198 ( 32 ) 国際交通安全学会誌 Vol. 45, No. 3 2021 年 2 月 1-1 時間節約バイアス 警察庁交通局1) によれば、わが国における2019 (令和元)年度の道路交通法違反の検挙件数は7,317,964 件であった。このうち、「速度超過」の割合が15.5 % であり、一時不停止(18.1 %)に次いで高い構成率 を示す。高い速度での運転は、事故を起こした際の 深刻さに影響するのみならず、事故の発生リスクそ のものを高める2)。従って交通事故防止には、ドラ イバーに適切な運転速度の選択を促し、速度超過を 減少させる必要があるだろう。 速度超過に至る背景には、制限速度に納得してい ない、他のドライバーの速度に合わせているなど、 さまざまであるが、主には「急ぎ」といった走行時 間を節約しようとする心理が挙げられる3)。ところ が、加速によって実際にどの程度の走行時間を節約 可能であるか、ドライバーは正確に把握できていな い可能性が指摘されている。Svenson4)は、「30km/h から40km/hへの加速」と「70km/hから110km/h 特集●速度マネジメントと道路交通/報告
時間節約バイアスの抑制に関する実験的検討
1. はじめに への加速」の2種類の加速について、ドライバーに どちらが走行時間をより節約可能かを尋ねた。走行 距離を100kmとした場合、計算上、前者では約50 分の節約が可能である。一方、後者の場合に節約可 能な時間は約30分である。つまり、前者の方が走 行時間を多く節約できるが、Svenson4)の研究では、 参加者の79.8 %が後者を誤って選択した。このよ うな加速による節約時間の誤推定は、「時間節約バ イアス(Time saving bias)」と呼ばれる。Svenson4) は、時間節約バイアスの原因として、数学的に正し い節約時間の計算式と人間が直感的に行う節約時間 の計算式が異なることを指摘し、Table 1の算出式 を提示している。節約時間の算出については、近年 ではさまざまな認知過程が想定されているが5)、人 間の直感では、加速時に直線的に増加する節約時間 を直線的に推測できるため6)、節約時間は、加速し た割合や加速前の速度との比に基づいて評価され る。 また、時間節約バイアスの程度は、現在の走行速 度の影響を受ける。Peer6)は、ある速度から10km/h 加速した際の実際の節約時間と、ドライバーが推定 する節約時間との関係を示した(Fig.1)。例えば、 100km/h といった高速領域では、加速した時の節 約時間は実際よりも過大に推定され、反対に、時速 40km/h といった低速領域では過小に推定されるこ とが分かる。換言すれば、高速領域ではドライバー が思うほど、加速による時間節約は実際には見込め ないことになり、そのことが焦りを生み、さらなる 加速につながる可能性がある。従って、時間節約バ イアスは、ドライバーの速度選択において主要因と なる7)。そこで本稿では、この時間節約バイアスの 抑制について、特に教育的介入の可能性について報 告するものである。 1-2 時間節約バイアスの抑制 時間節約バイアスは、修正可能な変数であると指 摘されている6)。時間節約バイアスの抑制に関して、 速度メーターの改良8)や距離当たりの時間での速 度の提示9)といった工学的な観点が提案されてい るが、現状の速度メーターの普及状況を鑑み、本稿 では、心理的観点から検証を試みる。時間節約バイ アスと類似する「分数」に対する認知バイアスについ て、Eriksson & Jansson10)は、「1/20」「1/15」「1/8」 「1/5」「1/2」の各分数が数直線上のどこに位置され るかについて、最初に「1/20」から回答するか、も しくは「1/2」から回答するかを区別し、比較した。 その結果、最初に「1/2」から回答した場合、「1/20」 から回答するよりも誤答が少なかった。これは数直 線上の「1/2」という位置の特定が比較的容易な課 題から取り組むことで、後続の分数の位置を予測し やすくなったことが一因として挙げられている。 また、数値に対するその他の認知バイアスの抑制 例として、MPG錯覚11)が挙げられる。MPG錯覚は、 人間が車の燃料効率(Miles Per Gallon)を過大評 価するという錯覚であり、そのメカニズムは時間節 約バイアスと類似する。例えば、一般道での燃料効 率は「22MPG」、高速道路では「32MPG」の車につ いて、その総合的な燃料効率を評価する際、多くの 人が単純に平均して「27MPG」と算出する。しかし、 実際の燃料効率は走行速度による重み付けがなされ るため、「25.6MPG」となる。これは、燃料効率の 算出法を知らずに直感的に計算するためである。 Gamliel & Peer11)は、上記の燃料効率の代わりに 燃料消費(Gallons Per Mile)という逆数の指標を 表示し、かつその指標についての理解を深めること で、MPG 錯覚を抑制できる可能性を指摘している。 従来の時間節約バイアスに関する研究1) 5)10)では、 走行速度の指標には「km/h」が用いられてきた。従っ Experimental Study for Reduction of the Time-Saving Bias本研究では、ドライバーの速度選択に影響する時間節約バイアス(高速領域にて加速 による節約時間を過大に評価する認知バイアス)の抑制を目的とした教育の効果につい て検討した。具体的には、免許を所有する大学生27名に対し、速度の表示が「秒/km」 もしくは「km/h」の場合の加速による節約時間を、時間節約バイアス測定の前に計算さ せるトレーニングを行った。その結果、前者では時間節約バイアスが生じたのに対し、 後者では生じなかった。また、時間節約バイアスの程度は、ドライビングシミュレーター 上の運転行動と関連しなかった。
The present study examined the effect of providing education aimed at reduction of the time-saving bias (referring to the driver s cognitive bias of overestimating time saved by accelerating in a high-speed area), which affects the driver s speed selection. Specifically, before measurement of the time-saving bias, twenty-seven university students with driver s licenses were trained to calculate the time saved by accelerating when the speed was displayed as either “s/km” or “km/h.” The results of the present study indicated that the time-saving bias occurred in the former case, but not in the latter case. The findings also suggested that the extent of the time-saving bias was not related to the driving behaviors in the driving simulator. て、上述の先行研究10)11)を踏まえれば、走行速度 の表現を従来の「km/h」ではなく、「距離当たりに 必要な時間」に変え、かつ、その理解を促進するた めのトレーニングを行えば、時間節約バイアスを抑 制できる可能性がある。 1-3 本研究の目的 本研究では、走行速度の表現方法を変更し、かつ その意味理解のトレーニングを実施することで、ド ライバーの時間節約バイアスが抑制されるかどうか を検討することを目的とした。具体的には、Eriksson & Jansson10)やGamliel & Peer11)の研究を踏まえ、 走行速度の表現が「距離当たりにかかる時間(秒 /km)」の場合と、従来の「時間当たりの走行距離 (km/h)」の場合での時間節約バイアスの程度を比 較した。また、時間節約バイアスに関する研究は、 質問紙法による報告が主であるため4)7)12)、本研 究では、時間節約バイアスの程度がドライビングシ ミュレーター上での運転に及ぼす影響についても、 実験的に検討した。 2-1 研究参加者 近畿圏のA大学に通学し、普通運転免許を所有す る学生27名(男性17名、女性10名)であった。平均 年齢は21.22歳( =1.48)であった。運転免許の 平均保有歴は約1年7カ月( =1.29)であった。参 加者は、A大学で開講される授業で主に募集され、 参加の同意が得られた者のみを対象とした。参加の 謝礼として、500円分の図書カードが支払われた。 2-2 時間節約バイアスの測定
