1
.はじめに
本研究の目的は,地域スポーツ振興の場作りに必要不可欠な公共スポーツ施設における兵庫県 豊岡市の事例と,地域スポーツのネットワーク構築のハブとして活動するスポーツ推進委員の活 動内容から,地域スポーツ振興の展望について考察することである。 まず,我が国のスポーツ施設は,89%(約 19 万施設)を行政が所有しており,その約 3 割が 公共スポーツ施設(53,732 施設),残りの約 7 割が学校体育施設(136,276 施設)であり1),施設 の管理を企業や NPO 法人等の民間組織が担っている割合は,公共スポーツ施設の指定管理者制 度導入割合が 37.9%である2) という現状がある。 2011 年に公布されたスポーツ基本法(第 12 条,13 条)は,学校体育施設と公共スポーツ施設 の運用面での充実の必要性を指摘している。また,2010 年に文部科学省が示したスポーツ立国 戦略3) や内閣府に設置された「新しい公共」円卓会議が作成した「新しい公共」宣言4) では,地スポーツ施設と地域スポーツ振興に関する一考察
―CSR
施設とスポーツ推進委員制度を視点に
―中 嶋 大 輔
足 立 学
〈Summary〉This paper is an analysis of current-day regional sports promotion in Japan from two differing standpoints, namely, the Hyogo Prefecture CSR (corporate social responsibility) Centre, and the work of committees for sports promotion.
First, we examine how through the activities of the CSR Centre, Hyogo Prefecture is able to provide the wider public with opportunities and space for sport and recreation, with the aim of contributing to a mutually beneficial and culturally-rich society. As an example of this project, the prefecture s Tajima Dome, which was constructed as a Culture, Sports and Research facility, is managed by local residents under the coordination of The Tajima Dome Support Team .
Under the national government s Sport Basic Plan, which was formulated from the Ministry for Education, Culture, Sports, Science and Technology s Basic Act on Sport, a system of sports promotion was instigated. This system states as its goal the creation of a regional sports environment in which local residents are the key participants, and takes over from pre-existing systems by clearly shouldering responsibility for regional sports promotion.
Finally, we look at areas in which the support work of local residents at these facilities and the work done by regionally-oriented community sports promotion committees may still encounter difficulties, and conduct a study of future issues in this area.
