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教科実践研究 授業実践の研究の広がりと課題

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2020(pp.1 - 9)

【総説論文】

教科実践研究

授業実践の研究の広がりと課題

金本 良通(日本体育大学)

本稿は,日本体育大学大学院教育学研究科実践教科教育学専攻・博士前期課程にある教 科共通科目としての国語科実践研究,社会科実践研究,算数科実践研究,理科実践研究,

体育科実践研究の「教科実践研究」に関わって,それぞれの教科からの論文を基に,その 概要を述べるとともに課題について検討した。

課題としては,(1)研究対象としての授業実践の範囲,(2)授業実践における個別・特殊 性と典型・一般性の問題,(3)授業実践における知識と方法の重視,(4)学校や地域の課題 への取り組みとしての授業研究とカリキュラム研究,(5)授業実践の共有化とその記述と しての学術的研究・実践的研究,の5点について取り上げ,関連する論文を基に検討をし た。これらは,教科教育学研究の中の「教科実践研究」に関わる事項でもあり,「教科の共 通性と固有性」という観点を意識しつつ議論を展開し,各教科間の実践研究で共通すると ころや違いを見ることが出来た。

キーワード:実践研究,授業実践,授業研究

(2)

Practical Research of Curriculum Development and Practice:

Development and Issues of Research on Teaching Practice

Yoshimichi KANEMOTO (Nippon Sport Science University)

Concerning with “the practical research of curriculum development and practice” such as its of Japanese, Social Studies, Arithmetic, Science, and Physical education as common curriculums of practical curriculum pedagogy course in Master’s Program, at Graduate School of Education, Nippon Sport Science University, this paper explained an overview and examined the issues based on the papers from each subject.

The paper picked up following five issues and examined them based on the relevant papers. The issues were (1) the scope of teaching practice as research subjects, (2) the individuality/ specificity in teaching practice and issues of typicality/ generality, (3) the consideration of knowledge and methods in teaching practice, (4) the study of lessons and curriculums as approaches to schools and local issues, (5) the sharing of teaching practice and academic research/ practical research as their records. These were also matters related to “the practical research of curriculum development and practice” in curriculum research and development, and the discussion was developed while considering the viewpoint of "commonality and peculiarity of curriculums." As a result, common and different features of practical research among curriculums could be seen.

Key Words: practical research, teaching practice, lesson study

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1.

本稿は,各教科(国語科,社会科,算数科,理 科,体育科)における実践研究に関する論文をも とに総括的に「教科実践研究」を考察するもので ある。

日本体育大学大学院教育学研究科実践教科教育 学専攻・博士前期課程では,「教科の共通性と固有 性」という観点からカリキュラム編成において,

必修科目として次の 10 の授業科目(単位数合計 20単位)を課している。すなわち,教科基盤科目 として教科教育特論,教科教育研究法,教科目標 論,教科学習指導論,教科評価論,そして,教科 共通科目として国語科実践研究,社会科実践研究,

算数科実践研究,理科実践研究,体育科実践研究 である。

この教科共通科目としての各教科実践研究の授 業の目標・概要は,「○○科の授業実践に関して,

その実践結果から課題を見いだし,その課題を解 決し,繰り返し授業改善を行うことができるよう にする」(日本体育大学大学院教育学研究科設置認 可申請書)というものである。もちろん,授業実 践に関するこのような講義を大学院において実施 することになるので,自ずと学術研究の立場から なされることとなる。本特集の各教科実践研究に 関する論文は,この教科共通科目としての授業科 目「○○科実践研究」の一端を示すものであるが,

教育学研究科教員による授業という特質が重要な 役割を果たすとともに,その「授業実践」に対す る制約性をも持つことになる。

本稿では,本稿以降で示されている各教科実践 研究に関する論文について,初めに各論文の概説 をする。その上で,各教科実践研究に共通する課 題として,(1)研究対象としての授業実践の範囲,

(2)授業実践における個別・特殊性と典型・一般性 の問題,(3)授業実践における知識と方法の重視,

(4)学校や地域の課題への取り組みとしての授業 研究とカリキュラム研究,(5)授業実践の共有化と その記述としての学術的研究・実践的研究,とい う点について論ずることとする。

