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<判例研究>死刑判決に対する上訴取下の有効性--最決平成16年6月14日判タ1167号134頁

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(1)死刑判決 に対す る上訴取下の有効性. 死刑判決 に対 す る上訴取下 の有効性 最 決 平 成16年6月14日. 判 夕1167号134頁. 典. 辻. 本. 央. 事実の概要. 本 件 は,第 一 審 で死 刑 判 決 を受 け た被 告 人 が 原 審 弁 護 人 よ り提 起 され た 控 訴 を取 り下 げ たが,そ. の後 選 任 され た 弁 護 人 及 び被 告 人 自身 が,右 控 訴. 取 下 は無 効 で あ る と して,公 判 期 日指 定 を 申 し立 て た 事 件 で あ る。 そ の 際,被 告 人 は控 訴 取 下 とい う重 要 な訴 訟 行 為 に際 し弁 護 人 に よ る弁 護 を 受 け る機 会 を十 分 に保 障 され て い なか った の で はな いか,及. び,右 訴 訟 行 為. に際 し被 告 人 に は訴 訟 行 為 能 力 が 欠 けて いた の で はな いか,と. い う点 が 問. 題 と な った。 事 実 の詳 細 は,以 下 の と お りで あ る。 本 件 申立 人Xは,昭 れ(Xの. 和45年 に強 盗 殺 人 罪 等 の 罪 に よ り無 期 懲 役 刑 を 科 さ. 控 訴 取 下 に よ り確 定),昭. 和62年 に仮 出所 とな っ た後,平 成2年. に殺 人 罪 等 を実 行 した と して,起 訴 され た 。 公 判 審 理 の 結 果,福 岡 地 小 倉 支 判 平 成5年10月27日. 判 時1511号171頁 は,Xに. 対 し死 刑 判 決 を下 した 。. 原 審 弁 護 人(国 選)が 即 日控 訴 を提 起 した が,そ の20日 後 の11月16日,X 自身 が 控 訴 取 下 書 を作 成 し,こ れ を福 岡 高 裁 に提 出 した こ と に よ り,右 第 一 審 判 決 が 確 定 した. 。 そ の後,Xは,改. 弁 護 人 らと連 名 で,福. めて 弁 護 人 を 選 任 し,平 成12年 に,. 岡高 裁 に対 し,控 訴 取 下 は無 効 で あ り,控 訴 は有 効. に係 属 して い る と主 張 して,公 判 期 日指 定 申立 を 提 起 した。 弁 護 人 は,そ 一121一.

(2) 近畿大学法学. 第55巻第1号. の 際,① 弁 護 人 不 在 の状 態 で した控 訴 取 下 は,憲 法37条3項. に違 反 す る,. ② 控 訴 取 下 当 時,申 立 人 は訴 訟 行 為 能 力 を欠 い て い た,と 主 張 した 。 原 々 決 定(福 岡高 決 平 成13年9月10日. 高 刑集54巻2号123頁)は,審. 理 の結 果,. 右 主 張 を退 け,訴 訟 終 了 を宣 言 す る 旨,決 定 を下 した。 こ れ に対 し,申 立 人 は,異 議 申立 を提 起 したが,原 決 定(福 岡高 決 平 成15年12月5日 号135頁)が. これ を棄 却 した た め,さ. 判 タ1167. らに特 別 抗 告 を提 起 した。 最 高裁 は,. 右 ② の点 は,単 な る法 令 違 反 の 主 張 で あ る と して 退 け,① の 点 に つ い て は, 以 下 の よ うに判 断 し,抗 告 を棄 却 した。. 本決定要 旨. 「本 件 抗 告 の趣 意 の う ち,原 決 定 の 憲 法37条3項. の 解 釈 の 誤 りを い う点. は,同 項 が,被 告 人 に対 し,公 訴 提 起 の 当初 か ら判 決 確 定 に至 るま で の 間, 間断 な く弁 護 人 が 付 さ れ る こ と まで 保 障 した もの で は な く,被 告 人 が 控 訴 を取 り下 げ る際 に弁 護 人 が 付 され て いな くと も 同項 に違 反 す る もの で な い こ と は,当 裁 判 所 大 法 廷 判 例(引 用 判 例 省 略)の 趣 旨 に徴 して 明 らか で あ るか ら,所 論 は理 由が な い。」. 研. 1.憲. 究. 法37条3項. の弁護人依頼権保障の範囲. (1)本 決 定 で は,前 述 の とお り,憲 法37条3項. に よ る国 選 弁 護 人 の 弁 護. を受 け る権 利 につ い て,そ の 保 障 され る べ き範 囲 如 何 につ い て 判 断 され た。 この 点 は,弁 護 人 が 主 張 す る とお り,控 訴 取 下 の 時 点 で 弁 護 人 が 付 さ れ て い る こ とが 憲 法37条3項. の 要 請 で あ り,本 件 事 情 の 下 で 被 告 人 に弁 護. 人 が 付 され て いな か った とす る と,同 条 項 か ら導 か れ る被 告 人 の 国 選 弁 護 一122一.

(3) 死刑判決 に対す る上訴取下の有効性 を受 け る権 利 は実 質 的 に保 障 を受 けた と は いえ ず,そ れ ゆえ そ の よ うな 弁 護 人 不 在 の下 で 行 われ た控 訴 取 下 と い う訴 訟 行 為 の 有 効 性 が 否 定 され る, と い う関 係 か ら生 じる問 題 点 で あ る。 この 点 につ いて,最 高 裁 は,本 件 原 々決 定 及 び原 決 定 と 同趣 旨 に お い て, 前 述 の とお り判 示 し,控 訴 取 下 の 時 点 で 国 選 弁 護 人 が 付 され て い な くと も 憲 法37条3項. に違 反 す る もの で は な い と判 示 し,同 条 項 違 反 を 理 由 とす る. 控 訴 取 下 を 無 効 とす る主 張 を 退 けた 。 そ の 際,最 高 裁 は,右 結 論 を,国 選 弁 護 制 度 に関 す る過 去 の 最 高 裁 大 法 廷 判 例 に 依 拠 させ て い る。 従 って,本 決 定 の 当 否 を 検 討 す る前 提 と して,ま ず,本 決 定 で 引 用 され た,国 選 弁 護 制 度 に関 す る最 高 裁 大 法 廷 判 例 を 概 観 して お こ う。 ①. 最 大 判 昭 和24年11月2日. 刑 集3巻11号1737頁. 本 判 決 は,窃 盗 被 告 事 件 に 際 し,刑 訴 応 急 措 置法4条(現. 行刑 訴 法36条. と同 様 の 規 定)に お い て 国 選弁 護 人選 任 要 件 と して,被 告 人 の経 済 事 情 等 に よ る選 任 困 難性 及 び 被告 人 の請 求 が挙 げ られ て い る点 が,そ の よ うな要 件 を 定 め て い な い憲 法37条3項. に違 反 す る もの で は な い か が 問題 とな った. 事 例 で あ る。 最 高 裁 大 法 廷 は,「 弁 護 人 を 選 任 す る こ と は原 則 と して 被 告 人 の 自由意 思 に委 せ られ て い る の で あ って,被 告 人 が貧 困 そ の他 の事 由 の 有 無 に拘 らず 弁 護 人 を選 任 す る意 思 の な い場 合 に は,刑 訴 法 上 い わ ゆ る強 制 弁 護 の場 合 を 除 い て は,国 が積 極 的 に被 告 人 の た め に弁 護 人 を選 任 す る 必 要 は な い の で あ る。 従 って被 告 人 が 貧 困 そ の他 の事 由 で弁 護 人 を依 頼 で き な い と き で も国 に対 して弁 護 人 の選 任 を請 求 す る者 に対 して弁 護 人 を 附 す れ ば足 る の で あ る の み な らず,被 告 人 が 自 ら弁 護 人 を依 頼 で き な い事 由 が あ るか ど うか は,被 告 人 側 に 存 す る事 由 で 国 に は判 ら な い の で あ るか ら,被 告 人 の請 求 に よ っ て弁 護 人 を附 す る こ と にす る こ とが 相 当で あ る。」 と判 示 し,憲 法 上 何 ら条 件 が 定 め られ て て いな いの に法 律 に よ って 制 限 を 加 え る こ と は憲 法 違 反 で あ る,と の 主 張 を 退 けた 。 一123一.

