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盲琵琶湖の音楽 : 昭和50年度音楽学フィールド・ワーク調査研究報告

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昭和50年度音楽学フィールド・ワーク調査研究報告

楽一

 琶

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琶動

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琵田

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曽蒔

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小 野 功 龍

門 原 尉 子

 本学音楽学専攻では,去る7月14日より17日に至る4日間に亘ってフィールド・ワークを実 施した。今回の調査目標は,九州に伝えられる盲僧琵琶の音楽の採集であった。折悪しくこの 時期は夏の土用行で盲僧達は廻壇法要のため諸地域に出向しており,集中的な調査は果されな かったが,成就院の御厚意により地神法楽法要の採集に成功した。如こうした本寺よりはるか に隔った国東や日向の盲僧の弾奏請経を常楽院,極楽寺の御住職の御力添えによって採集する ことができ,盲僧琵琶の古態の一端をもうかがうことができた。本論は,これらの調査資料か ら,盲僧達の宗教活動の実態とその音楽の一部を報告し,いささかの黙考を述べるものである。  盲僧琵琶というのは,貧僧が琵琶を携えて弾奏調達をするものであって,声明と共に仏教音 楽のカテゴリーに属するものである。しかし,声明等を初とする仏教音楽,或は仏教に附随し て展開して来たいわゆる仏教的音楽の歴史的な現象については,かなり解明されて来ているの に対し,叢誌琵琶に関する起源や歴史的変遷については,現在ある史料から確実に判断するこ とがなかなか難しい。  しかし,僅少な資料にもかSわらずこれら盲僧琵琶についての研究はすでに行われており, 可成りの成果が見られる。それらの内の重なものを紹介すると,中山太郎氏が昭和9年に出さ れた『日本盲人史』,同11年の『続日本盲人史』は斯研究の稿矢として,その業績は高く評価 され,後の学究にも資するところ大なるものがある。又近くは,成田守氏が『伝承文学研究第 15号(昭和48年)』に,憂地神高僧伝承詞章考。,同第17号(昭和50年)に“地神盲僧伝承詞章 考補遣., 『臼田博士還暦記念論文集;口承文芸の展開(昭和50年)』に塾地神盲僧に関する 一考察  豊前市地域における盲僧伝承を中心として一。など一連の斯方面に関する論文を発 表されており,特に実地調査の上から得られた資料を駆使しての論考は,大いに注目すべきも のがある。又,盲僧琵琶に関する諸資料の集大成としては,五来重氏の編述によって刊行され た『日本庶民文化資料集成第17巻(昭和47年)』があり,こsに収められた盲僧達の弾奏議経 におけるテキスト類やその他の文献資料は,今後の研究者達によって大いに活用される価値を 有している。       91