2. 各教科の論文の概説

2.1 国語科

府川論文は,授業実践を考察することに関わっ て,東京高等師範学校附属小学校の芦田恵之助の

「冬景色」の授業実践記録の位置づけについて取 り上げている。芦田はそれを著書『読み方教授』

において紹介をしている。どのような文脈で授業 実践が記録として構成されたのか,さらに,東京 高等師範学校の垣内松三の『国語の力』によって 重要な実践として紹介されているのであるが,ど のように位置づけ直されたかについて考察をして いる。そして,授業実践の「事実=現象」として の記録が何らかの文脈の中で意味が与えられてい ること,言い換えれば「物語化」されていること を強調している。そして,それが不可避であるこ とから,「われわれが出来ることは,実践を記録す るために言語化という行為自体をも『省察』の対 象にしなければならないということではないか。」

「教育実践の内容を検討する際には,どのような 枠組みを採用して語っているのか,あるいはどの ような表現形式を使用して叙述しているのかとい うことも含めて,実践現場の時代や空間などの状 況の中で考察を深めなければならないのである」

と強調している。

「物語化」という概念が「『作業仮説』や『パラダ イム』などの枠組みも含んでいる」ことから,授 業実践の科学的研究というようなことにおいても このことは成立し,実践を考察する者の「枠組み」

の自覚とその考察の暫定性の意識の重要さについ て改めて考えさせられるものである。

2.2 社会科

池野論文は,小学校6年の政治単元とその授業 実践を取り上げ,1 つの授業における展開が「総 合社会科授業研究」と「個別社会科授業研究」の 2つの側面で展開していること,従って,授業研 究においてはこの2つの側面を捉えることが不可 欠であることを強調している。「総合社会科授業研 究はその単元の目標,内容,方法を教科観,単元 観,社会科観などのマクロなレベルで検討」する

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ものであり,「個別社会科授業研究は授業の個別要 素(発問,教材,活動,学習内容)を取り上げ,

目標達成の観点からミクロのレベルで吟味」する ものである。

事例として取り上げられた授業実践は「わたし たちの生活と政治-憲法って何?-」である。ま ずは「個別社会科授業」としての活動が展開され,

「ライオン,檻,ぬいぐるみ(われわれ)の三者 の関係を問うこととして進められ」ている。そし て,「総合社会科授業」としての側面では,それら の関係についての子供たちの考察を「憲法とは何 かの理解の5レベル7段階の枠組み」を用いて評 価をすることになるのであるが,それを,「憲法の 役割を,ぬいぐるみ-檻-ライオンという仮装関 係において子どもたちが考えるようにしている」

ことと,「ぬいぐるみ=われわれという想定は,子 どもたちが対象を見る見方とそれへの対応の仕方 を自然に作り出している」ことをテコにして,「総 合社会科授業」としての側面へと至ることになる。

言い換えれば,「比喩」としての意識化と本題は何 かという意識の共有であるということもできよう。

そして,そこに池野論文がいう「教科の視点」が 機能することになるのであろう。個別的なものの 中に一般的なものを捉えることでもあり,また,

その個別的なものを典型的なものとして捉え直す ということでもある。

2.3 算数科

金本論文は,「教育実践」概念を踏まえて「教育 実践としての授業」に焦点を絞り,その上で,「実 践研究」としての「授業研究」について,教科の 特質を一層明確化させてそれを行っている全国規 模の研究会に焦点を当てている。学校や地域レベ ルでの授業研究の取り組みは多くあるのだが,教 科における全国的な研究課題への取り組みには,