(4) 近畿大学法学 ②. 第55巻第1号. 最 大 判 昭 和26年1月31日. 集 刑39号949頁. 本 判 決 は,所 得 税 法 等 違 反 被 告 事 件 に 際 し,弁 護 人 が 裁 判所 か らの 公 判 期 日へ の 召 喚 状 を 受 けな が ら出 頭 しな か った た め,裁 判 所 は,弁 護 人 不在 の ま ま 当 該 期 日に お け る審理 を 行 った こ とが,国 選 弁 護 人依 頼 権 を保 障 す る憲 法37条3項. に違 反 す る もの で は な い か が 問題 とな った事 例 で あ る。 最. 高 裁 は,「 憲 法37条3項. 前 段 は刑 事 被 告 人 に対 しい か な る場 合 に も被 告 人. 自 ら資格 を 有 す る弁 護 人 を依 頼 し得 る こ とを保 障 した もの で あ り,ま た 同 項 後段 及 び刑 訴 応 急 措 置法4条. は被 告 人 に お い て 自 ら弁 護 人 を依 頼 す る こ. とが 出来 な い とき に 国 に対 し弁 護 人 を選 任 す る こ と を請 求 す る権 利 が あ る こ とを認 め た もの で あ って刑 事 事 件 につ い て は い か な る事 件 で あ っ て も例 外 な しに弁 護 人 が な け れ ば,公 判 を開 廷 す る こ とが で き な い こ と を規 定 し た もの で は な い。」と判 示 し,被 告 人 が 弁 護 人 な く公 判 に お け る応 訴 を強 制 さ れ た こ と は憲 法37条3項 ③. に違 反 す る,と の主 張 を退 け た。. 最 大 判 昭和28年4月1日. 刑 集7巻4号713頁. 本 判 決 は,恐 喝 未 遂 被 告 事 件 に際 し,第 一 審 判 決 後,被 告 人 が 控 訴 を 提 起 し,自 ら控 訴 趣 意 書 を提 出 したが,国 選 弁 護 人 の 請 求 は右 趣 意 書 提 出期 限 の2日 前 で あ り,右 期 限 延 長 の 申立 が 却 下 され た た め,弁 護 人 自身 が 控 訴 趣 意 書 を提 出す る こ と な く,被 告 人 が 提 出 した 趣 意 書 の み に基 づ いて 弁 護 を した と い う点 が,や. は り憲 法37条3項. に違 反 す る もの で はな いか が 問. 題 と な っ た事 例 で あ る。 最 高 裁 は,先 行 判 例 を 引 用 の 上,さ. ら に 「必 要 的. 弁 護 事 件 の 控 訴 審 に お いて 被 告 人 が 控 訴 趣 意 書 提 出 期 間 内 に国 選 弁 護 人 を して 控 訴 趣 意 書 を 作 成 提 出 させ る こ とが で き る よ うな 適 当な 時 期 に弁 護 人 の 選 任 を 請 求 した にか か わ らず,裁 判 所 が故 な くそ の 選 任 を 遅 滞 し,控 訴 趣 意 書 提 出 期 間 経 過 後 に これ を 選 任 し,為 に 弁 護 人 を して 控 訴 趣意 書 を提 出 せ しめ る機 会 を 失 わ しめ た よ うな場 合 は,被 告 人 の 憲 法37条3項. によ っ. て 保 障 され た 権 利 の 行 使 を 妨 げ た もの と して憲 法 違 反 の 問題 を生 ず るの で 一124一.

(5) 死刑判決 に対する上訴取下 の有効性 あ るが,被 告 人 が そ の 責 に 帰 す べ き事 由 に よ り控 訴 趣 意 書 提 出期 間 内 に控 訴 趣 意 書 を 提 出 で き るよ うな適 当 な 時期 に弁 護 人 選 任 の請 求 を しな か った よ うな場 合 は 裁判 所 が控 訴 趣 意 書 提 出期 間経 過 後 に弁 護 人 を選 任 して も, 毫 も被 告 人 の 憲法 上 の権 利 の行 使 を妨 げ た もの で は な い か ら憲 法 違 反 とい う こ とは で き な い の で あ って,右 の よ うな場 合 に裁 判 所 は控 訴 趣 意 書 提 出 最 終 日の 指定 替 を して,弁 護 人 に改 め て控 訴 趣 意 書 提 出 の機 会 を与 え な け れ ば な らな い憲 法 上 の義 務 を負 う もの で は な い。」 と判 示 し,必 要 的弁 護 事 件 の場 合 は,被 告 人 の請 求 如 何(ま. た,請 求 が な さ れ な か った事 情 如 何). に か か わ らず 弁 護 人 を任 命 し,そ の弁 護 活 動 を十 分 保 障 す る の で な けれ ば 憲 法37条3項. に違 反 す る,と の主 張 を退 け た。. 以 上 の 最 高 裁 大 法 廷 判 例 の ポ イ ン トを ま と め る と,以 下 の と お りで あ る。 す な わ ち,刑 訴 法36条 に定 め られ た要 件 は法 制 度 と して 合 理 的 な もの で あ り,憲 法 上 の保 障 に反 す る もの で はな い。 それ ゆえ,同 条 の 要 件 が 充 足 さ れ な い場 合,一 定 期 間 弁 護 人 が 不 在 で あ る と い う事 態 が 生 じた と して も,そ れ は,憲 法 上 及 び刑 訴 法 上 当然 に想 定 され た 事 態 で あ る。 こ との こ と は,必 要 的 弁 護 制 度 も,国 選 弁 護 制 度 との か か わ りに お いて 憲 法37条3 項 の 保 障 が 及 ぶ 場 合 が あ る と して も,や は り,弁 護 人 不 在 と い う事 態 の 発 生 が 直 ち に憲 法 違 反 とな る もの で はな い。 (2)以 上 を 前 提 に,本 決 定 の 判 示事 項 につ い て検 討 す る。 まず,憲 法37条3項. は 「公 訴 提 起 の 当初 か ら判 決確 定 に至 る まで の 間,. 間 断 な く弁 護 人 が 付 さ れ る こ と ま で保 障 した もの で は な[い]」. と の判 示. につ いて。 従 来 の 一 連 の 大 法 廷 判例 に 見 る とお り,弁 護 人 選 任 に 際 しあ く まで 被 告 人 の 意 思 が 尊 重 され るべ きで あ り,国 選 弁 護 人 選任 に 際 して の諸 要 件 も被 告 人 自身 の選 任 請 求 に よ って 初 め て 調 査 され るべ き事 項 で あ っ て,裁 判所 が む や み に 被 告 人 の弁 護 関係 に介 入 す べ き で は な い こ とを考 え る と,刑 訴 法 に定 め られ た被 告 人 自身 の選 任 困難 と,そ の選 任 請 求 とい う 一125一.