域スポーツ振興や公共サービスの分野で官民協働を推進することが重要であるとも述べている。 このような動きの背景には,多くの市町村が財政難から地域スポーツ振興に積極的に資源を投 入できず,行政だけの力で学校体育施設と公共スポーツ施設の有効的活用を実現できる市町村は 少なくなってきたという現状があることが考えられる。多くの市町村は有効的活用の実現のため に官民協働を進めることが必要であるが,一方で,官民協働の十分な経験がない市町村が多く, 市民ニーズが高い公共施設を総合型クラブや,その他の民間組織に安易に委託するとフリーライ ダーや市民間のトラブルが発生し,公平性が失われ,市民から不満が出るといった事態が発生す る事も考えられる。 また,地域スポーツのネットワーク構築とスポーツ指導を担うスポーツ推進委員は,1957 年 の文部次官通達により体育指導委員制度として発足し,1961 年に制定された「スポーツ振興法 第 19 条」において,市区町村教育委員会任命の体育指導委員として法的に位置づけられた。体 育指導委員を非常勤の公務員とするこの制度は,世界に例を見ない制度であり,体育指導委員は わずかな財政負担の中で,非常勤公務員という誇りと使命感のもと,ほぼボランティアともいえ る活動を通して,我が国の地域スポーツの拡大と発展に貢献してきた。 2011 年 8 月 24 日に施行されたスポーツ基本法では,改めてスポーツの理念を定め,国及び地 方公共団体の責務やスポーツ団体の努力などについて定めるとともに,体育指導委員は,スポー ツ推進委員として規定されている。その責務としては,新たに「連絡調整等の職務」が加わり, 文字どおり地域スポーツ振興の推進役であるスポーツ推進委員のコーディネーターとしての役割 が一層期待されており,その責務の重要性とともに,活躍の場は今後さらに広がっていくものと 考えられる。
2
.CSR 施設「但馬ドーム」
兵庫県立但馬ドーム(以下「但馬ドーム」と略す)が立地する兵庫県豊岡市は,2005 年 4 月 1 日に兵庫県北東部に位置する 1 市 5 町(豊岡市,城崎町,竹野町,日高町,出石町,但東町)が 合併し誕生した,人口 85,592 人,世帯数 29,741,高齢化率 28.2%の地方都市である。豊岡市は, 全国的に有名な城崎温泉をはじめ,但馬の小京都と呼ばれる出石城下町,西日本屈指の神鍋ス キー場などを有し,年間の観光客は 470 万人以上である。 2 1.CSR 施設 兵庫県では,法人県民税の超過課税を実施し,勤労者をはじめ広く県民の CSR 活動の場と機 会を提供することにより,こころ豊かな生活づくり,生きがいづくりを進め,人間性に満ちあふ れた文化社会を築くことをめざした CSR 事業を展開している。 表 1 に示したように,この事業の一環である CSR 施設として,県内には,会議・研修施設・ 協会分野,文化・スポーツ研修施設分野,自然とふれあう施設分野,会議・研修・宿泊施設分野 という 4 分野で,35 の施設や団体が存在している。法人県民税の超過課税は,自治体の裁量により制限税率がある場合,その制限率まで課税する ことが可能である。近年は環境目的等を理由に,個人・法人の住民税に関わらず,超過課税を 行っている自治体が多い。 兵庫県の超過課税を財源にした CSR 事業では,自由時間が増大し,価値観が多様化・個性化 する中で,知的・情操的生活の豊かさを高める文化,健康の増進に欠かせないスポーツ,精神 的・肉体的疲労の回復に役立つレクリエーション等の活動を通じたこころ豊かな生活づくり,生 きがいづくりを目指しているのである。 2 2.但馬ドーム 但馬ドームは,兵庫県豊岡市日高町という県下有数のスキー場を保有する山間部に,CSR 施 設として 1998 年 10 月 1 日に誕生した。開設以来 15 年を経た現在もなお,90%以上の利用率を 表 1 「兵庫県 CSR 施設概要」 目的 こころ豊かな生活づくり,生きがいづくりを進め,人間性に満ちあふれた文化社会を築く 1)Culture (知的・情操的生活の豊かさを高める文化) 2)Sports (健康の増進に欠かせないスポーツ) 3)Recreation (精神的・肉体的疲労の回復に役立つレクリエーション) 財源 1974年 10 月法人県民税の超過課税 1)税率 5.8%(標準税率 5%,制限税率 6%) 2)中小法人等に対する不均一課税 3) 資本金又は出資金額が 1 億円以下で,かつ,法人税額が年 1,500 万円以下の法人等に ついては,標準税率を適用。 