電力重畳通信機能を持つブロック型デバイスを用いたインタラクティブデバイスのプロトタイピングシステム
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(2) Vol.2016-HCI-167 No.18 2016/3/9. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 信制御マイコン(Cypress CY8C292466 (以下 PSoC と表記)). タ制御とセンサやアクチュエーターの操作をするマイコン. とアプリケーション用マイコン(Atmel ATmega328P(以下. の ATmega を一つずつ備えており,互いにシリアル通信を. ATmega と表記))で構成されるマスターブロックと,各ブ. 行う.. ロックがそれぞれ 1 つのアクチュエーターを備え PSoC と. PSoC と ATmega 間の通信は 3 バイト 1 セットで通信が行. ATmega で構成されるスレーブブロックに大別される.ユ. われ,1 バイト目は固定のヘッダ,2 バイト目はチャネル情. ーザーはホスト PC で任意のプログラムを記述し,それを. 報,3 バイト目にデータをそれぞれ設定する.また,通信. マスターブロックにアップロードする事で,スレーブブロ. 速度は 9600[bps]である.Arduino 化した実装済のブロック. ックに備えられた各アクチュエーターを操作する事が可能. 型デバイスを図 2 に示す.PSoC とアプリケーションの処. となる.また,PSoC のプログラミングは不要であるが,. 理を行う ATmega はシリアル通信を行うため,図 2 に示す. ユーザーは用途に応じて ATmega のプログラミングを行う. tx と rx の 2 本の通信線で接続される.. ことになる.このプログラミングのプラットフォームとし て Arduino IDE を用いる.. 図 1 システム全体像 Figure 1 System overall view. 図 2 ブロックデバイス Figure 2 Block device. 2.2 ハ ー ド ウ エ ア PSoC はスペックの関係上,ユーザモジュールや内部配. 2.3 ア ル ゴ リ ズ ム. 線をほぼ電力重畳通信に利用しているため,外部のセンサ. 各ブロックは自分自身の距離情報と接続先の距離情報を. やアクチュエーターとの連携や拡張が難しい.そこで,ア. 保持する.この情報は,複雑に構成されたブロックネット. プリケーション開発と外部モジュールとの連携や拡張をよ. ワークから,マスターブロックへデータを届けるために利. り容易にするため,スタンドアロン型のワンボードマイコ. 用する.また,距離情報はマスターブロックを距離 0 とし. ンから構成されたシステム,Arduino に着目しブロック型. て,各スレーブブロックまでの最短距離を与えるものとす. デバイスを Arduino に対応させる.電力重畳通信機能を担. る.データをホスト PC へ届ける際は,距離情報の小さい. っている PSoC と ATmega を分け,お互いにシリアル通信. ブロック ID を選択してデータを送信することで確実にホ. を行うことで,電力重畳通信機能をブラックボックス化し,. スト PC へデータを届けることができる.. その機能を Arduino で容易に利用できる.また,ATmega. また,各ブロックは一意の ID と,接続先のブロック ID. はアナログまたはデジタルの入出力ピンやモジュールが,. を格納する 2 次元配列をもち,この 2 次元配列の行は要素. 電力重畳通信機能の実装で制限のある PSoC に比べ豊富に. 番号のチャネル番号と対応している.また,配列の 1 列目. 設定でき,さらにプログラム開発環境として平易な Arduino. は接続先のブロック ID を保持し,2 列目以降は接続先のブ. IDE を用いられることから,幅広いユーザーによるプログ. ロックの内で自身の距離情報よりも遠いブロック以降で接. ラム開発が可能となる.. 続される全てのブロック ID を保持する.この情報は,マ. 先行研究により開発済みのブロックデバイスを改良し,. スターブロックから ID 指定によりデータを送信する際に,. システムの評価基板を作成した.また、この評価基板は電. スレーブブロックが使用する.探索は,指定された ID と. 源電圧の異なるマイコン間での通信を可能にするレベル変. の距離情報が近い経路を選択し辿るため,探索時間の短縮. 換回路を備えており、システムの開発や検証をより効率的. ができる.. に進められるように基板サイズを大きくした。基板のサイ. また,本プロトタイピングシステムを動作させるための. ズは,36[mm]×27[mm]とした.また 一つのブロックは,. アルゴリズムは 3 つあり, 接続情報の更新と接続情報の取. ブロック間で電力重畳通信を行うマイコンの PSoC, デー. 得を行う事で,接続状況が得られ,ブロック ID 指定通信. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 2.
