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児童の科学的概念を討論で深める問題解決学習Ⅱ : 活用力を高め合う第5学年理科「振り子運動」の学習から

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児童の科学的概念を討論で深める問題解決学習Ⅱ

―― 活用力を高め合う第 5 学年理科「振り子運動」の学習から ――

中 野 正 俊 *・東 田 充 弘 **

Problem-Based Learning in which Children can Grasp

Scientific Concepts through Discussion Ⅱ

―― A case of the fifth grade science “motion of pendulums” centered on

mutual improvement in the ability to use the concepts ――

Masatoshi NAKANO and Mitsuhiro HIGASHIDA

〈summary〉 小学校第 5 学年児童 75 名に対し、振り子運動の決まりをさぐる問題解決学習を行った。科学的な概 念を獲得させるため、一人ひとりが熟考する時間を充分にとった後、日常生活で出会う自然現象や既に 学習した内容をもとに予想を出し合わせたり、考察の際に個々が描くイメージ図などを用いて実験結果 の解釈を話し合わせたりした。具体的には、「おもりの重さ」や「糸の長さ」など、どの条件がおもり を 1 往復させる時間 (周期) に影響するかを明らかにさせていった。討論の場面では、実験結果を予想 させる際、あるいは考察させる際、それぞれに学習のねらいに沿いながら対立軸が明確となるような発 問を与えた。その結果、一連の活動で課題解決意欲などの情意面が向上した。加えて、身近な遊具を想 起させる学習課題に取り組ませたところ、振り子の運動に関する活用力の伸張を図ることができた。ま た、こうした問題解決に対する児童のつまづきを分析することによって、個々の課題に応じた具体的な 指導を行うことができた。 〈key word〉科学的概念、対立軸のある論題、課題解決意欲、活用力、振り子の運動 1、問 題 と 目 的 中央教育審議会答申 (2008)「学習指導要領 の改善について」によると、「活用」に関して 次の記述がある。「各学校で子どもたちの思考 力・判断力・表現力等を確実にはぐくむために、 まず、各教科の指導の中で、基礎的・基本的な 知識・技能の習得とともに、観察・実験やレ ポートの作成、論述といったそれぞれの教科の 知識・技能を活用する学習活動を充実させるこ とを重視する必要がある。」である。このこと から学習指導要領改訂に向けての提言がなされ、 新しい学習指導要領では、思考力・判断力・表 現力を育成するために、教科などで習得した知 識・技能を「活用」する学習活動を充実させる ことが求められた。 * 滋賀大学教育学部附属小学校 ** 滋賀大学教育学部

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村山 (2010) によると、小学校理科で「活 用」という考え方が導入されたのは、基礎的・ 基本的な知識・技能の定着を図り、思考力・判 断力・表現力を育成し、子どもの学習意欲を向 上させるためだとしている。また、その活用場 面は、子どもが身につけた知識・技能を他の 学習内容から関連させる方向と、実際の自然や 日常の生活と関連させる方向の二つが考えら れるとしている。つまり、理科に対する子ども の学習意欲を向上させるために、以上二つの側 面から活用する力を伸張させながら、思考力・ 判断力・表現力を育てていくことが求められて いる。 今回の実践では、第 5 学年理科「振り子の運 動」の学習において、子どもたちの学習意欲を 向上させ、かつ持続させるため、実験レポート の作成、論述といった知識・技能を活用する学 習活動を充実し、科学的な思考力・判断力・表 現力、つまり科学的な概念を育てていくもので ある。 具体的には、次の工夫を行う。児童の生活経 験上、ぶらんこ遊びなどの振り子運動に関す る実体験にばらつきがあった。実際、過去 3 年 以内にぶらんこで遊んだ児童はほとんどないと いったことが明らかとなっていた。したがって、 そうした体験の個人差をできるだけ小さくし、 振り子にふられる感覚を呼び戻すため、学習の 初めに体験的な活動を行った。また、言語活動 を充実させながら多面的に問題解決を進めさせ るため、討論による予想立てや結果考察を積極 的に取り入れた。発問や課題作りにおいても、 予想立ての段階で児童たちを葛藤させるとと もに、結果が明らかになってもなお自問が図 られ、理科を得意としていない児童にも追究 意欲を持たせることをめざした。学習の終末 段階では、日常の遊びから連想でき、かつ基礎 的事項の定着を試すことのできる活用型実験を 与え、そこで見いだされた課題を解決させて いった。 こうした工夫によって、子どもの学習意欲が どの程度高まり、あるいは持続したか、活用型 課題の解決結果を受け、基礎的・基本的な内容 がどこまで習得され、同時に既習事項および生 活経験をもとにした活用力がどの程度伸張した かを検証するものとする。 2、実 践 の 仮 説 第 5 学年理科「振り子の運動」学習において、 活用につながる実体験を取り入れ、活用を支え る基礎的・基本的事項を討論などによって習得 させるとともに、日常の遊びから連想でき、か つ基礎的事項の定着を試すことのできる活用型 課題に取り組ませれば、学習意欲が持続すると ともに、既習事項および生活経験をもとにした 活用力の伸張が図られるだろう。 3、実 践 の 方 法 (1) 対象 学級A 児童数 38 (男子 19、女子 19) 学級 B 児童数 37 (男子 19、女子 18) いずれも滋賀県大津市内に存する小学校第 5 学年の学級 (2) 学習計画 (Table 1) (2-1) 活用につながる実体験 子どもたち全員がのぼり綱で遊び、振り子に ふられる感覚を呼び戻すことによって、児童 個々による実体験のばらつきを小さくする。 (2-2) 活用を支える基礎事項の習得 振り子の周期を変えると思われる条件を子ど もたち自らが予想する。条件に着目し、そろえ ることと比べることを明確に整理して実験し、 その結果を討論によって考察する。 (2-3) 活用型実験の開発と実践 日常の遊びから連想でき、習得した内容を 活用できるかどうかを試す課題を開発する。ま た、この課題を解決するための実験を適切に行 わせ、その結果を討論などによって考察さ せる。 (3) 実践の評価方法 (3-1) 学習意欲の持続に関する検証 (情意面) 国立教育政策研究所 (2007) の『特定の課題 に関する調査 (理科) 調査結果 (小・中学校)』 を参考に、次の 3 つを設ける。 設問 1「今回の学習で興味・関心をもったこ

