一般的超過需要における貨幣,賃金および雇用の逐次的調整
一般的超過需要における貨幣,
賃金および雇用の逐次的調整
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菅原晴之
目 次 1. はじめに
2.一般的超過需要の非市場均衡 3.貨幣残高の逐次的調整 4.有効労働供給の逐次的調整
1. は じ め に
本稿では,まず非市場過程における一般的超過需要の状態を静学分析の方 法にしたがって展望する。つづいて引締め的金融政策の構造的ラグが賃金,
雇用あるいは産出量の時間径路に及ぼす影響を動学的視点から分析する。
財および労働の両市場において名目的な超過需要が発生していると,伝統 的方法によれば賃金および価格は高騰していると考えられるかもしれない。
あるいは自発的交換の原理のみにしたがうと,J=かくJdおよびッ=ツ∫<Cd
+gdと主張するかもしれない。しかし両者とも誤解に基づく結論である。
なぜなら一般的超過供給のケースと同様に,互いに一方の市場の不均衡は他 市場の取引の制約となるので,数量制約を伴ったショート・サイドが実現す るのである。次節では静学的視点から,供給乗数を用いて超過需要における 市場相互間の作用を整理する。
2.一般的超過需要の非市場均衡
J<Jdにおいて代表的企業は,賃金・価格を所与として行動し,さらに雇 用量も数量的に所与として行動する。この場合,企業は数量Zを,労働の購
入lこ対する供給決定型の制約と看倣すので,利潤最大化は利用可能な労働で で き る 限 り 多 く の 産 出 量 を 実 現 す る こ と で あ るO この産出量を有効財供給 yS'とするo その選択した解は形式的には次のように表わせるO
¥ yS'=φ (l, g) ==yS' (l, g)
⑦ θ (1)
第 1図のyS'曲線は有効財供給を示している。 (WjP)が (WjP)c以 下 において 1が財市場において制約となっている口二本の Cd十gdは互いに 具なる非賃金資産0 に対応する財の需要曲線を示す。点Aは名目的な均街点 を,また点Eは制約された供給と需要の均街点を表わすO
7"l w p
( 手)G
(手)串
ys' y
第1図
Cd+gd
y ・ y
次に財市場の超過需要の状態において,家計‑は次に二つの方法の組合せを 選択する必要がある。第ーに,名目的労働供給は実現するが乙れに対応する 財が十分供給されないので不足部分は貯蓄するo第二に,実現した財の供給 量に対応するだけの労働を提供し,これと名目的労働供給との差は余暇にあ てるO 家計の効用最大化は具時点聞の問題であり,有効労働供給IS'および 有 効 貯 蓄 需 要 ms'jPの選択は,消費の制約の予想時間径路にも依存する口
注(1)
そこで家計のライフ・サイクJレを三段階に分類するO①O三二t三二N。泊費は外
一般的超過需要における貨幣,賃金および雇用の逐次的調整
p w
(喜).
4)H
第2図
1 s
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生的な制約水準に決められているO ②N三二t<No消費需要,労働供給およ び貯蓄需要はすべて選択可能。①Nζ t~N。退職期間であり,労働供給は ゼロ。
以上から,三期間の貯蓄の定義は次のように表記できるO
l
早 川 7 1 : ‑
T‑C O三二t三三N1 I dM¥dl mdl 一一一
P べat) 三一五一=)~ lSl+π*‑T ‑Cdl N三二t三二jマ (2) I P
k π*‑T ‑Cdl N三二t三二N
次 l乙,資産は完全に使いつくされる条件が必要になるo単純化のために消 費と労働が互いに効用に及ぼす効果は独立であるとすれば, ls 1 はou寺点か ら万時点まで一定, Cdlはsf時点からN時点まで一定である。したがって,
δ十万
J Z J S F
ー (N‑舟)Cdl = 0 (3)が資産完全伎用条件となるo
消費に対する制約が現われると,家計の今期の労働供給は減少し,有効貯 蓄需要は増加するD 効用最大化の計算より,次のような[s'およびmd'/Pの 解は次のようになるo
および
[s' ~[s' (.0,予)
e EB
竺d' 竺21(b,2E‑)
p p
e EB
(4)
(5)
次節以降の勤学分析の使立上, (4)と(5)を次のように古:き換えておく。
lS'斗 SF(J,
J Z )
EB EB
制,d' 叫 令d' TT7
こ 三 ‑ . ‑ρ p (l , , , ~三一)P
EB EB
家計の予算制約
c+起こ+ T =早 lS'+ 7c
1り f 政府の予算制約
mS T=go.‑‑p
および利潤の定義式
7C=〆
‑ J Z J
より,次のようなマクロ的予算制約を得るO
(4 ')
(5')
(6)
(7)
(8)
(y̲ yS') +与 (l‑lS')+土 (md'ーが)= 0 (9) p , P
以上の式と,ショート・サイドの原理および自発的交換の仮定より,貯蓄 のノfランス