(3) Vol.2016-HCI-167 No.18 2016/3/9. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report により任意のアクチュエーターを操作する.. を,接続先情報記録用の 2 次元配列中にチャンネル毎に全. 2.3.1 接続情報更新. て記録していく.また,取得距離情報と一致するブロック. まず,説明のためにホスト PC と接続されているブロッ. の接続情報を全てホスト PC に送り終えた(つまり,マス. クをマスターブロックと定義する.ホスト PC から送られ. ターブロックに接続先のある全てのチャネルからデータ送. てきた更新コマンドを受け取ったホストブロックは自分の. 信終了コマンドを受け取った)場合,取得距離情報をデク. 接続状況を更新するために,チャネル 0 から 3 に接続され. リメントして同じ処理を行う.こちらも取得距離情報の上. ているブロックと順次通信を開始するが,通信開始の前に. 限をあらかじめ設定する必要がある.. 接続の有無を確かめるコマンド(以下,確認コマンドとす. 2.3.3 ID 指定データ送信. る)をチャネルに送信する.応答があった場合,自分の ID. まず,このコマンドのアルゴリズムはマスターブロック. と距離情報を送信し,接続先は受け取ったその情報から接. と指定した ID のスレーブブロック間との通信を可能にす. 続情報と自分の距離情報を更新,その後に自分の ID を送. る(以下、ID 指定通信コマンド)。接続情報の更新と取得. り返す.こうして,全てのチャネルの接続情報が更新され. を行った後に実行される必要があり,ID 指定通信コマンド,. ると,次に接続されているデバイスに更新コマンドと更新. 指定 ID,本データの順で送信する.マスターブロックから. コマンドを行うべきブロックの距離情報(以下,更新距離. ID 指定通信コマンドと指定 ID が送信されると,ネットワ. 情報とする)を送信し,送り元は待機する.更新コマンド. ークを形成している全てのブロックの内で,距離情報の小. を受け取ったデバイスは自分の距離情報と更新距離情報が. さいブロックから順に指定された ID のブロックの探索を. 一致していれば,送り主以外のチャネルに確認コマンドを. 行って行き,本データの送信経路を確定させていく.そし. 送信して,先程と同じように更新処理を行う.この更新処. て,指定した ID のブロックに ID 指定通信コマンドがたど. 理が終了すると,待機しているマスターブロックに更新完. り着いた際に探索を終了する.こうする事で,見かけ上マ. 了のコマンドを送信する.待機しているマスターブロック. スターブロックと指定 ID のスレーブブロックとが一対一. はこのコマンドを受け取ると接続している次のブロックに. となる様な通信路が確保される.. 同様に更新コマンドと更新距離情報を送信する.この更新. ID 指定データ送信コマンドを受け取ったスレーブブロ. 処理も全てのチャネルで終了した場合,更新距離情報をイ. ックは,まずコマンドを受け取ったチャネルを記憶し,指. ンクリメントして同じ処理を繰り返す.この方式で更新す. 定 ID の受信を待機する.受信した指定 ID とスレーブブロ. る場合,更新距離情報の上限はあらかじめ設定しなければ. ック自身の ID とが一致しない場合は,前述の接続情報取. ならない.. 得コマンドのアルゴリズム中で取得した,各チャンネルに. 2.3.2 接続情報取得. 接続している全てのブロックの ID を記録している 2 次元. マスターブロックから取得コマンドが送信されると,ネ. 配列の中から,指定 ID と一致する ID を記録するチャネル. ットワークを形成している全てのブロックからチャネル. に指定 ID を送信し,送信したチャンネルを記憶した後,. 0-3 に接続しているブロックの ID とその距離情報がホスト. 待機状態となる.これ以降前述のブロックは,データを指. PC へ送られ,リスト形式で確認することができる.. 定 ID のブロックへデータと届けるためのデータ中継ブロ. ここでは距離情報が遠いブロックから ID と接続情報を. ックとして働く.受信した指定 ID とブロック自身の ID と. 送る.まず,マスターブロックから取得コマンドを受け取. が一致した際は,本データの受信を待機する.このとき,. ると,0 チャネルからデータ要求コマンドと距離情報を取. データ中継ブロックはコマンドを受け取ったチャネルと接. 