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      盲僧琵琶の音楽  しかしこれらの諸研究は,民俗学的,或いは文芸学的な視点から成されたものであって,音 楽学的な視点より行なわれた研究は寡聞ながら知るを得ていない。又,こうした研究や諸文献 からうかがう琵琶盲僧達の実態と,今回我々が行ったフィールド・ワーク実施の結果得たとこ ろの諸資料からうかがう実態とは可成りの相違が認められることも解り,今回のフィールド・ ワークの有意義なることを今更に感じると共に,更にきめの細かい再調査の必要性を痛感する 次第である。  琵琶盲裾張は現在,九州一円に散在しているが,北九州,成就院を本寺とする玄清法流と南 九州,常態院を本寺とする常楽院流の二種の系統のいずれかに属している。又これらの本寺は 現在天台宗に所属しているが,盲僧寺院として法会における行儀や慣習のうえに他の天台宗寺 院には見られない特異なものを有している。  成就院は現在福岡市南区西高宮にあり,天台宗玄清法流別格本山でもある。又,豊楽院は鹿 児島市吹上町中島にあり,この寺は日南市平年町の長久寺住職の管理の下にある。先にも述べ たように現在九州に散在する盲僧達はこれらの寺のいずれかに所属しているのであるが,形式 的な所属のみに止って,実際的な活動のうえにおいては,本寺とは無関係である野僧達もあ る。それは,後に述べる国東半島や,日向地方の盲僧達で,特に日向盲僧などは一応常楽院系 に属するもの∼,実際には延岡市にある盲僧寺院浄満寺を本寺のようにして宗教活動を行って いる。  こうした盲僧団の行儀としては,彼等の本寺で行われる年間恒例の法要と,琵琶を携え檀徒 の家々を廻って行う法要との二種の法要が揚げられる。前者を「法楽法要」,後者を「廻橿法 要」若しくは「廻檀供養」と称している。  法楽法要とは,それぞれの本寺を中心として行われる法要で,定められた日に配下の盲僧達 が本寺に集って行うところの法要であろ。  成就院で営まれる法楽法要としては,例年1月17日に行われる奏初観音護摩供養法要。や,10 月17日に行われる玄清法流の開祖であり成就院の開山である玄清法印の忌日法要である“玄清        みょうおんじゆうにがく 忌。などの法要が代表的なものといえる。一方常楽院では,例年旧暦10月12日に“妙音十二楽。 といわれる法楽法要が行われる。  これらの法要は一つの法要形式ともいうべきものを備えており,ことに玄清法流の地神法楽 では次に示すような式次第で行われる。 〔表D 成就院法楽法要の次第  ○伽陀  〇三礼  〇七仏通戒偶  ○表白 92

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盲僧琵琶の音楽

   ○門経偶    ○経題    ○経    ○後唄    ○回向 t  この法要次第は又法楽法要における共通的な次第でもあづて例えば,経典の読調のところ で,観音講ならば観音経,玄清忌ならば金光明最勝王経が,太鼓,その他の伴奏を伴なう琵琶 の弾奏によって講経されるわけである。その他の次第は,すでに天台宗における例時作法にみ られるものとほとんど同じものである。  一方常楽院においては,次のような式次第である。   〔表1〕 常楽院法楽法要の次第  〇三礼  ○前楽  ○回向神楽  ○表臼  ○錫杖  ○般若心経  ○釈文一うちまき  ○釈文一年号  ○釈文一わたまし  ○釈文一妙音の巻  ○釈文一琵琶の釈  ○釈文一釈迦の段  ○回向神楽  ○地神経  ○円頓章  ○回向  〇三礼  これは,一般的な天台宗の法要次第とは著しく異なり,特に回向神楽とか釈文,及び地神経 に特色がある。釈文は笛と太鼓によるNN楽。と琵琶の伴奏による“語り。とが同時に行なわ れるもので,藻。の編成は,回向神楽の編成と同様であるが,これには十二楽あって,俗に “妙音十二楽.といわれる。本来,この十二楽は,釈文の十二通に対応して存在していたと思 われるが,現在では,次の六通しか読まれない。しかもその間に十二楽全部を行なってしまう。   〔表亘〕  一..’‘ . ... 1圃  .  ’「  .“.....…幽一..丁          1. うちまき一松風・村雨         〕          2.年号一杉の森          3.わたまし一杉の森       1        93