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とについて自分から調べたいと思いますか?」、 設問 2「自分の考えが正しいかどうか調べるた め、実験の方法を自分で考えようと思います か?」、設問 3「実験の結果が予想とちがった とき、その原因を調べたいと思いますか?」を 問う。それぞれ、学習の進度第 1、2、3 次終了 後に、「とても思う・少し思う・あまり思わな い・まったく思わない」の 4 段階評定尺度を用 い、いずれか一つを選択回答させる。 得られた評定尺度のデータについては、まず、 各次ごとにどういった変容があるかを整理する。 次に取得データを概観して、性差要因の可能性 が指摘された場合には、性差 (水準 2)× 進度 (水準 3:1、2、3 次) の二要因計画で分散分析 を行い、要因ごとに主効果が認められるかどう かを確認する。進度要因の水準が 3 であること から、この主効果が認められた場合には、多重 比較 (Ryan's method) を実施し、要因ごとの 有意差を検定する。一方、交互作用が認められ た場合には、単純主効果があるかどうかを確か め、下位検定の必要があるかどうかを確認する。 つまり、性差、進度の効果が予想された場合に は以上の分析を行い、情意面に関する考察につ なげるものである。 (3-2) 活用力の伸張に関する検証 (知性面) 活用力の伸張を測定するとともに、指導と評 価の一体化を意図した個別指導につなげること を目的として、次の 3 つを設けた。 設問 1「人形がすわったとき、1 往復する時 間が長くなるのはなぜでしょうか?」を自由記 述で書かせる。 設問 2「この実験結果を別の方法ではっきり させるために、重いおもりと軽いおもりを 2 つ つなげ、それらを入れかえて実験を行いました。 さて、重いおもりを下にした場合は、人形が 立っている場合と言えますか、すわっている場 合と言えますか?」を選択回答させる。 設問 3「人形の重さの中心がどこかをはっき りさせるためには、次のどのグラフを使えばい いでしょうか?」を選択回答させる。 以上、3 つの設問の正答が 8 割を越えた場合、 活用力の伸張があったと判断する。なお、設問 1 の正答例は、「人形の重さの中心が下にある から。」あるいは「人形のひざから下がぶらん このいすより下にあるから。」に準じた内容と し、設問 2 のそれは、「すわった場合と言え る。」に準じた内容とする。設問 3 は、次の選 択肢「1、ふれ角度と 1 往復する時間の関係が 表されたグラフ、2、おもりの形と 1 往復する 時間の関係が表されたグラフ、3、おもりの重 さと 1 往復する時間の関係が表されたグラフ、 4、振り子の長さと 1 往復する時間の関係が表 第 1 次 活用につながる実体験 のぼり綱でゆっくり長〜くゆれてみよう (2 時間) 1 1 往復する時間を競ってみよう 一人ひとりがのぼり綱を体験し、ゆれ ることの感覚を身につけ、学習に対す る関心や意欲を高める。 2 どうして 2 人の友だちのふれ方がちがうんだ ろう? のぼり綱でゆれる友だちの何が違って、 1 往復する時間が違っているのかを見 つけ出す。 第 2 次 活用を支える基礎事項の習得 ふりこのひみつをさぐってみよう (6 時間) 1 どんな条件のとき、1 往復する時間が変わる のだろう? 鉄棒のこうもり降りやメトロノームの 動き、ぶらんこ遊びなど、日常の経験 やのぼり綱の体験を出し合い、くらし や遊びで出合うふりこを思い出して、1 往復する時間を変える条件は何なのか を考える。 2 ふれ角度が変わったら? ふれ角度を変えたとき、1 往復する時 間も変わるかどうかを調べ、グラフに 表現する。 3 おもりの形が変わったら? おもりの形を変えたとき、1 往復する 時間も変わるかどうかを調べ、グラフ に表現する。 4 おもりの重さが変わったら? おもりの重さを変えたとき、1 往復す る時間も変わるかどうかを調べ、グラ フに表現する。 5 ふりこの長さが変わったら? ふりこの長さを変えたとき、1 往復す る時間も変わるかどうかを調べ、グラ フに表現する。 第 3 次 活用型実験の開発と実践 ふりこの動きから考えてみよう (4 時間) 1 くらしの中に生かされるふりこについて調べ よう ぶらんこに乗る人形、立つかすわるか で 1 往復する時間が変わるかを調べる。 2 くらしの中で生かされるふりこを考え、説明 しよう ふりこ時計など生活場面で生かされて いるふりこについて考え、説明する。 Table 1 学習計画 (全 12 時間)

