1.はじめに
日本 の 株式市場 で は,近年外国法人等 の 株 式保有比率が増加傾向にあり,影響力を高め ている1).中でも巨額の資金を運用する外国 籍 の 機関投資家 は,投資先企業 の 評価 の 際, ESG(Environmental, Social and Governance) を重要視している.たとえば資金量で世界最 大規模のファンドの一つである,米国のカリ フォル ニ ア 州職員退職年金基金(California Public Employees’ Retirement System: 以下 CalPERS)は,ファンドの受益者が望む長期の リスク調整済みリターンの達成を目指している のだが,その一助となるよう,ESG を重視す る立場をとっている.環境に関していえば,世 界的に増加する食物と資源の需要が気候変動 (Climate Change)の影響と結びついて,長期 のリスク調整済みリターンに潜在的な影響を及 ぼすと捉えており,CalPERS[2012]は,今後 20 年で気候変動の影響により,受託運用して いるポートフォリオは 10 パーセントほどの影 響を被ると懸念している2).したがって,投資 先企業には気候変動問題に取り組むという姿勢 だけでなく,それが財務諸表にどのようなプラ スの影響を及ぼし,株主価値の成長にいかに貢 献するのかという,経済効果の測定まで要求す ることになる. ところが気候変動問題は人為起源の地球温暖 化が主な原因と考えられており,その影響は 50~100 年以上という長期にわたり測定する必 要があるため,財務諸表への影響がどうなるの か,企業にとって日常業務において把握するこ とは容易ではない.そのため,企業の気候変動 問題又は地球温暖化問題に関する対策(以下気 候変動対策3))に伴う経済効果の測定は,長期 を対象とした推定的なものとなるため,未実現 の機会コストとせざるを得ず,ほとんどの企 業で情報開示されていないというのが実状であ る4). 先行研究としては,資本予算(Capital Budgeting) における未実現の環境保護の機会コストの問題 に関して,Koeckhlin and Müller[1992]及び
1)(株)東京証券取引所 グ ループ[2011].外 国法人等とは,外国の法律に基づき設立された法 人,外国の政府・地方公共団体及び法人格を有し ない団体,並びに居住の内外を問わず日本以外の 国籍を有する個人. 2)CalPERS[2012] p. 22. ス ターン レ ポート を 基に試算している. 3)温室効果ガスの排出量及びその低減対策を 指す(環境省[2012]pp. 77─79). 4)2008 年度末の時価総額上位 100 社を基に,環 境報告書等の公表されている媒体を調査したとこ ろ,16 社のみであった(加藤[2011] pp. 54─60).
企業の気候変動対策に伴う
経済効果測定・評価モデルの検討
──東京電力(株)を対象とした分析の試み──
加 藤 郁 夫
Schaltegger and Burritt[2000]により,オプ ション価値に着目することが指摘されている. また,環境会計における,環境保全対策に伴う 経済効果の研究に関しては,八木[2003]によ り,2000 年度から 2002 年度にわたって環境報 告書を発行している東証 1 部上場企業 194 社を 対象に,経済効果開示状況の調査が行われてい る.そして,気候変動に関する外部の投資家の 投資行動に関しては,水口・國部[2010]によ り,企業内部ばかりでなく外部の投資家の投資 行動も合わせ,将来の経済への影響と環境を 考慮して行う意思決定の必要性が提唱されて いる.これらの先行研究を踏まえて本稿は,日 本の東証 1 部上場企業の中でも温室効果ガス (Greenhouse Gas:以下 GHG)排出量の最も多 い,東京電力(株)(以下東電)を例に用いて, 企業内部 の 気候変動対策 に 伴 う 経済効果 の 測 定・評価モデルを検討することを目的とするも のである. 論文の構成と内容は以下のとおりである.第 2 節において日本政府の気候変動対策について 述べ,気候変動政策として研究されているバッ クキャストを考察することで,電力供給側の GHG 排出量削減 が 電力需要側企業 の 気候変動 対策の鍵を握ることを述べる.第 3 節では,東 電を例に用いて電力供給側の気候変動対策につ いて考察し,原子力発電(以下原発)に依存す る計画があることを述べる.第 4 節では,第 3 節において解明する電力供給側の GHG 排出量 削減を考慮に入れたバックキャストと,通常の 資本予算とを組み合わせ,企業の気候変動対策 に伴う経済効果測定・評価モデルを,企業リス ク・マネジメントの観点から考案する.第 5 節 では,第 4 節で考案したモデルを,東電の気候 変動対策に適用し,経済効果の測定・評価が可 能であるという結論を導き出す. 2.日本政府の気候変動対策と経済発展の両立 に関する方策 本節では,日本のこれまでの気候変動問題に 対する対応について概観し,気候変動対策と経 済発展の両立の方策として,バックキャストの 手法について考察する. 2. 1 日本政府の気候変動問題への対応 IPCC [2007] によれば,近年問題となってい る気候変動は,人為起源による GHG が引き起 こす地球温暖化が主な原因であると考えられて いる.日本の気候は四季折々の変化を堪能で きる自然環境に恵まれているが,気候変動問題 と無関係ではない5).そのため,1994 年 3 月に 「気候変動に関する国際連合枠組条約」(以下気 候変動枠組条約)が発効され,1997 年 12 月に 京都で開催された気候変動枠組条約第 3 回締約 国会議(COP3)で「京都議定書」が 採択 さ れ たのを受け,我が国では「地球温暖化対策推進法」 が制定されている6).2010 年 4 月には,IPCC [2007]において示された科学的な知見に基づ き,長期的な低炭素社会の構築に向けて対策・ 施策を総合的・計画的に進めるため,中央環境 審議会地球環境部会(以下地球環境部会)に中 長期ロードマップ小委員会を設置し検討を進 め,2010 年 12 月に「中長期の温室効果ガス削 減目標を実現するための対策・施策の具体的な 姿(中長期ロードマップ)(中間整理)」を取り まとめている. 従来,日本の環境政策において策定されてい た気候変動対策は,エネルギーの供給側,とり わけ電力会社の原発の比率を高め,需要側はそ 5)気象庁 URL〈 http://www.data.kishou.go.jp/ obs-env/portal/chishiki_ondanka/p08.html 〉参照. 参照日:2012 年 8 月 31 日.気象庁によると,日本 の平均気温は 1898 年(明治 31 年)以降では 100 年 あたりおよそ 1.1℃の割合で上昇しており,熱帯夜 や猛暑日は増え,冬日は少なくなっているという. 6)この法律では,人の活動に起因する GHG の 発生により GHG 濃度が増加し,地球全体として地 表及び大気の温度が追加的に上昇する現象を地球温 暖化と定義しており,その GHG 排出の抑制等の他, 国際的に協力して地球温暖化の防止を図るための施 策を地球温暖化対策と定義している(第二条).