Peer & Gamliel6)が用いた時間節約バイアスの 程度を測定するための質問項目を翻訳して使用し た。参加者は、100km/hで走行している状況を設定 し、「110km/h」「120km/h」「130km/h」「140km/h」 の各速度まで加速した時に、50kmの距離を走行す るために必要な時間への回答を求めた。制限時間は 15秒であった。具体的な教示は、以下の通りであっ た。 「離れた町へ行くために運転していると想像して ください。あなたは現在、時速100kmで運転して います。残りの20kmをもしこのまま時速100kmで 運転すると、到着まで12分かかります。ここで、 次の各速度まで加速した場合、20kmの道のりを運 転するのにどれくらいの時間がかかるか予測してく ださい。」 2-3 時間節約バイアス抑制のためのトレーニング 1 )時間提示条件 時間節約バイアス測定の前に、トレーニングとし て本研究では、記述式の練習課題を参加者に求めた。 具体的には、36秒/kmで走行している状況につい て、①33 秒 /km、②30 秒 /km、③28 秒 /km、④26 秒/km、⑤24秒/km、⑥23秒/kmの各速度まで加 速した時に、20kmの距離を走行するために何分か かるかの計算を求めた。制限時間は設けなかった。 2 )時速提示条件 時間提示条件に対する統制条件として、先の記述 式の練習課題を「時速」の表現に変えたものを参加 者に回答させた。具体的には、100km/h で走行し ている状況について、①110km/h、②120km/h、③ 130km/h、④140km/h、⑤150km/h、⑥160km/h の各速度まで加速した時に、20kmの距離を走行す るために何分かかるかの計算を求めた。制限時間は 設けなかった。 2-4 実験デザイン 提示条件(時速提示/時間提示)の1要因参加者 間計画であった。参加者は無作為にいずれかの条件 に割り当てられた。 2-5 走行実験 1 )装置 走行実験では、フォーラムエイト社製のドライビ ングシミュレーター「UC-win/Road Ver.10.2」を用 いて作成した走行課題を実施した。前面に3台設置 したLG製の42インチの液晶ディスプレイに映像を 提示した。Fig.2 は、走行実験時の様子である。 2 )走行課題 全長37.5km の片側二車線の高速道路を走行する 課題であった。37.5km のうち、その大半は直線道 路にて構成されたものの、カーブのため右方向へハ ンドルを切る機会が3回、左方向へは5回あった。 走行車線と追い越し車線には、100m間隔で交互に 他車を配置した。他車は、走行車線では 90km/h、 追い越し車線では100km/h で走行し、いずれの車 も車線変更は行わなかった。また、制限速度に関す る教示は行わなかった。 3 )走行時のシナリオ 上述の走行課題について、全長37.5kmの距離の 先にある目的地に指定した時間内(25分以内)で 到着するように求めた。課題開始時の速度は90 km/h であった。時間提示条件では、90 km/hでな く、「1 km当たり40秒の速度」と表現した。なお、 いずれの条件においても、ドライビングシミュレー ター上の速度メーターは「km/h」で表示された。 また、今回の参加者が大学生であることを考慮し、 指定した時間内で走行することの目的は、「14時か ら始まる必修科目のテストのため」とし、遅刻した 場合は留年が決定するというシナリオを設定した。 シナリオ作成には、Kinosada & Usui13)の研究を参 考にした。 4 )副次課題 走行課題中に、指定時間内での到着に必要な速度 を精緻に計算させないために、指定の数字に口頭で 反応する課題を求めた。0から9まで、2秒間隔でラ ンダムに音声提示される数字について、「3」または 「8」の時に「ハイ」と口頭での返答を求めた。音声 課題は、Microsoft Visual Basic 6を用いて作成され た。 2-6 実験時に実施したアンケート項目 1 )速度表現の理解度 課題中に提示された速度表現を理解しているかを 調べるために、時間提示条件では、「60秒/km」「40 秒/km」「20秒/km」の中で最も高い速度がどれか を尋ねた。 2 )目的地への到着予想時間 走行課題において、何時頃に目的地に到着しよう としていたかについて、具体的な時間で回答を求め た。 3 )その他の項目 本研究では、参加者に実験の感想等について記述 を求めていたが、誌面の都合上、本稿での報告は割 愛する。 2-7 手続き 研究参加への同意を得た後、時間提示条件の参加 者は、時間節約バイアス抑制のためのトレーニング として、速度が「1km当たりの時間」で表示され た節約時間に関する計算課題を行った。時速提示条 件では、同様の課題が「1時間当たりのkm」にて 表示された。その後、走行実験を行った。約5分間 の練習走行の後、上述の走行シナリオを口頭で提示 し、走行課題を実施した。走行終了後、時間節約バ イアスを測定した。実験全体の所要時間は約40分 であった。なお本研究は、大阪大学大学院人間科学 研究科行動学系研究倫理審査委員会より承認を得て 実施された(承認番号:人行29-052)。 3-1 分析対象の選定 時間提示条件の参加者について、速度表現の理解 に 関 す る 質 問(2-6節1)項)に て「60秒/km」「40 秒/km」「20秒/km」のうち、最も高い速度を「40 秒/km」と回答した者が1名いた。また、時間節約 バイアスの質問(2-2節参照)について、回答に不 備があった者が1名(時速提示条件)いた。さらに、 加速前の状態での目的地までの所要時間は「30分」 であると教示したにも関わらず、加速後の到着時間 を30分以上で回答した者が1名(時間提示条件)い た。以上の3名は、実験の教示の理解が不十分であっ たことが疑われるため、以下の分析から除外された。 最終的に、時間提示条件の参加者は11名、速度提 示条件の参加者は13名であった。 3-2 走行課題の方略の群間差 走行課題にて「何時頃に目的地に到着しようとし ていたか」(2-6節2)項)について、期限である「14時」 を基準として、何分前に到着予定であったかを群ご とに算出した。時間提示条件では =2.82分前( =2.52)、時速提示条件では =3.08分前( =3.04) であった。両条件の差は非有意であった((22)= 0.22, =.83)。よって、走行課題の方略の違いが条 件間にないことが示された。 3-3 時間節約バイアスの程度 時間節約バイアスに関する質問項目(2-2節)から、 参加者のバイアスの程度を算出した。50km の距離 を100km/hで走行した場合に必要な時間(30分) から、加速後に予想される時間を引くことで、「節 約時間」を算出した。その後、Peer & Gamliel6) の 研究と同様に、実際の節約時間からの乖離を考慮す ることで時間節約バイアスの程度を検討した。具体 的には、例えば、加速後の走行時間を「24分」と予 測した場合、節約時間は6分になる。一方、実際の す影響は小さいという可能性もある。