Title
九州・沖縄サミットが問いかけたもの : NGOがサミット
に期待したこととは
Author(s)
桜井, 国俊
Citation
外交フォーラム = Gaiko forum, 13(10): 86-89
Issue Date
2000-10-01
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/21374
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なぜ沖縄か
NGO
は九州 ・ 沖縄サミットに何を期待 したか。この質問に答えるのは、実は容易 で は な い 。NGO
は規模、関心テl
マ 、 活 動形態など千差万別であり、サミットへの 期待もまた同様だからである。共通するの は、サミットが大国の視点に立ち、その相 互調整を図る場であるのに対して、NGO
はいずれも市民生活の安全の視点に立って 活動を行なうという点である。これまでの サミットでは、視点の違いをぶつけ合い、 論争し、互いの立場への理解がそれなりに 深まってきたのだが、今回はその点で、異 常なサミットであった。これまでのサミツ トでは開催地の問題が論じられることはな かったが、今回は、沖縄でサミットを開催 することの意図そのものが問題視された。 サミットの歴史はすでに四半世紀にわたる が、一九七六年のプエルトリコなどでの開 催を例外として、先進国の大都市で開催さ れ て き た か ら で あ る 。 冷戦の終結、朝鮮半島における和解の兆 しにもかかわらず、日米両国政府はなぜ沖1
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86 GAIKO FORUM 2αlO・10 縄の米軍基地を固定化、再編 ・ 維持強化し ようとするのか。多くの沖縄の人々は、ま ずこの点に懸念を持っている。そしてサミ ットの沖縄開催は、沖縄の米軍基地を固定 化、再編・維持強化しようとする両国政府 の意図の一環であろうというのが、多くの 沖縄の人々の考えであった。したがって、 沖縄のNGO
は、サミットが取り上げる議 題への意見表明・対案提示以前に、まずこ の意図を問題にせざるをえなかった。つま り、開催地の問題を取り上げざるをえなか っ た の で あ る 。し た が っ て 、
NGO
センターを利用して 内外のメディアを通じて世界の人々に情報 発信しようとした四四NGO
団体は、大き く二つの類型に分類されることとなった。 一つはサミットを沖縄で開催した日本政府 とそれを容認した米国政府の意図そのもの を問い、世界に沖縄の実情を訴えていくこ とを目的としたNGO
で あ り 、 も う 一 つ は 、 債務や医療や環境などそれぞれが関心ある テーマについてG8
首脳の考えにNGO
の 考え方を対置し対案提示しようとしたNG
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で あ る 。 沖縄は、亜熱帯の島で珊瑚礁やマングロ ーブ林があり、観光業に強く依拠している。 観光は島の脆い環境に影響を与えやすく、 環境の保持と持続可能な観光業の振興とが 大きな課題となっている。実は、こうした 特色は、太平洋の島唄固などと共通するも のであり、沖縄がこれらの島々とネットワ ークをつくり相互に学び合うべきものは多 い。この可能性は今年四月二二日に宮崎で 開催された太平洋・島サミットで一部追求 されたが、サミット開催地沖縄のこうした 可能性を正面から取り上げるには、基地問 題があまりに大きすぎたと言えよう。沖縄 の持っこうした国際協力の可能性が十分に 発揮されるためにも、基地問題の早期解決 が 必 要 で あ る 。沖縄環境ネットワークの主張
今 回 、NGO
センター連絡会の事務局を 担った沖縄環境ネットワークは、上に見た 二類型の両方の性格を有している。第一に、 今まで沖縄の環境問題に取り組んできた沖 縄環境ネットワークは、沖縄サミットの開 催そのものに危機感を抱いていたのである。 沖縄の環境破壊は、米軍基地と基地容認の 見返りとして本土政府から提供されてきた 土木中心の補助事業とが最大の要因となっ て発生している。亜熱帯の沖縄には、本土 の設計基準で実施される補助事業は、多く の場合、地域の実態にそぐわない環境破壊 的なものとなるのである。普天間基地が名 護市辺野古に移設され、その見返りとして 北部地域振興策が進められれば、沖縄の環 境破壊はいっそう進行することになる。こ のように危倶した沖縄環境ネットワークは、 サミット直前に﹁国際環境NGO
