• 検索結果がありません。

渡辺幸倫 編著『多文化社会の社会教育 ―公民館・図書館・博物館がつくる「安心の居場所」』 (明石書店、2019年3月、208ページ、2,500円+税)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "渡辺幸倫 編著『多文化社会の社会教育 ―公民館・図書館・博物館がつくる「安心の居場所」』 (明石書店、2019年3月、208ページ、2,500円+税)"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

— 115 — 書  評 「当事者になる」のではなく、他者との関係のな かで生活を送ることで「なり続ける」ことである とする(p.94)、住民の生活に根づいた理解が提示 されている。第3章「静かなダイナミズムが『ま ち』を支える」は、長野県飯田市の調査から「開 かれた静かなダイナミズム」としての分館が示さ れ、公民館は住民による自治の「触媒」であるこ とが改めて主張されている。第4章「公民館『的 なもの』の可能性」では、一般行政における公民 館「的なもの」の意義が展望されている。行政の 〈学び〉化というキーワードとともに、公民館によ る一般行政の教育的な再編が議論されている。第 5章「公民館を地域づくりの舞台に」は、農村に おける地域づくり研究で著名な小田切氏との対談 である。多様なトピックで、地域づくりの文脈に おける公民館の位置が具体的に指摘されている。  結び「〈学び〉の生成論的転回へ」は理論的な 論考であり、学習による主体形成という側面から 住民自治と公民館が議論されている。  このように本書の論点は多岐にわたり、さらに それぞれが緻密かつ著者独自の論理構成で主張さ れているが、通底しているのは、人々が孤立し揺 れ動く社会のなかでの公民館の可能性への信念で ある。「この社会の基盤は社会教育にかかってい るといってもよい」「住民が他者とともに当事者と して主体的に動く社会をつくることでしか、この 社 会 の 活 路 は 見 出 だ せ な い」 と 主 張 さ れ る (p.250)。  一方、全体をとおして評者としては次の点が気 になったところである。第一に、公民館の可能性 を提示する本書の性格上やむを得ないのかもしれ ないが、全体的に理想主義的・楽観的にみえる。 著者の主張する〈学び〉は、飯田市のような優れ た公民館だからこそ可能ではないかと思えてしま う。  第二に、主体の差異についても本書では楽観的 な立場にあるようにみえる。例えば本書では、当 事者として相互承認関係をつくる基盤的な施設と しての公民館の学びによって、弱い人々をつなぎ とめることができるのではと示唆されている (pp.244-248)。しかし差異ある主体が実際に出会 い学びあうことは簡単なことではない。その意味 では、解放的な教育論との架橋があってもよいよ うに思う。       

 

渡辺幸倫 編著

『多文化社会の社会教育

―公民館・図書館・博物館がつくる「安心の居場所」

(明石書店、2019年3月、208ページ、2,500円+税)

奈良教育大学・公益財団法人奈良市生涯学習財団  藤 田 美 佳  2018年12月に改正された「出入国管理及び難 民認定に関わる法律」は、地域の国際化・内なる 国際化の転機となった1989年改正以来の政策の大 転換となり、「これまで認めてこなかったいわゆる 単純労働の受け入れを開始」したと認識されてい る。本書は、多文化多民族化が進行する日本にお いて「住民の自治という経験の積み上げがある社 会教育はどのような役割を果たせるのだろうか」 を「一貫した問い」としている。そこで、多文化 社会における社会教育施設に関わる事例が不足し ているとの認識から「国内外の安心できる居場所 の創出にかかわる先進的な公民館、図書館、博物 館およびそれに相当する施設での取り組みを紹 介」し、「社会教育の新たな可能性を提示」する

(2)

