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Postoperative Survival Process of Patients who Underwent Coronary Artery Bypass Grafting Miwako Funayama Doctoral Candidate, The Japanese Red Cross Co

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Academic year: 2021

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日 本 看 護 科 学 会 誌J. Jpn. Acad. Nurs. Sci., Vol.22, No.2, pp.44∼53, 2002

研 究 報 告

冠 動 脈 バ イパ ス術 を受 け た病 者 の

術 直 後 の サバ イバ ル プ ロ セス

美和子*

Postoperative

Survival

Process

of Patients

who Underwent

Coronary

Artery

Bypass

Grafting

Miwako Funayama

Doctoral Candidate,

The Japanese Red Cross College of Nursing

キ ー ワ ー ド:サ バ イ バ ル プ ロ セ ス,冠 動 脈 バ イ パ ス 術 後,ク リ テ ィ カ ル ケ ア

Key words: survival process, post coronary artery bypass grafting, critical care

Abstract

The purpose of this study was to observe the postoperative survival process of the eight patients-seven males and one female-who underwent coronary artery bypass grafting (CABG). After CABG, most of the patients went through life-threatening experiences. Qualitative inductive design was utilized in explaining and describing postoperative survival process. For collecting data, participant observation and semi-structured interview were used. For data analyses, constant com-parative method based on Grounded Theory Approach was adopted.

It turned out that survival process was observed between the 4th day and the 7th after the operation, after which period the patients were able to "manage their own life". It also turned out that postoperative survival process consisted of five consecutive phases,-a) "being-in-the-dark con-dition", b) "beginning to feel alive", c) "feeling his or her life not to be under complete control", d) "gradually getting out of the previous c-phase and trying his or her own ability" and e) "having his or her life under control". These five phases arose in accordance with the enhancement of a) "the degree of physical movement", b) "the degree of controlling his or her life-supporting functions", and c) "the degree of arousal of vitality". In proportion to the recovery of the three "dimensions" mentioned above, we could observe the five phases consecutively surfacing. This study shows that postoperative survival process owes much to the patients' willingness to recover. Consequently it seems to be of utmost importance to encourage the patients to be self-reliant and self-subsistent.

要 旨

本 研 究 の 目 的 は,集 中 治療 下 で病 者 が 自 らの 生 命 の 脅 威 に どの よ う に挑 み乗 り越 え て い く の か を 明 らか に す る こ とで あ る.冠 動 脈 バ イパ ス術 を受 け た男 性7名 女 性1名 に対 し,参 加 *日 本赤 十字 看護 大学 大学 院看護 学研 究科博 士後 期課程

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日看 科 会誌22巻2号(2002) 観 察 法 と半 構 成 的 面 接 法 を用 い て デ ー タ を収 集 し,平 行 して 継 続 的比 較 分 析 を行 っ た.結 果,冠 動 脈 バ イパ ス術 を受 けた病 者 の サバ イバ ル プロ セ ス は,《 生 を 自分 で あ や つ る こ とが で き る》 に至 る まで の,術 直 後 か ら4日 ない し7日 まで の プ ロ セ ス で あ る こ とが見 い だ され た.さ ら に この プ ロセ ス は,〈 暗 や み 〉,〈生 の 芽 ば え 〉,〈 ち ぐは ぐな生 〉,〈自分 か ら生 をつ か む 〉,そ して 〈生 を あや つ る 〉 の5段 階 か ら成 り立 っ て い る こ とが 判 明 した.こ れ らの段 階 を構 成 す る次 元 は,〈 動 きの 度 合 い 〉,〈生 命 維 持 機 能 を 自分 で 管 理 す る度 合 い 〉,そ して 〈精 気 の度 合 い 〉で あ った.見 い だ さ れ たサ バ イバ ル プ ロセ ス は,生 の 回復 を め ざ して,病 者 自身 が主 体 的 に努 力 して い る こ と を示 して い た.こ れ を受 け て,ク リテ イ カル ケ ア領 域 に お け る看 護 は,病 者 の 自立 を促 す ア プ ロ ーチ が 重 要 で あ る こ とが示 唆 され た. I.は じ め に 虚 血 性 心 疾 患 の 外 科 的 治 療 法 の1つ で あ る冠 動 脈 バ イパ ス 術(以 下CABGと 略 す)は,日 本 で は1970年 代 か ら導 入 され,1996年 で は全 国 で 年 間 約1万2千 例 行 わ れ て い る(瀬 在,1998).こ の CABGの 中 に は,術 操 作 にお い て 心 停 止 させ た 後 移 植 血 管 片 をつ な ぎ,心 臓 を復 活 させ る もの もあ る.一 般 に心 臓 は生 命 活 動 の 源 とい う印象 か ら,心 臓 の 停 止 はす なわ ち死 を連 想 す る た め, CABGは 致 死 的 に捉 え られ や す い.加 え て,虚 血 性 心 疾 患 を もつ 病 者 は,発 症 時 か ら胸 痛 等 の 生 命 の 脅 威 を体 験 して い る こ とが 多 い.こ の た め術 前 は手 術 に よ る生 命 の 脅 か しへ の 不 安 を抱 き,術 後 は 身 体 的苦 痛 体 験 か ら受 け る 不 安 が あ る(根 本,1995)と され て い る. CABGを 受 け た 病 者 は,術 直 後 た い て い 集 中 治 療 室(Intensive Care Unit:以 下ICUと 略 す; Coronary Care Unit:以 下CCUと 略 す)に 入 室 す る.そ して,人 工 呼 吸 器 や 多 くの モ ニ ター 類 等 に よ り生 命 の 大 半 を管 理 さ れ る.高 度 医 療 機 器 が 周 囲 に お か れ,昼 夜 を 問 わ ない 医 療 処 置 が 施 さ れ る 中 で,病 者 は どの よ う な体 験 を して い る の だ ろ うか.Holland, Cason & Prater (1997) は,騒 音 や 周 囲 の 騒 ぎ等 の ス トレス フ ル な状 況 に お い て,病 者 は痛 み や 気 管 内挿 管 チ ュ ー ブ に よる 不 確 か さや 最 初 に 目覚 め た と きの 恐 怖 感 が あ る と報 告 して い る.ま た こ の よ う なス トレス フ ル な 状 況 が もた らす 精 神 的 な動 揺 を不 穏 と捉 え,不 穏 そ の もの を現 象 学 的 に捉 え よ う と した り(Laitinen, 1996),要 因 を限 定 し よ う と した り 症 状 発 現 時 の 介 入 方 法 な ど を 特 定 す る 研 究