得したいブロックの距離情報(取得距離情報)を送信し,. 続先に指定された ID のブロックを含むチャンネルを記憶. 接続先がある場合,自分は待機し,次のチャネルにコマン. しているため,これ以降探索をすることなしにマスターブ. ドを送信する.もし,接続先があると,受け取り側は自分. ロックと指定 ID のブロック間で相互にデータのやり取り. の距離情報と取得距離情報が一致していると,コマンドの. をすることができる.. 送り主に自分の ID,各チャネルの接続 ID と距離を順次送. 2.4 ユ ー ザ ー 用 ア プ リ ケ ー シ ョ ン. 信し,最後にデータの終わりを表すデータ送信終了コマン. ユーザーはブロックを組み立てた後,マスターブロック. ドを送る.これにより,待機しているブロックに送信が終. と接続されたホスト PC でプログラミングを行い,それを. 了したことを伝達する.そして,同様に順次他のチャネル. マスターブロックにアップロードすることで任意の動作を. に同様の要求コマンドを送信してデータを取得する.また,. 実現する.. 受け取り側で距離情報と取得距離情報が一致しない場合,. ユーザーがプログラミングを行う際に,スレーブブロッ. そのブロックは接続しているブロックに要求コマンドと取. クに対するコマンドの送信などの複雑な操作を気にするこ. 得距離情報を送信して待機する.この時のブロック自身は,. となく,より直感的にプログラミングを行うために,ブロ. マスターブロックに接続先の接続情報を送信するための橋. ック接続情報取得を自動で行うファームウェアの開発と,. 渡し役となるが,この際に接続先が保持している ID 情報. 任意のアクチュエーターを操作するための専用関数の開発. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 3.
(4) Vol.2016-HCI-167 No.18 2016/3/9. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report を行った.. (1) フ ル カ ラ ー LED. まず,ユーザーが記述したプログラムがマスターブロッ. white,red,green,blue,sky-blue,purple,yellow の 7 色を. クにアップロードされた後,接続情報の更新と接続情報の. 発光できる.. 取得が行われ,ユーザーの記述したプログラムが実行され. (2) DC フ ァ ン. る.この際 Arduino IDE のシリアルモニターには接続情報. 指定された秒数ファンを回転させることができる.. の取得までの操作が完了したかどうかという情報が随時表. (3) ブ ザ ー. 示される.接続情報の更新が正しく完了した場合には,次. 音階と時間(秒)を指定し単音を鳴らすことができる.指定. の処理に移るが,正しく終了しなかった場合には,エラー. できる音階は 3 オクターブ分の,21 音ある.. メッセージが表示される.また,同様にして接続情報の取. (4) サ ー ボ モ ー タ ー. 得が正しく終了した場合には次の処理に移るが,正しく終. アームの角度と速度を調節することができる.またアーム. 了しなかった場合にはエラーメッセージ表示される.前述. の動作速度を調整することができる仕様とした.. の 2 つのブロックの初期化作業が正常に修了した場合,接. (5) ボ リ ュ ー ム. 続されているスレーブブロックの個数とブロック ID を表. 出力された電圧値を 0 から 254 までの値にスケールを変換. 示する.その後 Arduino IDE のシリアルモニターからマス. し,その値を得る事ができる.. ターブロックに対してユーザープログラムの実行を示す文. (6) ス イ ッ チ. 字列を送信することで,ユーザーが記述したプログラムの. スイッチが押されていない場合は 1,押されている場合は 0. 部分のみ実行される.またユーザーのプログラムを実行中. をマスターブロックへ送信する.. に Arduino IDE のシリアルモニターからマスターブロック. (7) CdS. に対して実行停止を示す文字列を送信することで,プログ. 得られた電圧値を 0 から 254 までの値にスケールを変換し,. ラムの実行を一時停止させることができる.この事により,. マスターブロックへ送信する.明るければ明るいほど大き. センサやアクチュエーターで表現される動作について随時. な値を得る事ができる.. 検討を行う事ができる. また,このプロトタイピングシステムを用い,マスター. 3. 