(6) 近畿大学法学. 第55巻第1号. 要 件 に は合 理 性 が認 め られ る。 そ れ ゆ え,憲 法37条3項. は,手 続 の 状 況 か. ら刑 訴 法 に定 め られ た要 件 が 具 備 され る まで の 間 は弁 護 人 が 不 在 の 状 態 が 生 じる とい うこ とま で否 定 す る もので はな い,つ ま り,弁 護 人 の 存在 に 「間 断 」が 生 じる こ と は,憲 法37条3項. が 予 め想 定 す る事 態 で あ る とい え よ う。. もっ と も,そ の こ とか ら,直 ち に,「被 告 人 が 控 訴 を 取 り下 げ る際 に弁 護 人 が 付 され て いな くと も同 項 に違 反 す る もの で な い 」 とい え るか は 問 題 で あ る。 例 え ば,憲 法 学 者 の佐 藤 幸 治(1)は,憲 法37条3項 を 依 頼 す る こ とが で き る』 と は,34条 る と あ る場 合 と同 様,単. にお け る 「『弁 護 人. に 『弁 護 人 を 依 頼 す る権 利 』 を 有 す. に弁 護 人 の 選 任 を 禁 ず る こ とが で きな い とい う こ. と に と ど ま らず,そ れ を 実 質 的 ・効 果 的 な もの とす るよ うな 保 障 を 含 む も の と解 さ れ る。」 と述 べ て い る が,こ れ に よ る と,単 に被 告 人 に お い て 国 選 弁 護 の 任 命 を 請 求 す る機 会 が 与 え られ,そ れ が 不 当 に 妨 げ られ て は な ら な い とい う に と ど ま らず,被 告 人 が 実 際 に 効 果 的 な 弁 護 を 受 け る こ と ま で,憲 法37条3項. に よ って 保 障 され て い る とい うべ き で あ ろ う。 この よ う. な 考 え 方 は,近 時 の 最 高 裁 判例 に もそ の端 緒 を見 出 す こ とが で き る。 例 え ば,接 見 指 定 制度 の 合 憲性 が 問題 とな った最 大 判 平 成11年3月24日 巻3号514頁. 民 集53. は,憲 法34条 に つ い て 「弁 護 人 か ら援 助 を受 け る機 会 を持 つ こ. とを実 質 的 に保 障」 され る べ き もの で あ る と判 示 し,ま た,い わ ゆ る 「面 会 接 見 」 につ い て 検 討 を加 え た 最 判 平 成17年4月19日. 民 集59巻3号563頁. は,「 面 会 接 見 が で き る よ うに特 別 の 配 慮 を す べ き義 務 」 を措 定 して い る が,こ れ らの判 示 は,憲 法 上 の弁 護 人 依 頼 権 は,弁 護 人 を求 め る と い う形 式 的 な権 利 に と ど ま らず,被 告 人 が実 効 的 な弁 護 を受 け う るべ き実 質 的 権 利 と して保 障 さ れ るべ き で あ る,と の考 え 方 を示 す も の で あ る。 これ らの 判 例 及 び学 説 か らは,被 告 人 の 手 続 保 障 に と って 本 質 的 な場 面 に お い て. (1)樋. 口他[佐 藤 幸 治]『 注 解 法 律 学 全 集 一126一. 憲 法II』353頁(1997年,青. 林 書 院)。.

(7) 死刑判決 に対 する上訴取下 の有効性 は,弁 護 人 が選 任 され,そ れ に よ って効 果 的 な弁 護 を受 け て い る こ とが必 要 で あ る,と の帰 結 が導 か れ よ う。 この帰 結 を,本 件 の よ うな控 訴 取 下 と い う訴 訟 行 為 が行 わ れ る場 面 に 当 て は め る と,以 下 の考 察 に い た る。 す な わ ち,被 告 人 の控 訴 取 下 に よ り手 続 は終 結 し,原 判 決 が確 定 し,そ こで科 され た刑 罰 に つ い て執 行 力 が生 じる。 被 告 人 の控 訴 取 下 とい う訴 訟 行 為 が 右 の よ うに重 大 な効 果 を生 じ させ る もの で あ る以 上,ま. さ に そ れ は被 告 人. の手 続 保 障 に と って本 質 的 な場 面 で あ り,そ の よ うな訴 訟 行 為 を行 うに あ た って弁 護 人 依 頼 権 の実 質 的保 障,す な わ ち実 効 的 な弁 護 を受 け る権 利 の 保 障 は及 ん で い る とい うべ き で あ ろ う。 も っ と も,本 決 定 が 引用 す る前 出最 高 裁 大 法 廷 判 例 が指 摘 す る とお り, 国選 弁 護 の選 任 に 際 し,被 告 人 に よ る選 任 困難 と,そ の選 任 請 求 とい う要 件 自体 は,合 理 性 を持 つ もの で あ る。 例 え ば,第 一 審 が軽 微 事 件(つ. まり. 任 意 的弁 護 事 件)で あ り,弁 護 人 の 選 任 な く公 判 が 行 わ れ た 事 例 に お い て, 被 告 人 が い った ん控 訴 提 起 し,そ の後 これ を取 り下 げ た とい うよ うな事 例 に お い て,そ の場 面 で被 告 人 の請 求 が な か った た め に 国選 弁 護 人 が 選 任 さ れ て い な か った とい う場 合,こ. れ の み を も って憲 法37条3項. に反 す る とは. い え な い で あ ろ う。 しか し,本 件 は,す で に第 一 審 で被 告 人 の請 求 に基 づ い て 国 選 弁 護 人 が 選 任 され て い た と い う事 例 で あ る(2)。しか も,事 件 自体 も重 大 で あ り,必 要 的 弁 護 事 件 に も該 当す る。 この よ うな 事 情 か ら,仮 に, 第 一 審 判 決 後 に被 告 人 よ り改 め て 明示 の選 任 請 求 が 出 さ れ て い な い と して も,こ の手 続 段 階 の重 要 性(前 述)を 考 慮 す る な らば,被 告 人 が 当該 訴 訟. (2)岡. 田悦 典 「最 新 判 例 演 習 教 室 」 法 セ ミ569号103頁(2002年)は,本. 決 定 を請. 求 法 理 で 基礎 づ け られ た もの で あ る と分 析 し,公 正 手 続 の 観 点 か ら上 訴 権 行 使 の段 階 で 弁 護 人 間 の 連 携 の 重 要 性 を 説 き,「 請 求 法 理 で 済 ま さ れ る もの で は な い」 と批 判 す る。 そ の 理論 付 け は 注 目に 値 す べ き もの で あ るが,請 求 法 理 を前 提 と して も,本 文 の よ うな理 論 構 成 を採 る こ と で 同様 の結 論 を導 き う る。 一127一.

(8) 近畿大学法学. 第55巻第1号. 活 動 を 行 う にあ た り国 選 弁 護 人 の 実 効 的 な援 助 を受 け る こ とは憲 法37条3 項 が 要 請 す る もの で あ る とい え よ う(3)。 ち な み に,原 決 定 は,「弁 護 人 不 在 で あ る こ と に よ って 被 告 人 の不 利 益 が 看 過 しが た い ほ ど に重 大 で あ る な ど」 と い う 「特 段 の事 情 」 を 要 件 と して 限 定 を加 え つ つ も,「 控 訴 取 下 げ が 重 要 な法 的 効 果 を伴 う訴 訟 行 為 で あ る こ とか らす る と,… …弁 護 人 不 在 の 状 態 で の 控 訴 取 下 げ に つ い て 憲 法37条3項. 違 反 を 論 じ る余 地 もあ り得. る」 こ とを認 め て い る(結 論 は 消極)。 そ れ ゆ え,本 決 定 の 「被 告 人 が控 訴 を取 り下 げ る際 に弁 護 人 が付 さ れ て い な く と も同項 に違 反 す る もの で な い」 と の判 示 部 分 は,少 な く と も本 件 事 例 に お い て,憲 法37条3項. の解 釈 ・適 用 と して は失 当 で あ った と思 われ. る。. 2。 弁 護 人 が 付 され て い な い状 態 で の 控 訴 取 下 の 効 力 前 述 の とお り,憲 法37条3項. の保 障 は,少 な くと も本 件 事 例 に お け る控. 訴 取 下 に 際 し弁 護 人 が 選 任 され て い る こ と を 要 求 す る もの で あ る とす る と,弁 護 人 不 在 の下 で 被 告 人 自身 が 行 った 控 訴 取 下 と い う訴 訟 行 為 につ い て,そ の 有 効 性 が 問 題 とな る。 この 点 につ いて,確 か に,当 該 訴 訟 行 為 の 主 体 は 被 告 人 自身 で あ り,彼 自身 に訴 訟 行 為 能 力 が 認 め られ るの で あ れ ば(後 述 で検 討),弁 護 人 選 任 の 如 何 にか か わ らず,当 該 訴 訟 行 為 の 有 効 性 は 認 め られ る と もい え よ う。 し か し,自 白 につ いて,被 疑 者 ・被 告 人 の 弁 護 人 依 頼 権 が 侵 害 され た 状 態 で 得 られ た もの で あ る との 理 由で これ を 証 拠 か ら排 除 した 一 連 の 下 級 審 裁 判. (3)小. 林 充 「本 件 原 々決 定 解 説 」平 成14年 重 判 解187頁(2003年)は,控. 訴 趣 意書. 提 出 と異 な り,控 訴 取 下 に は法 律 的 知 識 が 不 要 で あ る と して,憲 法37条3項. は. この 段 階 で 弁 護 人 に よ る援 助 を 要 請 す る もので は な い とす る が,控 訴 取 下 の 効 果 を 考 え る と疑 問 で あ る。 一128一.

