1.はじめに 泉大津市教育委員会では2014年度から桃山学院大学と連携協定を締結し、 協働してさまざまな事業を進めてきた。なかでも、連携窓口で大学准教授の 井上敏先生を室長とする桃山学院史料室との博物館・文化財連携事業は、桃 山学院史料室が有する豊富な学術的知見を地域で活用できる、またとない機 会となった。本稿ではこれまで実施してきた桃山学院史料室との連携事業を ふりかえり、報告と検証を行うものである。 2.企画展・講演会「桃山学院の歴史と文化」 桃山学院史料室との最初の連携事業として実施したのが、企画展及び講演 会「桃山学院の歴史と文化」である。これは、これからパートナーとして事 業を進める桃山学院を市民が知る機会を設けるため、泉大津市立織編館及び 泉大津市役所ロビーを会場とした企画展と、展示に伴う記念講演会の取組で ある。 織編館ギャラリーにおける展示は2014年12月12日から12月23日まで開催 し、167人の入館者を迎えた。織編館ギャラリーを巡回した市役所ロビーで の展示は2015年2月20日から2月27日の間実施し、約700人の市民の目にふれ た。 企画展は主に写真を中心に据えたパネル展示であった。桃山学院の創立に 関わった C.F. ワレン師をはじめとする学院の歴史に名を残す人物の紹介や、 [連携事業報告]
泉大津市・桃山学院史料室連携事業報告
~博物館連携を中心として~
村 田 文 幸
桃山学院の前身である高等英学校や 桃山中学校などの歴史を物語る写 真、そして現在の桃山学院大学の様 子などが展示され、桃山学院草創期 の歴史が近代におけるキリスト教伝 道の歴史とオーバーラップすること を知ることができた。 泉大津市の歴史上、キリスト教が かかわることは皆無ではないにせ よ、取り上げられることも少ない。 その泉大津で、キリスト教が活動の中心にある桃山学院の歴史・文化を展示 できることは、私自身大変新鮮な経験であったし、おそらく見学した市民の 多くもそのような感想を持ったことであろう。 記念講演会では、桃山学院史料室の西口忠氏にお話しいただいた。場所は 織編館のあるテクスピア大阪3階の研修室で、2015年2月1日午前10時から 1時間半にわたって実施した。受講者数は30人であった。 講演の内容は桃山学院の通史をたどりながら、キリスト教伝道を通して日 本と外国の文化交流にまで話が及んだ。とりわけ西口氏がとくに関心を持っ て取り上げられた話題が、ニッカウヰスキーを創立した竹鶴政孝であった。 竹鶴はスコットランドで醸造技術を学び、現地で妻を得て帰国し、ウィスキー づくりに生涯をささげた人物だが、1922年から1923年にかけての数か月間、 化学の教師として桃山中学校に籍を置いたことがある。ちょうどテレビでは NHK の朝ドラで「マッサン」が大ブームであったため、受講者も大変興味 深く話を聴いていたのが印象的であった。 講演会も企画展同様、従来の泉大津における講演会ではとりあげられるこ とのなかった内容であり、連携することで生まれる新しい力を実感した。 3.企画展「戦争が残したもの」 2015年は第二次世界大戦終結70年、日露戦争終結110年にあたることから、 薄れゆく戦争の記憶を残すことをテーマに据え、桃山学院との連携企画展「戦 展示風景 泉大津市役所ロビー
争が残したもの」を開催した。 企画展は、桃山学院史料展示 コーナー(桃山学院大学聖ペテロ 館2階)と織編館ギャラリーの2 会場で実施した。織編館ギャラ リーにおける展示は2015年7月16 日から8月3日まで開催し、301 人の入館者を迎えた。桃山学院史 料展示コーナーでの展示は2015年 6月24日から11月17日の間実施 し、大学生や一般聴講生が見学を した。 桃山学院史料展示コーナーで は、日露戦争を中心とした展示で あった。泉大津市教育委員会から は、戦後旅順で収集されたロシア 軍の砲弾、乃木大将絵葉書、軍票、満韓鉄道唱歌、明治天皇大葬写真などの 資料に加え、ロシア兵墓地、大津川大砲試験場(台場)、日露戦争戦勝記念碑(勇 青団碑)等画像をパネルで出品した。桃山学院史料室からは、日露清韓報図、 日露陸戦方面地図、旅順市街及戦跡案内図、軍神広瀬中佐(冊子)、慰問礼状、 日本聖公会総会決議録などの資料に加え、日露戦争時の慰問袋作製作業、桃 山中学における兵式体操・兵式教練、陸軍特別大演習、桃山中学奉安殿等画 像をパネルで出品した。 