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心理治療過程における「治療者交代」の治療的取り扱いについての一考察

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心 理 治 療 過 程 に お け る 「治 療 者 交 代 」の 治 療 的 取 り扱 い に つ い て の 一 考 察

吾 1)・小笠原

彦 

2)

A Consideration

on the Therapeutic

Treatment

of "Therapists'

Change"

in the Process

of Psychotherapy

YAMAUCHI Shingo

and OGASAWARA Akihiko

キ ー ワ ー ド:治 療 者 交 代 、 転 移 、 逆 転 移 Key  words:Therapists'Change,Transference,Counter-Transference 1  緒 言   心 理 療 法 の 治 療 過 程 に お い て は 、 治 療 関 係 に お け る 「出 会 い(encounter)」 と い う概 念 が 重 要 視 さ れ る 。 そ れ は 、 医 師 一患 者 、 ま た はtherapist-client関 係 に お い て 両 者 の人 格 的 な 要 素 、 人 間 対 人 間 と して の 関 係 が 治 療 に決 定 的 な 意 味 を 持 つ と考 え られ る か らで あ る。 治 療 関 係 は 、 そ れ ま で全 く見 知 らぬ他 人 同 士 で あ った 治 療 者 と 患 者 が 、 一 人 の人 間 同 士 と して 出 会 う こ と か ら始 ま り、 「分 離(別 離)」 す る こ とで 終 結 す る。 も ち ろ ん 、 治 療 者 と患 者 が 「再 会 」 す る こ と も往 々 に して あ ろ うが 、 治 療 過 程 と は ま さ に この プ ロセ ス の繰 り返 し とい え る(佐 治 ・ 水 島,1974  1))。   当 然 、 こ こで い う 「分 離 」 と は 「治 療 終 結 」 を 意 味 す るの で あ る が、 実 際 の 臨 床 現 場 で は そ うで な い 場 合 が 少 な くな い 。 い わ ゆ る 「治 療 半 ば で の 治 療 者 交 代 」 と い っ た ケ ー ス で あ る。 例 え ば 、 治 療 者 の 転 勤 や 病 気 治 療 に よ る休 暇 、 ま た女 性 治 療 者 の 出 産 ・育 児 休 暇 な ど の ほか 、 患 者 の転 居 に伴 う治 療 者 交 代 や 患 者 の 希 望 に よ る 治 療 者 交 代 、 現 治 療 者 が そ の 治 療 の 限 界 を 感 じた場 合 の 交 代 な どで あ る。   こ うい っ た事 態 で 患 者 の 不 安 や 問 題 が ク ロ ー ズ ア ップ され 、 そ れ を治 療 的 に扱 う こ とで 新 た な展 開 が 生 じ る こ と も あ るか も知 れ な い が 、 こ の よ うな 状 況 は 患 者 に と っ て 危 機 的 な もの で あ る こ と は言 う ま で も な く、 そ の よ う な 治 療 関 係 の 喪 失 が 心 的 な 外 傷 体 験 と して 残 って しま う 危 険 性 もあ るで あ ろ う。 治 療 者 側 の 都 合 に よ る治 療 の 中 断 や 治 療 者 交 代 は、 実 際 に はか な り の頻 度 で起 き る こ と で あ る に もか か わ らず 、 そ の 取 り扱 い な ど を め ぐ る報 告 は散 見 され る程 度 で あ る(堀 川,1981  2);生 地,1990  3); 三 宅,1998  4);永 田,1999 5))。   本 報 告 で は 、 前 治 療 者 の異 動 に よ り心 理 治 療 の 継 続 が 困 難 とな り、 後 任 で あ る筆 者 が そ の 後 の 治 療 を 引 き継 が な け れ ば な らな か っ た3ケ ー ス を通 して 、 治 療 過 程 半 ば に お け る 「治 療 者 交 代 」 の 治 療 的 取 り扱 い に つ い て検 討 を 試 み た 。 Ⅱ  事例 の概要 【事 例1】 ク ラ イ エ ン ト:M.H、 男 子 、 引 き 継 ぎ 時12歳(初 診 1)国 立 療 養 所 豊 橋 東 病 院(臨 床 心 理 学) 2)名 古 屋 市 立 大 学 看 護 学 部(心 理 学)

1)National  Sanatorium  Toyohashi-Higashi  Hospital(Clinical  Psychology) 2)Nagoya  City  University  School  of Nursing(Psychology)

