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いじめや虐待被害の聴き取り教育・保育機関職員を対象とした意識調査から

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いじめや虐待被害の聴き取り

:教育・保育機関職員を対象とした意識調査から

田中 晶子

要旨 本研究では,教育・保育機関に所属する教職員らを対象に,子どもへの虐待が疑われる際の対 応方法と,いじめや虐待が疑われる際の子どもへの聴取態度に関して探索的に調査を行った。調 査結果から,子どもへの虐待が疑われる際の対応方法において,体験を客観的に聴取する司法面 接の観点から適切ではない方法について肯定的に捉える傾向が示された。また,いじめや虐待が 疑われる際の子どもへの聴取態度については,想定される聴取の内容により,聴取態度や優先し て聴取する事項が変化することが示された。調査結果をふまえ,いじめや虐待が疑われる際の子 どもからの事実確認における客観的聴取の重要性を指摘し,そのような場合に利用できる客観的 な聴き取りの具体的手法について周知し,教育・保育機関が担う役割や,子どもへのケアやサポ ートとの適切なバランスについての情報発信を行うことの重要性について考察した。 キーワード:司法面接,児童虐待,いじめの加害・被害確認,教育・保育機関 大人が子どもから,「子ども自身が体験した出来事について話を聴く」ことは,ごくありふれ た日常場面としてあるだろう。例えば,家庭内でのエピソードや登下校中の出来事,習い事や 旅行先での経験など,子ども自身の体験の多くを私たちは子どもからの報告によって知る。時 には,友人とのけんかのいきさつや転んでけがをした時の状況など,子どもの報告をふまえ適 切な対処の必要性を判断することもあるだろう。さらに,日常的な「子どもから体験を聴く」 ということが,重大な意味を持つ聴き取りとなる場合もある。それは,事件や事故に子どもが 関与した可能性がある場合,いじめへの関与や虐待の被害などが疑われる場合などである。 このように,私たちは様々なレベルで「子どもから体験を聴いている」が,子どもから正確 に,かつ詳細に情報を得ることは大変難しいことが多くの研究から明らかになっている(Fivush & Fromhoff, 1988;Ceci, Ross, & Toglia, 1987)。そのため,特に子どもからの聴き取りが重 要 な 意 味 を 持 つ 虐 待 な ど の 被 害 が 疑 わ れ る 場 合 に 使 用 で き る 司 法 面 接 ( investigative interviews /forensic interviews)と呼ばれる手法が開発され,活用されている。

司法面接とは,1)客観的に事実確認をすること,2)二次被害を防ぐことの 2 つの目的を持つ 面接技法で,認知・発達心理学の研究知見に基づいて開発されたものである(仲,2016)。司法 面接は,ゆるやかに構造化されており,面接者は中立的な態度を取り,子どもの自由報告を重 視するのが特徴である。これは,誘導や暗示となる働きかけを最小限にするためであり,面接 者は子どもから自由報告を促すオープン質問と呼ばれる手法を中心に子どもに働きかける。ま