このような研究会組織が不可欠である。そして,

全国規模の研究会として新算数教育研究会を取り 上げ,その研究会による「実践研究としての授業 研究」の成果の発表としての出版活動に着目し,

その過程で方法としての実践的活動を促している

ことを示している。授業研究は「教師のための研 修の手段」であるとともに,「教師と子供との教室 における営みを対象とした研究のための方法」ま た「その発表の手段」でもあるという特徴を持っ ており,研究授業に向けた同僚らとの協働的な取 り組みや協議会での協議自体が研究活動としての 性格を持ってもいる。もちろん個々においてはそ の質についても検討すべきであるが,授業の創造 に向けた重要な視点である。そのようなとき,先 の新算数教育研究会による「実践研究としての授 業研究」の成果の発表としての出版活動もまた協 働的な研究の取り組みとして位置づけていくこと が有用となる。そこでの授業実践では,数学的な 見方・考え方を働かせ,それらを身に付け成長さ せていくことを強調し,また,授業展開の過程に おいて「資質・能力育成のポイント」を重視する などの特徴を見ることができる。そのような活動 を通して,算数科の全国的な研究課題に立ち向か う,授業の創造という活動が展開されていると述 べている。

2.4 理科

角屋論文は,授業実践を組織するために,資質・

能力育成の課題の下,特に思考力・判断力・表現 力育成のための「すべ」を子供たちが獲得し使い こなせるようにしていくことが重要として,学習 指導過程構成の視点を提起している。それは,「比 較や関連づけということを学習指導過程において 意図的・計画的に具現化しておく」ことであり,

さらには,「理科における見方・考え方は,領域に より固有性がある」ことから,「対象を捉える視点 や考え方を子供が獲得するためには,単元レベル で(中略)学習指導過程を意図的・計画的に構想 し展開すること」であるとしている。

授業実践事例は単元「雲と天気の変化」である。

単元計画において前述の学習指導過程構成の視点 による手だてが示されている。例えば,「比較」「関 係づけ」という「すべ」が,雲と天気の変化の学 習の進展に伴い,あるいは,むしろ雲と天気の変 化の理解を深め発展させていくためにと言った方

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がよいと思れるが,これらの「すべ」が配置され,

そのときの事象の考察や理解の深化と一体的に示 されている。資質・能力育成という教育課題に応 えていくために,授業実践をどのようにつくりだ していくか,また,授業実践をどのように分析す べきかの典型例となっていると言えよう。

2.5 体育科

今関論文は,体育科の授業研究には,各学校,

行政機関,研究者等の主導による授業研究がある こと,そして,それらの実施に当たっては内容構 成と子供の発達段階を踏まえることが重要である とともに,単元や授業の目標・内容と取り上げる 教材・方法が一致していることが求められるとし ている。

低学年の授業実践「心ぞうドキドキ」は,運動 と健康を関連づけた授業として展開され,「自分で 予想する→運動する(1 回目)→自分で振り返り

①→運動する(2回目)→自分で振り返り②→本 時の振り返り③」という学習過程を経て,「運動に よる自分のからだの変化を書き出し,認識するこ と」を目標としている。自分で振り返り①と②は 運動直後のもの,「自分で振り返り②」と「本時の 振り返り③」の間には本授業では発表という活動

(「T1:2回目のフリー鬼ごっこの後(続けて体を 動かした後)に体(心臓や呼吸)や気もちがどう だったのかを発表してください。」)が位置付けら れ,「運動後に少し時間が経過したときのもの」と いう手だてが講じられている。

高学年の授業実践「バスケットボール」は,「体 育の学習内容は,筆者は『学習対象』としての『動 き』であるととらえている。それは,運動ができ るようになる『核心』の動きであり,できるよう になる条件となる動きであろう。」との考えの下,

学習内容とした「得点しやすいところに動いてパ スをもらいシュートを打つこと」の「下位項目の 具体的な知識」を特定する作業について紹介し,

検討している。下位項目を特定していく作業は,

学習内容の精緻化・系統化の一環として位置付く ものである。そのような作業を,子供たちへの質

問紙調査や授業実践者らとの協議を通して進め,

「動き出しの『きっかけ』となる『いつ』の問い を学習内容として位置づけた」授業設計アイデア により授業案が作成され実践がなされている。

3. 授業実践という事象=研究対象

「教科実践研究」として当教育学研究科は「授 業実践」に焦点を当てている。教育活動あるいは 教育実践としての授業実践ということになるが,

そこでは教科の教育に焦点が当てられる。このこ とについてこだわっておきたいのであるが,その ことを学習者側から見るとき,佐藤学と池野範男 による対談での佐藤の主張に留意しておきたい。