れに合わせてエネルギー使用を電力に切り替え ることで(以下電化),主要な GHG である二酸 化炭素(以下 CO2)排出量削減を遂行する計画 であった.中長期ロードマップ小委員会[2010] においても,現行のエネルギー基本計画では, 2020 年までに 9 基,2030 年までに少なくとも 14 基以上の原子力発電所の新増設を行うこと が記されている.そして,原発への依存度を 2030 年には 5 割とするとしたエネルギー基本 計画(平成 22 年 6 月閣議決定)を策定していた. しかし,2011 年 3 月 11 日に起きた,東日本 大震災による東電の福島第一原子力発電所の事 故により状況は一変し,原発の利用計画の見直 しを迫られている.既に火力発電の比率は上げ られていることや,東日本大震災からの経済復 興が期待されているため,経済成長と GHG 削 減を両立させるには難しい状況に立たされてい る.だが,日本政府は,2012 年 4 月 27 日閣議 決定された第 4 次環境基本計画において,長期 的な目標として 2050 年までに 80% の GHG 排 出量削減を目指す方針を変更していない. 果たして GHG 排出削減と経済成長の両立は 可能なのかどうか,東日本大震災前に考えられ ていた方策から考察してみる. 2. 2 バックキャストによる気候変動対策 環境省は,調査研究による科学的知見の集積 や環境分野の技術開発等を通じ,オゾン層の破 壊や地球温暖化など,数々の地球環境問題を解 決に導くための政策(地球環境政策)に反映す るため,地球環境総合推進費を創設している7). その地球環境総合推進費により,独立行政法人 国立環境研究所は,2004 年から 2008 年までの 期間「脱温暖化社会に向けた中長期的政策オプ ションの多面的かつ総合的な評価・予測・立案 手法の確立に関する総合研究プロジェクト(脱 温暖化 2050 研究プロジェクト)」を受託し調査 を行っている.それによると,「2050 年までに 主要な GHG である CO2を 70% 削減し,豊かで 質の高い低炭素社会を構築することは可能であ る」と結論付けており,そのための手法として, バックキャストに基づいたシナリオアプローチ を採用している8). この方法では,日本が 2050 年に向けてどの ような方向に進むかについて,経済発展・技術 志向(シナリオ A),または地域重視・自然志 向(シナリオ B)という幅を持った二つの社会 像を定性的に描くことからはじまる(①).次 にシナリオ A,B それぞれの社会像における冷 房,給湯,粗鋼生産,交通量などを予測し,エ ネルギーサービス需要を推計する(②).そし て,それぞれの社会における経済・社会活動を 支え,かつ,GHG 排出量 70% 削減を満足させ るエネルギーサービス需要に,エンドユース・ エネルギー技術(エアコンや断熱,給湯器,製 鉄プラント,ハイブリッド自動車など),供給 エネルギー種,エネルギー供給技術の組み合わ せを考慮し,エネルギー需要・供給技術の種類 とシェアを固定する(③).その際,政策的実 現性を考慮してエネルギー供給可能量を推計し (⑤),一次および二次エネルギー量と排出 CO2 量を推計する(④).以上を順に並べると①→ ②→③→④←⑤ということになる.そして,④ の推計からエネルギー起源 CO2排出量を導出 し,各 セ ク ターで の CO2削減率(2000 年比) を以下のように示している. ・ 産業部門:構造転換と省エネルギー技術導入な 7)環境省 URL〈http://www.env.go.jp/policy/ kenkyu/suishin/gaiyou/〉参照.参照日:2012 年 8 月 31 日. 8)「現状を出発点として,将来の目標に縛られ ることなく,現状からの積み重ねとして未来像を描 く方法が「フォアキャスティング」である.一方, 「バックキャスティング」では将来のビジョンや目 標をあらかじめ定義しておき,現在からその将来 像,目標に至る道筋(望ましくない将来像の場合 にはそれを避ける道筋)を描く方法である」(出所: 増井ほか[2007] p. 162).
どで 30~40%. ・ 運輸旅客部門:適切 な 国土利用,エ ネ ル ギー効 率,炭素強度改善などで 80%. ・ 運輸貨物部門:物流 の 高度管理,自動車 エ ネ ル ギー効率改善などで 50%. ・ 家庭部門:建て替えにあわせた高断熱住宅の普 及と省エネ機器利用などで 40~50%. ・ 業務部門:高断熱ビルへの作り替え・建て直し と省エネ機器導入などで 40%. 2050 年におけるシナリオ A,B それぞれで 予測される社会の将来像においては,原発の利 用が維持されることが前提となっており,経済 発展を志向するシナリオ A の場合は,より原 発に依存することになる. そこで,原発が電力供給側の発電に関する気 候変動対策にどのように関わってきたか,東電 を例に次節で考察する. 3.エネルギー供給側での気候変動対策 企業の中には,たとえば(株)リコー(以下 リコー)のように,グループ全体の「2050 年 長期環境ビジョンに基づく中長期環境負荷削減 目標の設定」として,バックキャストを取り入 れている企業もある9).リコーの生産に使用さ れるエネルギーの大半は購入電力であり,また 製品使用に関わるエネルギーも電力が利用され る.リコーのような,エネルギー需要側の企業 では,事業活動に関係するエネルギーの大半は 電力であるため,CO2排出量削減を目的とする ために電力消費を削減すると,事業活動に支障 が出るリスクがある.そのため,電力供給側で CO2排出原単位が大幅に改善されれば,電力需 要側企業は事業活動を妨げることなく CO2排 出量を削減することができるのである. 東電 の 発電事業 は 電力供給 で あ り,日本全 体の CO2排出量の約 1 割を占めている CO2排 出量最大企業である10).公共性があることから CO2を大幅に削減するために発電事業を止める ことはできない.また,東電は民間企業である ため,需要側の電力使用量と東電の売上高は連 動しており,株主価値を高めるために販売電力 (以下売電)を拡大するよう努力することにな る.そのため日本政府及び東電が注目したのが 原発だったのである.その理由を探るため,現 在は「実施しない」としているが11),2010 年 9 月に策定した「中長期成長宣言 2020 ビジョン」 の中の「7 つのバリューアップ plan」をみてみ る. plan 1: ゼロ・エミッション電源を経済的に導入する ─電気を ‘つくる’ 側の取り組み─(原発の推 進,再生可能エネルギーの利用拡大). plan 2: あらゆる分野で電化をおすすめする─電気を ‘つかう’ 側への働きかけ-. plan 3: 電力ネットワークをさらにスマートにする─ ‘つくる’ と ‘つかう’ を ‘つなぐ’ 取り組み─. plan 4: 事業の場を拡げる. plan 5: 業務効率を改善し続ける. plan 6: 人が活躍する連携する強い現場をつくりあげ る. plan 7:次世代を見据えた技術をつみあげる. plan 1 のゼロ・エミッション電源の積極的な 導入は,発電事業に関する取り組みである.具 体的には,原発のパフォーマンス向上・新規開 発や原子燃料サイクルの確立,そして地域住 民の信頼確保を進めることで,2020 年までに, 非化石エネルギー発電電力比率 50% 以上とい 9)リコー[2010]p. 17. 10)東電[2010b]p. 30. 11) 東電 は,2011 年 5 月 20 日安定供給 の 確 保等,電気事業の遂行に必要不可欠なものを除き 実施 し な い と 発表 し て い る(東京電力 プ レ ス リ リース 2011 年,「公募増資及 び 第三者割当増資 に よ る 調達資金 の 使途 の 変更 に つ い て」参照 URL 〈http://www.tepco.co.jp/cc/press/11052012-j.html〉). 参照日:2012 年 8 月 31 日.調達額 4,468 億円 の う ち,233 億円 を 低炭素化投資 に,ま た,94 億円 を 成長事業投資に充当していた.