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た,何度も同じ体験を話すことは,特にそれがつらい体験である場合には子どもへの心理的負 担が大きく二次被害につながることから,司法面接は原則 1 回で聴取を終えられるよう計画さ れる。そのため,虐待被害が想定される場合には,多機関(主に児童相談所・警察・検察の 3 機関)が連携して聴取を行う協同面接(代表者聴取)を実施するための体制整備が進められて いる。このような国内における協同面接の実施件数は,2016 年度には 340 件,2017 年度には 617 件と急速な広がりを見せている(キャンサースキャン,2019)。 一方,子どもから最初に被害報告を受けた時の対応も重要である。というのも,多機関連携 における協同面接が実施されるには,まず通告義務を持つ機関(教育・保育機関や医療機関な ど)や保護者など日常的に子どもと関わる大人が専門機関に被害(の疑い)について通告をす るプロセスがあるからである。子ども本人が専門機関へ直接被害を訴え出ることもあるが,多 くの場合,子どもから最初に被害の報告を受けた大人が専門機関などへの通告を行っている。 この最初に被害の報告を受けた時に,大人が子どもにどのように対応したのか(どのように 話を聴いたのか)は重要である。例えば,子どもが被害をほのめかした際,保護者や教員が入 れ替わり立ち替わり何度も被害について確認をすると,記憶の汚染(コンタミネーション)が 生じる可能性が高まる。記憶の汚染とは,子ども自身の体験からの情報と,後から得た情報(大 人が推測した事柄や,大人からの問いかけに含まれていた情報など)との判別がつかなくなる 現象をさす。このような記憶の汚染は一度生じると,後から子どもの体験だけを聴き取ること が難しく,子どもの体験について明らかにすることが困難になりかねない。つまり,協同面接 の取り組みが有効に働くには,最初に子どもからの報告を受けた大人が,記憶の汚染や二次被 害を生じさせることなく,適切な方法で子どもの体験を聴取し,速やかに専門機関へつなぐこ とが重要なのである。 この,最初に子どもからの報告を受ける大人として,日常的に子どもと接する教育・保育機 関に所属する教職員が果たす役割は大きい。平成16年の「児童虐待の防止等に関する法律の一 部を改正する法律」と「児童福祉法の一部を改正する法律」の施行により,学校の教職員は児 童虐待の早期発見に努めなければならないことが明記され,児童虐待の早期発見努力義務や, 通告義務については現場の教職員へ周知がいきわたっている状況にあることがこれまでの調査 において示されている(岩崎・子安・伊藤,2007など)。一方で,そのような役割を教育・保育 機関が十分に果たすためには,疑いを持った時に子どもから何を,どのような方法で聴くべき か,どのような方法で子どもの体験を確認し,記録し,そして通告をすれば良いのかについて, 具体的な手法が周知される必要があるだろう。 上記のような問題意識から田中(2017)は,養護教諭養成課程に所属する大学生を対象とし, 虐待被害確認(子どもからの聴き取り)に関する意識調査を実施した。近年の調査から,教育 機関において養護教諭は他の教諭よりも,児童虐待の発見や対応件数が多いことが示されてお り(北口・岡本,2016),将来的に虐待に対応する可能性の高い養護教諭を志望する大学生を対 象に,虐待被害を疑った時の対応について具体的に問うことで,虐待被害確認においてどのよ うに対応すべきと考えているのかについて,また,事実確認に関する講義を受講することによ ってその意識に変化が示されるかどうかについて検討を試みた。調査の結果からは,講義受講

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前の虐待被害確認における対応について,養護教諭を志望する学生は子どもからの客観的聴取 に関する適切な認識を持っていないことが明らかになった。しかし,子どもからの事実確認に 関する講義を受講することにより,それらの認識は適切な方向へと変化することが示された。 本研究では,田中(2017)の結果をふまえ,教育・保育機関に所属している教職員らを対象 に,虐待被害を疑った時の被害確認法(子どもからの聴き取り)に関する意識調査を実施した。 これにより,教育や保育の現場で活動する教職員・保育士が虐待被害を疑った際にどのように 対応すべきと考えているのかを明らかにし,養護教諭を志望する大学生の結果との共通点や相 違点について検討することを第一の目的とした。 さらに,特に正確な聴取が求められるような状況(いじめや虐待が疑われる場合)を想定し, そのような聴取における望ましい態度に関する意識調査も実施した。司法面接の概念や手法は, 虐待被害の確認だけでなく,いじめの被害が疑われる子ども,加害が疑われる子ども,いじめ を目撃した子どものいずれにおいても,それぞれの子どもから体験した事柄を聴き取る有効な 方法となりうる(仲,2016)。教育機関においては,虐待被害の聴き取りとともに,いじめの 事実確認も重要な聴き取りの1つであるだろう。そこで,教育や保育の現場で活動する教職員 や保育士が,いじめや虐待を疑った際に,どのような態度で子どもから聴取することが望まし いと考えているのかについて探索的に調査することを第二の目的とした。 方 法 調査時期 2017年8月に実施された。 調査参加者 大阪府下の幼稚園・保育所,小・中学校関係者70名が調査に参加した。 虐待対応に関する調査については,当該調査項目の回答に不備のあった4名を除く66名(男性 23名,女性43名,20歳代14名,30歳代12名,40歳代20名,50歳代16名,60歳代以上4名)が分析 対象となった。所属機関は,幼稚園・保育所7名,小学校37名,中学校22名であり,職種は,教 諭・保育士が45名,介助員が8名,栄養士が1名,学校司書が1名,未回答が11名であった。 聴取態度に関する調査については,当該回答の不備のあった4名を除く66名(男性21名,女性 45名,20歳代14名,30歳代13名,40歳代20名,50歳代17名,60歳代以上2名)を分析対象とした。 所属機関は,幼稚園・保育所8名,小学校37名,中学校21名であり,職種は教諭・保育士が45名, 介助員が6名,栄養士が1名,学校司書が1名,校務員が1名,未回答が12名であった。 調査用紙 調査用紙は,虐待対応に関する項目と,聴取態度に関する項目から構成された。 虐待対応に関する項目は,田中(2017)で使用された虐待の疑いがある子どもに出会った時の 対応(9項目)について4件法(4:そう思う 3:ややそう思う 2:あまりそう思わない 1: そう思わない)で評定を求めた。9項目と,それぞれの項目における司法面接(事実確認)の観 点からの適切な対応法について以下に示す(Table 1 参照)。