(Tucker, 1993; Granberg, Engberg & Lundberg, 1996; Black, Mckenna & Deeny, 1997, Tess, 1991; 森 田,1993)が な され,不 穏 を特 殊 な環 境 にお け る病 者 の 反 応 と して 理 解 し よ う とす る こ と に焦 点 が 当 て られ て い る.こ れ らの 報 告 は,ク リ テ ィカ ル ケ ア を受 け た 病 者 の体 験 をあ る特 定 の 条 件 下 で生 じる反 応 と して探 索 した り,あ る 限 定 され た見 地 か ら捉 え よ う とす る もの で あ る こ と が わ か る.し か し こ う した術 前 後 の 苦 痛 に満 ち た 体 験 は,病 み の 軌 跡 に重 要 な 影 響 を与 え る (Hawthorone, 1992)と い う指 摘 か ら も,ク リテ ィ カ ル ケ ア に お け る体 験 は 疾 患 コ ー ス か らみ た プ ロセ ス の 一 部 に過 ぎな い こ と を考 慮 に入 れ た 探 究 が必 要 と され て い る と言 え る. Keller (1991)は,CABG後 の病 者 の体 験 を正 常 さ を求 め る プ ロ セ ス と して探 究 し,術 直 後 の 段 階 をサ バ イバ ル と捉 え,こ の 段 階 の体 験 を踏 ま え た 上 で 社 会 復 帰 を支 え る 看 護 の重 要 性 を指 摘 して い る.こ の こ とか ら,術 直 後 の状 況 で ど の よ うな 体 験 を しな が ら 回復 して い くの か とい う プ ロ セ ス を理 解 す る こ とで,病 者 の要 求 に応 え られ る 看 護 の 示 唆 が 得 られ る と考 え た.し か しCABG直 後 の 病 者 の体 験 を プ ロ セ ス と して 明 らか に した研 究 は,日 本 で は見 当 た らな い. そ こ で,生 命 の全 て を医 療 者 が 管 理 す る集 中 治 療 下 で,病 者 が環 境 に対 し主 体 的 に働 きか け て い る行 為 をサ バ イバ ル と捉 え,術 直 後 の状 況 と関 わ りな が ら,ど の よ う に生 命 の 脅 威 に挑 み 乗 り越 え て い る の か を 明 らか にす る こ と を 目 的 と して,探 究 す る こ と と した.

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II.方 法 1.研 究 デ ザ イ ン と その 選 択 理 由 本 研 究 で 明 らか に す る現 象 は,全 てが 医療 に 管 理 され て い る 環 境 で,CABGを 受 け た病 者 が どの よ う な相 互 作 用 を織 りな し回復 して い る の か に つ い て,時 々 刻 々 と変 化 す る状 況 を プ ロセ ス と して 緻 密 に探 究 す る こ とで あ る.そ こで 相 互 作 用 にお け る シ ン ボ ル の や りと り とそ の プ ロ セ ス を追 究 す る グ ラ ウ ンデ ッ ドセ オ リー 法 が 適 切 で あ る と考 え た.従 っ て本 研 究 は,グ ラ ウ ン デ ッ ドセ オ リー法 を用 い た,質 的帰 納 的 デ ザ イ ンを選 択 す る こ と と した. 2.参 加 者 本 研 究 へ の 参 加 者 は,CABGを 年 間100例 以 上 行 いCCU(一 般 病 棟 とCCUの 中 間 病 床 で あ る PostCCUも 含 む)を 包 括 す る,特 定 機 能 病 院 に 指 定 され た都 内1総 合 病 院 循 環 器 科 に,CABG を受 け る 予 定 で 入 院 した,40∼65歳 まで の 日常 会 話 に支 障 の な い 者 と した.性 別,合 併 症 の有 無,社 会 的 背 景,手 術 に至 る まで の 経 過 等 は特 に限 定 しな か った.結 果 と して,参 加 者 は男 性7 名,女 性1名 計8名 のCABGを 受 け た 者 で あ った (表1参 照).全 参 加 者 は ほ ぼ 順 調 な経 過 を た ど って い た. 3.デ-タ 収 集 の 期 間 と方 法 デ ー タ収 集 期 間 は,1998年5月12日 ∼ 同 年10 月13日 で あ った.デ ー タ収 集 法 は,参 加 観 察 法 と 半 構 成 的 面 接 法 を 用 い た.Maslow (1954/ 1987)は,人 間 の行 為 に は動 機 づ けが 存 在 し普 遍 的 で あ る と して い る.Hudak, Gallo & Morton