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されたグラフ」から 4 を正答とする。 正答にいたらなかった児童は、個別面談に よって、習得場面のどこでつまづいていたか、 あるいは活用場面のどういったとらえができな かったのかなどを明らかにした上で、一人ひと りの課題にふさわしい実験を再度行わせたり、 習得内容の整理をさせたりするものとする。 4、実践の具体的経過 (1) 活用につながる実体験 「のぼり綱でゆっくり長〜くゆれてみよ う」 Table 1 で示された第 1 次の学習で、日常生 活において、振り子が実際に使われている例を 子どもたちに問うたところ、メトロノーム、ぶ らんこ、お父さんがゴルフをするときの動き (スイングの動きのことらしい)、鉄棒運動のコ ウモリ降り (この時期、体育科で進めていた) を挙げてくれた。ただ、実際に往復運動として、 振り子にふられた体験があるかを尋ねたところ、 小学校入学後はほとんどなく、幼稚園時代に遊 んだぶらんこと答えた。確かに本校校庭には、 ぶらんこはない。 このように、振り子に関する直接経験が決し て多くはないことを受け、今回、学習の初めに のぼり綱で往復運動を体験する活動を取り入れ た。体験後、子どもたちは、 「体重の重い人ほど、ゆっくり長くゆれている ようだ。」 「ゆれ始めるところが遠ければ遠いほどゆっく りゆれると思います。」 などと答えていた。 (2) 活用を支える基礎的・基本的事項の習得 「ふりこのひみつをさぐってみよう」 第 5 学年では、見いだした条件を制御する力 が求められる。Table 1 で示された第 2 次では、 振り子をゆっくりゆらす (周期を長くする) に はどうしたらよいかという課題に対し、例えば、 おもりの重さが関係しているかどうかを調べる なら、ふれ角度 (ふれ幅とも言われる) と振り 子の長さなどは変えずに実験する。また、振り 子の長さが関係しているかどうかを調べるなら、 おもりの重さとふれ角度などは変えずに実験す るなどの実験方法を考えさせる。こうして、よ り科学的なものの見方や考え方ができる力を身 に付けさせていく。 また、学習指導要領の改訂で「観察、実験の 結果を整理し考察する学習活動」が新たに取り 上げられた。これは、予想や仮説と照らし合わ せながら考えるような指導に改善を図る必要が 指摘されたからである。「予想に反してなぜ?」 や「予 想 通 り だ が、ど う し て そ う な っ た の か?」を考え、学んだことをもとに考え続ける ことは、言語活動の充実をうながしていく。こ うした考察活動をより実りあるものとするため には、予想や仮説がどれだけ練られたもので あったかが鍵となる。 例えば、学級 A (N=38) において第 2 次の 2「ふれ角度が変わると、1 往復する時間が変 わるか変わらないか?」の課題を予想する場面 を挙げる。日常で経験した自然現象や既習の内 容をもとに予想理由を書かせたところ、1 往復 する時間について、38 名中「変わる派」が 21 名、「変わらない派」が 17 名いた。「変わる派」 の児童は、 「ぶらんこをやったとき、後ろの方からスター トした方が 1 往復する時間は長くなった。」 「この前ののぼり綱では、できるだけ大きく ふってもらった方が 1 往復する時間が長くな りました。」 と発言した。それに対し、「変わらない派」の 児童は、 「ぶらんこで後ろの方からスタートしたら、ふ れの途中はスピードが速くなって、結局は、 後ろスタートでも前スタートでも 1 往復する 時間は変わらなかったと思うよ。」 と反論した。ここで「変わる派」は、 「ぶらんこのスピードが変わるなんてありえな い。エンジンがついているわけでもないの に。」 と言うのである。この段階で「変わる派」が 27 名に増え、「変わらない派」は 11 名に減っ たのである。 この後、実際に各班で実験を行った。しばら くして、あちこちから感嘆の声が上がった。実 は、ふれ角度が変わっても 1 往復する時間は変

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わらなかったのである。納得できない一部児童 は、もう一度実験をやらせてほしいと懇願する。 再び行った実験でも結果は、変わることはな かった (Note 1)。 このことを受け、なぜ予想通りにならなかっ たのか、あるいは、予想通りだったのかを考察 する場面を設けたところ、次のような解釈が生 まれた。 「予想とちがって、ふれ角度が変わっても 1 往 復する時間は変わらなかった。ふれ角度が大 きいとき、振り子には目に見えないスピード エンジンがついているのかもしれません。」 「同時にふれ角度の違う 2 つの振り子をふった 場合、どちらも 1 往復する時間は変わらない。 ○○さんが言っていたように、ふれ角度が大 きい方はスピードが速くなるように思う。だ から、変わらない。」 これに対し、「変わる派」の児童は、 「ふれ角度がエンジンになるのっていうの。エ ンジンなんかついていないよ。どういうこと かわからない。」 と答えたことに対して、挙手することのほとん どなかった児童が、 「のぼり綱のとき、後ろから離してもらった方 が速かった。」 と発言した。この児童を応援しようと、別の児 童が、 「そうそう、後ろから離してもらうということ は、高いところから離してもらうってことに なるんだ。」 さらに、 「ふれる角度というより、おもりが通る道の一 番下から考えると、おもりを離した場所はそ れより高いからじゃないかな。おもりが高い ところから落ちてくると考えたらいいと思う。 ボールも高く上げたら、落ちてきたとき、す ごいスピードで目の前を通るよね。」 という説明に対し、先の児童がなるほどと大き くうなずいた。以上の理解は、討論による一つ の効果と考えられる。 (3) 活用型実験の開発と実践 「ふりこの動きから考えてみよう」 Table 1 で示された第 3 次 1 の学習は、今ま での問題解決学習を経て習得された学びが、よ り確かなものとして定着しているかどうかを明 らかにするために組まれた。ここでは次の活用 型課題を解決していくなかで、わかったつもり になっていた自分に自ら気づくといったことが できるようになった。 『ぶらんこに乗る人形、立つかすわるかで、1 往復する時間は変わるか?』(Pic. 1、Pic. 2) かつて、実際に児童をぶらんこに乗せ、同様 Note 1 児童の記録例 Pic. 1 人形を立たせた場合 Pic. 2 人形をすわらせた場合

