Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
奇跡の出会い
Author(s)
矢島, 安朝
Journal
歯科学報, 119(1): 1i-1i
URL
http://hdl.handle.net/10130/4809
Right
Description
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奇跡の出会い
矢 島 安 朝
人生80年,人の一生の中で奇跡としか思えないできごとは,そう何度もあるものではありません。
2019年最初の歯科学報の巻頭が私の個人的な「奇跡の体験」では失礼と存じますが,何卒お許しいた
だきたいと思います。
3年ほど前,同窓会本部の移動理事会の旅行で,故矢 会長はじめ多くの理事の先生方と一緒に,
猪苗代湖畔の野口英世記念館を訪れたときのことでした。私は一人,バスの集合時刻を間違えてしま
い,他の先生方より30分も早く記念館を出てしまいました。ちょうど小腹がすいていたので,駐車場
のすぐ脇の食堂兼お土産屋さんの店頭で,焼き団子を買ったその時のことです。「まあお茶でも飲ん
で行きなさい。」と店主のおじいさんとおばあさんに誘われ,半ば強引に手をひかれ広い食堂ホール
へ引っ張り込まれました。案の定,客は私一人でした。おじいさんは矢継ぎ早に質問を始めました。
「どこから来たの?」「東京です」「東京のどこ?」そこまで聞く?と思いながら「水道橋です」する
とおじいさんは突然得意げな顔になり「水道橋に東京歯科大学が千葉から戻ってきたのを知って
る?」なぜ,うちの大学のことを知っている?驚きながら「はい知っています」と返事をすると,更
に「あの大学の初代学長の血脇守之助先生は大変立派な人で,彼がいなかったら野口英世は世に出る
ことはできなかったんだよ。」「野口自身も一番の恩人は,血脇先生だと思っていたはずだ。」「血脇先
生の精神を受けついている卒業生はいっぱいいるよ。○○名誉教授も,○○先生も」なぜ?この人は
いったい誰?何者?もう戸惑うばかりです。何も返答できないでいるとおじいさんは「アンタも近く
に勤めているんだったら,あそこの病院で診てもらったらいいよ。絶対に良い病院だから。」とこの
おじいさん。この人はただ者ではない!なぜこんなに本学のことを知っているだ!何者だ!頭の中は
大混乱です。意を決した私は,ついに「私は今その東京歯科大学で働いている者です。お褒めをいた
だいてありがとうございます。でも,なぜそんなにすべてをご存じなのですか。あなたはいったい誰
ですか?何者ですか?」と思わず大声で言ってしまいました。おじいさんは,急に気まずそうな顔に
なって,何も言わずに急いで奥の調理場の方へ消えてしまいました。代りに,私の隣で大笑いをして
いたおばあさんが質問に答えてくれました。「野口英世は3人兄弟の真ん中で,野口家を継いだのは
長女のイヌさん。イヌさんには4人の男の子と末の女の子の雪さんがいたのだけど,あの人(おじい
さんを指さして)はその雪さんの息子なのよ。」つまり,私はこれまでの30分間,団子を食べ,お茶を
ご馳走になりながら,野口英世の子孫から話を聞いていたのです。その後も,おじいさんとおばあさ
んの二人で,当事者しか知らない大変興味深い話をたくさん聞かせてくれました。
集合時間を間違え,ふと団子を食べたくなっただけなのに,その団子が取り持ってくれた過去の出
来事との邂逅は,まるで奇跡としか思えませんでした。東京歯科大学に30年以上勤務した私に,ご褒
美があたえられたのだと思いました。この奇跡は先人の善行がもたらした遺産をも教えてくれまし
た。東京から遠く離れた猪苗代湖のほとりで,祖先を通じて本学の存在を憶えていてくれた人がいま
した。しかもこんなにも本学を誉め称えています。100年近く前の出来事によって,本学の隠れ大
ファンとなり,遠くから私たちを応援してくれている人がいるのだと知って,身の引き締まる思いが
しました。このように人知れず応援してくれている人々は,きっと全国にたくさんいらっしゃるのだ
ろうと思います。私たちはこの方たちに対して,恥ずかしくない日々をおくっているのだろうか。今
後100年以上経っても,まだ応援し続けてくれるような大学でいられるのだろうか。遠くから,暖か
な声援を送ってくれている人々のためにも,日々精進しなければ面目ないと決意も新たに新年度を迎
えたいと思っています。 (東京歯科大学口腔インプラント学講座 教授)
巻 頭 言 ①