1 はじめに
機械安全におけるJISZ8051:2015(ISO/IECGuide 51:2014)1)においては,ハザード,リスク,危害,安全, 許容可能なリスク等が定義されている.図1のように人 がライオンから危害を加えられる可能性があるならば, ハザードはライオンである2).専門的には,ハザードは 「危害の潜在的な源」と定義され,単に危険源ともいう. ライオンの存在だけではリスクとはならず,ライオンに 人が近づいて,危害を加えられる可能性がある場合に, リスクが発生する.ここで,危害とは,「人への傷害若 しくは健康障害,又は財産及び環境への損害」と定義さ れている.そして,リスクとは,「危害の発生確率及び その危害の度合いの組合せ」と定義されている.なお, リスクが発生したとしても直ちにそのリスクが顕在化す るわけではなく,安全衛生対策の不備等があってはじめ てリスクが顕在化し,人,財産及び環境に危害が発生し 災害に至ることとなる. 一方で,安全とは,「許容不可能なリスクがないこと」 と定義されている.許容不可能なリスクの反意語として 許容可能なリスクも定義されており,「現在の社会の価 値観に基づいて,与えられた状況下で,受け入れられる リスクのレベル」と定義されている. これらを図示すると,図2のように整理される3), 4). 同図では,リスクの大きさを逆三角形の底辺として示し, リスクが大きいほど,逆三角形の底辺が大きくなる.こ こで,許容不可能なリスクと許容可能なリスクの領域を 同図の点線のように表現すると,許容可能なリスク領域 以下が安全と定義される.注意すべき事は,安全と定義 されるリスクレベルであってもリスクが0でないという ことである.リスクを0にすることは現実的には著しく 困難であり,非現実的な資金と時間を費やす必要がある. そ の た め, 英 国 の 安 全 衛 生 庁(HealthandSafety
Executive)では,合理的に実行可能な範囲でできる限 りリスクを低減させるという考え方「ALARP; AsLow AsReasonablyPracticable」を適用している5). 次に,リスクアセスメントとは,特定された各ハザー ドに対して,リスクを見積り,リスク低減措置内容を検 討し,それらのリスク低減措置を実施することであ る2), 6).そのうち,リスク低減措置には,厚生労働省2) だけでなく国際的にも優先順位が決められており,図3 に示すとおりである7).まず,最初に検討しなければな らない事項は,①物理的なハザード / リスクの除去 (Elimination)である.次に,検討すべき事項は,②工法, 材料等の変更(Substitution)である.これらの本質的 安全設計3), 4)ができない場合,また実施したとしても 許容可能なリスクレベルにない場合には,③工学的対策 (EngineeringControls),④管理的対策(Administrative Controls), ⑤ 個 人 用 保 護 具(PersonalProtective
Equipment)という順に検討すべきである.①と②を検
図2 リスクの大きさと許容可能なリスク領域と許容不可能な リスク領域との関係3),4)に一部加筆
ALARPの範囲 (As Low As Reasonably Practicable) リスク 大 リスク 小 安全 リ ス ク 低 減 措 置 許容不可能なリスク領域 許容可能なリスク領域 広く受け入れられるリスク領域 無視できるリスク 安全目標 図1 ハザードとリスク2)
トンネル建設工事における設計段階からの安全衛生対策の検討
吉 川 直 孝
*
1,大 幢 勝 利
*
1,平 岡 伸 隆
*
1濱 島 京 子
*
1,清 水 尚 憲
*
1,豊 澤 康 男
*
2 近年,トンネル建設工事における肌落ち(落盤)災害,道路陥没事故,シールドトンネル建設工事におけ る崩壊水没災害等,ひとたび発生すると,重大な被害を及ぼす災害が頻発している.これらの災害事例を機械 分野で構築されつつある安全学的な見地から分析すると,建設工事を担当する施工者だけでなく,設計者及び 発注者も含めた労働安全衛生への配慮が必要である.本資料では,機械分野の安全学を建設業にも適用し,ト ンネル建設工事における設計段階からの安全衛生対策を検討する. キーワード:トンネル建設工事,労働安全衛生,リスク低減措置,安全設計,設計段階,デザインレビュー原稿受付 2019年11月6日(Received date: November 6, 2019) 原稿受理 2020年1月14日(Accepted date: January 14, 2020) J-STAGE Advance published date: January 31, 2020