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写(
l ,予)
EB EB
を導くことができるO
以上のような一般超過需要のケースで完全雇用を回復するのに必要な条件 mS ( ‑ ‑ A nHU )
jう
は,実質賃金の上昇ではない。問題の焦点は労働のインセンテイブが欠如し ていることであるoその理由は市場相互間に必要な情報が不確実だからであ るO この欠陥を補正するためには,賃金と物価を同率で上昇させるか,増税 あるいは貨幣残高ストックを減少させることである。
3. 貨幣残高の逐次的調整
前節で要約した一般的超過需要における静学的分析の結論を手がかりにし て,平均貨幣残高の調整ラグが雇用・賃金を決定するプロセスについて考察 するD この場合,財市場が超過需要であるにもかかわらず,労働市場で供給 制約を受けるので,外生変数が一定であれば物価は変動しない。そこで一般 物価水準をニュメレールとしておくO 一般的超過需要の状態では財および労 働の有効供給が各数量の水準を決定するD 形 式 的 に は (1 )式および (4') 式で示される。また,貨幣の有効フロー需要がそのバランスを決定し, (5') で示されるO 以上三本の方程式に対して,内生変数を fとWjPの二つを決 定するには,二本の方程式のみが独立になる。以下では (4う お よ び (5') を解くことにするO さらに ,md' jpの逐次的調整を表現するために,
md' 、 ilM γ M寸
p '‑m L ¥ P J p ‑1
を想定するO ただし, (MjP) ,は有効目標実賃貸幣残高であり,
( 予 ) '
=( 竿
)(l,~)EB EB
とする。 λmは正の定数である。
次に勤学分析を明示的に展開するため, lS'と(MjP),に対する一次近似 式を利用するo
) 41i
4 a︐
( ム
( 12)
JSF==GJ+bfL (13)
( 手 ) '(
1 ,予
)=cf+dJZ ( 4EEA aA3 )いまや, (14)式を貨幣の逐次調整の方程式 (11)に代入して得られるも のと(13)式から賃金と雇用の時間径路を解明することが可能である。
l=al+b
予
(1日D M =入m 似 +dJζ‑M)
ただし, Dは微分演算子を表わすo
当面,財政変数は不変とし,貨幣ストックの成長率は公開市場操作等によ
nh
u
t ‑ ‑
って行われるものとする。また,単純化のためにMは一定の期聞において,
以下に示すように一定の成長率を維持するものと想定する。
第3図
Mo
M TI‑一一一一一一ーーーーーー一ーーー『ーーー
t o
{喜)。
O T
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M。
M(t)=~M〆 t MoeμT
t ζ O O三二t三二T t<T
l33
第3図は連立方程式(15)・(16)の時間径路を示す。すなわち ,lとWjP の径路はM の変化に伴うダイナミックな動きを表わしているO 数 学 注 (1 ) における詳細な展開により ,Mの引締めは雇用の拡大を引き起こすが,他方 で実質賃金の低下をまねく o さらに第3図から明らかであるように,際立つ 特色として JとWjPの径路がMの径路に対応していない。即ち,ゼロ時点 とT時点においてジャンプするO 乙のジャンプの幅は貨幣残高の変化量〈減 少額)が大きいほど,あるいは貨幣の調整速度が遅いほど大きい。調整が瞬
第4図
品!o
MT~ー一一一一一一一一一一一一一一一
b
(
事)TI‑一一一一一一一一一一一一一
O T
間的でその速度が無限大であれば第4図のような連続型の径路を導くことが できるo
さて, Mの引締めが雇用の拡大を引き起こすことは静学分析における結論 と同様であるが,実質賃金の低下を誘発することは考えられず,雇用の拡大 に伴う賃金上昇がこれを相殺する影響にも立ち入る必要がある。さらに,労 働市場における逐次的調整の影響も考慮する必要があるo
4. 有効労働供給の逐次的調整
家計は企業と比べると,近視眼的で情報を入手するのにも不利な立場にあ り,貨幣供給量が縮小しても瞬間的に労働供給量を調整するのは困難であろ うo乙のような状況を考慮して,以下では有効労働供給の逐次調整について 考察する口初めに市場で実際に表明する有効労働供給 IS'と有効労働供給の 終極的目標 f とを区別しておく。家計は近視眼的で最適な計算は IS'では なく Yを求め,これを次の近似式で示しておくO
fF=af+bfL ( ell 門︐l)
さらに代表的家計は dl'
dt 入1(1'ーか) 18()
により, IS'を l'~乙逐次調整すると仮定する O ただし, Azは正の定数とす るD 一般的超過需要を想定しているので, IS' = 1である。したがって,
(18)に (17)を代入することにより,
dl' / 7 , 7̲ W
一 一 = 入1(al 十 b~会--1) dt ~
) n u υ
