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他保険契約の告知・通知義務の再検討

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(1)

他保険契約の告知・通知義務の再検討

その他のタイトル Review of The Obligation to Disclose and Give Notice of Other Insurance Contract

著者 笹本 幸祐

雑誌名 關西大學法學論集

巻 44

号 3

ページ 477‑531

発行年 1994‑09‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/00024642

(2)

2

4 2

│ 3  

他保険契約の告知

2

│ 2  

目 次

1

序 説 1│1

一般的な問題点の提起

1

│ 2

消費者保護の立場と道徳的危険

1

│ 3

本稿の対象および考察の順序

2 他保険契約の告知義務

2

1 約款の規定

他保険契約の存在と道徳的危険

告知義務の対象

告知義務と質問表

他 保 険 契 約 の 告 知

・ 通 知 義 務 の 再 検 討

告知義務者

2̲6

告知義務違反の要件およぴ効果

3 他保険契約の通知義務

3

1 約款の規定

3

│ 2

他保険契約の通知義務の根拠

3

│ 3

通知義務者

3̲4

通知義務違反の要件および効果

4 近時の判例の動向と約款の効力

結論および今後の課題 5 

2̲5 

・通知義務の再検討

0

(3)

第四四巻第三号

保険契約は︑人の経済生活上の危険を分散することにより︑その経済生活を保障する手段として用いられており︑

大数の法則によって支払資金を積み立てるシステムを応用し︑経済合理的に処理されるため︑常に技術的な要素を有

している︒そして︑その保険契約において︑保険契約者はその主たる義務であるとされる保険料支払義務のほかにも︑

契約締結時に要求される告知義務等︑種々の付随的義務を課せられている︒これらの付随的義務は︑

約が射倖契約性および善意契約性を有するということから把握されており︑﹁射倖契約にあたっては︑当事者が問題

の事実の不可測性や偶然性について︑相手方のおかれた不利な地位に不当に乗じたり︑自己のおかれた有利な地位を

不当に利用したりすることによって︑不公正な結果を生ずるような余地をなくする見地から︑特別の法則を設けるこ

( l )  

とが当然に必要とされる﹂といった表現において理解されてきた︒また︑とりわけ告知義務に関しては︑﹁告知義務

制度は本来保険制度が保険者にとって多分に投機的・冒険的な要素の濃厚な形態で行われた当時において︑あるいは

生じやすい当事者の不信・不公正な行為を避けるための制度として発達したものであり︑契約当事者間の衡平ないし

公正の維持の思想こそこの制度の当為論的基礎であったのである︒保険制度の近代化にともない︑告知義務制度の内

容も︑単に契約当事者間の公正の維持というような比較的単純な機能から︑保険者をして多数危険の総合平均化のた

めの危険の選択を可能ならしめる︑というような複雑な機能をになうにいたった︒しかしこの両者の機能は決して互

に無関係なものではなく︑結局は︑保険契約の射倖契約的構造の故に︑あるいは不公正に害されるおそれのある保険 11一般的な問題点の提起

1

二 ︱ °

一般には保険契

(4)

12 解釈によって理解することができるものと思われる︒ 者の地位を保護するという告知義務制度の本来の趣旨が︑その機能面において複雑化し技術化されてきたものと解し

( 2 )  

うる﹂といった文脈において理解されてきた︒このような付随的義務に関しては︑保険契約の射倖契約性ならびに善

( 3 )  

意契約性から理解されるとはいえ︑その義務に違反した場合の法的効果が十分に説明されているとはいえない︒たと

えば右の告知義務については︑その義務違反の場合の効果がなぜ契約解除権と既経過保険料の取得であって︑契約無

( 4 )  

効ではないのかといった問題が提起されている︒このような一般的な問題︑すなわち保険者の主たる義務である保険

金給付義務とは対価関係にたたない付随的義務の違反がなぜ保険者の給付義務に影響を及ぽすのか︑について︑何ら

かの理論的整合性が園られることが保険契約を理解するにあたっての根本的な課題であり︑これを考察するためには

その付属的義務の違反の場合に限らず︑再度付随的義務自体についても検討を加える必要があろう︒

また︑これらの付随的義務については︑保険者によって約款で規定されているのが通常であるが︑わが国の立法に

よってその内容が明定されているものもあれば︑そうでないものもある︒そのため︑ときには保険者が約款で定めた

内容につき︑その適法性ならびに妥当性・合理性についても︑検討を要する問題であると考えられ︑この検討によっ

て︑付随的義務を実務面から捉えなおすことが可能となり︑現代にあってなお発展を続ける保険制度を現実に即した

消費者保護の立場と道徳的危険

先述した付随的義務に関して︑たとえば告知義務については﹁これを信義誠実則の方面から解する限り︑その違反

に対してどのような法的効果を認めるかについては︑この義務履行確保の必要の程度その他いろいろの条件に応じて

(5)

1

3  

付随的義務を理解することが必要とされよう︒

第 四

四 巻

第 一

︳ 一

︵ 四

0 )

( 5 )  