*1労働安全衛生総合研究所 *2(一社)仮設工業会 連絡先:〒204-0024 東京都清瀬市梅園1-4-6 労働安全衛生総合研究所建設安全研究グループ 吉川直孝 E-mail: [email protected] doi: 10.2486/josh.JOSH-2019-0023-SHI 資 料
討せず,直ちに③を検討することは避けるべきである. ①と②を検討の上,経済性,施工性,利便性,環境保全 等と安全衛生を同じ枠組みで比較し,①と②を合理的に 実行することが困難な場合のみ,③にリスク低減措置を 委ねる. 現在,建設業では,まず発注者が設計者に設計図書(工 事,見積りに必要となる設計図面,仕上表,仕様書等) の作成を発注する.その後,それらに基づいて施工の発 注がなされ,施工という流れになる.このときの設計図 書においては,通常,経済性,施工性,利便性,環境保 全等の評価がなされるが,その評価の枠組みの中に安全 衛生の評価項目がない状況である.著者らの考えとして は,設計図書の評価項目にも安全衛生の評価項目を追加 すべきと考える.特に①と②に対して権限を有する発注 者や設計者が経済性,施工性,利便性,環境保全等と安 全衛生を同じ枠組みで考慮するような社会的な背景にな い現状があるため,今後,このような状況を改善してい くことが求められる. したがって本資料では,トンネル建設工事における肌 落ち(落盤)というハザードに焦点を当て,肌落ち災害 防止対策として,リスク低減措置の優先順位を検討し, それらリスク低減措置を実行していく上で社会的な枠組 み作り(ガイドライン,規則,法律等の施策)が必要で あることを述べる. 2 トンネル建設工事における肌落ち(落盤)災害を防 止するためのリスク低減措置の優先順位 本章では,トンネル建設工事中の肌落ち(落盤)のハ ザードを例にとり,図3の各項目に対応する対策を具体 的に考えてみる.まず①物理的なハザード/リスクの除 去(Elimination)では,そのリスク低減措置として, 以下の対策が挙げられる. 1)断層破砕帯,帯水砂層等を避けた路線計画 潜在的な亀裂が多い断層破砕帯を通る路線計画におい ては,穿孔,発破といった施工中のサイクルの中で,切 羽の亀裂を進展・拡大させてしまい,場合によっては亀 裂が閉合し肌落ちの発生確率を上げてしまう可能性があ る.また,2016年に発生した道路陥没事故8)にも代表 されるように,トンネル上部に難透水性風化岩層を隔て て地下水を多量に含んだ未固結帯水砂層等がある場合, 施工中にトンネル上部の難透水性風化岩層を掘削してし まい,より上部の帯水砂層の水圧と土圧に耐え切れなく なり,切羽から肌落ちが発生,続いて切羽崩落,地表面 陥没といった事象に繋がる可能性もある.そのため,帯 水砂層等を避けた路線計画を考慮すべきである.さらに, 被圧地下水層がある場合には,同層と空間的にトンネル が繋がってしまうと突発湧水となる場合もあるため,被 圧地下水層が路線計画上にある場合にはできる限りそれ を避けた路線計画とすべきである. このようなリスク低減措置は,発注者に権限がある事 項であることから,発注者が経済性,施工性,利便性, 環境保全等と安全衛生を同じレベルで比較検討し,適切 な路線計画を策定する必要がある.また,そのような社 会的な枠組み作りが求められる. 2)機械化の推進 近 年, 採 用 数 が 減 少 し て い る が,TBM(Tunnel BoringMachine)を適用した工法も安全衛生の面から は有用である.同工法により,切羽と作業員を空間的に 分離できる.また,新しい工法としてSENS9)の採用も 積極的に取り入れるべきと考える.SENS9)とは,密閉 型シールド(Shield)により掘削および切羽の安定を図 り,並行して1次覆工となる場所打ちコンクリートライ ニング(ECL)によりトンネルを支保し,NATMのよ うに地山が本来もっている強さを利用するように一次覆 工の安定を計測により確認した後,漏水処理工と力学的 機能を負荷させない2次覆工を施工(NATM)してトン ネルを完成させる工法(System)であり,それぞれの 頭文字から「SENS」と呼ばれている.