(9) 死刑判決 に対す る上訴取下の有効性 例 ω とパ ラ レル に考 え る な らば,被 告 人 の 訴 訟 行 為 能 力 の存 否 にか か わ ら ず,憲 法37条3項. で保 障 され た国 選 弁 護 人 の 弁 護 を 受 け る権 利 を 侵 害 され. た と い う理 由 で,当 該 控 訴 取 下 は無 効 にな る もの と い うべ きで あ ろ う(5)。. 3.控. 訴 申立 後 の 原 審 弁 護 人 選 任 の 効 力. (1)前 述 の とお り,本 件 にお いて,被 告 人 が控 訴 取 下 を 行 った 時 点 で 弁 護 人 が 不 在 で あ る とす る と,憲 法37条3項. 違 反 を理 由 に当 該 訴訟 行 為 は 無. 効 で あ る との 帰 結 が 導 か れ る。 も っ と も,こ の点 につ い て,原 々決 定 で は, 結 論 にお い て,問 題 の 時 点 で 被告 人 に は弁 護 人 が 付 され て お り,実 際 に も 弁 護 を 受 けて い た,と 判 断 して い る。 この点 は,弁 護 人 選 任 効 力 の 終 期 論 つ ま り 「審 級 代 理 原 則 」(刑 訴 法32条2項)の. 解 釈 問 題 と して,従 来 か ら. 以 下 の とお り議 論 され て き た(6)。 第一 説 は,弁 護 人選 任 の効 力 は終 局 裁 判 言 渡 の時 点 ま で,と す る見 解 で あ る。 この 見解 は,例 え ば,大 判 大 正14年9月29日 て 旧刑 訴 法379条(現. 大 刑 集4巻551頁. におい. 行355条 と同様 の規 定)の 解 釈 問 題 と して 「訴 訟 力裁. 判 ノ宣 告 二 因 リ其 ノ審 級 ヲ脱 離 シタル 後 二 於 テ辮 護 人 トシテ辮 護 届 ヲ提 出 シタ ル者 ノ如 キハ 原 審 二 於 ケル 辮 護 人 ト謂 フニ 由 ナ キ ヲ以 テ上 訴 ヲ爲 ス ヲ. (4)大 阪 高 判 昭 和35年5月26日 月20日 判 示563号95頁,大 和46年5月15日. 下 刑 集2巻5=6号676頁,函. 阪地 判 昭和44年5月1日. 館 地 判 昭 和43年11. 判 タ240号291頁,大. 阪地判昭. 判 時640号20頁 な ど。. (5)な お,控 訴 取 下 の有 効 性 に 関す る一 般 的 問題 点 に つ い て は,辻 本 典 央 「上 訴 放 棄 及 び取 下 の 諸 問 題 」 近 法55巻1号(本. 号)参 照 。. (6)大 阪 実 務 研 究 会 編 著[森 下 康 弘]「 弁 護 人 の権 限 の 時 間 的 範 囲 」 『刑 事 実 務 上 の 諸 問 題 』41頁(1993年,判. 例 タ イ ム ズ社),井 上 弘通 「国 選 弁 護 人 を 付 され た. 被 告 人 が 判 決 宣 告 後 上 訴 申立 て の た め公 判 調 書 の 閲 覧 を請 求 す る こ との 可 否 」 平 成4年 最 判 解 刑 事 篇175頁(1994年)。. 原 判 決 後 に選 任 さ れ た弁 護 人 の地 位 の. 問 題 に つ い て は,辻 本 典 央 「刑 事 手 続 に お け る抗 告 適 格 」 近 法54巻1号43頁 (2006年)参. 照。 一129一.

(10) 近畿大学 法学. 第55巻第1号. 得 サ ル ヤ 勿論 ナ リ」 と判 示 され て い た よ うに(大 判 昭和7年12月1日. 大刑. 集11巻1756頁 も同 旨),審 級 離 脱 を裁 判 宣 告 時 に認 め る と い う確 立 した判 例 の理 解 を 基 に,弁 護 人選 任 の効 力 もこ れ と リ ンク させ て理 解 す る もの で あ り,少 な く と も旧法 時代 に お い て は,判 例 ・学 説 に お け る通 説 的 見 解 で あ った と評 価 さ れ て い る。 も っと も,こ の見 解 に対 して は,そ れ が 基 礎 と す る審 級 離 脱 を裁 判 宣 告 時 とす る と,判 決 宣 告 後 か ら上 訴 申立 まで の 間 は いず れ の審 級 に も属 さ な い と い う不 都 合 が 生 じる と い う問 題 点 が あ る こ と か ら,学 説 上 強 い批 判 が 向 け られ て い た⑦。 第 二 説 は,上 訴 申立 また は上 訴 期 間 が経 過 す る まで,と す る見 解 で あ る。 す な わ ち,こ の見 解 は,審 級 離 脱 につ いて の 前 述 判 例 の 理 解 に対 す る批 判 か ら,学 説 上,上 訴 申立 また は上 訴 期 間 が 途 過 す る時 点 まで は 審 級 離 脱 ・ 移 審 の 効 力 は 生 ぜ ず,訴 訟 は原 審 に係 属 し た ま ま で あ る と の理 解 を前 提 に,こ の 時 点 まで は原 審 弁 護 人 の 選 任 の 効 力 も存 続 す る と主 張 す る。 つ ま り,第 一 説 との 対 比 にお いて,弁 護 人 選任 の 効 力 を審 級 離 脱 ・移 審 の 効 力 と リン ク させ る点 で 共 通 す るが,そ の 前提 で あ る審級 離 脱 ・移 審 の 効 力 の 発 生 時 点 を 異 な って 理 解 す る点 に差 異 が 見 られ る。 本 件 原 々決 定 も この 立 場 に立 ち,現 在 の通 説 的 見解 と して,実 務 一 般 で もそ の よ うな扱 い が な され て い る,と 言 わ れ て い る⑧。 もっ と も,判 例 の 考 え 方 は,結 論 こそ 学説 と共 通 で あ るが,審 級 離 脱 ・移 審 の効 力 論 との 関 係 に お い て は,学 説 とは異 な り,こ れ を切 り離 して理 解 す る もの で あ る こ とに 注意 が必 要 で あ ろ う。 す な わ ち,最 大 決 昭和63年2月17日. 刑 集42巻2. 号299頁 に よ る と,原 判 決 後,上 訴 申立 ま で に選 任 され た弁 護 人 は上 訴 審 弁. (7)小 野 清一 郎 『刑 事 訴 訟 法 講 義 ・全 訂 第3版 』523頁(1933年,有 英 脩 『刑 事 訴 訟 法 大 綱 』407頁(1936年,松 (8)本 件 原 々決 定 の判 例 タ イ ム ズ匿 名解 説(判 一130一. 華 堂)。 タ1088号106頁)。. 斐 閣),宮. 本.