4EEム(
が成立するO
第5図は貨幣残高方程式および(16)・(9)か ら 導 か れ る M ,lおよび WjPの時間径路を示しているO 乙の図から容易に理解できる特長は,雇用 の調整が貨幣残高の縮小に比べて遅れることである。乙れは,労働の逐次的
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第5区
Mo
M MTI‑一一一一一一一一一一一一一一
O T
調整の帰結である。 WjPについては,前節と同様に調整速度が無限大でな い限り,ゼロ時点およびT時点でジャンプする。特に雇用量の調整が貨幣所 得に対応するのに不十分であるため,実質賃金が貨幣による有効供給の逐次 的ショックを吸収するのであるO
第二の特長は,貨幣残高と労働の双方が逐次的調整を行う場合,構造パラ メータAで加重した各調整速度の相対的な大きさによって,ジャンプする時 点における各変数の変動幅が異なるo換言すれば,雇用に比べて貨幣残高の 調整速度が相対的に速ければ,雇用の調整が貨幣のそれに比べて遅れること はない。
数 学 注 (1 )
方程式(15)および(16)は
︑Bノ 苛 よ G (
︑ ん
m
/I ll i‑
‑¥
A m : ) ) i ~ [ ム パ
と書けるO ただし, Dは時聞に関する微分演算子であるO この連立方程式を ,lおよびW/Pについて解くと,
l
士
(1+ 号
) M W 1一 一 = 一 一 一P A (a‑1) (l++‑) M 入間
を得る。ただし ,A = (a ‑1) d ‑ bc < 0であるO 第3節で与えられた Mの時間径路によれば ,lとW/Pの径路は次のようになるO
一一A b ‑Mn‑ ‑ U t 三二 O
lω=~ す (1+号)Moel't O 三二 t 三二 T
す
Moellt t 二三 T士
(αー 1)Mo t ζ OとP (t),‑/ =~~ ) A (α‑1) (1+土 )入 。Mne'/.t 0::;: tζ T
.‑m
士
(αー 1)Moe'J.T ミ Tただし,一入m<μ<0と仮定するo
数 学 注 (2 )
方程式(16)および(19)は
入z(a ‑1) ‑ D Azb f W P
O
Amc 〉川nd D+AmM
と書くことができるO ここで1/ (l‑a)はいわゆる雇用乗数である。
この連立方程式を lと W/Pについて解くと,
一般的超過需要における貨幣、賃金および雇用の逐次的調整 137 (‑^'l B M。
(D+入l A ) J = { ‑ M U f ) M o d t
¥ー^'zBMo eμt
M B
(D+λ似 (‑‑f.‑+入ll壬~) B (1 +二竺ー)Mo ef‑lt
‑‑m
入l
与三
BMoef‑ltbc b
ただし, A=1‑G+‑z‑,B= ‑ zーであるD 乙こでJの時間径路は連 続であると仮定して上記の微分方程式の解を求めるD
一 一 一B A ‑M^̲.‑U
l (t) =
B M
一 一 一 一 一 ー しA 入m (μ十入lA) [入lA(^'m+μ)♂t + JL(^'m ‑^'lA) Xexp(一 入zAt)J
‑+Mo{ef‑lT+μ(^'m ‑^'zA~ [1 ‑exρ{(μ+入lA)T}]
入間(μ+入zA) exp(一 入lAt)}
1 ‑a B
‑ b A …。
手
(t)=1 ‑a B M" r / ~A
‑一一一一一一‑ b A 入間 (μ十~[(ーとー +λ lA(入間 +μ〉^'lA)L'., 1 ‑a げ t+
竺
y ω ‑^'lA)exp (‑^'zAt) ] l二三~~Mο {ef-lT+~ '‑!'(M一 入lA)‑ b A ‑‑‑0'‑ . l‑a ^'m(μ十^'lA) X [1 ‑exp{(μ+入zA)T}exp(一入zAt)} 注(1)Barro and Grossman (1974)および(1976)の第3辛を参照せよ。
〔 参 考 文 献 〉
1) Barro, R. J. and H. I. Grossman,A General Disequilibrium Model of Income and Employment," American Economic Review, 61, Mar., 1971, 82‑93.
2) 一一一一一‑and‑‑‑‑ SuppressedInflation and the Supply Multiplier,"
Review of Economic Studies, 4 ,1 Jan, 1974, 87‑104.
3) 一一一一一‑and一一一一一, Money, Employment and Inflation, Cambridge
u. P., 1976.
4) Phelps, E. S.,The New Microeconomics in Inflation and Employ‑
ment Theory," American Economic Review, 59, May, 1969, 147‑60.