Elimination
(Physically remove the hazard/risk)
物理的なハザード/リスクの除去
Substitution
(Replace the hazard)
工法の変更等
Engineering Controls (Protect people from the
hazard)
工学的対策
Administrative Controls (Change the way
people work) 管理的対策 PPE (Personal Protective Equipment) 個人用保護具 • 帯水砂層,断層破砕帯等を避けた路線計画 • 機械化の推進(TBM, SENS, シールドマシン等の採用) • 切羽への立入禁止 • 鏡吹付け • 鏡ボルト • 浮石落し • 水抜き,さぐり削孔等 • 切羽監視責任者の配置 • 切羽変状計測等 • 設備的防護対策(バルーン,マット,ネット等) • 個人用保護具等 • 適切な掘削方式(機械掘削等) • 掘削断面積の縮小(ベンチの設置) • 補助工法等 Most effective 最も効果的 Least effective 少なくとも効果はある 図3 肌落ち災害防止対策の優先順位7)に加筆
・ShieldTunnelingMethod(シールド工法) ・ExtrudedConcreteLining(ECL工法) ・NewAustrianTunnelingMethod(NATM) ・System さらに,シールドマシンを適用できる地山であれば, シールド工法の採用も考えられる. 3)切羽への立ち入り禁止 切羽は,いつ不安定な岩塊が落ちてくるかわからない 場所であり,肌落ちに加えて切羽もハザードであるとい う意識を持ち,切羽に作業員を立ち入らせる事を原則的 に禁止すべきである10).しかしながら,現実的には,装 薬作業,支保工建て込み作業,ロックボルト挿入作業等, 未だ作業員が立ち入らざるを得ない状況もあるため,前 述したように,機械化を推進することが望まれる. 次に,2つ目の②工法,材料等の変更(Substitution) では,そのリスク低減措置として,以下の対策が挙げら れる. 4)適切な掘削方式の選定 発破掘削方式では,地山条件によっては,地山を必要 以上に緩めてしまうこともあるため,機械掘削方式を採 用することの検討が望まれる.その場合には,機械掘削 により生じる遊離珪酸を含む粉塵の最適な換気方式も合 わせて検討する必要がある. 5)掘削断面積の縮小(ベンチの設置等) 近年,掘削工法としての全断面工法又は補助ベンチ付 き全断面工法が採用する機会が増えてきた.掘削断面積 の増加に伴い,切羽面の高さが高くなり,切羽面中央の 押し出し変位は相対的に大きくなることが容易に想像さ れる.土木学会が発行するトンネル標準示方書では,全 断面工法は,掘削断面積が「60m2以上ではきわめて安 定した地山でなければ適用は困難」とされている11). したがって,できる限り切羽面の高さを低く,また掘 削断面積を小さくするような措置が,肌落ち災害防止対 策として有効である.切羽面の高さが低くなれば,岩石 の落下距離を小さくできるだけでなく,掘削断面積が小 さければ,落ちることのできる最大の岩石自体の大きさ も小さいものとできる. また,全断面工法又は補助ベンチ付き全断面工法を採 用し,大型のドリル・ジャンボ等の建設機械を導入して いた場合,地山が柔らかくなり切羽の安定が保てなくな った時には,ベンチカット工法に直ぐに段取り替えが困 難である.このため,全断面工法又は補助ベンチ付き全 断面工法を採用する際には,設計段階から詳細な地質調 査を実施し,トンネル延長全てにおいて切羽の安定が確 実に確保できること又は補助工法等により切羽の安定を 確保することが必要不可欠である. 6)補助工法の採用 前述したように,切羽の安定が保てない場合には,天 端の補強,鏡面の補強,脚部の補強,地下水位対策,地 山補強といった補助工法を積極的に採用すべきである. 3つ目の③工学的対策(EngineeringControls)では, 肌落ち災害防止対策に特化した形として,鏡吹付け,鏡 ボルト,浮石落とし,さぐり削孔等を,④管理的対策 (AdministrativeControls)として,切羽監視責任者の 専任,切羽変状計測等を,⑤個人用保護具(Personal ProtectiveEquipment)では,設備的防護対策(バルーン, マット,ネット等),個人用保護具を列挙した. 再度,図3を全体的に俯瞰すると,特に,①物理的な ハザード/リスクの除去(Elimination)及び②工法,材 料等の変更(Substitution)において,発注者に権限が あることが多く,また建設プロジェクトの初期の段階(基 本計画,基本(概略)設計等)から検討しなければなら ない事項(路線計画,工法の選定等)が多いことがわか る.