37
札幌医学雑誌 72(3 − 6)37 〜 48(2003)最近の医学教育の変遷と動向
山 蔭 道 明
1 )
, 並 木 昭 義2 )
札幌医科大学医学部麻酔学講座(主任 並木昭義 教授)
Recent Trends and Changes in Medical Education in Japan
Michiaki Y AMAKAGE and Akiyoshi N AMIKI
Department of Anesthesiology, Sapporo Medical University School of Medicine (Chief: Prof. A. NAMIKI)
1)札幌医科大学医学部麻酔学講座講師,同医学部教育主任,同医学部
FD
教育セミナー実行委員会委員,同医学部附属病院臨床研修 実行委員会委員,厚生労働省認定臨床修練指導医,日本医学教育学会会員2)札幌医科大学医学部麻酔学講座教授,同医学部附属病院病院長
ABSTRACT
Recent trends and changes in medical education in Japan are reviewed in this paper. Issues regarding undergrad- uate medical education, faculty development and postgraduate medical education are discussed. The main topics are clinical clerkship, teacher education, and required postgraduate clinical training. Clinical physicians as well as faculty of a university should acquire effective educational methods and continue to receive feedback from medical students and staff in order to improve their educational techniques.
(Received September 2, 2003 and accepted October 28, 2003) Key words: Medical education, Faculty development (FD), Postgraduate clinical training
1
緒 言現在,日本の医学部・医科大学では,かつてない改革が 推し進められている.臨床面でいえば,国立大学では,
2004
年度から独立行政法人化することが既に決定してお り,また研修医に対しては2
年間の初期臨床研修が必修と なる.研究面に関しては,中核研究拠点[center of excel- lence
(COE
)]など有望なプロジェクトに対しては莫大な 研究費が与えられる一方,研究領域や内容が限定される.教育面に関しても,
2003
年度から特色ある大学教育支援 プログラム[center of learning
(COL
)]が開始されるな ど,その変化は著しい.例えば,医学部入学者選抜の改善,問題立脚型学習テュートリアル
problem based learning
(
PBL
)tutorial
やモデル・コア・カリキュラム・客観的臨 床能力試験objective structured clinical examination
(
OSCE
)]の導入,ならびに見学型から参加型の臨床実習 への転換がとくに顕著である.日本の医学部・医科大学の 教育改革に関する最近の動向に関しては,「医学教育白書」1)に詳しく書かれている.本学医学部でも,
2000
年度から 医学教育専任教員を配置,2001
年度からそれぞれの担当科に教育主任(兼任)を配置し,医学部の教育改革を推し進 めている.一方,教育者自身の教育能力の向上も重要であ り,そのための活動も盛んである.最近の医学教育の変遷 と動向に関して,医学部教育,指導教員の教育,ならびに 卒後臨床教育の観点から概説する.
2
医学部教育(
undergraduate medical education
)医学部教育は,戦後の
1947
年に発令された学校教育法(
6
・3
・3
・4
制)に端を発する(表1
).新制大学医学 部はそれまでの旧制と同じく,2
年の医学進学課程に続く4
年の専門課程のみを置いた.つまり,専門課程に入る前の2
年をいずれかの大学で履修することを医学部入学の条件 とした.その後,主に単科医科大学の中に医学進学課程を 併設するところが増えた.1968
年の医学部設置審査基準要 項には,「医学部は卒後に指導者の下で円滑に臨床研修に従 事できる基礎を培う」と医学部としての教育目標が明記さ れた.1970
年代に医科大学の新設が始まってからは,医学 進学課程を置かず,「6
年一貫教育」も可能となった.1991
年の大学設置基準の改正・大綱化2)で医学進学課総説
程は廃止され,他学部でも教養課程が廃止されるとともに,
6
年一貫教育が主流となった.共通教育科目や一般教育科 目の枠組みで低学年から医学概論や各種の早期体験学習(
early exposure
),医学史,行動科学,医学外国語などを 取り入れる大学が増加した.専門4
年間の総授業時間数は 全国平均で4,800
時間から,1991
年には約4,200
時間に,2000
年代に入るとついに4,000
時間を割った.単位制への 切り替えとして選択科目の導入が求められ,総単位数とし て188
単位が提示された.2001
年3
月末,「医学教育モデル・コア・カリキュラム―教育内容ガイドライン」3)が文部科学省の協力者会議か ら発表され,専門
4
年間の目標が,学習単位に至るまで,知・情・技にわたり詳細に示された.コアとなる部分は現
行の約
6
〜7
割であり,残りの3
〜4