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時10歳)。 主 訴:緊 張 す る と ム カ ム カ して 食 欲 が な くな る。 学 校 へ 行 きた くな い。 問 題 の 発 生 と経 過:M君 は、 父 、 母 と3歳 離 れ た 兄 と の4人 家 族 の 中 で 育 った。 平 成X年6月 、 野 球 を して い て 友 人 が 振 った バ ッ トが 頭 部 に 当 た り、 そ の 後 時 々頭 痛 が あ っ た。 ま た 、 この 頃(6月21日)、 父 方 の祖 父 が 亡 くな った 。 同 年8月 初 旬 、 家 族 で 海 へ旅 行 に 行 き、 そ の 帰 途 で頭 痛 と 嘔 気 を 訴 え た 。 この 後 、1週 間 く らい 嘔 気 が 続 い た 。 そ の後 も、 い ろ い ろ な 場 面 で 嘔 気 が 出 現 す る が 、1日 か ら1週 間 で 消 失 して い た。2学 期 が 始 ま る と 分 離 不 安 を 強 く訴 え 、 そ れ が 身 体 的 症 状 と な り登 校 を 渋 る よ うに な っ た。 平 成X年9月4日 、 当 院 小 児 科 を受 診 。 「心 因 性 嘔 気 」 と診 断 さ れ、 心 理 治 療 を 開 始 した。 前 任 の 治 療 者 に よ り、 平 成X年9月4日 か ら平 成X+2年7月28日 の 間 に54回 に わ た り、 外 来 に お い てcounseling、play  therapyな ど を受 け た。 平 成X+2年8月22日 よ り筆 者 が 引 き継 い だ 。 イ ン テ ー ク面 接(初 回 、 平 成X+2年8月22日)で 、 「緊 張 す る と ム カ ム カ して 、 食 欲 が な く な って し ま う。 しか し、 吐 く ほ どで は な い。 最 近 は少 し食 べ られ るよ う に な って き た 」 と訴 え る。 小 学6年 生 で 、 学 校 へ は保 健 室 登 校 で は あ るが 登 校 はで き て い る。 しか し、 保 健 室 で 寝 て い る こ とが 多 く、 教 室 へ は な か な か 行 け な い との こ と。 ま た、 学 校 で 給 食 を 食 べ られ ず 、 家 へ 帰 っ て きて 昼 食 を 摂 る との こ と で あ る。 趣 味 は、 テ レ ビゲ ー ム と ミニ 四 駆 。 「自分 の 中 に 二 人 の 自分 が い る 」 と時 々 感 じ る こ と が あ る と言 う。 これ らの状 況 か ら、 取 り敢 え ず 前 治 療 者 の 治 療 構 造 を そ の ま ま 引 き継 ぎ 、M君 に 対 して は playtherapyを 、 母 親 に 対 して はcounselingを 開 始 し た。 2学 期 に 入 っ て か ら は順 調 で 、 特 に平 成X+2年9月 は午 前 中4時 間 の教 室 で の授 業 参 加 も可 能 と な り、 治 療 者 との 約 束(課 題)も ク リア で きた 。 しか し、 平成X+ 2年10月7∼8日 の 修 学 旅 行 参 加 後 よ り再 び教 室 で の授 業 に 参 加 で き な くな り、 母 親 や 養 護 教 諭 に 嘘 を つ いて ま で 保 健 室 で ゴ ロ ゴ ロ して 過 ごす こ とが 多 くな って き た。 ま た、 この 頃 よ り、 「気 持 ち が 悪 い」、 「食 べ られ な い」 とい っ た 身 体 症 状 が 再 発 し、 何 か と理 由 を 付 け て 来 院 す ら拒 否 す る よ うに な っ た 。M君 自身 は 、 「ク ラ ス の 女 の 子 が ぼ くの こ とを ク ス クス 笑 って バ カ に して い る。 恥 ず か しい か ら教 室 へ 行 き た くな い 」 と言 うが 、 担 任 教 師 に よれ ば 教 室 内 の雰 囲 気 や ク ラス メ イ トのM君 へ の対 応 に は変 化 は な い との こ とで あ った 。 平 成X+2年11月28日 の第7回 母 親 面 接 で 、 症 状 の 悪 化 に 苛 立 つ 母 親 よ り、 学 校 医 か ら 「治 療 期 間 が 長 い 割 り に変 化 が な さ す ぎ る。 一 度 、 相 談 機 関 を 変 え て み て は ど うか 」 と言 わ れ た こ とを 理 由 に、 治 療 を 中 止 した い 旨 の 申 し出 が あ った 。 確 か に 、 前 治 療 者 の 担 当 した 期 間 を 含 め る と治 療 期 間 は約2年 と長 い こ と、 か ろ う じて 登 校 は で きて い る もの の教 室 で の授 業 参 加 は 膠 着 状 態 に あ る こ と、M君 の治 療 に対 す る動 機 づ けが 低 くな って きて い る こ と、 さ らに母 親 自身 も学 校 医 の 発 言 を 契 機 に 治 療 に対 して 不 信 を感 じて い る こ と な どか ら、 同 日 を も って 治 療 を 終 結 す る こ と と した。 約3ヵ 月 の 治 療 期 間 中 、M君 に 対 す る4回 のplay therapyと3回 のcounseling、 母 親 に 対 す る7回 の counseling、 お よ び父 親 に 対 す る1回 のcounselingを 実 施 した 。 【事 例2】 ク ラ イ エ ン ト:Y.M、 男 子 、 引 き継 ぎ 時11歳(初 診 時10歳)。 主 訴:夜 尿(の ち に 不 登 校)。 問 題 の 発 生 と経 過:Y君 は 、 高 校 教 員 の 父 、 小 学 校 教 員 の 母 、10歳 離 れ た弟 、 元 学 校 事 務 長 の 祖 父 、 元 小 学 校 教 員 の祖 母 とい う教 育 一 家 の 中 で 育 った 。 平 成X+1年 1月24日 、 夜 尿 症 の相 談 の た め 当 院 小 児 科 を受 診 し、 薬 物 療 法 と心 理 治 療 を 開 始 した。 前 任 の 治 療 者 に よ り、 平 成X+1年1月24日 か ら平 成X+2年7月23日 の 間 に40 回 に わ た っ て 、 生 活 指 導 を 中 心 と し たcounselingお よ びsandplayな ど を受 け た。 しか し、 治 療 の 中 で 、 両 親 並 び に祖 父 母 が 水 分 制 限 や薬 の 飲 み 忘 れ に つ い て 口 う る さ く指 導 した た め 、Y君 の怒 りが 爆 発 し不 登 校 と な っ た。 平 成X+2年8月21日 よ り筆 者 が 引 き継 い で 治 療 を 開 始 した。 初 回 の イ ンテ ー ク面 接(平 成X+2年8月21日)に は 、 母 親 の み 来 院 した。Y君 は 、 「ぼ くは病 気 じ ゃな い か ら、 病 院 へ は行 か な い」 と言 って 、 来 院 を 拒 否 して い る との こ と。 母 親 に よ れ ば 、 夜 尿 は回 数 ・量 と も徐 々 に減 って き て お り、 現 段 階 で は不 登 校 の方 が 深 刻 な 問 題 で あ る と の こ とで あ っ た。 母 親 は、 なか な か 改 善 しな い不 登 校 に 対 す る苛 立 ち と、 そ の よ う な時 期 に 交 代 し た治 療 者 に対 す る不 信 感 が あ りあ り と窺 え る面 接 態 度 で あ った 。 こ の 膠 着 状 態 と母 親 の 不 信 感 を 打 開 す る た め 、 「この ま ま で は 中 学 へ 行 っ て も登 校 は で き な い で し ょ う」、 「家 庭 の 中 で 何 の努 力 もな され て い な い」、 「家 庭 で 見 られ な い の な ら ば、 当 院 の小 児 慢 性 病 棟 へ 入 院 させ て 養 護 学 校 へ 通 学 させ ま し ょ う」 な ど、 まず 母 親 に心 理 的 な揺 さ ぶ りを か け て み た 。 母 親 は 、 「前 治 療 者 か ら 『登 校 刺 激 は 与 え て は い け な い』、 『下 の子 が 生 まれ 、す べ て を奪 われ て しま っ て 心 理 的 葛 藤 が 生 じて い る 』 と言 わ れ 、 こ こ まで 待 って き た の に。 これ ま で の 時 間 は何 だ った の で す か!」 と憤