また,掘削断面積,掘削方式,補助工法等の選定に ついては,実施(詳細)設計の段階で考慮する事項であ ると考えられ,発注者だけでなく設計者の安全衛生に対 する積極的な関与も重要であることがわかる. したがって,次章では,基本設計等の建設プロジェク トの初期の段階から,発注者と設計者が共に安全衛生に 積極的に関与するための社会的な枠組み作りについて議 論する. 3 海外の好事例に見る設計段階からのリスク登録 本章では,シンガポールのガイドライン「Workplace Safety andHealthGuidelinesDesignforSafety」12)を例 にとり,設計段階,特に基本(概略)設計の段階から, ①物理的なハザード/リスクの除去(Elimination)及び ②工法,材料等の変更(Substitution)といった本質的 安全設計3), 4)を実現する方法について検討する. シンガポールでは,同ガイドラインの中で,図4に示 すように,基本設計,実施設計,施工前と各段階におい てデザインレビューを実施し,発注者と設計者がリスク 登録表に想定された全てのリスクを列挙することを求め ている.つまり,基本設計が終了した段階で,発注者と 設計者がデザインレビューのためのミーティングを開催 し,同ミーティングの中で,基本設計において想定され るリスクを列挙し,リスク登録表に全てのリスクを記載 する.リスク登録表は,表1に示すとおりであり,日本 のリスクアセスメント表に類似しているが,大きく異な る点は,同表を設計段階から作成していくということと, 「これらのハザードは設計から外すことは可能か?」,「残 存リスクレベル」,「更なる検証の必要性」,「対応担当者」 等の項目があり,次の設計段階又は施工段階に申し送り, 建設プロジェクトの関係者がリスク情報を共有できるよ うになっていることである. 発注者と設計者が建設業の安全衛生に精通していない 場合もあるため,シンガポールでは,安全設計専門家と いう資格を設け,同専門家がデザインレビューミーティ ングの調整,発注者と設計者がリスク登録表を作成する 支援等を行っている.また,シンガポールのガイドライ ンでは,チェックリストも用意されており,最低限どう いった事項をリスクとして登録すべきか表2のように示 されている.同表は基本設計が終了した後のデザインレ ビュー時にリスク登録するためのチェックリストであ Vol. 13, No. 1, pp. 79 84, (2020)
り,例えば,地質,工法等に関連した項目が挙げられて いる.同表は,建設業全般に対する基本設計時のチェッ クリストである. ここで,トンネル建設工事に特化した基本設計時のチ ェックリストを作成してみる.著者らが独自に考えた基 本設計時のチェックリスト(案)を表3に示している.「建 設プロジェクト用地及び周辺の地質は十分に調査され, 地下水位,被圧地下水,帯水層,難透水層,断層,破砕 帯等の有無を詳細に把握できているか?」,「建設プロジ ェクトの用地(路線)を決定する上で,できる限り被圧 地下水,帯水層,断層,破砕帯等を避けた(路線)計画 とできているか?」といった項目にもあるように,前述 した「①物理的なハザード/リスクの除去(Elimination) 1)断層破砕帯,帯水砂層等を避けた路線計画」をチェ ックするような内容になっている. また,「上述した項目に係わるハザード又はリスクを 除去又は低減できるような施工方法又は施工手順となっ ているか?」というように,リスクの大きさに合わせて, 前述した「②工法,材料等の変更(Substitution)」を促 すようなチェックリストとなっている. このようなチェックリストを用いて,基本設計の段階 から安全衛生を検討する取り組みが望まれる. 発注者 設計者 施工者 安全な設計のためのリスク登録 基本設計 実施設計 施工入札 施工 メンテナン スのための 設計
図4 設計段階からの安全衛生を含めたデザインレビュー及びリスク登録の実施(シンガポールのWorkplace Safety and Health Guidelines Design for Safety)12)を日本語に翻訳,13), 14)
表1 リスク登録表の例12)を日本語に翻訳,13), 14) リスク登録表の例 プロジェックト名称 : 会社名 : 検討内容: 実施担当 者: デザインレビュー実施日 : 次回レビュー日程 : 手順/場所: 番 号 デ ザ イ ン リ ス ク 特 定 さ れ た リスク アセスメント これらのハザードは 設計から外すことが 可能か ? 推奨される 管理措置 残存リスク レベル 更なる 検証の 必要性 対応 担当者 重 篤 度 可 能 性 リスク レベル 重 篤 度 可 能 性 リスク レベル ハ ザ ー ド レ ビ ュ ー
