1.は じ め に
少子高齢化の下で地方創生が喫緊の課題になっているが,その伴を握る のがコミュニティビジネスではないのだろうか。「まち,ひと,しごと創 生基本方針」の下,地方での仕事の創出と所得の向上,地方への人の流れ の誘導,若い世代の結婚・出産・子育て環境の整備,地域と地域の連携が 推進されつつある1)。しかし,ローカルアベノミクスの成否は,地方・地 域のニーズに合致して,人々の向上心を勇気付けていくことができるかど うかに掛かるものと思われる。
1) 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局(2017)ウェブページ,6‑24 頁による。
193 商学論纂(中央大学)第59巻第5・6号(2018年3月)
地方創生の内発的発展アプローチ
岸 真 清
目 次 1.は じ め に
2.収穫逓増を重視する考え方 ⑴ 収穫逓減の新古典派モデル ⑵ 収穫逓増の内生的成長論 ⑶ 内発的発展アプローチ
3.コミュニティビジネス活性化のファンド ⑴ 民間金融機関と協業する政府主導型ファンド ⑵ 市民参加型ファンド
4.むすび──若干の提案
本稿の目的は,住民主役の活性化の重要性と可能性を,コミュニティビ ジネスとそれを支えるファンドから考察することにある。本稿がよりどこ ろとしているのは,自立的なコミュニティを基盤とする収穫逓増型の経済 システムである。
そこで,まず,第2節において,収穫逓増経済を軽視する新古典派モデ ルとそれを批判する新ケインズ派モデルおよび内生的成長論をとりあげ る。さらに,住民自身の参加を重視する内発的発展論を参考に,また内発 的発展アプローチとでもいうべき考え方に基づいて,コミュニティビジネ スの収穫逓増の可能性を考察する。第3節は,コミュニティビジネスを活 性化する公的および民間ファンドと政府,地方自治体,金融機関特に協同 組織金融機関,NPO・NPOバンク,企業,市民・住民の協業と課題につ いて論じる。最後に,若干の提案とまとめを行う。
2.収穫逓増を重視する考え方
地方創生の担い手として期待されるのが,地域密着・発信型コミュニテ ィビジネスである。コミュニティビジネスは,地元の人々を主役として地 域を活動基盤にする小規模なビジネスである。しかし,当初こそせいぜい 組織を維持する程度の収益を獲得するのが精一杯であっても,やがて収益 をあげながら,地域だけでなく世界に向けてビジネスを拡大していく可能 性を有していると思われる。本稿が念頭に置くコミュニティビジネスは,
将来にわたって,成長・発展を継続する可能性を有するコミュニティビジ ネスであるが,IT(情報技術)の発展が,地方,地域に留まらず全国展開 さらに世界に向けた活動を促進するはずである。
日本総研レポートによれば,新たなコミュニティの特徴は,①地域産 業の先行きに危機感を持った地元の起業家,地域の有力企業をリタイアし た人,さらに域外から新たな発想を持ち込む人など多様な人々が共通した
危機感の下で,自主的に参加するオープンな社会,②公共的かつ自立的 な精神を持つ参加者が,相互の個性を最大限発揮させながら進化を続ける 社会のことである2)。
したがって,共感を有する有志によって運営されるコミュニティにおい て,情報の非対称性が生じる機会が少なく,固定費などの諸経費を低く抑 えることになる。加えて,コミュニケーションをとりやすい日々の生活の 中で,技術革新の機会も生じやすい。それゆえ,収穫逓増の可能性さえ想 定され,収益の拡大が実現すると考えられる3)。
本稿は,地域社会活性化の伴を握るコミュニティビジネスによる収穫逓 増型の財・サービスの供給に期待を掛けている。しかし,実際には,新古 典派経済学が久しく主流であったことから収穫逓増の考え方に疑念が向け られがちである。そこで,収穫逓増をめぐる諸主張を簡単に振り返ること によって,コミュニティビジネスへの適応可能性を考察することにする。
⑴ 収穫逓減の新古典派モデル
収穫逓増の考え方は,もともと,スミス(Smith)の分業,専門化の概 念の中で提示されていた。その後,スミスの経済成長に対する収穫逓増の 重要性と,マクロダイナミックス過程に対する累積効果の役割は広く認め られてきた。ところが,分業が市場規模の拡大,持続的成長をもたらすと の主張は,新古典派の分配理論によって遠ざけられることになった4)。 新古典派の成長モデルは1人当たり生産量(y)と1人当たり資本(k)
2) 新たなコミュニティについては,日本政策金融公庫総合研究所(2011)ウ ェブページ,81‑101頁および125‑127頁。
3) 観光産業を対象とした収穫逓増の考え方については,岸真清(2017),
79‑80頁を参照。
4) Buchanan, J. M. and Yoon, Y. J. (1999), pp. 513‑515.
が比例的に成長すると考える。経済成長率は1人当たりの概念,Δy/y を用い,Δy/y=Δk/kと表される。また,貯蓄率をs,人口成長率 をn,減価償却率をdとすれば,1人当たり資本増加率Δk/kは,Δ k/k=sy/k−(n+d)と表される。これは,必要投資量Δkが減価 償却率と労働力の増加率に見合って(n+d)kで増加しなければならない こと,それゆえ,1人当たり貯蓄量s yで表される貯蓄曲線と1人当たり 必要投資量(n+d)で表される投資曲線が必ず交わり,均衡が得られるこ とを示す。すなわち,生産量,資本量,労働力が同率で成長する均衡成長 が達成されることになる。
マーケット・メカニズムが自動的に均衡成長を実現させるものと考える 新古典派モデルは,資本と労働だけの生産要素によって構成され,また資 本も実物資本だけが想定されているので,資本の限界生産力が逓減,収穫 逓減を招くことになる。新古典派の成長論を代表するソロー(Solow)自 身も,定常均衡の説明には欠陥があることを認めていた5)。
要するに,定常均衡は資本ストックが労働供給と同じ比率で成長して初 めて得られるはずであるが,実際には産出物と資本ストックが雇用よりも 早くより資本集約的に成長しがちである。それだけに,この状況を克服し て定常均衡を実現するためには,可変的な資本・産出比率を有する総生産 関数を設定しなければならないことになる。また,1人当たり産出物と資 本の増加を定常均衡と矛盾することなく実現するためには,継続的な技術 革新を通じて生産規模の拡大とその収益を高める(収穫逓増)必要性が生 じる。このギャップを埋めるため,ソローは,外生的技術進歩の導入によ って,長期的に技術進歩を労働の成長率と一致させようとした。しかし,
ソローのモデルは,資本蓄積に主導される短期的なものであって,長期的
5) Pomni, M. and Tondini, G. (2006), pp. 1‑6.