この点は、本 研究の結果の再現可能性を含め、今後議論されるべ きであろう。 4-3 限界と展望 本研究の主な限界として、まず運転行動の測定に ドライビングシミュレーターを用いた点である。加 速や追い越しに実際に事故リスクが伴うわけではな かったため、参加者の実際の運転行動を反映してい なかった可能性がある。その一方、走行実験での最 高速度の平均は、Table 3の通り、約125km/h であ り、実際の運転との乖離は小さかったと思われるが、 実車実験にて本研究の結果が再現されるかは、検討 の余地がある。 次に、本研究の参加者は全員大学生であったこと は限界の一つだろう。今後の研究では、より幅広い 属性を対象にし、結果の一般化について議論する必 要がある。 さらに、本研究では高速領域における時間節約バ イアスのみ対象とした。Fig.1の通り、低速領域で は、高速領域とは反対の時間節約バイアスが生じる。 節約時間を過小に見積もるため、一見、安全な傾向 に思える。しかし、加速によって、ドライバー自身 が思っているよりも時間を節約できることを知れ ば、より加速しようとする動機につながる危険性も 指摘されている6)。従って今後は、低速での時間節 約バイアスと実際の運転行動との関係についても注 目する必要がある。 最後に、時間節約バイアスを抑制させる介入が、 他の速度超過に対する介入よりも速度超過の減少に 強く寄与するかどうかは検証の余地がある。Peer 7) によれば、時間節約バイアスはドライバーの速度選 択の主要因である一方で、速度選択により強く影響 するのは、交通違反経験であった。速度超過の抑制 に関する心理的アプローチとしては、例えば、速度 超過を含むさまざまな運転上の危険について、座学 やディスカッション、事故被害者との交流等を通じ て事故の危険性への認識を高める例14)や、速度遵 守に娯楽性を与えて速度抑制を図るアプリゲームの 例15)などが報告されている。行動の背景にある人 間の心理はさまざまに想定されるため、多角的な観 点から速度超過の抑制を図ることが望まれる。 本稿では、ドライバーの速度選択に影響する時間 節約バイアスを取り上げ、速度表現の理解を促すト レーニングが及ぼす効果を検討した。その結果、従 来の速度表現である「km/h」では、時間節約バイ アスは生じなかった一方で、「秒/km」ではバイア スが生じていた。また、ドライビングシミュレーター 上での運転と時間節約バイアスの変数は関連を示さ なかった。今後は、実験設定やトレーニングの妥当 性についての問題を解消した上、実験結果の再現性 を検討する必要がある。 謝辞 本研究の実施にあたり、大阪大学人間科学部2017 年度卒業生の藤原秀人氏から多大なるご協力を賜っ た。ここに記して感謝致します。 参考文献 1 ) 警察庁交通局 「令和元年中の交通死亡事故の 発生状況及び道路交通法違反取締り状況等につ いて」2020年 ▶https://www.e-stat.go.jp/stat-search/ files?page=1&layout=datalist&toukei= 00130002&tstat=000001027458&cycle= 7&year=20190&month=0 (2020年11月13日閲覧) 2 ) Aarts, L., Schagen, I.:Driving speed and the risk of road crashes: A review, Accident Analysis and Prevention, Vol.38, pp.215-224, 2006.
3 ) Kanellaidis, G., Golias, J., Zarifopoulos, K.:A Survey of drivers' attitudes toward speed limit violations, Journal of Safety Research, Vol.26, No.1, pp.31-40, 1995.
4 ) Svenson, O.:Decisions among time saving options: When intuition is strong and wrong, Acta psychologica, Vol.127, No.2, pp.501-509, 2008.
5 ) Svenson, O., Borg, A.:On the human inability to process inverse variables in intuitive judgments: different cognitive processes leading to the time loss bias, Journal of Cognitive Psychology, Vol.32, No.1, pp.344-355, 2020.
6 ) Peer, E., Gamliel, E.:Estimating time savings: The use of the proportion and percentage heuristics and the role of need for cognition, Acta Psychologica, Vol.141, No.3, pp.352-359, 2012.
7 ) Peer, E.:The time-saving bias, speed choices and driving behavior, Transportation Research Part F, Vol.14, No.6, pp.543-554, 2011.
8 ) Eriksson, G., Patten J. D. C., Svenson, O., Eriksson, L.:Estimated time of arrival and debiasing the time saving bias, Ergonomics, Vol.58, No.12, pp.1939-1946, 2015.
9 ) Herberz, M., Kacperski, C., Kutzner, F.:Reducing the time loss bias: Two ways to improved driving safety and energy efficiency. Accident Analysis & Prevention, Vol.131, pp.8-14, 2019. 10)Eriksson, K., Jansson, F.:Procedural priming
of a numerical cognitive illusion, Judgment and Decision Making, Vol.11, No.3, pp.205-212, 2016. 11)Gamliel, E., Peer, E.:The average fuel-efficiency
fallacy: Overestimation of average fuel efficiency and how it can lead to biased decisions, Journal of Behavioral Decision Making, Vol.30, No.2, pp.435-445, 2017.
12)Peer, E.:Speeding and the time-saving bias: How drivers’estimations of time saved in higher speed affects their choice of speed, Accident Analysis and Prevention, Vol.42, No.6, pp.1978-1982, 2010.
13)Kinosada, Y., Usui, S.:The influence of expectation and cognitive bias on cyclists' crossing intentions: An application of the theory of planned behavior応用心理学研究、Vol.38、特 集号、 pp.58-67、2012.