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慨 して涙 な が ら に訴 え られ た が 、 筆 者 は敢 え て 「治 療 者 に よ って 、 治 療 方 針 ・方 法 は 変 わ り ます 。 一 度 、 ご本 人 や お 父 さん と 相 談 して み て くだ さ い 」 と 聞 き入 れ ず 面 接 を 終 了 し た。 翌 日 に な っ て、 こ ち らが 予 想 した とお り、 今 度 は父 親 か ら電 話 が あ り 「ど う い う こ とか 説 明 して 欲 し い」 と面 接 の 申 し込 み が あ っ た。 平 成X+2年9月3日 、 父 親 面 接 を 実 施 し、 ①Y君 本 人 が 来 院 しな い こ と、 ② す で に 小 学 校6年 生 と時 間 的 余 裕 が な い こ と 、 ③ 治 療 が 比 較 的 長 期 に わ た って い るた め Y君 も両 親 も治 療 意 欲 や 動 機 づ けが 低 くな って しま って い る こ とか ら、 短 期 療 法 的 ア プ ロ ー チ を 試 み て み る こ と を 説 明 した 。 す る と、 初 回 面 接 の 日 の 夜 、 泣 き な が ら父 親 に 話 す 母 親 の 姿 を 見 て か ら、 「寝 室 を 両 親 と は 別 に す る」、 「1∼5年 の 教 科 書 を 出 して き て、 机 の本 立 て に 並 べ た 」、 「1日 に30分 だ け勉 強 す る よ うに な った 」 な ど、 Y君 の 行 動 に 変化 が 現 れ て き た との 報 告 が あ っ た。 この 後 、 平 成X+2年9月17日 よ り平 成X+3年1月 7日 まで に8回 の母 親 面 接 を 実 施 し、 短 期 療 法 の 手 法 に した が っ て"scaling"、"例 外 探 し"、"課 題"の プ ロ セ ス を 繰 り返 した(de  Shazer,19946))。 そ の 結 果 、 小 学 6年1年 間 の 出 欠 状 況 は、1学 期 一 出席3日(欠 席76日)、 2学 期 一 出 席54日(欠 席34日)、3学 期 一 出 席55日(欠 席3日)と 徐 々 に登 校 が 可 能 と な っ た。 平 成X+3年1月7日 、 母 親 の第3子 出 産 を機 会 に 一 応 治 療 を 終 結 と し、 以 後 月1∼2回 の 電 話 相 談 と学 期 に 1回 の 父 親 面 接 の み フ ォ ロ ー ア ップ と して 実 施 して い る。 現 在 、Y君 は 中学 生 で、 最 初 の 定 期 考 査 で や や つ ま ず き を み せ た もの の順 調 に登 校 で きて い る と の こ とで あ る。 【事 例3】 ク ラ イ エ ン ト:R.W、 男 子 、 引 き 継 ぎ 時8歳(初 診 時8歳)。 主 訴:チ ッ ク。 問 題 の 発 生 と経 過:R君 は 、 父 親 、 母 親 、2歳 離 れ た 姉 、2歳 離 れ た 弟 の5人 家 族 で あ る 。 主 訴 の チ ッ ク 症 状 は 、 幼 稚 園 の 年 少 の 頃 、 眼 を パ チ パ チ さ せ る こ と か ら始 ま っ た 。 ま た 、 こ の 頃 、 夜 尿 ・頻 尿 も あ っ た 。 小 学 校 入 学 後 も、 頸 、 肩 、 口 な ど の チ ッ ク が 時 々 あ っ た 。 小 学3 年 生 に な っ て 、 担 任 の 男 性 教 師 よ り忘 れ 物 の 注 意 を 受 け、 そ の 後2∼3ヵ 月 も 下 痢 が 続 い た こ と も あ っ た 。 平 成X +2年6月 中 旬 、 ク ラ ス 内 の 交 友 関 係 の ト ラ ブ ル が 引 き 金 と な り 、"歯 ぎ し り"の チ ッ ク が 出 現 し 、 周 囲 の 友 人 達 か ら 「う る さ い 」 と 指 摘 さ れ た 。 平 成X+2年7月9 日 、 近 所 の 開 業 医 の 紹 介 で 当 院 小 児 科 を 受 診 し 、 心 理 治 療 の 適 用 と な っ た 。 同 年8月14日 よ り 筆 者 が 引 き 継 い だ た め 、 前 治 療 者 は 実 質 的 に イ ン テ ー ク 面 接 を 含 め て2回 のcounselingを 行 っ た の み で あ っ た 。 