な成長要因を示しているわけではない。
⑵ 収穫逓増の内生的成長論
そこで,長期成長を可能にする規模に関する収穫逓増効果への認識が高 まり,1960年代にはロビンソン(Robinson)やカルドア(Kardor)などの新 ケ イ ン ズ 派 モ デ ル, ま た1980年 代 に は ル ー カ ス(Lucas)や ロ ー マ ー
(Romar)などの内生的成長論のように,収穫逓増型生産技術を活用する持
続的経済成長の考え方が強まった。新古典派との基本的な相違は,新古典 派モデルが技術を外生的な要素と扱っているのに対して,新ケインズ派お よび内生的成長論が技術を内生的な要素としていることにある。
1) 新ケインズ派モデル
専門化は1人当たりの産出量を増やし,より多くの産出量をより低いコ ストで生産する設備投資を実施するとともに多様な販売戦略を立てること ができる。その際,投入物の性質を変えることによって,逓増的な収穫を 実現できると主張したのが,ロビンソンである。
また,①技術進歩が産業経済社会ではたえず起きていること,②新た に投資を行う場合には,技術的にさまざまな適応が必要になること,
③大規模な工業施設は半永久的な性格を有する投資を要しがちなので,
全般的な状況を永久的に変えてしまう一面を持っていることを指摘す る6)。
カルドアは,新古典派の仮定を否定する7)。中でも最も重要な点は,嗜 好と技術に関する新古典派の仮定である。新ケインズ派は所得の増加が消 費者の嗜好を変化させ,新しい需要を生みだし,やがて資源の再配分と新 技術の開発が促されるメカニズムを強調した。すなわち,量的な変化を追
6) Robinson, J. (1971), 宇沢弘文訳,98‑101頁による。
7) Davidson, P. (1980), pp. 119‑138による。
いながらも,生産物を生産する方法と生産物の構成が常に変化することを 強調する。そこには,時間を通じた発展過程があり,新古典派の嗜好と技 術を所与のものとする分析とは異質である。また,新ケインズ派は規模に 関する収益が不変であるとの新古典派の仮定を疑問視する。技術の種類と 機械化の程度は,産業ごとにあるいは企業ごとに異なる。実際には,効率 が高い企業も低い企業も並存しているだけに,収益率もそれぞれ異なるこ とも認めざるを得ない。
需要構成の変化および絶えず生じる技術革新は主として投資によって誘 発される。新古典派モデルにおいて,投資がどのように行われるのかにつ いての分析が軽視されるのと対照的に,新ケインズ派モデルは投資の役割 を重視する一方,貯蓄比率が常に変化するものと考える。また,家計貯蓄 よりも企業の内部留保資金を重視しながらも,投資に必要な資金の源泉の 分析の必要性を強調する。
かくして,新ケインズ派モデルは絶えざる技術の革新,さまざまな消費 者の嗜好に対応した価格と投資に着目するが,それは企業家によって決め られる。すなわち,新ケインズ派は,新古典派と対照的に,企業家精神に 大きな役割を与えている。ところが,新古典派モデルにおいては,嗜好お よび技術を所与とし,また過去・現在・将来の情報が完全といった状況の 下で投資は所与の貯蓄に依存するので,企業家精神が入り込む余地はほと んどない。これに対して,新ケインズモデルは,経済成長の伴を握るのは 投資であると考える。利子率をはじめ金融面におけるすべての要因が資本 収益率に適応して,投資を定める。つまり,企業家は,常に需要への強い 見通しを有し,金融部門が必要な資金を十分に供給するとの自信を持って いることになる。
投資以外に新ケインズ派が重視している成長要因は,貯蓄率,所得分 配,金融部門の機能である。これに比べ,新古典派モデルの場合,労働者
の貯蓄性向は資本収益と賃金分配に影響を及ぼさない。加えて,資本収益 率も賃金率も相互に弾力的に変化するとしている。しかし,新ケインズ派 においては,現実の生産構造,それを支える金融部門そのものが硬直的で あり,諸取引が不確実な要因を持っている以上,収益率,賃金率などのパ ラメータが伸縮的であるとは考えにくい。そこで生じるアンバランスを切 り開く金融機関の役割を重視している。このように,企業家,労働者,消 費者,金融機関などの経済主体の行動を重視するところに,新ケインズ派 の特徴が見られる。
2) 内生的成長論
内生的成長論を代表するローマーとルーカスの両者とも知識の蓄積を重 視した成長モデルを構築することで,長期成長率が内生的に決まるとして いる8)。まず,ローマーモデル9)を見てみると,以下のことがわかる。
①知識を限界生産物が逓増する性質を持つ資本ストック(知識資本)とみ なし,私的企業による研究開発投資活動が経済全体での知識資本の蓄積を 実現する(知識のスピルオーバー効果)。②知識資本の存在が財の生産技術 を収穫逓増なものに向かわせ,規模の経済性を発揮させるのにつれて,競 争均衡と収穫逓増との両立が可能になる。③経済の競争的成長経路と社 会的最適成長経路との間に乖離が生じるため,資源配分の歪みを是正する 政府の介入が必要になる。
上述のように,ローマーモデルにおいて,個々の企業の生産関数と社会 的な生産関数の区別が重要になる。個々の企業は当該企業自身が蓄積して きた知識資本kt(tは時間を表す)を投入して財を生産するが,知識資本の
8) ローマーおよびルーカスの内生的経済成長については,Pomini, M. and Tondini, G. op. cit., pp. 379‑383を参照。
9) 大東一郎(1996),65‑108頁による。また,Romar, P. M. (1986), pp. 1004‑ 1034および吉川洋(1992),39‑41頁を参照。
持つ「スピルオーバー効果」により,その生産量ytは経済全体での総知 識量Ktにも依存する。したがって,代表的な企業の生産関数は,次のよ うに表わされる。
yt=f( kt , Kt ) ⑴
ただし,総知識資本Ktの大きさは,個別的な知識資本の経済全体につ いての合計Sktに等しい。ただし,Sは個別企業の総数である。