14 )Glendon, A. I., McNally, B., Jarvis, A., Chalmers, S. L., Salisbury, R. L.:Evaluating a novice driver and pre-driver road safety intervention, Accident Analysis and Prevention, Vol.64, pp.100-110, 2014. 15)高田翔太、平岡敏洋、森泉慎吾、サイトウアキ ヒロ、藤井豊一、安時亨「楽しさの提供が運転 行動に与える影響についての実験的考察− 規 制速度の遵守促進を目的とした高速道路走行 ゲームの事例」『自動車技術会論文集』 Vol.48、 No.6、pp.1315-1321、2017年 節約時間が「3分」であれば、節約時間は実際より も3分、つまり100 %(1.0)過大に評価されたこと になる。 Table 2に、各加速後の速度における条件ごとの 節約時間と時間節約バイアスの程度の平均値( )、 および実際の節約時間を掲載した。時間節約バイア スの程度の平均値について、「0」(バイアスなし) を基準値とした1サンプルのt検定を行った。その 結果、時間提示条件においては、加速後の速度が 「110km/h」の場合に、基準値「0」と有意な差が認 められた((10)=2.39、 =.04)。また、「120km/h」 ((10)=1.95、 =.08)、「130km/h」((10)=1.89、 =.09)、「140km/h」((10)=1.96、 =.08)では有意 な差の傾向が認められた。一方、時速提示条件では、 「110km/h」から「140km/h」までのいずれの速度 においても有意な差は認められなかった(順に、(12) =1.37、 =.20、(12)=0.69、 =.51)、(12)= 0.09、 =.93、(10)=0.23、 =.82)。 さらに、条件、加速後の速度を独立変数、時間節 約バイアスの平均値を従属変数とする2要因分散分 析を行った(Fig.3)。その結果、条件と速度の交互作 用が有意であったため((1.04, 22.87)=7.46、 =.01、 η2=.25)、まず条件における単純主効果の検定を 行 っ た。加 速 後 の 速 度 が「110km/h」「120km/h」 「130km/h」の場合、時速提示条件よりも時間提示 条件の時間節約バイアスの程度が有意に、または有 意に大きい傾向にあった(順に、(1, 22)=8.09、 =.009 、 η2=.27、(1, 22)= 4.82、 =.04 、η2 =.18、 (1, 22)=3.02、 =.096、 η2=.12)。また、時間提示条 件および時速提示条件いずれも、加速後の速度の単 純主効果が有意な傾向、または有意であったものの (順に、(1.02, 10.21)=4.67、 =.005、η2=.32、(1.39, 16.65)=5.04、 =.03、η2=.30)、Holm法による多重 比較の結果、いずれの速度の組み合わせでも有意な 差が認められなかった( >.15)。 3-4 時間節約バイアスの程度と運転との関係 ドライビングシミュレーターでの走行実験では、 指定時間までの到着に関連する運転行動として、「実 験を通じての最高速度」と「他車を追い越す行為」 の2指標を抽出した。各指標について、条件と時間 節約バイアスの程度との関係を検討するため、階層 的重回帰分析を実施した。分析にあたり、条件につ いては「0」を時速提示条件、「1」を時間提示条件 としてダミー変数化した。時間節約バイアスの程度 は、Peer & Gamliel6)にのっとり、加速後の速度 の水準をプールした平均値を用いた。交互作用項に ついては、センタリング処理を行った。第1ステッ プに条件と時間節約バイアスの程度、第2ステップ にそれらの交互作用項を投入した。しかしながら、 「最高速度」と「追い越し」のいずれにおいても、 上記の変数を投入したモデルは非有意であった(順 に、 (3, 20)= 1.36、 = .28、 2= .17、 (3, 20)= 0.98、 =.42、 2=.13)。Table 3に回帰分析に使用 した各変数の平均値、標準偏差を示す。 4-1 時間節約バイアスの抑制について 本研究では、高速領域での加速による節約時間を 過大に評価するという時間節約バイアスの抑制につ いて、速度表現の理解を促すトレーニングが及ぼす 効果を検討した。その結果、従来の「km/h」で運 転速度を提示した場合、時間節約バイアスは生じな かった一方で、「秒/km」で提示した場合にはバイ アスが生じた。また、条件間のバイアスの程度の差 は、「110km/h」への加速の際に最も大きく、速度 が増すほど小さくなり、「140km/h」の場合に両条 件の差が無くなった。 本研究では、先行研究10)11)の知見にのっとり、 時間提示条件にて時間節約バイアスが抑制されるこ とを期待したが、上述の通り、期待とは反対の結果 になったと言える。この原因として、以下2点考え られる。1点目は、表現を変えるトレーニング自体 に効果がない可能性である。本研究では速度提示条 件との結果の比較のため、時間節約バイアスの測定 時には、時間提示条件も「km/h」で項目への回答 を求めた。先行研究10)11)の文脈の中では、時間節 約バイアスの測定時にも「秒/km」の表現を使用 すれば、バイアスの抑制を「質問項目の回答上では」 確認できた可能性はあるが、「km/h」の表現でバイ アスが生じていた以上、あくまで回答上の傾向に過 ぎない可能性がある。2点目は、時間提示条件での トレーニング方法が不適切であった可能性である。 本研究では、「秒/km」という通常の速度とは異な る表現で、加速後の節約時間を複数回計算するト レーニングを実施した。Gamliel & Peer11)は、時 間節約バイアスは修正可能な変数である一方で、普 段 と 異 な る 指 標(Gamliel & Peer11)の 研 究 で は GPM)の使用を教育することの難しさも指摘して いる。時間提示条件にて分析対象から除かれた者が 2名いたことも、この本研究での速度表現の理解の 難しさがうかがえる。 一方で、本研究では、従来の速度表現である時速 提示条件の場合に、事前にトレーニングを行うこと で、時間節約バイアスが抑制される可能性が示唆さ れた。トレーニング時には、「100km/hで20kmの 距離を走行するには12分かかる」という節約時間 についての基準となるような情報を与えた。また、 トレーニング時には、回答に制限時間を設けなかっ たため、参加者は加速後の節約時間に対する理解を 深めることができたと推察される。そのため、時間 節約バイアスを測定の際の制限時間が15秒という 短い時間の中でも、正解に近い(バイアスの小さい) 回答を導き出すことができたと考えられる。これは、 Peer & Gamliel6)が、時間節約バイアスの概念の説 明がその抑制に必要であると指摘した点と一致する。 4-2 時間節約バイアスと運転との関係 本研究におけるドライビングシミュレーターでの 運転と時間制約バイアスとの関係については、「最 高速度」「追い越し」のいずれの指標においても、 時間節約バイアスや時間提示、時速提示という条件 の違いの影響は認められなかった。速度超過バイア スについて多変量解析を実施したPeer6)の研究で は、時間節約バイアスは、ドライバーの速度選択に 影響する主要な要因の1つとなったが、本研究では 最高速度との関係さえ見られなかったことになる。 