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の追究をさせていったことがある。今回、人で はなく人形へおきかえた実験を行うことによっ て、子どもが思考するさまざまな要因、例えば、 立って乗っていた児童が腰で勢いをつけていた、 あるいはすわって乗っていた児童がひざでリズ ムをとっていたなどの要因を取り除いた。この ことによって、予想立てや考察活動における場 面で、討論の対立軸をより明確にすることがで きた。論点がはっきりすることによって、振り 子に関する科学的な見方や考え方を整った形で 表現させることができ、理科に関する思考活動 を苦手にしている児童も積極的に話し合いに参 加させることができた (Pic. 3)。 実際には、ぶらんこに乗った人形の姿勢に よって、1 往復する時間が変わるかどうか、ま た、変わるとすればどのようなときかを明らか にするものである。 例えば、学級 A における、ある班の発表場 面を挙げる。この班の実験では、人形を立たせ たときとすわらせたとき双方で得られたデータ に多少の違い (1 往復時間あたり、0.18 秒) が 出ていた。班の子どもたちは、これを操作上の 誤差と解釈し、「1 往復する時間は変わらない」 と結論づけた。他の班はすべて「変わった」と した。今回、それぞれの班での実験方法がまっ たく同じであるにもかかわらず、該当の班のみ が周期は変わらないという結論を出してきたこ とに対し、多くの班が、 「人形がすわったときの方が 1 往復する時間は 長かった。だから、立つかすわるかでは変 わってくるはず。」 と反論した。先の班の子どもたちは、 「10 往復で 1.8 秒の差しかないので、ストップ ウォッチの押しまちがいやと思う。もう一度 やってみようか。」 と返したが、 「その程度の差なら、うちの班でもある。1.8 秒もあったら充分やん。」 「私の班は 10 往復で 2.2 秒の差があった。1 往 復にしたら 0.22 秒。立ったときとすわった ときでは変わると思います。」 ここで次の確認が、ある児童から出された。 「初めの実験で話し合ったよね。1 往復する時 間を変わったとするかどうかのめやす。」 当時の話し合いで出た結論には、子どもなり の根拠がある。学級 A には、学級文庫にガラ ポンなどを題材にした確率 (統計学) に関する 小学生向けの書籍がある。それにヒントを得て、 概ねの基準を決めていたのだ。 さらに、追い打ちをかけるように、 「のぼり綱でぶら下がったときも、棒にすわる と、ひざの下の分、棒より下になって振り子 が長くなっている。だから、すわると 1 往復 時間が長くなるんだ。」 との主張に、全員がなるほどと納得した。 先の班は、振り子の長さが長くなったときだ け、1 往復する時間も長くなるという前次まで の学習事項をわかったつもりになっていた。し たがって、得られた実験データに疑問を持って はいたが、 「ぶらんこの長さは、人形の姿勢が変わっても 当然同じだから、1 往復時間も同じ。」 と勝手に解釈してしまったのである。 前次までの実験は、円柱や角柱、球といった おもりを使っていた。つまり、比較的簡単な形 状のおもりで成り立っていた実験結果を覚えて いた。したがって、人形のように複雑な形状の おもりに、そういった考えを適用させたとして も通用すると考えた。つまり、該当の班の子ど もたちは、人形を立たせてもすわらせても、ぶ らんこの振り子の長さに変わりはないので、1 往復する時間には影響はないと判断したのであ る。 しかし、実際には、乗っている人形全体をお もりと考えることに加え、すわっているところ Pic. 3 討論の場面

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よりも下の分、人形のひざがいすよりも下にあ ることに気づけば、立つかすわるかによって、 おもりの中心が動いていることがわかる。人形 を立たせた場合、その中心は上にあり、すわら せた場合は下にある。こうして、ぶらんこの長 さは変わっていなくても、振り子の支点からお もりの中心までの長さが変わってくるので、1 往復する時間が変わってくるのである。 こうした話し合いが収拾し、児童たちが、考 察やまとめを実験レポートに書きためたころ、 ある児童のつぶやきがあった。 「人形の重さの中心がどこにあるかわかるんと ちゃうか。」 その児童は続けて、 「前の時間まで、実験の結果をグラフにしてき たやん。1 往復する時間と振り子の長さのグ ラフを見てみいや。」 別の児童が、 「あっ、そうか。1 往復の時間はわかってるか ら、逆に重さの中心までがわかるかもしれな いってことなんだ。」 この後、児童たちは、前時にえがいたグラフを 取り出し、目の色が変わったように人形の重さ の中心がどのあたりになるかを推論しようとし た (Pic. 4、Pic. 5)。その結果、人形が立った ときとすわったときとでは、振り子の支点から の長さが違うことが明らかとなった。一部児童 は、自分の体のおなかからお尻の辺りを指さし、 「ぼくの体重の中心はこの辺りかなあ。」 別の児童は、 「すわってぶらんこに乗ったら、この辺になり そうやね。ということは、立って乗っている ときとだいぶ違うんやね。」 などと話し合っていた。これは、人形の姿勢か ら自分の体の姿勢へ、実感を伴った話し合いに なったと言えるだろう。 こうして、子どもたちは見いだした課題とそ れまでの学習事項や生活経験などとをつなげる ことができた。このことにより、人形の姿勢が 違うことによる周期への影響とそれまでにまと めた周期のデータから人形の姿勢の違いによる 重心の位置をさぐっていくことができた。確か に、得られた実験結果を、誤差あるいは操作上 のミスだと解釈する児童はいたが、どうしてそ んな結果が出たのかを話し合いながら解決して いった。 5、実 践 の 結 果 (1) 学習意欲の持続に関する検証 (情意面) 対象児童に対し、第 1、2、3 次終了時点それ ぞれの進度において、次の 3 設問を 4 段階評定 尺度で回答させた。設問 1「今回の学習で興 味・関心をもったことについて自分から調べた いと思いますか?」、設問 2「自分の考えが正 しいかどうか調べるため、実験の方法を自分で 考えようと思いますか?」、設問 3「実験の結 果が予想とちがったとき、その原因を調べたい と思いますか?」に関する変容結果を資料 1、 資料 2、資料 3 に示す。 得られた調査結果から、性差要因と学習の進 度要因が影響する可能性を否定できなかった。 そこで、それぞれの要因を含めた分析結果を以 Pic. 4 グラフから人形の重心を調べる Pic. 5 前時の実験結果を参考にする