初 回 の イ ンテ ー ク面 接(平 成X+2年8月14日)に は 母 子 で 来 院 した が 、 い か に も神 経 質 そ う な母 親 とわ ん ぱ くそ うな 患 児 が 印 象 的 で あ った 。 す で に ひ ど い"歯 ぎ し り"の チ ッ ク は 治 ま り、"眼 を パ チ パ チ す る"、"頸 を す くめ る"、"大 き く口 を 開 け る"と い った チ ッ クが 見 られ た が 、 全 体 的 に は 減 って い る との こ と で あ った。 基 本 的 に は 、 前 治 療 者 が 提 示 し た治 療 方 針(① 親 の 方 が接 近 し て い くよ う な扱 い 方 を す る、 ② 本 人 の立 場 に な って 考 え て や る 、 ③ 言 葉 で 表 現 で き る よ う に な る ま で はplay therapyを 行 って い く、 ④ 母 親 と キ ャ ッチ ボ ー ル を す る な ど の 関 わ り を持 つ)に したが って 治 療 を 進 め て い くこ と を話 した。 第2回 の 面 接 よ り患 児 のsand  playお よ び 母 親 へ の counselingを 並 行 して 実 施 し た 。 こ の 中 で 、 患 児 よ り も む し ろ母 親 の ス ト レス が 大 き く情 緒 不 安 定 な状 況 に あ る こ と、 母 親 の 家 事 や 育 児 に対 す る不 器 用 さが と て も 目 立 つ こ と か ら、第4回 の面 接 時(平 成X+2年10月1日) よ り治 療 の 中心 を 母 親 に変 更 して進 め た。 患 児 の チ ッ ク 症 状 は 明 らか に 母 親 の 精 神 状 態 に規 定 され て お り、 この 後 も チ ッ ク症 状 は軽 快 増 悪 を繰 り返 し た。 しか し、 平 成X+2年 冬 、 母 親 が 家 事 と育 児 の た め に 辞 め ざ る を 得 な か っ た ソ ー シ ャル ダ ン スの 教 師 の 仕 事 に 治 療 者 の 勧 め もあ っ て 復 帰 す る と、 母 親 の 精 神 状 態 は見 事 に 安 定 し、 患 児 の チ ッ ク症 状 も ほ とん ど消 失 した 。 ま た、 母 親 が 家 を 空 け る た め 、 替 わ っ て父 親 が 子 ど も と関 わ りを 持 つ機 会 が 増 え た こ と も幸 い し、 そ の 後 半 年 ほ ど フ ォ ロ ー ア ップ す るが チ ッ ク症 状 は増 悪 す る こ とは なか っ た 。 平 成X+3年10月21日 、15回 のsand  playお よ び 6回 のplay  therapy、23回 の 母 親 面 接 を も っ て 約1年 2ヵ 月 に及 ん だ 治 療 を 終 結 した。 Ⅲ  考 察 継 続 的 に行 わ れ て き た治 療 が 、 治 療 者 側 の 一 方 的 な理 由 で 中 断 も し く は治 療 者 交 代 と い う局 面 を迎 え た時 、 そ れ は 患 者 や そ の 家 族 に と って 危 機 的 な 状 況 とな る。 そ れ ま で 信 頼 し、 治 療 を 任 せ て きた 治 療 者 と の"別 れ"に 対 して 、 種 々 の 葛 藤 が 生 ず る こ と は容 易 に予 測 で き る。 さ らに 、 今 回 筆 者 が 経 験 し た ケ ー ス の よ う に、 前 治 療 者 と の"別 れ"の 直 後 に 新 しい 治 療 者 が 交 代 して 現 れ る場 合 に は、 未 知 な る対 象 に 出会 う不 安 に も同 時 に直 面 す る こ と に な る。 つ ま り、 患 者 や そ の家 族 は対 象 喪 失 に よ る分 離 不 安 と新 しい 治 療 者 へ の 新 奇 不 安 と い うふ たつ の不 安 を 体 験 す る こ と に な る。 こ れ ら の不 安 を 処 理 す る た め に 治 療 現 場 で は 、 患 者 (患 者 が 小 児 の 場 合 は 、 そ の保 護 者 を 含 め て)に 否 認 、 投 影 性 同 一 視 な どの 原 始 的 な 防 衛 機 制 が 発 現 しや す くな る。 す な わ ち 、 か つ て の 重 要 な 対 象 との 別 離 の体 験 や そ