施 設 一 覧 会議・研修施設・ 協会 財団法人兵庫県勤労福祉協会 中央労働センター(神戸市),ひょうご労働図書館(神戸市), 城崎大会議館(豊岡市) 文化・スポーツ・ 研修施設 文化体育館(神戸市),北神戸田園スポーツ公園(神戸市), 尼崎青少年創造劇場(ピッコロシアター)(尼崎市), 平荘湖アクア交流館(加古川市),たつの市青少年館(たつの市), 全天候運動場(養父市),但馬ドーム(豊岡市), 篠山総合スポーツセンター(篠山市),市民交流センター(洲本市) 自然とふれあう施設 フラワーセンター(加西市),いなみ野水辺の里公園(稲美町), 三木山森林公苑(三木市),やしろの森公園(加東市), 日本のへそ日時計の丘公園オートキャンプ場(西脇市), なか・やちよの森公園(多可町),ゆめさきの森公園(姫路市), 兵庫県立大学西はりま天文台施設(佐用町),円山川公苑(豊岡市), 丹波年輪の里(丹波市),香りの公園(淡路市), 国見の森公園(宍粟市),ささやまの森公園(篠山市), 丹波の森公苑(丹波市),淡路ふれあい公園(南あわじ市), 淡路夢舞台公苑温室(淡路市),宝塚西谷の森公園(宝塚市), 淡路ファームパーク・イングランドの丘(南あわじ市) 会議・研修・ 宿泊施設 いこいの村はりま(加西市) 赤穂ハイツ(赤穂市) 新たんば荘(篠山市) 津名ハイツ(淡路市) (出所:兵庫県「CSR の情報」から筆者作成)
確保し,毎年 40 万人を超える利用者が来場している5)。但馬ドームの最大の特徴は,天候に左 右されることがない 14,000m2 の大きな面積を持つ全天候型グラウンドである。利用の用途は, 野球やサッカーなどの競技種目からコンサートやイベントの会場としてなど多種多様である。 特に,但馬ドームが位置する兵庫県北部地域では,冬季の降雪や降雨の多い地域であることか ら,利用者にとってスポーツ活動の機会確保が確実に行える点で魅力のある施設であるといえよ う。これと同様に,イベントなどを主催する事業者にとって,雨天の心配もなく確実に事業開催 できることは,利用価値の高い施設であるとの評価に繋がり,年間 55 回に及ぶイベントが開催 されている。 この施設の運営管理は,財団法人兵庫県勤労福祉協会と兵庫県産業労働部と旧日高町役場(現 豊岡市役所)の 15 名の職員より組織構成され,試行錯誤を繰り返しながら行われてきたが,平 成 15 年の行政改革によって進められた指定管理者制度を但馬ドームでも採用した。現在では, 指定管理者グループ6) の一つである兵庫県勤労福祉協会の職員のみで直接的な管理運営がなされ ている。開設当初から管理団体が変更されることなく,多くの利用者に愛される施設として存在 する為の運営努力は,表 2 に示したような利用促進事業に表れており,体育施設管理団体との違 いを明確にした特殊な運営方法の構築に繋がっていった。 但馬ドームのグラウンドは甲子園球場と同面積であり,雨天を気にすることのない全天候型 (屋内)グラウンドである。ところが,その規模の大きさから一般利用者には,大規模なイベン トやスポーツ大会での利用しか想像できず,そのような利用形態だけでは,休日・祝祭日のみの 利用しか見込めず,利用率が著しく下がってしまう可能性があった。 多くの公共スポーツ施設における課題の一つは,利用率である。そのため,平日の利用率を向 上させる手立てにあり,その利用者となるターゲット層は,平日にスポーツ活動が出来る高齢者 や個人利用者である。その利用者の固定概念を打破するためには,地域住民や県民に個人でも小 集団グループなどでも安価で利用できる方法を知らせる必要があった。そこで,但馬ドームでは, 2つの特徴的な運営手法を用いたのである。 表 2 「但馬ドームの利用促進事業」 無料開放日 グラウンド 甲子園と同規模のグラウンドを,但馬地域のスポーツ団体や近隣の自治会へ運動会や研修会,スポーツ大会など に無料(1 回)で貸出。 個人利用 ミーティングルーム トレーニング器具の設置により,個人顧客の取り込みと広報活動の機会を創出。 グラウンド ジョギング・ウォーキング愛好者に雨天時でも運動ができることを広報。 インラインスケートパーク 利用者のニーズに対応し,フリースペースに新設。 専用利用 グラウンド 夜間や雨天時に照明を無料で点灯し,野球やサッカー愛好者へ自主練習の場としても解放し,分割利用に発展。 (出所:兵庫県立但馬ドーム企画課主任:飯田徳子氏からのヒヤリングをもとに筆者作成)