いろいろの立法が考えられうるのは当然である﹂といわれている︒しかしながら︑このような付随的義務を理解する

にあたっては︑立法においては絶対的強行規定および反面的強行規定のみを採り入れ︑約款にすべて任意規定を委ね

るものとするべきか︑それとも任意規定のうち一般的に妥当するものについては︑それも含めて立法がなされるべき

かといった問題も関連してこよう︒まして︑付随的義務は保険者の給付義務に影響を与えるものであり︑その違反の

効果等については慎重に解さなくてはならない︒多数の保険商品が販売されている現代においては︑約款で定められ

ていても保険契約者側からは理解しにくい︑あるいは理解しがたい付随的義務があるかもしれない︒善良な消費者を

保護することが必要なのはいうまでもないことであり︑保険者の恣意によって消費者の利益が侵害されることのない

ように︑最小限度守られるべき消費者の利益を確保するために必要な強行規定を定めることが本来なら要求されるは

ずであるが︑たとえば保険事故招致等のように︑状況証拠があっても立証の決め手に欠けるため保険者が保険金を支

払わざるをえない場合が少なくないという︑保険契約がその構造上悪用されやすい弱点を抱えているのも事実であり︑

( 6 )  

保険者の利益も当然守られなければならない︒保険者が不当な保険金請求がなされるおそれ︑いわゆる道徳的危険に

対しては︑保険約款上の工夫およぴ立法による規制が必要とされる反面︑それによって善良な多数の消費者にしわ寄

せがいくことは好ましいことではない︒したがって︑保険者の利益と消費者の利益との調整を中心とした面からも︑

本稿の対象および考察の順序

本稿においては︑先述の一連の付随的義務に関する諸問題の部分的考察として︑他保険契約の告知・通知義務を採

関法

(6)

りあげる︒わが国における損害保険会社の用いる各種の普通保険約款はほとんど例外なく重複する他の保険契約の存

在を告知あるいは通知またはその両方をなすべきことを被保険者︑保険契約者に要求しており︑更にその違反に対し

( 7 )  

ては当該保険契約を保険者が解除し得ることを認めるなど︑かなり厳格な制裁を課している︒

また︑こういった保険実務上の取扱を反映して︑損害保険契約法改正試案では︑第六三一条の二において他保険契

約の通知義務を︑傷害保険契約法新設試案では︑第六八三条の六において他の傷害保険契約の告知義務を︑保険契約

( 8 )  

者︑被保険者に課している︒しかしながら︑これらの約款の当否︑解釈に関する制限の有無や︑その制限の仕方には

問題があり︑さらにはこの他保険契約の告知・通知義務が主として損害保険契約の分野︑とりわけ火災保険︑自動車

保険︑責任保険︑傷害保険等に限られているために︑果たして生命保険契約にも同旨の約款を設けることが可能かど

そこで本稿においては︑他保険契約の告知・通知義務の性質︑是非を明らかにすることを試みることとする︒本稿

ではまずわが国の他保険契約の告知・通知義務制度の趣旨︑次いでその告知・通知義務者︑そして告知・通知義務違

反の要件および効果等について︑告知義務と通知義務とを分けて検討するが︑わが国においては︑

契約の告知・通知義務について道徳的危険との関連が従前から指摘されているため︑本稿においてもこの点を中心に

考察して︑細かな論点については個々に私見を付すことにする︒以上のような順序でわが国の学説・判例を検討・考

察して︑最後に総括的な結論を述べることにする︒とりわけ他保険契約の通知義務違反の場合については︑保険会社

の用いる各種約款が主観的要件について︑また損害保険契約法改正試案第六三一条の二が何ら直接の制裁規定をおい

ていないため︑判例等にも言及しながら検討し︑その法的効果のあり方を考察することにする︒なお︑本稿において

うかも問題となろう︒

~

一般にこの他保険

(7)

第四四巻第三号

も採りあげる人保険に関する他保険契約の告知・通知義務については︑本稿と時期変わらずして︑別稿にてフランス

( 9 )  

保険法の下での分析をおこなっているため︑その目的とするところは本稿におけるそれと異ならない︒しかしながら︑

そこでも述べているように︑本稿は一般の損害保険にも言及し︑あくまでも日本法上の解釈論論を展開することを中

心としたものであり︑

フランス法における分析を中心としたそれとは若干性格が異なるものである︒また︑本来なら

ば︑本稿における問題点につき︑

フランス法を含めた諸外国の立法等との比較考察・検討も合わせて行ったほうが︑

より説得力を持つものになるとは思われるが︑紙幅の関係上本稿では割愛した︒とりわけフランス法の下での保険契 約一般における重複保険に関する議論については︑さらに近日中に別稿にて論ずる予定である︒

(1

)

大森忠夫﹁保険制度と信義則﹂保険契約法の研究九

‑ 1 0

頁 ︒

(2

)

大森忠夫・保険法[補訂版]一二O

o

同﹁保険契約の善意契約性﹂保険契約の法的構造ニハ九頁以下

o

(3

)

西

(4

)

倉沢康一郎﹁告知義務の法的根拠﹂保険契約の法理二六六頁以下︒

(5) 大森•前掲注 (2) 「保険契約の善意契約性」一九 0

頁。

(6)

保険事故招致と道徳的危険に関する問題を扱ったものとして、中西正明「故意の事故招致と保険者の解約権~特別解約権を中心としてー﹂生命保険文化研究所所報六三号一頁以下︑西島梅治﹁保険犯罪の法律的問題点﹂法律のひろば三八巻

(7

)

火災保険普通保険約款七条︑八条︒住宅総合保険普通保険約款十五条︑十六条︒店舗総合保険普通保険約款十六条︑十七条︒団地保険普通保険約款第二章一般条項二条︑三条︒地震保険普通保険約款八条︑九条︒債権保全火災保険普通保険約款四条︒自家用自動車総合保険普通保険約款第六章一般条項三条︑四条︒長期総合保険普通保険約款m

