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乳児に対するほめ行動と母親の子育てにおける態度との関連ー子育て中の母親を対象とした一事例からの考察ー

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Academic year: 2021

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乳児に対するほめ行動と母親の子育てにおける態度との関連

──子育て中の母親を対象とした一事例からの考察──

堀   由 里

The Relationship between Praise for Infant and Mother’s Attitude for Nurturing Child

—Single Case Study̶

Yuri H

ORI 問題と目的  近年、子どもをほめられない、一緒に遊べない親がいる。NHK 教育「すくすく子育て」に おいても、子どもとの過ごし方・関わり方への悩みを持つ保護者が多いことがわかる。「赤ちゃ んと2人きり どう過ごす?」(2018/12/22放送日)においても、 私は子どもへの声かけが苦手 です。マイペースな性格で、子どものテンションに合わせて「わ∼、すごいね!」と言ったり できません。どう声をかけたら子どもが楽しいのかわからず、気の利いた言葉があまり出てき ません。そのため、娘と2人で過ごすときは、どうしても静かな時間が長くなってしまいます。 子育て支援センターに出かけると、声かけが上手なママを見かけます。擬音を使ったり、褒め てあげたり。そんなママたちと比べると、私はできていないなと悩んでしまいます。(NHK エデュケーショナル、2018)という切実な悩みも放映された。実際、そのお母さんの関わり映 像を見ると、テンションの低さや言葉の少なさ、状況を楽しめていない様子が伝わってきた。 また、久保山他(2009)の保育者を対象とした「気になる保護者」の調査においては、「子ど もとの関わり方がわからない」、「子どもに指示ばかりして待ってあげない」、「子どもに手を貸 しすぎる」、「自分の子どもがよい子でなければ認められない」、「自分の都合やペースで子ども をふりまわす」など、子どもの見方、関わり方の点など多岐にわたる視点が挙げられている。  子どもをほめ育てることは肯定的で望ましいという考えは広く一般化されている。にもかか わらず、ほめることが苦手な保護者、保育者、教育者も少なくない。世間では、ほめ方のトレー ニングをするなど行動面にフォーカスをあてている介入が多々あるが、実際は、ほめまでの心 理的過程や関連要因を詳細に検討しなければいけないと考える。ほめの認知的過程や感情的過 程を知るため、本研究では子育て中の母親を対象に、子どもをほめることやそれに関する態度 等を調査することで、ほめの心理的過程を探索的に検討することを目的とする。

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方法 調査対象者と時期  縁故法により、東海地方に住む30代の女性1名を対象に2018年5月にインタビュー調査を 実施した。夫婦ともに別地域の出身で、核家族として1歳半の娘の育児中で、第2子の妊娠中 である。夫は教育職につき裁量労働の環境にあり、妻は結婚と同時に仕事を辞め専業主婦をし ている。里帰り出産後は、母親が中心となって育児をしており、児童館や園庭開放の利用はあ るものの、保育園には預けていない状況である。  尚、調査対象者には、事前に研究の趣旨、個人情報の保護等の説明をし、同意を得ている。 調査方法  インタビュー調査は50分程度の半構造化面接を実施した。具体的には以下のようなテーマ を提示し、対象者に自由に語ってもらった。主なテーマは、①子育ての中で自分はどんな母親 か、②育児方針、③子どもをほめるのはどのような時か、④自分自身の性格、についてであっ た。 結果と考察  調査対象者から録音の許可が得られたため IC レコーダーで記録した。録音したインタビュー 内容を逐語化し、心理学を専門とする大学教員2名で協議しながら被調査者のほめや育児への 態度を分析した。その結果、「家庭内におけるほめ行動」、「子育てへの基本姿勢」、「社会的場 面におけるほめへの葛藤」、「個人特性」、「母親役割への過剰反応」、「理想と現実のギャップ」、 「母親役割に対するストレス反応」、「上手なあきらめ」、「子どもの発達と子育てにおける余裕」 という9つの観点でまとめることができた。 家庭内におけるほめ行動  まず、子どもをほめるのはどのような時かという質問において、家族内でのほめることに関 する以下のような語りが得られた。  「簡単にほめちゃいます、何でも。普通に。」  「割とすぐほめます。」  「(ほめることに躊躇いは)あんまりないですね、何でも積極的に。」  これらの語りから、家庭内においては、ほめることは比較的容易に行われており、母親自身 にとってほめることは自然な態度として認識されていると考えられる。また、今回の被調査者 は、子育ての中で子どもをほめることは即時的で頻繁に行っているということがわかった。  また、具体的なほめ内容に関しては以下のような発言が得られた。

