原著 論文
保育従事者の離職意向を規定する要因
庭野 晃子
保育者不足が問題となっている。その要因として保育者の離職率の高さが指摘されているが,離職 を規定する要因について統計的な手法を用いて検証した研究はほとんどない。本研究は,保育従事者 の離職意向を規定する要因について検証し離職防止の対策を提案することを目的とした。新任からベ テランの保育従事者 574 名を調査対象とし WEB アンケートを行った。重回帰分析の結果,保育従事 者の離職意向を規定する要因は,年齢,設置主体,給与,1 か月の平均勤務日数,勤務の融通等の変 数と有意に関連していた。離職を防止する対策として,「保育士等の処遇改善」を継続することや仕 事と家庭の両立をしやすい柔軟な勤務体制を構築していくことを提案した。 キー ワード:保育従事者,離職意向,規定要因,離職防止の対策,柔軟な勤務体制Factors Determining Turnover Intention among Early Childhood Teachers
Akiko Niwano
Th is study examined factors that determine turnover intention among early childhood teachers and suggests measures to prevent it. We conducted a web-based questionnaire survey that targeted 574 early childhood teachers, both veteran and newly appointed. Multiple regression analysis revealed that factors determining turnover intention among early childhood teachers were associated to a large degree with variables such as age, institutional management body, salary, average working days per month, and work fl exibility. As measures to reduce turnover intention, we suggest continuing to improve working conditions for nursery teachers and creating fl exible work systems conducive to a good balance between work and family.
KeyWords: early childhood teachers, turnover intention, determinant factors, measures to prevent turnover,
fl exible working system
Ⅰ.目的
本研究は,保育従事者の離職意向の規定要因 を明らかにし,離職の防止策を提案することを 目的とする。また本研究において「保育従事 者」とは,保育士資格の有無,認可・無認可, 公営・民営を問わず保育施設において保育に従 事する者とする。保育士資格を有しない保育従 事者は,有資格者である保育士の業務負担を軽 減し保育施設における人材不足を補う重要な存 在である。また国がすすめている保育士の処遇 改善に関する取り組みでは,保育士資格を有し ない保育従事者も対象であることから本研究に おいても無資格の保育従事者を研究の対象に含 白梅学園大学 子ども学・家族社会学める。なお,本研究の協力者 574 名のうち 28 名(4.9%)が保育士資格を有していない。 待機児童数の増加に伴い,保育士不足が社会 問題となっている。平成 27 年に公表された厚 生労働省の調査(2015)1)によると,平成 26 年時点での保育士登録者数は約 119 万人で,そ のうち勤務者数は 43 万人,保育士資格を有し ているが保育施設等に勤務していない潜在保育 士は約 76 万人と報告されている。この背景に は,保育士養成校等で保育士資格を取得しても 保育園に就職する人は約半数であることと,保 育園に就職後 5 年未満で離職する人は約半数に 上ることが要因としてある。 平成 27 年度の保育士全体(全年齢,公営民営 を合わせた全認可保育園)の離職率は 10.3%,民 営の保育施設に限定すると 12.0%と報告されて いる2)。