条︒船舶保険普通保険約款十七条︒貨物海上保険普通保険約款十七条︒傷害保険普通保険約款十条︑十二条︒

(8

)

保険法制研究会・損害保険契約法改正試案︑傷害保険契約法︵新設︶試案理由書昭和五七年版七頁︒また︑傷害保険契約

(8)

2

1  

ながら︑この問題を考えるにあたっては︑

二︱五

考にしたというような記述は見当たらず︑現行の約款の規定を参考にし︑その有効性を検討して立法趣旨を説いている︒前

0

(9)稿

先の損害保険会社が用いるような各種保険約款における他保険契約の告知・通知義務を定めた規定の有効性を判断

するためには︑まず告知義務について︑他保険契約の告知義務が保険契約における通常一般の告知義務と同じもので

あるのかが問題となる︒また︑生命保険契約においては︑他保険契約の告知義務に関する規定がないため︑果たして

それを規定することが可能であるのかどうか︑またそれが妥当であるのかどうかということも検討を要する︒しかし

なわち︑わが国の商法が第六四四条第一項または第六七八条第一項において告知事項として﹁重要ナル実事﹂ないし

﹁重要ナル事項﹂︵以下重要な事実ということにする︶とだけ掲げておいてその具体的な内容に言及していないため︑

その重要な事実に他保険契約の存在が含まれるのか否かを検討しなければならない︒以下実際に用いられている約款

の規定の内容を分析しながら商法の規定との関連について考察し︑それを明らかにしてみよう︒

約款の規定

他保険契約の告知・通知義務の再検討

一般の告知義務の対象に他保険契約の存在が含まれることになるのか︑す

(9)

第四四巻第三号

︵ 四

八 四

一般的に保険者は︑商法第六四四条および六四五条または六七八条に則した規定をそれぞれの約款に定めており︑

とりわけ損害保険会社の用いる各種約款における告知義務に関する条項においては他保険契約の告知義務について記

載された文言が見受けられる︒これらの告知義務違反に対しては︑保険者は保険金を支払わない旨が定められており︑

それに加えて当該保険契約の解除権をも有すると定められている︒したがって︑これらの諸規定の違反によって︑保

険者が受けた不利益の軽重にかかわらず︑保険者の全額給付免責という保険契約者側にとっての不利益を保険契約者

側に負担させており︑他保険契約の告知義務についても一般の告知義務と同様に強行的に規定されているものとする

ならば︑保険契約者側にとって不利な規定であるとも考えられる︒以下に財産保険として代表的な火災保険において

用いられている約款の告知義務に関する規定︑そして人保険として代表的な生命保険において用いられている約款の

特約はそれ自体独立して締結されることはない︒この特約のうち入院特約については約款に規定はないが登録制度が

( 1 0 )  

実施されていることが注目される︒

( 1 1 )  

火災保険普通保険約款

一般に生命保険契約は主契約とそれに付加される特約とに分類されるが︑

保険契約締結の当時︑保険契約者またはその代理人が︑故意または重大な過失によって︑保険契約申込

書の記載事項について︑当会社に知っている事実を告げずまたは不実のことを告げたときは︑当会社は︑保険証券

記載の保険契約者の住所にあてて発する書面による通知をもって保険契約を解除することができます︒他人のため

に保険契約を締結する場合に︑保険契約者またはその代理人が︑自己に過失があると否とを問わず︑被保険者また 第七条 ①  告知義務に関する規定を列示する︒また︑ 関法

(10)

9

' ︑

過した場合 はその代理人の故意または重大な過失によって︑知っている事実を告げずまたは不実のことを告げるに至ったときも同様とします︒

前項の告げなかった事実または告げた不実のことがなくなった場合

当会社が保険契約締結の当時︑前項の告げなかった事実もしくは告げた不実のことを知り︑または過失に

保険契約者または被保険者が︑第1条︵保険金を支払う場合︶の事故による損害または傷害が発生する前に

保険契約申込書の記載事項につき︑書面をもって更正を当会社に申し出て︑当会社がこれを承認した場合︒更

正の申し出を受けた場合において︑保険契約締結の当時︑保険契約者が更正すべき事実を当会社に告げても当

会社が保険契約を締結していたと認めるときに限り︑当会社は︑これを承認するものとします︒

当会社が前項の告げなかった事実または告げた不実のことを知った日から保険契約を解除しないで

3 0 日を経

保険契約申込書の記載事項中︑第一項の告げなかった事実または告げた不実のことが当会社の危険測定に関係

のないものであった場合には︑第一項の規定を適用しません︒ただし︑保険の目的と同一の構内に所在する被保

険者所有の建物または建物以外のものについて締結された他の火災保険契約その他第1条︵保険金を支払う場

合︶第1項または第2項の事故を担保する保険契約に関する事項については︑この限りではありません︒

損害または傷害が発生した後に第一項の解除が行なわれた場合でも︑当会社は︑保険金を支払いません︒もし︑

よってこれを知らなかった場合 (2)  (1)  2前項の規定は次の場合には適用しません︒

︵ 四

八 五

(11)

2  ー

保険契約者または被保険者が︑前条の告知の際︑故意または重大な過失により事実を告げなかったかまたは事

実でないことを告げた場合には︑会社は︑将来に向かって保険契約または付加している特約だけを解除︵︵復旧︑

付加している特約の保険金額・給付日額の増額または特約の型の変更の際の告知義務違反の場合には︑増額分ま

たは新たに被保険者として加えられた部分を解除︒以下同じ︒︶することができます︒

会社は︑保険金︑給付金の支払事由または保険料の免除事由が生じた後でも︑保険契約または付加している特 同約款第三

0

条︵告知義務違反による解除︶ ②  前項の規定は︑損害が第一項の告げなかった事実または告げた不実のことに基づかないことを保険契約者また

ここに掲げた火災保険普通保険約款と同様に︑もっぱらわが国の損害保険会社の用いる約款︑たとえば自家用自動

( 1 2 )