割は各大学の個性を 出すように提言している.現在,各大学は対応に追われて いるのが現状である.質的には,受け身型から問題解決型 への転換が拡大している.統合カリキュラム,基礎医学講 座への配属,自由学習時間の設定をはじめとして,テュー トリアル学習が導入されている.また,1991
年の医療行為 に関する厚生省(当時)の見解4)を機に,臨床実習が見学 型から参加型へ,クリニカル・クラークシップへと転換さ れはじめた5).2
・1
モデル・コア・カリキュラム(model core cur- riculum
)医学部教育
学校教育法(6・3・3・4制)
大学設置基準(医学部の教育目 標が明記)
医学部設置審査基準要項
HardenがOSCEを開発
医学部設置基準審査基準要項一 部改正
東京女子医大でテュートリアル教 育を導入
大学設置基準の改正・大綱化(医 学進学課程が廃止)
医学生の医療行為に関する厚生 省(当時)の見解(一部の医行為 の容認)
医師国家試験改善検討委員会が 将来実技試験を導入すると発表
医学教育モデル・コア・カリキュラム・
教育内容ガイドライン
「新しい時代における教養教育の 在り方について」
共用試験(CBT) トライアル開始
1947年 1956年 1968年 1975年 1977年 1990年 1991年 1999年 2001年 2002年
教員教育
日本医学教育学会 創立 第4回世界医学教育会議 RTCHD設置(シドニー)
医学教育のためのワークショップ
日本医学教育学会が日本医学会 の分科会に加盟
「21世紀の大学像と今後の改革 方策について―競争的環境の中 で個性が輝く大学―」
「21世紀医学・医療懇談会第4次 報告:21世紀に向けた医師・歯科医 師の育成体制の在り方について」
「大学設置基準等の改正につい て (答申)」
「大学院入学者選抜の改善につ いて (答申)」
大学評価・学位授与機構による大 学教育研究活動の評価を開始
「21世紀における医学. 歯学教育 の改善方法について―学部教育 の再構築のために―」
1969年 1972年 1973年 1974年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年
卒後教育
医制の発布
(旧)医師法(身分免許制)
医師法(現行) , 医療法
インターン制の廃止に伴う臨床研 修制度の創設(努力義務)
日本医学教育学会 生涯教育委 員会を設置
日本医師会 生涯教育を制度化
「卒後臨床研修目標」
「臨床研修病院の指定基準等に ついて」 「研修モデルプログラム」
臨床研修指導医養成講習会
「21世紀の医療提供体制の改正 案」広告規制の緩和
「医療法等の一部改正する法律」
を公布, 初期臨床研修必修化を決 定
初期臨床研修必修化を実施 1874年
1903年 1948年 1968年 1971年 1987年 1989年 1993年 1995年 1997年 2000年 2004年
OSCE:客観的臨床能力試験objective structured clinical examination,CBT:computer based testing,RTCHD:地域教員教育センターregional center for health development
表
1
医学教育に関する歴史的変化最近の医学教育の変遷と動向
39
医学教育のモデル・コア・カリキュラムは,「医学におけ る教育プログラム研究・開発事業委員会(平成
10
〜12
年 度,佐藤達夫委員長)」が思案を作成し,最終的には「医 学・歯学の在り方に関する調査研究協力者会議(座長:高 久史麿)」の報告書「21
世紀における医学・歯学教育の改 善 方 策 に つ い て ― 学 部 教 育 の 再 構 築 の た め に ―(
http://www.mext.go.jp
)」4)の中に,「医学教育モデル・コ ア・カリキュラム―教育内容ガイドライン―」3)として収録 され,詳細に記述されている.内容としては,A
)基本事 項,B
)医学一般,C
)各器官の正常構造と機能,病態,診断,治療,
D
)全身におよぶ生理的変化,病態,診断,治療,
E
)診療の基本,F
)医学・医療と社会,G
)臨床実 習,H
)準備教育,の8
つに区分される(図1
).それぞれ について,一般目標と到達目標が示されている.これらの 区分の中でも,A
の基本事項は 医師としての素養に関わ る教育内容 であり,評価に値する.また,C
のような器 官別の教育方略は,学体系別の縦割りを壊し,内容の統合 が行われやすくなる.これらは6
年間の医学教育の約3
分 の2
の時間をかけて教育し,残りの3
分の1
は選択科目と して各大学が独自の個性的なカリキュラムを用意する.A
〜
F
の事項に関しては,以下に述べる共用試験の対象とし て位置づけられ,臨床実習開始前の最低限度の知識習得の 指標となるべきものである.医学部・医科大学としては,それぞれの理念と多様化するニーズに従った選択科目ある いは魅力あるアドヴァンスト・カリキュラムを用意する必要 がある.
2
・2
問題立脚型学習テュートリアルproblem based learning
(PBL
)tutorial
PBL
テュートリアルは,1952
年米国のCase Western Reserve
大学で創案され,1969
年カナダのMcMaster
大学 医学部で確立された新しい医学教育モデルである.その後,世界中の有名校が先駆的に導入し,現在では世界的規模で 医学教育の中心的な学習形態の
1
つとなっている6).わが 国では1990
年に東京女子医科大学医学部で初めて導入され,全国
80
医学部・医科大学のうち2001
年10
月現在で39
校が導入している.PBL
テュートリアルは,具体的な状況を事例として与え,少人数グループ討論を通して学生が自主的に自分に必要な 学習項目を設定し,自らの力でそれを習得することを通じ て,自己開発型学習の学び方を修得させようとするもので,
別名,学習項目発見型テュートリアルとも呼ばれる.学習 課題はグループ全体に共通なコアとなるべきものと,個人 差に応じて各自が設定するものとがある.