Kt=Skt ⑵
しかし,企業数Sが極めて大きいため,個々の企業は自らの知識資本 Ktを通じて,総知識資本ktの大きさに影響を及ぼすことはできない。と ころが,経済全体の観点から見た場合,個別的な知識資本ktの値が変化 すれば総知識資本Ktの値もそれに伴って変化する。そこで,社会的な生 産関数を,生産関数 ⑴に ⑵を代入して得られる個別的な知識資本ktの みの関数⑶と考えることができる。
F( kt )=f( kt , Skt ) ⑶
かくして,ローマーモデルの特徴は,総知識資本の外部効果によって社 会的な生産関数⑶が,収穫逓増を示すということになる。
次に,ルーカスのモデルを見てみよう。ローマーもルーカスも,知識資 本が1人当たり国民所得の持続的成長の原動力になると考えることで共通 している。しかし,ローマーが資本蓄積と技術進歩企業のリンクに焦点を 当て,主に企業の研究開発を分析しているのと異なって,ルーカスは研究 および人的資本の訓練分野に配分される資金によって誘発される生産性の 増加に着目する。そして,家計の教育投資や生産過程での学習効果などの 人的資本蓄積を重視していることに特徴がある。すなわち,労働者家計の
自発的な教育投資活動が大きな役割を果たすことになるので,市民参加型 のコミュニティ社会構築に援用できるモデルであると言えよう。
また,人的資本が外部効果を有するか否かにかかわらず,1人当たり国 民所得の持続的成長が生み出される。つまり,実物資本や労働の投入量が 変わらなくても,経済全体での人的資本の平均水準が高いほど財の生産量 が大きくなることを明示している10)。ここで,hを人的資本,Δhを人的 資本の時間に関する変化率,vを蓄積過程での生産性と解釈されるプラス の定数,(1−u)を研究時間(uは生産活動に当てられる時間)とすると,ル ーカスモデルを次のように定式化することができる。
Δh=vh(1−u) ⑷
⑷は,不変収益を有する人的資本の生産関数を示す。研究や訓練に当 てられる時間に伴って不変の内生率で人的資本の蓄積が生じるので,シス テムは不変の成長経路を辿ることになる。また,モデルの内生的なダイナ ミックスはグローバルな規模の収益に依存するのではなく,むしろ蓄積さ れた要素の不変収益に基づくことになる。しかし,仮に不変収益が収穫逓 減を表すものであるとすれば内生的成長は不可能になり,システムを維持 するためには,ソローの外生的技術進歩に頼らざるを得ないことになる。
それを避ける経路は,蓄積された要素に関する不変収益か収穫逓増に限ら れる。
上述のように,ローマーとルーカスは,知識ないし学習を基盤とする生
10) しかし,人的資本が外部効果を持つ場合には,ローマーモデルと同様に,
経済の競争的成長経路は社会的最適成長経路から乖離する。と言うのも,労 働者家計の私的な教育投資誘因は人的資本の社会的水準を達成するよりも過 少になりがちになるからである。大東一郎,前掲書,89‑108頁およびLucas, R.E. (1988), pp. 17‑35を参照。
産関数の中に,規模の優位性は個別企業には存在しないというマーシャル
(Marshall)のモデルを導入することになった。この個別企業と社会全体の
収穫逓減と逓増の関係は,収穫逓増を重視するブキャナン(Buchanan)の 主張からも明らかになる11)。
総生産物をY,混合投入物をZで表す図1は,収穫逓増と新古典派の分 配理論および競争均衡の関係を示している。P1,P2は,それぞれ,個別 企業の生産関数である。直線になっているのは規模に関して収穫不変を仮 定しているからであるが,Pの破線部分は,その段階において生産に必要 とされる投入量Zが満たされていないために,実現不可能な領域である ことを示す。他方,Rは潜在的な拡大経路を示している。なお,経済全体
11) Buchanan, J. M. and Yoon, Y. J. (1999), pp. 515‑521による。
図1 収穫逓増のイメージ
R
P2
P1
Z1
出所:Buchanan, J. M. and Yoon, Y. J. (1999), p 521. 産出物Y
Z2 投入物Z
としてのRが決して逓減しないのは,小規模生産に適した技術が次々に 生み出されるからである。すなわち,専門化が生み出す収穫逓増が経済規 模を変え,継続的に技術革新を必要としていることを示している。
⑶ 内発的発展アプローチ
内生的成長論は,企業ないし家計の行動を組み入れることによって,技 術進歩,規模および収益の拡大をもたらす経済主体に着目するようになっ た。また,社会的利益と私的利益の乖離が生じる場合には,政府の介入が 望ましいとしている。その後,塩澤やコウ(Ng)のように,企業の行動に 関するミクロ分析を通じて,収穫逓増が常に生じる可能性を指摘する研究 が行われている12)。
しかし,ここでは,まず,コミュニティビジネス活性化の視点から,地 域の制度・社会組織の分析を重視する内発的発展論を展望する。その上 で,金融面を含めて,具体的に経済・社会システムの在り方を対象とする ことで内発的発展論と一線を画す内発的発展アプローチを検討する。
内発的発展とは,1960年代から70年代にかけての経済成長がもたらした 公害,資源・エネルギー,貧困・飢餓などの地球規模の諸問題に,それぞ れの地域という小さい単位の場から対処する発展方式のことである。この 方式は,1975年にスウェーデンのダグ・ハマーショールド財団が提出した 第7回国連特別総会に対する報告書において,「もう一つの発展」と題さ れた。
12) 塩澤は,短期的には言うまでもなく長期的に見ても,安定した需要が存在 する限り,生産規模の拡大につれて生産費用が高騰するようなことはない。
要するに,収穫逓減現象は起こらないと主張する。また,コウは,需要の価 格弾力性が小さい不完全競争社会であれば企業の収益が常に拡大する収穫逓 増現象の継続可能性を指摘する。塩澤由典(1998)319‑348頁およびNg, Yew-Kang (2009), pp. 9‑21.