評 価 実 験. ブロックに 5 個のスレーブブロックを接続した.このとき. 3.1 目 的. のユーザープログラム開始までのシリアルモニターの遷移. 本実験では,プロトタイピングシステムを使用してプロ. 画面を図 3 に示す.シリアルモニターの初めの4行で,ス. トタイピングを行った場合と,そうでない場合を比較し,. レーブブロックの接続情報の更新と取得が正しく行われて. 対話の質やプロトタイプの完成度に影響を与えるかという. いることがわかる.また接続されているブロックの数が 5. 事と,プロトタイピングシステムの評価を目的とする.. と表示されており,現在接続されているスレーブブロック. 3.2 評 価 手 順. のブロック ID が表示されている事から,プロトタイピン. 本実験では,実際にプロトタイピングを行いプロトタイ. グシステムは正しく動作している事が確認できる.. ピングシステムの評価を行なった.被験者は,C 言語の使 用経験のある 22 歳から 24 歳の男性,計 6 名を対象とした. また,実験は 2 人 1 組で行う. 実験を行うにあたり使用した評価実験プログラムを図 4 に示す.実験はレゴブロックのみを用いてプロトタイピン グを行う試行 1 と,レゴブロックと開発したプロトタイピ ングシステムを用いてプロトタイピングを行う試行 2 に大 「自分自身の生活を快適にしてくれ 別できる.試行 1 では, るインタラクティブデバイス」というテーマに沿って, 25 分間ブレーンストーミングを行い,挙がった案の中から 提案するデバイスを選択してもらう.次に 20 分間,提案す るデバイスの機能やデザインの設計を行う.この際,使用 可能な電子部品をあらかじめ説明しておく事に加え,話し. 図 3:プログラム遷移画面. 合いの中で決定したデバイスの動作や工夫した点を用紙に. Figure 3 Program transition screen. 記録してもらう事とした.次に 25 分間でレゴブロックのみ. 2.5 ア ク チ ュ エ ー タ ー の 仕 様 以下,今回用意したセンサやアクチュエーターのブロック デバイス上での動作を示す.. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. でプロトタイピングを行う.試行 2 では,はじめの 10 分間 でシステムの使用方法のレクチャーを行う.ここでは, Arduino IDE を用いたプロトタイピングシステムへのユー. 4.
(5) Vol.2016-HCI-167 No.18 2016/3/9. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report ザープログラムのアップロード方法や,使用できる関数に ついて説明を行った後,アクチュエーターを使用した簡単 なデモンストレーションを実演する.次の 50 分間で,試行 1 で設計した機能やデザインを基にレゴブロックとプロト タイピングシステムを組み合わせてプロトタイピングを行 う.この際,まず設計書通りにプロトタイピング行っても らい,その後改良点が見つかった場合は動作や形状につい ての検討を行っても良いこととした.その後 5 分間のイン タビューと 5 分間のアンケートを行って実験を終了する. また、使用できるアクチュエーターは 7 種類とした.. 図 4 評価プログラム 図 6 実装したシステムの全体像. Figure 4 Evaluation program 3.3 実 験 環 境 と 実 験 補 助 材 料 実験を進めていくにあたり,被験者が思考の整理やイメ ージを膨らませる為のものとして,ボールペンとメモ用紙. Figure 6 Overall view of the implemented system. 4. 結 果 と 考 察. を使用できる.またプロトタイピングを行うにあたり補助. 4.1 実 験 結 果. 材料として,ビニールテープとハサミを用意した.被験者. (1) グ ル ー プ A. は実験中であれば,いつでも補助材料を使用できる.実際. 開発された「眠りにスムーズに誘うまくら型デバイス.」. にレゴブロックと組み合わせて使用する際は,先行研究で. を,図 7 に示す.被験者らは,自身の「ベッドに入っても. 開発済みの電子ブロックの 2×4 のサイズのレゴブロック. 眠りにつく事ができない.」といった悩みを解消する為に,. に,補助材料を使って貼付けて使用する事とした.