PBL
テュートリ アルの主要目的は,能力育成であって,単なる知識の獲得 を目指すものではない.テュータ(学生の自己開発型学習 訓練を援助する教員)はPBL
テュートリアルの目的を十分 に認識し,討論型学習グループの自己学習を援助するとと もに,個々の学生に対応した個別指導を行うことが大切で ある.基本的な役割として,1
)情報提供(資料の提示,学習の位置づけ),
2
)学習プロセスの制御(発問,指名,示唆,助言,指示),
3
)個人情報の収集(学習態度,学習 能力,目標到達度),4
)フィードバックと成績評価(賞賛,注意,学習評価,個別指導)などがある.
PBL
テュートリ アル導入に伴う問題点として,テュータの能力の育成,PBL
テュートリアル室の確保,ならびにテュータ人数の確 保が挙げられており,多くの大学でテュートリアルを導入 するにあたり,ハード面,ソフト面で少なからぬ問題を克 服しなければならない状況である(表2
)7).2
・3
共用試験(common achievement tests
)8) 臨床実習が診療参加型をとる場合,臨床実習開始前の学 生の適切な評価が問題となる.厚生省(当時)の臨床実習 検討委員会による最終報告9)では,医学生の医療行為が許 容される条件の一つとして「臨床実習を行わせるに当たっ て事前に医学生の評価を行うこと」を挙げ,学生が診療に問題点 大学数
テュータの能力育成 PBLテュートリアル室の確保 テュータ人数の確保
PBLテュートリアル教育倫理の理解 PBLテュートリアル時間帯の確保 導入への全学的同意
PBLテュートリアル事例の作成 テュータガイドの作成
PBLテュートリアル評価方法の設定 カリキュラム全体との整合性 導入・運営予算
事務部門の整備 運営組織の整備 特に問題なし
19 19 18 13 13 12 11 11 10 8 7 7 6 4
日本医学教育学会第13期卒前教育委員会:全国医学部・医科大学 におけるPBLテュートリアル導入の現況 2001.10より,引用,改変
表
2 PBL
テュートリアル導入に伴う問題点 図1
モデル・コア・カリキュラムの構成(文献3
より引用,改変)参加するための最低限必要な態度,技能,知識について適 正な評価を行うことを求めている.これに従い,「臨床実 習開始前の学生評価のための共用試験システムに関する研 究班(座長:高久史麿)」が組織され,その専門委員会
(委員長:佐藤達夫)のもとに,大学間で共用できる試験シ ステムが開発されることになった.知識・問題解決能力に 関しては,コンピュータを用いた多肢選択形式試験
com- puter based testing
(CBT
)を開発し,技能・態度に関し ては,客観的臨床能力試験objective structured clinical examination
(OSCE
)を実施することにした.共用試験は 国 家 試 験 ではなく, 米 国 のUSMLE
(United States Medical Licensing Examination
)のStep 1
に相当するも のである10).2
・3
・1
多肢選択形式試験computer based test- ing
(CBT
)試験のプロセスが完全にコンピュータで管理運用される 試験システムをいう.
TOEFL
などの英語検定試験や運転 免許試験など,いろいろな試験を対象に世界各国で利用さ れている.わが国では,医学生を対象とした臨床実習開始 前のCBT
は,2005
年の本格的運用を目標に,2002
年か ら各大学で試験的運用(トライアル)が行われている.2002
年に東京医科歯科大学に設立された医歯学教育システ ム研究センターがCBT
の問題作成の中心的役割を果たして きたが,今後は共用試験実施機構(機構長:高久史麿)が 実施にあたる.受験学生は各大学に設置されたコンピュー タ端末を用いて試験を受ける.結果は各大学に知らされ,成績の扱いは各大学に任される.