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Table 1 学校内で虐待の疑いがある児童に出会ったときの対応(9項目) 田中(2017) 質問項目 司法面接(事実確認) の観点からの適切な対応 被害内容についてはできる限り詳細に聴き取 ってから,児童相談所等に通告するのが望ま しい。 誰が・どうした・(いつ) といった通告に 必要な情報にとどめる。 児童相談所等に通告する前に,複数の大人が 子ども本人に何度か話を聞き,被害内容を確 認しておくと良い。 聴き取り(確認)回数はできるだけ少なくす る。 大人の側から子どもにたくさん質問をして, 被害の詳細を把握してから通告するのが望ま しい。 質問は控え,できるだけ子どもに自由にたく さん話してもらう。 子どもの側から話さなくても,被害を受けた 可能性があると思われる場合には直接子ども に確かめておくと良い。 安全確認や緊急を要する場合を除き,直接問 わずオープンな働きかけで子どもに語っても らう。 子どもの話が分かり難いときには,人形や絵 などを使って状況を説明してもらうと良い。 補助物(人形や絵)は誘導につながりやすい ため,言葉で説明してもらう。 話を聴く途中で,子どもが被害について撤回 したら(「本当はなかった」等),被害はな かったと判断して良い。 被害開示後に撤回が生じることは多いため, それにより被害がなかったとは判断しない。 子どもから「誰にも言わないで」と口止めさ れた場合,被害を話してもらうために「言わ ない」と約束をするのが望ましい。 他の人に相談することもあると説得する。 子どもの話をメモに残す場合,できるだけわ かりやすい表現に変えたり,要点をまとめな がら書くと良い。 子どもと大人の言葉をそのまま記録する(逐 語録の作成)。 可能であれば,子どもの話を録音しておくの が望ましい。 ○ 聴取態度に関する項目は,いじめ加害,いじめ被害,身体的虐待,心理的虐待,性的虐 待,ネグレクトがそれぞれ疑われる場合の聴取において,どのような態度で臨むのが望ましい と考えるかについて回答を求めた。回答は,「中立的態度で客観的な聴き取りを優先する」を ①とし,「受容的共感的態度で心情の聴き取りや心のケアを優先する」を②として,4:①と思 う,3:どちらかと言えば①と思う,2:どちらかと言えば②と思う,1:②と思う,の4件法で回 答を求めた。