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れ を巡 って の 感 情 体 験 、 新 奇 場 面 で の 不 安 な どが 意 識 に 浮 上 しや す くな り、 患 者 自身 が 抱 え て い る感 情 や 問 題 が 治 療 者 交 代 とい う刺 激 に よ って 浮 き上 が り、 これ ま で こ の患 者 が と っ たで あ ろ う対 応 が 再 現 され る た め で あ る。 一 方 で、 この 患 者 自身 の 抱 え る感 情 や 問 題 は 新 治 療 者 と の 関 係 の 中 に も 当然 持 ち込 ま れ る と考 え られ る の で 、 新 治 療 者 に と って は患 者 理 解 の 手 が か り と して 、 そ れ ら を 有 効 に 治 療 に 活 用 す る絶 好 の機 会 と も な る の で あ る。 治 療 者 交 代 の局 面 に お い て も うひ とつ の難 しい 問 題 は、 治 療 者 の 逆 転 移 感 情 の 処 理 で あ る。 治 療 者 交 代 は、 先 に も述 べ た とお り治 療 的 進 展 へ の よ い 契 機 で あ る に もか か わ らず 、 新 し く治 療 を 引 き継 ぐ治 療 者 に と って は扱 い難 い 局 面 と な る こ とが 多 い。 三 宅(1998)4)は 、 前 治 療 者 か ら患 者 を 引 き継 ぎ、 心 理 療 法 を受 け持 った 経 験 の あ る治 療 者 の 大 半 は、 「難 しい 」、 「や り に く い」 とい う感 情 を 体 験 し、 こ の 「難 しさ」 は 治 療 者 に と って 逆 転 移 の処 理 の 難 しい 局 面 で あ る と ころ に よ る と して い る。 ま た 、 堀 川(1981)2)は 、 「主 治 医 交 代 は、 新 主 治 医 の 中 に 『張 合 い 競 争 の 心 性 』 を 引 き出 す 」 と し、 「知 らず 知 らず の う ち に 前 主 治 医 の 影 と見 え な い 戦 い を 演 じて し ま った こ と が 治 療 を破 綻 させ て しま った 」 と事 例 を通 し て 考 察 して い る。 一 方 で、 永 田(1999)5)は 、 「治 療 者 が 投 影 性 同 一 視 を 保 持 し、 感 情 を 体 験 し、 意 味 を 理 解 して 患 者 に返 して い く一 連 の 過 程 が 、 そ の ま ま治 療 の プ ロ セ ス で あ る」 と し、 転 移/逆 転 移 を積 極 的 に治 療 に活 用 す る考 え 方 が 一 般 的 に な っ て きて い る と して い る。 いず れ に して も、 前 治 療 者 、 患 者 、 新 治 療 者 の 三 者 間 に 発 現 す る転 移/逆 転 移 感 情 の 処 理 は慎 重 に扱 わ れ な け れ ば な らな い。 こ こで 、 以 上 の視 点 か ら、 今 回 経 験 した3つ の ケ ー ス を み て み た い。 【事 例1】 は 、 い わ ゆ る不 登 校 を伴 っ た心 因 性 嘔 吐 症 の ケ ー ス で あ る。 引 き継 い だ 時 点 で す で に約2年 間 の 治 療 期 間 を経 て い た が 、 イ ンテ ー ク面 接 場 面 で は、M君 に も母 親 に も前 治 療 者 に対 す る陽 性 転 移 感 情 、 陰 性 転 移 感 情 の ど ち ら も認 め られ な か っ た うえ 、 そ の 受 け答 え か ら 新 治 療 者 で あ る筆 者 自身 もM君 親 子 に対 して とて も好 印 象 を 持 っ た。 そ こで 、 本 ケ ー ス に 対 して は生 地(1990)3) が 治 療 者 交 代 時 の 工 夫 と して 提 示 して い る 「前 治 療 者 の 『治 療 構 造 』 を そ の ま ま 引 き継 ぐ」 方 法 を と り、M君 に はplay  therapyを 、 母 親 に はcounselingを 開 始 した。 つ ま り、 前 治 療 者 の 治 療 構 造 の 構 成 要 素 を 「移 行 対 象 」 と して 使 用 す る こ とで 、 患 者 の 前 治 療 者 へ の 陽 性 転 移 感 情 を 新 治 療 者 へ も温 存 させ 、 治 療 者 交 代 を よ りス ム ー ズ に運 ぼ う とす る試 み で あ った 。 と こ ろが 、M君 の 症 状 が 改 善 して い た約2ヶ 月 間 は患 者 一治 療 者 関 係 も大 変 良 好 で あ った が 、 修 学 旅 行 参 加 後 に症 状 が 悪 化 す る と途 端 に 患 者 一 治 療 者 関 係 も悪 化 して い った 。M君 と母 親 の 陰 性 転 移 感 情 が 治 療 場 面 で露 骨 に 表 現 され る よ うに な り、 筆 者 は無 性 に 「や り に く さ」 を 感 ず る と と も に 自身 の逆 転 移 感 情 を いか に処 理 して い く か 困 惑 した。 た ま た ま 、 学 校 医 の助 言 が 契 機 と な って 母 親 の方 か ら 治 療 中 止 の要 望 が 出 さ れ 治 療 終 結 と な った が 、 筆 者 自身 の逆 転 移 感 情 が 充 分 に処 理 さ れ て い なか っ た た め に 、 実 に後 味 の悪 い ケ ー ス と な って しま っ た。 イ ンテ ー ク面 接 時 に 、M君 親 子 が 見 せ た 愛 想 の よ い受 け答 え の裏 に潜 む 前 治 療 者 に対 す る極 端 な 陰 性 転 移 感 情 を見 抜 け な か った こ と が 治 療 を 破 綻 さ せ て しま っ た と考 え られ る 。 す な わ ち、 前 治 療 者 の 治 療 構 造 を そ の ま ま 引 き継 ぐ こ と に よ り、M君 親 子 の 前 治 療 者 に対 す る陰 性 転 移 感 情 を新 治 療 者 が す べ て 背 負 い 込 む こと と な って しま っ た の で あ る。 【事 例2】 は、 夜 尿 の 対 応 の 失 敗 か ら不 登 校 に至 って しま った ケ ー ス で あ る。 本 ケ ー ス も、 引 き継 い だ 時 点 で す で に約1年 半 の 治 療 期 間 を 経 過 して お り、 イ ン テ ー ク 面 接 場 面 で は 、 母 親 の 前 治 療 者 に対 す る極 端 な 陰 性 感 情 が 認 め られ た 。 ま た 、Y君 自身 が来 院 を拒 否 して い る こ と も、 前 治 療 者 や 新 治 療 者 で あ る筆 者 に対 す る陰 性 感 情 の表 れ で あ っ た の で あ ろ う。 Langs(1973)7)は 、 前 治 療 者 の問 題 の 取 り扱 い に つ い て 、 「前 治 療 者 か ら持 ち 越 さ れ た もの 、 陰 性 感 情 は で き るだ け早 期 に分 析 す る必 要 が あ る。 さ らに 、 以 前 の 治 療 者 と 目の 前 の治 療 者 の 違 い を明 確 に示 す必 要 が あ る」 と、 前 治 療 者 か ら持 ち越 さ れ た陰 性 感 情 に は 十 分 注 意 す る よ う主 張 して い る。 そ こで 、 本 ケ ー ス で は、 敢 え て 前 治 療 者 の治 療 構 造 を 一 切 踏 襲 しな い ば か りか 、 む しろ前 治療者 の治 療構造 を 否 定 す る こ と に よ り母 親 に心 理 的 揺 さぶ りを か け、 前 治 療 者 と新 治 療 者 で あ る筆 者 と の違 い を 明 確 に 示 した 。 と もす る と乱 暴 な方 法 に見 え るが 、 結 果 的 に は前 治 療 者 か ら持 ち越 され た陰 性 感 情 を 断 ち切 り、 治 療 を こち らの ペ ー ス に引 き込 む こ とが 可 能 と な った 。 そ の 後 は、 短 期 療 法 の 手 法 に 従 っ て 治 療 を進 め 、 わ ず か8回 の 母 親 面 接 の み で 登 校 可 能 と な り治 療 終 結 とな っ た。 イ ンテ ー ク面 接 時 の 対 応 の良 さ が 、 の ち の短 期 療 法特 有 の 「切 れ 味 の よ い」 治 療 結 果 を導 い た とい っ て も過 言 で は な い ケ ー ス で あ っ た。 【事 例3】 は チ ッ ク の ケ ー ス で あ るが 、 引 き継 い だ 時 点 で前 治 療 者 が イ ンテ ー ク面 接 を含 めて2回 の面 接 を行 っ