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 「食べたね、よかったね、とか、書けたね、とか。」  「例えば麦茶持って来てって言って、持って来ると、分かったんだね、えらいねって。」  「最近は、言ったことが分かるので、その通り動けたりとか、おぉすごいねって思います。」  「自分で食べてくれるとか、食べようとか意欲も持ってくれたりすると。」  「テレビとか、 おかあさんといっしょ とか、真似が上手になってきたのも。」  「教えていないのにできるようになっていると。」  これらのことから、ほめる内容としては、できたこと、できるようになったこと、理解して くれたこと、意欲があることが挙げられている。堀(2018)の元保育者・保育者養成課程学生 を対象としたほめの調査において、「達成・上達」、「自発・努力」、「向社会的」、「承認」とい うほめの観点が抽出されている。被調査者の母親も、 書けたね といった子どもの「達成・ 上達」の観点、 自分で食べてくれる といった「自発・努力」の観点がみられた。一方、「向 社会的」という観点からのほめが得られなかったことについては、被調査者の子どもはまだ保 育園等の集団には入っておらず、かつ第2子妊娠中ということで外出も少なくなっている状況 であるため、他児とのふれあい場面も少なく、「向社会的」行動を子どもがとる機会が少なかっ たことが一因であると考えられる。また、「承認」という観点からのほめが少なかったことに ついては、「承認」という観点そのものが保育・教育に長年携わった熟達者から得られたもの であることから、第1子子育て中の母親においては、ほめるポイントとして認識されにくい観 点であると考えられる。  さらに、ほめる際に意識していることとして、「基本的にちょっとしたことでも、できたら ほめるし、それを積み重ねたいなって。」という発言があり、子どもにとって小さなほめられ る体験の積み重ねが重要であるとの認識を母親が持っていることが示された。子どもにとって ほめられる経験は、結果が適切であるということの確認や存在価値の肯定につながるため(高 崎、2002)、被調査者のほめを積み重ねようとする意識は、子ども自身の存在価値や行動の確認・ 肯定につながる意図からなされていると考えられる。これは次にとりあげる「子育てへの基本 姿勢」へも通じることであろう。 子育てへの基本姿勢  育児方針に関する質問において、子育てそのものに対する被調査者の基本姿勢が語られた。 それらは主に、どのような大人になってほしいのか、またその為に具体的に意識している関わ り方についての語りであったため、「子育てへの基本姿勢」という観点でまとめることができた。  まず、どのような大人になってほしいのかについては、以下のような語りが得られた。  「とりあえず生き抜く力をつけてほしい。」  「学力的にどうとかではなく、生き延びる力というか。」  「自分でやりたいこと、やりたい道に進む元気のある子になってほしい。」

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 「自分でやりたいことを見つけてくれる子になってくれれば何でもいい。」  これらの語りから、母親は子どもの生きる力を重視し、元気で自分のやりたいことを見つけ る点を重視していることが示された。このことは、学力などの特定の能力よりも、将来社会生 活を送る上での総合的な力を身につけることを望んでおり、なおかつ、他者との比較ではなく、 子ども自身の自己実現を重要視していると言える。  近年、保育・幼児教育の現場では、学力や IQ などの認知能力よりも、目標に向かって頑張 る力や他者とうまく関わる力などの非認知能力が注目され、指針や要領の改訂につながってい る。今回の被調査者は保育や幼児教育に携わってはいないが、一般的な社会的基準よりも、子 どもの個性を重視し、子ども独自の幸福感を得ること望んでいると考えられる。特に、変化が 激しく、価値観が多様化した時代に生まれてきた中で、生き抜く力や、自分自身の在り方は、 子どもの成長において、母親が重要視しやすいポイントであると推察される。  また、子育てにおいては以下のように、子どものやりたいことを尊重したり、子どもの気持 ちや意志を言語化して返したりすることを意識して実践していることがうかがわれた。  「心掛け的には、なるべく強制しないっていうか。」  「キーってなった時も、こうしたかったのね、って聞くようにしてます。」  「したいことをさせてあげてるし、それができないときにはそうしたかったのね、って言う ようにはしています。」  これらは、自分で考え自分で行動するような生き抜く力をもった大人になってほしいという 願いや、自分でやりたいことを見つられるようにという思いから、乳幼児期の今も子どもの主 体性を重視するという意図からなされていると考えられる。 社会的場面におけるほめへの葛藤  子どもをほめる時はどのような時かという質問から、社会場面においては、ほめることの難 しさや抵抗を感じていることを示唆する以下のような語りが得られた。  「人前はちょっと抵抗があるかも。家の中だと いぇーい! って感じだけど、外だと 出 来たの ってトーンが下がる。」  「ちょっと恥ずかしいし、私の照れが。」  「かわいいね、かわいいね、もあんまり外では言えない。」  「うちのダメです……みたいな、下げちゃうところがある。」  「人前で躊躇なく、かわいいかわいいってしているお母さんがいると、そこまではできない かなって。」  「 出来たねー、すごいねー くらいはするけど、他のお子さんをほめちゃう。」