この原因としては、対象とした2つの行動指標の測 定方法が関係するかもしれない。今回の研究では、 走行課題とした37.5 kmの中での最高速度や追い越 し総数を測定したが、時間節約バイアスの影響は、 走行中で経時的に変化している可能性がある。3-2 節に示した通り、本研究の参加者は、指定時刻の「約 3分前」を到着予定時間として想定していた。つま り、その時間に合わせて速度や追い越し回数の調整 を行っていたことになる。本研究での時間節約バイ アスは、「加速における節約時間の過大評価」にな るため、走行実験のどの時点で節約時間を過大に評 価したかが重要になると思われる。従って、今回の ように走行実験全体での運転行動ではなく、例えば 実験の前半、中盤、後半等の時系列的に測定した行 動と時間節約バイアスとの関係を検証すれば、より 明確な関係が検討できる可能性がある。 一方、前述の通り、時間節約バイアスは、主に質 問紙研究によって議論されている。運転行動は、あ る特定の心理変数のみで規定されるわけでなく、そ の時の状況等のさまざまな要因の影響を受ける。 従って、時間節約バイアスが実際の運転行動に及ぼ
森泉慎吾
*臼井伸之介
**Shingo MORIIZUMI* Shinnosuke USUI**
帝 山大学心理学部
Faculty of Psychology, Tezukayama University
* 原稿受付日 2020 年11月13日
掲載決定日 2020 年12月 7 日 大阪大学大学院人間科学研究科
Graduate School of Human Sciences, Osaka University
1-1 時間節約バイアス 警察庁交通局1) によれば、わが国における2019 (令和元)年度の道路交通法違反の検挙件数は7,317,964 件であった。このうち、「速度超過」の割合が15.5 % であり、一時不停止(18.1 %)に次いで高い構成率 を示す。高い速度での運転は、事故を起こした際の 深刻さに影響するのみならず、事故の発生リスクそ のものを高める2)。従って交通事故防止には、ドラ イバーに適切な運転速度の選択を促し、速度超過を 減少させる必要があるだろう。 速度超過に至る背景には、制限速度に納得してい ない、他のドライバーの速度に合わせているなど、 さまざまであるが、主には「急ぎ」といった走行時 間を節約しようとする心理が挙げられる3)。ところ が、加速によって実際にどの程度の走行時間を節約 可能であるか、ドライバーは正確に把握できていな い可能性が指摘されている。Svenson4)は、「30km/h から40km/hへの加速」と「70km/hから110km/h ( 33 ) 199
IATSS Review Vol. 45, No. 3 Feb., 2021
時間節約バイアスの抑制に関する実験的検討 への加速」の2種類の加速について、ドライバーに どちらが走行時間をより節約可能かを尋ねた。走行 距離を100kmとした場合、計算上、前者では約50 分の節約が可能である。一方、後者の場合に節約可 能な時間は約30分である。つまり、前者の方が走 行時間を多く節約できるが、Svenson4)の研究では、 参加者の79.8 %が後者を誤って選択した。このよ うな加速による節約時間の誤推定は、「時間節約バ イアス(Time saving bias)」と呼ばれる。Svenson4) は、時間節約バイアスの原因として、数学的に正し い節約時間の計算式と人間が直感的に行う節約時間 の計算式が異なることを指摘し、Table 1の算出式 を提示している。節約時間の算出については、近年 ではさまざまな認知過程が想定されているが5)、人 間の直感では、加速時に直線的に増加する節約時間 を直線的に推測できるため6)、節約時間は、加速し た割合や加速前の速度との比に基づいて評価され る。 また、時間節約バイアスの程度は、現在の走行速 度の影響を受ける。Peer6)は、ある速度から10km/h 加速した際の実際の節約時間と、ドライバーが推定 する節約時間との関係を示した(Fig.1)。例えば、 100km/h といった高速領域では、加速した時の節 約時間は実際よりも過大に推定され、反対に、時速 40km/h といった低速領域では過小に推定されるこ とが分かる。換言すれば、高速領域ではドライバー が思うほど、加速による時間節約は実際には見込め ないことになり、そのことが焦りを生み、さらなる 加速につながる可能性がある。従って、時間節約バ イアスは、ドライバーの速度選択において主要因と なる7)。そこで本稿では、この時間節約バイアスの 抑制について、特に教育的介入の可能性について報 告するものである。 1-2 時間節約バイアスの抑制 時間節約バイアスは、修正可能な変数であると指 摘されている6)。時間節約バイアスの抑制に関して、 速度メーターの改良8)や距離当たりの時間での速 度の提示9)といった工学的な観点が提案されてい るが、現状の速度メーターの普及状況を鑑み、本稿 では、心理的観点から検証を試みる。時間節約バイ アスと類似する「分数」に対する認知バイアスについ て、Eriksson & Jansson10)は、「1/20」「1/15」「1/8」 「1/5」「1/2」の各分数が数直線上のどこに位置され るかについて、最初に「1/20」から回答するか、も しくは「1/2」から回答するかを区別し、比較した。 その結果、最初に「1/2」から回答した場合、「1/20」 から回答するよりも誤答が少なかった。これは数直 線上の「1/2」という位置の特定が比較的容易な課 題から取り組むことで、後続の分数の位置を予測し やすくなったことが一因として挙げられている。 また、数値に対するその他の認知バイアスの抑制 例として、MPG錯覚11)が挙げられる。MPG錯覚は、 人間が車の燃料効率(Miles Per Gallon)を過大評 価するという錯覚であり、そのメカニズムは時間節 約バイアスと類似する。例えば、一般道での燃料効 率は「22MPG」、高速道路では「32MPG」の車につ いて、その総合的な燃料効率を評価する際、多くの 人が単純に平均して「27MPG」と算出する。しかし、 実際の燃料効率は走行速度による重み付けがなされ るため、「25.6MPG」となる。これは、燃料効率の 算出法を知らずに直感的に計算するためである。 Gamliel & Peer11)は、上記の燃料効率の代わりに 燃料消費(Gallons Per Mile)という逆数の指標を 表示し、かつその指標についての理解を深めること で、MPG 錯覚を抑制できる可能性を指摘している。 従来の時間節約バイアスに関する研究1) 5)10)では、 走行速度の指標には「km/h」が用いられてきた。従っ て、上述の先行研究10)11)を踏まえれば、走行速度 の表現を従来の「km/h」ではなく、「距離当たりに 必要な時間」に変え、かつ、その理解を促進するた めのトレーニングを行えば、時間節約バイアスを抑 制できる可能性がある。 1-3 本研究の目的 本研究では、走行速度の表現方法を変更し、かつ その意味理解のトレーニングを実施することで、ド ライバーの時間節約バイアスが抑制されるかどうか を検討することを目的とした。具体的には、Eriksson & Jansson10)やGamliel & Peer11)の研究を踏まえ、 走行速度の表現が「距離当たりにかかる時間(秒 /km)」の場合と、従来の「時間当たりの走行距離 (km/h)」の場合での時間節約バイアスの程度を比 較した。また、時間節約バイアスに関する研究は、 質問紙法による報告が主であるため4)7)12)、本研 究では、時間節約バイアスの程度がドライビングシ ミュレーター上での運転に及ぼす影響についても、 実験的に検討した。 2-1 研究参加者 近畿圏のA大学に通学し、普通運転免許を所有す る学生27名(男性17名、女性10名)であった。平均 年齢は21.22歳( =1.48)であった。運転免許の 平均保有歴は約1年7カ月( =1.29)であった。参 加者は、A大学で開講される授業で主に募集され、 参加の同意が得られた者のみを対象とした。参加の 謝礼として、500円分の図書カードが支払われた。 2-2 時間節約バイアスの測定