その要件は,以下のようであった。①食糧,健康,住居,教育など,
人間が生きるための基本的要求が充たされること,②地域の共同体の人々 の共同によって実現される自助,自立が基盤になっていること,③地域 の自然環境との調和を保つこと,④それぞれの社会内部の構造変革のた めの行動を起こすことである。すなわち,ハマーショルド財団の定義は,
地域が発展の単位であることを明確にしたこと,地域の自然生態系との調 和を強調し,地域の文化遺産・伝統に基づく人々の創造性を重んじたこと に特徴がある13)。
日本においても,内発的発展の考え方そのものは,鶴見がすでに提起し ていた。しかし,基本的に内生的成長論の立場にありながら,内発的発展 論が重視する地域の制度・社会組織に焦点を当てることによって内発的発 展アプローチとでも言うべき独自の発展論を展開したのが,バスケス ‑ バ
ルケロ(Vázquez-Barquero)である。すなわち,イノベーション,技術進歩
またその普及を通じて規模に対する収穫逓増を得ることが可能であるこ と,イノベーションが内生的であること,さらに,経済成長や構造変化の 過程を刺激する産業・地域政策の意義を認めることでは,内生的成長論と 内発的発展アプローチは共通している。
しかし,地域および地域の人々の役割をより重視すること,また複線的 な資本蓄積プロセスを対象にすることで,内発的発展アプローチは内生的 成長論と異なっている。他方,人的発展アプローチ(human development
approach)などユートピア的な見解とも異なって,発展の条件を単純に考
えているわけではない。つまり,地方の資源を,市民および地方組織自身 によって企画,管理する目的に使用しさえすれば,潜在力を有するすべて の地域において,いかなる地方,地域でも発展が実現するはずであると,
13) 鶴見和子・川田侃編(1989),44‑50頁。
単純に考えることはできないとしている。その理由は,発展過程が資本蓄 積に基づき,また貯蓄と投資が長期的な経済・社会進歩を保証するメカニ ズムを必要としていることを重視せざるを得ないからである14)。
上述のことから,本稿では,バスケス ‑ バルケロなどの考え方を,内生 的成長論および内発的発展論と区別して,内発的発展アプローチと呼称す ることにする。そして,地域を土台とする視点から,投資と収穫逓増を導 く社会・経済システムを考察することにする。
そこで,まず,表1のように,内発的発展アプローチの地方発展政策
(local development policy)を確認するため,伝統的(新古典派)な地域発展
政策(regional development policy)と比較しておこう。
伝統的な地域発展政策は,企業を特定区域(大都市)に誘導する供給サ イド重視政策を採っていた。投資と経済成長を,直接,結び付ける目的か
14) Vázquez-Barquero, A. (2010), pp. 54‑79.
表1 伝統的な地域発展政策と内発的発展アプローチの地域発展政策 伝統的な地域発展政策 内発的発展アプローチの
地方発展政策
主な戦略 ・機能重視
・集中的発展
・地域重視
・多極的発展
目的 ・量的成長
・大プロジェクト
・技術革新の普及
・制度の変化
・多数プロジェクト メカニズム ・資本と労働の移動
・所得の再配分機能
・地方資源の活用
組織 ・中央政府の管理
・企業への公的融資
・管理上の協業
・地方政府の管理
・企業へのサービス提供
・仲介者を通じた管理
・プレーヤーの協業 出所 : Vázquez-Barquero, A. (2010), p. 74より抜粋。
ら重要な産業プロジェクトに投資を集中させたが,その背景に生産要素が 移動することで所得分配,雇用,貧困それに地域格差に好影響を与えると の考え方があった。そのため,必要条件を満たす企業に対して,直接的な サポートを含め,サプライサイド重視の管理政策を実施した。
対照的に,内発的発展アプローチの政策は市民と企業のニーズの需要の 充足を重視する。すなわち,経済成長は多様な地域で生じるはずであると して,大都市に企業を誘致する戦略を採らない。そこで,コミュニティビ ジネスを含め,多様な規模の企業が重要な役割を果たすことになる。その 際,地方の歴史,技術的・制度的な特徴が成長過程に及ぼす影響を重ん じ,また投資とその配置に関する意思決定過程への市民の参加を通じた市 民による地域変革の能力を活用する政策が採られることになる。その結 果,地域の自立的発展が,長期成長経路に従いながら,地域の都市化を実 現することになる。
3.コミュニティビジネス活性化のファンド
地域の経済発展の一翼を担うコミュニティビジネスは,当初から営利を 目的として事業をスタートさせる中小企業・マイクロビジネス(零細企業), 農業,ベンチャービジネスなど営利型のビジネスと,医療・介護,教育・
子育て,環境保全事業のように非営利型のソーシャルビジネスによって構 成されている。ただし,ソーシャルビジネスそのものも,営利事業発展型 と非営利資源積極獲得型(組織存続型)の2つのタイプを有している15)。 営利事業発展型のソーシャルビジネスとは,地域資源を活用して高付加 価値の開発を行って販売し,地域コミュニティの形成や雇用創出につなが るようなビジネスのことである。たとえば,地域の文化を学習する企画が
15) ソーシャルビジネスの型は,経済産業省(2011)ウェブページ,4‑7頁に よる。
特色あるものに育つようなケースは,立ち上げ期こそ補助金や助成金を得 るとしても,収益を獲得する事業に発展することになる。
これに対して,非営利資源積極獲得型のソーシャルビジネスは社会的に 不利な立場にある人々にサービスを提供するケースや,受益者を特定でき ない環境問題等に対応するケースを対象とするものである。すなわち,受 益者から直接対価を得ることが難しいので,補助金,助成金,寄付金を獲 得するとともに,有償労働だけでなく,無償労働(ボランティア)等の非 営利資源も活用しながら,事業を継続していくことになる。
しかし,補助金,助成金に頼るよりも,自ら収益を獲得しようとの考え 方が強まる中で,地域の安全防犯活動,環境保全などの業務に携わる非営 利資源積極獲得型のソーシャル・ビジネスも,少なくとも組織を維持する だけの収入の獲得を目指すようになっている。たとえば,医療・介護が高 齢者など地域の人々の積極的な協力を得て運営されるような場合に,その 可能性は高まる。さらに,医療を兼ねた観光事業であれば,組織の維持費 を超えた利益を獲得する可能性が生じる。