その例. スムーズに眠りに入る事ができるよう環境を整えてくれる. を図5に示す.. デバイスを表現した.このデバイスの主な機能は,就寝時 に音と光を用いてスムーズに睡眠状態へと導くものである. また人が横たわっていることを検知することでデバイスが 動作する. 試行 1 のプロトタイピング時には,当初の「明かりを点 ける.」という機能の設計に対して「どの向きに寝ても光に 包まれる位置へ照明を設置する.」といった,物理的な照明 の配置の違いによって変化する光の当り具合を,予想して. 図 5 アクチュエーター使用方法. 考慮する工夫が見られた.これは設計段階からレゴブロッ. Figure 5 Actuator usage. クでの造形段階に移った事により,より物理的な性質を考. 3.4 プ ロ ト タ イ ピ ン グ シ ス テ ム デ バ イ ス. 慮できるようになったものと考えられる.. 図 6 に本実験で使用するプロトタイピングシステムのブ. 試行 2 のプロトタイピング時には,当初の「明かりを点. ロックデバイスを示す.青枠で囲まれたマスターブロック. ける.」という機能の設計に対して「デバイスの使用者の状. は PC,電源装置,赤枠で囲まれた 1 つのスレーブブロック. 態に合わせた色に変化させる.」といった,照明の発光色の. と接続する.赤枠で囲まれたスレーブブロックは他のスレ. 違いによって求める効果を最大限に引き出す為の工夫が見. ーブブロックと接続されており,5 つのスレーブブロック. られた.また,当初「音を鳴らす.」だけの機能の設計に対. 全てが基を辿るとマスターブロックに接続されている状態. して「寝るときは低い音を,起きる時は高い音をならす.」. とした.また,スレーブブロックはそれぞれ種類の違う 1. というように自発的に場合分けを行い,実際にプロトタイ. つのアクチュエーターと接続される.. ピングシステムのスピーカーから音を試聴することで,最 適な音階を選択していた.また被験者がプログラミングを 行っていく最中に,あらかじめ設計した機能を補強するた. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 5.
(6) Vol.2016-HCI-167 No.18 2016/3/9. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report めのアイデアや,そのために必要なセンサの提案などの対. 化するごとに LED の色を変化させる機能を追加した.また. 話も見られた.加えて「使用者が寝ている途中で起きた時. アクチュエーターの中に IC タグは存在しなかった為その. はアラームを鳴らさないようにする.再度寝た時にアラー. 機能を代替するものとして,スイッチを用いて補助的な言. ムを鳴らすようにする.」のように,より具体的なシステム. 葉の説明を加えることで,実現したい機能を補完していた.. に変化していった.これらは,システムが動作する手順を. このことから,使用できるアクチュエーターの種類がアイ. 整理していく中で,同時に被験者自身の頭の中のアイデア. デアや思考の広がりに影響与えることがわかる.一方, 「持. も整理されたものと考える.またユーザビリティを考慮し. ってきた人が帰ることを認識して傘を返却する.」場面では,. た機能の追加を行っていたことから,プロトタイピングに. 「靴を取っただけでその人物が帰るということ判定をして. おける対話の質は向上していると考察できる.. もいいのか.」という疑問に対し,現在被験者らが使用して いる座席表システムと連携させるという提案が生まれた. また傘を返却するタイミングについても議論が行われた. 当初,靴を取った数秒後に傘を返却するという動作をプロ グラミングで実現したが動作確認後に, 「歩くスピードには 個人差がある為に傘立てを通り過ぎてから傘を返却した場 合は意味が無いのではないか.」という議論が行われた.こ れに対し, 「傘立てを通り過ぎる事を認識するスイッチが有 れば良いのではないか.」という結論に至り,アクチュエー ターを使用して実演する事で認識の共通化を図っていた. ここでは,機能がより具体的で実用的な機能へと変化する. 図 7 まくら型デバイス. 様子がみられ,よりユーザビリティの高いシステム設計に. Figure 7 Pillow -type device. 変化したといえ,対話の質も向上していると考察できる.. (2) グ ル ー プ B 開発された「傘の忘れモノ防止デバイス.」を,図 8 に示 す.被験者らは,自身の「持参した傘を持ち帰るのを忘れ てしまう.」