う目標を立てていた.その上で,太陽光・風 力・バイオマスなど再生可能エネルギーの利用 拡大を進め,2020 年には国内 40 万 kW,海外 175 万 kW の再生可能エネルギー新規開発を行 うことを計画していたのである.plan 2 では, 家庭用 に オール 電化 を 進 め,業務用・産業用 にも電化を進めることで,2020 年までの 10 年 間で 300 億 kWh を電化,CO2排出量 1,000 万ト ンにするという計画となっていた.plan 4 では, 2020 年までに,成長事業の経常利益を 1,200 億 円にするという計画を立てていた. 東電は,特に原発の利用を推進しようとして いたわけであるが,その理由として CO2排出 量の抑制が可能である点をあげていたのである (図 1).さらに,原発を強調する理由として, 総合エネルギー調査会電気事業分科会コスト等 検討小委員会の資料を用いて12),太陽光発電や 風力発電に比べ経済性に優れている点も強調し ていた(図 2).それらを理由に,東電は 2009 年度の原発による発電電力量を,2010 年に計 画していた約 28% から,既設発電所の運転や 新増設などにより 2019 年度には約 48% まで向 上させることを計画していたのである(図 3). 2009 年当時,新潟県中越沖地震 の 影響 に よ り,柏崎刈羽原子力発電所の一部が休止してい たため,東電の原発の稼働率は低下していた. 12)電気事業連合会[2004] p. 8. (出所)東電[2010b]『サステナビリティレポート 2010』p. 15. 図 1 原発利用の根拠:電源の組み合わせによる CO2排出量の抑制(2009 年度) (出所)東電[2010b]『サステナビリティレポート 2010』p. 18. 図 2 原発利用の根拠:経済性(1kWh あたりの電源別発電コスト)
原発に伴う 2009 年度までの環境問題の発生件 数が特に多いというわけでもなく,トラブルの 大きさについても特に大きいというわけではな かったようで(表 1),そのため,原発の稼働 率を高め,合わせて GHG 排出量削減を目指す という方向性を打ち出したと考えられる. 次に東電の財務状況をみてみる.これには前 掲 7 つのバリューアップ plan のうち,plan 2 及 び plan 4,そして plan 5 が関係している.た とえば,ヒートポンプを活用した高効率な機器 を消費者に薦めること等により,あらゆる分野 の需要を深耕し,2011~15 年度の 5 年間で 100 (出所)東電[2010b]『サステナビリティレポート 2010』p. 18. 図 3 エネルギー別発電電力量構成比の推移(他社受電含む) 表 1 発生したトラブルの大きさ(東京電力の原子力発電所合計) 発生したトラブルの大きさ(東京電力の原子力発電所合計) (年度) 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 評価対象外 2 0 1 1 0 0 0 2 0 0 レベル 0‒ 6 4 3 1 4 6 4 4 2 2 レベル 0+ 0 2 1 0 0 1 2 0 2 0 レベル 1 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 レベル 2 以上 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 合計件数 8 6 5 2 4 7 6 6 6 2 国際原子力事象評価尺度 (INES) によるものです. 原子力発電所等で発生したトラブルの影響の度合いを簡明かつ客観的に判断できるように示した評価尺度で, わが国では 1992 年 8 月から正式に使われています. INES ではトラブルを安全上重要ではない事象レベル 0 からチェルノブイリ事故に相当する重大な事故レベル 7 までの 8 段階に分類しています. 評価対象外・・・安全に関係しない事象 0‒・・・安全上重要でなく,安全に影響を与えない事象 0+・・・安全上重要ではないが,安全に影響を与え得る事象 1・・・運転制限範囲からの逸脱(発電所内外への影響なし) (出所)東電 URL〈http://aoisora.org/genpatu/2011/tepco_data/20110409151130/results02-j.html〉参照. 参照日:2012 年 8 月 31 日.
億 kWh の電化を,さらに電気自動車の普及を 促す等で,2011~20 年度の 10 年間では 300 億 kWh の電化を目指していた.つまり,電化を 進め,原発の稼働率を高めることで,2020 年 度には 1,000 万トン程度の CO2排出量削減に貢 献できるとしていたのである13). 2009 年度 の 東電 の 営業活動 に よ る キャッ シュフローの収入は,988,271 百万円となって いる14).近年,京都議定書の達成を目指して省 エネルギー運動も盛んで,電力需要の増加が見 込まれなかったこともあり,新たに成長事業分 野での経常利益を 2020 年に 1,200 億円にする 計画や,原発稼働率を高めることにより,資産 増加及び ROA の向上を達成する計画となって いたのである(図 4).原発の稼働率を高める ことは,東電にとって低コストで CO2排出削 減効果が期待できるため,利益追求と気候変動 対策の両立を目論むことを可能にするマジック であったと考えられるのである. 現状では原発の利用は難しい状況だが,地球 環境部会[2012]は,エネルギー・環境会議の 要請に基づき,原発の利用を 0 から 25% と想 定し,表 2 のように 6 つの選択肢原案を示して いる. 2012 年 7 月に大飯原発が再稼働したことから, 表 1 の原案 3-2 のとおり最大で 2030 年 25% の 再稼働も考えられるが,世論の動向次第で,ど こまで再稼働が可能かは不確実性が高い. このように,電力供給側 で 原発 を 利用 し て CO2排出量を削減することは,供給側の電力会 社にとっては,オール電化等により売上高を増 加させることが可能となるのである.また,需 要側の企業にとっては,売上高を減らすことな く気候変動対策を進めることができる.したがっ て,政府及び東電は,原発により気候変動対策 と経済成長の両立は可能と考えていたのであろ う.しかし,事故のコストを考慮すると割高で あったということになるのである.よって今後, 現時点で想定される最大限の追加的な対策・施 策を考えるならば,気候変動対策に伴い経済効 果が測定できることを示す必要があるであろう. そこで次節では,リスク移転を利用した,気 候変動対策に伴う経済効果測定・評価モデルを 考察する. (出所) 東電[2010d]『東京電力グループ中長期成長宣言 2020 ビジョン』p. 23. 図 4 東電の 2020 ビジョンにおける財務戦略の全体像 13)東電[2010b]p. 9. 14)東電[2010a]p. 46.
4.リスク移転による気候変動対策に伴う 経済効果測定・評価モデルの考案 本節では,第 2 節で考察したバックキャスト による気候変動対策を企業に適用することを考 えてみる.その方法として,リスク移転の考え 方に基づき,企業の資本予算とバックキャスト とを組み合わせることで,気候変動対策に伴う 経済効果測定・評価モデルを考案してみる. 4. 1 リスク移転の仕組み 気候変動対策 は,企業 の 将来 キャッシュフ ローの予測困難な下方リスクを消去することで あると考えられる15).株式の場合であれば,デ リバティブを用いることで価格下落リスクを消 去できる16).本稿では,このデリバティブの理 論を企業経営に応用し,リスクを移転するとい 表 2 地球環境部会による気候変動対策複数の選択肢原案 原案設定の考え方 2030 年原発※ 1 2030 年温室 効果ガス 排出量※ 3 2020 年温室 効果ガス 排出量※ 3 対策・施策※ 2 原案 1─1 原子力発電をできるだけ早くゼロ(2030 年 0%)とするという選択を行い , 省エ ネ・再エネ等について東日本大震災以前に想定していた対策・施策に加え , 現 時点で想定される最大限の追加的な対策・施策の実施を図る . 0% ▲25% ▲11% 高位(施策大胆促進) 原案 1─2 原子力発電をできるだけ早くゼロ(2030 年 0%)とするという選択を行い , 省エ ネ・再エネ等について東日本大震災以前に想定していた対策・施策に加え , 現 時点で想定される最大限の追加的な対策・施策の実施を図る . 0%(2020 年 0%) ▲25% ▲5% 高位(施策大胆促進) 原案 2─1 原子炉等規制法改正案における新たな規制が運用され , また , 原発の新増設は行 われないという状況下で想定される水準(2030 年約 15%)にまで依存度を低減 させるという選択を行い , 省エネ・再エネ等について東日本大震災以前に想定 していた対策・施策に加え , より一層の追加的な対策・施策の実施を図る . 15% ▲25% ▲11% 中位(施策促進) 原案 2─2 原子炉等規制法改正案における新たな規制が運用され , また , 原発の新増設は行 われないという状況下で想定される水準(2030 年約 15%)にまで依存度を低減 させるという選択を行い , 省エネ・再エネ等について東日本大震災以前に想定 していた対策・施策に加え , 現時点で想定される最大限の追加的な対策・施策 の実施を図る . 15% ▲31% ▲15% 高位(施策大胆促進) 原案 3─1 一定の比率(2030 年約 20%)の原発を中長期的に維持するという選択を行い , 省エネ・再エネ等について東日本大震災以前に想定していた対策・施策に加え , より一層の追加的な対策・施策の実施を図る . 20% ▲27% ▲12% 中位(施策促進) 原案 3─2 一定の比率(2030 年約 25%)を中長期的に維持するという選択を行い , 省エネ・ 再エネ等について東日本大震災以前に想定していた対策・施策に加え , より一 層の追加的な対策・施策の実施を図る . 25% ▲30% ▲13% 中位(施策促進) ※ 1:2030 年原発の欄は,2030 年時点の総発電電力量に占める原発の割合を示す.総発電電力量に占める原発の割合の想定については,総合資 源エネルギー調査会基本問題委員会で検討されている数値を用いた. ※ 2:「対策・施策」の欄の「中位」,「高位」は以下のとおり.中位:現行計画で想定されている対策・施策をさらに強化し,合理的な誘導策や 義務付け等を行うことを想定.高位:初期投資が大きいものも含めて導入可能な最大限の対策を見込み,それを後押しする大胆な施策を行うこ とを想定. ※ 3:2020 年及び 2030 年の排出量は,基準年(原則 1990 年度,代替フロン等 3 ガスについては 1995 年)総排出量比の値. (出所)中央環境審議会地球環境部会[2012]『2013 年以降の対策・施策に関する報告書(地球温暖化対策の選択肢の原案について)』 環境省,p. i.