また同報告書において職場に対し「給 与・賞与等の改善」を希望する者が圧倒的に多 いことが明らかである3) 。こうした状況に対応 すべく,国は平成 25 年度より「待機児童解消 加速化プラン」を策定し,平成 29 年度末まで に新たに 50 万人分の保育の受け皿を確保する とともに,保育士確保をねらいとして保育士の 処遇改善を試みた。しかし平成 29 年度,待機 児童数は依然として 2 万人を超える水準で推移 し,保育士不足が続いていることから,喫緊の 課題である待機児童解消のための取り組みを一 層強化するため,平成 29 年 6 月「子育て安心 プラン」を策定した。「保育の受け皿を支える 『保育士人材確保』」4)を重点課題の 1 つに据 え,保育士の月額給与を段階的に引き上げた。 しかし,こうした制度的対応が行われているも のの,処遇改善が離職を抑制させたかどうかの 効果についてはまだ検証されていない。また, 人材確保のためのさまざまな施策注 1)が進めら れている一方で,保育従事者の離職意向や継続 意向の要因を明らかにした研究は極めて少ない。 平成 29 年 10 月時点において保育士の有効求 人倍率は 2.76 倍(全職業 1.58 倍)と依然保育士 不足は続いていることが報告された5) 。また保 育士不足を理由に子どもの受け入れ人数を減ら した保育園が多数あることが全国紙で報じられ た。 「保育士不足を理由に,今年 4 月時点で少な くとも全国 24 自治体の 204 の認可保育園で受 け入れる子どもの数を減らしていた。保育施設 の数は増えているが,自治体間の奪い合いや厳 しい勤務実態から保育士の確保が追い付かず, 待機児童が解消されない実情がうかんだ。(中 略)国は,待機児童解消のために基準を緩め, 保育士 1 人が担当する子供の数が増えるなど, 働く環境の厳しさを指摘する意見もある。」6) このように,人材確保が追いつかないために 保育士の配置人数を緩和したり,受け入れる子 どもの数を減らすなど思わしくない方向へ進ん でしまっている。この悪循環を断ち切らなけれ ばならないが,保育従事者の離職意向に関する 研究蓄積が少ないため,離職を食い止めるため に有効な施策を打ち出すことは難しい。離職防 止に確実に結びつく有効な施策を考案するに は,まず,保育従事者の離職意向の規定要因を 明らかにすることである。
Ⅱ.先行研究
保育者の離職に関する研究の動向を分析した 廣川(2007)8)は,保育者の離職そのものに焦 点を当てた研究が皆無であったと指摘してい る。2007 年の時点では,保育者の離職でなく 職務上の困難やストレス,バーンアウトに関す る研究が散見される。2009 年,全国保育士養 成協議会9) の調査により,養成校を卒業後 1 年未満で離職した保育者は 4 人に 1 人,3 年後 は半数が離職していたことが報告され,新任保 育者の早期離職が認識された。以後,新任保育 者 の 離 職 に 注 目 し た 研 究 は, 岡 本 ら (2010)10), 加 藤・ 鈴 木(2011)11), 遠 藤 ら (2012)12),森本ら(2013)13),小川(2013)14), 伊 藤(2014)15), 上 田・ 松 本(2015)16), 小 川 (2015)17), 内 田・ 松 崎(2016)18), 横 山 ら (2016)19)により進められた。新任保育者の離職の要因として指摘されているのは「心身の不 調」「保育方針の不一致」「仕事量の多さ」「労 働条件」「職場の人間関係」等が挙げられてい る。また厚生労働省(平成 25 年)20)の調査に よれば,保育士としての就業を希望しない理由 として「賃金が希望と合わない」「休暇が少な い・休暇が取りにくい」「子育てとの両立がむ ずかしい」等が上位に挙げられている。 これらの研究は,主にアンケートを単純集計 した結果であり離職の規定要因は検証されてい ない。そこで庭野は,保育士となって 2 年未満 の新任保育士の離職意向の要因を検証し,「保 育園での実習回数」「勤務月数」「設置主体」 「保育以外の行事や指導案作成・事務作業困難 感」「同僚との人間関係・コミュニケーション 困難感」が離職意向に関連していることを明ら かにした21)。一方,先行研究で指摘されてい る給与や労働時間に対する意識(庭野は「納得 できる就労環境・処遇」と命名している)は関連 していなかった。この結果について庭野は,新 任保育者は労働条件を納得した上で就職してい るためであり,「就労環境・処遇」が離職意向 に関連するのは,子育てと仕事の両立をする時 期ではないかと言及している。