といった悩みを解消する為に,帰宅するタイミ ングに合わせて傘を取り出してくれるデバイスを作成した. このデバイスの主な機能は,傘が挿入されたことと下足箱 図 8 傘の忘れモノ防止デバイス. に靴が入れられたことを認識して紐付けを行い,下足箱か ら靴がとられたことを認識し傘を返却するシステムである.. Figure 8 Umbrella left behind prevention devices. 試行 1 のプロトタイピング時には,当初の「傘を持って. 4.2 考 察. きたことを認識.持ってきた人が帰ることを認識.」という. (1) ア ン ケ ー ト. 機能の実現方法は定まっておらず, 「靴の種類.」や「IC タ. 被験者にはアンケートの質問全てにおいて,試行 1 と試. グ.」などを用いるという提案に留まっていた.しかし下足. 行 2 を比較して評価又は自由記述欄に回答してもらうもの. 箱と傘立てのプロトタイピング終了後,そのレゴブロック. とした.また,設問に対する評価 5 段階(1〜5)で行うも. を用いて再度機能の設計を行っていた.その結果, 「傘を持. のとし,3 を基準に 1 に近づく程悪く,5 に近づく程良い評. ってきてから傘を持ち帰るまでの流れ」と, 「傘とその傘を. 価とした.質問内容と集計結果の中央値を示す.また,以. 持ってきた人の識別方法」に対する議論が活発に行われ,. 下にアンケートの各問いと,アンケートの各問に対する被. IC タグを用いて傘とその傘を持ってきた人の識別を行う. 験者からのコメントから推察される事柄を示す.. ことに決定した.これは設計段階からレゴブロックでの造. < 設 問 1> 共 同 制 作 者 が 問 題 と 考 え る 点 へ の 理 解 が. 形段階に移った事により,より物理的な感覚の共有が行わ. より深まりましたか.. れたことが読み取れる.. 集計結果は 4.5 ポイントであり,概ね被験者間で相互に問. 「傘持ってきたことを 試行 2 のプロトタイピング時には,. 題と考える点についての理解が深まったといえる.またコ. 認識する.」場面と,「持ってきた人が帰ることを認識して. メントより,具体的な機能のイメージを容易に共有できた. 傘を返却する.」場面とに分けてプロトタイピングが行われ. 点や,アクチュエーターを容易に使用する事ができる事に. た.「傘持ってきたことを認識する.」場面では,使用でき. より,必要な機能が洗い出されたといえる.. るアクチュエーターの中から LED を発見し,「認識を行う. < 設 問 2> 作 品 表 現 の 曖 昧 さ を 取 り 除 く 事 が で き ま. 際にデバイスの遷移状態がわかりやすい方が良いのではな. したか.. いか.」という議論が行われた後,デバイスの遷移状態が変. 集計結果は 4 ポイントであり,やや被験者間で作品表現の. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 6.
(7) Vol.2016-HCI-167 No.18 2016/3/9. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 曖昧さを取り除く事ができたといえる.またコメントより,. ターを使用する際に接続されたピンなどの設定を気にする. 具体的な機能を決定していくにあたり,アクチュエーター. 事無く,直感的にデバイスの作成が行う事が可能である事. の動作により,イメージを明確にしつつ効率的に製作を進. が分かる.プログラミングについても,アクチュエーター. める事ができたと言える.一方でスケールという点では物. を操作する為に用意された関数が使いやすい事が分かる.. 足りなさを感じている被験者も居た.. < 設 問 10> 素 早 く モ デ リ ン グ で き る と 思 い ま す か .. < 設 問 3> イ メ ー ジ し た 動 作 を よ り 相 手 に 伝 え ら れ. 集計結果は 4 ポイントであり,やや素早くモデリングでき. ましたか.. る事が分かる.またコメントより,レゴブロックを使用し. 集計結果は 5 ポイントであり,非情にイメージした動作を. て迷う事無くデバイスの造形を行う事ができることが分か. より相手に伝え易いデバイスであるといえる.またコメン. る.またプログラミングを使用したアクチュエーターの操. トより,言語化できないような,微妙な動きの表現やアク. 作に関して,今回は被験対象をプログラミングの経験者に. チュエーターの配置も相手に伝える事ができたと言える.. 