15)Ball and Brown [1968] は,ノーマルな株価 収益率と実際の株価収益率との差をアブノーマルな 株価収益率と説明している(Ball and Brown [1968] p. 165).Ohlson[1995]はその表現を企業利益に対 応させている(Ohlson[1995] p. 667─668).アブノー マル利益には予測困難なリスクが含まれており,気 候変動対策は,その予測困難なリスクを軽減する役 割があると考えられる.なお,アブノーマル利益以 外の情報がない(v=0)という特殊なケースが存在 する場合,アブノーマル利益はのれん(goodwill) であると結論付けている(Ohlson [1995] p. 669).
う考え方に基づく,企業リスク・マネジメント に焦点を当てる. リスク移転とは,代替的リスク移転(Alternative Risk Transfer;ART)市場を利用し,一定で 少額のリスクプレミアムを他者に支払うことと 引き換えに,不確実な将来の損失をカバーする 手法のことである.ART 市場の参加者は,保 険会社 や 投資銀行等 の 金融機関,エ ンド ユー ザーの企業,投資家,そして代理店およびブ ローカーなどである17).保険会社や投資銀行等 の金融機関は,引き受けたリスクを証券化によ り,保険リンク債証券などの ART 商品を開発 し,幅広い投資家にリスクを分散して移転す る18).たとえば,ハリケーンや地震など大規模 自然災害リスクを企業から投資家に移転する, キャットボンド(Catastrophe Bonds)などが 該当する.日本でも 1999 年オリエンタルラン ドが地震債券を発行している19).この債券は, 企業側にとっては被害額の予想に比べ少額の費 用負担で,いざという時にリスクの大半をカ バーできることから,デリバティブの理論で用 いる用語で表せば,アウト・オブ・ザ・マネー (Out of the Money:OTM)のオプションとい
うことになる. 代替的リスク移転の基本的な仕組みを,二項 格子モデルによるオプション評価理論に則り示 してみる.原資産(V)をここでは企業活動に より生み出されるキャッシュフローと考えてみ る.V は,幾何級数的二項過程に従い,期間(T) にわたり,確率(q)で増加(u),確率(q-1) で減少(d)の二つの値のみが起こると仮定す る.つまり,期首(t = 0)における原資産(V0) は,期末(t = 1)時点 で,V0u(u > 1)ま た は,V0d(d < 1 )のどちらかになると仮定する. ここで,災害に備え ART 市場を通して,原資 産と正反対の変動をする ART 商品(X)を購 入し,ポジションをヘッジする(V0-X). ヘッジポジション(V0-X)が up しても(V0u -Xu)down しても(V0d -Xd)ポジションの 価値が等しくなるように記号Δ(デルタ)を 用いて調整すると以下の数式 1,2 のようにな る. V0uΔ-Xu=V0dΔ-Xd (数式 1) Xu-Xd Δ= (数式 2) V0u-V0d 原資産 と ART 商品 は 同 じ 変化率 を 持って 正反対に価値が変動するとは限らないので, ART 商品 1 単位 で,原資産 の 下方 リ ス ク を, どの程度移転できているかという比率をΔに より確認することになる20). 4. 2 企業の気候変動対策に伴う経済効果測定・ 評価モデルの考案 このリスク移転の考え方を,企業の気候変動 対策へ適用することを考えてみる.気候変動リ スクを移転するためには,(数式 1)で示した ようにコストを支払い,保険商品(X)という 資産を購入することになる.ストック概念を環 境会計に取り入れるという考え方は,創造型環 境会計と呼ばれているが,基礎構造には図 5 に 示した,回復コストと環境の質の関係図を用い る21). 気候変動対策を組み込んだ意思決定では,企 業利益が最大となるように事業を展開し,なお かつ同時に CO2を削減することが目標となる ので,事業拡張とともに環境の質を達成すると いうことが望ましい.環境の質を E へと導く ためには,期中に適時リスク管理を行うことに なる.一方,環境の質が B となってしまう可 能性がある場合でも,事前に縮小・撤退の意思 17)Banks [2004] pp. 52─58. 18)Banks [2004] pp. 124─131. 19)(株)オリエンタルランド[2011] pp. 1─2. 20)Δ を 常 に 一定 に 保 つ 方法 は,デ ル タ・ ニュートラルという.イン・ザ・マネーのオプショ ンのΔは高く,OTM のオプションのΔは低い. 21)河野ほか[2004]p. 4.