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手続き 調査は,「子どもと大人のコミュニケーション」をテーマとする講演の参加者に対し,講演 の開始前に回答を求めた。参加者には,調査に先立ち調査への回答は任意であること,調査で 得られた情報は個人が特定されることのないようすべて記号化され,個人情報の保護に十分な 配慮がなされることが説明された。これら説明内容は,調査用紙の表紙にも印刷され,参加者 に配布された。実施においては,参加者は各自のペースで回答したが,回答時間は概ね5分程度 であった。なお,調査用紙回収後の講演内において,司法面接の視点をふまえた場合の望まし い対応法について参加者に解説を行うことにより,参加者へのフィードバックを行った。 結 果 虐待対応に関する項目について 虐待対応に関する各項目の評定値について,1要因分散分析を行ったところ,主効果が有意で あった(F(8,520)=40.30, p<.01)。多重比較(Holm法)の結果から,「詳細に聞き取る」に対 する肯定評価は,「複数で確認する」「たくさん質問する」「撤回はなかった」「言わない約 束をする」「メモは要約・簡潔に」よりも高かった(p<.05)。一方「開示のない被害確認」「人 形や絵の使用」「録音をする」に対する肯定評価との間に有意な差は示されなかった。 「複数で確認する」に対する肯定評価は,「たくさん質問する」「撤回はなかった」「メモは 要約・簡潔に」よりも高く,「人形や絵の使用」よりも低かったが(p<.05),「開示のない被 害確認」「言わない約束をする」「録音をする」に対する肯定評価との間に有意な差は示され なかった。 「たくさん質問する」に対する肯定評価は,「撤回はなかった」よりも高く,「開示のない被 害確認」「人形や絵の使用」「録音をする」よりも低かったが(p<.05),「言わない約束をす る」「メモは要約・簡潔に」に対する肯定評価との間に有意な差は示されなかった。 「開示のない被害確認」に対する肯定評価は,「撤回はなかった」「言わない約束をする」「メ モは要約・簡潔に」よりも高かった(p<.05)。一方,「人形や絵の使用」「録音をする」に対す る肯定評価との間に有意な差は示されなかった。 「人形や絵の使用」に対する肯定評価は,「撤回はなかった」「言わない約束をする」「メモ は要約・簡潔に」より高く(p<.05),「録音をする」に対する肯定評価とは有意な差は示され なかった。 「撤回はなかった」に対する肯定評価は,「言わない約束をする」「メモは要約・簡潔に」「録 音をする」より低かった(p<.05)。 「言わない約束をする」に対する肯定評価は,「録音をするより低く(p<.05),「メモは要 約・簡潔に」に対する肯定評価とは有意な差は示されなかった。 「メモは要約・簡潔に」に対する肯定評価は,「録音をする」よりも低かった(p<.05)。 (Table 2, Figure 1 参照)。

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Table 2 虐待対応に関する項目の肯定評価の平均値(SD) 平均値(SD) 詳細に聴き取る 3.10(0.82) 複数で確認する 2.83(0.93) たくさん質問する 2.18(0.89) 開示のない被害確認 3.03(0.72) 人形や絵の使用 3.30(0.67) 撤回はなかった 1.38(0.60) 言わない約束をする 2.47(0.89) メモは要約・簡潔に 2.32(1.18) 録音をする 3.06(0.80) Figure 1 虐待対応に関する項目における肯定評価の平均値 聴取態度に関する項目について 聴取態度に関する各項目の評定値について,1要因分散分析を行ったところ,主効果が有意で あった(F(5,395)=47.01, p<.01)。多重比較(Holm法)の結果から,「いじめの加害が想定さ れる場合」は,他のすべての項目(「いじめ被害が想定される場合」,「身体的虐待が想定さ れる場合」,「性的虐待が想定される場合」,「ネグレクトが想定される場合」,「心理的虐 待が想定される場合」)よりも評定値の平均が有意に高かった(p<.05)。また「ネグレクトが 想定される場合」は,「いじめ被害が想定される場合」,「心理的虐待が想定される場合」,「性 的虐待が想定される場合」よりも評定値の平均が有意に高かった(p<.05)。 (Table 3,Figure 2 参照)。 1 2 3 4