まず,オープン前に「無料開放日」を設定し,但馬地域のスポーツ団体や近隣の自治会へ運動 会や研修会,スポーツ大会などを無料で利用をさせることを試みた。それによって,利用形態に 応じた経費の試算を行い,利用者である個人や団体に対して施設利用経費の提示による可視化と, スポーツ備品や机・椅子・音響などの備品使用も含んだ利用料金の提示を行うことで使いやすさ をアピールしたのである。 次に,表 3 に示したように,兵庫県が作成した但馬ドームの基本運営方針の 3 本柱が設定され, その中の「住民参画」に関するシステム構築を重点的に行なったことである。この運営方針では 住民参画を,地域住民が施設の実施するイベントに企画段階から参加し,発言権を持ってイベン トや事業に携わることであると捉えている。 2 3.「但馬ドーム応援隊」 このような基本運営方針によって但馬ドームでは,県市町村広報誌の紙面を用いて,地域住民 に向けたイベントへの参加や管理面での協力者を募集した。「但馬ドーム応援隊」と名付けられ たこの組織の概要を表 4 に示しているが,募集時の特徴としては,個人の得意技能(専門競技の 大会運営に長けた人材,測量を専門とした職業の人,婦人会などを動員できる人材,イベントの 企画立案に長けた人材など)によるボランティアとして但馬ドームの運営に協力できる人材を募 集したのである。 この応援隊は,結成から徐々に会員を増やし,今日では約 100 名の応援隊が集まっており,そ の事業規模は,競技スポーツの全国大会や音楽イベント,また魅力あるイベントなどの多彩な事 業を職員と共に運営しているのである。 表 3 「但馬ドーム基本運営方針」 基本方針 豊かな自然の中で,広大な空間を活用することにより,勤労者をはじめ広 く県民・市民の文化・スポーツ・レクリエーション活動の振興並びに地域間 交流の促進を図るために設置され,この設置理念に基づき,スポーツ大会や 地域交流イベント,文化活動等に活用し,県民・市民の信頼に応え,利用者 が満足できるよう適正な管理運営を行なう。 施設の維持管理方針 管理基準書をもとに,施設の特性を考慮し,より質の高い維持管理が保て るよう,必要かつ適正な管理を行わなければならない。施設や設備について は,利用者が快適かつ安全に利用できるよう常に清潔に保ち,また,機能を 正常に保持するために,適正な管理と保守点検を行わなければならない。 施設の運営管理方針 利用者の満足度を高め,その期待に応えるため,常に利用者の声を聴取し, 反映できるものは積極的に取り入れる必要がある。特に,有料施設について は,利用者に対して平等かつ公正な態度で運営を行わなければならない。ま た,施設の運営にあたっては,周4 辺施設及び地元をはじめとした関係団体等4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 との連携に4 4 4 4 4配慮しつつ4 4 4 4 4,住民の参画を促進して地域の交流や振興に努めなけ4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 ればならない4 4 4 4 4 4 。さらに,危機管理体制や,防犯体制の整備など,利用者の安 全確保や防災対策にも十分に配慮するとともに,環境対策にも取り組むこと が求められる。 (出所:兵庫県立但馬ドーム管理運営方針から抜粋し筆者加筆)
但馬ドームは,日本初の屋根と壁が一体式となった開閉式ドームであることから,魅力的な施 設とその運営組織の一員としての特別な存在である優越感を得るという動機が応援隊への参加動 機の一因であろう。しかし,飯田氏7) によれば,「但馬ドームの所在地である日高地区 17,242 人8) の住民の中から約 100 名の住民が応援隊に所属することにより,但馬ドームの運営スタッフ の一員であるという帰属意識と,イベントや事業をやり遂げた際に得られる達成感や住民間での 新たな団結の芽生えがみられ,応援隊が各事業で着用するユニフォームに憧れる子ども達も存在 している。」という。このように,応援隊に参加する住民の中には,施設への愛着と事業運営へ の協働の姿が窺い知れるのである。
3
.スポーツ推進委員
我が国における地域スポーツは,前述した但馬ドームのような地方自治体が所有する公共ス ポーツ施設と,公立教育機関のスポーツ施設をその場として展開され,1960 年代後半以降が拡 大期であったといえる。その後の「学校体育施設開放事業9)」をハード面の整備として,ソフト 面の充実を体育指導員という制度が担ってきたのである。この体育指導員制度は,スポーツ基本 法の策定と同時にスポーツ推進委員制度に名称を変更したが,その役割に大きな変化はみられな い。 3 1.法的根拠 スポーツ推進委員は,1957 年の文部次官通達により体育指導委員制度として発足し,1961 年 に制定されたスポーツ振興法第 19 条において,市区町村教育委員会任命の体育指導委員として 法的に位置づけられた。