(11) 死刑判決 に対す る上訴取下 の有効性 護 人 と位 置 づ け られ るが,そ れ はす で に原 判 決 宣 告 の時 点 で審 級 離 脱 が 生 じて い る こ と を前 提 とす る もの と理 解 され る こ と(9),また,最 決 平 成4年 12月14日 刑 集46巻9号675頁(原. 判 決 の 翌 日 に被 告 人 よ りな され た 公 判 調. 書 の 閲 覧請 求 に つ い て原 審 弁 護 人 の選 任 効 力 は依 然 と して存 続 して い る と して却 下 され た事 例)に お け る藤 島裁 判 官 の 補 足 意 見 で は,は っき り と 「判 決 宣 告 に よ って訴 訟 は 原 審 を離 脱 す る と考 え られ る。」 と指 摘 され て い る こ とか ら,最 高 裁 判 例 は,依 然 と して原 判 決 宣 告 に よ って 審 級 離 脱 を認 め る見 解 で あ る とい え よ う。 そ れ を前 提 に,右 最 決 平 成4年 で は 「弁 護 人 選 任 の効 力 は判 決 宣 告 に よ って失 われ る もので は な い」 と結 論 され,同 藤 島 補 足 意 見 で は 「判 決 宣 告 前 に選 任 さ れ た 弁 護 人 は刑 訴 法355条 に よ り上 訴 申立 て の権 限 を有 す る。 そ うす る と,そ の 権 限 行 使 を検 討 す る上 で 必 要 な 一 切 の訴 訟 行 為 を行 う こ とが で き る はず で あ るか ら,そ の 限 度 で 弁 護 人 選 任 の 効 力 が 判 決 宣 告 後 も持 続 す る と考 え るの が 相 当 で あ る。」 と述 べ られ て い る よ うに,審 級 代 理 の問 題 と審 級 離 脱 ・移 審 の 効 力 の 時 期 との 問 題 と を リ ン クさせ な い点 に,判 例 理 論 の 特 徴 が 認 め られ るべ きで あ る(そ れ ゆ え,理 論 的 に は,学 説 で通 説 的 に主 張 され る見 解 と は区 別 され るべ きで あ ろ う)。 も っ と も,こ の よ う に理 解 す るな らば,第 一 審 で 弁 護 人 が選 任 さ れ,判 決 後 上 訴 提 起 まで に さ らに弁 護 人 が 選 任 され た 場 合,原 審 弁 護 人 と 上 訴 審 弁 護 人 とが並 存 す る場 面 が 生 じ得 るが,各. 々権 限 行 使 にお け る優 先. 関係 等,実 際 の場 面 で法 律 関 係 が 複 雑 な もの とな る こ と は避 け られ な い で あ ろ う。. (9)最 高 裁 調 査 官 解 説 で は,審 級 代 理 の 問題 と移 審 の 効 力 の 問 題 とは 必 ず し も リ ンクす る必 要 は な い と説 明 さ れ て い る(安 廣文 夫 ・最 高 裁 判 所 判 例 解説 刑 事 編 昭 和63年 度95,116頁(1991年))。 紹 介 して い る が,そ. 前 出判 タ解 説 で は,こ の 見 解 を 第 四 説 と して. うで あ る な らば,第 二 説 が 「 実 務 一般 の 扱 い 」 で あ る と評. 価 す る こ と は不 正 確 で あ る と思 わ れ る。 一131一.

(12) 近畿大学法学. 第55巻第1号. 第 三 説 は,第 二 説 を 前 提 に,上 訴 申 立 が な され た場 合 に は訴 訟 記 録 が上 訴 裁 判 所 に 送 付 され る時 点 まで 原 審弁 護 人 選 任効 力 を認 め る見解 で あ る。 この 見 解 は,審 級 離 脱 ・移 審 の 効 力 が発 生 す る 時期 を 基本 的 に第 二 説 と同 様 に 理 解 す るが,そ れ を さ らに実 質 的 に考 察 し,第 二 説 に よ る な らば上 訴 申 立 後 に 上訴 審 に訴 訟 記 録 が到 達 す る ま で は(実 質 的 に)空 白 の期 間 が生 じ う る と い う問題 点 に着 目 した もの で あ るω。 例 え ば,東 京 高 決 平 成12年 4月20日 判 タ1032号298頁 は,第 一 審 無 罪 判 決 後 に検 察 官 よ り控 訴 が 提 起 さ れ,勾 留 が請 求 され た が,裁 判 所 が刑 訴 法97条2項,刑 に基 づ い て請 求 を却 下 した とい う事 例 で あ るが,右. 訴 規 則92条2項. 引用 法 令 は,第 三 説 の. 根 拠 と して指 摘 さ れ うる とこ ろ で あ る。 以 上 の と お り,弁 護 人 選 任 効 力 の終 期 論 につ いて 対 立 が見 られ る と こ ろ で あ る が,こ れ を本 件 に あ て は め る と,い ず れ の 見 解 か ら も原 審 弁 護 人 選 任 効 力 は,被 告 人 が控 訴 を取 り下 げ た時 点 で す で に消 滅 して いた と い う結 論 が導 か れ よ う(高 裁 へ の訴 訟 記 録 送 付 の 有 無 は定 か で はな いが,現 判 決 宣 告 か ら20日 経 過 して お り,す で に送 付 済 で あ った と推 測 され る(刑 訴 法 51条,刑 訴 規 則52条))。 ち なみ に,原 々決 定 は,前 述 の とお り結 論 にお い て 第 二 説 に た ち,「刑 訴 法32条2項. に よれ ば,弁 護 人 の選 任 は,審 級 ご と に. され な けれ ば な らな い と され て お り,そ の審 級 は,上 訴 提 起 期 間 の満 了(終 局 裁 判 の 確 定)ま た は上 訴 の 申立 て に よ る移 審 に よ って 終 了 す る もの と解 され るか ら,弁 護 人 選 任 の 効 力 も当該 審級 の 終 了 に よ り原 則 と して効 力 を 失 う こ と にな る。」 と判 示 して い る。 (2)も. っ と も,原 々決 定 は,右 原 則 に 対 し,「 本 件 の よ う に刑 訴 法355条. に よ り原 審 弁 護 人 か ら上 訴 の 申 立 て が な され た場 合 は別 で,原 審 弁 護 人 は. ⑩. 坂 本 武 志 『刑 事 訴 訟 法 』17頁(1992年,酒. 井 書 店),加. 護 人選 任 の 効 力」 平 成4年 重 判解205頁(1993年)。 一132一. 藤 克 佳 「判 決 宣 告 と弁.