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下へ示すことにする。

まず、設問 1、設問 2、設問 3 それぞれにつ いて性差、進度の平均値ならびに標準偏差を Table 2-1、Table 3-1、Table 4-1 に挙げる。

以上の結果を受け、性差、進度双方の要因が、 3 つの設問回答の結果に影響すると考えられた。 これを受け、性差 (被験者間) と進度 (被験者 内) それぞれの効果ならびに、これら 2 つの交 互作用の効果が認められるのかを検定していく ことにした。 そこで、性差 (水準 2)× 進度 (水準 3:1、 2、3 次) の二要因計画で分散分析を行った。 その結果、設問 1 では、Table 2-2 で示される ように、進度要因の主効果ならびに性差と進度 の交互作用が認められた。進度要因の水準数が 3 であることから、まずこの要因の主効果にお ける多重比較 (以下すべて Ryan's method) を 行った。Table 2-3 で示されるように、第 3 次 と第 1 次ならびに第 2 次から第 1 次の平均値間 で有意差があることがわかった。次に、交互作 用における単純主効果を検定した。Table 2-4 で示されるように、性差における第 1 次の効果 と進度における男子の効果が認められた。前回 と同様、進度は水準数が 3 であることから、進 度における男子の効果で多重比較を行った。 Table 2-5 で示されるように、第 3 次から第 1 次ならびに第 2 次から第 1 次の平均値間で有意 資料 1 設問 1「今回の学習で興味・関心をもったこ とについて自分から調べたいと思いますか?」 資料 2 設問 2「自分の考えが正しいかどうかを調べ るため、実験の方法を自分で考えようと思 いますか?」 資料 3 設問 3「実験の結果が予想とちがったとき、 その原因を調べたいと思いますか?」 Table 2-1 設問 1 に関する平均・標準偏差の結果 1.064 0.677 0.483 0.638 0.436 0.633 3.158 3.553 3.763 3.568 3.838 3.757 38 38 38 37 37 37 第 1 次 第 2 次 第 3 次 第 1 次 第 2 次 第 3 次 男子 男子 男子 女子 女子 女子 n 要因名 進度 性差 mean SD Table 3-1 設問 2 に関する平均・標準偏差の結果 0.985 1.025 0.634 0.625 0.547 0.642 2.763 3.053 3.579 3.351 3.568 3.514 38 38 38 37 37 37 第 1 次 第 2 次 第 3 次 第 1 次 第 2 次 第 3 次 男子 男子 男子 女子 女子 女子 SD mean n 要因名 進度 性差 mean n 要因名 Table 4-1 設問 3 に関する平均・標準偏差の結果 進度 性差 SD 0.879 1.038 0.581 0.684 0.817 0.595 2.737 2.974 3.632 3.270 3.378 3.568 38 38 38 37 37 37 第 1 次 第 2 次 第 3 次 第 1 次 第 2 次 第 3 次 男子 男子 男子 女子 女子 女子 *p<.05, **p<.01 Table 2-2 設問 1 に関する (性差 × 進度) の二元 配置分散分析結果 0.086 0.000** 0.030* 3.024 14.317 3.594 2.962 0.979 3.406 0.855 0.238 1 73 2 2 146 2.962 71.500 6.812 1.710 34.734 A:性差 残差[S(A)] B:進度 AB:交互作用 残差[BS(A)] F値 MS df SS 変動要因 p値

