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油中ガス分析診断エキスパートシステム

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Academic year: 2021

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特集

実用期を迎えた情報処理分野のエキスパートシステム

U・D・C・〔d81・32.0る:159.95〕

:〔543.27.0る4:る21.314.22.048.82〕

油中ガス分析診断エキスパートシステム

ExpertSystemsforDissoIvedGasAnalYSisforPowerApparatuslnsulatingOil

変圧器など抽入電気機器の保守管理法として,油中ガス分析診断法が広く用

いられている。この手法は,特定の専門家によってだけ行われている。更に診

断精度の向上を行い専門家以外での利用を図るため,実用化を目指した油中ガ

ス分析診断エキスパートシステムを開発した。エキスパートシステム構築ツー

ルにES/KERNELを用い,専門家の知識をもとにした経験モデルと,蓄積され

たデータの解析によって得られた数学モデルで構成し,従来の専門家並みの処

理に加えて,専門家では行い得なかった異常の確率の定量化と異常の予測を行

うようにした。本システムの導入で,油中ガス分析診断が客観的及びより効率

的な保守管理法として展開できる。

変圧器などの抽入電気機器の保守管理法としての「油中ガ

ス分析診断法+は,昭和38年に関西電力株式会社で研究を開 始し,昭和41年に実用化して以来,変圧器などの事故の未然 防止に大きな成果を挙げてきた1ト4)。 この方法は,高度な技術と経験を持つ専門家(以下,エキス パートと言う。)によって行われている。同方法の診断精度の いっそうの向上と,エキスパートレベルでの技術利用を図る ため,エキスパートの知識,経験をもとに油中ガス分析診断 エキスパートシステムの開発を行ってきた5)。 関西電力株式会社と株式会社関西テックは,油中ガス分析 診断エキスパートシステムを試作した段階で,エキスパート システムの油中ガス分析診断法への適用の可能性について検 討した結果,エキスパートと同等以上の診断を行う実用化シ

ステムへの展開が可能と判断した。しかし,実用化を目指し

たシステムでは,診断の客観性が現在以上に要求される。従 来のようにエキスパートの知識だけに頼るのでは不十分であ る。このため,現在まで蓄積したデータの統計解析を行い, 全く新しい診断手法を開発し,これを数学モデルとして知識

ベース化し,エキスパートの知識に加えた油中ガス分析診断

エキスパートシステムを開発した。以下にこのシステムにつ いて紹介する。

油中ガス分析診断

変圧器など油入電気機器の内部に異常が生じた場合,油中 ガス分析診断法では初期の非常に微小な状態をも検出するこ

とが可能である。油中ガス分析診断法は検出精度の高さから,

変圧器など抽入電気機器の保守管理方法として極めて信頼性 「 ̄一 ̄ l

蔓口

◎ 異常

松浦敏之*

乃s/め切ゑ才〟αね"〃和

河内二三夫**

凡椚わ励7〟αCゐオ 周囲の絶縁物を分解 絶縁油:炭化水素系ガス を生成(CH4, C2H4など) 絶縁紙:CO,CO2を生成 放電の場合, C2H2など 特徴的なガ スを生成 変圧器 絶縁油中に溶解 図l 油中ガス分析診断の原理と考え方 異常の周囲の絶縁物が 分解すると,絶縁物の種類に応じて特有のガスが生成L,絶縁油中に溶 解する。 が高い(図1)。 変圧器など抽入電気機器内部での異常は,放電や過熱など

のために周囲の絶縁物を分解,異常の状態や絶縁物に特有の

ガスを生成し,機器内部の絶縁油中に溶解する。 したがって,溶解しているガスを抽出し,絶縁物の分解に

起因するガスを分析し,その種類や量,組合せの特徴などを

判断することで内部の異常を診断することができる。油中ガ

ス分析診断法は,外部からは見えない状態を検出して診断す

る方法であり,知識に裏づけられた経験が重要である。

*倒軒注力株式会社研究開発部 **株式仝祉軌呵テック化学研究部

(2)

油中ガス分析診断エキスパートシステムの開発

3.1開発体制 エキスパートシステムの開発に当たっては,エキスパート とKE(Knowledge

Engineer)の存在が問われる。

本システムでは,抽中ガス分析診断に携わるエキスパート が知識の整理,知識ベースの構築など,すべての役割を担っ た。 3.2 システム構成とエキスパートシステムの範囲 本システムは,日立ワークステーション2050とエキスパー

トシステム構築ツールにES/KERNEL(Expert

System/

KERNEL)を用いた。

本システムは,油中ガス分析のデータを管理する油中ガス 分析データ処理システムからフロッピーディスクにデータを

受け取り,推論を行うという方法をとっている(図2)。

油中ガス分析診断エキスパートシステム

4.1エキスパートシステムの限界と新たな手法の開発 油中ガス分析診断では異常の有無や異常の種類,箇所の推 定に可燃性ガスパターン4),二成分法6)などが用いられる。 油中ガス分析診断は,これらの診断法やエキスパートの知