フォーラ ム﹂を開催し、沖縄本島北部(ヤンパル) の亜熱帯林と珊瑚礁の海がいかに貴重な自 然か、基地移設と北部地域振興策とがいか に環境を破壊するか、そして自然と共生し た北部地域発展のシナリオにはどのよ、?な 871
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脚 ・10GAIKO FORUM ものがあるかを示し、基地移設の中止、す べての基地の撤去を求めた沖縄宣言を採択 し た の で あ る 。 第二に、沖縄環境ネットワークは、﹁国際環境
NGO
フォーラム﹂で世界の環境NG
O
と経験交流しつつ、経済のグローバル化 が環境に及ぽすマイナス影響に警告を発し、 それを克服するための対案提示活動を行な っ た 。 地球温暖化にせよ、遺伝子組み換え 食品にせよ、あるいは環境ホルモンにせよ、 現在世界で発生している環境問題の多くは 経済のグローバル化によるものであり、経 済利益追求の前に安全性を重視する予防原 サミット史上初めてNGOセンターが設置さ才"44団体力等リ周した 則が環境問題に適用されるべきだとの提言 を前述の沖縄宣言に盛り込んだのである。課題を残した
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内外の環境NGO
が集まり、宣言を採択 するだけでは十分ではない。大国の視点に、 市民生活の安全の視点を対置し、広く世界 の人々に訴えていく必要があるからである。 そこで、沖縄環境ネットワークは、自らの 主張をまとめた沖縄宣言をG8
首脳に手渡 しし、またサミットを機に沖縄に集まる内 外のメディアを通じて世界の人々にその考 えを訴えかけることを考えたのである。か なり早い段階から外務省に接触し、 メ デ ィ アセンター内にNGO
の ブl
スを設置する ょうに求め、それが無理だとの結論が出て か ら は ・ 次 善 の 策 と し てNGO
センターの設 置 を 求 め た の で あ る 。 平和 ・環境・福祉・人権・健康をキーワ ードとする 一 一 一 世 紀 地 球 社 会 は 、 政 府 、 企 業に加え、市民社会という第三の柱を得て 初めて形成される。市民生活の安全の視点 を唱道するNGO
が、力を蓄え、第三の柱 を強化することが決定的に重要で、NGO
がいまだ発展段階にある日本では、とりわ GAIKO FORUM 2側 ・10I
88 けそのことが 善 一 民の視点に立つ活動を自発的に展開し、他 のNGO
と連携し、そして政府・企業と緊 張感を持った相互批判に基づいて連携し、 パートナーシップを形成していくことが求 められている。今回のNGO
センター開設 と運営は、そうした一二世紀地球社会の形 成に向け一変則進であったかどうかという 観点から評価され、反省され、教訓とされ ね ば な ら な い 。 事務局を担った沖縄環境ネットワークの 力不足と、さまざまな議論と手続きを丁寧 に行なう時聞がなかったことなどから、連 絡会並びにセンターの運営にはさまざまな 至らない点があった。最大の問題は、外務 省の事前の約束にもかかわらず、NGO
セ ンタ!とメディアセンターとをつなぐ最低 限のパイプとしてのファックス通信のチヤ ンネルが確立されなかったことである。各NGO
団体の代表あるいはさらに 絞ってN
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センター連絡会の事務局長にメディアポNGOがサミットに期待した ニ と と は 氷 つきが生まれたとい、つ点が大きい。多国籍 企業が世界を市場化し、個性ある文化や市 民の安全な生活を犠牲にして利益追求を行 なうのに対抗するには、市民の視点に立つ は考えられないし、ましてや センターの入館証を与えない合理的な理由