(1997)は,こ のMaslowの 見 解 か ら生 理 的 欲 求 の よ うな 意 識 しな い こ と も,自 ら の健 康 状 態 を 守 る た め の 自助 機 能 で あ る と してい る.そ こで, CCU帰 室 直 後 か ら全 て の生 命 の 営 み を観 察 す る 必 要 が ある と考 えた.更 に,Rogers (1970/1979) は,人 間 の 生 命 過 程 の特 徴 は環 境 との 相 互 作 用 に お い て 開示 され,絶 えず 変 化 して い る と して い る.つ ま り,参 加 者 とそ の家 族 及 び 医 療 者 が 関 わ る場 面 の生 命 過 程 の パ ター ン を追 う こ とで, サ バ イ バ ル プ ロ セ ス が 明 らか に な る と考 え た. そ こで 参 加 観 察 は 医 療 処 置,清 潔 ケ ア,家 族 と の 面 会 等 を 中心 に,参 加 者 の 動 きや 表 情,会 話 を術 直後 か ら一般 病棟 に退 出 す る まで毎 日行 い, フ ィ ー ル ドノー ツ に メ モ した もの をデ ー タ と し た.又 参 加 者 の状 態 が 落 ち着 い て い る 時 に,受 け 持 ち看 護 師 に相 談 した 上 で随 時術 後 の経 過 に 関 す る気 持 ち 等 を聴 取 し,参 加 観 察 の裏 付 け デ ー タ と した .CCUとPostCCUで の 参 加 観 察 の延 べ 時 間 は1人 平均23時 間28分 で,随 時 の 面 接 の 延 べ 時 間 は1人 平 均55分 で あ っ た.半 構 成 的 面 接 は,術 前 後 一般 病 棟 に滞 在 中 療 養 の妨 げ とな 表1参 加 者 の概要 と経 過

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日看科 会 誌22巻2号(2002) らな い 時 期 を選 択 し行 っ た.面 接 内 容 は,術 前 は手 術 に対 す る構 え を聴 取 し,研 究 者 と人 間 関 係 が確 立 で きる よ う配 慮 した.術 後 は術 直 後 か らの 出 来 事 で 印象 に残 っ た事,安 堵 した 事 等 聴 取 した.面 接 で 得 た もの を逐 語 的 にお こ し,デ ー タ と した .面 接 回数 と時 間は,術 前 は1人 平 均1.3回,1時 間8分,術 後 は1人 平 均3.6回,3 時 間 で あ っ た. 4.デ ー タ分 析 方 法

Strauss & Corbin (1990)が 提 唱 す る継 続 的 比 較 分 析 に基 づ き行 っ た.ま ず全 デ ー タ を術 後 の 経 過 に そ って,参 加 者 の体 験 が た どれ る よ う整 理 した.オ ー プ ン コー デ ィ ン グ で は,文 脈 上 生 きて い る証 や 生 きる た め に獲 得 して い る事 等 行 為 の 特 徴 とそ の 差 異 を比 較 し,概 念 化 した.軸 足 コ ー デ ィ ン グで は,行 為 の特 徴 が 時 間 の経 過 に伴 い一 貫 し た軸 を形 成 す る変 化 そ の もの を意 味 づ け,次 元 カ テ ゴ リー と して見 い だ した.選 択 的 コ ー デ ィ ン グで は,行 為 の特 徴 を示 す 概 念 が 次 元 上 どの よ う に位 置 つ くの か 検 討 した.そ して 類 似 した概 念 をサ ブ カ テ ゴ リ ー と し,行 為 の 変 化 が 大 き くサ ブ カ テ ゴ リ ー を集 約 す る もの を段 階 カ テ ゴ リー と した.又 段 階 カテ ゴ リ ー と サ ブ カ テ ゴ リー が 意 味 す る根 本 的 な概 念 を引 き 出 し,コ ア カ テ ゴ リー と した.最 後 に各 カ テ ゴ リー が どの よ うな状 況 で生 じ,ど の よ う な戦 略 を 導 き,ど の よ うな 帰 結 を もた ら した の か とい う視 点 で 検 討 し,デ ー タ に戻 りな が ら段 階 カ テ ゴ リ ー と次 元 カ テ ゴ リー の 関 係 を 構 造 化 した. 全 分 析 過 程 に お い て看 護 学 学 術 研 究 者 か らス ー パ ー バ イズ を 受 け,分 析 の 妥 当性 を確 保 した. 尚,十 分 な 理 論 的サ ンプ リ ン グが 行 えず,理 論 的飽 和 には至 って い な い. 5.倫 理 的 配 慮 研 究 の参 加 で は,参 加 や 中 断 の 自由,匿 名 性, 結 果 の 開 示 に つ い て 保 証 す る こ とを 口頭 と文 書 に て 説 明 し同意 を得 た.デ ー タ収 集 で は 受 け持 ち看 護 師 と常 に相 談 し療 養 の 妨 げ に な ら ない よ う配 慮 し,緊 急 時 に は看 護 師 の 役 割 を と る こ と と した.面 接 内 容 を録 音 す る 際 は 承 諾 を得,録 音 の拒 否 と中止 が 可 能 で あ る こ と と,研 究 者 以 外 には 聞 か れ な い こ と をそ の都 度 約 束 した. III.結 果 1.CABGを 受 け た 病 者 の サバ イバ ル プ ロ セ ス を構 成 す る カ テ ゴ リー 分 析 の 結 果,CABGを 受 け た病 者 の 術 直 後 の サ バ イ バ ル プ ロ セ ス は,身 の 回 りの こ とが よ う や く行 え る程 度 の 歩 行 が で きる よ う に な る こ と で あ り,術 後4日 な い し7日 の 《生 を 自分 で あ や つ る こ とが で きる 》 まで の プ ロ セ ス で あ る こ と が 見 い だ され た.サ バ イバ ル プ ロセ ス には,〈 動 きの度 合 い 〉〈生 命 維 持 機 能 を 自分 で 管 理 す る度 合 い 〉〈精 気 の度 合 い 〉 の3つ の次 元 カ テ ゴ リー と,こ の 次 元 が 高 ま る 中 で連 続 的 に移 行 す る5 つ の段 階 カ テ ゴ リーが 見 い だ され た.3つ の次 元 の 最 も低 い 状 態 を手 術 とす る と,5つ の段 階 は 《生 を 自分 で あ や つ る こ とが で きる》 に向 かい, 〈暗 や み 〉〈生 の芽 ば え 〉〈ち ぐは ぐ な生 〉〈自分 か ら生 をつ か む 〉〈生 をあ やつ る 〉 の順 に移 行 し て い た.以 下,各 カテ ゴ リー につ い て 説 明 す る. 1)サ バ イバ ル プ ロセ ス の3つ の次 元 こ こで は デ ー タ を用 い て各 次 元 が 高 ま っ て い く程 度 を説 明 す る.尚,デ ー タ は括 弧 に入 れ て 区別 した. 〈動 きの 度 合 い 〉 は,手 術 後CCUに 入 室 し, 「瞬 きも嚥 下 運 動 も な くベ ッ ド上 に臥 床 」 の よ う に最 も低 い 程 度 か ら,「 手 が どの程 度 利 くの か わ か らな くて,身 体 が1つ 柱 で い う こ と利 か な い 」 と術 前 自然 に で きて い た 身体 の 動 きが とれ な い こ とに戸 惑 い なが ら自分 で 動 か してみ る こ とで, 動 け る程 度 を確 認 し,「 勢 い よ く端 座 位 にな り一 気 に 立 ち上 が り,点 滴 台 を 引 き歩 き出 す 」 と身 体 の 自 由 さ を獲 得 して い く程 度 へ と高 ま って い く様 子 を示 して い た.つ ま り動 か す 関節 が 末 梢 か ら中枢 へ と拡 大 し,動 きの連 動 性 が 増 し,合 理 的 な 身 体 の動 きが で きる よ う に な る こ とで あ っ た. 〈生 命 維 持 機 能 を 自分 で管 理 す る度 合 い 〉は, 「ベ ッ ド周 囲 で医 療 者 が 人 工 呼 吸 器 の設 定 を変 更 して い るが,全 く体 動 もな くベ ッ ド上 で 臥 床 し て い る」 の よ う に生 命 活 動 全 て を医 療 に管 理 さ れ,自 分 で は 生 命 が 維 持 で きな い 程 度 か ら,医

