偶標数素数次拡大体上の楕円曲線に基づく P 1 上の (2, ..., 2) 型被覆の構成法に関する研究
Construstion of (2, ..., 2) covering over P 1 from elliptic curves over prime degree extension fields of even characteristic
情報工学専攻
15N8100016C
森下 拓也1
概要GHS
攻撃は有限体k
の拡大体k d
上定義され る曲線C 0 /k d
のヤコビアン離散対数問題を, C 0
のk
上定義される被覆曲線C/k
のヤコビアン離 散対数問題に変換する攻撃手法として知られてい る. GHS
攻撃に関する2
つの重要な課題として,
被覆曲線C/k
を持つ脆弱な曲線C 0 /k d
を分類す る手法の提案と, C/k
を明示的に構築することが 挙げられる.
奇標数体において,
系統的なC 0
の 分類手法が提案されており[2],
特定の場合に関し てC
が構成されている[4].
一方で,
偶標数体上に おいてはどちらの課題も解消されていない.
本論 文では,
偶標数体上で特定のinvolution
写像の商 となる脆弱な曲線を明示的に得る手法を示す.
こ のとき,
同時に被覆曲線C/k
も導出できる.
我々 はelliptic involution
を用いて偶標数2
次拡大体 上の楕円曲線C 0
を導出する方法を示し,
明示的 に被覆曲線C/k
を求めた.
2
楕円曲線について2.1
楕円・超楕円曲線の定義標数
p
の体F q (q
はp
のべき乗)
上に定義され る楕円曲線とは,
以下の形の式で与えられる代数 曲線のことをいい, E/ F q
と書く.
E :y 2 + a 1 xy + a 3 y = x 3 + a 2 x 2 + a 4 x + a 6 , (1) a i ∈ F q
E
は非特異な曲線であるものとする.
E( F q ) := { (x, y) ∈ E | x, y ∈ F q } ∪ { P ∞ }
で定義される点集合E( F q )
をE
のF q
有理点群と いう.
ここで, P ∈ E(¯ F q )
において, [p r ]P = P ∞
となる点の集合E[p r ]
を考えると,
任意の正整数r ≥ 1
についてE[p r ] = { P ∞ }
となるとき, E
がsupersingular
であるといい, supersingular
で ないときE
をordinary
という.
標数2
の有限 体F q
において, a 1 = 0, a 3 ̸ = 0
となるときE
はsupersingular
である.
また, a 1 ̸ = 0
となるときE
はordinary
となる.
C : y 2 + h(x)y = f(x), h, f ∈ F q [x], deg(f ) = 2g + 1 or 2g + 2, deg(h) ≥ g, f
はモニック多項式で表される曲線を
, F q
上定義される種数g
の超楕 円曲線という.
式の定義から,
楕円曲線は種数1
の超楕円曲線となっていることが分かる.
ここで,
超楕円曲線上の点P = (x, y)
としたとき,
逆元− P
は以下の形で与えられる写像hyperelliptic involution
ι C :
{ x 7→ x y 7→ y + h(x)
により
− P = ( − x, − y − h(x))
として与えられる. 2.2
楕円曲線暗号の安全性E( F q )
上の大きな位数を持つ点P
を生成元と して固定する.
「Q ∈ E( F q ), Q = [m]P
となるQ
が与えられたとき, m
の値を求めよ.
」という 問題を楕円曲線離散対数問題(ECDLP)
という.
ECDLP
を安全性の根拠としている暗号方式を楕円曲線暗号という
.
離散対数問題に基づく暗号方 式では安全性を保証するために2048bit
以上の鍵 長の利用を推奨されている.
楕円曲線暗号は安全 性を保証するために224bit
以上の鍵長が推奨さ れており,
鍵長を短くできるというメリットを楕 円曲線暗号は持っている.
3
被覆攻撃と(2, · · · , 2)
型被覆k d /k
上 の フ ロ ベ ニ ウ ス 自 己 同 型 写 像σ k
d/k
と, σ k
d/k
をk d (C 0 )
の 分 離 閉 包 へ 拡 張 し た 位 数d
のσ
を 考 え る.