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Table 3 聴取態度に関する項目における評定平均値(SD) 平均値 (SD) いじめ加害を想定 3.21(0.96) いじめ被害を想定 1.67(0.89) 身体的虐待を想定 1.71(0.98) 心理的虐待を想定 1.50(0.86) 性的虐待を想定 1.42(0.82) ネグレクトを想定 2.08(1.18) Figure 2 聴取態度に関する項目における評定平均値 考 察 虐待対応に関する項目は,虐待の疑いがある子どもに出会った時の対応について4件法での 評定を求め,高数値であるほど,その項目の内容について肯定的な判断をする傾向にあること を示している。 まず,検討された9項目のうち「可能であれば録音する」は司法面接の観点から適切な対応と みなされるものであった。この項目に対する参加者の肯定評価は高く(M=3.06, SD=0.80),録 音による記録の重要について適切な認識が共有されていることが示されている。 残りの8項目については,記憶の汚染や精神的二次被害につながる可能性のある対応であっ たり,不十分な記録となってしまうなど司法面接の観点からは適切とはいえない項目であった。 これらの中で,参加者の肯定評価が最も低かった(つまり,適切ではないと正しく判断された) のは,「子どもが撤回したらなかったと考える」であった(M=1.38, SD=0.60)。虐待などの被 害報告の際に,一度申し立てた被害について「嘘だった」,「間違っていた」などと子どもが 1 2 3 4 いじめ加害 いじめ被害 身体的虐待 心理的虐待 性的虐待 ネグレクト

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撤回すること(リカント)はしばしば見られる現象である。特に性的虐待が疑われる場合には, 被害について開示した後に撤回し,その後再び肯定するというプロセスをたどることが示され ている(Sorensen & Snow, 1991)。本研究の参加者の認識は,このような知見と一致するもの であり適切な認識が共有されていることが示された。このように,録音の必要性,撤回のプロ セスがあり得るという点については,教育・保育機関の教職員・保育士に周知されていると思 われる。 一方,適切な対応法ではないにも関わらず,参加者の肯定評価が高い項目もあった。「人形 や絵などを使用する」(M=3.30, SD=0.67),「詳細に聞き取る」(M=3.10 SD=0.82),「開示 のない被害確認をする」(M=3.03,SD=0.72)であり,これら3項目は肯定評価の平均値が3を 超え,他項目と比べて有意に高かった。 人形や絵など補助物の使用は,子どもの誘導性を高めるとして多くの司法面接において使用 を控えることが望ましいとされている。また,被害について詳細に聴き取ったり,子どもから 開示のない被害について確認を行うには,専門的な面接技術が必要であり,司法面接の研修を 受けた専門家がチームで聴き取りを進める必要があると考えられている。しかしこれらについ ては,教育・保育機関の教職員や保育士に周知されていない状況にあると思われる。 このような傾向は,養護教諭を志望する大学生を対象に行った田中(2017)でも示されてお り,司法面接に関する講義を受講する前の各項目における肯定評価の平均値(SD)は,「詳細 に聞き取る」:3.43(0.55), 「複数で確認する」3.00(0.82), 「たくさん質問する」2.50(0.75), 「開示のない被害確認」3.37(0.59),「人形や絵の使用」3.43(0.74),「撤回はなかった」 1.40(0.65),「言わない約束をする」3.12(0.69),「メモは要約・簡潔に」3.03(1.18),「録音 をする」3.56(0.60)であった。本研究における結果ときわめて類似した評価傾向となっている ことがわかるだろう。(Figure 3参照)。 Figure 3 本研究と田中(2017)の講義前の肯定評価の比較(平均値) 1 2 3 4 本研究 田中(2017)講義前