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療 の 助 け が な く と も医 療 の 監 視 下 で 生 命 活 動 が 出来 る よ うにな り,「目が とろつ と して い ます ね. や っ ぱ り疲 れ が 残 っ て い る ん で し ょ うか ね」 と 心 電 図 モ ニ ター で 管 理 され て い る 中 で 身 体 の調 子 を は か り活 動 量 を調 節 しなが ら試 して み る程 度 を示 して い た.つ ま り生 命 の営 み を血 液 デ ー タや モ ニ タ ー に 反 映 させ なが ら,自 分 で は管 理 で き ない こ とを 医 療 者 に ゆ だ ね つ つ も,回 復 の 指 標 を 自 ら得 て い く こ とで あ った. 〈精 気 の 度 合 い 〉 は,「 レ ン トゲ ン撮 影 の た め ベ ッ ドが 揺 れ る が ,全 身 をこわ ば らせ る」 のよ う に全 身麻 酔 か ら覚 醒 して い ない た め 精 気 が 全 くな い程 度 か ら,「 トイ レ まで行 った りして ご飯 を食 べ る しあ れ もで きた し って 満 足 して た ん で し ょうね」 と 自分 の元 気 さを測 り,1人 で歩 行 し た り洗 面 を行 お う とす る気 力 が 出 て くる程 度 を 示 して い た.つ ま り,冷 静 な判 断 が つ くか つ か な い か わ か ら な い状 況 の 中 で,矛 盾 を感 じなが ら周 囲 の 状 況 を読 み と り,自 分 の こ とは 自分 で や っ て み よ う とす る 気 力 が 出 て くる こ とで あ っ た. 2)サ バ イバ ル プ ロセ ス の5つ の段 階 (1)〈 暗 や み 〉 〈暗 や み 〉 は,術 直 後 か ら術 後1時 間 か ら3時 間 位 ま で の 間 で 見 出 され,全 く動 けず 全 て を医 療 に任 せ 精 気 も全 くな い状 態 で あ っ た.つ ま り 術 直 後CCUに 入 室 し,各 種 医 療 機 器 や薬 剤 に よ る 生 命 維 持 と緻 密 な モ ニ タ リ ン グ施 行 下 で,生 の保 証 を受 け て い る状 態 で あ っ た. 以 下 は術 後2時 間経 過 した 際,CCUで 人 工 呼 吸 器 と心 電 図 モ ニ タ ー が 装 着 さ れ て い た 時 の様 子 で あ る. 看 護師:心 電 図 と血 圧 を測 定 し,そ の後両足 背 を触れ対 光反 射 をみる. 医 師:採 血の結 果 をみて,人 工 呼吸器 の呼吸 数 を減 らす. 参加 者:こ の 間全 く体動 はな く仰 臥位 でベ ッ ド 上に いる.呼 吸も人 工呼吸 に同調 して いる. 参 加 者 は,体 内 で 生 じた変 化 を,検 査 値 や 各 種 モ ニ ター に反 映 させ,生 を温 存 して い た. 以 下 は術 後1時 間経 過 した 際CCUで,看 護 師 が全 身 状 態 を観 察 した時 の 様 子 で あ る. 看 護 師:体 温計 を左腋 窩 にはさみ血 圧測 定 を行 い対 光反射 を みる. 参 加者:全 く体動 はな く人工 呼吸器 に同 調 して い る. 参 加 者 は,目 に 光 が 入 っ て も体 動 を示 さず, 人 工 呼 吸 器 か らの 酸 素 を体 内 へ と取 り込 ん で い た. この よ うに,〈 暗 や み 〉 にお い て,術 操 作 に よ り停 止 さ れ 移 植 血 管 片 が つ な が れ た 心 臓 は, 徐 々 に生 の維 持 へ と向 か う.こ う し た術 直 後 の 不 安 定 な 生 は,医 療 者 の微 調 整 を受 け な が ら, 無 機 質 な様 子 を呈 して い た. (2)〈 生 の 芽 ば え 〉 〈生 の 芽 ば え 〉 は,術 後1時 間 な い し3時 間 か ら術 後15時 間 な い し20時 間 の 間 で見 出 され,周 囲 か らの 刺 激 や状 況 の変 化 を受 け止 め た こ と を 身体 の反 応 を通 じて示 す状 態 で あ った. これ はCCU入 室 後,1時 間経 っ て か らの レ ン トゲ ン撮 影 後 に,初 め て 開 眼 した 時 の様 子 で あ る. 医 師:わ か ります?無 事終 わ りました よ.今 お 家の方 が来 ますか らね. 参加 者:眼 球 をぐる っと動 か し,経 口挿管 され 固定 されて いる口 を,最 大限 開 けよう と下 口 唇 を動 かす. 参 加 者 は,レ ン トゲ ン撮 影 で 全 身 が揺 さぶ ら れ る こ とに よ っ て,目 を動 か した り医 師 の 呼 び か け に応 え よ う と して い た. こ れ はCCU滞 在 中,術 後2日 目 に前 日の 気 管 内 挿 管 チ ュ ー ブが 入 っ て い た 頃 で 覚 え て い る こ とに つ い て,尋 ね た 時 に語 っ た こ とで あ る. 3時 頃,あ あ何 か入 って いる感 じで,ゴ ツゴ ツ している な って.6時 過 ぎた時 点 では くに ゃ くに ゃ してい る感 じが あ りま した ね.だ か ら3 時 頃 ってい うのは麻 酔 で朦朧 と している のか何 な のか.で も6時 過 ぎて くる と噛む とか何 か に 力 がそれ な りに入 るの かな ってい う気が し まし た ね. こ の よ う に,覚 醒 す る た び に医 療 者 か ら教 え ら れ た 時 間 とそ の 時 の 気 管 内 挿 管 チ ュ ー ブ の感