1 3 )

1 4 )

 

車保険普通保険約款︑船舶保険普通保険約款︑傷害保険普通保険約款︑等はほぽ同一の規定を設けている︒

( 1 5 )  

利益配当付終身保険約款

第二九条︵告知義務︶

保険契約の締結︑復活︑復旧︑付加している特約の保険金額・給付日額の増額または特約の型の変更の際︑会社

所定の書面で質問●た事項について︑保険契約者または被保険者はその書面により告知することを要します︒また︑

会社の指定する医師が口頭で質問した事項については︑その医師に口頭により告知することを要します︒ は被保険者が証明したときは︑適用しません︒ ︵保険契約解除の効力︶の規定とはかかわりありません︒

関法

第四四巻第三号

すでに保険金を支払っていたときは︑当会社は︑その返還を請求することができます︒この規定は︑第一三条

二︱八︵四八六

(12)

故意の保険事故招致や保険事故の偽装等によって保険金詐取を企図する者は︑

締結し︑事故発生時に支払われる保険金額の総額を多額にしていることが多い︒このような場合に︑保険契約者の保 険金請求が不正なものであることを保険者が立証することは実際上かなり困難であるために本来は保険金を支払わな

( 1 6 )  

いでよいにもかかわらず︑保険者が保険金の支払を余儀なくされる恐れが存在し︑そのような保険契約者の不正の企 2│2 

に支払います︒

本条の規定により保険契約または付加している特約が解除された場合には︑会社は︑解約返戻金を保険契約者 他保険契約の存在と道徳的危険

他保険契約の告知・通知義務の再検討

者または保険金受取人に解除の通知をします︒

保険契約または付加している特約の解除は︑保険契約者に対する通知により行ないます︒ただし︑保険契約者

またはその所在が不明であるか︑その他正当な事由により保険契約者に通知できない場合には︑主契約の被保険 保険金︑給付金を支払いまたは保険料の払込を免除します︒

約を解除することができます︒この場合︑会社は︑保険金︑給付金の支払または保険料の払込の免除を行ないま せん︒またすでに保険金︑給付金を支払っていたときでもその返還を請求することができます︒すでに保険料の 払込を免除していたときでもその保険料の払込を請求することができます︒

二︱九

前項の規定にかかわらず︑保険金︑給付金の支払事由または保険料の払込の免除事由の発生が解除の原因と なった事実によらなかったことを保険契約者︑被保険者またはその保険金︑給付金の受取人が証明したときは︑

︵ 四

八 七

一般にあらかじめ複数の保険契約を

(13)

2

3  

第四四巻第三号

ニ ニ

( 1 7 )  

図によって保険者が保険金を支払わざる危険のことを道徳的危険という︒しかしながら︑保険金の総額が多額である

場合にのみ道徳的危険が発生するというわけではない︒なぜなら︑その総額が保険価額に等しいか︑あるいは保険価

額に達しない場合であるからといって︑保険契約者の故意の保険事故招致等による保険金詐取の企図が否定されるわ

けではないからである︒また︑保険契約締結の当時︑複数の保険契約が存在し︑かつその保険金額の総額が保険価額

を超過しない時には︑単に単に複数の一部保険が存在するにすぎないとも考えられるが︑保険価額が下落した場合に

は超過保険となる可能性を秘めているのであり︑契約締結時に保険契約者が将来に付保物の保険価額が下落すること

( 1 8 )  

を確信していたとすれば︑不正な保険金請求を保険者が受ける可能性はなお存続するのであるから︑結果的に複数の

保険契約が存在する場合には︑その保険金額の総額がいくらであろうと道徳的危険の存在が疑われるのである︒した

がって他保険契約の存在は道徳的危険の徴憑的事実︑すなわち﹁道徳的危険に関する事実﹂であるということができ

( 1 9 )  

る︒とりわけ傷害保険においては︑複数の他保険契約の存在は重要な意味をもつ︒というのも︑

は︑被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によって身体に傷害を被ったときに保険者が保険金を支払うことを目的と

する契約であるとされ︑その保険金は︑傷害による具体的な損害額とは直接関係なく︑

︵ 四

八 八

一般の傷害保険契約

結果の程度や治療日数に応じて保険金額の一定割合もしくは契約で定められた一定金額が給付として支払われるため︑

損害填補に関する問題は生じ得ないが︑とりわけ自傷行為等の不法な保険金取得の意思が介在しやすい︑﹁道徳的危

( 2 0 )  

険の高い﹂保険契約であるからである︒

一般の告知義務の対象

一定の保険金額または傷害の

(14)

先述した︑わが国の商法の第六四四条のいう﹁重要な事実﹂とはいったい如何なるものを指すのであろうか︑そし

てその﹁重要な事実﹂に﹁道徳的危険に関する事実﹂は含まれるのであろうか︒わが国の通説はこの告知義務の対象

( 2 1 )  