本稿がコミュニティビジネスの営利性を重視するのも,内発的発展アプ ローチの視点から,発展可能性に期待しているからである。地域の制度と 社会組織の変化が及ぼしていくプロセスそのものが成長に他ならないと考 えると,地域のプレーヤーが政策立案,遂行において重要な役割を果たす 内発的発展はボトムアップ型発展と言える。すなわち,事業経営者が,自 主的に収益と投資意欲を高めまた技術革新を行うことによって,市場での 競争力を形成していく。その結果,イノベーションの普及を通じて経済効 率を高め,規模に関する収穫逓増的な効果を得ることを可能にする。
需要サイドにおいても増加が予想される。たとえば,高齢化社会が介護 事業の需要をますます拡大しようとしている。しかも,介護者のアイデア の集積やロボット事業などとの連携が快適な介護方法を開発し,新しい需
要を生み出していくので,事業の拡大が生産コストを高騰させるとは思わ れない。すなわち,収穫逓減現象を生じさせることなく,地域を基盤とす る事業の確率,さらに地域と地域を結ぶ形での介護事業の海外進出の可能 性も秘めていることに着目できよう。
この状況の中で,コミュニティビジネスの投資,資金調達が円滑なのか 否かが問われるが,公から民,民の中では市民自身の出資の比重が高まり つつある。ここでは,中央政府を軸とする民間金融機関との協業ファンド と市民参加型のファンドを検討する。
⑴ 民間金融機関と協業する政府主導型ファンド
官民ファンドが地域活性化の呼び水的な役割を果たすものと思われる。
監督官庁,設置年月,出融資額(政府と民間)を示す表2のように,2017 年3月末時点で,14種類の官民ファンドが設立されている。このうち,地 域活性化に特に大きな影響を与えると思われるのが,地域経済活性化機構
(REVIC)とそのファンドである16)。
REVICは,地域経済の低迷を打開するために2009年10月に設立されて
いた企業再生支援機構が2013年に改組された機構である。しかし,長引く 低迷に対処,活性化する目的から,①事業再生が必要な地域の中小企業 等への支援業務,②無限責任組合員を対象として地域活性化・事業再生 ファンドへの出資および業務施行を行うGP出資と,有限組合員を対象と して地域活性化・事業再生ファンドに出資するLP出資業務,③経営者保 証が付された貸付債権等の買い取り,経営者の保証債務を「経営者保障に 関するガイドライン」に沿った経営者の再チャレンジを支援する個人保証 付債権の買取業務,④金融機関や機構が関与する地域活性化・事業再生
16) 官民ファンドの活用状況については,官民ファンドの活用推進に関する関 係閣僚会議幹事会(2017),1‑14頁を参照。
表2 官民ファンド(2016年度末) 名 称監督官庁設置年月出融資額 政 府民 間 (株)産業革新機構経済産業省2009年7月財政出資:2,860億円140億円 (独)中小企業基盤整備機構経済産業省2004年7月一般会計出資:157億円─ (株)地域経済活性化支援機構内閣府 金融庁 総務省 財務省 経済産業省
2013年3月160億円 財政出資:130億円 一般会計出資:30億円101億円 (株)農林漁業成長産業化支援機構農林水産省2013年1月財投出資:300億円19億円 民間資金等活用事業推進機構内閣府2013年10月財政出資:100億円100億円 官民イノベーションプログラム (東北大学,東京大学,京都大学および大阪 大学)
文部科学省東北大:2015年2月 東京大:2016年1月 京大:2014年12月 阪大:2014年12月 一般会計出資:1,000億円 (東北大125億円,東大417億円, 京大292億円,阪大166億円)
─ (株)海外需要開拓支援機構経済産業省2013年11月財投出資:586億円107億円 耐震・環境不動産形成促進事業 ((一社)環境不動産普及促進機構)国土交通省 環境省2013年3月一般会計補助:300億円─ 競争力強化ファンド ((株)日本政策投資銀行)財務省2013年3月財投貸付:790億円500億円(日本政策投資 銀行の自己資金) 特定投資業務 (日本政策投資銀行)財務省2015年6月財政出資:1,150億円1,150億円(日本政策投 資銀行の自己資金) 海外交通・都市開発事業支援機構国土交通省2014年10月財投出資:190億円59億円 国立研究開発法人科学技術振興機構文部科学省2014年4月一般会計出資:25億円─ 海外通信・放送・郵便事業支援機構総務省2015年11月財投出資:50億円24億円 地域低酸素投資促進ファンド事業 ((一社)グリーンファイナンス推進機構)
環境省2013年6月エネルギー対策特別会計補助: 145億円
─ 出所: 内閣官房官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議幹事会(2017)ウェブページより抜粋。
ファンドの支援能力の向上,それにこれらの金融機関やファンドの支援先 である事業者の経営改善等のために,機構の専門家を派遣する業務を行っ ている17)。
しかし,基本的なスタンスは地域金融機関の地域活性化への取り組みを 支援することにあり,時限的な措置としての色彩が強い。すなわち,地元 企業のライフステージに合わせたソリューションを提供するために行う事 業性評価をサポートする目的の下で,ファンドを設立,運営,事業再生サ ポートを行う。同時に,地域金融機関の地域活性化への取り組みが持続的 に実施されるようにノウハウを移転することに主眼を置いている。
実際,REVICのファンドは,内閣府,金融庁,総務省,財務省,経済
産業省の監督下,一般会計30億円,財政出資130億円,民間出資101億円の 構成になっているが,2016年末時点の支援決定金額は866億円と,2015年 末の735億円に比べて131億円増加している。投資先は,観光,ヘルスケ ア,地域中核企業支援,ベンチャー成長企業が主な分野になっている。
2017年9月時点で公表されている観光分野のファンドには,NOTEリ ノ ベ ー シ ョ ン を 支 援 対 象 事 業 者 と し た 観 光 活 性 化 マ ザ ー フ ァ ン ド,
WAKUWAKUやまのうちを支援対象者としたALL信州観光活性化ファン
ド,有田まちづくり公社・STUDIO JIKIを対象者にした佐賀観光活性化 ファンド,R.projectを支援対象者にした広域ちば地域活性化ファンドが ある。へルス分野では,よどきり医療と介護のまちづくりを対象とした地 域ヘルスケア産業支援ファンドと,楓の風を支援対象とした地域ヘルスケ ア産業支援ファンドがある。地域中核企業支援分野では,メイコーを支援 対象にした中核企業活性化ファンドがある。さらに,ベンチャー・成長企 業分野においては,五島軒を支援対象にした青函活性化ファンド,飛騨海