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日看科 会 誌22巻2号(2002) 触 を確 認 しなが ら,少 しず つ 身体 に 力 が 入 っ て い くこ とが 自覚 で き る よ う にな っ て い た. こ の よ う に 〈生 の 芽 ば え 〉 で は,周 囲 か らの 刺 激 を受 け た こ とに 対 し何 らか の 反 応 を 示 し, 身 体 の 動 か せ る 部 分 を最 大 限 に動 か して い た. そ して こ の こ とに よ り生 が 回復 に向 か っ て い る こ とが わ か る よ うに な って い た. (3)〈 ち ぐは ぐな生 〉 〈ち ぐは ぐな生 〉 は,術 後15時 間 な い し20時 間 か ら術 後40時 間 ない し48時 間 まで の 問 で見 出 され,周 囲 の 状 況 や 身 体 の感 覚 が バ ラバ ラ に存 在 して い る と感 ず る状 態 で あ っ た. これ は,術 後5日 目 に術 後 記 憶 に残 っ て い る こ とにつ い て尋 ね た際,術 後2日 目 に見 た夢 に つ い て語 っ た こ とで あ る. こうや って見 て,立 ってるの か横 にな つて いる の かわ かんな くなるん です よ.立 ってても全 然 重 力感 じな いしね.そ ん な訳な いな って考え て る とあ あ寝 てる んだ って.か な り平 常心 に近 か ったん じゃな いですか ね. こ の 参 加 者 は,動 く よ う に な っ た足 に重 力 が 感 じ られ な い こ と と 目 に見 え た 周 囲 の状 況 を考 え合 わせ て い た.そ して平 常 心 に近 い もの の 見 方 が 出 来 て い た と評 価 し,自 分 の 確 か ら し さ を 確 信 してい た. こ れ はCCU滞 在 中,術 後1日 目 に気 管 内 挿 管 チ ュ ー ブ抜 去 後 数 十 分 経 っ た時,看 護 師 が 血 圧 測 定 を行 っ た時 に語 っ た こ とで あ る. 参加者:あ の 自動のね,… 自動 の肺呼吸 の. 研究者:自 動の肺 呼吸?は いはい,え え. 参加者:自 分 に切 り替 わ って息す るの忘 れる事 つてあるん ですか. こ の 参 加 者 は,普 段 意 識 しな い 呼 吸 で さ え, 身体 機 能 と して は 別 にあ る よ うに感 じて い た. この よ うに,〈 ち ぐは ぐな生 〉で は,身 体 機 能 の働 きや 感 じた こ とが 正 常 か 否 か を周 囲 の状 況 か ら判 断 し,よ り確 か な もの に しが み つ こ う と して い た. (4)〈 自分 か ら生 をつ か む 〉 〈自分 か ら生 をつ か む 〉 は,術 後40時 間 な い し48時 間 か ら術 後4日 な い し7日 の 間 で 見 出 さ れ,様 々 な選 択 肢 を得 なが ら自分 で で きて い る こ とが わ か る状 態 で あ つ た.つ ま り,医 療 の 管 理 下 にあ る生 を,自 分 で 管 理 して い こ う とす る こ とで あ った. これ は術 後3日 目 に,PostCCU滞 在 中初 め て 歩 行 した感 想 を尋 ね た時 に語 っ た こ とで あ る. 倦怠 感 つてい うか そ うい う感 じが ある こ と と, や っぱ りふ らつ くそ ういう感 じが あ りますね 一 中略 一 ある回復 力 つてい うか強 さみた いなの が な け りゃあもたな いわ けで し ょうか ら.や っぱ り大変 なもん だと. 自分 に 回復 力 が あ る こ と に感 心 し,更 な る 活 動 拡 大 へ 向 け て,回 復 の 程 度 を査 定 し調 整 して い た. これ はPostCCUに 滞 在 中 の術 後2日 目の 清 拭 後 に,語 った こ とで あ る. ち ょっと早 い気 もする け ど,寝 てい ても仕方 な いか ら動 かな いとね.お 医者 さんが や って くれ る のだか らそれ につ いて いかな ければな らな い と思 って. こ う して 医 療 の 要 求 に応 え て い くこ と に よ っ て,回 復 して い る こ と に安 心 感 を得 てい た. こ の よ う に 〈自分 か ら生 をつ か む 〉 で は,少 しず つ 自分 に 自信 を持 つ こ とで,生 の方 向 に向 いて い る こ と を確 信 し よ う と してい た. (5)〈 生 を あや つ る 〉 〈生 をあ やつ る 〉 は,術 後4日 ない し7日 以 降 に見 出 され,活 動 量 を調 節 し最 低 限 の 身 の 回 り の こ と を行 お う とす る状 態 で あ っ た.こ の段 階 で 参 加 者 は,一 般 病 棟 に退 出 して い た. こ れ は,PostCCUに て,術 後4日 目の 朝 食 後 モ ニ ター 上 頻 脈 が み られ 看 護 師 が ベ ッ ドサ イ ド に行 った 際 に語 って い た こ とで あ る. 全部(下 膳 と排便 と洗面)ま とめて って,き つ い つて いうか厳 しい です よね.何 回 も起 きては行 つて を繰 り返 す と.じ ゃあ まとめ て って思 った んです けれ どね. この よ うに,動 きに 目的 性 が 加 わ り,気 持 ち が よ り一 層 強 くな り,〈 動 きの度 合 い 〉 を拡 大 さ せ て い た.