となる﹁重要な事実﹂を﹁危険測定上の重要事実﹂であると解しているが︑﹁道徳的危険に関する事実﹂がこれに含

まれるかどうかに関しては説が分かれている︒通説は︑保険制度の合理的な運営のためには保険事故発生の蓋然率の

統計的計算を基礎とし︑多数の契約における危険の総合平均化によって支払われるべき保険金の総額と受くべき保険

料の総額との間に均衡を保たせることが必要であり︑従って︑保険者は各契約につきその危険率を測定してこれを引

き受くべきか否かおよびその保険料のいかんを決定することを要すると解し︑また︑本来このいわゆる﹁危険の選

択﹂に必要な資料となるべき事実は保険者自身が調査すべきであるが︑実際には保険者の一方的調査だけではわから

ない事実も多く︑すべてを積極的に調査するのはかなり困難であるから︑保険契約者の告知に頼る方がより迅速に詳

( 2 2 )  

細な情報を集めることが可能となることもあって法がこの告知義務制度を設けたと解するのである︒

しかしながら︑近時は︑この危険測定という保険契約に特有の技術を告知義務の法的根拠として援用する通説を基

蕊 ︶

礎としたうえで︑保険契約の法的構造の特殊性によって告知義務の根拠をを説明しようとする説がかなり有力である︒

この説は︑保険契約者の保険者に対する協力がなぜ要求されるかについては技術的必要性だけでなく保険契約の射倖

性をあわせて考えなければならないとするのである︒すなわち︑保険契約は保険当事者の具体的な給付義務の発生不

発生またはその大小いかんが偶然の事情によって左右されることを本質とする射倖契約であるから︑保険契約者は保

険事故発生の可能性の大小に影響を及ぽす事実を知っているが︑保険者はこれを知らないという場合に︑保険契約者

がその事実を伏せたままで契約を締結するのは公正といえない︒保険契約者がかかる事実を知っている場合には︑契

~

︵ 四

八 九

(15)

第四四巻第三号

約締結に先立ち︑これを保険者に開示することが信義則上特に要請される︒

>

︵ 四

0

)

したがって︑保険者が危険測定のため保険契約者の協力を必要とするという事情があるほか更に保険契約の構造自

( 2 4 )  

体の中に保険契約者に告知を要求することを正当ならしめる事情が含まれていると説くのである︒

いずれの説にせよ︑告知義務の対象となるのは﹁危険測定に関する事実﹂であると解される点では一致している︒

したがって保険事故発生の原因となりうべき事実︑あるいは保険事故発生の徴憑的事実が﹁危険測定に関する事実﹂

( 2 5 )  

に含まれることについては問題はない︒ところが﹁危険測定に関する事実﹂に﹁道徳的危険に関する事実﹂が含まれ

るかどうかの点については通説は明確にしていない︒しかし通説の立場に立てば︑﹁道徳的危険に関する事実﹂は保

険金支払義務を生じさせる保険事故の発生率の測定には直接関係がないため︑﹁危険測定に関する事実﹂には含まれ

( 2 6 )  

ず︑告知義務の対象ではないと考えられる︒これに対し︑有力説は﹁道徳的危険に関する事実﹂も﹁危険測定に関す

る事実﹂に含まれ︑したがって告知義務の対象となると主張している︒その根拠を挙げると次のようになる︒保険金

取得のための故意の事故招致や保険事故の仮装などの行為は︑保険者の保険金支払義務が保険事故の発生によって具

体化し保険事故の発生により保険加入者は少額の保険料の支払をもって多額の保険金の支払を受けうることになる等

の保険契約の射倖的性質を基礎とし︑その悪用を図るものにほかならないので︑そのような﹁道徳的危険に関する事

実﹂が存在する場合に︑保険者が保険契約の締結を拒絶する方針を採ることは契約自由の原則の範囲内の問題であっ

て当然に許されるものであり︑保険者は契約締結に当たり﹁道徳的危険に関する事実﹂を考慮する必要があるところ︑

かかる事実は保険者の独自の調査では知ることが困難であり︑また保険契約者が保険事故発生の可能性を高める事実

を知りながらこれを保険者に告げないで保険契約を締結するのは信義則に反する行為であるが︑保険契約者が例えば

関法

(16)

保険事故招致の意図をかくして保険契約を締結するのは一層強く信義則に反する行為であること等から保険契約者は

( 2 7 )  

﹁道徳的危険に関する事実﹂も保険者に告知する義務を負うというのである︒

商法六七八条一項は損害保険契約の告知義務に関する規定とほぼ同様に規定し︑二項では六四四条二項及び六四五

条を準用すると規定している︒生命保険普通保険約款における告知義務の規定は大きく二つの類型に分類できる︒

方は特約を含めているものであり︑他方は別個に特約について告知義務に関する規定をおくものである︒この規定の

形式によって異なるのは告知義務違反の場合の効果であるがこれについては後述する︒

生命保険契約における告知義務の対象となる事実︑すなわち商法六七八条のいう重要な事実とは一般には損害保険

契約における告知義務と同様︑保険者の危険測定に関する重要な事実であり︑保険者がその事実を知ったならば保険

契約の締結を拒絶したかまたは少なくとも同一の条件では契約を締結しないであろうと客観的に考えられるような事

( 2 8 )  

情を指すと考えられている︒それ故︑生命保険契約において被保険者の既往症︑現症等︑被保険者の健康状態に関す

る事実が重要な事実であることは疑いがない︒では他保険契約の存在は重要な事実に含まれるのであろうか︒この点

につき︑粟津博士は﹁他の契約の有無とは現に申込みて締結せんとする所の契約の以前に同一会社若くは他の会社と

契約を結びたるや否やを陳べしむることにして︑統計索引若くは参考上の便に供するに止まり重大なる事項と見倣す

( 2 9 )  