17) 科学技術振興機構(2017)ウェブページ,4‑6頁。
洋科学研究所を支援対象にした飛騨・高山さるぼぼ結ファンドがある。
REVICの支援事例集によれば,これらのプロジェクトは,いずれも,
民 間 金 融 機 関 と の 協 業 に よ っ て 遂 行 さ れ て い る。 た と え ば,「SNOW
MONKEY」として知られた湯田中・渋温泉郷や志賀高原を有する山ノ内
町を支援するALL信州観光活性化ファンドは,2015年3月に設立された 12億円,存続期間7年のファンドである。設立の背景になったのは,山ノ 内町が空き店舗等の発生,寂れた街並み,地域の担い手の不足,地域連携 の不足に悩んでいたことである。そこで,八十二銀行が,町出身の若手に よって運営されている観光まちづくり会社「㈱WAKUWAKUやまのうち」
の支援に乗り出し,REVICとの合意の下,また長野県内に本店を置く多 くの金融機関の賛同,出資を得て,ファンドを設立することになった。
このファンドには,GPとして八十二キャピタルとREVICキャピタル が,またLPとして八十二銀行,長野銀行,長野県信用農業協同組合連合 会,長野県信用組合,松本信用金庫,諏訪信用金庫,飯田信用金庫,上田 信用金庫,アルプス中央信用金庫,REVICが参加している18)。
そのねらいは,①八十二銀行が育成したまちづくり会社(DMO)を支 援しながら,個人観光客に焦点を当てた独自のプロジェクト等を通じて,
地域経済の活性化に貢献することにある。すなわち,山ノ内町のブランド 化,プロモーションといった発信・集客,連絡バスの運行など交通手段の 整備,宿泊飲食のような滞在環境の整備を行う。②まちづくり会社を起 点に,行政・地元事業者・住民の間で積極的に意見交換を行うまちづくり 委員会を組成するなど,地域金融機関が面的活性化を主導する地域活性化 モデルを構築することにある。すなわち,REVICの専門家から経営や観 光のノウハウを習得,また八十二銀行からの人材支援,さらに若手を役員
18) 地域活性化支援機構(2017)ウェブページ,2‑12頁および,まち・ひと・
しごと創生本部事務局(2015)ウェブページ,31‑32頁。
に登用するなど,民間企業や地元事業者などとの連携を促進することにあ る。
金融機関とりわけ地域金融機関の連携は,政府系金融機関だけでなく,
地方公共団体との間で,以下のような分野で浸透しつつある19)。
①金融機関の地域経済・産業に関するデータや分析等の共有,②金融 機関と共同で地方版総合戦略の前提となる地域経済・産業分析,③総合 戦略推進組織への地域金融機関の参加,④事務ベースでの地方版総合戦 略の検討に関する協議,⑤ KPI(重要業績評価指標)の策定や見直しに関す る金融機関のノウハウ活用,⑥地方創生に関する事業のサービスや経営 等の改善について金融機関ノウハウ活用,⑦特定の分野に関する広域に わたる地方公共団体の連携についての金融機関の連携やネットワークの活 用,⑧金融機関の投融資の連携,⑨埋もれている地域資源のブランド化,
販路開拓等についての金融機関のノウハウやネットワークの活用,⑩ロ ーカル10,000;プロジェクト(雇用吸収力の大きい地域密着型企業を10,000事業 程度立ち上げるプロジェクト)等操業における金融機関との連携,⑪「ふる さと投資」スキームの運用における地域金融機関との連携,⑫地域中小 企業の経営改善や事業再生支援における金融機関との連携,地域で活躍す る人材確保のための金融機関のネットワークの活用,⑬円滑な事業承継 における金融機関との連携が見られる。
連携の目的は,①地域産業の競争力強化などを通じて,地方での雇用 を確保すること,②地方拠点機能強化や地方移住を推進することによっ て,新しい人の流れを形成すること,③若者の正社員雇用拡大,結婚・
出産・子育て支援,ワーク・ライフ・バランスを実現させることで,夢の ある地域社会にすること。④中山間地域等における「小さな拠点」作り
19) 内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局(2015)ウェブページ,2 頁。
を通じて,新しいコミュニティを構築することを主眼としている。
これらの目的にとって不可欠な資金は,地域金融機関が運転資金(短期 資金)を融資する一方,設備資金(長期資金)は,REVICと地域金融機関 が出資する地域活性化ファンド,また地域金融機関の融資という直接,間 接金融手段が使われている。
⑵ 市民参加型ファンド
さらに,市民参加型のファンドへの期待が高まっている。市民参加型フ ァンドも,地方自治体を主役とするものとNPOなど民間団体が仲介する ファンドがあるが,後者のファンドが特に注目されつつある。
1) 地方自治体主役の資金チャンネル
地方自治体によって仲介されるファンドは,表3のような推移を示して いる。2015年度の地方債残高145兆5,999億7,300億円は,市場公募債46兆 391億円,市中銀行37兆2,408億円,財政資金33兆3,337億円の構成になって いる。2005年度,2010年度に比べ残高が増加しただけでなく,構成比率も 変わっている。特に目立つのは,市場公募債が,2005年度の17.6%から
2015年度の31.5%へと大幅に増加したこと,逆に財政資金がこの10年間で
32.0%から22.8%へと大幅に減少したことである。市中銀行は,ほとんど
横ばいのシェアを示している。しかし,市場公募債と市中銀行を合わせた シェアが57%にまで増加していることから,地方自治体の債務の大部分を 民間資金が受け持っていることがわかる。
市場公募債そのものは,個別発行債,共同発行債,住民公募債(住民参 加型市場公募地方債)それに外国債などによって構成されているが,増加率 は年平均6.5%であった。このうち,個別発行債は大規模な資金調達を目 的として,1952年度から1972年度までは東京都など3つの道府県・5指定 都市の8団体によって発行されていた。その後,発行団体が増加した結
果,2015年時点で,地方債の23%,市場公募債の72%を占めるまでにシェ アが拡大した。年平均増加率は,5.0%であった20)。
20) 中でも,個別発行債10年物のシェアが顕著である。表3の個別発行債は,
10年債,5年債,20年債,30年債,15年債を合計した数字であるが,個別発 行債10年物のシェアが圧倒的に大きく,2015年度の個別発行債の60%,市場 公募債の43%,地方債全体の14%を占めるほどに増加している。
表3 地方債残高
(単位:百万円・%)
2005年度 2010年度 2015年度
郵政資金 44,759,661(32.0)36,633,115(25.8)33,333,659(22.8) 郵政公社資金