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 「(他児と玩具の取り合いがあったら)理想としては、その場の様子を見てなんだけど、母親 になっちゃうと、あらら……て、すぐひかせちゃう。他の子に譲る。すぐにひかせちゃう。」  人前では抵抗がある、恥ずかしい、自分の子どもを下げる、という語りは、「社会的場面に おけるほめるへの葛藤」という観点でまとめることができた。家の中では躊躇なく子どもをほ めることができていた今回の被調査者でも、社会的場面になると、オーバーリアクションでほ めたり、かわいがることにためらいがでてしまうと考えられる。  更には、他児との玩具の取り合い場面などでは、自分の子どもをひかせる、我慢させて、他 児に譲るというような発言も見られた。山田(2010)も「最近は公園などで子ども同士のトラ ブルが発生した時に、親が相手の親の顔色をうかがいつつ、まずは自分の子どもに我慢をさせ る場合が多いと聞きます」と述べているように、今回の被調査者も、他児、他児の保護者との 社会的相互作用場面での一種の気遣い、遠慮がうかがえる。これらは、子どもがしたいことを させてあげたい、強制しない、という子育ての基本姿勢とは逆の働きかけをしているという点 で特徴的である。 個人特性  自分自身の性格についての質問に対して、被調査者自身の性格をどのように認識しているの かについて、以下のような語りが得られた。  「いい顔しぃ、年取ってきたらだんだんなくなってきたけど。」  「思いついたらガーっとやる。一つのことしかできないっていうか、あれこれ同時には苦手。 一つのことに一生懸命になるのはいいんだけど、あんまり調整せずにやっちゃう。」  「(子育ても)これしかできないって感じ。働きながらって難しい気がする。」  いい顔しぃ、つまり他者に対して良い印象を与えたがったり、一つのことだけに集中してし まうなど、被調査者のもともと持っている性格についての語りから「個人特性」という観点で まとめることができた。他者に対して良い印象を与えたがる傾向は、過剰適応的な傾向を示す ものと言える。このような傾向の高さは、他者との相互作用場面において他者評価を常に意識 して行動してしまうことにつながり、結果、人前で子どもをほめること・かわいがることを抑 制していると考えられる。このことは、先述のような、社会場面においては、被調査者の子育 ての基本姿勢である子どもの主体性を重視し、強要しないという行動に蓋をしてしまうことと も関連していると推察される。 母親役割への過剰反応  母親になったことで自分自身の性格が変化したかという質問に対して、被調査者自身の認識 について、以下のような語りが得られた。

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 「(子どもができて)甘えられなくなった。自分の感情を素直に出せなくなった。」  「この子の前で、どっかずっとアンテナが張ってるというか、気が張ってるっていうか。」  「泣けない。泣かないって決めているわけじゃないんですけど、泣けない。悲しんだりとかも。」  「(親戚の不幸があっても)この子いるから、悲しいけど、ちょっと気張ってる。」  「どっかモードが違う。私になれないっている。どっかいつも私は母親っていう。」  「母親っていつも思っているつもりはないんですけど、たぶんどこかいつも気張ってるんだ ろうな。」  甘えられない、感情を素直に出せない、泣けない、気を張る、という語りから「母親役割へ の過剰反応」という観点でまとめることができた。第1子ということから、母親という役割を 非常に強く意識していることが推察される。また、慣れない土地で、核家族として子育てをし ていく中では、ソーシャル・サポートの少なさの影響もうかがわれ、母親にかかる心理的負担 は大きい。乳児期の子どもを持つ母親にとってソーシャル・サポートを高めることは育児不安 を和らげる効果があることなどが指摘されており(例えば、Tarka et al 1999,;McVeigh 2000)、 被調査者にとってはサポート源の少なさから、育児不安が軽減されず、より母親役割を過剰に 意識してしまっている状況と考えられる。それらが、もともと持っている いい顔しぃ とい う個人特性と合わされることで、 良い母親 になるために、自分自身の感情にフォーカスを 当てないようにしたり、上手に甘えられなかったり、ということにつながっていると考えられ る。 理想と現実のギャップ  自分はどのような母親かという質問に対して、被調査者自身の認識について、以下のような 語りが得られた。  「お母さんぽくないのかな。」  「(お母さんぽい人って)ちゃんとしている人。ご飯の時間とか寝る時間とか、自分はバタバ タだし、いまだに時間もちゃんと決まっていない。」  「しつけみたいなのもちゃんとできていない気がする。」  「他のお母さんに聞くと寝るトレとかしてて、計画的にしている人が多い。」  「他のお母さんに聞くと……最近はご飯の時もやっと座ってくれるけど、ご飯も座って食べ てくれなくて。私が追っかけまわして食べさせている。しつけというか、30分以上したら もうあげない、とかメリハリをつけているみたいで。」  「そういうしっかりしたお母さんっていう感じのお母さんじゃない。」  「バタバタに巻き込んじゃっている感じで。」  「他のお母さん見ていると、もっとみんな小ぎれいにしているし、元気だしなんか自分の時 間も持てるようになってきたから働こうかなっていう人もいるし。えーそうなの? って感