— 116 — ことを試みている。  本書は以下のように構成されている。  序章  第Ⅰ部 日本の外国人集住地域の「安心の居場所」 第1章 協働・共創を支える「安心の居場所」 ―内発的社会統合政策を拓く  第2章 地方都市部の社会教育ならびに施設に おける多文化共生活動―静岡県磐田 市・南御厨地区を事例として   第Ⅱ部 居場所としての公民館 第3章  多文化社会における公民館の役割 難 民申請者と地域住民の交流―埼玉県川 口市の住民の取り組みを事例に  第4章 二つの法体系が支える韓国の地域学習 施設―光州広域市における「教育」と 「支援」の連携事例を中心に  第5章 成人移民へフィンランド語を提供する 公共施設―地域社会とのかかわりと学 習以外の機能にも着目して   第Ⅲ部 本から広がる図書館の取り組み 第6章  日本の多文化都市における図書館の取 り組み―「多文化サービス」のあゆみ と「安心の居場所」であるための提言 第7章  多民族国家シンガポールを支える図書 館―国民統合と多文化共生  第8章 移民・難民のくらしに寄り添う公共図 書館―デンマークにおける取り組みに 着目して  第Ⅳ部 見て聞いて触って学ぶ博物館の役割 第 9 章 学校と博物館の連携の可能性―先住民 について学ぶ「国立アイヌ民族博物館」 設立をうけて  第10章 文化の由来を知る―「順益台湾原住民 博物館」が担う社会的包摂機能  第11章 ニュージーランドにおける太平洋諸島 移民の文化的学習―博物館を中心に  序章では「安心の居場所」を「国籍や出身地、 あるいは民族的差異にかかわらず、それぞれの幸 福を追求することが保障され、その追求のために 適切な支援を得たり、仲間と出会ったりすること ができるような場」と定義し、多文化社会におけ る「安心の居場所」を創出する背景として、入管 法改正に至る2000年以降の「多文化共生政策の流 れ」、在留外国人統計に基づく「2018年の多文化 社会日本」の構成、「社会教育の課題」を整理し ている。  1章では「これまでの「多文化共生」は日本人 が外国人を保護し支援するという二項対立的な概 念に偏りがちであった」という認識のもと、「人権 の概念を大切にし、異種混淆性に理解のある幸福 度の高い社会を目指」して筆者が取り組んできた 多文化共創社会について、新宿区の区立図書館、 日本語学校、高麗博物館を例に「安心の居場所」 の創出について論じ、「安心の居場所」の構成要 因として、「対話的能動性と情報共有」、「愛他精 神とケア」、「学びあいと未来への展望」、「協働・ 共創」を提唱している。2章では「地域づくり総 務大臣表彰(国際化部門)」を受賞した日系ブラ ジル人大規模集住地域の自治会組織の活動と社会 教育施設における多文化共生の取り組みについて 分析している。  3章はトルコ国籍のクルド人難民申請者集住地 域に着目し、クルド人住民の活動拠点である公民 館、クルド文化教室およびクルド日本語教室での 質的研究により、公民館が地域で生活する難民申 請者にとって「安心の居場所」である実態を描い ている。4章では、2000年代以降、在韓外国人に 関わる法整備が進展した韓国の社会教育・生涯学 習および多文化家族支援に関わる法的規定を整理 し、「韓国「民主主義の発祥地」」として知られる 光州広域市の地域学習施設での実践を紹介してい る。5章は、移民送り出し国から1980年代後半に 受け入れ国に転換したフィンランドの移民統合政 策、第2言語としてのフィンランド語学習の実態 を示している。  6,7,8章は日本、シンガポール、デンマークにお ける図書館の事例で、日本国内各地の先駆的な多 文化サービスの実践や実態調査、多民族国家にお ける国民統合と共生のための政策と図書館の関わ り、移民・難民を支える体制とプログラムなど各

(3)

