバーによるチーム活動へ の影響力に関する具体的検討の可能性があるこ とを示していると思われる. 最後に今後の研究課題として,本稿のチーム 活動方針決定に関する検討では,どのようにし てプロジェクトリーダーが部下であるチームメ ンバー達からの提案(情報)を選択し,代表者 として意思決定するのかについて明らかにして いない.そして,プロジェクトリーダーの意思 決定に対してチームメンバー全員が合意に至 り,共通目標達成に向けてチームとしての活動 が形成される過程を検討していない.これらの 問題点は,本研究がプロジェクトチーム・リー ダーシップの検討を進める上で取組まなけれ ばならない課題である.これらの課題を克服す ることにより,本研究はプロジェクトチーム・ リーダーシップに対する理論的枠組み構築を達 成し得ると思われる.このような研究課題を踏 ま え,今後,上述 の「分散型 リーダーシップ」 に関する文献研究によりその概念への理解を深 めると共に,社会ネットワーク研究の考え方や 手法を取り入れたプロジェクトチーム・リーダー. 注 1)プ ロ ジェク ト チーム の 有効性 に 関 し て は, Galbraith(Galbraith, 梅津訳,1980)および Davis & Lawrence(Davis & Lawrence,津田,梅津訳, 1980)を参考にしている. 2)プロジェクト遂行過程は一義的に定義し得る も の で は な い.本稿 は,専門家協会(Project Management Institute, 2004)や研究者(Cobb, 2006; Marks et al., 2001; Roberts & Fusfeld, 1981)が管理上のツールやプロジェクト遂行過 程説明のために示しているプロジェクトライフ サイクルの遂行段階,順序,作業特性を参考に 提示している. 3)この時点でプロジェクトチームは解散される 場合と実行段階で説明や実行参加のために存続 する場合がある.本稿ではプロジェクトチーム が存続する場合で説明している.. 参考文献 Allen, T. J., 1984, Managing the Flow of Technology, The MIT Press. Ancona, D. G., & D. F. Caldwell, 1992, Bridging the Boundary: External Activity and Performance in Organizational Teams, Administrative Science Quarterly, 37, pp. 634─665. Cobb, A. T., 2006, Leading Project Teams, Sage Publications, Inc. Cross, R., & A. Parker, 2004, The Hidden Power of Social Networks, Harvard Business School Press. Cummings, J. N., & R. Cross, 2003, Structural properties of work groups and their consequences of performance, Social Networks, 25, pp. 197─210. Davis, S. M., & P. R. Lawrence, 津田達男 , 梅津祐 良訳 , 1980『マトリックス経営─柔構造組織 の設計と運用』ダイヤモンド社..
(9) プロジェクトチーム・リーダーシップの再検討(平井). Day, D. V., P. Gronn, & E. Salas, 2004, Leadership capacity in teams, The Leadership Quarterly, 15, pp. 857─880. Elkins, T., & R. T. Keller, 2003, Leadership in research and development organizations: A literature review and conceptual framework, The Leadership Quarterly, 14, pp. 587─606. Galbraith, J., 梅津祐良訳,1980『横断組織の設計 ─ マ ト リック ス 組織 の 調整機能 と 効果的運 用』ダイヤモンド社. Gibb, A. C., 1954, Leadership, In G. Lindzey (Eds.), Handbook of Social Psychology, Vol. 2, pp. 877 ─917, Reading, MA; Addeison-Wesley. Gronn, P., 2002, Distributed leadership as a unit of analysis, The Leadership Quarterly, 13, pp. 423─451. Ilgen, D. R., D. A. Major, J. R. Hollenbeck, & D. J. Sego, 1995, Raising an individual decision making model to the team level: A new research model and paradigm. In R. Guzzo & E. Salas (Eds.), Team Effectiveness and Decision Making in Organizations, pp. 113─148, San Francisco: Jossey-Bass. Marks, M. A., J. E. Mathieu, & S. J. Zaccaro, 2001, A Temporally Based Framework and Taxonomy of Team Processes, Academy of Management Review, 26 (3), pp. 356─376. Mehra, A., B. R. Smith, A. L. Dixon, & B.. (717). 43. Robertson, 2006, Distributed leadership in teams: The network of leadership perceptions and performance, The Leadership Quarterly, 17, pp. 232─245. Morten, T. Hansen, J. M. Pondolny, & J. Pfeffer, 2001, So Many Ties, So Little Time: A Task Contingency Perspective on Corporate Social Capital in Organizations, Social Capital of Organizations, 18, pp. 21─57. Pinto, J. K., P. Thoms, J. Trailer, T. Palmer, & M. Govekar, 1998, Project Leadership from Theory to Practice, Project Management Institute. Project Management Institute, Inc, 2004『プ ロ ジェクトマネジメント知識体系ガイド』 . Roberts, E. B., & A. R. Fusfeld, 1981, Staffing the Innovative Technology-Based Organization, Sloan Management Review, Spring, pp. 19─34. Salancik, G. R., B. J. Calder, K. M. Rowland, H. LeBlebici, & M. Conway, 1975, Leadership as an Outcome of Social Structure and Process: A Multidimensional Analysis, In J. G. Hunt, & L. L. Larson (Eds.), Leadership Frontiers, pp. 81─101, Kent, Oh: Kent State University. Yukl, G. A., 2005, Leadership in Organizations 6th ed, Prentice Hall College Div.. [ひ ら い の ぶ よ し 横浜国立大学大学院国際 社会科学研究科博士課程後期].
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