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差があることがわかった。 設問 2 についても前述の二要因計画で分散分 析を行った。その結果、Table 3-2 で示される ように、性差要因、進度要因の主効果ならびに 性差と進度の交互作用が認められた。進度要因 の水準数が 3 であることから、この要因の主効 果における多重比較を行った。Table 3-3 で示 されるように、進度の組み合わせすべてにおけ る平均値間で有意差があった。次に、交互作用 における単純主効果を検定した。Table 3-4 で 示されるように、性差における第 1 次の効果と 性差における第 2 次の効果、そして進度におけ る男子の効果が認められた。前回と同様、進度 は水準数が 3 つであることから、進度における 男子の効果で多重比較を行った。Table 3-5 で 示されるように、第 3 次から第 1 次ならびに第 3 次から第 2 次の平均値間で有意差があること がわかった。 Table 2-4 交互作用における単純主効果 *p<.05 **p<.01 14.879 3.031 3.540 0.721 0.238 2 2 146 7.080 1.442 進度における男子の効果 進度における女子の効果 残差 0.000** 0.051 0.012* 0.078 0.968 6.486 3.144 0.002 3.146 1.525 0.001 0.485 1 1 1 219 3.146 1.525 0.001 性差における第 1 次の効果 性差における第 2 次の効果 性差における第 3 次の効果 残差 F 値 MS df SS effect p 値 *p<.05, **p<.01 Table 3-2 設問 2 に関する (性差 × 進度) の二元 配置分散分析結果 0.016* 0.000** 0.002** 6.136 12.416 6.656 6.729 1.097 4.484 2.404 0.361 1 73 2 2 146 6.729 80.053 8.968 4.808 52.730 A:性差 残差[S(A)] B:進度 AB:交互作用 残差[BS(A)] F値 MS df SS 変動要因 p値 Table 3-3 進度要因の主効果における多重比較 Ryanʼs method sig. p t 値 r pair s. s. s. 0.000 0.017 0.011 4.983 2.406 2.576 3 2 2 第 3 次−第 1 次 第 3 次−第 2 次 第 2 次−第 1 次 df=146, significace level=0.05 MS df SS effect Table 3-4 交互作用における単純主効果 p値 F 値 0.001** 0.005** 0.716 10.697 8.198 0.132 6.486 4.971 0.080 0.606 1 1 1 219 6.486 4.971 0.080 性差における第 1 次の効果 性差における第 2 次の効果 性差における第 3 次の効果 残差 6.413 0.475 0.361 2 2 146 12.827 0.949 進度における男子の効果 進度における女子の効果 残差 0.000** 0.272 17.757 1.314 *p<.05 **p<.01 Table 2-3 進度要因の主効果における多重比較 Ryanʼs method df=146, significace level=0.05 s. n. s. s. 0.000 0.418 0.000 4.987 0.813 4.175 3 2 2 第 3 次−第 1 次 第 3 次−第 2 次 第 2 次−第 1 次 t 値 r pair p sig. Table 3-5 単純主効果における多重比較 Ryanʼs method sig. p t 値 r pair s. s. n. s. 0.000 0.000 0.067 5.917 3.817 2.100 3 2 2 第 3 次−第 1 次 第 3 次−第 2 次 第 2 次−第 1 次 df=146, significace level=0.05 Table 2-5 単純主効果における多重比較 Ryanʼs method df=146, significace level=0.05 5.409 1.881 3.528 3 2 2 第 3 次−第 1 次 第 3 次−第 2 次 第 2 次−第 1 次 s. n. s. s. 0.000 0.062 0.001 sig. p t 値 r pair

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設問 3 についても前述の二要因計画で分散分 析を行った。その結果、Table 4-2 で示される ように、進度要因の主効果ならびに性差と進度 の交互作用が認められた。進度要因の水準数が 3 つであることから、この要因の主効果におけ る多重比較を行った。Table 4-3 で示されるよ うに、第 3 次から第 1 次ならびに第 3 次から第 2 次の平均値間で有意差があることがわかった。 次に、交互作用における単純主効果を検定した。 Table 4-4 で示されるように、性差における第 1 次の効果と性差における第 2 次の効果、そし て進度における男子の効果ならびに進度におけ る女子の効果が認められた。前回と同様、進度 は水準数が 3 つであることから、進度における 男子の効果と進度における女子の効果において 多重比較を行った。Table 4-5 で示されるよう に、男子では、第 3 次から第 1 次ならびに第 3 次から第 2 次の平均値間で有意差があることが 明らかとなった。一方、Table 4-6 で示される ように、女子では、第 3 次から第 1 次でのみ平 均値間で有意差があることが明らかとなった。 (2) 活用力の伸張に関する検証 (知性面) 活用力の伸張を検証するため、第 3 次終了後 に総括的評価として、次の 3 つの問題を回答さ せた。設問 1「人形がすわったとき、1 往復す る時間が長くなるのはなぜでしょうか?」を自 由記述で書かせた。また、設問 2「この実験結 果を別の方法ではっきりさせるために、重いお もりと軽いおもりを 2 つつなげ、それらを入れ かえて実験を行いました。さて、重いおもりを 下にした場合は、人形が立っている場合と言え ますか、すわっている場合と言えますか?」を 選択記述で書かせた。次に、設問 3「人形の重 さの中心がどこかをはっきりさせるためには、 次のどのグラフを使えばいいでしょうか?」を 選択回答させた。その結果、Table 5 で示され るように、設問 1 では 90.7% の正答が得られ、 設問 2 では 86.7% の正答が、設問 3 では 93.3% の正答が得られた。 MS df SS 変動要因 Table 4-2 設問 3 に関する (性差 × 進度) の二元 配置分散分析結果 p値 F 値 0.066 0.000** 0.001** 3.476 27.106 7.123 4.775 1.374 7.053 1.853 0.260 1 73 2 2 146 4.775 100.274 14.107 3.707 37.991 A:性差 残差[S(A)] B:進度 AB:交互作用 残差[BS(A)] *p<.05, **p<.01 Table 4-3 進度要因の主効果における多重比較 Ryanʼs method sig. p t 値 r pair s. s. n. s. 0.000 0.000 0.060 7.155 5.084 2.071 3 2 2 第 3 次−第 1 次 第 3 次−第 2 次 第 2 次−第 1 次 df=146, significace level=0.05 MS df SS effect 0.000** 0.041* Table 4-4 交互作用における単純主効果 p 値 F 値 0.004** 0.029* 0.728 8.449 4.863 0.122 5.334 3.070 0.077 0.631 1 1 1 219 5.334 3.070 0.077 性差における第 1 次の効果 性差における第 2 次の効果 性差における第 3 次の効果 残差 8.058 0.849 0.260 2 2 146 16.116 1.698 進度における男子の効果 進度における女子の効果 残差 30.966 3.263 *p<.05 **p<.01 Table 4-5 進度の男子効果 (単純主効果における多 重比較) Ryanʼs method sig. p t 値 r pair s. s. n. s. 0.000 0.000 0.055 7.646 5.622 2.024 3 2 2 第 3 次−第 1 次 第 3 次−第 2 次 第 2 次−第 1 次 df=146, significace level=0.05 Table 4-6 進度の女子効果 (単純主効果における多 重比較) Ryanʼs method sig. p t 値 r pair s. n. s. n. s. 0.013 0.113 0.364 2.507 1.595 0.912 3 2 2 第 3 次−第 1 次 第 3 次−第 2 次 第 2 次−第 1 次 df=146, significace level=0.05