庭野による研究 は,新任保育者の離職意向の規定要因を探る実 証的な研究として一定の意義があるが,母集団 が小さいことや新任保育士に対象者が絞られ, 地域(東海地区)が限定されている等いくつか の課題が残されている。 保育士不足が深刻となり,子どもの受け入れ 数を減らす自治体が現れたり,子ども数に対す る保育士数の配置基準を緩め保育の質の低下が 懸念されるなか,早急に保育士不足を解消する ための有効な対策を講じる必要 がある。同じ対 人援助職である看護師や社会福祉士の離職意向 に関する研究22)23)では,その規定要因が明ら かにされており,離職を防ぐための対策が提案 されているが,保育士においてはない。 そこで本研究は,先行研究における課題をふ まえ,新任からベテランの保育従事者を対象と し,離職意向の規定要因について検証し離職防 止の対策を提案することを目的とする。その 際,先行研究において指摘されていた「賃金・ 給与・賞与」を「給与」として含めるほか, 「労働条件」を勤務日数,労働時間,残業時間, 有給休暇消化率等の客観的変数に置き換える。 さらに,保育従事者の年齢,学歴,婚姻,正 規・非正規等のデモグラフィックデータ,保育 園の設置主体や認可・無認可の差異を分析に含 める。給与や労働時間等が離職意向を規定する 要因かどうかを確かめることは,「保育士の処 遇改善」の取り組みが有効であるかを見極める うえで必須であり,様々な変数を含めて科学的 に検証することは,保育園の労働環境を改善し ていくうえで重要である。なお,保育従事者の 離職意向の規定要因を探る研究はまだ少ないこ とから,本研究では仮説をたてずまず規定要因 を探索していくことを主眼におくこととする。
Ⅲ.方法
(1)調査方法・対象者・調査期間 本研究は,インターネット調査会社 Y 社に 協力を依頼し WEB アンケート調査を行った。 調査の手続きと対象者への調査依頼については 以下の通りである。 Y 社に登録をしているモニターのうち,日本 国内の保育園(認可・無認可)に勤務している 保育従事者 1078 名のなかから調査同意が得ら れた 574 名(園長,経営者を除く)を対象とし た(有効回答率 53%)。WEB アンケート調査は パソコンやスマートフォン等の情報端末機器か ら回答する仕組みとなっていることから,対象 者はデジタルデバイスの操作が可能でインター ネットリテラシーの高い層であると予想され る。調査期間は,2018 年 3 月 17 日から 4 月 2 日。 (2)被説明変数 本研究は,離職意向を被説明変数とする。本 研究は,保育従事者の現時点での離職意識や職 場環境や処遇に対する意識をリアルタイムで掬いだすことを目的としている。そのため,現在 保育施設に勤務している保育従事者を対象とし た。また,離職意向と離職行動は相関があるこ とが他の先行研究24)において報告されている ことから,離職意向の規定要因を明らかにする ことで離職率を低下させるために有効な提案を することができると考えた。すでに離職した人 を対象にした場合,過去を振り返って回答する ため誤回答や記憶違いが懸念されるが,現職者 の離職意向であればそうしたリスクを低減する ことができる。 離職意向は, ・山崎(2003)25)が開発した 6 項目注 2) を保育従事者向けに修正した尺度を 採用した。「転職できる他の保育園を探そうと 思ったことがある。」や「仕事自体を辞めた い・しばらく休みたいと思ったことがある。」 など現職からの転職または離職についての意向 を把握する 6 項目で構成されており,その信頼 性・妥当性が確認されている。回答は 7 件法と し,最小値 6,最大値 42,平均値 25.21,信頼 係数α=0.902 であった。 (3)説明変数 説明変数は,年齢,性別,有配偶,子どもの 有無,学歴,現在の保育園での勤務年数,就業 したことのある保育園数,設置主体,園児数, 無認可・認可,非正規・正規,給与,1 か月の 平均勤務日数,1 日の平均労働時間,1 週間の 平均残業時間,勤務の融通,年次有給休暇消化 率,早期離職率である。 有配偶については,事実婚によるパートナー を含めた。子どもの有無は,小学校までの子ど もの有無とした。学歴は,高等学校卒業,専門 学校卒業,高専・短期大学卒業,大学・大学院 卒業の 4 カテゴリとした。設置主体は,公立, 社会福祉法人,株式会社,NPO,その他の 5 カテゴリとした。