決定を組み入れることで環境の質が改善される 余地は残る.最も良くないのは,何もしない, あるいは努力しても C となってしまう状態と いうことになる.したがって,ESG を考慮す る機関投資家の投資分析では,環境の質が下方 に向かないようリスク・マネジメントが行われ ており,事業の拡張と同時に環境の質 E を志 向する意思決定が行われている企業を高く評価 することになるであろう. 次に企業の資本予算を考えてみる.資本予算 に正味現在価値(NPV)法を用いる場合,NPV が劣る代替案は基本的に選択されない22).よっ て,NPV 法を用いる場合,CO2排出量を削減 するために売上高を減らすという代替案を選択 するという意思決定は通常なら行われないであ ろう.したがって,生産や販売など事業活動が 増加すれば,必然的に CO2排出量は増加して しまうこととなる. 一方,企業の社会的責任(CSR)を遂行する 活動は,将来あるべき姿を想定し経済と環境の 両立による持続可能性を目指して CO2排出量 削減を目指そうというのである. すると,事業の成長に合わせて,通常の成り 行きの状態でキャッシュフローを 5 年先まで予 測し算出した NPV と,気候変動対策により, たとえば 2050 年の将来のあるべき姿を想定し た目標 CO2排出量削減量を基に算出した NPV との間にはギャップが生じるであろう. ここで,気候変動のような高い不確実性を考 慮する場合は,意思決定に柔軟性が求められる ため,NPV にリアルオプションを考慮するこ とが望ましいと考えられることから,リアルオ 環境の質(高い) E: 生態学的持続可能性の条件に合致する環 境の質 D: 実際の復元によって達成された環境の質 A: 期首における環境の質 期首 期末 B: 実際の予防によって達成された環境の質 の実際のレベル 環境の質(低い) C: 実際の予防活動が行われなかった場合の 環境の質 記号: CB= 実際予防コスト BA= 潜在的予防コスト CB+BA= 期間指向のフロー基準を達成するための実際予防コストと潜在的予防コスト AD= 実際復元コスト DE= 潜在的復元コスト AD+DE= 持続可能性指向の基準を達成するための実際復元コストと潜在的復元コスト
(出所) Leipert C. and R. Brouwer[1997] Part Ⅲ : The Role of Environmental Protection Expenditures in Integrated Environmental and Economic Accounting, Methodological Problems in the Calculation
of Environmentally Adjusted National Income Figures. Study for European Commission Directorate
General Ⅻ, under Contract No. EV5V-CT94-0363, Volume Two, p. 60, Figure 20.2. 図 5 回復コストと環境の質
63 企業の気候変動対策に伴う経済効果測定・評価モデルの検討(加藤) プション法を用いると仮定する23).また,CO 2 排出量は売上高に応じて増減する(正の相関が ある)と仮定する.そして,企業はギャップ が生じるまでは CO2を排出しながら通常の事 業活動が行えるが24),ギャップが生じると CO 2 排出量に制限がかかり事業活動にも悪影響が出 るというように考える25).この状態は,株式の オプションに当てはめれば,コール・オプショ ンの売り(ショート)ポジションを仮想的に持っ ているのと同じ状態にあると考えられる26).そ のリスクを移転するための ART 商品(X)は, 実際の排出権で代替できると仮定する27).代替 的リスク移転には,ART 市場があることが前 提となるのだが,ここではそれに代わる排出権 の市場が利用できると仮定する.本稿では,排 出権を用いて仮想的に貨幣換算することを想定 しているので,目標 CO2排出削減量を超えて 仮想的に出現するコール・オプションのショー ト・ポジションの状態を,仮想排出権(Virtual Emission Credit)と名付けることとする.仮想 排出権のイメージを図にすると,図 6 のように なる. 図 6 ⑴ 仮想排出権イメージは,最終期日に おける損益を表している.K は目標 CO2排出 削減量である.仮想排出権と損益の関係を表し たものが①であり,②は原資産の動きと損益の 関係を表している.そして,③は①と②を合成
23)Copeland and Antikalov[2003]. リアルオ プションとは,「あらかじめ決められた期間(行使 期限)内に,あらかじめ決められたコスト(行使 価格)で,何らかのアクション(延期,拡大,縮小, 中止など)を行う権利(義務でない)」のことであ る(Copeland and Antikalov[2003]pp. 5─6).
24)株式のオプションに当てはめれば,前もっ てプレミアムを受け取っている状態に該当する. 25)株式のオプションに当てはめれば,バリア (Barrier)ということになる(Hull[2003]pp. 439 ─441).このバリアのレベルは,権利行使価格と同 じか,それ以下に設定することになる. 26)株式のオプションに当てはめれば,ノック インオプション(knock-in option) ということになる.ノックインオプションはバ リアオプション(Barrier Options)のひとつであ り,原資産があらかじめ決められたレベルに到達 すると出現するオプションであり,株価が増加し て出現するものは,アップ・アンド・イン・コール・ オプション(up and in call option)と呼ばれる(Hull [2003]pp. 439–441).オプションの買い方は権利 行使できるが,売り方は権利行使できない.なお, 権利行使をする側は規制当局であると考えられ, 権利行使される側が企業であると考えられる.権 利行使された企業は,ペナルティーに応じ,罰金 を支払わなければならないということになる. 27)気候変動対策に排出権取引を推奨するとい う趣旨ではない. 5 1
Hull [2003] Options, Futures, and Other Derivatives, Fifth Edition. Prentice Hall p. 186, Figure 9.1
2
Hull, op. cit., p. 304, Figure 14.3
6 -1 K 0.0 V K V 5 1
Hull [2003] Options, Futures, and Other Derivatives, Fifth Edition. Prentice Hall p. 186, Figure 9.1
2
Hull, op. cit., p. 304, Figure 14.3
6 -1 K 0.0 V K V
(出所)Hull, op. cit., p. 304, Figure 14.3 を参照し筆者作成. (出所)Hull [2003] Options, Futures, and Other Derivatives,
Fifth Edition. Prentice Hall p. 186, Figure 9.1 を 参照 し 筆者作
成.
図 6 仮想排出権イメージ (565)
したポジションと損益との関係を表している. ③をみると分かるように,仮想排出権があるこ とで,企業のキャッシュフローの成長が阻害さ れるということになる.なお,実際には,株式 のオプションと同様に,仮想排出権にはプレミ アムが含まれていることになる28). 図 6 ⑵ 仮想排出権のデルタから分かるよう に,仮想排出権のΔは,マイナスの値をとる. したがって,ヘッジに用いられる排出権はコー ル・オプションの買い(ロング)ポジションと いうことになる.将来の事業の拡張とともに, より多くの CO2排出が必要となる可能性もあ ることから,企業は排出権により,将来 CO2 排出量規制等があったとしても,事業を続けら れる権利を手に入れたとみなすことができるの である29). 仮想排出権をヘッジするのに必要となる排出 権の比率は(数式 2)のΔで表される.デル タをニュートラルに維持することを気候変動対 策に当てはめれば,カーボン・ニュートラル戦 略ということになる30). た と え ば 5 年後 に は 成 り 行 き 又 は 通常 の キャッシュフロー予測に順じた CO2排出量は 最大で 5% 増加すると予測する.一方 2050 年 までに 80% 削減するという将来の姿を描き, そこからバックキャスティングすると,毎年 2% 削減することになり,5 年後には 10% 削減 していなければならないことになる.この場合, 5 年後に 15% のギャップが生じることになる. そのギャップが,▲15% の仮想排出権となる. そのギャップを各期末に排出量取引により完全 にオフセットするとカーボン・ニュートラルと いうことになる. 以上のことから,気候変動対策に伴う経済効 果の測定・評価モデルを示すと図 7 のようにな る.図 7 では,中短期の資本予算にリアルオプ ション法を採用すると仮定している.左側の格 子は中短期の気候変動リスクの分析に利用する 二項格子であり,5 年先まで通常のキャッシュ フローの予測を成り行きで示している.そこ に 2050 年の将来のあるべき姿から,目標 CO2 排出削減量を考慮に入れたキャッシュフロー を,5 期目までバックキャストする.そのとき キャッシュフ ロー(V)が V0d,V0ud2,V0u2d3 より下の格子(図 7 の網掛け部分)へ向かわな いようリスク・コントロールする意思決定の仕 組みを合わせ持つことで,オプション価値が創 造される.つまり,環境の質及び企業価値が下 方に向かうリスクを軽減するよう意思決定を行 うことで,企業価値・環境の質が現状維持よ り上の範囲におさまることになる.なお,数値 目標が E のみとなっているのは,二項格子モ デルの計算の仕組み上,E の最大目標を決めれ ば,その他の格子は自動的に計算されるからで ある. 図 7 に お い て,需要側企業 の 場合,実際 の 排出権を何単位購入するか(数式 1 のΔ)は, 供給側における将来の発電時 CO2排出原単位 削減計画を考慮して調整するということにな る.現状では供給側の東電で前掲「東京電力グ ループ 中長期成長宣言 2020 ビ ジョン」が 中止 されたため,供給側での CO2排出原単位削減 28)(数式 2)は価値が上昇した場合は V0uΔ-Xu な の で,期首 の 状態 は V0Δ-X で あ る.ま た,V は無リスク利子率(rf)を稼ぎながら成長するので (erT),以下の等式が成り立つ. V0Δ- X =(V0u Δ- Xu)e-rT X = V0Δ-(V0u Δ- Xu)e-rT プレミアムを含んだオプション価値を求める計 算には,リスク中立確率で表した以下の式を用い る. X=e-rT [pX u+(1-p)Xd] erT-d p= ,u=e
28
t t ,d=e28
t t u-d29)Schaltegger and Burritt [2000]pp. 57─65.
30)CO2排出量削減目標を毎期定め,それを超
過した分について,期末に完全にカーボン・オフ セットすること(加藤[2012] p. 72).