2003
年5
月に共用試験CBT
・OSCE
医学系全国説明 会が行われた.その中で行われた第2
回医科CBT
トライア ルでの公募問題の採択状況発表では,全国医学部から9,322
題の問題が寄せられ,3,728
題が選定された(採択 率:40.0
%).最も高い採用率は57.7
%であった.採択率 が50
%を超えている大学が12
校ある一方,30
%未満の医 学部も9
校あり,問題の質が大学によって大きく異なるこ とが明らかとなった.共用試験は全国の医学部の英知を集 めて行うものであり,採択率の低かった大学は,CBT
問題 作成マニュアル11)の周知徹底や学内での問題作成講習会な どのFD
を積極的に行う必要がある.採択率の向上により 良質のプール問題が集積され,結果としてCBT
の精度と妥 当性を向上させることにつながると考えられる.2
・3
・2
客観的臨床能力試験objective struc- tured clinical examination
(OSCE
)OSCE
(オスキー)は,1975
年イギリスのHarden
によ って創始された評価方法である.ステーションと呼ばれる 小部屋を多数準備し,各部屋にそれぞれ課題を準備する.学生は順次それらの部屋にローテーションして与えられた 時間内に課題をこなす.評価者はあらかじめ準備された評 価表に沿って評価を行う.欧米では,基本的臨床技能の評 価のみならず,卒業試験として全科の臨床能力を問うこと
にも利用されている.カナダでは医師国家試験や家庭医の 専門医試験に導入されている.わが国では,
1993
年に川崎 医科大学で最初に導入され,2002
年時点では80
大学のす べてに導入されている.1999
年の医師国家試験改善検討委 員会報告書12)で,国家試験に実技試験を導入すること,そ の方法としてOSCE
が適していることなど実施の方向性が 明記された.実施時期については,全国の医学部での普及 状況をみて決定するとされたが,国家試験での利用が明記 されたことが,各大学でのOSCE
への取り組みに拍車をか けたのは明らかである.厚生省(当時)臨床実習検討委員会は,その最終報告9) において,医師免許を有しない医学生が医行為を行う場合 の
4
条件を示した.その際,診療チームの一員としての役 割と責任を果たす中で実習を行うクリニカル・クラークシ ップが効果的であるとしたが,医行為を伴う臨床実習の前 に,医学生の能力を大学の責任において評価することが,医師法に対する違法性阻却の必須条件であるとして,共用 試験としての
OSCE
の重要性が位置づけられた.「臨床実 習開始前の学生評価のための共用試験システムに関する研 究班」専門委員会のOSCE
ワーキンググループでは,あら かじめ20
種類程度の課題を設定した13).設定課題が少ない と,学生がその特定の課題のみしか学習しない可能性があ るため,広い範囲からの課題を設定したが,実際に行われ ているのは,1
)医療面接,2
)頭頚部診察,3
)胸部(肺)診察,
4
)心臓診察,5
)腹部診察,6
)神経学的診察,7
) 問題志向型診療録problem-oriented medical record
(
POMR
)における問題リスト作成,8
)心肺蘇生などであ る.ここ数年の間に,多くのコミュニケーション・医療面 接の教科書が出版されたり,翻訳されており14−16),また,模擬患者(
simulated patient/standardized patient
)の活用 も盛んに行われるようになった.問題点として,評価の公 正性と透明性の確保が挙げられ,外部評価者の相互乗り入 れなどが試行的に実施されている.2
・3
・3
参加型臨床実習clinical clerkship 1991
年に文部省が大学設置基準を大綱化し2),カリキュ ラム作成上での制限が大幅に緩和された.同時に厚生省(当時)が設置した臨床実習検討委員会が一定の要件(①低 侵襲の医行為,②指導医の監督・指導,③学生のレベル評 価,ならびに④患者・家族のインフォームド・コンセント)
を満たせば,医学生が医行為に携わることの違法性は阻却 されるとの見解を発表した9).それに従い,全国の医学部・
医科大学でカリキュラムの見直しが始まった.さらに
1999
年,21
世紀医学・医療懇談会第4
次報告17)が,臨床実習 の充実を図ることが重要であると提言し,これを受けて2001
年に医学・歯学教育の在り方に関する調査研究協力者 会議が,診療参加型臨床実習の実施を具体的に示した4). これらの報告に追随する形で,クリニカル・クラークシッ プの導入は大きな潮流となった.クリニカル・クラークシップとは,学生が主体となり患
最近の医学教育の変遷と動向
41
者との関わり合いの中から臨床医学を学ぶ 診療参加型 の臨床実習方式である18).臨床実習は,患者への医行為と いう観点から大きく
3
つに分けることができる(表3
)19). 実際の臨床実習の現場ではこの3
つの形態が混在するが,概念としてはレベル
1
の診療参加型臨床実習がクリニカ ル・クラークシップに相当する.クリニカル・クラークシッ プの特徴の一つは,本人の学習速度に合わせて段階的に学 ぶことであり,個々の学生はそれぞれの知識・技能・態度 の到達度に合わせて医療チーム内での役割が与えられ,能 力が向上すればより進んだ役割へと移行する.従って,医 療チームがないとクリニカル・クラークシップは成り立たな い.チームは,チーフ・レジデント,シニア・レジデント,研修医,学生により構成され,それを臨床経験豊かな医師
がアテンディング(医療チームの長)として監督する(図
2
)1).クラークシップの責任者は常に学生を評価し,フィ ードバックを行う.評価法としては,観察記録,ペーパー テスト,OSCE
などの複数の評価法による総合的な評価が 行われる.当講座では,全科共通の評価表の他に,学習者 が学習した内容をすべてまとめるポートフォリオの提出なら びに課題・症例の発表を課している.学生用にはいくつか の指南書が出版されており20−22),それらの有効活用が勧め られる.日本では,診療参加型を 許容された一定範囲の医行為 とみなし,採血や縫合などの医療手技を行わせることがク ラークシップとする傾向がある.しかし,米国のクラークシ ップ責任者を対象に何を重要と考えるかを調査した結果23) では,症例の呈示(プレゼンテーション),診断,病歴の聴 取,検査結果の解釈,患者とのコミュニケーションが上位 を占め,日本との格差がある.