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子どもへの聴取における具体的な手法に関する正しい認識を周知する際には,特に司法面接 の観点からは適切と言えない対応法にもかかわらず肯定評価が高い項目について焦点をあて, 重点的に周知する必要があるだろう。具体的には,詳細には聞かず,通告に必要な情報収集に とどめるということ,安全確認や緊急を要する場合を除き,子どもが開示していない被害につ いては,直接問わずオープンな働きかけで子どもの方から語ってもらうよう努めるということ, 補助物の使用は控えるということについて伝える必要があると考えられる。 次に,聴取態度に関しては,いじめや虐待を想定した聴き取りにおいて,中立的態度で客観 的な聴き取りを優先するか,受容的共感的態度で心情の聴き取りや心のケアを優先するかにつ いて探索的に調査した。ここでは,評価の平均値が高いほど中立的態度で客観的な聴き取りを 優先する傾向が高いことを表している。 結果は,いじめの加害を想定した聴き取りにおいて,中立的態度で客観的な聴き取りを優先 する傾向が他の聴き取りを想定する場合よりも高かった。また,ネグレクトに関する聴き取り については,「いじめ被害」「心理的虐待」「性的虐待」を想定する場合よりも中立的態度で 客観的な聴き取りを優先する傾向が高かった。一方,性的虐待を想定する場合の聴取は,6つ の項目の中では最も評価の平均値が低く,受容的共感的態度で心情の聴き取りや心のケアを優 先する傾向が強かった。 この結果は,教育・保育機関の教職員・保育士が,どのような聴き取りを想定するかによっ て聴取における態度や優先すべき事柄を変えていることを示している。まず,いじめの聴取に おいては,加害が想定される場合には中立的態度で客観的な事実確認を優先させるが,被害が 想定される場合には受容的共感的な心情聴取を優先させる傾向にあった。いじめの被害確認に 関しては,事実確認に活かせる面接法を参考に,まずは評価することなく,どちらの側からも 情報を収集することが重要であることが指摘されている(札幌市児童等に関する重大事態調査 検討委員会,2017)。したがって,加害と被害のどちらを想定する場合であっても,「何があっ たのか(子どもが何を体験したのか)」という事実の把握を中立的立場において行うことが重 要だと考えられている。もちろん子どもの心情に配慮し,受容や共感的な態度は重要であるが, 過度に受容的共感的立場をとることは,誘導的な働きかけとなるおそれもあり,「何があった のか」について捉えにくくなる可能性もあるだろう。したがって,司法面接の観点からは,子 どもの体験を確認する際には,過度に受容的共感的な態度をとることについて慎重であるべき とされ,また,事実確認と子どものケアやサポートについては役割を分けるべきであるとされ ている。本調査の参加者が,いじめや虐待を想定した聴き取りにおける望ましい態度や優先事 項をどのように判断したのかについて,今回の調査結果から推測することは困難であるが,客 観的に事実確認を行うことと,受容的共感的にそれぞれの子どもを支援することの2つのプロ セスの重要性と適切なバランス,適切な役割分担の在り方について,広く周知することが重要 であると思われる。 また,虐待を想定する場合においても,虐待種別によって優先される態度が異なることが示 された。つまり,ネグレクトが想定される場合において,心理的虐待や性的虐待が想定される 場合よりも客観的な事実確認を優先させる傾向が示された。ただし,ネグレクトの評定平均値

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は4件法における2.08であったことから,ネグレクトが客観的な事実確認を優先させる傾向が あると言うよりは,心理的虐待(M=1.50)や性的虐待(M=1.42)が,より受容的共感的態度を優 先させる傾向が強かったために有意差が示されたと捉えるべきであろう。 特に,性的虐待が想定される場合には,受容的共感的な態度で心情聴取を優先させる傾向が 強いことがうかがえた。性的虐待の聴取はきわめて難しい聴取であることが指摘されており, 司法面接はもともと性的虐待の聴取を想定して開発された手法であった(現在は,より広く適 用がされている)。そして,性的虐待を含むすべての虐待の被害確認において,誘導や暗示の 影響を避けるため,過度に受容的共感的な態度をとることについては慎重であるべきとされて いる。したがって,まずは虐待の被害が疑われる場合においては,中立的な態度で客観的な事 実確認を実施する必要があることを周知する必要があるだろう。それと同時に,このような被 害が想定される子どもへ事実確認と並行してどのようなケアやサポートが必要とされるのか, 具体的にどのようなケアやサポートが可能であるのかについても情報提供をすることが望まし いと考えられる。 子どもから体験を正確に聴き取る客観的な情報収集と子どものケアやサポートという受容 的共感的な支援の2つの側面について,それぞれの役割と重要性,そして具体的な手法について, 教育・保育機関をはじめ通告義務を持つ他の機関や子どもと日常的に関わる大人に対し,より 一層周知していくことが必要であろう。 引用文献 キャンサースキャン(2019)平成 30 年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「児童相談所,警察,検察に よる協同面接等の実態調査による効果検証に関する調査研究」事業報告書 https://cancerscan.jp/wp-content/uploads/2019/04/9e78edc7f8deb4e0261bb9fc708e94ed-1.pdf Ceci, S. J., Ross, D. F., & Toglia, M. P.(1987)Age differences in suggestibility; Narrowing the