の進捗は望めない.しかし,ここまでの説明か ら,気候変動対策と経済発展の両立のためには, 供給側である東電の発電における CO2原単位 削減という気候変動対策は欠かせないことが分 かるであろう. 次節では,本節で考案したモデルと具体的な データを用いて,東電の発電における気候変動 対策に経済効果が伴うのかどうか測定・評価方 法を考察する. 5.東電への企業の気候変動対策に伴う経済効果 測定・評価モデルの適用 図 7 の企業の気候変動対策に伴う経済効果測 定・評価モデルでは,供給側における将来の発 電時原単位削減計画を考慮してバックキャスト するということになる.東日本大震災前の東電 の 2020 年ビジョンを図 7 に組み込むと,東電 の気候変動対策に伴う経済効果測定・評価モデ ルは図 8 のようにまとめられる.図 8 では,左 半分の格子は図 7 と同様,二項格子モデルによ る,成り行きで予測した通常の資本予算である. そして右半分は,ゼロ・エミッション電源の 拡大や成長事業投資及び事故防止等のリスク・ マネジメントにより企業価値が押し上げられ, それと合わせて目標 CO2排出削減量がバック キャストされるイメージを表している. 実際には,東電では事故防止というリスク・ マネジメントは福島第一原子力発電所には効果 がなく,V0d より下の格子(図 8 の網掛け部分) へ向かってしまったことになる. 次に東電の財務会計データ及び CO2排出量 データ,そして売電量及び CO2排出量を用い て資本予算を検討する.表 3 は,2005 年度か ら 2011 年度における東電の財務会計データと CO2排出量データである.東電の売上高の大半 は売電である.売電の経年変化をみると,変化 率は横ばいであり,CO2排出量は売電量に比べ て変化率が大きいことがわかる.
(出所)Mun [2002] Real Option Analysis: Tools and Techniques for Valuing Strategic Investments and Decision, John Wiley & Sons, p. 152, Figure 6.9 及び,Leipert and Brouwer, op. cit., p. 60, Figure 20.2 を参照し筆者作成.
+ CO 0 1 2 3 4 5 2050 ECO280 DCO2 ¡¢£ ACO2 V 5 V0u5 V0u4 V0u3 V0u4d BCO2 V0u2 V0u3d V u V 2d V 3d2 V0u V0u2d V0u3d2 V0 V0ud V0u2d2 C¤¥¦§ V0d V0ud2 V0u2d3 V0d2 V0ud3 V d3 V d4 ¨©ª«¬® V0d V0ud V0d4 ¯ V0d5 ° 2 通常のキャッシュフローの予測(成り行き) 図 7 企業の気候変動対策に伴う経済効果測定・評価モデル
表 4 は 東電 の CO2排出量 と CO2排出原単位 の経年変化を表している.そして,表 5 は売電 量と CO2排出量との相関関係を表したもので ある.表 5 では,2011 年は特別な年なので除き, 2000~2010 年の売上高と CO2排出量の相関係 数を調べてみた.すると,正の相関があるもの の,高いわけではないことがわかる.したがっ て,実際にヘッジする場合は,状況をみながら デルタに応じ仮想排出権をヘッジするというこ とになるであろう.しかし,本稿では便宜上, 売電量と CO2排出量には完全正相関があると 仮定して以下東電の気候変動対策に伴う経済効 果の測定・評価について検討する. 使用するデータは,京都議定書の約束期間の + CO 0 1 2 3 4 5 2020 E CO29025 D CO DCO2 ¡¢£¤ ACO2 V0u5 4 V0u4 V0u3 V0u4d BCO2 V0u2 V0u3d V0u V0u2d V0u3d2 V00 V00ud VV00uu d2d2 C¥¦§¨C¥¦§¨ V0d V0ud2 V0u2d3 V0d2 V0ud3 V0d3 V0ud4 V0d4 © ª«¬®¯°± 5 ² ³´µ¶® V0d5 ·¸ ¹º» ¼ 2
(出所) Mun, op. cit., p.152, Figure 6.9 及び,Leipert and Brouwer, op. cit., p. 60, Figure 20.2 を参照し筆者作成. 図 8 東電の気候変動対策に伴う経済効果測定・評価モデル 表 3 東電の財務会計データと CO2排出量データ 年度 売上高 (単位;百万円) 変化率 販売電力量 変化率 CO2排出量 変化率 2005 5,047,210 2,887 10,610 2006 5,255,495 4.04% 2,876 -0.38% 9,760 -8.35% 2007 5,283,033 0.52% 2,974 3.35% 12,650 25.94% 2008 5,479,380 3.65% 2,890 -2.87% 12,070 -4.69% 2009 5,887,576 7.19% 2,802 -3.09% 10,750 -11.58% 2010 5,016,257 -16.02% 2,934 4.60% 10,990 2.21% 2011 5,368,536 6.79% 2,682 -8.98% 12,440 12.39% σ 8.69% 4.94% 14.25% (出所)東電[2002a~2011a]『第 79~88 期有価証券報告書(平成 14~23 年度)』より売上高のデータを,東電[2010c]『東京 電力サステナビリティレポート 2010 データ集』p. 6 及び,東電[2012b]『平成 24 年度数票で見る東京電力』p. 138 より CO2排 出量のデータを,同書,p. 18 より販売電力量のデータを参照し筆者作成*. *ボラティリティ(σ)推計方法は,Amram [1999]pp. 212─214 を参照した.
最初の年である 2008 年度を起点とする.CO2 排出量は 12,070 万トン-CO2,CO2排出原単位 は 0.418Kg -CO2/kWh を用いる(表 4 参照). そして,いくつか仮定を設ける. ・ 売電量と CO2排出量には完全正相関がある. ・ 排出権の市場がある. ・ 資本予算にリアルオプション法を用いる31). 表 4 東電の CO2排出量と CO2排出原単位 1990 年度 1995 年度 2000 年度 2005 年度 2006 年度 2007 年度 2008 年度 2009 年度 2010 年度 2011 年度 CO2排出量 (万トン- CO2) 8360 9100 9220 10610 9760 12650 9590 9070 10970 12420 12070 10750 10990 12440 CO2排出原単位 (Kg - CO2/kWh) ※ 1 0.380 0.358 0.328 0.368 0.339 0.425 0.332 0.324 0.374 0.463 ※ 2 0.418 0.384 0.375 0.464 (参考)販売電力量 (億 kWh) 2199 2544 2807 2887 2876 2947 2890 2802 2934 2682 電灯電力総合単価 (単位:円/kWh) 電灯 24.78 24.52 23.50 21.25 21.28 21.48 22.98 20.90 20.96 22.27 電力 17.28 17.02 18.14 22.03 23.27 23.18 25.53 23.53 22.62 24.61 合計 19.34 19.28 20.41 21.34 21.52 21.67 23.24 21.18 21.14 22.51 表 5 東京電力の電力事業の分析 排出量取引非考慮 排出量取引考慮 年度 (億 kWh)販売電力量 CO2排出量 (万トン-CO2) 年度 販売電力量 (億 kWh) (万トン-COCO2排出量2) 1990 2,199 8,410 1990 2,199 8,410 2000 2,807 9,220 2000 2,807 9,220 2001 2,755 8,740 2001 2,755 8,740 2002 2,819 10,740 2002 2,819 10,740 2003 2,760 12,720 2003 2,760 12,720 2004 2,867 10,920 2004 2,867 10,920 2005 2,887 10,730 2005 2,887 10,730 2006 2,876 9,760 2006 2,876 9,760 2007 2,974 12,650 2007 2,974 12,650 2008 2,890 12,070 2008 2,890 9,590 2009 2,802 10,750 2009 2,802 9,070 2010 2,934 10,970 2010 2,934 10,990 2011 2,682 12,420 2011 2,682 12,440 2000~2010 年相関係数 40.2% 2000~2010 年相関係数 37.4% (出所)前掲東電[2004] p. 30,前掲東電[2010c] p. 6,前掲東電[2012b]pp. 18‒20,p. 138 のデータを参照し筆者作成. 電気料収入-遅収料金 注 1)総合単価= 販売電力量-事業用・建設工事用電力量 注 2)平成 11 年度より特定規模需要を除く. ※ 1 炭素クレジットを反映した調整後の値. ※ 2 炭素クレジットを反映する前の値. (出 所)前掲東電[2004] p. 30,前掲東電[2010c] p. 6,東電[2012a]『2012 年 3 月期決算補足資料』p. 9,前掲東電[2012b] p. 18, p. 138 のデータを参照し筆者作成.