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じです。」  「上手いんだろうな、名古屋の人っていうか、都会の人だから。」  「何かあった時に せねば! みたいな。何かあったら、するみたいな。気張ってた。」  「焦る。誰が決めた時間じゃないんですけど、理想のスケジュールあるし、世の中のお母さ んたちはそれがあるし、変に焦って。早く、早くってなっちゃうこともある。」  計画的でメリハリがあってしっかりしているというイメージが お母さんっぽい人 で、自 分自身は、バタバタしていて時間も決まっていない お母さんっぽくない人 、という語りか ら「理想と現実のギャップ」という観点でまとめることができた。子どもの睡眠や食事などタ イムスケジュールがある程度決まっていたり、計画性があったり、いわゆる ちゃんとした 、 しっかりした 母親像とは異なる、と自分自身を評価している。理想のスケジュール、理想 の母親像というものが被調査者の中には存在していると思われる。が、それを体現できていな い現実があり、低い自己評価を持っているのではないだろうか。育児不安の高さと絡めて考え ると、体現できていないという思いが強くなり、自己評価を低める。このことは社会的場面で のほめ行動の抑制につながると考えられる。 母親役割に対するストレス反応  育児をしていく中での疲れについての質問に対して、被調査者自身の認識について、以下の ような語りが得られた。  「(たぶんどこかでいつも気を張っていることは)疲れるんだと思います。だからパン食べる (夜中に一人で一斤食パンを食べる)。」  「前よりましなんですけど、夜中2時3時とかにスマホ見てたり、食べたり。夜中一人で、 旦那も子どもも寝ている時、やっと あー ってなる。」  「切り替えが下手なのかもしれないけど。」  「(熟睡して)ないです。この子が完全にいない時に寝れるかもだけど、そんな時はない。」  「(実家に帰ったとしても)そこにいなくても、違う部屋にいるってなってても、気は張る。」  「お願いしたりとかもできるけど、核家族でやっているから、3人しかいないし、生まれて から熟睡はしていないですね。」  「忘れ物とかあります。」  「なんか抜けているなぁっていう時があります。」  「自分の感情に疎くなったというか。」  「最近落ち着きましたけど、産後1年くらいはずっとイライラ・ピリピリみたいなのはあっ た。」  「イライラして、それこそ夫婦喧嘩もしょっちゅうしていた。」  「ストレスが溜まって奇妙な行動に出ているのかも、ポテチ全部食べたりとか。」