このスポーツ振興法を 50 年ぶりに全面改正し,2011 年 8 月 24 日に施 行されたスポーツ基本法では,第 32 条にスポーツ推進委員として名称変更が行なわれたが,こ 表 4 「但馬ドーム応援隊組織概略」 設立年月日 平成 10 年 10 月 1 日 設立目的 但馬ドームを地域住民と一体となって運営し,多くの人々の交流の場とする。 募集方法 地方自治体「広報誌」 募集内容 ・専門競技の大会運営に長けた人材 ・測量や建設業に従事している人材 ・婦人会などのリーダー的人材 ・イベントの企画立案に長けた人材 活動内容 個人の得意技能を活かし,但馬ドームの主催する事業へのスタッフ参加。応援隊独自 の自主事業の企画・運営・開催。 会 員 数 約 100 名(県外居住者を含む) 会 費 1,000円/年 事務費及び応援隊主催イベント経費 事 務 局 但馬ドーム内に設置,事務局員は但馬ドームの職員。 会員と職員とが密接に連絡の取れる体制をとっている。 (出所:但馬ドーム職員ヒヤリングと応援隊会則から筆者作成)れに関する条文を対比させた表 5 に示した通り,その責務は大きく変更されたわけではない。 3 2.社会背景 戦後,我が国においては,オリンピックでのメダル獲得を目標とする競技力向上に向けたス ポーツ行政がなされてきた10)。図 1 に示したように,厨ら11) によると,我が国において人々の生 表 5 「スポーツ振興法とスポーツ基本法の対比(スポーツ推進委員関係)」 スポーツ振興法(1961 年∼ ) スポーツ基本法(2011 年∼ ) 第 19 条 市町村の教育委員会(特定地方公共団 体にあつては,その長)は,社会的信 望があり,スポーツに関する深い関心 と理解を持ち,及び次項に規定する職 務を行うのに必要な熱意と能力を持つ 者の中から,体育指導委員を委嘱する ものとする。 第 32 条 市町村の教育委員会(特定地方公共団 体にあつては,その長)は,当該市町 村におけるスポーツの推進に係る体制 の整備を図るため,社会的信望があり, スポーツに関する深い関心と理解を有 し,及び次項に規定する職務を行うの に必要な熱意と能力を持つ者の中から, スポーツ推進委員を委嘱するものとす る。 第 19 条 2 体育指導委員は,教育委員会規則(特定地方公共団体にあつては,地方公共 団体の規則)の定めるところにより, 当該市町村におけるスポーツの振興の ため,住民に対し,スポーツの実技の 指導その他スポーツに関する指導及び 助言を行うものとする。 第 32 条 2 スポーツ推進委員は,当該市町村におけるスポーツの推進のため,教育委員 会規則(特定地方公共団体にあつては, 地方公共団体の規則)の定めるところ により,スポーツの推進のための事業 の実施に係る連絡調整並びに住民に対 するスポーツの実技の指導その他ス ポーツに関する指導及び助言を行うも のとする。 第 19 条 3 体育指導委員は,非常勤とする。 第 32 条3 スポーツ推進委員は,非常勤とする。 (出所:文部科学省「スポーツ振興法」及び「スポーツ基本法」から筆者作成) 図 1 「地域スポーツのタイプとその変遷」 (出典:厨義弘・大谷善博編著『地域スポーツの創造と展開』12))
活にスポーツが結びついて登場しはじめたのは 1950 年代の後半からであるという。1957 年には 体育指導委員の配置が行なわれ,1961 年になるとスポーツ振興法が制定され,行政施策として のスポーツ行事への住民の「かり出し」が始まるのである。そこでは,住民の行事参加への多少 でスポーツの振興レベルを評価していたという。その後は,婦人スポーツや少年スポーツの振興 を中心にして地域スポーツ人口を増加させることになるのであるが,その結果,それらの種目の 競技会レベルや範囲が変容し,それらの団体は技術高位者だけの閉鎖的集団に変質していったと いう。 一方,この年代には,世界的潮流に影響を受けた「みんなのスポーツ」振興政策により,「コ ミュニティ・スポーツ施設整備計画」が作成され,施設づくりや指導者養成などの環境整備も行 なわれている。ただし,これも依然として,いわゆる「お上からのスポーツ振興」であった面は 否めない。 1970 年代後半を迎えると,人々のスポーツ・レクリエーション活動への欲求に公的施設だけ では対応できなくなり,スポーツや文化面へのサービス産業の浸透が始まるのである。そして, 1980年代には,スポーツ,文化活動,趣味娯楽などを中心に,生活の質の向上や自己実現,あ るいは公共的な価値の実現もそれらに付加しながら,それらの活動を「地域づくり」や「まちづ くり」に繋いでいこうとする新しいタイプの活動が登場するのである。 