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盲僧琵琶の音楽

4.妙音の巻一軒の水 5.琵琶の釈一五調子・六調子・七擁・八朔 6.釈迦の段一忘れ携・盤渉・鳳の声・後生楽  さて,盲僧達の宗教活動は,何もこれだけではないのであって,むしろ,これから派生した ところの琵琶を携えて壇家から壇家を廻って行く廻壇法要の方に盲僧本来の行儀があるといっ てもよい。  北九州における廻壇法要というのは,最も主要な法要は「土用行」と称するもので,例年四 季の土用の節が来ると,盲僧達は壇家の家々を訪れ,竈の傍や,仏間に祭壇を設け,米塩等を 供えて,携えて来た琵琶を弾奏しながら荒神経・地神経の読調や,荒神和讃・釈文などの三論        あらだまを行ない,荒神・地神の荒魂を鎮め,一家の繁栄隆昌を祈願するのである。こうした土用行の 行なわれる主たる目的は,竈祓い,即ち竈の神を祓うことである。  日本民族の固有的な信仰形態の中では,竈の神というのは,火炎の神,そして忽怒神・火宅 神であると同時に,又,祖霊神でもある。このことについては『続日本紀』に   天平三年正月,神砥奏,庭火御竈四時,祭祀永為常例…… とあるように,奈良朝時代に,すでに竈祭のあったことが解るが,平安朝時代は,これを行う     おんみようじ のは専ら陰陽師であった。  一方,仏教の伝来後,神仏習合思想の拾頭によって,経典の中にみられるところの地天即ち 地神といわれる仏教の守護神と,様々な所説があり,その基本的な姿は不明ではあるが,そう した諸説を総合してみると,慈悲の相と丁丁の相をもって大衆を救うという三宝荒神とが竈の 神に投影されてくる。即ち,竈の神と地神と荒神の三者が未分化のまま,日本の民俗信仰に溶 け込んで受け継がれてきた。その時期については確言することは不可能であるが,こうした信 仰を宣揚させたのは密教,ことに修験道であると考えられる。しかも,盲僧が,修験道に非常 に関係が深かったということは,すでに五来氏も成田氏も指摘をされておられる通りである。  今日でも荒神信仰というものは,盲僧の荒神祓いとは別に,多くの人々,商家の人々の信仰 を集めている。特に,先述の如く盲僧は土用行において竈祓いをする。この土用行の他にも廻 壇法要においては,臨時的なものとして,家宅の新築・改築に際し,家宅神である地神を祭る 「地鎮祭」,竈を取り除いたり改修する際に,竈の神を祭る「火あげ」,井戸を埋めたり改修 する際に,水神を祭る「水神上げ」等の諸祓いの他,結婚に際しての子孫繁栄・一家隆昌の祈       もうれいおと 願,旅行の平穏無事の祈願等,予祝的行事,家や人にまつわりつく邪霊を祓う「亡霊落し」等 の際にも招かれて弾奏諦経を行なう。  その際の所依経典の中心となるものは,地神経と荒神経と釈文であるが,成就院系玄清法流 においては,荒神経及びその関係経典だけである。  廻壇法要の所依経典は,非常に特異性を持っていて,それは本寺における法楽法要と少し趣       94

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       盲僧琵琶の音楽 が違っている。  さて,そこで,寺院法要も廻壇法要も含めた盲僧の所依経典はどういうものであったろう か。これは,ある意味では,盲僧の宗教的な位置付けと,盲僧の活動の実態の一端をも解明す るための一つの手掛りになるといえよう。  そこで,成就院・幽幽院両系を含めた所依経典について述べてみると,まず明治38年(1905 年)に,天台宗務庁から発行された『天台宗地神一三規則』の中に,地神盲僧所依の経典の名 称が出てくる。それは,次の如き経典類である。 〔表rv〕 玄 清 部  ○仁王護国般若波羅密経  ○金光明経  ○大日経  ○堅牢地神陀羅尼経  ○妙法蓮華経 .當楽院部伸び一般掌裡盲僧. ○仁王護国般若波羅密経 ○金光明経 ○大日経 ○堅牢地神陀羅尼経 ○阿弥陀経 ○不動経 一方,もう一つ明治38年より26年前の,明治12年(1879年)に,豊前盲僧の練習すべき諸祓 い法,及び練習の読経を示した文献が,やはり成田氏により紹介されている。それは次のよう なものである。 〔表V〕

①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪

地神大陀羅尼経 法華経普門品 荒神陀羅尼経 般若心経 シャクショウ(錫杖) 観世音経 神名帳 大幸神(大荒神) ヒミツダラニ(秘密陀羅尼)経 シヤウコシン(浄荒神経) ハピイコヲ心(八膏荒神)経 ⑫ 琵琶の釈 ⑬ 荒神の釈 ⑭心利払 ⑮ 秘密経 ⑯ 地神式経 ⑰ 地神経 ⑱ 地神和サン(讃)経 ⑲荒神シズメ(鎮)経 ⑳ 水神経 ⑳ 不動経 95