(13) 死刑判決 に対す る上訴取下の有効性 控 訴 な い し上 告 趣 意 書 を作 成 す る権 限 を有 して お り(引 用 判 例 省 略),そ れ に と もな い訴 訟 記 録 の 閲覧 ・謄 写 あ る い は勾 留 中の 被 告 人 と の接 見 交 通 等 の弁 護 活 動 を なす こ と が で き,弁 護 人 選 任 の 効 力 は な お存 続 して い る もの と解 さ れ る。」 と判 示 し,原 審 弁 護 人 選 任 効 力 は依 然 と して 存 続 して いた と 判 断 した。 原 々決 定 の こ の よ う な帰 結 は,例 え ば,そ こで 引 用 され た 最 大 判 昭 和29年7月7日. 刑 集8巻7号1052頁. が 「上 告 の 申 立 と上 告 の 理 由 と は. 本 質 的 に は一 体 不 可 分 の関 係 が あ る と言 うべ きで あ る。 され ば,上 告 の 申 立 をす る こ と を認 め られ て い る原 審 弁 護 人 は,そ の な した 上 告 申 立 に つ き その 理 由を 提 出す る こ とを も認 め られ て い る と解 す るの が 事理 に適 す る も の と言 わ な け れ ば な らぬ 。」 と判 示 して い た よ う に(最 判 昭 和29年12月24 日刑 集8巻13号2336頁. も同 旨),従 来 か らの判 例 理 論 と一 致 す る もの で あ. る。 この よ うな 理 解 か らは,本 件 にお い て も,原 審 弁 護 人 選 任 効 力 は,(1)で 検 討 した 弁 護 人 選 任 効 力 終 期論 の例 外 と して,な お存 続 して い た とい う こ とが で き る。 (3)原. 々決 定 は,右 の とお り,理 論 的考 察 に お い て,本 件 で控 訴 取 下 が. な さ れ た 時 点 で な お も被 告 人 に は 弁 護 人 が 付 さ れ て い た との 結 論 を 導 い た。 も っ と も,原 々決 定 は,さ. らに 「実 務 の取 扱 い は,従 前 か ら上 記 原 則. の み に よ って い るの が一 般 の よ うで あ り,原 審 弁 護 人 に お い て,弁 護 人 選 任 の効 力 が な お存 続 して い る とい う認 識 が あ ったか 判 然 と しな い」 と判 示 し,実 際上 も被 告 人 は弁 護 人 に よ る弁 護 を受 け て い たか,と. い う問 題 を検. 討 して い る。 そ して,原 々決 定 は,「 原 審 弁 護 人 らは,原 判 決 の言 渡 し後, 本 件 控 訴 取 下 げ ま で二 度 に わ た り,刑 訴 法39条1項. に よ り弁 護 人 にの み 認. め られ る と ころ の,立 会 人 な く して 申立 人 と接 見 を行 って お り,申 立 人 に 控 訴 の取 下 げ を しな い よ うに強 く説 得 して い る こ とが 認 め られ るの で,申 立 人 は,控 訴 取 下 げ を行 うに あ た り,弁 護 人 の 弁 護 活 動 を 受 けて い る もの 一133一.

(14) 近 畿大 学法学. 第55巻第1号. と い っ て よ い。」 と して,最 終 的 に,弁 護 人 不 在 で 行 わ れ た控 訴 取 下 は無 効 で あ る との主 張 を退 け た。 原 々決定 は,(2)で 検 討 した よ うに,理 論 的 に弁 護 人 は不 在 で は なか った との結 論 を導 い て お り,そ もそ も(3)の検 討 は不 要 で あ った はず で あ るが, な お も,具 体 的事 情 に お け る弁 護 活 動 の 内容 に 目 を 向 け た考 察 を行 って お り,弁 護 人 依 頼 権 の実 質 的保 障 とい う観 点 か らは,支 持 され るべ きで あ る と思 わ れ る。 も っ と も,本 件 が死 刑 事 件 で あ る こ と を考 え る と,控 訴 取 下 に 際 し,二 度 の接 見 で十 分 な弁 護 を受 けて い た と いえ るか は,な お検 討 の 余 地 が あ る と思 わ れ る。 ま た,本 件 の よ う に,弁 護 人 のみ か らの 上 訴 に対 し,被 告 人 自身 が これ を取 下 す る とい った事 例 で は,こ れ を受 理 す る に際 して も,弁 護 人 に そ の意 見 を求 め,再 考 の 機 会 を 与 え る な どの 措 置 が 要 求 され る とい うべ き で は な い だ ろ うか(例 え ば,刑 訴 法326条 の 証 拠 同 意 の 場 合 の よ うに)o. 4.死. 刑 判 決 を受 け た被 告 人 の 控 訴 取 下 の 効 力. 本 件 は,弁 護 人 依 頼 権 の観 点 に加 え て,被 告 人 自身 に よ る控 訴 取 下 につ い て,特 に第 一 審 判 決 が 死 刑 判 決 で あ る と い う事 情 を 考 慮 に入 れ た 考 察 が 要 求 され る。 本 研 究 で は,以 下,(1)刑 訴 法360条 の2類 推 適 用 の可 否,(2)被 告 人 の訴 訟 行 為 能 力 と い う二 つ の 観 点 か ら考 察 を 加 え る。 (1)刑 訴 法360条 の2類 推 適 用 の可 否 刑 訴 法360条 の2に よ る と,死 刑 判 決 を受 け た被 告 人 は,「 上 訴 … … を 放 棄 す る こ とが で きな い」。 本 条 が,そ の文 言 にか か わ らず,本 件 の よ うな 上 訴 取 下 に も(類 推)適 用 され るな らば,本 件 控 訴 取 下 は 無 効 で あ る とい う こ と にな る。 この 問 題 は,本 件 で 争 点 とは され て い な い た め,こ. こで は,. 過 去 の 裁 判 例 を 指 摘 し,簡 潔 な 検 討 を 行 うに と どめ る。 す な わ ち,最 判 昭 和39年9月25日. 集 刑152号927頁 は,上 訴 放 棄 と上 訴 取. 一134一.

(15) 死刑判決に対す る上訴取下の有効性 下 と で本 条 の趣 旨が 妥 当す べ き点 にお いて 差 異 は な い とす る主 張 を 退 け, 特 段 の理 由 を付 す こ とな く,本 条 は上 訴 取 下 には 準 用(類 推 適 用)さ れ な い と断 じた。 確 か に,上 訴 取 下 が 上 訴 提 起 と時 間 的 に接 着 して 行 わ れ た 場 合 に は,上 訴 放 棄 との 間 で,被 告 人 の 軽 率 な 上 訴 権 処 分 を 制 限 す る とい う 趣 旨 が 妥 当 す べ き とす る弁 護 人 の主 張 も,相 当 の 合 理 性 が 認 め られ る。 も っ と も,上 訴 取 下 は,時 間 的 に か な り遅 い段 階 で も行 わ れ う る もの で あ り,類 推 適 用 を 認 め る まで の 状 況 の 共通 性 が一 般 的 に認 め られ る わ け で は な い 。 原 判 決 との 時 間 的 接 着 状 況 に よ る被 告 人 の精 神 状 態 は,訴 訟 行 為 能 力 に お い て 判 断 され れ ば 足 り る とい え よ う。 そ れ ゆ え,本 条 の上 訴 取 下 へ の 類 推 適 用 は,否 定 され るべ き で あ る。 (2)被. 告 人 の訴 訟 行為 能 力. 控 訴 取 下 は,訴 訟 行 為,す. な わ ち 「訴 訟 手 続 を構 成 す る個 々 の行 為 で訴. 訟 法 的効 果 の認 め られ る もの」で あ り,「一 般 に行 為 者 に訴 訟 行 為 能 力 の存 す る こ とが必 要 で あ る」ω。 本 最 高 裁 決 定 で は 直 接 に 判 示 され て い な い が, 原 々決 定 及 び原 決 定 で は,被 告 人 の訴 訟 行 為 能 力 につ い て検 討 が加 え られ て い る。 い わ ゆ る訴 訟 行 為 論 は,以 前 か ら,刑 訴 法 上 の 基 礎 理 論 の 中 核 と して 様 々 な観 点 か ら議 論 が行 われ,個 別 の問 題 を検 討 す る に あ た って も,全 て を体 系 的 に理 解 す る こ とが 必 要 と な る。 も っ と も,こ こで は,そ の よ うな 議 論 を網 羅 的 に 叙 述 す る こ と は適 わ な い。 そ れ ゆ え,右. の点 は先 行 研 究⑫. に ゆ だね,以 下 で は,特 に上 訴 取 下 に際 して の 被 告 人 の 訴 訟 行 為 能 力(判. ω. 鈴 木 茂 嗣 『刑 事 訴 訟 法 。改 訂 版 』142頁(1990年,青. ⑫. 特 に代 表 的 な も の と して,団 藤 重 光 『訴 訟 状 態 と訴 訟 行 為 』(1949年,弘 堂),同. 『刑 法 と刑 事 訴 訟 法 との 交 錯』(1950年,弘. 法 の 基 礎理 論 』(1964年,日. 本 評 論 社),光. 有 斐 閣)。 一135一. 林 書 院)。 文. 文 堂),平 野 龍 一 『刑事 訴 訟. 藤景 咬 『刑 事訴 訟 行 為論 』(1974年,.