他方,社会体育の振興については,社会教育法13) が 1949 年に施行されたが,それによる大き な成果を上げられなかった。ただ,スポーツの競技力向上による国のプレゼンスを高める作用と ともに,この当時のコミュニティ問題への有効性が各省庁から認められるようにはなるのである。 そして,この動向は,1973 年に経済企画庁14) から発表される「経済社会基本計画」15) において, 「日常生活域におけるスポーツ活動が地域住民相互の接触を深め,新しい時代に合致したコミュ ニティ活動の場の形成に貢献する16)」としてコミュニティ・スポーツ17) の振興への期待として論 じられることとなるのである。さらに,1974 年には「コミュニティ・スポーツ施設整備計画調 査報告書」18) が,文部・厚生・労働・自治・建設・経済企画の 6 省庁や地方自治体の協力のもと にまとめられ,そこでは,コミュニティ・スポーツの環境整備の主体が市町村であり,国はその ための基準の明示と補助金による支援をなすとの提言がなされた。ところが,各省庁によって計 画立案されたとしても継続した政策を推進するための担当部署が存在せず,そのため,このコ ミュニティ・スポーツ政策は頓挫するのである。 このような中で,スポーツ振興法に基づく体育指導員制度は,地方自治体におけるスポーツの 推進に係る体制の整備を図るため,教育委員会がスポーツに関する深い関心と理解を持ち,ス ポーツ推進を図ることへの熱意と能力を持つ地域住民に非常勤公務員として委嘱し,生涯学習の 観点から地域住民へのスポーツ教室や各種大会などを提供する人材確保に努め,今日では,ス ポーツ基本法の制定と共に,その名称をスポーツ推進委員に変更したものの脈々と地域に根付い ているのである。
3 3.責務と委員数 スポーツ推進委員は,前述したように大幅な変更点は無いものの,「スポーツ推進に係わる体 制の整備を図る」,「事業の実施に係わる連絡調整」を行なうことが責務に加えられており,ス ポーツの実技指導や,その他の指導・助言を行なうことのできる地域住民の中から人選され,地 方自治体の教育委員会から委嘱を受けた非常勤公務員である19)。 例えば,京都府の中央部に位置する南丹市は,近隣の 4 町が合併し誕生した中山間部の地方都 市であるが,スポーツ推進委員会が組織され,生涯スポーツの振興を目的に,誰もが手軽にでき るニュースポーツの普及に重点を置き活動を進めるため,25 名のスポーツ推進委員が 4 ブロッ ク(旧 4 町単位)に分かれて配置され,スポーツ推進に向けた事業や研修会を実施している。こ のようなスポーツ推進委員の活動内容を表 5 に示した。 全国的な動向では,図 2 に示したように,1985 年には 3,253 の市町村が存在していたが,「平 成の大合併」と呼ばれた市町村の合併によって,2011 年には 1,724 まで減少をみせている。 表 6 「スポーツ推進委員の活動(例)」 会 議 等 定例会(1/月),広報委員会・研修委員会・普及委員会・役員会 普及活動 ニュースポーツを楽しむ日(1/月),おもしろスポーツ体験(巡回スポーツ教室) 指導員派遣 聴覚障害者成人講座ニュースポーツ体験,わくわくキッズ,ペタンク教室,丹波支援学校サマースクール,フロアカーリング教室,屋内ニュースポーツ講習会 運営協力 駅伝競走大会,スポーツフェスティバル,子どもスポーツ大会,ワンデーマーチ 研 修 女性体育指導委員研修会(インドアホッケー),指導委員研修会(ドッヂビー) そ の 他 全国・近畿・京都府研究協議会参加,他市との交流会,広報誌発行(2/年) (出所:南丹市教育委員会ヒヤリングから筆者作成) 図 2 「市町村数とスポーツ推進委因数の推移」 (出所:公益社団法人全国スポーツ推進委員連合資料より筆者作成)
このような中,スポーツ推進委員の総数は,1985 年当時の 55,570 名から 2011 年 6 月時点の調 査報告によると 52,531 名となっており,市町村合併が実施されつつも,これに比例する定数の 極端な減少には繋がっていない。また,スポーツ推進委員数における女性比率は,1985 年の 13.7%から 2011 年では 30.4%まで上昇しており,地域スポーツ振興における担い手としての期 待が窺い知れる結果となっている。これらは,地方自治体が厳しい財政状況の中でも地域スポー ツ振興を軽視せず,可能な範囲での支援を行なっている結果といえよう。
4
.考 察
