第3章
選択学習,総合的な学習の時間
第1節
「情報科」
情報科の実践
北村 俊 安谷 元伸 本論の要旨 新教科『情報』を通して「情報の本質を探究する・情報の活用を実行する・情報の 内容を吟味する」の視点を明確にした学習を深めることによって,生徒の感性と論理 的に考える力を高め,教科等,総合的な時間(BIWAKO TIME等)の学習をさらに充 実させ,社会に生きる力の育成を図りたい。そこで,コンピュータ利用ではない情報 教育の核として「情報科」を実践した。その成果と課題を報告する。 各教科における情報との関わり,カリキュラム,教科書 キーワード 1 「情報科」の目的. ( ) 「 」 本校では平成18 2006 年度で 情報生活科 を閉じ,代わって新たに“情報科”を開設するこ とで,特に情報を吟味したり生産したりするため の基本的な知識や思考法を,中学生に必要な範囲 で教科の枠を越えて横断的に学ばせようとするこ とをねらった。情報教育の新たな枠組みとして, 本校〝情報科〟は,単元によっては必要な知識を 先に与え,演習的に作業や体験を行う展開した。 2 「情報科」の形態. ~研究体制の確立~ 年度~ 年度はカリキュラムを模索中 2007 2009 であるため,全職員が単元ごとに分担して授業に あたることで,研究に参加できるようにした。ま た,内容を整備していくにあたり 「教科」の形, 態をとるのに最低週1時間は確保すべきだろうと 考え,各学年とも年間35時間を用意した。 その上で初年度となる 2007 年度は領域ごと担 当者が各自実践開発にあたり,2008 年度はそれ を整理・体系化して実践検証し,本年度は各教科 や総合学習との関連を考察するという3カ年計画 を立てた。 3 「情報科」のカリキュラム. 内容の中核として,中学生の学校生活や社会 生活を観察して特に必要と考えられる三つの「視 点 (」 図1)を設定した。 A 情報の本質を探究する C 情報の活用を実行する E 情報の内容を吟味する ▲図1 中核を成す三つの視点 次に,それらを関連させながら指導すること をねらい,AC間をB,CE間をD,EA間をF として B 本質を知って活用 D 内容を吟味して活用 F 本質を知って内容を吟味 という三つの「補完する中間の視点」を設定し, 以上の六つを「情報科」の内容とした (。 図2) 内容の配当にあたっては,本校は 2 期(前期・後 期)制を採用しているので,期ごとに1年生では 2 3 Aとその対極D, 年生ではFとその対極C, 年生ではBとその対極Eを割り当てて各学年で本 質・活用・吟味を学べるようにすることで,系統 性を保ちつつ,内容のスパイラルによる深まりも 期待できるような形を骨格にした。▲図2 情報科の六つの内容 学年・内容 単元 D 人とのコミュニケーション 1 コミュニケー メディアによるコミュニ 年 ション ケーション 生 A アイデアを練ろうⅠ 情報の本質 分析しよう 発表しよう F データ量と情報量 データと データの質とディジタル 2 情報 データ 年 C アイデアを練ろうⅡ 生 情報の処理・ データを処理しよう 活用 マルチメディアで表現 しよう B 論理的に読み聞きしよう 3 思考と創造 論理的に表現しよう 年 E 情報の本質 生 情報社会 情報と経済・犯罪 これからの情報社会 ▲表1 情報科のカリキュラム(2009年度) 「 」 ( ) 2009 年度の 情報科 のカリキュラム 表1 については,前年度に蓄積したワークシートに基 づく仮の教科書づくりにも取り組むために,前年 度のカリキュラムと同様にして,操作を伴う活動 の多い単元には8時間,知識理解が中心となる単 元には 5 時間を配当し, ~2 3 名のチーム・ティ ーチングで指導することで,職員の教科の専門性 を生かしつつ全員が指導に関わるようにした。 なお,評価に関しては2007 年度,2008年度と 同様,≪評価の観点≫として次の①~③を設け, それぞれについて A ~ C の三段階で評価するこ とにした。詳しくは次の通りである。 ① 関心・意欲・態度 情報化社会へ参画する態度を評価する。 ② 知識・理解 内容に関する知識・理解を評価する。 ③ 情報活用の実践力 情報発信の力,情報収集の力,情報加工の力 を評価する。 各観点をABCの三段階で評価する。 A・・・十分満足できる。 B・・・おおむね満足できる。 C・・・努力を要する。 各単元の担当者は,授業内容に応じて①~③の うち授業内容に照らして評価できる観点について 評価し,半期ごとに担当グループで総合的に評定 して,一年が終わった段階で偏りなく三つの観点 において評定できるようにすることとした。 4 「情報科」の各学年における指導内容. (1)1年生情報科指導内容 年生では,体験的な学習内容の充実,コミュ 1 ニケーションの重視,シンキングツールとの出会 いが中心となっている。 教師が何をねらい,どのような内容を指導して いるのかを以下のようにまとめた。 A-1 単元「人とのコミュニケーション」 5時間 普段あまり意識されることのないコミュニケー ションについて,情報のやりとりの面からの理解 を多様な場面設定の議論などを通して深めた。情 報の伝達手段は様々な変遷を経て発達している。 人同士の情報のやりとりや,対多数の場合での情 報伝達に関して考えることで,その技術や工夫を 理解した。 ■ み ん な で ア イ デ アを出し合う A-2 単元「メディアによるコミュニケー ション」 5時間 情報が一方的に伝達されるものと相互にやりとり されているものについて目を向けて,特徴をまと