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こ れ は術 後8日 目 に一 般 病 棟 に 退 室 した 際 に 感 想 を尋 ね た 時 に語 って い た こ とで あ る. それだ け自分に負担 も来る よね.CCUだ と行 け ない つて言 えばそ のつ も りで持 ってきて くれる け ど,こ こは持 って きてくれな いもん ね.そ こ は まあ運動 のつも りで,良 くな ったと思 ってね. こ の よ う に 自分 で行 わ な け れ ば な ら な い こ と を負 担 と して 受 け とめ る の で は な く必 要 な こ と と して受 け入 れ る よ う,気 持 ち を切 り替 え て い た. <生 をあ や つ る>段 階 で は,過 去 を振 り返 り つ つ こ れ か らの 課 題 へ 向 か う強 さ を も ち 《生 を 自分 で あ や つ る こ とが で き る》 よ う に な っ て い た. 2.サ バ イ バ ル プ ロ セ ス の 次 元 と各 段 階 へ の移 行 との 関係 各 次 元 と各 段 階 の 関係 を 《生 を 自分 で あ や つ る こ とが で き る》 ま で の プ ロ セ ス と して 構 造 化 した 結 果,図1が 見 い だ さ れ た.《 生 を 自分 で あ や つ る こ とが で き る》 ま で の プ ロ セ ス は,手 術 を 開始 点 と し3つ の次 元 を側 面 に も ち,上 部 へ と拡 大 す る逆 三 角 錐 で 示 さ れ た .5つ の段 階 は,角 錐 すべ て通 る平 面 と して 示 され た.こ の5 つ の段 階 の 拡 大 には,術 後 の 経 過 時 間 と療 養 の 場 が そ れ ぞ れ 関係 して お り,連 続 して 拡 大 して い く様 は,上 部 へ と進 ん で い く螺 旋 と して 現 さ れ た. 《生 を 自分 で あ や つ る こ とが で きる 》 た め に は,ま ず 身体 を維 持 で き る生 命 を手 に入 れ な け れ ば な らな い.こ の た め<暗 や み>の 段 階 で は <動 きの度 合 い><精 気 の 度 合 い>を ほ とん ど無 い に等 しい 状 態 を保 ち な が ら全 て を周 囲 に任 せ <生 命 維 持 機能 を 自分 で 管 理 す る度 合 い>を 低 め て い た.そ して様 々 な検 査 結 果 に生 の 営 み を反 映 させ な が ら,非 日常 的 な 環 境 に 身 を任 せ て い た.麻 酔 か らの 覚 醒 と と も に周 囲 か ら刺 激 が 加 わ る こ とで,<生 の芽 ば え>の 段 階へ 移 行 して い た.こ こ で は 自分 が 手 術 か ら生 還 して い る こ と を<動 きの 度 合 い>と<精 気 の 度 合 い>を 高 め る こ とで状 況 の 変 化 を察 知 し,自 分 が 手 術 か ら 生 還 して い る こ とを手 探 りで 確 認 す る.し か し 生 命 維 持 の た め の 医 療 処 置 に は,苦 痛 を伴 う こ とが 多 い.そ こ で,修 復 され た 心 臓 をい た わ ろ う と精 一 杯 医 療 者 へ 訴 え て い た.こ う して 生 命 の危 機 を脱 し最 低 限 の 意 志 疎 通 が 可 能 に な る と, 気 管 内 挿 管 チ ュ ー ブ が 抜 去 さ れ,<ち ぐは ぐな 生>へ 移 行 して い た.こ こで は コ ミュ ニ ケ ー シ ョン手 段 と活 動 範 囲 の広 が りを得 る.こ の 広 が りか ら,<動 きの 度合 い>と<生 命 維 持 機 能 を 自 分 で 管 理 す る 度 合 い>を 高 め る こ とで手 術 が 無 事 終 了 した こ との 安 堵 へ と直 結 して い く.し か し術 後 の 身体 的 変 化 が もた らす活 動 へ の影 響 は, 何 らか の 違 和 感 と して感 ず る こ とが 多 い.こ の 違 和 感 は,そ れ まで の 経 過 か ら判 断 した こ と と 統 合 す る こ と で 様 々 な 疑 念 と な る.こ の た め <精 気 の度 合 い>を 高 め る こ とに よ って 医 療 者 や 家 族 に確 認 を と りなが ら,疑 念 を修 正 す る こ と で 自分 の生 が 生 き る方 向 に向 か っ て い る こ と を 実 感 して い た.こ う して<自 分 か ら生 をつ か む> 段 階へ と移 行 す る.こ こで は活 動 に伴 う 自覚 症 状 に戸 惑 い を感 じる こ と もあ る.そ こで く生 命 図1<<生 を 自分 で あ や つ る こ とが で き る>>ま で の プ ロ セ ス