を得ず︒﹂といわれる︒また︑古い事案に関するものではあるが︑判例は他保険契約に関する事項について︑他の保

( 3 0 )

3 1 )

 

険会社に生命保険契約の申込をして拒絶された事実︑他の保険会社に保険契約の申込をして再診査に付された事実︑

( 3 2 )  

他の保険会社との生命保険契約が解除された事実は重要な事実であるとしているものの︑他の保険会社に生命保険契

約の申込をした事実︑他の保険会社に生命保険契約の申込をした事実︑他の保険会社に生命保険契約の申込をして診

他保険契約の告知・通知義務の再検討

~ ︵

四 九

一 ︶

(17)

ニ ニ

関法第四四巻第三号

( 3 3 )

3 4 )

 

査を受けた事実︑他の保険会社との間で生命保険契約を締結している事実については重要な事実ではないとする︒大

審院昭和二年︱一月二日判決︵民集六巻︱一号五九一二頁︶も従来の判例を踏襲して︑﹁他ノ保険会社二保険ノ申込ヲ

為シ之二対スル承諾アリテ保険契約成立セル事実ノ如キハ保険契約申込ノ拒絶卜異リ被保険者ノ生命二付危険測定二

関係ヲ有セサルモノナルカ故二商法第四二九条︵現行商法六七八条︶二所謂重要ナル事実二該当セサルモノト解スへ

( 3 5 )  

キナリ﹂と判示した︒したがって︑判例は従来︑生命保険契約における告知義務の対象を被保険者の生命について危

このように解するならば︑他の保険会社によって保険契約の申込が拒絶された場合に現時点で契約の申込を受けて

いる保険会社が知りたいのは他の保険会社が申込を拒絶した理由であり︑この理由が生命について危険測定に関係す

る事実なのであるから︑他の保険会社による保険契約の申込の拒絶がそれを徴憑する事実であると捉えるのに対し︑

他の保険会社との生命保険契約の締結は生命について危険に関係する事実を徴憑するものとは思われないとする立場

を判例が採るのは当然の帰結であろう︒しかしながら︑このような解釈に対して︑生命保険契約における他保険契約

の存在は道徳的危険を徴憑する事実であるとして︑その事実を保険者が契約を締結する際の判断に利用するために他

保険契約の告知を求めるのは妥当であるとする説もある︒中西教授は﹁﹃他社契約の存在は⁝⁝道徳危険に関する事

実の徴憑事実としての意味をもつものであ﹄って︑﹃告知義務制度の立法理由から考えると道徳危険に関する事実

︵その徴憑事実を含む︶も保険者がこれを契約の諾否の判断の資料として利用しているかぎり︑告知義務の対象とな

( 3 6 )  

る危険測定に関する事実に属すると解すべきである︒﹄﹂といわれる︒すなわち︑この説は先の損害保険契約の箇所で

検討した有力説の立場にたって︑道徳的危険に関する事実︵道徳的危険の徴憑的事実︶も告知義務の対象となる危険 険測定に関係する事実のみであると考えていたようである︒

(18)

測定に関する事実に含まれると解し︑生命保険契約においても他保険契約の存在について保険者が質問表によって告

知を求めた場合には︑他保険契約の存在は告知義務の対象となるとされるものと思われる︒しかしながら︑

生命保険契約には種々の類型︑例えば生存保険契約︑死亡保険契約︑養老保険契約等があり︑また︑それらの契約は

先述したように主契約と特約とに分類されるのであるから︑それらの各契約について道徳的危険との関連を吟味する

必要があり︑仮に道徳的危険に関する事実が危険測定に関する事実に含まれるとしても︑すべての生命保険契約にお

いて他保険契約の告知義務を課さなければならないほど道徳的危険が大きいと一概にはいえないであろう︒

生命保険契約において︑道徳的危険とは古くは﹁被保険者の死亡﹂に関するものが大半であったが︑昭和三九年に

災害保障特約が登場して以来︑被保険者が自らを死に至らしめずして保険給付を受け得る可能性が生じたため︑本来

は不慮の事故を直接の原因として被保険者の受けた傷害ならびにその傷害を起因とする入院院に対して給付を受ける

べきであるのに自傷行為︑偽装入院等によって不当に保険給付を得ようとする等︑道徳的危険はその態様が複雑化し︑

増加してい廷↑したがって︑一般に道徳的危険の大きいことが指摘されているのはこの﹁被保険者の死亡﹂以外の事

故の発生によっても給付金等が支払われる場合であり︑現在では災害割増特約︑傷害特約︑災害入院特約︑入院医療

特約等の形態をとっているものである︒ところが先の大審院判決等の判例の解釈を考慮してか︑生命保険会社は他保

険契約の告知義務を約款に明示的に定めることをしなかったため︑昭和五0年代に入ってから災害入院特約を中心に

自傷行為等による入院等により給付金を受けるといった事件が現れてきたうえに︑不必要もしくくは長期にわたる入

( 3 8 )  

院給付金の請求が増加した︒そこで生命保険業界は道徳的危険に対応する手段として先述の入院関係特約の付加され

た契約についての﹁契約内容登録制度﹂を設けたが︑この制度だけでは道徳的危険に対する措置として不十分である

ニ ニ

(19)

2

( 4 )  

同等の事由がある場合 的に反する状態がもたらされるおそれがある場合

( 3 )   ( 2 )  

( 1 )  