識,経験がもとになるため,これらをもとにルール数を多く

して詳細に記述しても,システムの診断結果に対する確かさ の向上は大幅には期待できない。 実用化を目指したシステムでは,診断精度の向上と診断結

果の客観性が現在以上に要求され,エキスパートの知識,経

験だけに頼るだけではこれらは実現できず,新たな知識の見

いだしと新診断手法の開発が必要であった。

関西電力株式会社と株式会社関西テックは,油中ガス分析 の結果,内部に異常が推定され,内部点検を実施した変圧器 油中ガス分析 データ処理システム L-490

注:略語説明 FD(F10PPy Disk) データ 入 力 FD

D

油中ガス分析診断エキスパートシステム1139

の異常内容,箇所と,このときの油中ガス分析の結果の関係

について多変量解析を行い,新しい異常診断法を開発した。

正準判別分析を応用した異常診断法で,従来の診断法が経

験に基づいて行われるのに対し,異常の内容,確率,異常の 方向が図示でき,異常の方向の予測及び確率に基づいて客観 的な診断が行えるものである。この診断法を数学モデルとし で知識ベース化を行った。 4.2 エキスパートシステムの構造 エキスパートシステムは,エキスパートの知識,経験をも とにした経験モデルと,多変量解析結果から得た数学モデル

で構成している(図3)。

経験モデルと数学モデルは,与えられたデータをもとに別 別に推論し,経験モデルでは検出した成分からどの種類の異 常が生じているかを,異常が生じているときはその内谷,箇 所を推論する。数学モデルでは正準判別分析結果から異常の

内容,箇所と,異常が生じている確率を求める。また分析デ

ータの経時変化から今後のデータの推移を予測し,異常の方 向を予測する。 これらの経験モデルと数学モデルの推論結果から更に推論 を行い,対策を決定する。エキスパートシステムは推論の結

果,可能性のある異常と類似した過去の内部点検例を検索し,

表示する機能を持っている。 推論方法はフレームを用いた前向き及び後向き推論とし, ディスプレイ上の表示などはC言語で記述している。 4.3 実行例 実際にデータを与えて,経験モデルと数学モデルで推論し た結果の一部を紹介する。 経験モデルでの推論結果をまとめたのが図4である。異常 なグループ,特徴的な成分,これらの成分がどうして発生し たか,前回に比べて増加した成分は何か,ということを示し, ル ー ル ES/KERNEL 推 論

く>

診 断

くフ

類似例検索 知識ベース 2050 結果の印刷 プリンタ X-Yプロッタ 結果の表示 図2 システムの構成 油中ガス分析データ処理からフロッピーディスクでデータを受け取り入力する。

(3)

1140 日立評論 〉0し.70 No.11(1988-1り データを与える 経験モデル ●特徴成分 ●異常内容と箇所の推定 ●診断図などとの対比 対策をたてる 数学モデル ●異常箇所の推定 ●異常の確率を求める_ ●異常からの距離を求める 将来を予測する 総 合 判 断

く=♭

対策をたてる

く>

矧以例の検索 図3 エキスパートシステムの構造 経験モデルと数学モデルで推論し,その結果をもとに更に推論する。 うム臼前「ラl り.6 0.′1 り.2 0 n.6 0.4 0.2 0 推話法果の義元 巣箱のクルー▼ 指徴となる成分 特徴となる成分が発生した理由 増加した成分 油過熱 ⊂02 絶縁紙などの固体絶播物の劣化 C02 アセチレン 金属部分など周囲が絶撼油の部分 水素 メタン エチレン エタン 炭化水素 可燃性ガス 水兵 メタン エチレン プロピレン エタン 炭化水素 可脆性ガス での過魚 アセチレンを検出しているが、放電 による発生ではなく、過熱に伴う 発生と推定する 推定される異常の箇所 異常部の温度 前回推定した異常の箇所 ヰ)コイルなど絶縁紙介在部での過 およそ[600℃ (むコイルなど絶縁;紙介在部での過 熱 ∼80()Oc] 熱 (争リード部などの絶顔物介在部で 旬リード部などの絶縁物介在部で の過熱 の過熱 (争鉄心などの絶練物介在部での過 ③鉄心などの絶線物介在部での過 熱 熱

l∃筍l軽重卜利息+Iゝ

転コ

図4 経験モデルによる推論結果 最新データと】回前のデータを推論L,比較している。 今回推定される異常と異常部の温度,前回のデータをもとに 推論した異常箇所を示している。

従来から用いられている診断法と,今回及び前回のデータ

に基づく診断結果を図5で表示するとともに,同図は今回と 前回の間で異常なパターンが変化しているかどうかを示して いる。

今回本システムで関西電力株式会社と株式会社関西テック

が導入した数学モデルでは,異常診断図が図6のように表示

きれる。データの解析から得たモデル異常6種の位置と,診

断対象機器の経時データの異常な関係を図示する。プロット

された経時データの位置の変化は,異常の方向の変化を表し

ている。この変化の方向から対象機器の異常がどの方向に進

(4)