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6、実 践 の 考 察 (実践仮説の検討) 一連の学習によって、実践の結果 (1) 情意 面によると、各設問ともに学習が進むにつれて 意欲が向上していったことが明らかとなった。 まず、資料 1 や Table 2-2 の結果から、設問 1 「今回の学習で興味・関心をもったことについ て自分から調べたいと思いますか?」に対して、 学習進度に関する要因に有意差が見られた。こ れは、学習が進むにつれて、児童の課題解決意 欲がしだいに高くなったことを示す。特に、 Table 2-3 や Table 2-5 の結果から、第 1 次か ら第 2 次にかけてと、第 1 次から第 3 次にかけ ての意欲の高まりに有意な差があったと解釈で きる。 次に、資料 2 や Table 3-2 の結果から、設問 2「自分の考えが正しいかどうか調べるため、 実験の方法を自分で考えようと思いますか?」 に対して、学習進度に関する要因に加え、性差 に関する要因についても有意差が得られた。こ れは、学習が進むにつれて、児童の課題解決意 欲がしだいに高くなったことを示すとともに、 この設問に限って男子の方がより意欲が高まっ て い っ た こ と を 示 す。特 に、Table 3-3 や Table 3-5 の結果から、第 1 次から第 3 次にか けてと、第 1 次から第 3 次にかけての意欲の高 まりに有意な差があったと示され、このいずれ もが第 3 次にかかっている。ぶらんこに乗せた 人形の課題に対して、より意欲が高まったこと も示唆される。 さらに、資料 3 や Table 4-2 の結果から、設 問 3「実験の結果が予想とちがったとき、その 原因を調べたいと思いますか?」に対して、学 習進度に関する要因について有意差が得られた。 これも、学習が進むにつれて、児童の課題解決 意欲がしだいに高くなったことを示す。特に、 Table 4-3 や Table 4-5 の結果から、男子は、 第 1 次から第 3 次にかけてと、第 1 次から第 3 次にかけての意欲の高まりに有意な差があった と示され、このいずれもが第 3 次にかかってい る。これも、ぶらんこに乗せた人形の課題に対 して、より意欲が高まったことも示唆される。 一方、女子は、Table 4-5 に示されるように、 第 1 次から第 3 次のみ有意差があった。 資料 3 によると、「とても思う」の回答が第 1 次から 3 次にかけて 2 倍以上に向上している。 第 1 次終了時点では、のぼり綱の経験検討に過 正答率 (%) 正答数 正答例 単元末評価の設問 Table 5 活用力を試す総括的評価の結果 90.7 68 人形の重さの中心が 下にあるから。 人形がすわったとき、1 往復する時間が 長くなるのはなぜでしょうか? (自由記述) 86.7 65 すわっている場合と 言える。 この実験結果を別の方法ではっきりさせ るために、重いおもりと軽いおもりを 2 つつなげ、それらを入れかえた実験を行 いました。さて、重いおもりを下にした 場合は、人形が立っている場合と言えま すか、すわっている場合と言えますか? 人形のひざから下が ぶらんこのいすより 下にあるから。 93.3 70 4 人形の重さの中心がどこかをはっきりさ せるためには、次のどのグラフを使えば いいでしょうか? 1.ふれ角度と 1 往復する時間の関係が 表されたグラフ 2.おもりの形と 1 往復する時間の関係 が表されたグラフ 3.おもりの重さと 1 往復する時間の関 係が表されたグラフ 4.ふりこの長さと 1 往復する時間の関 係が表されたグラフ

