〈特集: 精神科診療における精神療法・カウンセリングの必要性について〉成人期広汎性発達障がい者の支援について
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(2) 近畿大学臨床心理センター紀要 第 6 巻 2013年. 26. 図1.. Ⅲ.支援の方向性 成人期 PDD の支援の方向性について、図 2 に示す。障がい特性に関連した症状や行動上 の問題などと二次的に出現している精神症状との区別は困難なものもあるが、精神科受診の 理由となりうる症状としては、抑うつ症状、不安焦燥感、パニック発作、睡眠障害などが多 い。また気分障がいが併存するものや、統合失調症との鑑別が困難なものもある。これらの 症状に対しては、薬物療法を中心とした狭義の精神科治療が必要となる。次に就労段階での つまづきについては、当センターの外来調査では初診時に半数以上が無職であったのだが、 その内訳としては、義務教育の時から不登校となり、そのまま自宅へひきこもったままと なっているケース、一般就労したもののうまく継続できず離転職を繰り返しているケース、 大学や専門学校へ在学中であるが、就職活動でつまづき福祉就労も念頭に入れ、診断を求め て来られるケースなどさまざまであった。精神障害者健康福祉手帳の取得や各種医師意見書 については、医師が協力できる部分であるが、就労支援については、医療機関だけで完結す るものではなく、就労支援機関などと連携しながらすすめていくことが必要である。ただ、 各就労支援機関においても、人手・時間ともに不足している状態であるため、十分な支援 体制が構築されているとは言いがたい。(大阪府,2013)そのため、今後はさらなるネット ワークの構築と支援機関と当事者の間に入るコーディネーター的な人材が必要であると思わ.
(3) 特集:精神科診療における精神療法・カウンセリングの必要性について. 27. れる。 次に生活支援についてであるが、経済的な問題や衣食住を中心とした生活の問題において は、生活保護や障がい年金、各種ヘルパーの利用などが必要となってくるケースがある。中 には虐待ケースとして子どもの診察をしている際に、保護者の発達障がいに気づかれる場合 もある。自身の発達障がい傾向に自分も周囲も気づかないまま、子育てや家事に苦労され、 不幸にも子どもの虐待に至ったのである。また、虐待にまでは至らなくとも、子どもの診察 の中で保護者の発達障がいに気づかれる場合や子どもが発達障がいと診断された後に保護者 自身が自ら発達障がいではないかと疑い診断を求めて受診となる場合もある。診断を含めそ れぞれのニーズに沿った支援が必要であると思われる。自己理解への援助については、次の 項で述べたい。最後に図 2 にあるようにニーズとして「居場所」の問題がある。これは、時 間、空間的な日中活動の場という意味もあるが、なんらかの社会の一員であるという所属感 の問題でもある。当センターの外来調査でも、初診時に半数以上が無職であり、ひきこもり 状態のケースも 3 割以上であったことより、どこにも所属せず在宅生活を送っている方が多 いと推測される。就労支援、生活支援以外にも日中活動支援は、成人期 PDD 支援の中で重 要な部分であり大変ニーズも高い。. 図2..
(4) 28. 近畿大学臨床心理センター紀要 第 6 巻 2013年. Ⅳ.精神科医療としてできること 成人期 PDD の支援において、精神科医療としてできることを図 3 に示した。当センター の外来調査において、 7 割以上が診断評価目的であった。確定診断は、生育暦の確認、現在 の状況のアセスメント、心理検査などから総合的に判断するのであるが、生育暦の確認にお いて、養育者が高齢であったり、本人との関係が良くないため協力していただけなかったり と、十分に聴取することが困難なことも多い。また、養育者から生育暦を聴取できたとして も、成人になってはじめて診断されるケースの場合、知的障害を伴っていないケースが大半 を占めており、乳幼児健診などでの指摘を受けてこなかったり、周囲も気づいてこなかった 場合があるので、十分な情報が得られないことも多い。そのため確定診断には苦慮すること も多いが、通知表などの客観的な情報も役に立つこともあるので、お手持ちであれば受診の 際に持参していただくこともある。また、養育者や支援者は診断を受けさせたいという目的 で受診となったが、本人はそれを理解できていなかったり、望んでいない場合もある。その 場合は、無理に診断を急がず、本人のニーズに沿っての関わりを続けていくことも大切であ ると考えている。 次に薬物療法を含む狭義の精神科治療についてであるが、PDD そのものに対する薬物療 法は現在のところ明らかになっていないが、二次的に出現している抑うつ症状、不安焦燥 感、パニック発作、睡眠障害などに対してや、随伴症状としての感覚過敏やフラッシュバッ クなどに対して薬物療法が必要となることが多い。杉山は、発達障がいの薬物療法は、少量 処方が原則であり、最低容量の半錠からスタートすればよいと述べている。(杉山,2013) 実際のところ、副作用に敏感なケースも多く、少量からスタートすることも多いが、少量の 抗精神病薬で安定しているケースもある。しかし中には、多剤併用かつ最大容量まで処方し ても、症状が安定せず、薬物療法に苦慮するケースもある。もちろん薬物療法と並行して、 環境調整やストレスマネジメントなども行うのだが、さまざまな要因で複雑化しているケー スが多い。 次に福祉サービスを受けるための医師の意見書や診断書についてであるが、一番多いのが 精神障害者健康福祉手帳や障がい年金の診断書であると思われる。その他にも、ヘルパーを 利用するための介護認定の医師意見書がある。また前述の保護者に発達障がいが疑われる場 合であるが、ご本人の了解が得られれば、保護者ご本人のカルテを作成し、各種福祉サービ スを利用したりご本人、周囲の理解を促すことでうまくいくケースもある。最後に障がいや 本人の特性に関する理解の援助であるが、これにはご本人にコミュニケーション能力や理解 力の課題もある上、累積する失敗体験や環境とのミスマッチなどのために自尊心が低くなっ ており、なかなかスムーズに進まないことが多い。自分自身のしんどさに気づきにくかった り、うまく表出できない方も多く、また表面上は理解できているように見えても、実際には こちらの話している内容や意図を全く理解できていない場合もある。視覚化も含め、その方.
(5) 特集:精神科診療における精神療法・カウンセリングの必要性について. 29. の理解しやすい方法で、かつそれぞれのニーズに合わせて、支援を続けていくことが大切で あると考えている。. 図3.. Ⅴ.おわりに 成人期発達障がい臨床の実態、支援の方向性、精神科医療としてできることなどについて 要約した。成人期のケースは、さまざまな要因で複雑化していることが多く、年少のケース よりもさらに個別性が高くなっている。そのため、ケースそれぞれのニーズに沿いながら、 おつきあいしていくことが大切であると考えている。. 大阪府障がい者自立支援協議会 発達障がい児者支援体制整備検討部会(2013):大阪府発達障がい児 者支援体制整備検討報告書 杉山登志郎(2013):一般外来での発達障害の診かた 外来精神医療,13(1),18-21.
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