Peer & Gamliel6)が用いた時間節約バイアスの 程度を測定するための質問項目を翻訳して使用し た。参加者は、100km/hで走行している状況を設定 し、「110km/h」「120km/h」「130km/h」「140km/h」 の各速度まで加速した時に、50kmの距離を走行す るために必要な時間への回答を求めた。制限時間は 15秒であった。具体的な教示は、以下の通りであっ た。 「離れた町へ行くために運転していると想像して ください。あなたは現在、時速100kmで運転して います。残りの20kmをもしこのまま時速100kmで 運転すると、到着まで12分かかります。ここで、 次の各速度まで加速した場合、20kmの道のりを運 転するのにどれくらいの時間がかかるか予測してく ださい。」 2-3 時間節約バイアス抑制のためのトレーニング 1 )時間提示条件 時間節約バイアス測定の前に、トレーニングとし て本研究では、記述式の練習課題を参加者に求めた。 具体的には、36秒/kmで走行している状況につい て、①33 秒 /km、②30 秒 /km、③28 秒 /km、④26 秒/km、⑤24秒/km、⑥23秒/kmの各速度まで加 速した時に、20kmの距離を走行するために何分か かるかの計算を求めた。制限時間は設けなかった。 2 )時速提示条件 時間提示条件に対する統制条件として、先の記述 式の練習課題を「時速」の表現に変えたものを参加 者に回答させた。具体的には、100km/h で走行し ている状況について、①110km/h、②120km/h、③ 130km/h、④140km/h、⑤150km/h、⑥160km/h の各速度まで加速した時に、20kmの距離を走行す るために何分かかるかの計算を求めた。制限時間は 設けなかった。 2-4 実験デザイン 提示条件(時速提示/時間提示)の1要因参加者 間計画であった。参加者は無作為にいずれかの条件 に割り当てられた。 2-5 走行実験 1 )装置 走行実験では、フォーラムエイト社製のドライビ ングシミュレーター「UC-win/Road Ver.10.2」を用 いて作成した走行課題を実施した。前面に3台設置 したLG製の42インチの液晶ディスプレイに映像を 提示した。Fig.2 は、走行実験時の様子である。 2 )走行課題 全長37.5km の片側二車線の高速道路を走行する 課題であった。37.5km のうち、その大半は直線道 路にて構成されたものの、カーブのため右方向へハ ンドルを切る機会が3回、左方向へは5回あった。 走行車線と追い越し車線には、100m間隔で交互に 他車を配置した。他車は、走行車線では 90km/h、 追い越し車線では100km/h で走行し、いずれの車 も車線変更は行わなかった。また、制限速度に関す る教示は行わなかった。 3 )走行時のシナリオ 上述の走行課題について、全長37.5kmの距離の 先にある目的地に指定した時間内(25分以内)で 到着するように求めた。課題開始時の速度は90 km/h であった。時間提示条件では、90 km/hでな く、「1 km当たり40秒の速度」と表現した。なお、 いずれの条件においても、ドライビングシミュレー ター上の速度メーターは「km/h」で表示された。 また、今回の参加者が大学生であることを考慮し、 指定した時間内で走行することの目的は、「14時か ら始まる必修科目のテストのため」とし、遅刻した 場合は留年が決定するというシナリオを設定した。 シナリオ作成には、Kinosada & Usui13)の研究を参 考にした。 4 )副次課題 走行課題中に、指定時間内での到着に必要な速度 を精緻に計算させないために、指定の数字に口頭で 反応する課題を求めた。0から9まで、2秒間隔でラ ンダムに音声提示される数字について、「3」または 「8」の時に「ハイ」と口頭での返答を求めた。音声 課題は、Microsoft Visual Basic 6を用いて作成され た。 2-6 実験時に実施したアンケート項目 1 )速度表現の理解度 課題中に提示された速度表現を理解しているかを 調べるために、時間提示条件では、「60秒/km」「40 秒/km」「20秒/km」の中で最も高い速度がどれか を尋ねた。 2 )目的地への到着予想時間 走行課題において、何時頃に目的地に到着しよう としていたかについて、具体的な時間で回答を求め た。 3 )その他の項目 本研究では、参加者に実験の感想等について記述 を求めていたが、誌面の都合上、本稿での報告は割 愛する。 2-7 手続き 研究参加への同意を得た後、時間提示条件の参加 者は、時間節約バイアス抑制のためのトレーニング として、速度が「1km当たりの時間」で表示され た節約時間に関する計算課題を行った。時速提示条 件では、同様の課題が「1時間当たりのkm」にて 表示された。その後、走行実験を行った。約5分間 の練習走行の後、上述の走行シナリオを口頭で提示 し、走行課題を実施した。走行終了後、時間節約バ イアスを測定した。実験全体の所要時間は約40分 であった。なお本研究は、大阪大学大学院人間科学 研究科行動学系研究倫理審査委員会より承認を得て 実施された(承認番号:人行29-052)。 3-1 分析対象の選定 時間提示条件の参加者について、速度表現の理解 に 関 す る 質 問(2-6節1)項)に て「60秒/km」「40 秒/km」「20秒/km」のうち、最も高い速度を「40 秒/km」と回答した者が1名いた。また、時間節約 バイアスの質問(2-2節参照)について、回答に不 備があった者が1名(時速提示条件)いた。さらに、 加速前の状態での目的地までの所要時間は「30分」 であると教示したにも関わらず、加速後の到着時間 を30分以上で回答した者が1名(時間提示条件)い た。以上の3名は、実験の教示の理解が不十分であっ たことが疑われるため、以下の分析から除外された。 最終的に、時間提示条件の参加者は11名、速度提 示条件の参加者は13名であった。 3-2 走行課題の方略の群間差 走行課題にて「何時頃に目的地に到着しようとし ていたか」(2-6節2)項)について、期限である「14時」 を基準として、何分前に到着予定であったかを群ご とに算出した。時間提示条件では =2.82分前( =2.52)、時速提示条件では =3.08分前( =3.04) であった。両条件の差は非有意であった((22)= 0.22, =.83)。よって、走行課題の方略の違いが条 件間にないことが示された。 3-3 時間節約バイアスの程度 時間節約バイアスに関する質問項目(2-2節)から、 参加者のバイアスの程度を算出した。