絞り,行っていたため問題は無かったと言える.一方でプ. また,デバイスの具体的な動作順序に関する思考も,アク. ログラミング未経験者が使用する場合は C 言語の基礎的な. チュエーターが存在する事で行われ,視覚的に表現できる. 知識が問われる.. 事で改良への刺激となる事が読み取れる.. < 設 問 11> 制 御 機 能 は 十 分 で し た か .. < 設 問 4> 製 品 設 計 へ の 思 考 が よ り 深 ま り ま し た か .. 集計結果は 4.5 ポイントであり,概ね制御機能は十分であ. 集計結果は 4 ポイントであり,やや製品設計への思考がよ. ったと言える.またコメントより,更にアクチュエーター. り深まりまったといえる.またコメントより,デバイスの. の種類やアナログ制御などの操作性を向上させる必要が有. 実用化に向けて新たな問題点の発見や拡張的な機能を考え. ると言える.. られるきっかけを作る作用が有ると言える. < 設 問 5> 製 品 の 実 現 性 が 高 ま っ た と 感 じ ま す か .. (2) 対 話 の 質. 集計結果は 4.5 ポイントであり,概ね実現性が高められる. 被験者等の実験中の発言や行動をモニタリングし,開発し. といえる.またコメントより,完全な実用的な製品レベル. たプロトタイピングシステムを使用してプロトタイピング. にまでは到達できないが,イメージをより洗練させること. を行った際はそうでない場合に比べ,以下の点がより活発. ができ現実的でユーザビリティに配慮することが可能にな. に行われるという結果が得られた.. ると言える.. ・機能面の詳細な設計についての議論. < 設 問 6> 全 体 を 通 し て , 試 行 1 と 試 行 2 と で 感 じ. ・ユーザビリティにされた機能や形状の設計・拡張. た変化はなんですか.. ・アクチュエーターを用いたデバイス動作の共有. コメントより,絵に描いた餅のような状態であった初期の. これらの事は,デバイスの形状を容易に変化させられるレ. デバイスの設計から,より実用的な設計を行う事ができる. ゴブロックと,インタラクティブな動作を感覚的に表現で. ようになったというように,コミュニケーションの質自体. き認識できるアクチュエーターの組み合わせによって,デ. に変化が見られた.また,プログラミングを行う事で動作. ザインとインタラクションの共有や変更を同時にして行え. の順序や,動作の共有が行われた事によりコミュニケーシ. る事で活性化されたものと推察できる.. ョンが活性化されたものと考察できる.. アンケートの結果より被験者同士の相互理解が促進された. < 設 問 7> プ ロ グ ラ ミ ン グ 等 の 操 作 の 変 更 は し や す. と言える.また,明確なデザインや動作の設計を行う事が. かったですか.. できるようになり,デバイスのユーザビリティに考慮でき. 集計結果は 5 ポイントであり,プログラミングやデバイス. る事で実現性を高められたと推察できる.加えて,プログ. の操作は非情に容易であるといえる.またコメントより,. ラミングを行う事で動作の順序や,動作の共有が行われた. プログラミング初心者でも問題なくアクチュエーターの操. 事によりコミュニケーションが活性化されたものと推察で. 作を行えることが考察できる.. きる.. < 設 問 8> ス ケ ー ラ ビ リ テ ィ は ど う で し た か .. よって,本プロトタイピングシステムを用いる事によって,. 集計結果は 4 ポイントであり,やや良い評価であった.ま. 対話の質を向上させる事ができ,インタラクティブデバイ. たコメントより,デバイス自体の意匠を変更する際は元々. スにおけるプロトタイプの質の向上できると結論づける.. のレゴブロックの量やアクチュエーターの数が成果物に影 響を与える事がわかる.. (3) プ ロ ト タ イ ピ ン グ シ ス テ ム. < 設 問 9> こ の シ ス テ ム を 使 用 し て の 疲 労 度 を 教 え. アンケートの集計結果から,以下の結果が得られた.. てください.. ・大規模なものを作成する際は相応のブロックを必要. 集計結果は 4 ポイントであり,少し疲労は有るが問題ない. とする.. 範囲である事が分かる.またコメントより,アクチュエー. ・C 言語の基礎的な知識が有れば誰でも簡単に使用で. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 7.