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      盲僧琵琶の音楽  これらを比較すると,明治38年の方は,地神陀羅尼経を除いては,天台宗に行なわれる極く 一般的な経典が,所依経典として課せられている。これに対し明治12年の方は,豊前盲僧とい う一地方の盲僧のための歯面であり,しかも,彼らは鼻汁法流の系統に属しているのではある が,その所依経典は,つまるところ荒神経・地神経・釈文の三種のものに限定することができ る。  この差異について,一先ず明治38年の『天台宗地神盲僧規則』において,盲僧達が,社会的 地位を認められるに至ったことは解るが,一方,排仏殿釈以来,神道的な行業を排する,つま り,神官と同じようなことをするということを,極力忌避して,仏教本来の活動に帰るという 運動を推進したために,明治38年の時点で,形式的に整えられ,明治12年に定められていたよ うな経典は,表面上割愛されてしまったものと思われる。即ち,このことによって,盲僧本来 の宗教活動が,著しくせばめられたということもできる。  しかるに,宿便法流における,盲僧の所依経典のスタイルというものは,明治12年の伝承法 届に見られるようなものであったということが推測される。実際に,現在成就院では,寺院法 要の場合,観音経や金光明最勝画才堅牢地神品が行なわれているが,廻壇法要の場合はこれと 異なり,荒神経の音読・訓読,荒神和讃の唱題がその中心課請となる。ただし,般若心経や不 動経なども付加的に読講される。  それに対して常楽院では,徹底して釈文の読請が多い。寺院法要においても釈文中心であっ たが,廻航法要の勤行次第では釈文の止血しか行われない。  釈文というのは,荒神経や地神経義の経典を取留課訳したものというべきものであるが,更 にそこに修験道などに行われた説話的な要素が加えられ,一編の仏教的語物として編成された       たましつものともいうべきであって,経典の読諦が地神や荒神への塾魂鎮め。といったような呪的性格 をもっているのに対して,釈文はむしろ大衆に対する唱導説教的な意味合いが強いように思わ れる。  釈文はかって淫心法流においても行われていたことは,福岡県文化会館蔵の疑盲僧琵琶資 料.中に面心の釈文のテキストが収められていることからも解るが,現在はほとんど行われて いないようである。これに対し先述したように常楽晶系においては,法楽法要血塗法要を通じ て釈文の唱請が中心となる。従ってそのレパートリーも多様である。次に掲げたのは,常楽院 系の釈文のレパートリー表であるが,C・f)は現在中島常磁院に行われるもので全部で12通を数え る。(ロ)は日南市飲肥の富盛院に伝えられる釈文の詞章より採出したもので11通を数える。最後 ののは日向延岡市浄血寺に現行される釈文で,14通を数え,これら三者の内では,最もレパー トリーが多いといえる。 96

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幽幽琵琶の音楽

〔表Vl〕

④中島常楽院

祝詞︵うちまき︶ 年号 (ロ) 星の段 神渡︵わたまし︶ 長久寺常楽院 星の段 地割 神名 夢の段 神名帳   一. = 本地経 の 長久山浄満寺 釈迦の段 琵琶の巻 妙音の巻 本経 本経︵地神経︶ l l 本経 琵琶の借 琵琶の釈 釈迦の段 はんごん釈 王子の借 王子の釈 釈迦の段 四方立 勝負分 廻向 勝負の段 島広 廻向の段 四方立 門前の段 装束立 しき広め .氏広め 稲揃え