2002
年度(2002
年8
月26
日〜2003
年6
月6
日)に当大学医学部で行った必修クリ ニカル・クラークシップに対する学生のアンケート結果24) でも,病歴聴取の機会,身体診察の機会,ならびに正規の カルテを記載する機会に関する評価が低かった(図3
).条 件が整わないまま導入しようとするために,本来のクリニ カル・クラークシップとは似て非なるものになっていること が懸念される25).クリニカル・クラークシップを担当する 指導医のさらなる研修が望まれるところである.3
教員教育(faculty development: FD
)厳密にいえば,大学を含む学校において教育活動に従事 する公的に認定された資格を有する公職者を教員(
teacher
) という.Faculty
は,大学における教育スタッフを指す.高1. 診療見学型(レベル3)
医学生は, 医師が患者を診察するのを見学するのみで, 直 接患者とは関わらない.
2. 模擬診療型(レベル2)
学生に患者を割り当てて診察をさせた後に, その行為をチェ ックして臨床技能をチェックする.
学生が行うのは実際の医行為ではなく, 患者の協力を得て 行う演習である.
その行為は正式のカルテには記載しない.
3. 診療参加型(=クリニカル・クラークシップ) (レベル1)
学生が指導医と研修医で構成される診療チームに責任をも った一員として加わり, 指導医の指導・監督の下に実際の診
療に関与する.
診療を補助しながら, 医師となるために必要な知識・技能・態 度を身につける.
その行為は正式なカルテに記載され, 患者の診療に一定の 責任をもつ.
表
3
臨床実習の3
つのタイプ・レベル(文献18
より引用,改変)図
2
クラークシップにおけるチーム構成(文献22
より引用,改変)アテンディング:診療チームの長として診療の最終的な責任を もつ医師.学生などの直接指導には関与しない.チーフ・レジ デント:アテンディングの下に位置し,実際の細かい指示等を 監督する.直接あるいはシニア・レジデントを介して,研修医 の指導を行う.シニア・レジデント:学生あるいは研修医とと もに実際の細かい指示等を行う.
図
3
当大学医学部で行った必修クリニカル・クラークシップに対す る学生のアンケート結果(2002
年度)―アンケート質問小項 目別の当科とその他の担当部門との比較―(文献24
より引用,改変)
平均値ならびに割合(%).
n
=61
〜84
.●は麻酔科,○は 他担当科の平均値を示す.■は麻酔科実習で「評価できない」と回答した割合.質問
4
〜7
は,それぞれ病歴聴取の機会,身 体診察の機会,正規のカルテを記載する機会,ならびに医療手 技の機会に関する質問である.等教育の教員には,教授,準教授,助教授,講師および助 手が含まれる.米国には,教授と助教授の間に準教授
(
associate professor
)があるが,日本でいう助教授がこれ に相当する.大学では,この他に客員教授,医学部では臨 床教授などがあり,非常勤講師も教育活動に携わる.医学 部教員は,臨床系であっても医療職ではなく,また基礎系 であっても研究職ではなく,教育職のことが多い.近年,医学部教育の重要性の認識から,大学教員に教員職者であ ることが強く求められている.
2001
年の大学設置基準の大 学教員の資格基準26)が 教育研究上の能力があると認めら れた者 から, 教育を担当するにふさわしい教育上の能力 を有する者 に改正されたことにも裏付けられる.医学生の臨床実習では,研修医を含めたチーム医療の中 で教育活動が行われる.
2004
年度からは初期臨床研修必修 化により,研修指定病院では指導医を置くなど,すべての 医師が効果的な教育方法を身につけなければならない状況 にあるといっても過言ではない.そのため,教員に対して は効果的で継続的な教育(faculty development: FD
)と,それに対する公正で妥当な評価が重要となる.
1998
年10
月,大学審議会は「21
世紀の大学像と今後の改善方策につ いて」を答申し,その中で各大学はFD
の実施に努めるこ とを提案している.3
・1
日 本 医 学 教 育 学 会 (Japan Society for Medical Education
)わが国では,
1969
年,大学紛争を契機として全国的に医 学教育改革に関する議論が高まった.同年8
月30
日,当 時慶応義塾大学医学部長であった牛場大蔵教授が,全国医 学部長病院長会議の賛同を得て発起人会を開催した.この 際,全国から約110
名の参加者があり,これが第1
回の日 本医学教育学会となった.日本医学教育学会の創立をもっ てわが国の医学教育学が始まったといえる.研究の範囲は,入学者選抜,卒前教育,医師国家試験,卒後教育,さらに 生涯教育のすべてを対象とする.事業内容は,学術大会の 開催,機関誌「医学教育」の刊行,「医学教育者のためのワ ークショップ」での主導的役割などが主なものである.こ の他,医学教育諸団体・省庁などとの連携・協力,
WHO
など国際教育諸機関との連絡や交流も含まれる.1997
年,同学会が日本医学会の正式分科会に加盟した時点で,医学 の中でこの分野が学問として公認されたとみることができ る.