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日看科 会 誌22巻2号(2002) 維 持 機 能 を 自分 で 管 理 す る度 合 い 〉 と 〈精 気 の 度 合 い 〉 を高 め る こ とで 自分 の状 態 を判 断 す る 指 標 を見 い だ し,今 ど こが 回復 して い て 何 が 必 要 な の か を識 別 して い た.そ して思 考 錯 誤 しな が ら 〈動 きの度 合 い 〉 を高 め,自 分 の 存 在 を確 か な も の と して い た.そ して 〈生 を あ や つ る 〉 段 階へ 移 行 す る 頃 に は,医 療 の 監 視 下 で座 位 や 立 位,歩 行 を 自分 で 行 う課 題 が提 示 さ れ る.こ の 課 題 は 自力 で 行 う こ とへ の挑 戦 で あ り,〈 動 き の 度 合 い 〉 を高 め る こ とで,よ り高 い 自立 が 求 め ら れ る 一般 病 棟 へ,移 動 す る準 備 状 態 が形 成 され て い た.同 時 に こ の こ とは ベ ッ ドだ け で な い 生 活 空 間 を確 保 す る た め の登 竜 門 と な っ て い た. 1V.考 察 1.CABGを 受 け た病 者 の サ バ イバ ル プ ロセ ス の意 味 本 結 果 か ら,CABGを 受 け た参 加 者 は,術 直 後 全 能 力 を用 い て 生 を維 持 しよ う とサ バ イバ ル プ ロセ ス を辿 っ て い る こ とが 見 い だ され た.こ とに,修 復 され た心 臓 が バ ラ ンス よ く生 を維 持 で きる よ う,修 復 さ れ た心 臓 を気 づ か い なが ら 新 し い 課 題 へ と 向 か う姿 が 浮 き彫 りに され た. こ こ に は,一 貫 して 《生 を 自分 で あ や つ る こ と が で き る》 とい う,生 を 自分 で 管 理 す る こ と を 望 む 参 加 者 の 意 向 が 存 在 し て い た.つ ま り CABGを 受 け た直 後 の 病 者 は,ク リ テ ィカ ル ケ ア を受 け て い る 問,単 に生 命 の 全 て を 医療 者 に 委 ね て い るの で は な く,少 しず つ 生 を 自分 の も の に して い こ う とす る主 体 的 な 側 面 が あ る と言 え る. こ の サ バ イ バ ル プ ロ セ ス をMaslow(1954/ 1987)の 動 機 づ け理 論 を基 に再 考 す る と,各 段 階 カ テ ゴ リー は,人 間 の 行 為 を決 定 づ け る生 に対 す る欲 求 と して捉 え る こ とが で き る.つ ま り, 〈暗 や み 〉に お い て生 を維 持 す る ため の 能 力 が 不 十 分 な術 直 後 の 状 態 で は,生 理 的 欲 求 を満 た す た め に は,医 療 の 力 を取 り入 れ る こ とが 必 要不 可 欠 で あ る.こ の こ と に よ っ て,少 しず つ生 を 維 持 す る力 は 確 実 に蓄 積 され,生 の 基 盤 を作 り 上 げ て い た と捉 え ら れ る.ま た 生 は時 に実 際 の 行 動 と感 覚 が 異 な る 様 子 を 呈 す る.こ う し た 〈ち ぐは ぐな生 〉 にお い て は,本 当 に生 が 自分 の 生 命 活 動 を営 め る だ け 十 分 な状 態 に,回 復 して い る の か ど うか とい う葛 藤 状 態 を もた ら して い た.こ う した葛 藤 状 態 は1つ1つ 確 信 を得 てい く こ と に よ っ て,生 を揺 る ぎ ない もの と して い た と捉 え られ る.こ の こ とか ら,CABGを 受 け た 参 加 者 の 回 復 過 程 には,生 を維 持 して も ら う欲 求,生 が 保 証 され る欲 求,生 を所 有 の もの と し て維 持 で き る欲 求 が あ り,こ れ ら は階 層 的 に 存 在 して い る と推 察 さ れ る.加 え て, Maslow (1954/1987)の 動 機 づ け理 論 に は,欲 求 の飽 和 が よ り高 次 の 欲 求 へ と人 を向 か わ せ る原 動 力 に な っ て い る こ とが 示 され て い る.従 っ て,本 結 果 で 見 い だ され た 各 段 階 間 の 移 行 を促 進 し回復 を促 す た め に は,生 命 そ の もの の維 持 が で きる こ と,生 が 生 きる方 向 に向 か っ て い る と い う確 証 を得 る こ と,自 己 の存 在 の安 定 性 を得 る こ と, 自信 を得 る こ とが,高 次 の 欲 求 に 向 か う原 動 力 に な りう る と言 え よ う. 2. CABGか らの 回 復 にお け る病 者 の 環 境 との 関 わ りの 意 味 Rogers(1970/1979)は,人 間 の 生 命 過 程 の 特 徴 は環 境 との相 互 作 用 にお い て開 示 してお り, 人 間 は 相 互 作 用 しな が らた え ず 変 化 し安 定 した 状 態 へ と変 容 して い る と述 べ て い る.こ の こ と か らサ バ イバ ル プ ロ セ ス で 各 段 階 カ テ ゴ リー が 各 次 元 カ テ ゴ リ ー に そ っ て 変 容 して い く中 で, 参 加 者 は,〈 暗 や み 〉 に お い て 医療 を取 り込 み, 〈生 の 芽 ば え 〉 にお い て周 囲 の事 が わ か っ てい る 事 や 様 々 な苦 痛 が あ る こ と をア ピー ル し,〈 ち ぐ は ぐ な生 〉 に お い て,周 囲 の 状 況 を読 み と り, 〈生 をあ やつ る 〉 にお い て 最低 限 の 日常 生 活 を営 む こ と に よ り自立 す る とい う周 囲 との 関 わ り方 を して い る と考 え る.こ れ らの周 囲 の環 境 との 関 わ り方 の特 徴 は,環 境 や 自分 そ の もの を変化 させ る推 進 力 に な っ て い た.そ して こ の こ と に よ り,そ れ ぞ れ安 定 した段 階へ と移 行 して い く と考 え られ る.ス トレス フ ル な状 況 の 中 で病 者 は,看 護 師 の有 能 さや 温 か さ に助 け られ た感 覚 を持 って お り(Holland, Cason & Prater,1997), 看 護 師 の 態 度 と病 者 の 反 応 に は密 接 な 関係 が あ