50km の距離 を100km/hで走行した場合に必要な時間(30分) から、加速後に予想される時間を引くことで、「節 約時間」を算出した。その後、Peer & Gamliel6) の 研究と同様に、実際の節約時間からの乖離を考慮す ることで時間節約バイアスの程度を検討した。具体 的には、例えば、加速後の走行時間を「24分」と予 測した場合、節約時間は6分になる。一方、実際の す影響は小さいという可能性もある。この点は、本 研究の結果の再現可能性を含め、今後議論されるべ きであろう。 4-3 限界と展望 本研究の主な限界として、まず運転行動の測定に ドライビングシミュレーターを用いた点である。加 速や追い越しに実際に事故リスクが伴うわけではな かったため、参加者の実際の運転行動を反映してい なかった可能性がある。その一方、走行実験での最 高速度の平均は、Table 3の通り、約125km/h であ り、実際の運転との乖離は小さかったと思われるが、 実車実験にて本研究の結果が再現されるかは、検討 の余地がある。 次に、本研究の参加者は全員大学生であったこと は限界の一つだろう。今後の研究では、より幅広い 属性を対象にし、結果の一般化について議論する必 要がある。 さらに、本研究では高速領域における時間節約バ イアスのみ対象とした。Fig.1の通り、低速領域で は、高速領域とは反対の時間節約バイアスが生じる。 節約時間を過小に見積もるため、一見、安全な傾向 に思える。しかし、加速によって、ドライバー自身 が思っているよりも時間を節約できることを知れ ば、より加速しようとする動機につながる危険性も 指摘されている6)。従って今後は、低速での時間節 約バイアスと実際の運転行動との関係についても注 目する必要がある。 最後に、時間節約バイアスを抑制させる介入が、 他の速度超過に対する介入よりも速度超過の減少に 強く寄与するかどうかは検証の余地がある。Peer 7) によれば、時間節約バイアスはドライバーの速度選 択の主要因である一方で、速度選択により強く影響 するのは、交通違反経験であった。速度超過の抑制 に関する心理的アプローチとしては、例えば、速度 超過を含むさまざまな運転上の危険について、座学 やディスカッション、事故被害者との交流等を通じ レーニングが及ぼす効果を検討した。その結果、従 来の速度表現である「km/h」では、時間節約バイ アスは生じなかった一方で、「秒/km」ではバイア スが生じていた。また、ドライビングシミュレーター 上での運転と時間節約バイアスの変数は関連を示さ なかった。今後は、実験設定やトレーニングの妥当 性についての問題を解消した上、実験結果の再現性 を検討する必要がある。 謝辞 本研究の実施にあたり、大阪大学人間科学部2017 年度卒業生の藤原秀人氏から多大なるご協力を賜っ た。ここに記して感謝致します。 参考文献 1 ) 警察庁交通局 「令和元年中の交通死亡事故の 発生状況及び道路交通法違反取締り状況等につ いて」2020年 ▶https://www.e-stat.go.jp/stat-search/ files?page=1&layout=datalist&toukei= 00130002&tstat=000001027458&cycle= 7&year=20190&month=0 (2020年11月13日閲覧) 2 ) Aarts, L., Schagen, I.:Driving speed and the risk of road crashes: A review, Accident Analysis and Prevention, Vol.38, pp.215-224, 2006.
3 ) Kanellaidis, G., Golias, J., Zarifopoulos, K.:A Survey of drivers' attitudes toward speed limit violations, Journal of Safety Research, Vol.26, No.1, pp.31-40, 1995.
4 ) Svenson, O.:Decisions among time saving options: When intuition is strong and wrong, Acta psychologica, Vol.127, No.2, pp.501-509, 2008.
5 ) Svenson, O., Borg, A.:On the human inability to process inverse variables in intuitive
7 ) Peer, E.:The time-saving bias, speed choices and driving behavior, Transportation Research Part F, Vol.14, No.6, pp.543-554, 2011.
8 ) Eriksson, G., Patten J. D. C., Svenson, O., Eriksson, L.:Estimated time of arrival and debiasing the time saving bias, Ergonomics, Vol.58, No.12, pp.1939-1946, 2015.
9 ) Herberz, M., Kacperski, C., Kutzner, F.:Reducing the time loss bias: Two ways to improved driving safety and energy efficiency. Accident Analysis & Prevention, Vol.131, pp.8-14, 2019. 10)Eriksson, K., Jansson, F.:Procedural priming
of a numerical cognitive illusion, Judgment and Decision Making, Vol.11, No.3, pp.205-212, 2016. 11)Gamliel, E., Peer, E.:The average fuel-efficiency
fallacy: Overestimation of average fuel efficiency and how it can lead to biased decisions, Journal of Behavioral Decision Making, Vol.30, No.2, pp.435-445, 2017.
12)Peer, E.:Speeding and the time-saving bias: How drivers’estimations of time saved in higher speed affects their choice of speed, Accident Analysis and Prevention, Vol.42, No.6, pp.1978-1982, 2010.
13)Kinosada, Y., Usui, S.:The influence of expectation and cognitive bias on cyclists' crossing intentions: An application of the theory of planned behavior応用心理学研究、Vol.38、特 集号、 pp.58-67、2012.