佐藤は次のように述べている。

私は,学びは既知の世界から未知の世界への 旅だと思います。旅もそうですが,学びも出会 いと対話です。旅が学びになるのは,出会いと 対話があるからです。新しい世界や他者と出会 い対話し,新しい自分と出会い対話します。旅 から帰ってくるときは,もう一つの新しい世界 を持ち,もう一つの他者とつながりを持った新 しい私になります。これが学びです。

ここでは私の提唱する学びの三位一体論につ いてお話しします。

学びの三位一体論とは対象世界との対話,他 者との対話,自己との対話が三位一体になった ものが学びであるという理論です。(佐藤・池野,

2020,p.6)

なお,佐藤のこの理論は「授業と学習の過程」

としてすでに説明されており,金本論文で引用さ れている。

このようなことからは,授業実践は,「対象との 対話」を作り出す行為として授業をその教科の内 容の指導という面で捉えるということが第一義的 ではあっても,同時に,「他者との対話」や「自己 との対話」という広がりの中で捉えることも求め られてくる。佐藤が「教育の実践(授業と学習)」 という言葉でもってイメージを拡げようとしてい

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るのは,その趣旨でもあると言えよう。

一方で,我が国では「教育実践」という用語も 存在し,授業実践よりも広い概念として用いられ てきた。特に1950年代から1960年代にかけて多 くの優れた教育実践記録が輩出されたことは,府 川論文の中で言及されている通りである。また,

金本論文において「教育実践」という用語が1950 年代末から 1970年代にかけて規定されていき,

学校改革や地域への取り組みなどの歴史的・社会 的関係性の部分と教師と子供たちとの人間的・人 格的関係性の部分という広がりの中で「教育実践」

が捉えられ,そこに包含されるものとしての「授 業(教科指導)」と「生活指導」が位置づけられて いたことを紹介している。

他方,「授業研究」は1960年代を通して盛んに なっている。臼井嘉一(2009)はそれを主に1963 年結成の全国授業研究協議会に焦点を当てること で,そして,1965年の日本教育方法学会第1回大 会開催および1966年の国立大学「学芸学部」「学 芸大学」の名称変更に言及することで特徴づけて いる。また,安彦忠彦(2009)は,1955年頃からの 学習指導要領改訂によるそれまでの「カリキュラ ム研究」の衰退,1950年代後半からの「授業分析」

に関する諸外国の研究の紹介や波多野完治を中心 とする教育心理学者による「授業研究」として『授 業の研究』(国土社,1963)シリーズの公刊,そし て,1960年代から1970年代にかけての民間教育 研究団体の「授業づくり」などの動向により特徴 づけている。

なお,「教育実践」概念が,学校と教師を取り巻 く歴史的・社会的関係性の部分と教師と子供たち との人間的・人格的関係性の部分との広がりの中 で,人間的・人格的関係性の部分での「授業(教 科指導)」と「生活指導」の2つのカテゴリーは,

1980~90年代の「学級文化」「教室文化」研究を

も経て,授業の成員の社会的関係性やその集団の

「文化」にも着目した授業研究におけるミクロな 視座へと展開し,これら2つのカテゴリーの統合 的な取り扱いを促す方向へと進んでいるように見 える。佐藤の「学びの三位一体論」はその現れと

捉えることができる。

このような広がりの中で,授業実践という事象 が研究対象として位置付いているのが「教科実践 研究」であると言うことができよう。ただし,池 野論文では,「教科の授業研究では人間関係の側面 ではなく,主に教材に関わる点を分析し研究する。

つまり,該当する教科が特有に取り扱う教材の学 習に関心を集中させる。(中略)社会科の授業研究 は,社会に関わる教材の教育指導とその効果を検 討するのである。これが,社会科の教科の視点で ある。」と主張されており,佐藤の「学びの三位一 体論」の広がりよりも限定的である。しかしなが ら,金本論文で「算数・数学科教育研究において はむしろ,1980~90年代の『学級文化』『教室文 化』研究をも経て,授業の成員の社会的関係性や その集団の『文化』にも着目した授業研究におけ るミクロな視座へと展開」しているとの指摘があ る。ここで補足をしておくと,例えば算数・数学 科において問題解決能力の育成に取り組もうとし た場合,学習者が所属している「学級」の学習規 範=「学級文化」「教室文化」がどのようなもので あるかが,一人一人の問題解決活動に影響する。