特約だけを解除することができます︒ 第四四巻第三号

と思われたため︑昭和六二年から﹁重大事由による解除権﹂が約款に導入された︒例えば日本生命保険相互会社の終

( 3 9 )  

身保険普通保険約款は次のように規定している︒

︵ 四

九 四

つぎの各号のいずれかに定める事由が生じた場合には︑将来に向かって保険契約または付加している

保険契約者︑被保険者または保険金の受取人が保険金または給付金︵保険料の払込の免除を含みます︒また︑

他の保険契約の保険金または給付金を含み︑保険種類およぴ保険金または給付金の名称の如何を問いません︒

以下︑本項において同じ︒︶を詐取する目的もしくは第三者に保険金または給付金を許取させる目的で事故招

致︵未遂を含みます︒︶をした場合

保険金または給付金の請求に関し︑保険金または給付金の受取人の許取があった場合

他の保険契約との重複によって︑被保険者にかかる給付金額の合計額が著しく過大であって︑保険制度の目

その他保険契約または付加している特約を継続することを期待しえない第1号から前号までに掲げる事由と

この約款の規定︑とりわけ一項三号を見るに︑生命保険会社が他保険契約の存在に依然として注意を払っているこ

とが窺える︒しかしながら︑傷害特約に関しては︑先述の傷害保険契約と同様に︑他保険契約の存在が告知義務の対 第三二条︵重大事由による解除︶

関法 二二六

(20)

象となり︑入院関連特約に関しては先に検討したような判例の解釈は妥当ではなく︑道徳的危険に関する事実も保険

者がそれを契約を引き受ける際の判断資料として用いる限り︑危険測定に関する事実に含まれ︑その結果︑告知義務

( 4 0 )  

の対象となるものと解するのが妥当であろう︒

したがって︑約款で他保険契約の告知義務を保険契約者︑被保険者に課すことは可能であり︑また︑詳しくは後述

するが︑近時の判例が損害保険契約︑傷害保険契約に関してではあるものの︑道徳的危険の防止を根拠として他保険

契約の告知義務を定めた約款の規定を有効なものとした上でその効果について解釈をもって制限する立場を採ってい

ることからも︑今日︑生命保険契約においてのみ他保険契約の存在が告知義務の対象とならないとするのは合理性に

しかしならが︑主契約については︑﹁被保険者の死亡﹂に関する道徳的危険が考えられるとしても︑それは入院関

連特約に比べればそれほど大きくはないと思われ︑この点からいえば保険契約者または被保険者に他保険契約の告知

義務を課すのはやや酷なようにも感じられるが︑道徳的危険に関する事実が危険測定に関する事実に含まれると解す

るならば論理の一貫性からも他保険契約の存在を知ることによって﹁被保険者の死亡﹂に関する道徳的危険を防止す

るために保険者が契約の引受の際の参考資料として利用する限り︑主契約においても他保険契約の存在は告知義務の

対象となる重要な事実であると解するべきであろう︒

このように考えると︑商法の規定の解釈から︑道徳的危険に関する事実である他保険契約の存在を保険契約者側か

ら告知させることは可能であるように思われるが︑実際には保険にそれほど精通しているとは思われない保険契約者

等がそれについて自発的に告知をすることは余り考えられないため︑保険会社の実務では主に契約申込書または質問

かけるものといわざるを得ない︒

ニ ニ

(21)

第四四巻第三号

表といわれる様式を用いて︑契約者側にいわば受身的な告知を求めている︒

他保険契約の告知義務と質問表

ニ ニ 八

保険契約申込書中の危険測定に関する事項の記入を求める欄は一般に﹁質問表﹂と呼ばれ︑わが国の商法上なんら

の効力も与えていないため︑質問表の効力について争いがあるが︑解釈論としてはこれに何らかの効力を認めるもの

が少なくなく︑それらの説のいずれにせよ︑質問された事項についてそれ自体は重要な事項︑あるいは重要な事実で

( 4 1 )  

あると解している︒したがって︑この質問表によって質問された事項は告知義務の対象になると考えられ︑それ故他

保険契約の存在のようないわゆる道徳的危険に関する事実も保険者がそれを明らかに質問表の質問事項としているな

らば︑それは重要な事項となり︑告知義務の対象となると解せられるのである︒

しかしながら︑こう解すると先の約款の文言が問題となる︒先に掲げた火災保険普通保険約款第七条三項︑等は︑

︱つは保険金支払義務を負う保険事故の発生率の測定に関係するもの そのまま読むと︑特に但書の文言によって︑他保険契約の存在は危険測定に関係がないかのように思われるからであ

( 4 2

)  

る︒しかし︑危険測定には二つの意義があり︑

であり︑もう︱つは測定というよりは評価ともいうべきものであり︑当該保険契約の締結自体に関する判断に影響を

与えるかどうかの評価に関係するものである︒そして前者の対象となる危険は保険契約の目的物に関する危険であり︑

後者の対象となる危険には︑それに加えて保険契約申込者自身に関する危険が含まれるのであり︑前者の危険測定を

狭義の危険測定とするならば︑後者の危険測定は広義の危険測定ということができよう︒それゆえ告知義務の根拠と

なる危険測定は広義の危険測定であり︑この約款の七条三項のいう危険測定は狭義の危険測定であると考えるならば︑ 2│4 

関法

(22)

但書の文言は﹁他保険契約の存在は道徳的危険に関する事実であり︑保険事故の発生率の測定には関係ないが告知義

務の対象とはなるので︑その違反がある時は告知義務違反となり︑第一項の規定が適用される﹂ということを特に示

( 4 3 )  