そ の よ う なσ
の 下 で, k d (C 0 )/k(x)
のガロア閉包F := k d (C 0 ) ·
σ(k d (C 0 )) · · · σ d − 1 (k d (C 0 ))
とσ
による固定体F ′ := { ζ ∈ F| σ(ζ) = ζ } ≃ k(C)
を 考 える こ と が で き る
.
最 初 のGHS
攻 撃 は,
偶 標 数 の 拡 大 体 上 定 義 さ れ る 楕 円 曲 線C 0 /k d
に 対 し て, conorm-norm
準 同 型 写 像 を 用 い てCl 0 (k d (C 0 )) ∼ = J (C 0 )(k d )
上の離散対数問題をCl 0 ( F ) ∼ = J (C)(k)
上の離散対数問題へと変換す る攻撃であった.
この攻撃は様々な曲線に拡張さ れ, Frey
とDiem
によって被覆攻撃として一般化 されている[1].
この攻撃では,
代数曲線C/k
と 被覆写像π/k d : C → C 0
が存在するとき,
以下 のpullback-norm
写像によりJ (C 0 )(k d )
の離散対数問を
J (C)(k)
上の離散対数問題へと変換を行う
.
J (C)(k d )
N
J (C 0 )(k d )
π
∗oo
N ◦ π
∗xxqqq qqq qqq q
J (C)(k)
本研究では
(1)
の式の形で与えられる偶標数の拡 大体k d
上の楕円曲線E
を扱う.
このとき, E
は 以下の2
次被覆写像を持つ.
E → P 1
∈ ∈
(x, y) 7→ x
ここで
,
被覆π/k d : C → P 1
が存在し, P 1
上のz }| { n
(2, · · · , 2)
型被覆となるC/k
を考える.
ここで, P 1
上z }| { n
(2, · · · , 2)
型被覆とは,
以下のような被覆写 像π/k d : C → P 1
をいう.
z }| {
n(2, · · · , 2)
z }| {
C → C 0 → P 1 (x)
| {z }
2
ここで
,
被覆群は以下のようになっている.
cov(C/ P 1 ) := Gal(k d (C)/k d (x)) ≃ F n 2
これは
,
関数体として考えると, (2, · · · , 2)
型の拡 大体k d (x, y, σ y, · · · , σ
n−1y ) ≃ k d (C)1 < n ≤ d
を持つことに対応させられる.
4
偶標数素数次拡大体上の曲線の被覆奇標数体において
,
曲線の分岐点を利用した(2, · · · , 2)
型被覆曲線を持つ拡大体上の楕円・超 楕円曲線の系統的な分類方法が与えられている[2].
一方で,
偶標数体に関しては分岐の複雑さの 違い等により,
奇標数体上の分類手法をそのまま 適用することは困難とされてきた.
そこで本研究 では, C/k
の自己同型写像であるelliptic involu- tion φ
と楕円曲線のモデルを利用して(2, 2)
型 被覆曲線を持つ偶標数2
次拡大体上の楕円曲線の 分類手順を示した.
また, GHS
攻撃に対する理論 的な安全性を調査するためには被覆曲線の構成が 必要であり,
橋詰ら[4]
の研究などによって奇標 数体上の被覆曲線の構成法について研究が進めら れてきた.
本研究では,
偶標数体上で得られた分 類について,
具体的な被覆を構成した.
4.1
前提条件k = F q
を標数p = 2, q = 2 d
の有限体とす る. k 2 /k
をk
の唯一の2
次拡大, σ : k 2 → k 2
をk 2 /k
のフロベニウス自己同型写像とする. k
上定 義された種数2
の超楕円曲線C/k
が以下の条件 を満たすとする.
次数
2
の被覆π : C → E
が存在し,
J ac(C) ∼ E × σ E, ∃ E : k 2
上定義される楕円曲線 このとき, elliptic involution φ ∈ Aut k (C)
が存 在し, E = C/φ
となる.
以下, φ
を用いて次数2
の被覆を持つC/k
とE/k 2
の条件を求めていく. 4.2
偶標数有限体上楕円曲線の標準形はじめに偶標数有限体
F
上の楕円曲線を以下 の形で与える.
E/F :y 2 + (dx + e)y = x 3 + ax 2 + bx + c, a, b, c, d, e ∈ F
Ordinary, supersingular
の場合のそれぞれの標 準形を,
以下のような楕円曲線の同型変換を用い て求めていく.