問題解決能力などの能力の育成は活動として実現 させていくことが不可欠であり,そのため,その 活動が影響を受ける他者・集団との関係性及びそ の規範に注目せざるを得ないということであり、

池野論文との違いが出ている。

4. 授業実践における個別・特殊性と典型・一般性 の織りなし

授業実践においては,教育目標の実現のために 何らかの具体的な教材・活動が組織される。それ は,個別的であり,特殊性を帯びているものであ るが,教育目標は一定の一般性を持ったものであ る。そこへと,どのように近づけていくのか。

池野論文では,そのことを「個別社会科授業研 究」と「総合社会科授業研究」の2つに定式化し て,それらの“渡り”で説明している。2つのタ イプの授業展開を相互に関連付ける方法には「総 合から個別へと,個別から総合への2つの道があ

(7)

る」としているが,紹介された事例ではこのうち の「個別から総合へ」の道が採用され,仮想的場 面からの一般化あるいはその場面の本質を捉えた 典型化を行っている。

角屋論文では,「雲の量や動きは天気の変化と関 係がある」ことを捉えるのであるが,そこでは「天 気が悪くなっていく写真と天気が良くなっていく 写真」を基に,第1次の学習問題「天気の変化に は,雲の様子が関係しているのだろうか」がつく り出され,次の活動である観察へと展開している。

そこでは,問いの記述がもつ一般性が,個別の事 象を捉えるときの枠組みを形成しているように見 える。そして,そのことの論理的妥当性として,

第3次の問い「雲を見れば他の地域の天気がわか るのだろうか」が存在していると捉えられる。

授業実践そのものはつねに,具体的な教材・活 動の組織化によって展開されていくものである。

それら個別的であり,特殊性を帯びている教材・

活動を,一定の一般性を持った教育目標へと接近 させていくには異なるものがあるようである。

5. 授業実践における知識と方法の重視・習得 平成 29 年版学習指導要領は「資質・能力ベー ス」だと言われる(cf.安彦忠彦,2014;新算数教 育研究会,2019)。教科の知識を習得していくだけ ではなく,その知識を習得(構成)していく「方 法」に着目し,それを重視・習得していくことで ある。平成29年版学習指導要領でいえば,指導内 容としての領域の中に「知識及び技能」だけでな く「思考力,判断力,表現力等」が位置づけられ たこととも対応する。

角屋論文では,そのような知識を習得(構成)

していく「方法」として特に「すべ」に着目する。

その基本的なものとして,「比較」と「関係づけ」

2つが挙げられている。これらは,思考・判断・

表現の諸活動の中で適切なスタイルの「すべ」と して機能させることにより思考力・判断力・表現 力を伸ばしていくこととなると主張している。こ のような「すべ」は,「思考の仕方」とも言えるも のであり,事象の探究あるいは知識の習得におい

てどのように働いていくのか,また,事象の探究 あるいは知識の習得が系統的に上位になっていく につれてどのような機能の仕方になるかの研究が 待たれる。

また,このような「思考の仕方」の重視が他の 教科においても必要とされるかは,今後の検討に 待たれることになろう。ただ,算数・数学科にお いては,1960年代に数学的な考え方が提起され具 体的に整理されていっていることは明記しておき たい(金本・奥村,2018)。そこでは,(A)「数学 の性格や手法からみた考え方」として,(a1)帰納 的考え方,類推的考え方,演繹的考え方,統合的 考え方,拡張的考え方,公理的考え方等の「数学 を創造していくときの考え方」と,(a2)理想化す る考え,単純化する考え,一般化する考え,特殊 化する考え,形式化する考え等の「思考の対象に 対する考え方」が挙げられ,また,(B)「数学の内 容を生み出すときの考え方」として,単位の考え,