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 疲れている、熟睡していない、感情鈍麻、イライラ、お菓子やパンを夜中に大量に食べると いう語りから「母親役割によるストレス反応」という観点でまとめることができた。サポート の少ない中での慣れない育児と、理想とのギャップから身体化、行動化も含めたストレス反応 がでていると考えられる。特に第1子を育てる母親は、第2子以降の子育てをしている母親よ りも、子ども関連の育児ストレスが多く経験されているため(佐藤他、1994)、その反応も大 きいと考えられる。 上手なあきらめ  理想の母親ではない自分をどう感じているのかという質問に対して、被調査者自身の認識に ついて、以下のような語りが得られた。  「ちゃんとすると私が疲れちゃうので。それで諦めが入ってきたりするんです。」  「あーちょっとダメだなぁって思ったりもしたんですけど、何回ダメだと思っても直らない んで。最近はちょっと諦めてきてて。こんなお母さんとやっていくしかないね、って感じで。」  「ごめんね、みたいな感じで。」  「(自分の名前で呼ばれる機会が少なくなった違和感)あんまりそれはなくって。自分が〇〇 のママしかしてないから、違和感はない。これが社会復帰したいとか思いが強いと、違和感 があるのかもしれないけど。今それしかしていないし、それでいいかって思っているし。」  ちゃんとすると自分が疲れる、諦めている、という語りから「上手なあきらめ」という観点 でまとめることができた。理想の母親にはなれていない自己評価の低さがあったとしても、そ のような自分と何とか折り合いをつけていかねばならない。それが自己卑下的になり、何もか も放棄するような感覚ではなく、そのような自分を受容し、子育てに臨む姿勢がうかがわれる。 子どもの発達と子育てにおける余裕  母親しかできないという感覚で子育てをしているのかという質問に対して、被調査者自身の 認識について、以下のような語りが得られた。  「もっと小さい時、私も理想のタイムスケジュール通りにしなきゃいけないっていう時があっ て。その時は変に時間に追われてて、もっとピリピリしていた。」  「最近放っておけるようになったので、一人で遊んでくれるので、そこまでじゃないですけ ど(自分しか面倒をみること)。」  小さい時はピリピリしていた、最近は放っておける、という語りから「子どもの発達と子育 てにおける余裕」という観点でまとめることができた。特に乳児の子育ては、食事・睡眠・排 泄等の生活習慣に関する全てのことに養育者の関与が必要となる。協力的な夫がいたとしても、

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自分が手を抜いてしまっては子どもの健全な発達に影響があると考えてしまうのも当然のこと である。したがって、常に緊張感をもったまま母親役割を全うしていたが、子ども自身が成長・ 発達することによって、24時間神経を過敏にしておかなくても大丈夫という余裕が出てきた と考えられる。 総合考察  本研究は、子育て中の母親を対象に、子どもをほめることやそれに関する態度等を調査する ことで、ほめの心理的過程を探索的に検討することを目的とした。その結果、子育てにおける ほめ は、「家庭内」では容易く、「社会的場面」では難しく葛藤を抱えているということが 明らかになった。子どもの主体性を重視する「子育ての基本姿勢」はあるものの、ほめ行動の 場面での難易度の違いがある背景には、「個人特性」、「母親役割への過剰反応」、「理想と現実 のギャップ」が関連していると考えられる。つまり、被調査者が本来もっている性格特性とし て、他者評価を気にすることや、母親とはこういうものだ、といった信念への過剰反応、そし て理想と現実との差の認識が、人前での行為を抑制しているのではないだろうか。しかし、張 り詰めた緊張感による身体化・行動化という「母親役割によるストレス反応」を自己認識し、 現実の自分を受け入れ「上手なあきらめ」をしていくことで、また、子ども自身が成長し子育 て自体が少し楽になっていくという「子どもの発達と子育てにおける余裕」の過程で、葛藤を 受容し、母親としての成長している姿がみられた。  今回は1事例から母親の子育てに対する態度を読み解いていったが、様々な要因があり影響 し合っていると予測される。今後は被調査者を増やし、その変容過程について検討していきた い。 引用文献 堀由里(2018).子どもをほめる観点に関する心理学的考察─熟達者と初学者の違い─ 桜花学園 大学保育学部研究紀要,18, 67‒75. 久保山茂樹・齊藤由美子・西牧謙吾・當島茂登・藤井茂樹・滝川国芳(2009).「気になる子ども」「気 になる保護者」についての保育者の意識と対応に関する調査─幼稚園・保育所への機関支援で 踏まえるべき視点の提言─ 国立特別支援教育総合研究所研究紀要,36, 55‒76.

McVeigh, C. A. (2000). Satisfaction with social support and functional status after childbirth. Mental Child

Nurs, 25, 2530. NHK エデュケーショナル(2018).すくすく子育て「赤ちゃんと2人きり どう過ごす?」https:// www.sukusuku.com/contents/245395(2018年12月26日取得) 佐藤達哉・菅原ますみ・戸田まり・島悟・北村俊則(1994).育児に関連するストレスとその抑う つ重症度との関連 心理学研究,64, 409‒416. 高崎文子(2002).乳幼児期の達成動機づけ─社会的承認の影響について─ ソーシャルモティベー ション研究,1, 21‒30.

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coping of first-time mothers with child care. Public Health Nurs, 16, 114119.

山田智子(2010).保育の現場から 友だちをみつけよう みんなで大きくなろう つどいの広場 「んぐまーま」の取り組みから 幼児の教育,109 (6), 55.

※本研究は、科研費(17K13253)の助成を受け実施した。

参照

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