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た の み で あ っ た た め 、 何 ら問 題 を 感 じ る こ とな く治 療 を 進 め る こ とが で き た 。 本 ケ ー ス で 筆 者 が 配 慮 した こ と と い え ば 、 前 治 療 者 が 提 示 した治 療 構 造 の 一 部 を 引 き継 い だ程 度 で あ っ た。 治 療 終 結 ま で に約1年2ヵ 月 の歳 月 を 要 した が 、 そ の後 の 症 状 は安 定 して い る。 以 上 、 今 回 経 験 した3つ の ケ ー ス に つ い て 概 観 して き た。 今 回 の治 療 者 交 代 に 際 して は筆 者 な りに 工 夫 を 凝 ら して対 応 した つ も りで あ っ た が 、 治 療 の 途 中 中 止 を 余 儀 な く され る ケ ー ス ま で 出 る な ど 再 考 の余 地 を 残 す 結 果 と な った 。 そ れ で は、 治 療 者 交 代 が よ りス ム ー ズ に行 わ れ る に は 、 さ ら に は よ り治 療 的 に取 り扱 って 行 く に は どの よ うな 配 慮 が な さ れ るべ きで あ ろ うか 。 生 地(1990)3)は 、 ① 新 治 療 者 が 前 治 療 者 の最 後 の面 接 に同 席 す る、 ② 前 治 療 者 が 新 治 療 者 の最 初 の面 接 に 同 席 す る、 ③ 治 療 構 造 の大 部 分 は一 定 期 間 変 え な い 、 と い う き わ め て 具 体 的 な方 法 を 提 唱 して い る。 しか し、 患 者 が 前 治 療 者 に対 して あ る 程 度 の 陽 性 感 情 を持 っ て い た場 合 に は有 効 で あ ろ う と思 わ れ るが 、 患 者 が 前 治 療 者 に対 し て陰 性 感 情 を持 って い た場 合 は、 今 回 筆者 が経 験 した ケ ー ス の よ うに 、 む し ろ患 者 一治 療 者 の 関 係 を 悪 化 さ せ て し ま う こ とは 容 易 に 予 測 で き る。 ま た 、 い くつ か の ケ ー ス を一 度 に 引 き継 ぐ場 合 に は、 新 旧 の 治 療 者 が お 互 い の 面 接 に同 席 す る な ど と い う こ と は時 間 的 に も到 底 現 実 的 で は な い。 さ ら{に、 生 地(1990)3)自 身 も述 べ て い る よ うに 、 「治 療 者 が 二 人 同 席 す る面 接 は 、 治 療 構 造 上 は特 殊 で あ り、 そ こ で 語 られ る こ と は、 そ の 特 殊 な 構 造 へ の 反 応 の 部 分 も あ る の で 、 厳 密 な 意 味 で 前 治 療 者 の 面 接 の あ り方 の 観 察 に は な らな い 」 とい う こ と も考 慮 さ れ な けれ ば な らな い 。 実 際 的 に は 、 前 治 療 者 へ の 転 移 感 情 は 陽 性 と陰 性 が 複 雑 に絡 み 合 って 新 治 療 者 との 関 係 に持 ち 越 さ れ て くる と 考 え られ る の で 、 ど ち らを 重 視 す べ き か の 判 断 は 、 そ れ ぞ れ の患 者 や そ の 家 族 の 抱 え て い る病 理 や 問 題 、 前 治 療 者 と の 関 係 性 、 さ らに は治 療 者 交 代 に至 っ た経 緯 や 引 き 継 ぎ に使 用 で き る時 間 、 新 し い治 療 環 境 な ど を十 分 考 慮 しな が ら検 討 さ れ るべ きで あ ろ う。 ま た、 生 地(1990)3)は 、 「治 療 者 交 代 の 事 実 が 否 認 さ れ、 治 療 が完 全 に 連 続 して い る幻 想 の 助 長 の 可 能 性 が あ る」 と し、 「現 治 療 者 との 治 療 関係 が 安 定 した もの とな っ た時 に は、 治 療 構 造 を話 し合 い なが ら再 契 約 を す る こ と」 の 必 要 性 も述 べ て い るが 、 こ れ ま で の経 験 か ら筆 者 も全 く同 意 見 で あ る。 治 療 構 造 を 患 者 と話 し合 い な が ら 「再 契 約 」 す る こ とが 、 治 療 者 交 代 の 際 に治 療 構 造 に 変 更 が あ っ た か ど うか に か か わ らず 、 前 治 療 者 と新 治 療 者 の違 い を 明 確 に 示 す と い う意 味 で も、 患 者 の主 体 性 を 尊 重 す る意 味 で も非 常 に 重 要 で あ る と考 え られ る。 