L

神送り 荒神揃・ o @ @ @ @ @ @ @ @ @ @  (i)と回とはその系統のうえにおいては同じであるから,各曲の名称や口数のうえに大きな差 異は認められないが,のについては,ω(ロ〉に共通なレパートリーに加えて多様な釈文の存在が 認められる。この長久山砦満寺は常楽院系の盲僧寺院とはいうものS,独自の活動を行ってお り,その配下の千僧達も口向盲僧としてむしろこの寺を本寺の如くにして活動して来たのであ る。従ってそこにはωや(P)とは異ったはるかに多種の釈文が伝えられて来たものと推察される のである。  次にこれらの釈文の大略の要旨を記したのでこれを御参照願いたい。なお曲に施した番号 は,長久寺十八院のものを中心にして考えた。 ①は,我国の全国の神祇を数えあげ勧請するもの。 ②は,盲僧の発祥の地である日向鵜戸神宮における縁起を述べたもの。 ③は,七曜二十八宿と荒神の姿を述べたもの。 ④は,地神経の経意に由来するもの。 ⑤は,琵琶の各部の名称を諸仏諸菩薩の名に蒙り,琵琶弾奏の功徳を述べたもの。 ⑥は,釈迦の一代を述べ,併せて地神・荒神春属の徳を述べたもの。 ⑦⑧⑨⑩は,三宝荒神の五人の王子が天地を統括支配するまでの説話を述べたもの。 ⑪は,土荒神を初め,諸神に招福を祈願するもの。 97

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       盲僧琵琶の音楽  これらω㈲㈲の三者に共通するレパートリーのうちで,①④⑤⑥⑦⑧⑨の各曲は釈文のうち では最も重要なものと考えられる。しかも盲僧琵琶の性格をうかがううえに興味ある問題を提 起する。  すなわち①の諸国の神祇の勧請,④の地神経の釈である。又⑤の琵琶の妙音功徳,⑥の釈迦 讃嘆,は岬町における宗教活動の基本的な概念を示すものである。更に⑦⑧⑨は荒神の5人の 子息の領地争いに対し,門前大王がこれを仲介してそれぞれ天地を分割統治せしめる説話で, 古来より山伏神楽のレパートリーにも見られ,丁丁の宗教的活動のうえにおいて,修験道との かSわり合いが非常に深かったことが示唆されるのである。  次に成就院や三楽二等の本寺とは隔った地にある盲僧達の活動を紹介したい。  まず国東盲僧は,現在僅か3人ばかりで,その内1人は病臥中である。それで現在は,健勝 な2名によって輪番で営まれる4月17日と10月17日の年2回の,玄清法印御開山法要の他は, 専ら廻壇を本務とし,琵琶を携え,国東半島一円を廻っている。このことからみても,成就院 系に属しているとはいうものの,言わば独自の活動をしているとみなしてもいいだろう。  国東盲僧の画壇は,春夏秋の土用行の他に,地鎮祭・水神祭・竈祓いの他,婚礼・旅立ち・ 就職などの折の「艮神祭」,正月中心に行なわれる「おひまき」,更には極く稀ではあるが 「亡霊落し」などにも請われて弾奏諦経を行う。  次に国東盲信の土用行の一般的な勤行式を挙げてみる。 〔表vr〕 (1)祈願文 (2)開口偶 (3)八膏荒神経(訓読) (4)仏説大荒神秘密事究経(訓読) (5)竈讃嘆式(竈の御本地) (6)三宝荒神和讃 (7)不動経或は般若心経(真読) (8)廻向文 琵琶弾奏 琵琶弾奏 琵琶弾奏 琵琶弾剰  これをみると,徹底して荒神経中心の勤行次第あることがわかる。  八腎荒神経は,すでに明治12年の豊前野僧の伝習法馬の中にも同じものがみられる。従って 豊前・豊後盲憎の間には,少なくとも所依経典をめぐって何らかのつながりがあり,しかも往 時,玄清法流の所依経典にまで,示唆するものがあるが,現在成就院玄清法流では,これらの 経典は用いられない。  この式次第のうち,八腎荒神経・荒神二丁経・竈の御本地,これらのものは,経と名付けら れながら訓読で行なわれるのである。  又,常楽院系とされる日向盲僧の場合には,現在10人程の盲僧がいる。しかし,彼らは,常 楽院へは行かずに,先述の日向の延岡市にある浄満寺を本寺のようにして,年1回集まり『三       98