園児数は,「99 人まで」「100 人以上」の 2 カテゴリとした。無認可・認可 は,無認可保育園,認可保育園の 2 カテゴリと した。非正規・正規は,パート,アルバイト, 派遣,契約,嘱託等の非正規職員と正規職員の 2 カテゴリとした。給与は,年間の見込み年収 として 200 万円未満,200-300 万円未満,300-400 万 円 未 満,万円未満,300-400-500 万 円 未 満,500-600 万 円未満,600 万円以上の 6 カテゴリとした。勤 務日数は,1 か月あたりの平均勤務日数とし た。労働時間は,1 日当たりの平均労働時間と した。残業時間は,1 週間の平均残業時間とし た。勤務の融通については,融通が利かない, あまり融通が利かない,どちらでもない,たま に融通が利く,融通が利くの 5 カテゴリとし た。年次有給休暇消化率は,0-30%未満,30-50%未満,50-80%未満,80-100%未満の 4 カ テゴリとした。早期離職率は,2016 年度に入 職した保育士(有資格者)を分母とし,そのう ち 2018 年 3 月までに離職した保育士数を分子 として算出した。つまり,2 年未満で離職した 保育士の割合とした。表 1 に記述統計量を示し た。 (4)分析方法 本研究は,1 つの従属変数を複数の独立変数 から説明することを試みるため重回帰分析を 行った。離職意向を従属変数,(3)で示した変 数を独立変数とし強制投入法で重回帰分析を 行った。表 2 に結果を示した。VIF は 3 以下 だった。統計処理には SPSS22.0 for Windows を用いた。 (5)倫理的配慮 本研究は,白梅学園大学研究倫理審査委員会 の承認を経て実施された。調査にあたり,研究 目的,協力は自由意志であること,途中で中断 できること,データは研究目的以外で使用しな いこと,結果を公表する際は個人が特定されな いことを WEB 上で説明を行い,承諾をしてく ださった方のみに回答をしてもらった。
Ⅳ.結果
年齢については,5%水準で負の関連が認め られた(β=-.116, p.<.05)。つまり年齢が高い ほど離職意向が低い。 有配偶については,10%水準で負の関連が認められた(β=-1.77, p.<.1)。つまり,有配偶者 ほど離職意向が低いということである。看護師 の離職意向について分析した渡邊ら(2010)26) や難波ら(2009)27)の研究では,有配偶と離職 意向に関連はみられなかったが,保育従事者で は関連があった。配偶者の有無と離職意向の関 係が,職種によって異なるかどうかについて今 後検討していきたい。 現在の保育園の勤務年数は 10%水準で正の 関 連 が 認 め ら れ た(β=.505, p.<.1)。 つ ま り, 現在勤めている保育園での勤務年数が長いほど 離職意向が高い。 就業したことがある保育園数は,10%水準で 正の関連が認められた(β=.437,p.<.1)。つま り,勤務した保育園数が多いほど離職意向が高 い。離職の回数が多い人ほど,一か所に留まら 表 1 記述統計 変数 平均 標準偏差 離職意向(6 項目 7 段階) 25.213 9.330 年齢(歳) 37.908 9.957 女性割合(%) 0.923 0.273 有配偶者(事実婚を含む)(%) 0.641 0.480 小学生までの子ども(%) 0.415 0.493 学歴(%) 高等学校 0.026 0.160 専門学校 0.134 0.341 高専・短大 0.503 0.500 大学・大学院 0.336 0.473 現在の保育園の勤務年数(年) 2.920 1.626 就業したことがある保育園数(園) 2.465 1.610 設置主体(%) 公立 0.317 0.466 社会福祉法人 0.462 0.499 株式会社 0.132 0.339 NPO 法人 0.031 0.174 その他(国立,宗教法人,個人等) 0.057 0.233 園児数∼ 99 人(%) 0.530 0.500 園児数 100 人∼(%) 0.470 0.500 無認可(%) 0.159 0.366 認可(%) 0.841 0.366 非正規(%) 0.514 0.500 正規(%) 0.486 0.500 給与(6段階) 1.962 1.122 平均勤務日数(日/月) 19.117 5.179 平均実労働時間(時間/日) 7.481 2.164 平均残業時間(時間/週) 5.733 9.703 勤務の融通(5 段階) 2.312 1.394 年次有給休暇消化率(4 段階) 1.080 1.171 早期離職率(%) 0.115 0.253 n 574 表 2 保育者の離職意向規定要因 基準変数 非標準化係数 標準誤差 年齢 -0.116* .046 性別(ref. 