4 まとめ 本研究では,トンネル建設工事における肌落ち(落盤) というハザードに焦点を当て,肌落ち災害防止対策とし て,リスク低減措置の優先順位を検討し,それらリスク 低減措置を実行していく上で,社会的な枠組み作りを検 討した.以下にその内容を要約する. 1) トンネル建設工事中の肌落ち(落盤)というハザー ドに焦点を当て,そのリスク低減措置内容を優先順 位の高い順に以下のとおり整理した. ①物理的なハザード/リスクの除去(Elimination) ・断層破砕帯,帯水砂層等を避けた路線計画 ・機械化の推進 ・切羽への立ち入り禁止等 ②工法,材料等の変更(Substitution) ・適切な掘削方式の選定 ・掘削断面積の縮小(ベンチの設置等) ・補助工法の採用等 ③工学的対策(EngineeringControls) ・鏡吹付け ・鏡ボルト ・浮石落とし ・水抜き,さぐり削孔等 ④管理的対策(AdministrativeControls) ・切羽監視責任者の専任 ・切羽変状計測等
⑤個人用保護具(PersonalProtectiveEquipment) ・設備的防護対策 ・個人用保護具の使用等 2) 上記の各リスク低減措置を実行性の高いものとする ため,海外の好事例を挙げ,設計段階から安全衛生 を含めたデザインレビューを実施し,想定される全 てのリスクをリスク登録表に記載し(リスク登録), 発注者,設計者,施工者等の関係者間でリスク情報 を共有することが重要である.また,それらのリス クを許容可能なリスクまで,できる限り建設プロジ ェクトの初期段階からリスク低減措置を施すことが 重要である. 3) 基本設計時にリスク登録をする上で,どういったリ スクを考慮すべきか,最低限のチェックリスト(案) を表3のように作成した.同表は,前述したように ①物理的なハザード / リスクの除去(Elimination) 及び②工法,材料等の変更(Substitution)を促すよ うなチェックリストとなっている. 今後は,トンネル建設工事に特化した形で実施(詳細) 設計時のチェックリスト,施工前のチェックリスト等を 作成していく必要がある.また,発注者及び設計者がこ のようなチェックリストを利用してリスク登録すること を推奨するようなガイドライン,規則,法律等の施策が 必要である. 文文文 文
1) JIS Z 8051: 2004 (ISO/IEC Guide 51: 2014) 安全側面−規 格への導入指針,http://kikakurui.com/z8/Z8051-2015-01. html (2018年5月17日閲覧)
2) 厚生労働省:職場のあんぜんサイト,https://anzeninfo. mhlw.go.jp/risk/syokuhin07.html https://anzeninfo.mhlw. go.jp/risk/syokuhin0 8.html https: / /www.mhlw.go.jp/ new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/110405-1_01. pdf (2019年11月5日閲覧) 3) 向殿政男,北野大,菊池雅史,小松原明哲,山本俊哉, 松原健司:安全学入門 安全の確立から安心へ,研成社, 2009. 検討事項 特定された ハザードの 詳細 地質 ・計画されたプロジェクト用地の地盤の特性は有資格者によって調査が行われたか? ・計画されたプロジェクトの近隣に基盤が浅い可能性のある建造物や構造物がある か? ・地下水面は建設計画を実施すると低くなるか? ・建設計画に起因する地盤沈下が発生する可能性はないか? ・地盤沈下が最小限となるようにするための予防措置はあるか? 住民 ・プロジェクトが開始することによる住民への影響はないか? ・プロジェクトが開始することによる交通への影響はないか? サービス ・用地にはプロジェクトのために撤去あるいは移転することが必要な地下施設はない か? ・あった場合にそれらの施設の撤去あるいは移転することが,雇用者や住民に対する ハザードとなるか? その他 ・建設期間中に特別な手配が必要な特殊な要素はないか? ・施工法もしくは施工順序を今現在,明確にすることができるか? ・それらのハザードは今現在対処することができる,施工法もしくは施工順序に伴うも のか? ・ファサード,屋上や壁面の緑化等メンテナンス期間中に特別な手配を必要とする特 殊な要素はないか? ・特定,排除ができる予見可能なハザードはないか? 表2 基本設計におけるデザインレビュー時のチェックリスト12)を日本語に翻訳,13), 14) Vol. 13, No. 1, pp. 79 84, (2020)
4) 向殿政男:入門テキスト安全学,東洋経済新報社,228p., 2016.