31)計算方法は,Mun, op. cit., pp. 171─202 を参 考にしている.
(1)販売電力量の予測 (2)CO2排出量の予測 rf σ t T δt rf σ t r 1.01 0.01 0.08 5 5 1 r 1.01 0.01 0.08 5 u 1.08 u 1.08 T δt d 0.92 d 0.92 5 1 p 0.54 p 0.54
A;販売電力量の予測(通常,成り行き) (単位:億kWh) A';CO2排出量予測 (単位:10万トン-CO2)
0 1 2 3 4 5 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2,890.00 3,130.70 3,391.45 3,673.91 3,979.90 4,311.37 1,207.00 1,307.53 1,416.43 1,534.40 1,662.19 1,800.63 2,667.81 2,890.00 3,130.70 3,391.45 3,673.91 1,114.20 1,207.00 1,307.53 1,416.43 1,534.40 2,462.70 2,667.81 2,890.00 3,130.70 1,028.54 1,114.20 1,207.00 1,307.53 2,273.35 2,462.70 2,667.81 949.46 1,028.54 1,114.20 2,098.57 2,273.35 876.46 949.46 0% 1,937.22 809.08 0.67 倍 0.00 億円 2000.00 円 1207.00 10万トン-CO2 -32.96% ↔ 0.00% -397.8010万トン-CO2 -795.6 億円 ↔ 0.00 億円 0.0010万トン-CO2 -397.80 10万トン-CO2 0.42Kg-CO2/kWh 0.28Kg-CO2/kWh
B;CO2排出量を考慮した販売電力量(CO2排出量削減) (単位:億kWh) B';(A’×①×(1+④+⑧)) (単位:10万トン-CO2)
0 1 2 3 4 5 2007 2008 2009 2010 2011 2012 1,298.96 1,407.14 1,524.34 1,651.30 1,788.83 1,937.82 B’/⑥-(③+⑨) 542.51 587.69 636.64 689.66 747.10 809.32 1,199.09 1,298.96 1,407.14 1,524.34 1,651.30 500.80 542.51 587.69 636.64 689.66 1,106.90 1,199.09 1,298.96 1,407.14 462.29 500.80 542.51 587.69 1,021.80 1,106.90 1,199.09 426.75 462.29 500.80 943.24 1,021.80 393.94 426.75 870.72 363.65 C;割引現在価値 (単位:億kWh) 0 1 2 3 4 5 2,890.00 3,130.70 3,391.45 3,673.91 3,979.90 4,311.37 A 2,667.81 2,890.00 3,130.70 3,391.45 3,673.91 A 2,462.70 2,667.81 2,890.00 3,130.70 A 2,273.35 2,462.70 2,667.81 A 2,098.57 2,273.35 A 1,937.22 A D;MAX(A,B,C) (単位:億kWh) 0 1 2 3 4 5 2,890.00 3,130.70 3,391.45 3,673.91 3,979.90 4,311.37 2,667.81 2,890.00 3,130.70 3,391.45 3,673.91 2,462.70 2,667.81 2,890.00 3,130.70 2,273.35 2,462.70 2,667.81 2,098.57 2,273.35 1,937.22 経済効果予測 = 0 億kWh 金額換算 0 億円 ⑬ヘッジ調整後仮想排出権 ⑥CO2排出原単位 ※目標CO2排出原単位 ④仮想排出権(%) ⑧排出権充当率 ⑪仮想排出権(数量) ⑤仮想排出権(金額) ⑨排出権価格 ⑫排出権 ①ヘッジ比率 ②拡張係数 ③拡張コスト ⑦排出権単価 ⑩CO2排出量 ・ 売電量の拡張はない. ・ 無リスク金利(rf)は 1%,ボラティリティ(σ)は 8% であるとする. ・ 売電量と CO2排出量の rf,σは同一であるとする. ・ 本稿 で は,国際協力銀行[2010]に よ る 当時 の 排出権価格の見通しから,排出権の価格を 2,000 円/トン-CO2とする. ・ 電気料金単価は 2010 年度の電灯電力総合単価で ある,21.14 円/kWh とする. ・ 法人税,減価償却費 は 考慮 せ ず,現金支出費用 は排出権のみであるとする. ・ 売電量と CO2排出量のボラティリティは同一で あるとする. 最初に仮想排出権の算出と経済効果の予測 を 表 6 に 示 す.本節 で は,原資産(V)に は 売電量(表 3 を 参照)を 用 い,2008 年度 を ス タートとする成り行き又は通常の 5 期分の売 電量 の 予測 を 行って お り(表 6 ⑴ A),同時 に CO2排出量 を 予測 し て い る(表 6 ⑵ A’). それに目標 CO2排出原単位から算出した仮想 排出権を考慮して CO2排出量を再計算し(表 6 ⑵ B’),それを基に売電量を再計算してい る(表 6 ⑴ B).そして,C の 5 期の値のみ条 件 を 設定 し(MAX (A,B)),4 期→ 0 期 は 脚注 28 の 数式(X=e-rT [pX u+(1-p)Xd])を 用 い て 0 期へと割引いている.D の値は表 6 ⑴ MAX (A , B , C)により求めている.手入力する数 値は網掛け部分のセルである.順に,rf,σ, t,T,δtの 各情報,A の 売電予想 の 0 期 の 値 (2,890.00 億 kWh), ⑩ CO2排出量(12,070 万 トン-CO2),※バックキャストに基づく目標 CO2排出原単位(0.28Kg -CO2/kWh),①ヘッ (出所)Mun, op. cit., p. 159, ibid., pp. 175─178, Figure 7.3, 7.4 を参照し筆者作成.
表 6 東電の気候変動対策に伴う経済効果評価・測定モデル(排出権なし) t
ジ比率(0),⑦排出権単価(2,000 円)である. ④仮想排出権(%)は,売電(2,890.00 億 kWh) に※バックキャストに基づく目標 CO2排出原 単位(0.28Kg -CO2/kWh)を掛け合わせ,⑩ CO2排出量(1207.00 万 ト ン -CO2)を 差 し 引 き,そ の 合計 を ⑩ CO2排出量(12,070 万 ト ン -CO2)で除して ▲32.96% と求めている.仮 想排出権の影響を表すため,②拡張係数から④ 仮想排出権を控除する(1▲32.96% = 0.67 倍). また,表 6 の ⑴ 売電の予測は,⑵ CO2排出 量の予測と連動させている.たとえば,表 6 の B の 5 期 の 最大値 1,937.82 億 kWh は,表 6 の ⑵ B’ の 5 期の最大値(809.32)を⑥ CO2排出 原単位(0.418)で除し,③拡張コスト 0 と⑨ 排出権価格 0 を差し引いて求めている. そして表 6 の C では,拡張係数が 0.67 倍に 縮小したことからすべて A を選択することと なるので,CO2排出量削減は実行されない.し たがって,経済効果の予測は 0 億 kWh という ことになる. 次に排出権を購入したと仮定して気候変動 対策に伴う経済効果を表 7 のように測定して み る(ヘッジ 比率 100%).手入力 す る の は 表 6 と同じく網掛け部分のセルである.排出権を 充当するため,②の拡張係数に⑧排出権充当率 を加算するので,拡張係数は元の 1 倍に戻る (1▲32.96%+32.96%).そして表 7 の C の 5 期 において,C の 5 期の値のみ条件を設定してい る(MAX (A,B))の で,B(CO2排出量削減) を選択することとなる.