(16) 近畿大学法学. 第55巻第1号. 例 及 び学 説 上,「 訴 訟 能 力 」 と表 記 され る こ とが 多 い)が 問題 と され た 裁 判 例 を 指摘 し,本 件 の 検討 の 材 料 と した い。 最 高 裁 は,最 決 昭和29年7月30日. 刑 集8巻7号1231頁. に お い て,被 告 人. の訴 訟 行 為能 力 を 明確 に定 義 した。 この事 件 で は,被 告 人 が行 った控 訴 取 下 は,心 神 喪 失 の状 態 で行 わ れ た もの で あ り,無 効 で あ る との 主 張 に対 し, 裁 判 所 は,被 告 人 を刑 法 上 の責 任 無 能 力 者 で あ る とす る鑑 定 が存 在 す る こ とを前 提 に,「訴 訟 能 力 とい うの は,一 定 の 訴 訟 行 為 を な す に当 り,そ の行 為 の意 義 を理 解 し,自 己 の権 利 を守 る能 力 を指 す の で あ る」 と定 義 し,こ れ は,刑 法 上 の心 神 喪 失 者,す. な わ ち 「そ の犯 行 の 当時 に お い て行 為 の違. 法 性 を 意 識 す る こ とが で き ず 又 は これ に従 って 行 為 を す る こ と が で き な か った よ う な無 能 力 者 」 と は 「必 ず し も一 致 す る もの で は な い。」 と判 示 して,右 控 訴 取 下 無 効 の主 張 を退 け た。 こ こで は,一 般 論 と して 訴 訟 行 為 能 力 の定 義 が 示 され て い るが,刑 法 で い う心 神 喪 失 者 で あ る こ と は訴 訟 行 為 能 力 欠 如 の十 分 条 件 で は な い と され た こ とか ら,具 体 的 に,ど の よ う な 要 素 に よ って 訴 訟 行 為 能 力,つ. ま り自身 の 行 為 の 意 義 を理 解 し,自 己の 権. 利 を守 る能 力 が 検 討 され るべ きで あ るの か,と. い う課 題 が 残 され た。 その. 判 示 に着 目す る限 り,最 高 裁 と して の 見 解 は明 らか で はな いが,右 定 義 に よ るな ら ば,被 告 人 自身 の 「一 定 の 訴 訟 行 為 」 に対 す るそ の 意 味 の 認 識 を 前 提 と し,そ れ に基 づ いて 自 己の 権 利 を 守 る能 力 の 存 否 が 判 断 され るべ き もの で あ る よ う に思 わ れ る。 そ れ ゆえ,個 別 の 訴 訟 行 為 の 有 効 性 を 判 断 す る にあ た り,い か な る要素 が そ こに取 り込 ま れ るべ き か に つ い て は,「訴 訟 行 為 に応 じた 吟 味 が 必 要 で あ る」 とい え よ う⑬。 最 決 平 成7年6月28日. 刑 集49巻6号785頁. は,本 件 と 同 じ く,死 刑 判 決 を. 受 けた 被告 人 か らの 控 訴 取 下 につ い て,そ の 有 効性 が 問 題 とな った 事 例 で. ⑬. 鈴 木(前 掲 注(ID)『刑 事 訴 訟 法 』142頁 。 一136一.

(17) 死刑判決 に対す る上訴取下 の有効性 あ る。 最 高 裁 は,以 下 の よ うに判 示 し,被 告 人 の訴 訟 行 為 能 力 を認 め て控 訴 取 下 を 有 効 と判 断 した 原 々 決 定 及 び 原 決 定 を 取 り消 した。 す な わ ち, 「死 刑 判 決 に 対 す る上 訴 取 下 げ は,上 訴 に よ る 不 服 申 立 て の道 を 自 ら閉 ざ して死 刑 判 決 を確 定 さ せ る とい う重 大 な法 律 効 果 を伴 う もの で あ るか ら, 死 刑 判 決 の言 渡 しを受 け た被 告 人 が,そ の判 決 に不 服 が あ る の に,死 刑 判 決 宣 告 の衝 撃 及 び公 判 審 理 の重 圧 に伴 う精 神 的 苦 痛 に よ っ て拘 禁 反 応 等 の 精 神 障害 を生 じ,そ の影 響 下 に お い て,そ の苦 痛 か ら逃 れ る こ と を 目的 と して上 訴 を取 り下 げ た場 合 に は,そ の上 訴 取 下 げ は無 効 と解 す る のが 相 当 で あ る。 け だ し,被 告 人 の上 訴 取 下 げが 有 効 で あ る た め に は,被 告 人 に お い て上 訴 取 下 げ の意 義 を理 解 し,自 己 の権 利 を守 る能 力 を有 す る こ とが 必 要 で あ る と解 す べ き と こ ろ(引 用 判 例 省 略),右 の よ う な状 況 の下 で 上 訴 を 取 り下 げ た場 合,被 告 人 は,自 己 の権 利 を守 る能 力 を著 し く制 限 され て い た もの と い うべ き だか らで あ る」。 本 件 は,最 高 裁 調 査 官 解 説 ω よ り,死 刑 事 件 の特 殊 性 を念 頭 に,① 自 己の 権 利 を守 る能 力 が 著 し く制 限 され て いた 場 合 を も含 む(つ ま り,従 来 よ りも広 く捕 捉 され るべ き)こ と,② 精 神 障 害 だ けで な く,判 決 宣 告 の衝 撃 や,公 判 審 理 の 重 圧 と い っ た訴 訟 手 続 に伴 う精 神 的 苦 痛 を も考 慮 した点 に意 義 が あ る もの と紹 介 され て い る。 ① の 点 につ いて は,判 示 部 分 を見 る限 り,従 来 の 見 解 を 拡 張 した もの と まで い い う るか は疑 問 で あ るが,② の 点 につ いて は,特 に死 刑 判 決 にお け る上 訴 取 下 の 有 効 性 につ いて 重 視 され るべ き要 素 が 指 摘 され た もの で あ り,検 討 の 素 材 と して 有 益 で あ る と思 わ れ る。 これ を 前 提 に,本 件 原 々決 定,及. びこ. れ を 支 持 した 原 決 定 の 判 断 を 概 観 して お こ う。 原 々決 定 は,申 立 人 は,(i)長. 期 間 勾 留 に 基 づ く拘 禁 反 応 や 慢 性 的 頭. 痛 に悩 ま され て い た こ と,(ii)死. 刑 判 決 に直 面 し,信 頼 を 寄 せ て い た 原. ⑭. 中 谷 雄 二 郎 「判 例 解 説 」 平 成7年 最 判 解 刑事 篇260,274頁(1998年)。 一137一.