2003
年時点で,個人会員は1,700
名,機関会員は250
名を超え,2002
年には運営委員会制から理事・評議員制に 移行した.3
・2
医学教育ワークショップ(workshop on med- ical education
)参加者全員がカリキュラムの作成や教育評価などのテー マを決めて作業し,全員で成果を作り上げるという医学教 育の改善・実施のために行われるワークショップを指す.
講演会,講習会あるいは研修会などいずれの言葉にもあて はまらない.
1972
年の第4
回世界医学教育会議におけるTraining the Teacher to Teach
というトピックにおいて,英国のAnderson
ら27)が医学校教員の教育能力の向上を強調し,そのためにはワークショップの開催が有効であることを論じ た.
WHO
はこうした教育効果を高く評価し,地域教員教 育センターRegional Teacher Training Center
(RTTC
) を世界のいくつかの拠点に設置された.アジア・西太平洋 地域では,オーストラリア・シドニー市のNew South Wales
大学に設置され,後にRegional Training Center for Health Development
(RTCHD
)と改名された.1973
年 から西太平洋諸国の医学教育者のためのワークショップが 開始された.翌年の1974
年,それに参加した日本の医学 教育者(牛場大蔵,日野原重明,館正知先生ら)によって,富士教育研究所において「医学教育者のためのワークショ ップ」が発足し,以来毎年全国レベルで開催されている
(主催:厚生労働省,文部科学省).これはいわゆる「富士 研」と呼ばれているもので,年に
1
回大学から20
名,臨床 研修病院から20
名の計40
名が6
日間,富士山の裾野で寝 食をともにしながら学ぶものである.2001
年までに約1,100
名が学んでいる.その参加者たちによって大学や病院あるいは学会などにおける
echo workshop
へと発展し,ワ ークショップは医学におけるFD
にとって重要な手法となっ ている.この他に,医療研修推進財団が主催する「臨床研修指導 医養成講習会」がある.これは主に臨床研修医を指導する ものを対象としているが,全国の臨床研修病院から
50
名ず つ,場所を変えながら年4
回行っている.2001
年までに約1,400
名が研修を終えている.日本医学教育学会でも,研修医のためのワークショップあるいは学術大会時にいくつ かのワークショップを開催している.
2001
年には医学部・医科大学80
校中74
校(92.5
%)が学内で何らかのワークショップを行っており,その後も増 えている.内容としては,カリキュラム・プランニングの方 法などを学ぶ研修型とクリニカル・クラークシップの導入 などの具体的課題に対する問題解決型のワークショップが ある.当大学医学部では,
1999
年から毎年秋季に行ってき た(表4
).初年度は,土・日曜日の二日間行ったが,その 後は土曜日の一日間終日で行っている.参加者は,毎年60
〜
80
名であるが,昨年の2002
年開催時(4
回目)に初め ての参加であった教員が64
%存在したため,継続して開催 していくことが重要である.ワークショップでのFD
が難し い場合には,適宜,医学教育セミナーを開催することも重 要である(表4
).当大学医学部では,ワークショップ参加 者には修了証を発行し,セミナー参加者は参加記録を残す こととし,教員評価基準に加えることを検討している.3
・3
教員評価(teacher evaluation
)最近の医学教育の変遷と動向
43
最近の医学教育の変遷と動向教員とくに大学教員に対しては何らかの評価が必要であ り,その評価によってさらに教員としての資質が高められ る.古くから教員の評価は研究業績(論文)であった.よ って,本来の学問としての興味の他に,評価と昇進という 意味からも論文が重視され,二重投稿(同じ内容の研究結 果を二つ以上の雑誌に投稿すること)などの弊害も生じた.
最近は,教育能力や診療能力も次第に評価の対象となり,
さらに研究能力を加えた
3
者に共通する管理能力(man- agement ability
)も重要視され始めた.とくに教育面にお いては,小グループ学習の導入や臨床技能教育の導入に伴 った臨床教員への教育負担の増大は避けられず,適切な教 育実績の評価が重要である.3
・3
・1
学生による授業評価全国の医学部・医科大学における学生の授業評価の現状
1.医学教育ワークショップ
○第1回 1999年9月3日(金)〜4日(土)
テーマ:「カリキュラム・プランニング」
ディレクター:森 道夫(医学部長)
タスク・フォース:田中 勧,大野良三,福井次矢
○第2回 2000年11月25日(土)
テーマ:「メディカル・リスク・マネジメント」
「PBLチュートリアル」
「OSCE」
ディレクター:神保孝一(医学部長)
タスク・フォース:玉木敬二,田辺政裕,伴信太郎,高後 裕
○第3回 2001年10月20日(土)
テーマ:「PBLチュートリアル」
「OSCE」
ディレクター:神保孝一(医学部長)
タスク・フォース:田辺政裕,宮本 篤,山本和利,山下敏彦,伊東文生,宮田靖志
○第4回 2002年10月19日(土)
テーマ:「カリキュラム・プランニング」
「CBT共用試験問題作成」
ディレクター:神保孝一(医学部長)
タスク・フォース:藤沼康樹,山本和利,當瀬規嗣,田中信幸,奈良信雄,森 満,山蔭道明