先 述 の と お り、 治 療 者 交 代 とい う局 面 で は治 療 者 側 に 喚 起 さ れ る逆 転 移 感 情 も問 題 に な っ て く る。 で は、 逆 転 移 感 情 に つ い て は ど の よ う に取 り扱 って い け ば よ い の で あ ろ う か。 成 田(1997)8)は 、 「治 療 者 の役 割 を果 た す ため に は、 転 移/逆 転 移 状 況 を生 きつ つ 、 その 由来 と意 味 を洞 察 す る こ とが 必 要 で あ る」 と述 べ て い る。 また 、 三 宅(1998)4) も、 「新 治 療 者 が そ の逆 転 移 を 内 省 し、 じっ くり見 つ め 直 す こ とが 、 患 者 を理 解 し、 この 局 面 を さ らに治 療 的 展 開 へ とつ な げ るた め に、 とて も重 要 な 鍵 とな って くる」 と述 べ て い る。 す な わ ち 、 治 療 者 が逆 転 移 状 況 に 巻 き込 まれ て 自 分 を見 失 い そ うに な った 時 こそ 、 そ の 逆 転 移 感 情 を 保 持 しつ つ 、 そ の 由 来 や 意 味 を洞 察 して い く こ とが 患 者 理 解 につ なが り、 治 療 を進 展 させ る契 機 とな る とい うの で あ る。 筆 者 自身 、 今 回 の3つ の ケ ー ス を 引 き継 ぐに あ た って 、 逆 転 移 感 情 に つ い て は さ ほ ど問 題 に して い な か っ た 。 そ れ 故 、 【事 例1】 の ケ ー ス で は、 「治 療 者 と して の 存 在 価 値 の 否 定 」(三 宅,19984))を 体 験 し、 い か に して 逆 転 移 感 情 を 処 理 す る か 困 惑 した。 こ の よ う な局 面 で こそ 、 い た ず ら に逆 転 移 感 情 に 流 さ れ る こ と な く、 前 治 療 者 の 行 って きた これ まで の 治 療 、 そ して 新 治 療 者 が 現 在 行 っ て い る治 療 を明 確 に位 置 づ け、 そ れ を患 者 に示 して い く よ う な視 点 に立 ち 返 る こ とが 、 む しろ逆 転 移 感 情 を解 消 して い く こ と に つ なが る の で は な いか と考 え られ る。 以 上 、 筆 者 が 経 験 した3事 例 とい くつ か の 先 行 研 究 を 通 して 、 心 理 治 療 過 程 に お け る治 療 者 交 代 の 治 療 的 取 り 扱 い に つ い て 検 討 して き た 。 最 後 に 、 治 療 者 交 代 時 に お け る そ の他 の 配 慮 ・治 療 的 工 夫 に つ いて 付 け加 え て お き た い。 ま ず 、 治 療 者 が 交 代 す る とい う事 実 を 患 者(も し くは そ の 家 族)に で き る だ け早 い 時 期 に予 告 し、 前 治 療 者 は 治 療 者 交 代 に ま つ わ る い ろ い ろ な 感 情 を 受 け止 め る こ と が 必 要 で あ ろ う。 この 時 語 られ た 内 容 か ら、 新 治 療 者 は 患 者 が 前 治 療 者 に 対 して いか な る転 移 感 情 を有 して い た か 判 断 す る こ と が 可 能 とな る。 次 に、 で き る こ と な ら前 治 療 者 は新 治 療 者 に 引 き継 ぐ 前 に 、 一 旦 治 療 を 終 結 す る こ と が 望 ま しい と考 え る。 も ち ろ ん 、 そ の 患 者 の 病 態 水 準 や 家 族 の 問 題 か ら不 可 能 な ケ ー ス も少 な か らず あ ろ うが 、 前 治 療 者 と新 治 療 者 の違 い を 明 確 に示 す た め に も一 旦 治 療 を終 結 し、 「新 治 療 者 を 紹 介 す る」 と い う形 を と る方 が よ りス ム ー ズ に交 代 が 運 ぶ の で は な い か と思 わ れ る。 い ず れ に して も、 治 療 者 の治 療 過 程 途 中 で の 交 代 と い う事 態 は 極 力 避 け る よ う配 慮 す る こ とが 望 ま し いが 、 や む を 得 な い 場 合 に は、 前 治 療 者 も新 治 療 者 もそ れ な りの 配 慮 と工 夫 を も って 、 そ の 後 の治 療 に 臨 む こ とが 要 求 さ