油中ガス分析診断エキスパートシステム 1141 0.6 0.4 q.2 0 0.6 0.4 0.2 0 旬コイル短絡-1垂ベーク焼損-(金鉄心過熱 - ③タップ焼規- ⑥コイル劣化-H2 CH4 C2H4 C3H6 C4 CO C訓6 C3t鳩 C2H2 一今回 -…前回 HZ CH4 C2H4 C3H6 C4 CO C2H6 C3H8 C訓2 可燃性ガスパターン

漂。

0.01 腿温 低 コロナ放電 アーク放電 温 中 熱] 高温 0.1 1 3 2成分比による診断 ・今 0前 CZH4/C2H6 今回ガスパターン==〉② 前回ガスパターン==〉③ 今回と前回のパターン変化 ホ今回と前回では異常のパターンが変 化しています。

く芸;〉

転ニコ

図5 経験モデルによる異常診断図 エキスパートが診断に用いている。可燃性ガスパタ ーンは,モデル異常のパターンと比較して判断する。 コイル劣化 [予測] 1 ノ ノ 竜 ベークライト 損 \、、\、\ \\、-一/ノ、\・L J

+

′〃=

¶`′l′■へ1'\)\'鞘=

、ニノリノ \-▼▼/一/ 、鉄心循環電流 による過熱 匂■1 タップ切換石 塊 現 ▼′′一'一 \\\__ノ// Jップ切換器 旗触不良

巨∃

く;さ 図6 数学モデルによる異常診断図 経時データをプロットL,その変化の方向が対象機 器の異常とその変化を示す。位置関係から異常の確率が求められる。 んでいるかが判断でき,それに伴い対策がより合理的に決定 できる。

対象機器の最も近い異常とその確率を求めたのが図7であ

る。異常が存在するとき,それが確定できない場合でも異常 との位置関係から,推定される異常とその確率を表している。

対象機器の経時データから,今後の増加を予測したのが図8

である。このデータをもとに経験モデル,数学モデルで推論 することで今後起こ-)得る異常を推定する。経験モデルと数 学モデルでの推論結果を更に推論し,異常の変化の方向と確

率から対策を表示するとともに,類似例の検索を行う。

b

油中ガス分析診断では,エキスパートの知識だけでは実用

的なシステムの構築は限界があると考えた。このため,本シ

(5)

1142 日立評論 〉OL.70 No.1=1988-1り 三盆虫さ息/ハ三E言 TE嘩判Rり・分析による異常f斉所の推定(予測) 分析 確実に推定される異常 確率 異常が確定しない場合の およそ推定される異常 確率 異 常 の 変 化 の 方 &4/ 9/10 ベークライト焼損 0.601 85/ Z/21 ベークライト焼損 0.787 85/ 8/8 ベークライト焼損 0.575 86/ 異常箇所は確定できない コイル劣化 0.325 向 12/31 √-クライト銑捜 0.264 87/ 6/25 異常箇所は稚建できない タップ切換幕接触不良 コイル劣化 0.306 0.256 88/ 1/22 異常箇所は確定できない タップ切換器接触不良 タップ切換鮨焼損 0.339 0.252 88/ 7/11 異常箇所は確定できない タップ切換器焼損 タップ切換器接触不良 0.261 0.226 89 1/t一■ 異常箇所は滝壷できない タップ切換幕焼損 アーク放電による短絡 0.264 0.217

l曽I令l釧・む 一旦_l下止

転コ 図7 数学モデルによる異常の確率 推定される異常とその確率を示す。 ス 15000 10000 ハU O O 5 一C2H2 --H2 -…∝I一川HC ] 瑚1P[ /′ タ

ノ′ルア

/㌣ノや

〆サ ㌻か ノー 〓 ` 一 ,

-・一-CO2 500ハ】0 ∩八) 521 ハVn〉 2 朗910 91 * 80 ● h八U-/ 1 00 1 n】O12 ハ】U りん 76 5 ▲只じ りん 6つ⊥ l n】O 13 15000 10000 0 0 0 5

㊨ 図8 発生ガスの増加の予測 経時変化から,最終データの6箇月後のガス発生を予測L た例である。このデータの推論を行えば,起り得る異常が予測できる。

ステムの開発に当たっては,新たな知識の見いだしと,新診

断手法の開発を行った上で数学モデルとして知識ベース化し, 経験モデルとの推論を組み合わせて診断を行う方法をとった。

本稿中では述べなかったが,本システムは異常診断だけに

とどまらず,正常運転機器の将来予測という劣化診断をも考

えたシステムとしている。 本システムの導入で,油中ガス分析診断法がエキスパート 以外の人でも利用でき,更に効率的な保守管理手法として展 開できるものと確信する。 参考文献 1)木下,外:電気学会論文誌,94-BlO,65(昭和49-2) 2)木下,外:電気学会論文誌,94-BlO,73(昭和49-2) 3)宮崎:産業と電気(昭和44-11) 4)稲垣:電気雑誌「OHM+(昭和57年11月号) 5)匂坂,外:電気学会電力技術研究会,PE-87-8 6)電気協同研究,36巻,1号(昭和55年7月)

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