14 )Glendon, A. I., McNally, B., Jarvis, A., Chalmers, S. L., Salisbury, R. L.:Evaluating a novice driver and pre-driver road safety intervention, Accident Analysis and Prevention, Vol.64, pp.100-110, 2014. 15)高田翔太、平岡敏洋、森泉慎吾、サイトウアキ ヒロ、藤井豊一、安時亨「楽しさの提供が運転 行動に与える影響についての実験的考察− 規 制速度の遵守促進を目的とした高速道路走行 ゲームの事例」『自動車技術会論文集』 Vol.48、 No.6、pp.1315-1321、2017年 節約時間が「3分」であれば、節約時間は実際より も3分、つまり100 %(1.0)過大に評価されたこと になる。 Table 2に、各加速後の速度における条件ごとの 節約時間と時間節約バイアスの程度の平均値( )、 および実際の節約時間を掲載した。時間節約バイア スの程度の平均値について、「0」(バイアスなし) を基準値とした1サンプルのt検定を行った。その 結果、時間提示条件においては、加速後の速度が 「110km/h」の場合に、基準値「0」と有意な差が認 められた((10)=2.39、 =.04)。また、「120km/h」 ((10)=1.95、 =.08)、「130km/h」((10)=1.89、 =.09)、「140km/h」((10)=1.96、 =.08)では有意 な差の傾向が認められた。一方、時速提示条件では、 「110km/h」から「140km/h」までのいずれの速度 においても有意な差は認められなかった(順に、(12) =1.37、 =.20、(12)=0.69、 =.51)、(12)= 0.09、 =.93、(10)=0.23、 =.82)。 さらに、条件、加速後の速度を独立変数、時間節 約バイアスの平均値を従属変数とする2要因分散分 析を行った(Fig.3)。その結果、条件と速度の交互作 用が有意であったため((1.04, 22.87)=7.46、 =.01、 η2=.25)、まず条件における単純主効果の検定を 行 っ た。加 速 後 の 速 度 が「110km/h」「120km/h」 「130km/h」の場合、時速提示条件よりも時間提示 条件の時間節約バイアスの程度が有意に、または有 意に大きい傾向にあった(順に、(1, 22)=8.09、 =.009 、 η2=.27、(1, 22)= 4.82、 =.04 、η2 =.18、 (1, 22)=3.02、 =.096、 η2=.12)。また、時間提示条 件および時速提示条件いずれも、加速後の速度の単 純主効果が有意な傾向、または有意であったものの (順に、(1.02, 10.21)=4.67、 =.005、η2=.32、(1.39, 16.65)=5.04、 =.03、η2=.30)、Holm法による多重 比較の結果、いずれの速度の組み合わせでも有意な 差が認められなかった( >.15)。 3-4 時間節約バイアスの程度と運転との関係 ドライビングシミュレーターでの走行実験では、 指定時間までの到着に関連する運転行動として、「実 験を通じての最高速度」と「他車を追い越す行為」 の2指標を抽出した。各指標について、条件と時間 節約バイアスの程度との関係を検討するため、階層 的重回帰分析を実施した。分析にあたり、条件につ いては「0」を時速提示条件、「1」を時間提示条件 としてダミー変数化した。時間節約バイアスの程度 は、Peer & Gamliel6)にのっとり、加速後の速度 の水準をプールした平均値を用いた。交互作用項に ついては、センタリング処理を行った。第1ステッ プに条件と時間節約バイアスの程度、第2ステップ にそれらの交互作用項を投入した。しかしながら、 「最高速度」と「追い越し」のいずれにおいても、 上記の変数を投入したモデルは非有意であった(順 に、 (3, 20)= 1.36、 = .28、 2= .17、 (3, 20)= 0.98、 =.42、 2=.13)。Table 3に回帰分析に使用 した各変数の平均値、標準偏差を示す。 4-1 時間節約バイアスの抑制について 本研究では、高速領域での加速による節約時間を 過大に評価するという時間節約バイアスの抑制につ いて、速度表現の理解を促すトレーニングが及ぼす 効果を検討した。その結果、従来の「km/h」で運 転速度を提示した場合、時間節約バイアスは生じな かった一方で、「秒/km」で提示した場合にはバイ アスが生じた。また、条件間のバイアスの程度の差 は、「110km/h」への加速の際に最も大きく、速度 が増すほど小さくなり、「140km/h」の場合に両条 件の差が無くなった。 本研究では、先行研究10)11)の知見にのっとり、 時間提示条件にて時間節約バイアスが抑制されるこ とを期待したが、上述の通り、期待とは反対の結果 になったと言える。この原因として、以下2点考え られる。1点目は、表現を変えるトレーニング自体 に効果がない可能性である。本研究では速度提示条 件との結果の比較のため、時間節約バイアスの測定 時には、時間提示条件も「km/h」で項目への回答 を求めた。先行研究10)11)の文脈の中では、時間節 約バイアスの測定時にも「秒/km」の表現を使用 すれば、バイアスの抑制を「質問項目の回答上では」 確認できた可能性はあるが、「km/h」の表現でバイ アスが生じていた以上、あくまで回答上の傾向に過 ぎない可能性がある。2点目は、時間提示条件での トレーニング方法が不適切であった可能性である。 本研究では、「秒/km」という通常の速度とは異な る表現で、加速後の節約時間を複数回計算するト レーニングを実施した。Gamliel & Peer11)は、時 間節約バイアスは修正可能な変数である一方で、普 段 と 異 な る 指 標(Gamliel & Peer11)の 研 究 で は GPM)の使用を教育することの難しさも指摘して いる。時間提示条件にて分析対象から除かれた者が 2名いたことも、この本研究での速度表現の理解の 難しさがうかがえる。 一方で、本研究では、従来の速度表現である時速 提示条件の場合に、事前にトレーニングを行うこと で、時間節約バイアスが抑制される可能性が示唆さ れた。トレーニング時には、「100km/hで20kmの 距離を走行するには12分かかる」という節約時間 についての基準となるような情報を与えた。また、 トレーニング時には、回答に制限時間を設けなかっ たため、参加者は加速後の節約時間に対する理解を 深めることができたと推察される。そのため、時間 節約バイアスを測定の際の制限時間が15秒という 短い時間の中でも、正解に近い(バイアスの小さい) 回答を導き出すことができたと考えられる。これは、 Peer & Gamliel6)が、時間節約バイアスの概念の説 明がその抑制に必要であると指摘した点と一致する。 4-2 時間節約バイアスと運転との関係 本研究におけるドライビングシミュレーターでの 運転と時間制約バイアスとの関係については、「最 高速度」「追い越し」のいずれの指標においても、 時間節約バイアスや時間提示、時速提示という条件 の違いの影響は認められなかった。速度超過バイア スについて多変量解析を実施したPeer6)の研究で は、時間節約バイアスは、ドライバーの速度選択に 影響する主要な要因の1つとなったが、本研究では 最高速度との関係さえ見られなかったことになる。 この原因としては、対象とした2つの行動指標の測 定方法が関係するかもしれない。今回の研究では、 走行課題とした37.5 kmの中での最高速度や追い越 し総数を測定したが、時間節約バイアスの影響は、 走行中で経時的に変化している可能性がある。3-2 節に示した通り、本研究の参加者は、指定時刻の「約 3分前」を到着予定時間として想定していた。つま り、その時間に合わせて速度や追い越し回数の調整 を行っていたことになる。本研究での時間節約バイ アスは、「加速における節約時間の過大評価」にな るため、走行実験のどの時点で節約時間を過大に評 価したかが重要になると思われる。従って、今回の ように走行実験全体での運転行動ではなく、例えば 実験の前半、中盤、後半等の時系列的に測定した行 動と時間節約バイアスとの関係を検証すれば、より 明確な関係が検討できる可能性がある。 一方、前述の通り、時間節約バイアスは、主に質 問紙研究によって議論されている。運転行動は、あ る特定の心理変数のみで規定されるわけでなく、そ の時の状況等のさまざまな要因の影響を受ける。 従って、時間節約バイアスが実際の運転行動に及ぼ Fig.1 各速度から10km/h加速した時の節約時間7) Table 1 節約時間の算出式4) 25 20 15 10 5 0 100 90 80 70 60 50 40