関数の考え,集合の考え等が挙げられている。

6. 学校や地域の課題への取り組みとしての授業 研究とカリキュラム研究

今関論文で,体育科授業研究の状況として,(1) 学校における授業研究:教師一人一人が行うもの と研究主任等を位置づけて組織的に行っているも

の,(2)教育委員会や国立教育政策研究所等の行政

機関が行う事業としての授業研究:研究指定校や 指導主事による訪問指導等,(3)大学等の研究者と 協同して行われる取り組みとしての授業研究,が あるとしている。そして,今関論文での授業研究 の例は,この第3に属するものとしている。

同様の指摘は金本論文にも見ることが出来る。

そこでは先行研究を基に,校内研究としての授業 研究,地域レベルの授業研究,全国レベルの授業 研究,の3つの類型が示されている。そして,教 科における全国的な研究課題への取り組みには,

全国レベルの授業研究が不可欠であるとしている。

このことに関連して,安彦忠彦(2009)は,日本の 授業研究の特徴について「カリキュラム研究」と の関連から次のように述べている。

(8)

日本の授業研究が,「カリキュラム」を改善し たという例は少ない。そういうと,理科や数学 の分野では改善例があるではないか,といわれ るかもしれないが,各教科等の内部では一時的 に多少見られるけれども,随時,日ごろの授業 研究が学校のカリキュラム全体を改善したり,

改善に役立つ授業研究として活用されたりして いるかといえば,そういう例はまれである。そ の理由は,外国の場合もそうであるが,日本の 授業研究が「指導過程・指導方法」中心だから であろう。この場合,よくいわれていることだ が,授業研究が1時間単位で行われてきたこと によるところが大きい。そうではなく,一単元 全体の複数の授業時間を対象に行われれば,も う少し「カリキュラム」改善につながるデータ が得られると思われる。(安彦,2009,pp.18-19)

このような「カリキュラム研究」にもなってい るのが今関論文の高学年「バスケットボール」の 事例であると思う。また,このことができたのも

「大学等の研究者と協同して行われる取り組み」

であることに依ることが大きい。このようなカリ キュラム改善に関わる関心は,学校や地域の課題 を背負った学校での授業研究では焦点に当てにく く,金本論文では「教科における全国的な研究課 題への取り組みには,このような(全国的な)研 究会組織が不可欠である」としている。

7. 授業実践の共有化とその記述としての学術的 研究・実践的研究

授業実践をいかに共有していくかに関わって論 じておきたい。

最初の「各教科の論文の概説」において府川論 文が,授業実践を考察することに関わって,授業 実践の「事実=現象」としての記録が何らかの文 脈の中で意味が与えられていること,言い換えれ ば「物語化」されていることを強調し,それが不 可避であると指摘していることを述べた。府川論 文から引用するとしよう。

1960 年代頃から開始された教師の発問と児 童生徒の応答を精細に記録し,そこから「教授

-学習過程」を析出して教員達の「省察」に結 びつけていこうとする動きは,今日にいたるま でそれほど大きく変わってはいないといってい いかもしれない。それは,科学的に,また客観 的に教室の「事実=現象」を把握して,それを 分析・考察することによって,科学的な「教育 研究」が成り立つという方向である。基本的に 稿者もそうした考え方を支持するし,むしろそ れを前進させていきたいと考えている。

だがここで問題となるのは,科学的・客観的 に精緻に記述分析することと「物語化する」こ ととは,相反しないということである。むしろ,

教室に生起する様々な「事実=現象」を把握し てその因果関係を説明しようとすることは,あ る種の「物語」を表出していることと同義なの だ,と考えた方がいい。

(中略)人は,「科学論文」とか「随筆」など という,既成の「物語」の枠組みに依拠しなが ら,文章記述を展開するのである。「教育実践記 録」もその枠組みから,逃れることはできない。

このような問題は,実践記録や実践研究の価値 を低めるのではなく,どのような文脈でそれが記 述されているかを読み手が意識して読むという行 為が求められるということである。また,科学的 研究においても「研究の枠組み」という「物語」