(旧郵政公社資金)15,877,931(11.3) 9,683,038( 6.8) 4,642,594( 3.2) 地方公共団体機構
資金 ── 7,897,868( 5.6)10,965,606( 7.5) うち旧公営企業
金融公庫 8,107,312( 5.8) 5,515,549( 3.9) 1,316,291( 0.9) 国の予算貸付・
政府関係貸付 701,154( 0.5) 1,232,278( 0.9) 2,824,177( 1.9) ゆうちょ銀行 ── 248,011( 0.2) 404,855( 0.3) 市中銀行 36,177,275(25.9)35,714,332(25.1)37,240,833(25.5) その他金融機関 6,923,901( 4.9) 9,133,822( 6.4) 8,984,821( 6.2) 市場公募債 24,581,011(17.6)38,957,601(27.4)46,039,135(31.5) うち個別発行債 20,407,345(14.6)28,769,974(20.4)33,151,534(22.7) 共同発行債 3,070,332( 2.2) 8,573,480( 6.0)11,185,644( 7.7) 住民公募債 1,025,906( 0.7) 1,220,993( 0.9) 844,423( 0.6) その他市場
公募債 77,429( 0.1) 393,154( 0.1) 857,534( 0.6) その他 3,502,104( 2.5) 4,060,545( 2.9) 3,071,779( 2.1) 合 計 139,929,621
(100.0)
142,080,321
(100.0)
145,999,573
(100.0) (注) 括弧内の数字は構成比(%)。
出所:総務省編『地方財政白書』より抜粋,作成。
共同発行債は2003年4月に新しく発行され始めたが,いくつかの市町村 が共同して発行するため,小型な公募債である住民公募債に比べ相対的に 大型である。民間資金からの資金調達を有利に行うことを目的としなが ら,ペイオフ対策としても急拡大した結果,年平均13.8%の増加率を示し た。
住民公募債は2002年3月から発行されているが,地方債の個人消化およ び資金調達手段の多様化と住民の行政への参加意識の高揚を目的としてい る。最近の事例では,2016年9月,能登・加賀・金沢の各地域での魅力づ くり,国内誘客に向けたプロモーション活動,海外誘客の促進などへの取 り組みを目的として,応募者利回り0.15%,5年満期,50億円分の「ホッ ト石川観光応援債」を発行している。同年10月には,名古屋市が,地震・
防災対策など安心や安全にかかわる施策等を目的として,応募者利回り
0.08%,5年満期,20億円分の「なごやか市民債」を発行している。続い
て,2017年3月に,老松小学校プール・調理場建設事業,下津井東小学校 屋内運動場屋根改修事業,東陽中学校屋内運動場屋根改修事業,公園整備 事業を目的として,応募者利回り0.15%,5年満期,100億円分の「倉敷 よい子いっぱい債」を発行している。
しかし,住民公募債は,共同発行債および個別発行債と反対に,2006年 以降,伸び悩んでいる。その背景に,①金融商品としての魅力が乏しく なったことを挙げることができる。すなわち,個人向け国債と比べた金利 の優位性が低下していること,加えて,2016年のマイナス金利導入後の影 響を受け,上乗せ金利の設定が難しくなったことがある。その改善策とし て,地域で利用可能な施設利用券など金利以外の特典付与が考えられる。
②購入者(個人,企業)が域内所在者に限られていることも伸び悩みの一 因と思われるので,共同債として,いくつかの市町村が連携することでロ ットの拡張とともに保証力を高めることも考えられる。
2) 市民主役の資金チャンネル
市民主役のファンドが主な対象とする小規模事業は収穫逓増の可能性を 秘めているものの,実際には資金調達は厳しい。資金供給者サイドから見 て,企業の情報が得られにくく審査にコストがかさむこと,加えて借り手 の担保が少ないことが,その背景になっている。そこで,クレジット・ス コアリングモデルの適用,担保の設定・補助的な金利設定,法的・規制イ ンフラの強化など,市場の不完全性を緩和する政府の施策をとられてき た。しかし,貸出金の焦げ付きの発生など,コストがかさむことになっ た。
それだけに,地域を基盤としながら,住民や企業が直接的,自立的に参 加する資金チャネルの構築が重視されることになる。それを代表するコミ ュニティファンドには,間接金融型の融資・出資と,直接金融型の投資の 2つのタイプの資金チャンネルが存在している。
第1に,間接金融型の融資・出資は,信用金庫,信用組合,農業協同組 合などの地域を基盤とする協同組織金融機関と,NPO・NPOバンクによ って仲介される。まず,協同組織金融機関は,事業資金不足,人口減少,
企業間ネットワーク不足などの地域特有な課題克服に貢献している。たと えば,資金不足を緩和する手段として,新庄信用金庫の場合,バイオマス の活用に不可欠な生物資源の循環利用を支える諸機関の支援,地域の農業 者,中小企業,住民,大学などの仲介や行政機関への申請支援,さらに的 確な審査とスムーズな決済を可能にするなど地域金融機関の特性を活かし た資金面の支援を行っている21)。
次に,特に小規模事業の資金調達に貢献しているNPO・NPOバンクの 事例を挙げることができる。NPO自身は,資金を集めることが認められ
21) 中小企業金融公庫総合研究所(2008),45‑48頁。
ていないので,業容拡大に伴って増加するコミュニティビジネスの資金調 達に応えることができない。そこで,NPOバンクが仲介役を務めること になる。NPOバンクが最初に設立されたのは1994年の未来バンク事業組 合であったが,環境グッズ購入,NPO,エコロジー住宅等を融資対象と していた。その後,2003年にワーカーズコレクティブ,NPO,市民事業 者等を融資対象とする東京コミュニティパワーバンク,2005年には豊かな 未来を実感できる地域社会をつくる事業を対象とするコミュニティ・ユー ス・バンクmonoなどが設立された。
これらのうち,コミュニティ・ユース・バンクmonoは,愛知・岐阜・
三重の20〜30歳代が中心になって,働く場所と生活資源を地域で生み出し 続ける循環社会の構築を目指している。そのため,若者の育成と,市民の 出資金を地域で循環させる地域金融の構築に取り組んでいる。すなわち,