○第5回 2003年11月15日(土)
テーマ:「効果的な教育方法」
「クリニカル・クラークシップの充実」
ディレクター:神保孝一(医学部長)
タスク・フォース:細川敏幸,今井浩三,相馬 仁,石井清一,佐藤昇志,Peter Olley,山蔭道明 2.医学教育セミナー
○第1回 2001年7月19日(木)
テーマ:「医学教育モデル・コア・カリキュラム」
講 師: 佐藤 達夫(東京医科歯科大学・副学長)
○第2回 2001年10月2日(火)
テーマ:「本学における医学教育改革の現状・課題」
(医学教育の改善・方策,教育カリキュラム,教育研究点検評価,TOP30)
ディレクター:神保 孝一(札幌医科大学・医学部長)
○第3回 2003年1月21日(火)
テーマ:「北米における医学教育」
講 師: ピーター・オリー(札幌医科大学医学部・非常勤教授)
○第4回 2003年3月25日(火)
テーマ:「頼もしい医学生たち―テュートリアルシステムがもたらしたもの―」
講 師: 高橋 優三(岐阜大学医学部医学教育開発研究センター・センター長・教授)
○第5回 2003年6月11日(水)
テーマ:「より質の高いCBT問題作成のために」
講 師: 齋藤 宣彦(聖マリアンナ医科大学代謝内分泌内科・教授)
○第6回 2003年10月3日(金),11月6日(木)
テーマ:「医療関係法や保険診療及び保険医に関する講義」
講 師: 中根 英幸(厚生労働省北海道社会保険事業局保険課・医療事務指導官)
ディレクターdirector:ワークショップやセミナーを開催する際の主指導者
タスク・フォースtask force:医学教育ワークショップにおいて,参加者の作業(討論)を容易にする補助者(facilitator)
表
4
札幌医科大学医学部ファカルティ・ディベロップメント活動実績は,全国医学部長病院長会議の調査報告「わが国の大学医 学部(医科大学)白書
01
」にその実態をみることができ る.授業評価は,回答のあった79
校中38
校(48
%)で行 われており,部分的に行っている大学も含めると58
校(
73
%)に達していた.実施率は,国・私立大学(50
〜52
%)と比較して公立大学(25
%)では低かった.当大 学医学部では,授業に対しては定期試験時に評価を行って おり,また臨床実習に対しては実習の単位ごとに評価を行 っている24).評価結果は半数の大学で教員のみに通知され,人事・給与面に反映させている大学はなかった.日本と欧 米とでは,国民性が違うため,すべて欧米のようなシステ ムを導入することが教育改革に結びつくかどうかは疑問で あるが,評価の目的を,単なるフィードバックによる授業 法やカリキュラムの改善にとどまらず,結果公表,
Award
の授与,昇給,学外機関における教員採用の資料へと広げ ていくことが,今後の教育改革の推進に欠かせないとする 意見が多い.3
・3
・2
教育業績評価ガイドライン大分類 項目別 点検内容
1.講義 2.実習
3.その他の教育活動
4.入学試験関連活動
5.課外活動
6.学内の教育改善に 関する活動
7.学外での医学教育 に関する活動
8.自己の教育活動へ の取り組み
大学院講義時間 学部講義時間
他学部,他学科,教 養科目の講義時間
その他の講義 教育資料作成 基礎医学実習 臨床実習 卒後研修指導 その他の実習 教育資料作成
テュートリアルのテ ュータ
大学院生,研究生の 論文指導
広報活動
入学者選抜事業への 参加
初等中等教育との接 続に関する活動
スモールクラス指導 教員
サークルの活動 学生厚生活動 学生支援 留学生指導
ファカルティ・ディ ベロップメント
卒前教育委員会への 参加
卒後教育委員会への 参加
学生以外に対する教 育活動への参加
社会的教育活動への 参加
医学教育に関する業 績
評価に基づく改善の 成果
(年間の時間数を記載)
(年間の時間数を記載)
(年間の時間数を記載)
(年間の時間数と内容を記載)
(特記すべき教育資料を作成した場合,その内容を記載)
(年間の実習時間数を記載)
(年間の実習時間数を記載)
(年間の実習時間数を記載)
(年間の実習時間数と内容を記載)
(特記すべき教育資料を作成した場合,その内容を記載)
(年間の担当時間数を記載)
(指導した学生数と指導論文名を記載)
(大学説明会,オープンキャンパス等の広報活動の内容を記載)
(入学試験実施企画,出題,採点,面接等参加していればその内容を記載)
(高校教員との連絡会出席や高校への出張講義,理科実習等の内容を記載)
(クラス担任としての活動時間と内容を記載)
(サークル活動の指導に費やした時間と内容を記載)
(学生厚生委員としての活動内容を記載)
(補講や面接を行った場合その内容を記載)
(留学生の日本語指導,生活指導などの活動内容を記載)
(受講者または講師としてワークショップ等へ参加した日数と参加内容を記載)
(教育委員,カリキュラム委員など卒前教育に関連した委員会への参加の有 無と内容を記載)
(臨床研修委員など卒後教育に関連した委員会への参加の有無と内容を記載)
(コメディカル講習会など学生以外の対象への教育活動の内容を記載)
(公開講座,生涯学習講座など学外者を対象とした教育活動への参加内容を 記載)
(各種委員会参加,教育に関する論文,講演,執筆などについて記載)
(前年の評価結果に基づいて改善した事項について具体的に記載)
表
5
教育活動実施記録(文献4
より引用)最近の医学教育の変遷と動向
45
教育業績の評価に関して,いくつかのガイドラインが示 されている.