(8) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report きる. システムを使用するのが初めてでも容易に扱える. ・モデリングの再構築が容易にできる. これらの事から,大規模なデバイスを作成するといった場 合は用意するレゴブロックの量を増やしプロトタイピング を行う事により,C 言語の初心者でも容易に使用可能なシ ステムであると推察される. また,設計,実行,考察のサイクルを効率的に行う事がで きる事によりプロトタイプの完成度を上げる事ができると 考えられる.その他,以下のような結果も得られた. ・機能表現がアクチュエーターの種類によって制限さ れる. ・アクチュエーター自体の動作をより細かく設定でき ると良い. この事から,アクチュエーターの種類と動作のバリエーシ ョンを増やす事で,更に拡張性に優れたシステムとなると 推察される.. Vol.2016-HCI-167 No.18 2016/3/9 6, pp. 1338-1347, (2001). [2]K. Matshumura, Y. Sumi: Blockon: a block based buildable remote controller, Proc. of the 11th International Conference on Mobile and Ubiquitous Multimedia Article No.46, (2012). [3]市田浩靖, 伊藤雄一, 土井隆史, 北村喜文, 岸野文郎: 点群表現 による機能位置と形状を考慮した 3 次元モデル検索, 映像情 報メディア会誌, Vol.59, No.10, pp.1467-1474, (2005). [4]伊藤雄一, 山口徳郎, 秋信真太郎, 北村喜文, 渡邉亮一, 市田浩 靖, 岸野文郎: TSU.MI.KI: 仮想世界と実世界をシームレスに 融合するユーザインタフェース, 日本バーチャルリアリティ 学会論文誌, Vol.11, No.1,(2006). [5]前田拓也, 川合規文, 伊藤雄一, 北村喜文, 岸野文郎: A-15-34 仮想世界を覗く「窓」インタフェースに関する検討, 電子情 報通信学会総合退会講演論文集, 285, (2008). [6]小池李, 伊藤雄一, シーガルヤコビー, 川合規文, ドローンヤコ ビー, ナオミジョスマン, 北村喜文, ウェイス, 岸野文郎: 発 達性協調運動障害(DCD)の診断とリハビリのためのインタフ ェースに関する検討, 日本バーチャルリアリティ学会第 12 回 大会論文集, pp.456-459, (2007). [7]矢敷貴之・秋田純一, 電力重畳通信機能を用いたブロック型デ バイスの設計と実装, 情報処理学会技術報告, Vol.2015-UBI-45, No.14, 2015.3.. よって,開発したプロトタイピングシステムはインタラ クティブデバイスのプロトタイピングに適したシステムで あると結論づける.また,プロトタイピングを行う際の表 現のボトルネックとならない為に,アクチュエーターやそ の動作をより充実させる事が求められる.. 5. ま と め 本稿では,インタラクティブデバイス向けプロトタイピ ングシステムの為の電力重畳通信を用いたブロック型デバ イスの試作と,プロトタイピングシステムのアルゴリズム 及びその実装,またそのシステムの評価実験について述べ, 実装したプロトタイピングシステムがインタラクティブデ バイスのプロトタイピングに適したシステムである事を示 した.また,開発したプロトタイピングシステムを用いる 事によって,対話の質を向上させる事ができ,インタラク ティブデバイスにおけるプロトタイプの質の向上できる事 を示した. 今後の課題として,ブロックデバイスの小型化,アクチ ュエーター部分のブロックデバイス化,アクチュエーター の種類の追加,ヴィジュアルプログラミング言語を使用し たアプリケーションを開発する事で,より組み込み機器の プロトタイピングが簡単に行う事が可能になりうる.また, 本研究で対象としたユーザーは,C 言語を使用した経験の ある人(初級から中級)を対象として取り組んでもらった が,C 言語未経験のユーザーや熟練したプログラマーを対 象に評価実験を行う事で,新たな発見が得られる可能性が あると考える.. 参考文献 [1]伊藤雄一, 北村喜文, 河合道広, 岸野文郎: リアルタイム 3 次元 形状モデリングとインタラクションのための双方向ユーザイ ンタフェース ActiveCube, 情報処理学会論文誌, Vol. 42, No.. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 8.
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