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る(Saler & Stuart,1985)と 言 わ れ てい る.つ ま り,看 護 師 の否 定 的 な行 為 は,病 者 に否 定 的 な 反 応 を もた らす だ ろ う し,逆 に看 護 師 の肯 定 的 な行 為 は,病 者 に 肯 定 的 な反 応 を もた らす.ま たICU滞 在 中,病 者 は 自分 が よ く守 られ て い る と感 ず る こ とで,よ り健 康 に なる と念 ず る一 方, 自分 自身 を見 失 う よ う な感 情 を抱 くこ とが 指 摘 され て い る(Compton,1991).こ う した ア ンビバ レ ンッ な感 情 を抱 きつ つ も,病 者 は 自 己 の 回 復 の 見 通 し を立 て る た め に,医 療 者 と様 々 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン を通 じて,自 分 な りの解 釈 を し た り,安全 さを求 め た り してい る(Fareed,1996). そ して病 者 自 身信 念 を持 つ こ とで,生 命 の 脅 威 に立 ち向 お う と してい る(Camp,1996)こ とか ら, 病 者 は不 確 か な状 況 下 で,何 か 安 定 で き る もの を見 出 そ う と して い る と言 え る.従 って,参 加 者 の周 囲 との 関 わ り方 の 特 徴 を生 か し,そ れ ぞ れ の段 階 で 参 加 者 が 肯 定 的 に感 じ られ る よ う に, 生 命 過 程 の 特 徴 に応 じて,医 療 者 と して 肯 定 的 な行 為 で対 応 す る こ と に よ り,そ こ で営 まれ る 相 互 作 用 を通 じて,病 者 の よ り安 定 した段 階 へ の 移 行 を推 進 させ る こ とが 可 能 とな る と考 え る. Holland, Cason & Prater(1997)は, ICUの よ う なス トレス フル な状 況 の 中 で,病 者 は,痛 み や 気 管 内 挿 管 チ ュ ー ブ に対 す る不 確 か さ や最 初 に 目覚 め た と きの 恐 怖 感 を体 験 し て い る こ と を, 明 らか に して い る.こ の 気 管 内 挿 管 チ ュ ー ブが 挿 入 され て い る時 期 や 麻 酔 か ら初 め て覚 醒 す る 時 期 は,本 結 果 で は 〈生 の芽 ば え 〉 の段 階 に相 応 す る.従 って,〈 生 の芽 ば え 〉 で は,と りわ け 参 加 者 が 否 定 的 な受 け とめ 方 を しや す い時 期 と 捉 え,自 分 の生 が 回 復 に 向 か って い る こ と を肯 定 的 に受 け とめ られ る よ う な援 助 が 必 要 で あ る と考 え る. 以 上 の こ とか ら,ク リテ ィ カル ケ ア に お い て は,病 者 が 修 復 され た 生 を新 た に管 理 す る 基 盤 を整 え,医 療 者 が 直 接 的 に病 者 に向 け る刺 激 に よ っ て覚 醒 を も た らす と同 時 に,周 囲 か らの 刺 激 に対 す る 反 応 を注 意 深 く観 察 す る看 護 が必 要 で あ る こ とが示 唆 さ れ た.そ して,病 者 の存 在 の 確 か さ を確 証 し,そ れ を伝 え,生 が 回復 の 方 向 に向 か っ て い る こ とを保 証 し,実 感 で きる よ うな看 護 が重 要 で あ る と考 え る. V.本 研 究 の 限 界 本 研 究 の参 加 者 は,ほ ぼ全 員 が 重 篤 な合 併 症 を起 こす こ とな く順 調 な 回復 を遂 げ て い た.従 っ て,本 研 究 で 見 出 され たサ バ イ バ ル プ ロ セ ス に は何 らか の合 併 症 が 生 じた場 合 の,次 元 カテ ゴ リー 及 び段 階 カ テ ゴ リー の 移 行 プ ロ セ ス が 含 まれ て い な い.加 えてCABGか らの 回 復 に は 性 差 が あ る こ と(Hawthorne,1994)が 知 られ てい る が,今 回 の 参 加 者 は女 性1名 で あ り男 女 差 を比 較 検 討 す る に は不 十 分 で あ っ た.以 上 よ り,今 後 理 論 的 サ ンプ リ ング を行 い 継 続 的 比 較 分 析 を 重 ね る こ とで,サ バ イ バ ル プ ロ セ ス を緻 密 に し て い く必 要 が あ る と考 え る. 謝 辞 術 直 後 に もか か わ らず本 研 究 に快 くご協 力 い た だ き ま した参 加 者 の 皆 様,医 療 関 係 者 の 皆 様 に深 く感 謝 申 し上 げ ます.ま た 最 後 ま で ご 指 導 下 さい ま した 日本 赤 十 字 看 護 大 学 黒 田裕 子 教 授 に深 く感 謝 申 し上 げ ます. 本 研 究 は,財 団 法 人 笹 川 医 学 研 究 財 団 の 助 成 を受 け て 実 施 し ま した.記 して こ こ に感 謝 い た します. 尚,本 研 究 は,日 本 赤 十 字 看 護 大 学 大 学 院 看 護 学 研 究 科 修 士 論 文 と して 提 出 した も の の 一 部 に,加 筆 ・修 正 を した もの で あ る. 文 献

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