{ x 7→ u 2 x + r
y 7→ u 3 y + u 2 sx + t (u, r, s, t) ∈ F ∗ × F 3
4.2.1 Ordinary
の場合E
がordinary
のと き, d ̸ = 0
となる.
このとき,
同型変換によりy 2 + xy = x 3 + ax 2 + (b + ρ)x
という形が導けるため
,
標準形y 2 + xy = x 3 + ax 2 + bx
が得られる.
このとき,
∂
∂y
より, x = 0, ∂
∂x
より, y = x 2 + b
より,
重根をもつb = 0
のときにE
が特異曲線と なるため, b ̸ = 0.
4.2.2 Supersingular
の 場 合E
がsuper- singular
のとき, d = 0. a = ε 2
となるε
をと ると,
標準形y 2 + ey = x 3 + bx + c
が得られる. 4.3 C/k 2
の定義方程式はじめに
, φ
について固定点φ(P) = P
が 唯一であることを用いてE, C
の方程式が満たす 条件を導く.
ここではまず,
拡大体上の超楕円曲 線C/k 2
について考える. C/k 2
について,
以下の 補題が得られる.
補題
1. 2
次の被覆写像C/k 2 → P 1 (k 2 )
につい て, φ
の固定点P
は分岐点となる.
Proof. 2
次の被覆写像ξ/k 2 : C/k 2 → P 1 (k 2 )
と する.
ここで, φ : P 1 (k 2 ) → P 1 (k 2 )
はP 1 (k 2 )
上の射影変換を表している. φ
の固定点をP = (x, y)
とすると, φ(P) = P
よりP 1
上の射影変換 についても同様にφ(x) = x
となる. ξ(P ′ ) = x
となる点P ′ ∈ C
が存在すると仮定する.
このと き,
写像の合成からξ(φ(P ′ )) = x
となることが 分かり, P ′
はφ
の固定点となるため,
固定点が唯 一であることに矛盾する.
したがって, P = P ′
となる.
以下
,
補題1
より, C
の固定点が自明な分岐点P ∞ ,
つまりφ(P ∞ ) = P ∞
となる場合について考 える.
無限遠点
P ∞
を分岐点に持つ超楕円曲線C
の方 程式は以下の形で表される.
C :y 2 + g(x)y = f (x)
= a 1 x 5 + a 2 x 4 + a 3 x 3 + a 4 x 2 + a 5 x + a 6 , deg g(x) ≤ 2
このとき
C
は以下の形で表される自己同型写像elliptic involution φ, hyperelliptic involution ι C
を持つ
.
φ :
{ x 7→ x + λ
y 7→ y + h(x) h(x) = α ′ x 2 + α ′ λx + β ′
ι C :
{ x 7→ x
y 7→ y + g(x) g(x) = αx 2 + αλx + β φ, ι C
より導かれる関係式を整理することで,
以 下のようなE, C
の式が満たす係数の条件が定 まる.
E :y 2 + (αx + β)y = α ′ 2
λ 2 x 3 + (a 1 + αα ′ + α ′ 2 )x 2 (2) +
(
a 1 λ 2 + a 3 + αβ ′ + β ′ 2 λ 2
) x + a 5
C : y 2 + (αx 2 + αλx + β )y = 1
λ (αα ′ + α ′ 2 )x 5 + a 1 x 4 +
{
(αα ′ + α ′ 2 )λ + αβ ′ + α ′ β λ
}
x 3 + a 3 x 2
+ {
a 1 λ 3 + a 3 λ + (αβ ′ + α ′ β)λ + ββ ′ + β ′ 2 λ
} x + a 5
4.4 E/k 2
の導出次に
, C/k, φ/k 2
の場合について考えていく. C
の固定点P
について,
以下の2
通りが考えら れる.
Case.1 : P = P ∞
φ(P) = P
となるとき,
固定点P
はk
上の有 理点(ξ(P ) ∈ k)
となり, k
上の一次分数変換 によりP ∞
へと移すことができる.
Case 2 : ξ(P ) = µ ̸∈ k
以下
, Case 2
の場合について考えていく. µ ̸∈ k
となるP
の内,
以下の一次分数変換によってP 1 (k 2 )
上でP ∞
へと変換して考える.