地域スポーツの振興に係わる公的スポーツ施設とスポーツ推進委員について,その動向を事例 と共に概観してきた。一見すれば,地域と共存している両者であるが,課題や危機感が無い訳で はない。 4 1.指定管理者制度の課題 但馬ドームのような大規模公共施設では,指定管理者制度20) が採用されており,その制度設 計の多くが自治体に委ねられているという特色を持っている。この制度を採用する見方はさまざ まであり,中央政府は規制緩和と地方行政改革の推進,財界は規制緩和による「官製市場」の開 放,民間事業者はビジネスチャンスとしての「官製市場」への新規参入,自治体はコスト削減と サービスの向上といった具合に,それぞれ異なる利益の実現を目指している現状は,同床異夢の 状況にあるといえよう。 公の施設の概念を現行においては,「住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するた めの施設21)」と定義されており,施設の規模の大小を問わず,一括りに「公の施設」となってい る。指定管理者制度を導入するにあたって,自治体は,公募・非公募のいずれかによって指定管 理者を選定することになる。これについて,総務省は,「指定の申請に当たっては,複数の申請 者に事業計画を提出させること」として,公募を原則とすることが望ましい旨を通知している。 但馬ドームの場合は,財団法人兵庫県勤労福祉協会を中心とした 4 社がグループを形成し, 2017年 3 月までの指定管理者として契約(5 年間)されている。この管理者が採用している職員 と豊岡市の職員が発起人となり結成された但馬ドーム応援隊の存続は,5 年毎に迎える契約申請 の是非によって左右されるのである。 福祉施設や教育・文化施設など,地域住民および施設利用者と施設管理団体・職員との間の信 頼関係や協働関係の構築がとりわけ重要であると考えられる施設では,指定管理者制度の導入の 可否,公募の可否,指定期間,評価手法・評価指標などについて,地域住民や施設利用者の参画 のもと,そのあり方について検討し,決定する必要があろう。 4 2.スポーツ推進委員の課題 スポーツ推進委員における課題としては,まず,人材確保と委嘱のあり方が挙げられる。全国的にスポーツ推進委員の数が減少傾向をみせており,その原因としては,行政での予算額の減少, また,地域住民のスポーツ活動に対する多様なニーズに必ずしも合致した事業展開が行なわれて いない,あるいは名誉職的なスポーツ推進委員の存在が必要性を感じなくさせている,という多 面的な要素が挙げられよう。 全国都道府県主管課長協議会が各都道府県スポーツ推進委員会事務局に向けて実施した調 査22) によると,会長の平均年齢は 68.5 歳であり,最年少は 54 歳,最高齢は 83 歳であった。そ して,スポーツ推進委員の平均年齢は 51.1 歳であり,この平均年齢が最も若い県では 43.2 歳, 逆に最も高齢であった県では 60 歳という結果になっている。 今後,スポーツ推進委員は,今まで以上に計画立案にかかわるコーディネーター役を担わなけ ればならず,従来のスポーツ推進委員の組織の中に高度な専門性を持った指導者を置き,国が育 成して配置する制度設計の必要があるだろう。さらに,委嘱する際には,コーディネーター役に 対応できる適任者を委嘱可能な選任システム,選考できるシステムを作ることが必要である。 また,スポーツ推進委員は,現在,文部科学省が施策展開している総合型地域スポーツクラブ への係わりも重要である。行政,学校体育,スポーツ少年団活動,競技スポーツ団体,体育協会, 総合型地域スポーツクラブ等と充分な連携を図り,スポーツ推進委員がコーディネートしていく 必要がある。なぜなら,スポーツ推進委員は,地域住民から人望があり,その地域への貢献度も 高いからであり,総合型地域スポーツクラブは,様々な関係団体が協力して立ち上げなければな らないからである。このような地域スポーツの振興に係わる企画から参加できるスポーツ推進委 員からの要望に対し,地方自治体は,財源措置を行ない対応できるようにすることも必要となる だろう。
5
.おわりに
本小論は,地域スポーツ振興の場作りに必要不可欠な公共スポーツ施設における兵庫県豊岡市 の事例と,地域スポーツのネットワーク構築のハブとして活動するスポーツ推進委員の活動内容 から,地域スポーツ振興の展望について考察してきた。 その結果,これらには,様々な課題が存在しつつも地域スポーツの振興や地域コミュニティ形 成の一翼を担う存在であることを指摘してきた。しかし、地域スポーツ振興の拠点となる公的ス ポーツ施設と,地域事情を最も理解しているスポーツ推進委員の連携に関しては,良好な状態を 構築している地方自治体が決して多くない現状の存在にまで言及できていない。 今後は,この課題と共に,地域における障がい者スポーツの現状把握と課題解決に向けた研究 を行ない,スポーツ・フォー・オールの理念を実現するための一助としたい。注