男性) 女性 -.228 1.475 有配偶(事実婚を含む) -1.770† .957 小学生までの子ども -.965 .889 学歴(ref. 高専・短大) 高等学校 -.733 2.360 専門学校 -.077 1.131 大学・大学院 .775 .846 現在の保育園の勤務年数 0.505† .263 就業したことがある保育園数 0.437† .252 設置主体(ref. 社会福祉法人) 公立 -1.425 .892 株式会社 .889 1.332 NPO 法人 -4.538* 2.263 その他(国立,宗教法人,個人等) .188 1.722 園児数(ref. ∼ 99 人) 100 人∼ -.844 .832 無認可・認可(ref. 無認可) 認可 1.977† 1.196 非正規・正規(ref. 非正規) 正規 -.981 1.103 給与 -1.185* .470 平均勤務日数(1 ヶ月) 0.228** .081 平均実労働時間(1 日) 0.348† .203 平均残業時間(1 週間) .022 .040 勤務の融通 -1.447*** .296 年次有給休暇消化率 -.065 .333 早期離職率 3.730* 1.492 n 574 調整済 R2 0.121 †p<.1 * p<.05 ** p<.01 *** p<.001
ず他の職場に異動する傾向があると推測され る。ただし,公立保育園の場合,数年ごとに異 動があるため,勤務年数,就業したことがある 保育園数と離職意向との関係については設置主 体別に今後分析する必要がある。 設置主体は,NPO 法人が 5%水準で負の関 連 が 認 め ら れ た(β=-4.538,p.<.05)。 つ ま り, 社会福祉法人と比べると NPO 法人の離職意向 が有意に低い。 無認可・認可については,10%水準で正の関 連が認められた(β=1.977,p.<.1)。無認可保育 園と比べて認可保育園は離職意向が有意に高い ということである。 給与については,5%水準で負の関連が認め られた(β=-1.185,p.<.05)。先行研究では,保 育士の離職と給与の低さとの関連が指摘され, 新任保育者を対象とした研究では関連がないと 指摘されていた。新任からベテランを対象とし た本研究においては,給与が高いほど離職意向 が低いことが確認された。 1 か月の平均勤務日数は,1%水準で正の関 連が認められた(β=.228,p.<.01)。1 か月の平 均勤務日数が多い人ほど離職意向が高い。 1 日の平均実労働時間は 10%水準で正の関連 が認められた(β=-.348,p.<.1)。1 日の平均実 労働時間が長い人ほど離職意向が高い。 勤務の融通は,対象者に対して勤務の融通が 利くかどうかについて抽象的な質問をしている ため,主観的かつ大まかに「融通が利くかどう か」をとらえていると思われる。一般的に保育 園の勤務の融通性とは,出勤日,時間帯,休 日,遅刻早退欠勤に対する柔軟性と考えていい だろう。緊急時に休めるか,遅刻早退を柔軟に 受け止めてもらえるか,また希望するシフトを 組んでもらえるか等を主なポイントとして回答 していると考えられる。このことを前提として 分析結果を確認すると,勤務の融通は,0.1% 水準で負の関連があり,勤務の融通が利くほど 離職意向が低い(β=-1.447,p.<.001)。子育て中 の場合,子どもの急な病気や事故等が起きたと き早退や欠勤をせざるをえない。このような時 のために, 普段からフォローする職員が待機し ていたり,余裕をもった配置人数としておく等 の職場の体制が職員にとって勤務の融通が利く 働きやすい職場環境と認識される要因になるの ではないかと考える。 早期離職率は,5%水準で正の関連がある (β=3.730,p.<.05)。早期離職率の高い職場で働 く保育従事者ほど離職意向が高いということで ある。 性別,小学校までの子どもの有無,学歴,非 正規・正規のデモグラフィック変数は離職意向 に有意な影響を与えていなかった。同様に,園 児数,1 週間の平 均残業時間,年次有給休暇消 化率については,離職意向と関連が認められな かった。
Ⅴ.検証結果の考察