(18) 近畿大学法学. 第55巻第1号. 審 弁 護 人 が控 訴 審 で は弁 護 人 と して選 任 さ れ な い こ とを知 って,控 訴 審 に 対 し強 い 絶 望 感 を抱 い て い た こ とか ら,控 訴 取 下 と い う訴 訟 行 為 の重 大 な 意 味 や効 果 を 的確 に理 解 し,利 害 得 失 を合 理 的 に判 断 す る こ とが で きず, 訴 訟 行 為 能 力 を 欠 い て い た との 主 張 に対 し,(i)の 害 に よ る もの で は な い こ と,(ii)の. 点 に つ い て,精 神 障. 点 につ い て,同 種 事 犯 に よ り無 期 懲. 役 に処 せ られ た経 験 を持 つ 被 告 人 は,死 刑 判 決 を予 期 して い た と こ ろで あ り,公 判 で の反 省 ・悔 悟 を述 べ る発 言 を して い た こ と,も と も と 自 ら は積 極 的 に控 訴 す る ま で の意 思 は なか っ た こ と,被 告 人 は前 刑 に際 して も同 じ く控 訴 取 下 に よ っ て裁 判 を確 定 させ,無 期 懲 役 の 執 行 を 受 けた 経 験 を 有 し て い た こ と を挙 げ,「被 告 人 と して は,本 件 控 訴 取 下 げ に 当 た って,日 常 的 な意 思 疎 通 に欠 け る と こ ろが な い こ と は も と よ り,控 訴 取 下 げ の 意 味 を 良 く理 解 し,そ の 利 害 得 失 を 十 分 承 知 して,こ れ を 決意 し,実 行 に移 した も の と い う こ とが で き る。」と して,そ の訴 訟 行 為 能 力 を 肯 定 した。 原 々決 定 は,さ ら に,右 判 断 は,申 立 人 は,控 訴取 下 後,改 め て 本 件 公 判期 日指定 申立 を 行 う まで の6年 余 りの 間,右 控 訴 取 下 に不 服 を 示 す こ とな く,逆 に 早 期 の 死 刑 執 行 を 望 む意 思 を 表 明 して い た こ と,原 審 弁 護 人 らの面 会 申入 や 公 判 期 日指 定 申 立 を 行 う こ との説 得 を 断 って い た こ とか ら,裏 付 け られ る も の,と 判 示 して い る。 そ して,(ii)の. 点 に 関 して主 張 され た,申 立. 人 自身 が控 訴 趣 意 書 の作 成 ・提 出 を行 わ な け れ ば な らな い との誤 解 が あ っ た 点 に つ い て も,控 訴 取 下 の決 意 を幾 分 強 め た にす ぎず,そ. の理 由 の 中核. を な す もの で は な い と して,結 論 を左 右 す る こ と に は な らな い,と 退 け て い る。 以 上 の判 断 を,前 出最 決 平 成7年 よ う。 まず,①. で示 され た二 つ の観 点 か ら検 討 して み. 自己 の権 利 を守 る能 力 と い う要 素 に関 して は,右 原 々決 定. の判 断 は支 持 で き る もの と思 われ る。 その 認 定 を前 提 とす る限 り,申 立 人 自身,前 刑 の経 験 か ら,自 身 の控 訴 取 下 の 意 味 及 び効 果(訴 訟 確 定,裁 判 一138一.

(19) 死刑判決 に対す る上訴取下の有効性 の執 行)を 熟 知 して お り,そ れ に よ って以 後 自身 が 如 何 な る立 場 に おか れ るか を正 し く認 識 して い た とい え る こ と,原 審 弁 護 人 か ら も事 前 の 接 見 で そ の よ うな 法 律 効 果 等 に つ い て 十 分 な 説 明 が な さ れ て い た こ と を考 え る と,こ の 観 点 か ら訴 訟 行 為 能 力 を 否 定 す る こ と は で き な い よ う に思 わ れ る。 これ に対 し,② 精 神 障 害 及 び死 刑 事 件 にお け る被 告 人 へ の 精 神 的 重 圧 とい う観 点 か らは,若 干 の疑 問 が 残 る。 確 か に,原 々決 定 は,本 案 判 決 の 鑑 定 資 料 を基 に,被 告 人 に精 神 障 害 はな い と認 定 して い る。 しか し,原 々 決 定 は,「 そ うす る と」 とい う接 続 詞 か ら推 認 さ れ る よ う に,② の観 点 に お いて も,右 認 定 か ら直 ち に訴 訟 行 為 能 力 は 否 定 され な い との 結 論 を 導 い て い る。 この よ うな 判 断 は,最 決 平 成7年 で 指 摘 され た,死 刑 事 件 に お け る被 告 人 の 判 決 の 衝 撃 及 び公 判 継 続 の 重 圧 とい った 要 素 を 十 分 考 慮 しな い も の と い え よ う。 実 際. 原 決 定 は,精 神 障 害 で は な い との 鑑 定 結 果 を,. 原 々決 定 とは 異 な り補 足 的 に 用 い るに と どめ て い るが,原 々 決 定 に 内在 す る右 問 題 点 を 考 慮 した の で は な い か と思 わ れ る。 しか し,原 決 定 で も,死 刑 判 決 を 受 け た 被 告 人 の 精 神 的衝 撃 ・重圧 とい った要 素 は重 視 さ れ て お ら ず,検 討 の 余地 を 残 す よ うに思 わ れ る。 も っ と も,控 訴 取 下 の 有 効性 の判 断 に 際 して,被 告 人 の精 神 状 態 とい う 非 常 に 内 面 的 な 要 素 を 詳 細 に 認 定 す る こ とは,困 難 で あ り,ま た場 合 に よ って は被 告 人 の 内心 へ の過 剰 な干 渉 とな る虞 が あ る。 基 本 的 に は,上 訴 放 棄 ・取 下 を行 うか否 か の判 断 は,被 告 人 の意 思 に そ の判 断 が ゆ だね られ る べ き こ とで あ り,被 告 人 は,訴 訟 主 体 と して,様 々 な利 益 を衡 量 して決 断 して い る とい うこ とが,前 提 と さ れ な けれ ば な らな い。 そ れ ゆ え,特 に 本 件 の よ うな第 一 審 で死 刑 判 決 が下 され た事 例 に お い て は,被 告 人 に弁 護 人 が付 さ れ て い る こ と,及 び実 際 に も実 効 的 弁 護 を受 けて い る こ と を前 提 に,前 述 した よ う に,最 終 的 に弁 護 人 に意 見 を求 め,そ の時 点 で 被 告 人 の 意 思 に重 大 な蝦 疵 が 存 在 しな い こ と を確 認 した 上 で,控 訴 取 下 を受 理 す る 一139一.

(20) 近畿大学法学. 第55巻 第1号. と い う運 用 が な され るべ きで あ る と思 わ れ る。. 5.お. わ りに. 以 上,本 研 究 で は,第 一 審 で 死 刑 判 決 を 受 け た 被 告 人 が,自 身 の 弁 護 人 を 通 じて 提 起 した 控 訴 を 取 り下 げ た 事 例 に つ い て,弁 護 人 依 頼 権 及 び 訴 訟 行 為 能 力 とい う,刑 事 訴 訟 上 重 要 な 二 つ の論 点 に つ い て 検 討 を 加 え た。 こ れ らの 問 題 は,別 稿⑮ で も述 べ た とお り,近 年,同 様 の 死 刑事 件 で被 告 人 か らの 控 訴 取 下 に よ り第 一 審 で確 定 す る とい う事 例 が い くつ か 見 られ る よ うに,実 務 で も非 常 に 重 要 か つ 喫 緊 の検 討 課 題 で あ る。 い ず れ の論 点 も, 刑 訴 法理 論 の 本 質 に遡 って検 討 され る べ き もの で あ り,本 稿 で は,問 題 点 の 指摘 に と どめ ざる を得 な い。 これ らの詳 細 な検 討 は,ま た次 の課 題 と し て お き た い。 (2007年4月. *本 稿 は,2007年3月. に 開催 さ れ た 刑事 判 例 研 究 会 で の 報 告 を,判 例 研 究 と して ま. と め た もの で あ る。. ⑮. 脱 稿). 辻本(前 掲 注(5))「上 訴 放 棄 及 び取 下 の諸 問題 」 。 一140一.

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参照