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      盲僧琵琶の音楽 楽』即ち.太鼓・笛・釈拍子の伴奏を伴なう弾奏釈文を行なう。それは,前掲の表Wの(・f)中島 常楽院の妙音十二楽に対応するものである。  彼らの廻壇法要は釈文と地神経であり,その釈文の数は14年忌,中島臥具院よりもレパート リーが広いということは,前掲表NIの説明のところで既述した。  如上のことがらよりまず所依経典の問題については,明治38年の『天台宗地神盲僧規則』に 制定されたよりも遙かに多くの経典類が,廻壇法要を中心に,実際には存在しているというこ とがいえ,現在,荒神経・地神経・釈文といわれるものが,読調経典の主流になっている。  しかも,その廻壇法要における成就院系と常楽院系の現在の経典の大きな違いをみてみる と,成就単子の方は,様々な荒神経の訓読及び荒神和讃と,こういうようなものが中心になっ てくるのに対し,常楽院系の方は,釈文が中心といえる。そして,この釈文は,唱導説教的な 意味を持つものである。  北九州の方でも,釈文がないわけではないが,だんだんすたれて,あまり行なわれていない らしい。そのかわり,荒神経を中心とした訓読経典及び和讃が,むしろ唱導説教的な役目を果 しているのではないだろうか。  さらに,この玄清法流の系統には『くずれ』といわれる『軍談』が行なわれている。肥後盲 僧にいたっては,むしろ『くずれ』のみを本行とするものに変わってしまい,最早盲僧とはい えない状態になっている。  一方,常楽院の方では,釈文を非常に忠実に守った。特に,第45代院主・江田即事師が『く ずれ』を,盲僧の琵琶法師が語るということを,つとに戒めたので,今日では『くずれ』は行 なわれなくなってしまった。むしろ釈文を固守・遵守して,それが唱導説教的な役目を果し, 今口も伝承されていると考えられる。  冒頭にも述べたようにフィールド・ワークにおけるその後の整理作業は未だ続行中である が,本論においては,先ず歌詞の聞き採り作業と琵琶の採譜の終了したものsうちから3曲を 選んで紹介しよう。  盲僧の弾奏調経における音楽詞章の伝承は,すべて口承であり,定つたテキストは存在しな い。しかも伝承過程において誤伝されたと思われる部分や,誰言化した部分があり,とくにそ の詞章の聞き採りは至難である。しかし詞章の内容を明確にすることは,盲僧の宗教的活動の 理念を明臼にするうえに重要な手掛りを与えることになるであろうし,又,ひいては,音楽 史,仏教史,文芸史等のうえにおいても資するものと考える次第である。  今回本論に採りiげたものは,国東盲僧の伝える“仏説大荒神秘密神究経。, ”’三宝荒神和 讃、,’N八曹荒神経.の3曲である。これらの諸経典は国東盲僧の廻壇法要に行われるもの で,これらが勤行式のうちでどのように唱調されるかについては,先掲した国東盲僧の勤行式       99

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      盲憎琵琶の音楽 を御参照願いたい。  これらの諸経の内“荒神神9E経。は,現在国東盲僧独特の所依経典ともいうべきもので,同 種のものは,成就院系にも常楽院系にも見られない。又,“三宝荒神和讃ヤは成就院系にも伝 えられているが,国東に行なわれる和讃は七・五調に字余りが多く,文意も洗練されていない が,素朴な感じがする。