織編館ギャラリーでは、第二次世界大戦を中心とした展示を行った。泉大 津市教育委員会からは、満州国硬貨、支那事変戦跡の栞(冊子)、国庫債券、 戦傷見舞状、国民服、日章旗寄せ書き、出征幡、砲弾などの資料に加え、市 内奉安殿、献納家具、防空訓練、戦後の昭和天皇助松学園行幸、市内忠魂碑 等画像をパネルで出品した。桃山学院史料室からは、祈祷書字句改正資料、 哈爾濱聖公会戦勝祈願式通知、大阪保誉院概況などの資料に加え、大阪府中 学校連合演習、野外演習時の銃剣手入、防空演習等画像をパネルで出品した。 泉大津市教育委員会からの出品を桃山学院史料展示コーナーで展示できた
ことは、地域と戦争の関係を大学で発信する絶好の機会となった。とくに、 展示の目的が「戦争が地域に与えた影響を知り、今日の平和を思いおこし、 未来に過去の記憶を伝える」ことと「次世代を担う若い世代や学生の皆さん に地域が実際に体験した『戦争』を知って」もらうことであり、主旨に沿っ た展示ができたと思う。また、桃山学院史料室の資料を織編館で展示するこ とにより、同じキリスト教徒でありながら敵国米英との狭間で苦悩する桃山 中学校関係者の様子や、ミッションスクールであるにも関わらず明治天皇桃 山御陵等神道施設参拝に赴かなければならない桃山中学校が抱えた矛盾につ いて、戦争がもたらした知られざる一面を泉大津市民が知り得た貴重な経験 となった。 4.講演会「戦争がもたらしたもの」 講演会「戦争がもたらしたもの」は、企画展「戦争が残したもの」の記念 講演会として、いずれもテクスピア大阪3階研修室にて2回連続で実施した。 第1回目は桃山学院史料室特別研究員の西口忠氏に「日露戦争とキリスト 教」と題するご講演をたまわった。内容は、「日露戦争(1904-1905年)前の 時代」「キリスト教会は日露戦争に対し、どう対応したのか」「内村鑑三の非 戦論」「夏目漱石に見る日露戦争」「『基督教週報』に見る日露戦争」「ロシア 兵俘虜収容所と聖公会宣教師による慰問とロシア人墓地(隠岐)」「泉大津に おけるキリスト教伝道」「日露戦争と桃山中学校」を小テーマとする大変内 容の濃いものであった。ご講演の中 で私が特に興味深かったのが、「泉 大津での伝道は少なくとも日露戦争 時から日本聖公会の菅寅吉が岸和田 から出向いて開始され、信徒の家で 聖書研究会、伝道集会などがもたれ た」というお話しであった。「『日本 聖公会要覧』には1920年から23年、 1927年に伝道所または集会所として の記録が残っており、岸和田復活教 西口忠氏講演風景 テクスピア大阪3階第1研修室
会が所蔵する教籍簿には泉大津市地域の信徒名簿を見ることができる」とい うご指摘は、地域における調査・研究を前進させる一歩となろう。 第2回目は桃山学院史料室の玉置栄二氏による「旧制中学校と戦争-旧制 桃山中学校を中心に-」と題するご講演であった。内容は、「旧制桃山中学 校について」「中学校における軍事教練のはじまり(1886年)」「大阪府下の 中学校への兵式体操の導入」「桃山中学校の誕生と徴兵制」「桃山中学校の兵 式体操用銃の払下げ」「日露戦争の影響」「兵式体操から教練へ(1913年~)」 「大阪における軍事教練改善の取り組み(1913年~1915年)」「陸軍特別大演 習(1914年)」「陸軍現役将校の配属(~1925年)」「大阪府中等学校第1回連 合演習(1929年)」「大阪府中等学校校外教護連盟(1929年)」「満州事変から 太平洋戦争開戦まで(1931年~1941年)」「太平洋戦争下の学校(1941年~)」 「大阪大空襲(1945年)」の小テーマを設定され、軍事教練を通じて旧制中学 校へいかに戦争が浸透していったかを、時系列に、また大変詳細にお話しい ただいた。ご講演で興味をひかれたのは、天皇真影奉戴の一件である。1915 年、天皇御真影を奉戴せよという文部省の通達が桃山中学校に出され、キリ スト教学校としては深刻な事態であるとして議論がなされたが、最終的には 受諾という苦渋の決断を行った、というものであった。同年1915年12月18日 大阪府庁で伝達式が執行され、校長は護衛警官を伴って桃山中学校へ帰校す ると、教職員と全校生徒が学校の正門にて迎えたのである。