2000
年からは大学評価・学位授与機構による 大学自体の教育研究活動状況の評価が開始された.基本的 には,大学相互の比較評価となるが,分野別の教育評価項 目も含まれ,2003
年度から本格実施の予定となっている.2001
年,医学・歯学教育の在り方に関する調査研究協 力者会議のワーキンググループは,医学教育モデル・コ ア・カリキュラムとともに教育業績評価ガイドラインを報 告した4).このガイドラインの目的は,評価結果を教員にフ ィードバックすることにより教育の質の向上を図り,評価 結果を昇任や採用などの人事に反映させることで,教育に 対する動機づけ(incentive
)を与えることである.内容と しては,学生による授業評価,教員自身による自己の教育 活動に対する定期的な点検評価(表5
),同僚の教員による 講義の授業参観などによる評価表が呈示されている.日本医学教育学会でも,わが国の現実に即した大学医学 部・医科大学に共通する教育に関する教員の業績を評価す るために教育業績評価基準を作成した28).いずれのガイド ラインを使用するにしても,その評価によって教員の昇 任・採用にまで反映される場合,評価には高いレベルの妥 当性,信頼性,ならびに公平性が求められる.日本の場合,
ほとんどの教員が終身雇用制であるが,教員の努力と成果 を定期的に評価する任期制を導入し始めた大学もある.
3
・4
教育技法(educational method
)学習者が目標に到達するための効果的な技法を教育技法 という.その技法は,精神・心理的な面と技術的な要素と からなる.前者は教育の主体は 学習者 であるというこ とを教育者がまず認識し,学習者を動機づけ(
motivation
), 気づかせ(awareness
),そしてやる気を起こすように指導 することが重要である.これは,教育技法の根幹であり,オリエンテーション時あるいは授業・実習中を通して常に 働きかけなければならない.後者の技術的な要素としては,
学習者の立場に立っての目標を明示し,学習者が能動的に 学習できるように,学習方法の種類と順序を練り,さらに それらに適した資源を用意することである.具体的な方法 としては,既述の手法以外に,ロールプレイ(ある問題状 況を設定して,その中で一定の役割を論じて討論させ,そ こから問題点と解決法を探り出すことを目的とした問題解 決法),ディベート(ある事柄に関して,肯定する立場と否 定する立場に分かれて討論すること),スキルス・ラボ(臨 床技能学習施設)の活用,いろいろなシミュレーション
(コンピュータを含む)など,学習者の意欲を高める技法が 考えられる.とくに臨床実習の現場では,学習内容が学習 材料となる患者に依存することが多く,シミュレーション は有用である29).
最良となる具体的な教育技法は存在しない.重要なのは,
適切な形成的評価(
formative evaluation
)30)を時期を逸 せずに行い,常に教育プログラムの評価と改善を行うべき であり,この評価とフィードバックそのものも教育技法の 一部と考えられる(図4
)31).4
卒後医学教育(
postgraduate medical education
)医学教育は,単に学部の卒業をもって完了するのではな く,
1
)卒後早期の臨床研修,2
)これに続く専門的修練,3
)研究者養成を目的とする大学院教育,ならびに4
)生涯 教育を含むものである.それらは独立して存在するもので はなく,上記の卒前教育や学位制度とも密接に関連し,多 くの問題点が指摘されている.4
・1
卒後早期の臨床研修4
・1
・1
インターン制度医学部卒業直後に,一人前の医師として社会に出る前に 研修することをインターンシップと呼ぶ.第二次世界大戦 終結によってわが国の医学教育制度は米国式に改められた が,インターン制度もその一つであった.医学部卒業後
1
年以上の臨床実地研修を行わねばならないとされ,それを 終えてはじめて医師国家試験の受験資格が与えられた.し かし,身分の保障がない,生活保障がない,カリキュラム や指導体制が欠如しているなどを理由に,インターン闘争 や国家試験ボイコットなど当時の医学生が原動力となり,1968
年に医師法が改正された.4
・1
・2
臨床研修制度1968
年の医師法の改正によりインターン制度は廃止さ れ,新たに臨床研修制度が創設され,卒後臨床研修は努力 目標とされた.厚生省(当時)は厳しい基準で指定する臨 床研修病院で研修が行われる場合に限ってこれを臨床研修 と認め,指導医手当と施設設備の名目で補助金を出すとい う仕組みとした.研修方式については,卒後はそれら臨床 研修病院での総合診療方式いわゆるスーパーローテート方 式による初期研修が望ましいとされた.しかし,大学病院 図4
教育プログラム開発への6
段階アプローチ(文献31
より引用,改変)
教育プログラムの開発には,この