荒 神 神 究 経

 慌神神門経。は,国東門守高木清玄師の演唱によるもので,国東盲僧の廻壇供養に読書さ れる経典であり,専ら訓読で行なわれる。あるいは「神州経」と書くべきかもしれない。出超 および蔵本は不明で恐らく偽経ではないかと思われる。経と名付けられてはいるが,経典の体 裁を採らず,むしろ和讃のような文体を採っている。三宝荒神の仏界における相を述べたもの と判断されるが,荒神の姿については仏教教典中に本説がなく,しかもその本地垂 の関係に ついては諸説が見られ定かではない。しかしここに掲げられている仏,菩薩,神はさまざまな 儀軌の中で何らかの形で三宝荒神の本地や垂 の姿と関係をもっている。特に五大明王は,金 剛界曼陀羅の第八,降三世界に現われるが,それは仁王経に説かれている所である。如来が内 外の魔障を調伏するため葱怒形に姿を変じて現われたものといわれ,なかでも不動明王は大日 如来の転身であるといわれる。空海の書と伝えられる『三宝荒神祭文』には三宝荒神の本地を 文珠菩薩或は不動明王とし,『荒神供式』には大日如来とあるところがら,いわゆる荒神の曼 陀羅を,此の経では述べようとしているのであろう。  先ず冒頭の「南無荒神…・・一」より「……庵急々如律令と敬って申す」までは一種の祈願文の 如きもので,この部分では琵琶の弾炎を加えない。この文のロロ涌の終わり頃より短い琵琶の間 奏が行なわれるが,その前半は先のテンポとリズムを受け,やや緩慢な弾奏が続く。後半に至 ってにわかにリズミカルなテンポになり,これに乗って「南無東方云々……」以下終わり迄一 気に唱調される。

三 宝 荒 神 和 讃

 “三宝荒神和as 。sは,高木清玄氏と,宝珠院住職中野清信師との2人の演唱によるものであ る。  国東の荒神和讃も筑前のものと大略同じ内容構成を採っているが,所々の字句が違ったり, まt,原則的には七五調の文体であるものの.字余りの箇所もあり,全体としては筑前の和設 の方が洗練されている。しかし冒頭における三宝荒神の本地とその出現のくだりとを述べた条 は筑前の和讃にはない。この部分は,荒神経における経旨を極く極く平易簡潔にのべたものと 思われる。       100

(11)

      盲僧琴琶の音楽 ゆるやかな二拍子のリズムに乗って演唱者は旋律的な朗唱でこの和讃をうだいあげていい く。

八 腎 荒 神 経

 “八腎荒神経。.は中野清信師め演唱である。正式には「仏説三宝大荒神福徳円満陀羅尼経」 と称し.漢訳の経典を忠実に訓読に写したように著わされている。しかしこの経題は荒神経に 似せて作られた偽経かもしれない。いうまでもなくいかなる蔵本にも見られない。.  しかし,前出したが成田守氏の調査によって発見された明治12年の豊前盲僧の調経伝習届の 中に「ハラピイ荒神経」というのがあり,豊後と豊前との地縁的な関係も考慮して或いは同種 の経典かとも思われる。しかも此の経を伝習するグレードは7段階のうち,6等の所にあり, かなり下位にあることから普遍的な経典であったことが解る。経意は,火神である三宝荒神 が,その油鼠の相,すなわち大日・弥陀・釈迦の諸仏,および文殊。普賢・観世音諸菩薩の転 身であることを示し,更に善悪両心を以て衆生済度することを述べたもので,この経意も荒神 経に述べられる経意よりヒントを得て,これに修飾の加えられたものと思われるがら国東の廻 壇法要では荒神祓いや干上げの際に必ず読謡される経典の一つであるρ  経題の唱諦について琵琶の伴奏と共にかなり早いテンポで丁丁される。 上記三曲の採譜及び詞章は,P102∼P110に掲載したので参照されたい。

      (大饗学部騨)

101

(12)

演唱高木清玄

採譜大原尉子

       高僧四二の音楽

仏説大荒神秘密神究経

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(14)

       盲僧琵琶の音楽

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盲僧琴丘の音楽

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(17)