1) 文部科学省「平成 20 年度体育・スポーツ施設現況調査結果の概要」2008 年. 2) 清水紀宏「総合型地域スポーツクラブと学校体育施設開放事業」日本体育・スポーツ経営学会 編 大修館 2002 年.pp 59 67. 3) 文部科学省「スポーツ立国戦略」2010 年. 4) 内閣府「「新しい公共」宣言」2010 年. 5) 平成 23 年度兵庫県立但馬ドーム要覧 2012 年 5 月. 6) 財団法人兵庫県勤労福祉協会,全但バス株式会社,神姫バス株式会社,日本管財株式会社。 7) 飯田徳子氏,兵庫県立但馬ドーム企画課主任(但馬ドーム応援隊前事務局) 8) 平成 22 年度国勢調査. 9) 文部事務次官通知「学校体育施設開放事業の推進について(各都道府県教育委員会宛)」1976 年 6 月 26 日. 10) 日本体育・学校健康センター編著『スポーツ振興くじ制度の創設と展開』ぎょうせい 2002 年 pp 2 7. 我が国のスポーツ行政は,オリンピックでのメダル獲得を目指した強化政策が第一目標である。 そのため,文部科学省が 1990 年に設立したスポーツ振興基金では,選手の競技力向上を図る ことに重きを置いているため,生涯スポーツ振興の実現は助成の対象になっていない。 11) 厨義弘・大谷善博編著『地域スポーツの創造と展開』大修館書店 1999 年 pp 15 19. 12) 同書 pp 15. 13) 社会教育法 http://www.houko.com/00/01/S24/207.HTM#s1(2012 年 7 月 26 日閲覧) 14) 中央省庁再編の実施に伴い総理府本府,沖縄開発庁などと統合され内閣府が発足,経済企画庁 の業務は内閣府政策統括官,内閣府国民生活局などに承継.2001 年 1 月 6 日. 15) 関春南『戦後日本のスポーツ政策』大修館書店 1988 年 pp 211. 16) 中山正吉『地域のスポーツと政策』大学教育出版 2000 年 pp 39. 17) 三好喬監修『現代コミュニティ・スポーツ論』ぎょうせい 1991 年 pp 9. 「コミュニティ・スポーツとは,社会体育を含む地域社会のスポーツである.」 18) 関 前掲書 pp 212. 19) 南丹市教育委員会ヒヤリング(社会教育課社会体育係長前田厚氏)2012 年 6 月 15 日. 20) 2003 年の地方自治法改正による.「多様化する住民ニーズにより効果的,効率的に対応するた め,公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ,住民サービスの向上を図るとともに,経費の 節減等を図ること」を目的としている. 21) 地方自治法第 244 条第 1 項. 22) 全国都道府県主管課長協議会「スポーツ推進委員に関するアンケート」2011 年.参考文献
清水紀宏総合型地域スポーツクラブと学校体育施設開放事業.日本体育・スポーツ経営学会編 テキスト総合型地域スポーツクラブ 大修館書店 2002 年. 関 春南『戦後日本のスポーツ政策』大修館書店 1988 年. 厨 義弘・大谷善博編著『地域スポーツの創造と展開』大修館書店 1999 年. 中山正吉『地域のスポーツと政策』大学教育出版 2000 年. 日本体育・学校健康センター編著『スポーツ振興くじ制度の創設と展開』ぎょうせい 2002 年. 三好喬監修『現代コミュニティ・スポーツ論』ぎょうせい 1991 年.文部科学省「平成 20 年度体育・スポーツ施設現況調査結果の概要」2008 年. 文部科学省「スポーツ立国戦略」2010 年. 文部事務次官通知「学校体育施設開放事業の推進について(各都道府県教育委員会宛)」1976 年 6 月 26 日. 間野義之『公共スポーツ施設のマネジメント』体育施設出版 2007 年. 公益社団法人全国スポーツ推進委員連合資料「スポーツ推進委員の推移」 平成 22 年度国勢調査. 内閣府「「新しい公共」宣言」2010 年. 兵庫県ホームページ「CSR 施設の情報」http://web.pref.hyogo.jp/ie10/ie10_000000045.html 兵庫県立但馬ドーム要覧 2012 年 5 月. 飯田徳子氏ヒヤリング,兵庫県立但馬ドーム企画課主任(但馬ドーム応援隊前事務局) 南丹市教育委員会ヒヤリング(社会教育課社会体育係長前田厚氏)2012 年 6 月 15 日. 全国都道府県主管課長協議会「スポーツ推進委員に関するアンケート」2011 年.