本研究は,保育士の離職率が高く,保育士不 足が社会問題となっていることを受け,保育従 事者の離職意向の規定要因を明らかにした。保 育士が不足していることで子どもの受け入れ人 数を減らさざるをえない保育園もあるなか,ま た,国は保育士の処遇改善を図っているにもか かわらず,一向に保育士不足が解消されないな か,そして,保育士の離職の規定要因に関する 実証研究がないなかで,本研究が果たした意義 は小さくないといえる。 本研究で明らかになったことは以下のとおり である。まず第 1 に,保育従事者の離職意向 は,年齢,有配偶,現在の保育園の勤務年数, 就業したことがある保育園数,設置主体,無認 可・認可,給与,1 か月の平均勤務日数,1 日 の平均実労働時間,勤務の融通,早期離職率と 関連していた。一方,性別,小学校までの子ど もの有無,学歴,園児数,非正規・正規,1 週 間の平均残業時間,年次有給休暇消化率は関連 が認められなかった。離職意向と関連がないと いうことも新たな知見のひとつである。 第 2 に,先行研究で指摘されてきた要因と本研究の結果は一致するものと異なるものがみら れた。順に考察する。 先行研究において保育士として就業を希望し ない理由として「賃金が希望と合わない」,職 場の改善希望として「給与・賞与」が指摘され てきた。本研究では離職意向と「給与」が有意 に関連したことから,先行研究を支持する結果 となったといえる。給与が高いほど離職を抑制 させる効果が期待できるとすれば,国がすすめ ている処遇改善は有効な対策であるといえる。 次に,先行研究において指摘されていた「労 働条件」については,一部支持された結果と なった。本研究においては 1 か月の平均勤務日 数,1 日の平均実労働時間,1 週間の残業時間, 有給休暇消化率といった客観的変数に置き換え て検証したところ,前者の 2 変数は有意に関連 し,後者の 2 変数は関連が認められなかった。 勤務日数が多く労働時間が長いほど離職意向が 高いことについては予想通りの結果といえよ う。一方,残業時間と離職意向は関連がないこ とについては予想外の結果であった。有給休暇 消化率については,他の変数と合わせて後述す る。 次に,現在の保育園での勤務年数は,新任保 育者を対象とした先行研究の結果を支持する結 果となった。2 年未満の新任保育者を対象とし た庭野の研究では,勤務期間が 1 年を過ぎたこ ろから離職意向が上昇する傾向があると指摘さ れている。新任からベテランまで広げた本研究 は,勤務年数が長いと離職意向が高まるという 結果であった。キャリアを問わず,勤務年数は 保育従事者の離職意向の要因と考えられる。 さて次に,先行研究と異なる結果について考 察する。保育士としての就業を希望しない理由 として「休暇が少ない・休暇が取りにくい」が あげられていたが,本研究においては「有給休 暇消化率」は離職意向と関連が認められなかっ た。ただし,「休暇が少ない・休暇が取りにく い」と「有給休暇消化率」の意味は完全に一致 しているわけではないため今後精緻な分析が必 要である。 新任保育士を対象とした庭野の研究では,公 立より私立保育園に勤務する保育士の方が離職 意向が高い結果だったが,本研究においては, NPO 法人に勤務する保育従事者の離職意向が 有意に低いという結果となった。ただし,先行 研究と本研究の設置主体の区分が異なるため, 今後の検討が必要である。 本研究で明らかになったことの第 3 は,本研 究では,離職意向を規定する要因として「年 齢」「有配偶」「無認可・認可」「勤務の融通」 「早期離職率」といったこれまで指摘されてこ なかった新たな要因が確認された点である。 「年齢」に関しては,年齢が上がるほど離職 意向が低くなるという結果であった。年齢が上 がると離転職し難いことが離職意向の抑制に影 響していると考えられる。 「有配偶」については,保育従事者にとって パートナーの存在が就業継続するうえで何らか の影響を与えていることを示唆する。 「無認可・認可」については,無認可保育園 は認可保育園と比べると離職意向が有意に低い という結果だった。無認可保育園は認可保育園 と比べると,保育園の設備や広さ,保育士の配 置人数等において基準が低く,職員の給与や福 利厚生の面においても認可保育園の方が整備さ れていると考えられることから,予想外の結果 だった。この結果について無認可園に勤務して いる保育従事者の資格の有無が関連しているか を確認したところ,無資格者 28 名全員が無認 可園に勤務していることが分かった。この点に 注目すると,無資格の場合認可園に就職し難い ことが考えられ離職意向が抑制される結果と なったのではないかと考える。ここで判別する ことはできないが,離職意向を規定する興味深 い要因のひとつであり,今後の分析課題として いきたい。 「勤務の融通」については,離職意向と有意 な関連が認められなかった「有給休暇消化率」 と合わせて考察する。「勤務の融通」は離職意