, , , めたり 比較したりして 望ましい情報の発信や 情報を受け取る態度について考えた。あるシーン を音のみ聞いて,あるいは,映像も合わせて想定 する場合などの場面を設定し,情報伝達には様々 な手段が講じられていることを実感した。コミュ ニケーションは言葉や音,さらに紙やレコーダー を通して保存,記録される。そのために,メディ アを通したコミュニケーションの特徴について作 業を通して考えた。 ■メディアの特徴 を学ぶ D-1 単元「アイデアを練ろうⅠ」 8時間 ものごとをいろいろな視点から興味を持って見 ないと大切な情報でさえ見落としてしまうことを 体験し,情報は受け手によって変化することを理 解した。受け手を意識したアイデアの必要性を学 び,コミュニケーションのために新たな発想が迫 られることを理解した。アイデアを見える形にす るために,シンキングツールを利用し,アウトラ インより発想を広げ, 対比や集合で見ることに よって,見落としている要素に気づくことができ た。 ■シンキングツー ルを“体験” D-2 単元「分析しよう」 8時間 情報源とは,様々な特徴や特質をもった情報の 集まりであるといえる。集めただけでは,その情 報源の本質を見抜くことにはつながらない。ある 情報源からの情報を整理し,その特徴を分析する ことに意味がある。いくつかの情報源から情報を 抽出して,実際に分析を行った。シンキングツー ルで情報を分析して問題を解決するための必要な 原因を探し,集めたデータから課題解決のために 実践したものを検証,分析する一連の流れを学ん だ。 ■情報を分析する 手法を知る D-3 単元「発表しよう」 8時間 言葉を聞いて「絵」に描いたり 「絵」に描い, たものを言葉に直したりすることを例に,情報を より効率的・効果的に伝える方法を学んだ。情報 を人づてに言葉で伝えると,情報が欠落したりゆ がんだりすることがよくある。そこで,情報を人 づてに言葉で伝えるときに,できるだけ早く正確 に伝える方法を学んだ 「情報を言葉で伝える」。 という点ではニュースも演説もプレゼンテーショ ンも同じだが,ニュースのようには淡々と話して いないことも確かである 「よりよく伝わる」た。 めにどのように話せばよいかを学んだ。 ■「伝える」ために 情報を練る (2)2年生情報科指導内容 年生では,データの扱い,メディアの操作, 2 メディアによる表現の習得が中心となっている。 F-1 単元「データ量と情報量」 5時間 さまざまな情報をあらかじめ整理・分類してお くと,収集した情報をいつでも必要なときに活用 することができる。情報を整理・分類するための 効果的な情報活用法を学んだ。コンピュータで整 理・分類すると,形式化・符号化が求められる。 他との違いを考えながら,必要になる場面を考え た。とくに,データ量と情報量の違いを,事例を 通して理解した。情報量に応じて,作文や新聞記 事,標語,川柳,俳句から適切な情報活用法を学
んだ。 ■ デ ー タ の サ イ ズ (量)を実感 F-2 単元「データの質とディジタルデータ」 5時間 情報を正しくとらえる上で情報やデータの定義 を知ることはとても大切なことである。データに は,文字,数字,記号といったものがある。それ らのうち,数値データにふれながら,数値データ を正しく読み解くことについて学んだ。アナログ データとディジタルデータの違いやそれぞれの良 い点・悪い点について理解し,ディジタルデータ をコンピュータで用いながら,その扱いやすさや ディジタル化することによる便利さについて学ん だ。データは,情報を端的に表すものとして用い られる。正しくデータに向き合うことについて考 えた。 ■ ディジタル化の 過程を学習 C-1 単元「アイデアを練ろうⅡ」 8時間 情報を発信するとき,相手の存在を無視できな い。個人や集団でアイデアを出し合う時,うまく まとまらなければ,せっかくのアイデアも生かさ れない。アイデアのつながりを意識してまとめる 方法について学んだ。グループで,相手を意識し てアイデアをまとめることの大切さやアイデアの 広げ方について学んだ。 ■ ツ ー ル の 活 用 方 法を学習 C-2 単元「データを処理しよう」 8時間 コンピュータはデータの蓄積や利用に大変適し た機械である。コンピュータをつかってデータを 蓄積・検索するための方法と,それらを学習や生 活に有効に利用する方法について学んだ。データ ベースを簡単に扱えるソフトウェアをつかって身 の回りのデータを整理し,表計算ソフトウェアで 電卓では不可能な計算をした。応用範囲が広いデ ータベース機能を使って,複数の条件による抽出 など,少し複雑な抽出を体験した。 ■ツールの活用方法 を学習 C-3 単元「マルチメディアで表現しよう」 8時間 マルチメディアによって情報を発信し,情報を 共有できれば,より有効に情報を利用できること になる。マルチメディアによって情報を発信する 時に留意することについて考え,インターネット による情報発信の方法や,Web ページの特性で あるリンクの方法についても学んだ。また,公開 するのにふさわしいかどうかを考えてから発信す ることが大切である。Web ページを内容・デザ イン性という観点でとらえ,適正にまた効果的に コンテンツやデザインを考えた。 ■ 複 数 の ア プ リ ケ ーションの操作 (3)3年生情報科指導内容 年生では,論理的思考の育成,情報社会の理 3 解,問題解決への応用の力を育成することが中心 となっている。 B-1 単元「論理的に理解しよう」 8時間 学校や家庭のあらゆる生活において触れるメデ ィアの情報が一方的に処理・加工されて伝えられ
ていること知り,情報の本質が明確でない場合が あることを理解した。新聞など多様なメディアを 用いて,周りにあるいらない情報に目を奪われず に,本当に知るべき情報を見抜く力がまず身につ けることができた。論理的に情報を理解すること で,筋道を明らかにして物事の本質に至る思考を 身に付ける重要性を理解し,溢れる情報の中で本 当に必要となる情報を見抜く力が必要であること を理解した。 ■ 論 理 的 な 思 考 の ための練習 B-2 単元「論理的に表現しよう」 8時間 発信される情報を見つめ,論理的に思考して表 現することで,相手に自分の考えをはっきりと伝 えことを体験した。本当に必要な情報を選択し, 論理的な思考に目を向け,意識し,思考・発想の ためにできるよう多様なメディアで表現した。文 章を論理的に理解してまとめて表現する活動,相 手に明確に伝わる物語を思考する活動,4 コマ漫 画など限定的な表現で自分の考えを伝える活動な どを通して,論理性のある表現活動の重要性を理 解した。 ■多角的に論理 的な表現を行う E-1 単元「情報の本質」 5時間 情報が複雑になる一方で,極度に単純化された 情報が存在することに目を向け,その存在意義に ついて考えた。単純であっても複雑な情報を伝え ることを知り,情報のエントロピーなどの概念に ついて考えた。学校や道路など身近にあるピクト グラムなどの簡素化された情報を意識し,その本 質がどこにあるのかを探り,発想や情報を見つめ る際の着眼点の重要性を理解した。そして,普段 意識していなった情報への気づきへとつなげてい くことができた。 ■単純に表現された 情報への意識化 E-2 単元「情報と経済・犯罪」 5時間 情報化が進展することにより自分がどのような 影響を受けることになるのか,身近にある多様な メディアから体験的に理解した。キャッシュカー ドやクレジットカードなど情報を記憶するカード の性質や利便性,危険性を学習し,会員カードな ど自分たちが普段使うものにもそのシステムが応 用されていることを実感した。情報を集積するこ とが多くの経済的なメリットを生じさせること や,情報の漏えいなどの安全面にデメリットが存 在することを学んだ。 ■ 情 報 安 全 に つ い て学ぶ E-3 単元「これからの情報社会」 5時間 μチップなど最先端のメディアの存在,その機 能や利便性,可能性を体験することによって,卒 業を間近に控えた状況で情報社会について意識を 向けることができるようになった。メディアの発 達やユビキタス社会の到来で想定される状況につ いて,資料からの情報を分析したり,自分たちが 将来どのような社会で生活していくのか,何をす ることができるのか,広い視野を持って建設的な ビジョンを描くことができた。 ■最先端メディア の体験 5 「情報科」の生徒用教科書とワークシート. は,情報の授業の担当者が作成した 資料1~4
各単元の生徒用教科書(一部抜粋)で,内容を精 査して編纂中である。 また,資料5,6は情報の授業の担当者が作成 。 , した授業用ワークシートの一つである 昨年度は 蓄積した授業用ワークシートに基づくテキストづ くりに取り組んだ。今年度は,授業で実際に使用 しながら充分に検証を重ね,お座なりなものに留 まらないようにしていきたいと考えている。 ▲ 資料1 教科書 B-1 ▲ 資料2 教科書 E-2 ▲ 資料3 教科書 A-2 ▲ 資料4 教科書 C-1