5) Health and Safety Executive: ALARP suite of guidance, http://www.hse.gov.uk/risk/expert.htm (2019年11月5日 閲覧) 6) 吉川直孝,大幢勝利,豊澤康男,平岡伸隆,濱島京子, 清水尚憲:機械分野の安全学から見た建設業における安 全衛生の課題と今後の方針に関する提案,土木学会論文 集F6 (安全問題), Vol. 75, No. 1, pp. 1-11, 2019.
7) The National Institute for Occupational Safety and Health: https://www.cdc.gov/niosh/topics/hierarchy/default.html, Centers for Disease Control and Prevention (2019年11月 5日閲覧) 8) 福岡地下鉄七隈線延伸工事現場における道路陥没に関す る検討委員会,国立研究開発法人土木研究所:福岡地下 鉄七隈線延伸工事現場における道路陥没に関する検討委 員会報告書,平成29年5月. https:// www.pwri.go.jp/jpn/ kentou-iinkai/pdf/houkokusyo.pdf (2018年5月17日閲覧) 9) 長谷川正明,野口守,玉井達毅:SENS(シールドを用い た場所打ち支保システム)のコンクリート開発−北海道 新幹線,津軽蓬田トンネル−,コンクリート工学,Vol. 49, No. 1, pp. 106-109, 2011. 10) 吉川直孝,平岡伸隆,伊藤和也:若材齢ベースコンクリ ートの押し抜き実験とその個別要素シミュレーション, 土木学会論文集F1 (トンネル工学), Vol. 75, No. 1, pp. 56-74, 2019. 11) 公益社団法人土木学会編: 2016年制定 トンネル標準示方 書[共通編]・同解説 / [山岳工法編]・同解説, 公益社団法 人土木学会, 2016.
12) WSH Council: Workplace Safety and Health Guidelines Design for Safety, https://designforconstructionsafety. files.wordpress.com/2018/05/wsh_guidelines_design_for_ safety1.pdf, 2016. (2019年11月5日閲覧) 13) 独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研 究所 : 平成30年度厚生労働省委託事業 建設工事の設計 段階における労働災害防止対策の普及促進事業 報告書 , https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00970.html, 2019. (2019年11月5日閲覧) 14) 吉川直孝, 大幢勝利, 平岡伸隆, 高橋弘樹, 日野泰道, 豊澤 康男: 諸外国における建築物等の設計段階から考える安全 衛生管理手法の調査, 労働安全衛生総合研究所特別研究報 告JNIOSH-SRR-No.49(2019), 独立行政法人労働者健康 安全機構 労働安全衛生総合研究所, pp. 11-19, 2019. 表3 トンネル建設工事に特化した基本設計におけるデザインレビュー時のチェックリスト(案) 検討事項 特定された ハザードの 詳細 用地(路線) 地質 建設プロジェクト用地及び周辺の地質は十分に調査され,地下水位,被圧地下水,帯水層,難透 水層,断層,破砕帯等の有無を詳細に把握できているか? 建設プロジェクトの用地(路線)を決定する上で,できる限り被圧地下水,帯水層,断層,破砕 帯等を避けた(路線)計画とできているか? 建設プロジェクトの用地買収はすでに終了し,建設に必要な資機材の搬出入を含めて,十分な用 地を確保できているか? 建設プロジェクト用地の周辺に浅い基礎の構造物があるか? 地下水面は建設プロジェクトを実行すると低下する可能性があるか? 建設プロジェクトに起因する地盤沈下,地表面陥没が発生する可能性はないか? 地盤沈下,地表面陥没が最小限となるようにするための措置はあるか? 住民 建設プロジェクトを実行する上で,周辺住民への影響(騒音,振動,井戸水の枯渇・汚染,基礎 の傾斜等)はないか? それらがある場合,影響を最小にするような措置はあるか? 建設プロジェクトを実行する上で,交通(資機材の搬出入経路の交通渋滞等)への影響はないか? それらがある場合,影響を最小にするような措置はあるか? サービス 建設プロジェクトの用地には,撤去又は移転の必要な地下埋設物(電気,ガス,上下水道管等), 地下構造物等はないか? それらがある場合,撤去又は移転することにより,所有者及び周辺住民に対するハザードとなる か? それらがある場合,地下埋設物,地下構造物等への影響を最小にするような措置はあるか? その他 上述した項目に係わるハザード又はリスクを除去又は低減できるような施工方法又は施工手順と なっているか? 建設プロジェクトの構造物のメンテナンス時に特別な措置を必要とする事項はないか? その他,予見可能なハザードはないか?