ν =
( 1 µ ¯ 1 µ
)
ν : P 7→ P ∞
¯
µ
はµ
の共役.
このとき, C/k
の式は以下の形で 表される.
Y 2 + G(X)Y = F (X) degG(X ) ≤ 3, degF (X) ≤ 6
ν
を 用 い てC/k
の 式 の 変 換 を 行 い, E =
C/φ, E/k 2
と な る 曲 線 の 条 件 を 導 き,
さ ら に4.3
で得られた条件とあわせることで,
楕円曲 線E/k 2
が以下の式の形で与えられることが分 かる.
E :y 2 + αxy = α ′ 2 λ 2 x 3
+ (a 1 + αα ′ + α ′ 2 )x 2 + (αα ′ + α ′ 2 )λ 2 x
式の形からE/k 2
はordinary
の場合のみになり, E/k 2
の標準形E/k 2 : y 2 + xy = x 3 + ax 2 + bx (3) a = a 1
α 2 + η + η 2 , b = η 2 (η + η 2 ), η = α ′ α
が得られる.
4.5 E/k 2
がordinary
の場合のC/k
の導出4.4
で得られた条件から, φ
の固定点がk
上で 定義されるのはP = P ∞
の場合となっているこ とが分かる.
このとき, C
の係数はα, β, a i ∈ k
となっている.
従って
, E
をordinary
としたとき4.3
の条件 を考えることで,
以下のC/k
を持つE/k 2
の標準 形が導かれる.
以下のE
の標準形が得られる.
y 2 + xy = x 3 + (
η 2 l + a ′ 1 α 2
) x 2
+ (
η 4 l 2 + a ′ 2 α 2 η 2 + β ′
α η 2 + ϵ α η 2
) x
+ η 2 l 3 + a ′ 1 α 2 l 2 +
( a ′ 2 α 2 + β ′
α + ( β ′ α
) 2 ) l + a 5
α 2 + ( ϵ α
) 2
a ′ 1 = a 1 + α ′ α ¯ ′ , a ′ 2 = a 1 + a 3 l = β
α , η = α ′ α
得られた標準形と前節で求めた標準形との係数比 較を行うことで偶標数
2
次拡大体上で被覆曲線C/k
の定義方程式を得ることができる.
E/k 2 : y 2 + xy = x 3 + bx 2 + cx { η 2 = T r(c) c
l = T r(b)
とおいたとき,
C : y 2 + (x 2 + x + l)y = η ηx ¯ 5 + (b + η η ¯ + η 2 l)x 4 + η ηx ¯ 3 + (b + η η ¯ + η 2 l)x 2 + η ηl ¯ 2 x
+ (bl 2 + T r(c) 2 + l 2 η η ¯ + η 2 l 2 )
E/k 2
とC/k
との対応を以下に示す. { x 7→ η 2 (x 2 + x + l)
y 7→ η 2 (y + ηx 3 + η(l + 1)x + T r(b) + lη)
5
結論本研究では
, Elliptic involution
と楕円曲線のordinary
の標準形を用いて,
偶標数2
次拡大体上 の楕円曲線E/k 2
とその被覆曲線C/k
を構成し,
明示的に被覆を導出する方法を示した.
本手法では
, elliptic involution
を基に楕円曲線 の分類を進めてきたが,
拡大次数や種数の異なる 場合の分類に適用するために, 2
次の被覆となる ような自己同型写像を求める必要がある.
また, supersingular
な楕円曲線に対しても分類を検討 することが今後の課題として挙げられる.
謝辞
本研究を進めるにあたり,適切な御指導
,
御助 言,
御検討を頂いた中央大学理工学部 趙 晋輝 教 授,
東海大学理学部情報数理学科 志村真帆呂准教 授,
光電(
株)
特機部研究員 飯島努氏 に深く感謝 いたします.
並びに,
多くのご指導をくださいま した趙研究室の皆様にも深く感謝申し上げます.
関連発表森 下 拓 也
,
志 村 真 帆 呂,
趙 晋 輝”
偶 標 数 素 数 次 拡 大 体 上 の 楕 円 曲 線 に 基 づ く 射 影 直 線 上 の(2,...,2)
型 被 覆 の 構 成 法 に 関 す る 研 究”, ISEC2017, ISEC, 2017(
予定).
参考文献