▼ 資料5 教科書 ▼ 資料6 教科書 6.在校生へのアンケート ~情報に対するイメージ,各教科との関わり~ 月(学年によっては 月末)とその半年後と 5 4 なる 11 月に「情報」という語に関する認識のア ンケートを全学年で行った。回答は自由筆記形式 で,そこで書かれた第一のイメージを抽出したも のが資料7である。また,各教科の研究授業後に 行うアンケートに情報との関わりを問う質問項目 を設けた。そのアンケート結果が資料8である。 情報科の影響 の結果から学年間の比較を行うと,学年 資料7 が上がることで語彙数が増加することが確認され た。単純な経年変化や学習経験も要因として考え られるものの,3 年生の解答には今まで情報科の 単元で扱われた学習内容や単語が選択される傾向 も見られる。理解や使用頻度の個人差はあるもの の,情報科の学習経験の蓄積や影響による生徒の 動きとして指摘することができる。この点におい て中学校3年間で情報科を継続する意義が見出せ ると言える。 しかし,どのような学習でも長い期間継続す ることで生徒に影響を及ぼすことも考えられるた 5 11 め,同学年の半年後の変化に注目する。 月と 月に示されたアンケート結果では,語彙の内容の 変化が重要だと考えられる。語彙の増加は,学年 が低いほど顕著で,1 年生の増加幅が最も大きく 示されている。内容に関わっては,コンピュータ などのハード的な単語の減少や 「人間の」とい, った単語が増加するという変化が見られた。コン ピュータなどは,生徒にとっては先進的であると の認識がある反面,自分たちに関わりの薄いもの としての捉えられ方もしかねない面がある。情報 科を半年学習することで,情報という存在が自分 達に関わりの薄い機械的なイメージから,身近な 内容,存在,必要性が意識され,既存イメージが 。 , 再構成されたものと考えることができる これは 生徒たちが今まで形成してきたステレオタイプ的 な認識や認知に刺激を与え,揺り動かした結果と いえるものであり,情報科の成果として捉えるこ とが可能である。 また質問に対して, 月の段階では単語表現が5 多数を占めていたものの,その半年後には文章表 現が多用される傾向も見られている。生徒が持っ ていた「情報」という語のイメージや認識に対し て,情報科の学習が思考を広める機会となったこ とを示していると思われる。 (2)各教科における情報との関わり 年度に行ったアンケートの集計の結果か 2009 らは,一定の数値を示す他の項目と比較して,情 報科と学習した教科との関わりについての質問項 目に低い数値が確認された。 情報科で行う単元の内容では,様々に形を変
▼資料8 研究授業後のアンケート えて他教科で活用できる能力の獲得が目指されて いる。それは様々な学習のベースとなる能力と言 える。アンケートからは,情報科のそのような側 面がまだ弱いことが示されたとともに,生徒に教 科の学習と情報科で培った知識や経験,技術につ いて活用の方法や関わりというものが明確に見出 せていない面も想定される。これは,情報科が抱 える課題の一つと言える。 (3)課題と今後 つのアンケートの結果から,情報科の考察を 2 行った。2009 年度の 3年生は,情報科を 3年通 して学習してきた初めての学年である。そのよう な3年生を含めて,生徒に一定の変化や成果が確 認されるその一方で,情報科と各教科の学習との 関わりについて生徒自身だけでは十分に気付けな い,活用しきれない現状が示されたと言える。情 報科の学習は,各教科でも活用できる能力を養う こと意図もあることから,生徒たちが情報科で得 た経験や学習知を他教科で有効に活用し,比較・ 参照して発展させることができる場の設定や学習 面の更なる強化,それを意図した内容の精選が今 後とも必要であると思われる。これらは,現状で も行われているものであるため,引き続いて行う ことで効果を生むものと考えられる。 また,情報科を実践することで教師にも変化 が見られている。例えば,情報科で多様するシン キングツールの有用性が広く理解されたことで, 自らの教科に効果的に用いた実践事例は少なくな い。情報科を担当することが,教科間のつながり の新たな側面が意識されることもあり,それが多 面的な場で活かされることも今後考えられる。 BIWAKO 情 報 科 の 実 践 に お い て , 各 教 科 や との関連を強調した学習では,内容に対す TIME る自発的な生徒の学習意識や関心が高く維持され る場面が多々見られた。そのことから,学習内容 の意味や意義に生徒の意識を向けることの大切さ を意識させることも,今後の情報科に必要である と考えられる。これらが「メタ認知的」な視点に 含まれるならば,メタ認知を盛り込んだ授業研究 は情報科に有意義なものであるとも考えられる。