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ぎなかったものが、第 2 次で理科室における対 照実験、第 3 次で活用型課題に移り、原因の掘 り下げに対し、より見通しが立てやすくなった ことが要因と考えられる。また、「○○によっ て、1 往復する時間が変わるか、変わらない か」といった対立軸のある論題が、子どもの意 見を分裂させ、議論を活発にしたことも影響し ていよう。特に、このような意欲の持続が見ら れた端的な事例として、第 3 次 2 の学習で行っ た保護者参観における学習発表会が挙げられる。 当日は、それぞれの理科班が工夫をこらして学 習の成果を披露した。特に、振り子時計の原理 を発表した班は、保護者に対し次のような問題 を出した (Pic. 6)。 「振り子時計は、冬になると針が進むと言わ れています。それはなぜでしょうか。」 というものである。保護者の方もなかなか答え られない質問となったが、子どもたちは、第 4 学年時に金属の熱による膨張収縮を学習してい る。そこからヒントを得て、作問したのである。 発表した班は、他の班の子どもたちへ同様の質 問をした。多数の挙手があり、正解を導き出し た。金属の振り子は気温が下がると収縮する、 つまり、振り子が短くなることによって、周期 が短くなり、振り子時計の針が進みがちになる のである。 次に、先の工夫によって、実践の結果 (2) から、知性面では単元末の活用力を評価する設 問でそれぞれ 90.7% ならびに 86.7%、93.3% の 成果を得ることができた。この結果から、本実 践が子どもたちの活用力を高めたと考えられる。 人形を使った本活用型課題は、「振り子の周期 は、振り子の長さが長くなるときだけ長くな る」学習を終えて取り入れている。つまり、お もりが支点から遠ざかったときのみ周期が長く なるという理解が得られた後で行っている。設 問に対する正答率が高かったのは、多くの児童 がそういった基本を身に付けた上で本課題に臨 んでいたことを示す。しかし、一人ひとりの解 答をつぶさに見ると、正答にいたらなかった子 どもたちは、この段階でつまづいていたことが わかった。そういった子どもたちを集めて、ま ず基本の実験をふりかえり、再度ぶらんこ人形 の実験をやらせてみたところ、全員の理解をう ながすことができた。今回の評価を補充的な指 導へと生かすことができた。 次に、振り子の長さと周期の関係をグラフへ 表現した学習を想起し、立たせたときとすわら せたときそれぞれにおける人形の重心を割り出 す活動が見られた。その後、自らの体のどこが 重心になるのかを予想するつぶやきが見られた。 保護者参観学習では、振り子時計の振り子と室 温を関係づけた問題を作ることができた。こう して、既習事項を活用型課題の解決へ役立たせ たり、逆に、解決したことを身の回りの道具へ 発展させて考察したりすることができた。この 2 つの方向性は、前述の村山 (2010) が提案し た方向と一致する。 今回の実践では、活用につながる実体験を取 り入れるところから始めている。これを自由試 行と考えるなら、その指導は特別支援に他なら ない。活用力の伸張をはじめ、学習方法や教材 の開発・改善をめざす研究は、往々にして学習 成果の上がった児童に的が当たりがちである。 しかし、自由試行の確保によって、成果の上 がっていない児童の発言を導き出すことも可能 だと考える。今回の場合、振り子に関する遊び の経験にばらつきがあることに加え、学習成果 は上がっていても、生活経験からつなげること のできない児童を支援する必要があると考えた。 こうした差を補填する意味においても、のぼり 綱に関する自由試行は意味があると考える。 実際、5 の項「実践の具体的経過」に示した ように、普段挙手の見られない児童は、理科に 対しても苦手意識を持っている。この児童が、 Pic. 6 保護者参観で出題する児童

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のぼり綱の経験をもとに発言し、そこから、ふ れ角度の違いによる周期への影響について深く 考察させることができてたことは、自由試行に おける一つの効果と考える。 最後に、次の 2 点で本研究の課題が見えてく る。 第 1 に、本単元にかかる学習は、全 12 時間 を計画していた。しかし、第 3 次の総括的評価 によって正答にいたらなかった児童の再実験な どに時間をとられ、全 14 時間がかかった。正 答率そのものは高かったとはいえ、すべての児 童の理解を図るためには、学習の計画段階から 余裕をもった見通しを立てる必要がある。中野 ら (2009) によると、一部の学習で先行オーガ ナイザーを児童に与えることの有効性を示唆し ている。振り子運動の法則を見つけ出していく という発見型学習は、一部児童にとっては難解 である。児童の興味・関心に加え、理科に対す る予備知識などを考慮し、一人ひとりに応じた 学習を進めることも必要であろう。 第 2 に、ぶらんこ機能のある振り子装置や重 心の違いが明確に出る人形を入手しづらい、ま たは指導者で作成しづらいといったことである。 これらを解決するため、例えば、重さや密度の 等しい球形のおもりと棒状のおもりを対比させ る実験も考えられる。ただ、こうした典型的な おもりの場合、身近な遊具へつなげた活用とは 乖離することに加え、児童のえがいたグラフを もとに重心は自分の体でいえばどこかなどとい う推論へつながりにくい。今後は、汎用性があ り、かつ学習のねらいを達成できる教材の開発 が望まれる。 附記 本研究は、科学研究費補助金 (課題番号 21601020、代表 中野正俊、基盤 C) の一 部を活用して進められている。また、滋賀 大学教育学部附属小学校平成 22 年度「授 業を語る会」における授業提案ならびに平 成 22 年度滋賀大学共同研究発表会におけ る提案を含んでいる。 引 用 文 献 中央教育審議会「幼稚園,小学校,中学校,高等学 校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善 について (答申)」,2008. 村山哲哉,理科における「活用」:理数教育充実時 代に求められる理科学習指導の在り方,理科 の教育, 日本理科教育学会, 2010 (02), 10-13. 国立教育政策研究所,特定の課題に関する調査 (理 科) 調査結果 (小・中学校),2007,1-5. 中野正俊・東田充弘,児童の科学的概念を討論で深 める問題解決学習,滋賀大学教育学部附属教 育実践総合センター研究紀要「パイデイア」, 2010 (18),45-54. Abstruct

75 children in the fifth grade of elementary school explored the low of pendulum motion by problem-solving learning. In order to acquire the scientific concept, every child contemplated enough. Then, they expressed their own estimation based on everyday phenomena or matters already learned ; moreover, they discussd about their explanation with imaginary figures used for consideration of the experiment. They made it clear which condition, for instance, the weight of the sinker or the length of the string, affects the period of pendulum motion. In the discussion, the teacher put questions to the children to make it clear what is the conflict axis of the subject. As a result, their emotional aspect such as their volition of problem-solving was improved. Moreover, by facing a problem that reminds them of usual playing facilities, their ability to use the low of pendulum motion was enhanced. Then, through analyses of their failures in problem-solving, suitable teaching could be accomplished.

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