以上のことから,拡張係数が元の 1 倍に戻 り,また,CO2排出原単位が改善されたことで (出所)Mun, op. cit., p. 159, ibid., pp. 175─178, Figure 7.3, 7.4 を参照し筆者作成.
(1)販売電力量の予測 (2)CO2排出量の予測 rf σ t T δt rf σ t r 1.01 0.01 0.08 5 5 1 r 1.01 0.01 0.08 5 u 1.08 u 1.08 T δt d 0.92 d 0.92 5 1 p 0.54 p 0.54
A;販売電力量の予測(通常,成り行き) (単位:億kWh) A';CO2排出量予測 (単位:10万トン-CO2)
0 1 2 3 4 5 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2,890.00 3,130.70 3,391.45 3,673.91 3,979.90 4,311.37 1,207.00 1,307.53 1,416.43 1,534.40 1,662.19 1,800.63 2,667.81 2,890.00 3,130.70 3,391.45 3,673.91 1,114.20 1,207.00 1,307.53 1,416.43 1,534.40 2,462.70 2,667.81 2,890.00 3,130.70 1,028.54 1,114.20 1,207.00 1,307.53 2,273.35 2,462.70 2,667.81 949.46 1,028.54 1,114.20 2,098.57 2,273.35 876.46 949.46 100% 1,937.22 809.08 1.00 倍 0.00 億円 2000.00 円 1207.00 10万トン-CO2 -32.96% ↔ 32.96% -397.8010万トン-CO2 -795.6 億円 ↔ 795.60 億円 397.8010万トン-CO2 0.00 10万トン-CO2 0.28 Kg-CO2/kWh 0.28 Kg-CO2/kWh
B;CO2排出量を考慮した販売電力量(CO2排出量削減) (単位:億kWh) B';(A’×①×(1+④+⑧)) (単位:10万トン-CO2)
0 1 2 3 4 5 2007 2008 2009 2010 2011 2012 3,515.11 3,874.14 4,263.07 4,684.39 5,140.80 5,635.23 ←B’/⑥-(③+⑨) 1,207.00 1,307.53 1,416.43 1,534.40 1,662.19 1,800.63 3,183.69 3,515.11 3,874.14 4,263.07 4,684.39 1,114.20 1,207.00 1,307.53 1,416.43 1,534.40 2,877.75 3,183.69 3,515.11 3,874.14 1,028.54 1,114.20 1,207.00 1,307.53 2,595.33 2,877.75 3,183.69 949.46 1,028.54 1,114.20 2,334.62 2,595.33 876.46 949.46 2,093.96 809.08 C;割引現在価値 (単位:億kWh) 0 1 2 3 4 5 3,553.92 3,905.34 4,286.58 4,700.15 5,148.72 5,635.23 B 3,214.89 3,538.63 3,889.89 4,270.99 4,684.39 B 2,901.26 3,199.44 3,523.03 3,874.14 B 2,611.08 2,885.66 3,183.69 B 2,342.54 2,595.33 B 2,093.96 B D;MAX(A,B,C) (単位:億円) 0 1 2 3 4 5 3,553.92 3,905.34 4,286.58 4,700.15 5,148.72 5,635.23 3,214.89 3,538.63 3,889.89 4,270.99 4,684.39 2,901.26 3,199.44 3,523.03 3,874.14 2,611.08 2,885.66 3,183.69 2,342.54 2,595.33 2,093.96 経済効果予測 = 663.92億kWh 金額換算 14,035.19億円 ⑬ヘッジ調整後仮想排出権 ⑥CO2排出原単位 ※目標CO2排出原単位 ④仮想排出権(%) ⑧排出権充当率 ⑪仮想排出権(数量) ⑤仮想排出権(金額) ⑨排出権価格 ⑫排出権 ①ヘッジ比率 ②拡張係数 ③拡張コスト ⑦排出権単価 ⑩CO2排出量 表 7 東電の気候変動対策に伴う経済効果測定・評価モデル(排出権あり:100%) t t
売電の予測が 663.92 億 kWh,金額換算すると 約 14,035.19 億円(= 663.92 億 kWh×21.14 円/ kWh)の 経済効果 が 見込 め,気候変動対策 に 伴う経済効果が測定できるという結果となった のである. 6.おわりに 本稿では,企業内部での気候変動対策に伴う 経済効果の測定・評価モデルについて検討し た.中短期の資本予算では,50 年~100 年とい う長期の気候変動対策に適用することは難しい ことから,将来の目標値を決め,中短期の通常 の資本予算にバックキャストし,両者のギャッ プとして仮想排出権を求め,排出権を用いて ヘッジすることで,経済効果を測定・評価する という方法を考案した.さらに本稿では,東日 本大震災による東電福島第一原子力発電所の事 故により,供給側において気候変動対策を中止 していることから,東電を例に用いて,東電の 気候変動対策に経済効果が伴うかどうか検討し た.東電の場合,CO2排出原単位に規制が行わ れる可能性があることから,売電量を用い,売 電量の予測から CO2排出量を求めた.そして, 仮想排出権を考慮した目標 CO2排出原単位を 設定し,それを基に売電量を逆算し,排出権を 充当することで,仮想排出権をヘッジするとい う,気候変動対策に伴う経済効果測定・評価モ デルを考案した. 検討の結果,東電の気候変動対策には,CO2 排出量削減のみを目的とし,いくつかの便宜上 設定した仮定のみに限定して意思決定したとい う前提に基づく場合,気候変動対策に伴う経済 効果が測定できることが確認できた.したがっ て結論としては,東電の気候変動対策は必ずし も事業の妨げになるとはいえず,またその他の 企業の気候変動対策にも貢献することから,気 候変動対策を組み込んだ事業計画を実行すべき であると考えられる.本稿では気候変動対策と して排出権を基準としているので,それを上回 る NPV を持つ代替案があればそれを選択する こととなる.ただし,原発に関しては安全性の 面を十分に考え再稼働する必要があることか ら,既に実施している再生可能エネルギーの利 用を別にすると,省エネ技術を途上国開発に導 入し,開発援助と同時に排出権の調達を行う, リスク移転型の気候変動対策が有力な候補とな るのではないかと考えられる. なお,本論文の限界としては,いくつか課題 が残っている.経済効果を算出する際用いたリ アルオプション算出方法では,リスク中立を前 提としていることや,ボラティリティの予測が 困難なこと,そして用いる確率分布が標準正規 分布である等に検討する課題が残っていること があげられる.また,排出権の価格は 2,000 円/ トンと固定して試算されているが,この単価は 常に変動し,場合によっては投機的な動きとな り大幅に上昇する可能性もある.将来 CO2排 出量の多い企業は,仮に政府から CO2排出量 削減義務を課せられた場合,どうしても排出量 を削減できない量については,排出権の購入を 検討しなければならない状況が来ると予測され るのだが,流動性が少ない場合,排出権価格が 急騰するという事態も有り得るであろう.その ような状況となれば,企業自体の存続が危ぶま れるリスクも考えられる.よって,排出権価格 の高騰が企業経営に影を落とすような結果とな るような制度は望ましくないと考えられること から,本稿では価格変動リスクまで考慮に入れ てはいない.しかし,今後価格変動リスクを考 慮に入れることが必要となる制度が導入される ことも考えられる.今後の課題として価格変動 リスクも考慮に入れた気候変動対策測定・評価 モデルを考案する必要があると考えている.
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