泉大津市域にお いても、校長等が大阪府から同様の形で真影下賜を受け、学校関係者が出迎 えるのが通例であるが、天皇の御真影を全学校関係者が出迎え校内に奉安す るというのは、ミッションスクールにとっては大変な事態であったことは想 像に難くない。これもまた、泉大津市民が知りえない戦争の一面であった。 5.戦争体験調査 企画展「戦争が残したもの」同様、第二次世界大戦終結70年にあたって、 学生さんとともに貴重な戦争体験の聞き取り調査を行い、戦争体験を記録し 後世に伝えることを目的に実施した。 調査は2015年6月から8月にかけて実施し、12人の方から採話した。調査 組織として、桃山学院大学学生及び泉大津市教育委員会職員で構成する泉大
津市・桃山学院大学戦争体験調査委員会を立ち上げ、井上敏准教授に委員長 に就任していただきご指導を仰いだ。調査内容は戦時下での生活、空襲、原 爆、満州引揚げ、戦後の苦労、疎開など多方面にわたった。調査結果は調査 報告書『学生たちと学ぶ戦争の記憶』としてまとめ、泉大津市役所及び桃山 学院大学にて配布した。 この調査は、戦争の「記憶」について学生とともに考えることができたま たとない機会であった。井上先生は、調査報告書の中で「戦争という記憶を 残していく、ということに着手するにはまず私たちは戦争という出来事と共 に戦争の『記憶』と向き合うことを覚悟しなければなりません」と、「記憶」 調査の前提となる調査者の覚悟を示された上で、「日本人全体でそれを確認 する必要があるのではないか」と「記録」の必要性を述べられている。学生 を含め調査に参加した者全員がその覚悟に立つことを余儀なくされ、覚悟の 下に聞いた話の数々はあまりにも生々しく自身の記憶として残っている。戦 争という現実の歴史を追体験できた経験を得られる機会は、これから先そう 多くはないであろう。 6.企画展「真田伝説-泉大津に伝わる真田幸村・後藤又兵衛-」 本展は「大坂の陣400年天下一祭」の一環として、真田幸村が考案し後藤 又兵衛が伝えたとされる泉大津のかつての特産品「真田紐」に焦点をあてた ものである。織編館ギャラリーにおける展示は2015年12月17日から翌年1月 聞き取り調査の様子
11日まで開催し、324人の入館者があった。 その後、桃山学院史料展示コーナーへ巡回し、 2016年1月15日から3月11日(当初2月23日 までであったが、好評につき延長)の間開催 し、大学生や一般聴講生が見学をした。展示 品は、泉大津市をはじめ各地で製織された真 田紐のほか、泉大津市伝統技術保持者白野秀 雄氏の指導・協力により作成した「真田軍旗」 「真田陣幕」、真田幸村・後藤又兵衛関連講談 本などである。 折しも2016年 NHK 大河ドラマが「真田丸」 ということで、真田幸村が注目されていたこともあり、桃山学院史料展示コー ナーの展示が2016年1月26日付朝日新聞堺泉州版に紹介された。その影響も あり、和泉市民ほか泉大津市以外の多くの方にご覧いただくことができ、は からずも桃山学院関係者以外の方にも泉大津をアピールすることができた。 上段2点…織編館ギャラリー(泉大津市) 下段2点…学院史料展示コーナー(桃山学院大学)
7.おわりに 桃山学院史料室との連携事業は、異なった歴史・文化を互いに交流できる 機会を継続して持ち続けていることが、最大の成果であるといえよう。連携 事業には、協働歩調で進めていくものもあれば、全く違う事業を交流させる 場合もある。今後も、さまざまな事業手法を組み合わせながら、互いを高め あえる活動を継続していきたい。 なお、今回は取り上げなかったが、2015年桃山祭では大学連携事業の展示 を実施し、桃山学院史料室のメンバーの全面的な協力を得た。とりわけ泉大 津市のゆるキャラ「おづみん」とともに、積極的に泉大津市をアピールして 下さった橋爪麻衣氏や、おづみんキャラグッズを精力的に販売して下さった 岩男久仁子氏にも惜しみないご協力をいただいたことを、感謝の念を込めて 付記する。 (泉大津市教育委員会事務局生涯学習課文化財専門官) 第55回桃山祭 オープニングイベント おづみん(右)※泉大津市マスコットキャラクター コダイくん(左)、ロマンちゃん(中央)※和泉市イメージキャラクター