向と有意に関連するが,「有給休暇消化率」は 関連しないという結果は,保育従事者にとって 休暇の多寡よ りも緊急時に休めることや希望の シフトに入れるかどうかといった柔 軟な勤務の 在り方が就労継続していくうえで重要であると 考えられないだろうか。この解釈に基づいて後 で政策提言をしたい。 「早期離職率」が離職意向に有意に関連した ことは,離職行動と離職意識の関連が認められ たことを意味する。早期離職率が高い保育園に 勤務する保育従事者の離職意向は高いという結 果は,離職者が絶えず,人手不足の状態が慢性 的につづいていると予想される。
Ⅵ.保育従事者の離職防止策の提案
以上の考察をふまえ,保育従事者の離職を防 止するための対策を以下に提案する。第 1 に, 給与が低いほど離職意向が高いという結果か ら,「保育士等の処遇改善」をさらに継続して いく必要があるとともに,処遇改善のための補 助金が保育従事者の給与に反映されるよう各保 育施設に義務づけるべきである。第 2 に,勤務 の融通が利くほど離職意向が低下することか ら,このことに配慮した組織づくりをする必要 がある。これに関連して,1 か月の平均勤務日 数が多く,1 日の平均労働時間が長いと離職意 向が高いことから,職員のライフスタイルに応 じた勤務日数,労働時間数を設定できるように する必要がある。繰り返しになるが,休暇の多 寡よりも緊急時に休めることや希望のシフトに 入れるかどうかといった柔軟な勤務の在り方を 整えていくことが重要だと考えられる。非正 規・正規,未婚・既婚,子どもの有無,また介 護の必要性等にかかわらず仕事と家庭の両立を しやすい勤務体制を構築していくことが離職防 止に貢献するのではないだろうか。 ここで,仕事と家庭の両立を可能とするため の試みとして,短時間勤務制度や介護休暇制度 等の導入を提案する。この制度は,育児・介護 休業法に基づいており,平成 24 年 7 月の改正 より従業員数 100 人以下の企業も導入が義務化 された。1 で触れた「子育て安心プラン」で は,保育事業主に対してこれらの制度を導入す るための経済的支援を行っている。この制度を 活用することにより,従業員の定着率の向上や モチベーションアップ,採用・教育コストの軽 減,優秀な人材の獲得といったメリットが期待 できるとされている。短時間勤務制度は,業種 や職種によって時期,時間,勤務パターン,融 通性が異なり,事業所ごとに検討することがで きる。すでにこの制度を導入しているある介護 事業所では,介護による短時間勤務の場合,時 間短縮よりも日数削減の方が利用しやすいこと から時間を休暇に替えられる制度にしている。 また,ある企業では本人の希望によりパートに 身分変更した場合正社員への復帰が可能な制度 を作り,ライフステージに応じて雇用形態を変 えることができるようにしている。保育施設に おいてもこうした制度を利用し,多様な働き方 に対応した職場環境づくりを進めるべきであ る。 第 3 に,早期離職率が高い保育園について は,その要因を検討していく必要がある。要因 を明らかにし職場環境を改善することで離職者 を抑制することが期待できるのではないだろう か。また,早期離職者が出た時点で何らかの対 策を講じる必要がある。Ⅶ.本研究の限界と今後の課題
最後に,本研究の限界と課題について述べ る。第 1 に,本研究は,保育従事者個人のデー タを用いた結果であり,保育事業者毎の労働環 境や条件について把握していない。そのため保 育従事者の主観からのアプローチとなった。今 後は,保育事業者毎のデータを確保し分析して いきたい。第 2 に,他の対人援助職における離 職意向の研究では,キャリアの段階別,雇用形 態別に離職意向の要因が異なるという知見を見 出している。考察で論じたとおり,保育従事者 においてもキャリアによって要因が異なることを指摘した。今後,キャリアや雇用形態という 視点を含め離職意向の規定要因を検証していき たい。 以上のような課題は残されているが,本研究 は,保育従事者の離職意向を規定する要因を検 証し離職の防止策を提案するという目的を果た すことができた。今後検証を重ね,より精緻な 分析と考察を行いたい。 (注 1)厚生労働省(2014)28) は,保育人材確 保のために事業主が活用できる様々な支援策 を設けている。