— 117 — 書  評 国の事例を比較しつつ実態を把握できる。  9,10,11章は先住民族・原住民・移民に関わる博 物館の役割を論じている。2020年に開館する国立 アイヌ民族博物館、台湾の原住民博物館の事例は、 開設の背景や意義につき精緻に述べられ、博物館 活動としても民族に関わる内容としてもわかりや すく整理されている。ニュージーランドの事例は、 社会教育施設のもつセイフティ・ネットの機能に 言及しており、本書のテーマである「安心の居場 所」を理解する上で示唆的である。  編者のいう「多様な文化的背景を持つ住民の居 場所についての議論はいまだに少ない」なか、社 会教育施設における多様な実践の紹介は興味深 い。しかしながら、「安心の居場所」の前提とな る居場所研究のレビューや、安心とはどのような 状態であるのかの考察が十分ではないように思わ れた。「安心の居場所」の定義につき実践例から 生成型で概念整理を行うのであれば、総括的な章 で明示することで、読者として想定している学生、 院生、自治体職員、NGOスタッフ、小中高の教員 にとって理解しやすいのではないか。  また「多文化共生」という用語につき、否定的 に捉えている側面(p.31)と積極的に意味づけてい る事例(2章)があり、日本型の多文化共生概念 の課題について社会教育の文脈で再考察すること が、理解の促進につながるように思われる。主に 北米や豪州で使用されている多文化と欧州で使用 されてきた異文化のように背景によって用語や概 念は生成される。日本においては、多文化共生や 多文化共創など日本型の用語や定義などが氾濫し ているように思われ、評者としては、新たな概念 の創出も重要なことではあると思うが、その用語 の持つ根源的な意味を捉えることで包摂できるの ではないかと感じた。  近年、図書館の多文化サービスについては『現 代の図書館』50(3),2012、『医学図書』60(4),2013、 『専門図書館』287,2018において特集が組まれ、実 践・研究が充実しつつある。一方公民館では、日 本語教室が開催されている地域も多く、本学会と して社会教育施設における多文化・多様性の実践 と分析に注力することがより一層求められる。  本書は、国内外の社会教育施設における多文化 に関わる実践を多面的に紹介しており、多様な事 例を把握する上で、実践者にとっても研究者にと っても参考になる書といえよう。

 岡山禮子・吉田恵子・平川景子・武田政明・細野はるみ・長沼秀明 著

『近代日本の専門職とジェンダー

― 医師・弁護士・看護職への女性の参入

(風間書房、2019年3月、332ページ、3,500円+税)

青森県立保健大学  廣 森 直 子  本書は、専門職の成立過程を通した日本近現代 史であり、そうした専門職からの女性の排除や参 入をとらえた女性史であり、いかに専門職が養成 されたかの高等教育史でもある。それらは現代的 な示唆を多く与えてくれる。  日本は国際水準からみてジェンダーギャップの 大きい国である。2018年には複数の大学で女子や 浪人生を不利に扱う医学部入試不正問題が明るみ に出て、2019年には4件続いて報じられた性犯罪 の無罪判決に対して抗議や司法のジェンダーバイ アスを問う声があがり、それらに伴う動きは現在 進行形で進んでいる。本書はこうした現状と深く

参照

関連したドキュメント

午前中は,図書館・資料館等と 第Ⅱ期計画事業の造成現場を見学 した。午後からの会議では,林勇 二郎学長があいさつした後,運営

国民の「知る自由」を保障し、

碇石等の写真及び情報は 2011 年 7 月、萩市大井 1404、萩市大井公民館長の吉屋安隆さん、大井ふる

十条冨士塚 附 石造物 有形民俗文化財 ― 平成3年11月11日 浮間村黒田家文書 有形文化財 古 文 書 平成4年3月11日 瀧野川村芦川家文書 有形文化財 古

東京都公文書館所蔵「地方官会議々決書並筆記  

・「中学生の職場体験学習」は、市内 2 中学 から 7 名の依頼があり、 図書館の仕事を理 解、体験し働くことの意義を習得して頂い た。

British Library, The National Archives (UK), Science Museum Library (London), Museum of Science and Industry, Victoria and Albert Museum, The National Portrait Gallery,

バブル時代に整備された社会インフラの老朽化は、