uncertainties. In S.J. Ceci, D. F. Ross, & M. P. Toglia, (Eds) Children’s Eyewitness Memory. New York; Springer Verlag.

Fivush, R., & Fromhoff, F.A.(1988)Style and structure in mother-child conversations about the past. Discourse processes, 11, 337-355.

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Sorensen, T., & Snow, B.(1991)How children tell: The process of disclosure in child sexual abuse. Child Welfare: Journal of Policy, Practice, and Program, 70(1), 3–15.

田中晶子(2017)虐待被害を疑った時の子どもからの聴き取り : 養護教諭志望学生を対象とした意識調査 から 四天王寺大学紀要 65, 39–51.

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付記:本稿は,日本教育心理学会第 59 回大会(2017 年 10 月 4 日)企画シンポジウム「子どもの面接研究 の学校における活用に向けて―学校からの虐待通告 迅速な通告と有機的な多機関連携に向けて」において 発表されました。 謝辞:本研究は,JST(科学技術振興機構)/Ristex(社会技術研究開発センター)による平成 27 年度戦略 的創造研究推進事業(社会技術研究開発)「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」領域の助成を 受けて実施される研究開発プロジェクト「多専門連携による司法面接の実施を促進する研修プログラムの 開発と提供」(プロジェクト代表:仲真紀子)の助成を受けました。また,調査にご協力いただきました大 阪府下の市町村職員,幼保・学校関係者,教職員の皆様に感謝申し上げます。

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Table 1  学校内で虐待の疑いがある児童に出会ったときの対応(9項目)  田中(2017) 質問項目  司法面接(事実確認)  の観点からの適切な対応  被害内容についてはできる限り詳細に聴き取 ってから,児童相談所等に通告するのが望ま しい。    誰が・どうした・(いつ)  といった通告に必要な情報にとどめる。  児童相談所等に通告する前に,複数の大人が 子ども本人に何度か話を聞き,被害内容を確 認しておくと良い。  聴き取り(確認)回数はできるだけ少なくする。  大人の側から子どもにたくさん質問
Table 2 虐待対応に関する項目の肯定評価の平均値(SD)  平均値(SD)  詳細に聴き取る  3.10(0.82)  複数で確認する  2.83(0.93)  たくさん質問する  2.18(0.89)  開示のない被害確認  3.03(0.72)  人形や絵の使用  3.30(0.67)  撤回はなかった  1.38(0.60)  言わない約束をする  2.47(0.89)  メモは要約・簡潔に  2.32(1.18)  録音をする  3.06(0.80)  Figure 1 虐待対応に関する項目に
Table 3 聴取態度に関する項目における評定平均値(SD)  平均値  (SD)  いじめ加害を想定  3.21(0.96)  いじめ被害を想定  1.67(0.89)  身体的虐待を想定  1.71(0.98)  心理的虐待を想定  1.50(0.86)  性的虐待を想定  1.42(0.82)  ネグレクトを想定  2.08(1.18)  Figure 2   聴取態度に関する項目における評定平均値  考 察  虐待対応に関する項目は,虐待の疑いがある子どもに出会った時の対応について4件法での 評定

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