例えば,労働者のキャリア形 成を促進したい場合,事業主は「キャリア形 成促進助成金」を,子育て中の職員を応援し たい場合,「子育て期短時間勤務支援助成金」 をそれぞれ申請することができる等,13 種 類の支援がある。 (注 2)「現在の保育園でずっと働きたいと思 う」「今の保育園での仕事に耐えられないと 思ったことがある」「とりあえず仕事を辞め てしまおうと思ったことがある」「転職でき る他の保育園を探そうと思ったことがある」 「まったく違う仕事に変えようと転職先を考 えたことがある」「仕事自体を辞めたい・し ばらく休みたいと思ったことがある」の 6 項 目。「かなり当てはまる」から「全くあては まらない」までの 7 点尺度,最小値 6,最大 値 42。 引用文献 ⑴厚生労働省(2015)「保育士等に関する関係 資料」第 3 回 保育士等確保対策検討会 参 考資料 1. ⑵ 同上.8 ⑶ 同上.9 ⑷内閣官房内閣広報室(2018)待機児童対策∼ これからも,安心して子育てできる環境つく り に 取 り 組 み ま す!.http://www. kantei. go. jp(情報取得 2018/12/03) ⑸厚生労働省(2018)「職業安定業務統計」 ⑹朝日新聞 2018 年 7 月 2 日 朝刊 ⑺ 前掲⑴.18 ⑻廣川大地(2008)保育者の仕事継続意欲,離 職意向に関する研究の動向.中村学園大学・ 中村学園大学短期大学部研究紀要,40,83-90. ⑼全国保育士養成協議会(2009)指定保育士養 成施設卒業生の卒後の動向及び業務の実態に 関する調査 報告書Ⅰ―調査結果の概要―. 保育士養成資料集,50,246. ⑽岡本和惠・卜田真一郎・松井玲子(2010)本 学卒業生の幼稚園・保育所等における早期離 職の現状と課題:平成 19・20 年度卒業生を 対象として.常磐会短期大学紀要,39,19-39. ⑾加藤光良・鈴木久美子(2011)新卒保育者の 早期離職問題に関する研究 1:幼稚園・保育 所・施設を対象 とした調査から.常葉学園 短期大学紀要,42,79-94. ⑿遠藤知里・竹石聖子・鈴木久美・加藤光良 (2012)新卒保育者の早期離職問題に関する 研究 2- 新卒後 5 年目までの保育者の「辞め たい理由」に注目して.常葉学園短期大学紀 要,43,155-166. ⒀森本美佐・林 悠子・東村 知子(2013)新人 保育者の早期離職に関する実態調査.奈良文 化女子短期大学紀要,44,101-109. ⒁小川千晴(2013)幼稚園・児童福祉施設にお ける早期離職―動向調査と卒業生の現状を通 して―.聖隷クリストファー大学社会福祉学 部紀要,11,55-64. ⒂伊藤恵里子(2014)新任保育者の早期離職に 関わる要因:早期離職者へのインタビュー調 査 か ら. 千 葉 明 徳 短 期 大 学 研 究 紀 要,35, 61-69. ⒃上田厚作・松本昌治(2015)新任保育者の早 期離職を防ぐために保育者養成校に求められ る就職支援活動:離職率・離職原因等に関す る追跡調査結果を受けて.越谷保育専門学校 研究紀要,4,29-34.
⒄小川千晴(2015)新任保育者の早期離職の要 因―卒業生を対象とした意識調査から―.聖 隷クリストファー 大学社会福祉学部紀要, 13,103-114. ⒅内田豊海・松崎康弘(2016)保育・教育現場 における早期離職の原因とその後:短大卒業 生の事例をもとに.南九州地域科学研究所所 報,32,17-23. ⒆横山博之・重松由佳子・増渕千保美・柴田賢 一(2016)保育者の早期離職における課題: 保育者の確保と保育の質の向上を求めて.次 世代育成研究・児やらい,13,29-51. ⒇厚生労働省(2011)潜在保育士の実態につい て:全国潜在保育士調査結果.保育士資格を 有しながら保育士としての就職を希望しない 求職者に対する意識調査. 庭野晃子(2018)新任保育士の離職意向に影 響を与える要因の検討:公立・私立保育園の 組織要因の比較.地域福祉サイエンス,5, 81-91. 難波峰子・矢嶋裕樹・二宮一枝[他]・高井 研一(2009)看護師の組織・職務特性と組織 コミットメントおよび離職意向の関連.日本 保健科学学会誌,12(1),16-24. 山口麻衣・山口生史・高山恵理子・小原眞知 子・高瀬幸子(2014)医療ソーシャルワー カーの組織コミットメントと離職意図との関 連.社会福祉学,55(2),1-10.
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