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れ る こ と は 言 う ま で も な い 。       IV  参 考 ・引 用 文 献 1)佐 治 守 夫,水 島 恵 一:臨 床 心 理 学 の 基 礎 知 識 一 概 念 ・   技 法 ・問 題 点 の 理 解 ー,有 斐 閣,東 京,1974. 2)堀 川 公 平:治 療 者 関 係 と 主 治 医 交 代,季 刊 精 神 療 法,   7(2}, 151-158,  1981. 3)生 地   新:治 療 者 交 代 の 際 の 工 夫 に つ い て,精 神 分   析 研 究,33(5),397-403,1990. 4)三 宅 朝 子:治 療 者 交 代 に つ い て の 一 考 察 一 あ る 境 界   例 女 性 の 事 例 を 通 し て 一,心 理 臨 床 学 研 究,16(3),   255-265,  1998. 5)永 田 法 子:境 界 例 治 療 に お け る 治 療 者 交 代 と 転 移/   逆 転 移,心 理 臨 床 学 研 究,17(2),163-173,1999.

6)de  Shazer  S.:Keys  to Solution  in Brief Therapy,   W.W.  Norton,  New  York,1985,小 野 直 弘 訳,短   期 療 法 解 決 の 鍵,誠 信 書 房,東 京,1994.

7)  Langs  R.:The  Technique  of  Psychoanalytic   Psychotherapy,  Jason  and  Aronson,  Inc.,  New   York,1973. 8)成 田 善 弘:青 年 期 境 界 例,金 剛 出 版,東 京,1989.       V  付       記   本 論 文 で 取 り 扱 っ た3つ の 事 例 は,第1著 者 が 国 立 療 養 所 長 良 病 院 に 在 勤 中 に 経 験 し た も の で あ る 。       (平 成13年10月2日 受 稿)       (平 成13年11月20日 受 理)

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