メーリングリストやニュースレターの送付など日常のコミュニケーション を密にする環境の下で,融資の際には組織面・事業面・財務面の評価を面 談も加えた慎重な審査を行っている。monoの規模は,2009年4月時点で,
出資金3,425万円,融資累計2,200万円,出資残高1,784万円の規模であった が,その特徴は単に資金の決済に留まらず,出資者と借り手をつなげる仕 組みを作ることが求められる22)。
しかし,monoの審査は手間がかかる。また,運営担当者数も限られて いる。本来であれば,情報収集,審査,モニタリングは協同組織金融機関 など地域密着型金融機関が得意とする分野であろうが,コストと収益を重 んじなければならない既存の金融機関では実施が難しい。そこで,NPO バンクが有する地域の人々とのコミュニケーションを密に行うチャンネル と,地域密着型金融機関が有する資金力や管理能力との協業が重視される
22) 馬場英明・木村真樹・荻江大輔・中山学・三村総(2009)ウェブページ,
93‑103頁。
ことになる。
第2に,直接金融型のコミュニティファンドは,地方自治体や民間企業 を通して,市民,企業,団体の寄付金を地域の社会活動を行う市民活動団 体に支出するものである。
相模原市の市民ファンドである「ゆめの芽」23)は,市民の自主的な活動 として2005年に設立された市民・行政協働型ファンドである。設立目的 は,①市民が,寄付という形で,地域に密着した社会貢献に参加する機 会を提供すること,②資金が必要な市民活動団体に対して市民全体での 支援を可能にすること,③参加する市民が地域の課題に気付き,自ら解 決する意識を芽生えさせること,④企業の具体的な社会貢献を実践させ ること,⑤公開プレゼン・報告会・広報誌を通じて市民活動の広報をす ることによって,コミュニティの活性化,市民が市民を支える自立したま ちづくりをすることにあった。
なお,まちづくりを推進するため,自治会,NPO,大学,企業,団体,
市等の協業を重視して,市民協働推進基本計画(2014年度〜2119年度)を策 定している24)。すなわち,協業を推進する方針の下,①情報の収集および 発信,②学習機会の提供,③財政支援,④拠点となる「場」の提供,
⑤事業機会の提供,⑥地域の特色の活用,これらのことを実践しようと している。
同様に,2001年設立のミュージックセキュリティーズ株式会社は,音楽 事業とともにインパクト投資プラットフォーム(セキュリティ)運営業務,
ファンド組成業務,ファンド販売業務の証券化事業を行っている。ファン ドは,一口金額32,400円,募集金額14,700,000円の「ベル商品開発成長フ ァンド 第3次募集」,一口金額21,600円,募集金額3,140,000円の「神戸
23) 相模原市(2017)ウェブページ,4‑52頁。
24) ミュージックセキュリティーズ(2017)ホームページ。
ヘルシー豆乳ヨーグルトファンド」,それに被災地応援ファンドとして半 額を寄付に当てる一口10,800円,募集金額31,500,000円の「通潤酒造 新 しい物語ファンド」など,さまざまなファンドが設定されている。これら のファンドは償還が長いことから,事業者にとって有利な資金調達にな る。
4.むすび──若干の提案
コミュニティビジネスに秘められた収穫逓増に期待を寄せ,その資金調 達の可能性を考察するのが,本稿の目的であった。しかし,新古典派に代 表される伝統的な経済学は,収穫逓増の考え方に否定的であった。新古典 派モデルに批判ないし修正を加えてきたのが,新ケインズ派,内生的成長 論,内発的発展論の諸主張である。筆者は,日常生活をともに営むコミュ ニティにおいてこそ,技術革新が生じやすく,収穫逓増が実現するものと 考えている。そのため,不十分ながら,絶えざる技術の革新を説く新ケイ ンズ派,知識の蓄積と内生的な技術革新を説く内生的成長論を展望してみ た。
新ケインズ派も内生的成長論も消費者,企業,金融機関,政府の行動に 着目するが,特に地域・地方サイドの視点においてではない。その意味 で,内発的発展論が参考になる。しかし,地域・地方・コミュニティを重 視する内発的発展論は特に金融面の分析を行っているわけではない。そこ で,思い切って,内発的発展アプローチと称する考え方を提案して,市 民・住民を主役とするコミュニティビジネスの資金調達を論じたつもりで ある。
実際,REVIC,民間金融機関,NPO・NPOバンク,企業,市民団体,
個人間の協業が進展していることは否定し難い。加えて,「公」から「民」
への流れに沿って,「公」の中では地方自治体が,「民」の中ではNPO,
市民・住民の比重が高まりつつあることも事実である。
しかし,それにもかかわらず,地方創生が成功したとは言えない状況に ある。今後,自立した市民の参加,コミュニティ形成の条件に関して,若 干の提案を行っておきたい。
第1に,コミュニティの活性化にとって,税制改革が必要と思われる。
たとえば,医療・介護のようなソーシャルビジネスが,観光産業と結びつ くことによって将来の収益を見込めそうな場合,住民公募債やコミュニテ ィファンドを活用することもできる。しかし,特にスタート時点において 資金が不足する場合には寄付金に頼らざるを得ない。そのためには,社会 的投資減税制度の拡充が有効な手段になりそうである。
第2に,コミュニティファンド仲介業者の支援が望まれる。社会的利益 が高いものの私的利益が低いビジネスの資金調達にとって,コミュニティ ファンドは重要な役割を果たす。ところが,NPOバンクは出資金を集め ることはできるが,配当が認められていないため自らの出資ができないと いう制約を受けている。そこで,法人格を認可することによって,出資を 増やす方法が効果的と思われる。
同様に,たとえば,コミュニティファンドを仲介するミュージックセキ ュリティーズ株式会社の場合,第二種金融商品取引業者として扱われてい るが,これらの仲介業者と貸金業者との法律上の峻別が望まれる。
第3に,高齢世帯の貯蓄と投資を高める環境作りが重要と思われる。た だし,同じ高齢世帯でも,高貯蓄層と低貯蓄層の格差が大きい。そこで,
コミュニティビジネス活性化によって低貯蓄高齢層の雇用を拡大すること が重要になる。他方,私募債や社会的インパクト投資など,高貯蓄高齢世 帯の投資を惹きつける金融商品の開発が望まれる。
第4に,貯蓄者,投資家保護体制の強化が不可欠になる。規制の型は資 金供給者によって異なる。コミュニティ間の資金を利用する場合は,自主
規制が望ましい。しかし,コミュニティ以外の第3者の資金を活用する場 合には,政府のプルーデンス規制と情報規制が重要と思われる。
参 考 文 献
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