がそこに存在しているのである。ならば,授業実 践の学術的研究は,研究者コミュニティが共有し うる「物語」として提出され,授業実践の実践的 研究は,実践者コミュニティが共有しうる「物語」

として提出されるものであるのかも知れない。し かし,双方の知見が相互に行き交い,その立場の 非対称性を克服しながら,協働的に進められれば,

よりよい「物語」として授業の実践研究は豊かで 新たな「物語」を創り出すことが出来るのかも知 れない。府川論文では,「現在では,そうした『研 究』と『実践』との乖離を乗り越える具体的な手

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法として,たとえばアクションリサーチ(授業リ フレクション)などの考え方にもとづく研究など も登場してきている。」と述べられているが,算数・

数学教育の分野ではまだ若干の事例でしかない。

いずれにしろ,このような方向性で進めていく際 に手がかりとなるものが,今関論文の次の言葉で あろう。

体育科授業研究を進めるに当たり,大学等研 究者は,何をしておく必要があるか。先ずは,

授業づくりは一つの手がかりになるであろう。

実際に授業場面に立ち会うことができるように なるには,学校現場との信頼関係の構築が必須 となる。機会をとらえて学校に足を運び,授業 を見せてもらったり,授業者とディスカッショ ンしたりすることで,むしろ研究者側が学ぶこ とが第一歩になるであろう。

また,府川(1996)の次の言葉も引用しておくこと によって,この節を終えておきたい。

私たちは物語を創り出すことでしか,教育を 推し進められないし,それをまったく放棄した ところで,教育実践を進めることもできない。

なぜなら,それぞれ一人一人の教師が,それぞ れの教育物語を創造しようという意識こそが,

教育実践を根底から支えているからだ。(p.138)

8. 結語

本稿は,日本体育大学大学院教育学研究科実践 教科教育学専攻・博士前期課程にある教科共通科 目としての国語科実践研究,社会科実践研究,算 数科実践研究,理科実践研究,体育科実践研究の

「教科実践研究」に関わって,それぞれの教科か らの論文を基に,その概要を述べるとともに課題 について検討した。

課題としては,(1)研究対象としての授業実践の

範囲,(2)授業実践における個別・特殊性と典型・

一般性の問題,(3)授業実践における知識と方法の

重視,(4)学校や地域の課題への取り組みとしての

授業研究とカリキュラム研究,(5)授業実践の共有 化とその記述としての学術的研究・実践的研究,

5点について取り上げ,関連する論文を基に検 討をした。これらは,教科教育学研究の中の「教 科実践研究」に関わる事項でもあり,「教科の共通 性と固有性」という観点を意識しつつ議論を試み た。各教科での知見が,教科を越えて作用してい くことを願ってのことでもある。

引用・参考文献

安彦忠彦(2009)「カリキュラム研究と授業研究」

日本教育方法学会編『日本の授業研究〈下巻〉

授業研究の方法と形態』学文社,pp.11-20.

安彦忠彦(2014)『「コンピテンシー・ベース」を 超える授業づくり』図書文化.

府川源一郎(1996)「『実践記録』という物語」日 本読書学会編『読書科学』40(4), pp.134-139.

金本良通・奥村利香(2018)「算数科教育特論―算 数科・数学科の本質に位置づく創造的活動―」

『日本体育大学大学院教育学研究科紀要』 2(1),

pp.33-44.

佐藤学(1996)「授業という世界」稲垣忠彦・佐藤 学『授業研究入門』岩波書店,pp.13-139.

佐藤学・池野範男(2020)「教科とは何か-佐藤学,

池野範男による対談-」日本教科教育学会編『教 科とその本質-各教科は何を目指し,どのよう に構成するのか-』教育出版,pp.1-30.

新算数教育研究会編(2019)『改訂新版 講座 算 数授業の新展開』(全6巻)東洋館出版社.

臼井嘉一(2009)「授業研究とは何か-日本の授業 研究と教師教育-」日本教育方法学会編『日本 の授業研究〈上巻〉授業研究の歴史と教師教育』

学文社,pp.1-10.

参照

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