したものとも考えられる︒確かに質問表の記載事項に正確に答えることを保険者が保険契約者に要求するからにはそ

( 4 4 )  

の質問事項は明確で具体的なものでなければならないであろうし︑またその義務は告知義務というよりは応答義務と

( 4 5 )  

呼ぶ方が適切であろう︒

告知義務者

現行商法六四四条によれば損害保険契約における告知義務者は保険契約者のみである︒これに対し例えば現行の火

災保険普通保険約款第七条一項の規定は保険契約者の告知義務を定めたうえでさらに﹁他人のために保険契約を締結

する場合に︑保険契約者またはその代理人が︑自己に過失があると否とを問わず︑被保険者またはその代理人の故意

または重大な過失によって︑知っている事実を告げずまたは不実のことを告げるに至ったときも︑また同様としま

す︒﹂と規定している︒この他人のためにする保険契約においては保険契約者と被保険者は同一ではなく︑そこから

被保険者も告知義務を負うのかどうかという問題が生じる︒実際に︑他人のためにする損害保険契約においては︑被

保険者が保険の目的を最も良く知る立場にあることが少なくなく︑また被保険者は保険の利益を受くべき立場にある

者であるから︑この者が知っている事実はこれを保険者に告知すべきものとするのが衡平の観念に合致するという説

( 4 6 )  

がある︒この被保険者を告知義務者に含ましめる説には︑かつては商法六四四条は立法者の過誤により被保険者とい

( 4 7 )  

う文句の挿入が忘れられたものと認めることによってその根拠とするものがあったが︑これは解釈論としてはやや乱 25

ニ ニ

(23)

第四四巻第三号

い以上︑告知義務者に被保険者を含めた解釈は無理があるといわざるを得ない︒

1 0

︵ 四

九 八

暴であるといわざるを得ない︒逆に被保険者は保険の利益を受くべき立場にある者であって︑自分の知らない間に契

( 4 8 )  

約が締結されることもあり得るので告知義務者に被保険者を含ましめるべきではないとする説もある︒確かに被保険

者は保険の目的物について最もよく知る地位にはあるが︑現行商法六四四条の解釈としては被保険者という文言がな

このように商法六四四条を保険加入者の不利益に変更することを許さない反面的強行規定であるとすると︑約款で

被保険者を告知義務者とすることが可能かどうかという問題が生じるが︑被保険者としても契約締結を知っている時

( 4 9 )  

に初めてこの義務も出てくるのであり︑特に被保険者に不利益を与えるものではないから︑約款をもって被保険者を

わが国の学説でも有力説に立った場合には他保険契約の存在は告知義務の対象となる重要な事項であり︑保険契約

者はそれを保険者に告知しなければならないが︑先述したように現行商法六四四条の解釈としてはその告知義務者に

被保険者を含ましめることは無理がある︒しかし約款で被保険者を含めることは理論上可能であり︑他人のためにす

る保険契約に限られてはいるが実際に含まれている︒ところが保険契約者によって他人のためにする保険契約が締結

されたことを被保険者が知っており︑さらにそれが重要事項となることを知っていた場合に限り︑約款によれば被保

険者は告知義務者に含まれるのであるが︑実務上は先に検討したように質問表の制度が取り入れられているため︑そ

の趣旨から考えるとそれが被保険者に提示されない場合にまで被保険者に告知義務を課すのはかなり酷なようにも思

われる︒したがって︑保険者が被保険者を契約締結の手続に関与させていない場合には被保険者が他保険契約の存在

( 5 0 )  

を告知しなかったとしても告知義務違反を問い得ないことになろう︒しかし︑先の約款の文言を被保険者またはその 告知義務者に含ましめることは可能であろう︒

(24)

務を負わない 保険契約者または被保険者が他保険契約の告知義務に違反した場合には︑保険者は当該契約の解除権を取得する︵商法六四四条︑六七八条︑前掲火災保険普通保険約款七条一項参照︶︒そして保険者がこの解除権を行使した時は︑その解除は将来に向かって効力を生ずるが︑保険者は保険事故発生後に契約を解除した場合であっても保険金支払義

︵商法六四五条︑六七八条︑前掲火災保険普通保険約款七条四項参照︶︒

2│6  代理人の故意または重大な過失によって保険契約者が錯誤に陥り︑または欺岡された結果︑重要事項について不告知

( 5 1 )  

または不実告知をなした場合には︑保険契約者が無過失であっても保険者が契約を解除できるということを規定した

ものと厳格に考えるならば︑告知義務者はあくまでも保険契約者であって︑被保険者は含まれていないものと解する

( 5 2 )  

立法論的には被保険者も告知義務者に含ましめるのが妥当であるが︑もちろん被保険者は一般に保険に精通してい

るとは思われないので︑保険者による質問に対して故意または重過失によって正確に応答しなかった場合にのみ告知

また︑傷害保険については︑その性質が損害保険にも生命保険にも属さない︑いわば中間的なものであることに鑑

み︑問題の性質に応じて損害保険契約あるいは生命保険契約のいずれかに関する規定を類推適用する以外ないであろ

う︒ただし︑告知義務に関しては︑その人保険たる性質から︑商法六七八条の類推適用を考えるべきであり︑これは

海外旅行中に支出を余儀なくされた費用損害を担保する海外旅行傷害保険契約といえども同様に解するべきであろう︒

告知義務違反の効果 義務違反とするのが適当であると思われる︒ 余地がないではない︒

参照

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