盲僧琵琶の音楽

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三宝荒神和讃

ナ ムサンざユコウジンソン  ホンジ  ダイニチモンジユソン ︵南無三宝荒神尊。本地は大日文殊尊。 ダイシぼコフドロミロサゴほ   サンゾンブツ  マシ 大聖不動明王の、三尊仏に坐ませり。 シユジロロサイド 衆生済度のそのために、︵舎︶ ハサス ウチナ タカ         タカイ  タニ  ソコフカ 蓮の台の高きより、弘海の谷の底深く、   ツ シヤパ ジフ    サンぶロフンタケンゲン われ等が娑婆の慈父となり、三宝葱怒顕現し、 ダイコロジン      タモロ   サテ    カヤド ぞシ 大荒神となり給う。掬また竃に坐まして、 フクひクエン ンアンノン     モ  タほオ     ゴセイガン 福徳円満安穏に、守り給うとの御誓願。 ロウニヤクナンニコセほ       ヵぞドダイジ  タフト 老若男女諸ともに、竈大事と尊べよ。 ゑみのイトオ    カナワ      シソンハンジのロ チリロヰユロ 願ひ通りを叶はせる。子孫繁昌と長久と、 ユロリロダイコロジン  メグ       ヒジカ イノチ テロコノイ 勇猛大荒神の恵みなり。短き命も長命に、 アサユほツぞ    タマイ 浦回守られ給ひける。︵合︶ 4▼ γウや      カミ 多  カナワ 今で富貴があるとても、神の恵みに叶はねば、 ノチ     ヒン ク   ヤミ 後には貧苦や病となる。 ぱンぷロ   ムフク  クラ 貧乏も無福に暮すとも、 ヨコジンネン   トモガヲ   ノチ    フウキ 荒神念ずる輩は、後には富貴となることそ。 イエ  ダンゼツ       ワザワイサ    サカ 家の断絶いたすのも、災ひ去って栄えるも、    カナン   ヒ   ヰ      テン マゲ ドに  チカズ おこる火難の火も消えて、天魔外道も近付かず、 アタビロロシロピのロ  ノが 悪病諸病も遁れうる、     ワせ    タく  これほど守られ給ふのに、︵A口︶︶  のワド ケガ   ソ マツ 谷︶竈を臓し粗末せば、 ダイココジン  イ   ア      サイナン 大荒神も意も荒れて、災難けだいとなりぬるぞ。 ◎▼r “トリクィセツ    累     8一   ココロが 竃の辺は大切に、濡らさぬやうに心掛け、 ツ    タやギ  ヰ   ツ       ケガ       ロロ 積める薪も気を付けて、積さぬやうにいたしっっ、 ソウリダイイチヒ    ケ 掃除第一火を消せよ。︵色 ダイロロジン  イフシ 大荒神の戒めに、 イ カのドハラ  タ 如何程腹が立つとても、 カマぎ ヤェ    イヵ        ムネ  クル     タ 竈の前にて怒るなよ。胸の苦しみ絶えてなく、 アサユガ     オダ       オヤコ リロ  や 朝夕ともに穏やかに、親孝行の気になって、 ゆや  ココロ ほロコ     ヰのロダイフロフムツ 親の心を喜ばせ、兄弟夫婦睦まじく、 ンンゾクタニン  ワゴ     タノ   ツヰヒ  オク 親族他人と和合して、楽しく月日を送るべし。 ダイコけジン  ヨロコ 大荒神の喜びぞ。︵合︶ カゲ カタチ ソ ゴト  イエ    ニ  ツ  ソコ 影や形に添う如く、家やその身に付き添ふて、 やンゼ  シほブツ  モロ       ゴコク  イチリユウマンバイ 三世の諸仏と諸ともに、五穀は一粒万倍に、 響回ズ タカラ  ミ          カギョーシヨーパイハンジ響− 万の宝は満つるそや。家業商売繁昌す。 ナニ        オダ       ゲンゼ  ソクサイアンノン 何ごとにても穏やかに、現世は息災安穏に、 モヲイ  カナヲ ジョロブツ 未来は必ず成仏と、 ヒチビ タくロ     ゴセイガン 導き給ふとの御誓願。 ヨウジンヰ ロ  ト       シン    ウタゴじココロ 荒神経に説かれたり。信じて疑ふ心なく、 カマドダイジ  クツト    アサユしシンジン 竈大事と尊んで、朝夕信心いたすべし。 ナ ムサムポロコ ジンソン 南無三宝荒神尊 107

(18)

主僧琵琶の音楽

八腎荒神経

演唱 中 野清信

採譜大原順子

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