コミットメントとゲーム均衡
村 田 省 三
Abstract
In this paper, we concider the conditions which determine the unique- ness of the equilibria in extended duopoly games when they have a preplay stage deciding whether to select actions at the first or to wait in the basic quantity setting duopoly competition.In the extended game with action commitment, the two Stackelberg equilibria are the pure strategy equilibria in undominated strategies, if there is no external economy.
If there is external economy and additional production is available in the later stage, only one Stackelberg equilibria is to be the pure strategy equilibria.In this case we can examine which duopolist move first.
Keywords:action commitment,duopoly game,extended game,ex- ternal economy
1 はしがき
完全情報の数量戦略複占ゲームにおいては,通常,同時手番のクールノー
=ナッシュ均衡がゲーム均衡となる。これにたいして,
Hamilton
=Slutsky
(1990)(以下,H
・S
(1990))では,数量戦略を選択する以前に,先手・後手 の選択ステージがあるゲームを考案し,同時手番均衡以外に2つの先手後手 均衡もゲーム均衡になりうることを示した。H
・S
(1990)は,さらに,先手・後手の選択に加えて,待機戦略(
Wait
)をも選択可能とするゲームを検討 している。この場合,同時手番均衡が排除されることを定理8で示している。この結果,実現しうるゲーム均衡の種類が次第に特定化される可能性が示さ れたともいえるが,それでも,2つのシュタッケルベルグ均衡(先手後手均 衡)のうちどちらになるか特定できない。
本稿では,
H
・S
(1990)のゲームモデルに基本的には依拠しながら,完全 情報の数量戦略複占ゲームの均衡が,コミットメント戦略等によってどの程 度まで限定できるかを確認する。また,事前のゲーム均衡と事後のゲーム結 果を区別して把握するなかで,外部経済効果があるゲームにおいては,追加 生産可能な状況であれば,ゲーム結果が唯一になる可能性を示唆する。2 モデル
本稿を通じて,完全情報のもとでの数量戦略複占ゲームを仮定する。ゲー ムの定義域は
R
+2として,同時手番均衡および各複占企業先手によるシュタ ッケルベルグ均衡は定義域内部に唯一存在するものと仮定する。両企業によ る手番選択ステージ(図表1参照)があるケースを含むが,このステージは 必ず存在するわけではない。手番選択は,同時手番で実行され,1回限りの 選択であると仮定する。ここで,手番選択ステージがある場合,同ステージ図表1:手番選択ステージあるゲーム
で選択されるのは,先手(
F
)あるいは後手(S
)であるが,これに加えて,待機(
Wait
)という選択を含むことがある*1。この場合,Wait
戦略の選択 は1回限りであると仮定する。同戦略がとられる場合には,図表1のどこか に,Wait
戦略が(各企業にとって最大1箇所,両企業合計で最大で2箇所)追加されることになる。
Wait
戦略がまったく含まれない樹形図経路もある。先手・後手の選択ステージ後に,この結果を知るものとする。すなわち,
同ステージの後に手番選択観察ステージがある。手番選択ステージの前ある いは後に,各複占企業は,相手生産量を指定するタイプのコミットメントを おこなう場合がある。その後,数量戦略ゲームへと移行する。この数量戦略 ステージにおける,各企業の利潤関数は,もっとも一般的な形式では,
π1(
x
1,x
2)=(a
−b
(x
1+x
2))x
1−C
1(x
1,x
2) (1) π2(x
1,x
2)=(a
−b
(x
1+x
2))x
2−C
2(x
2) (2)である。第1企業は第2企業からの外部経済効果を,費用水準にたいして受 けることがある。外部経済効果がない場合の費用関数は
C
1(x
1,x
2)=C
1(x
1) となる。この数量戦略ステージでは,生産数量の計画(事前値)をおこなう。各企 業の生産能力に上限はないと仮定する。したがって,生産数量の計画段階で 調整不可能な生産量水準は存在しない。このステージ終了後に,計画された
*1 待機(Wait)という戦略は,H・S(1990)によれば,Dowrick(1986)の着想による。先 手または後手を選択するゲームはgame with observable delayといわれ,これに加えて Wait戦略をも選択可能なゲームはgame with action commitmentといわれる。広い意味 では,どちらもコミットメントゲームである。また,どちらのゲームにおいても,手番 選択ステージ終了後には,確定した手番を観察可能(observable)ではあるが,後者のゲー ムにあっては,両企業による各1回のアナウンス直後の段階では手番順序を確認するこ とはできない。
先手・後手のいずれかが確実に選択されるゲームでは,事後的に手番順序を確認でき るが,待機(Wait)が選択されたときには,手番順序について態度保留の状況をもたら す。
生産数量(事前値)の実行を観察する。生産水準を生産済水準以下に減少さ せることはできないものとする。ただし,追加的な生産は可能なこと(追加 生産ステージ)がある。
3 手番戦略ないゲーム
ここでは,先手・後手の手番選択ステージのない複占ゲームを考察する。
H
・S
(1990)では,先手・後手決定ステージのある複占ゲームの均衡戦略を 考察しているが,むしろ,このステージをもつ複占ゲームモデルは異例であ る。通例は,手番選択機会のないゲームであり,両企業ともに先手有利とな り,特段の手番順序が形成される理由はなく,両企業の最適反応曲線の交点 で与えられるクールノー=ナッシュ均衡がゲーム均衡とみられることが多 い。クールノー=ナッシュ均衡以外では,逸脱が発生するからである。たし かに,生産開始以前の逸脱を仮定すれば,クールノー=ナッシュ(同時手番)均衡をゲーム均衡とみることができる。ただし,模索ステージが必要になる。
通常は,このステージが暗黙裡に想定されていると思われる。
追加生産ない場合
各複占企業は,一括して生産をおこない,追加的な生産はないものと仮定 する。生産開始以前の模索過程は存在しないものとする。さらに,各企業は,
コミットメント戦略をとらないと仮定する。この仮定の下では,正生産量で あれば,どこでもゲーム結果となる可能性がある。このゲーム構造では,事 実上,数量確認ステージが存在するのみである。いかなるコミットメントも 有効にならない。ゲーム結果は観察可能と仮定するが,このこともゲーム結 果に影響を与えることはない。第1象限内のすべての点がゲーム結果候補と なりうる(図表2参照)。
図表2:手番戦略ないゲームのナッシュ均衡(1)
追加生産ある場合
各複占企業は,一度に生産をおこなう必要はなく,(1回限りのゲームの なかで)複数回に分割して生産をおこなうことができるものとする。すなわ ち,事後的な追加生産ステージがある。また,数量観察ステージは存在する ものと仮定する。このとき,両企業の最適反応曲線の右側に広がる領域(最 適反応曲線上を含む)のうちのどこかにゲーム均衡は存在しなければならな い。左側領域では,常に,事後的な追加生産の誘引が働く。このとき,同時 手番ナッシュ均衡(クールノー=ナッシュ均衡)はゲーム均衡の有力な候補 となる。
Dowick
(1986)がいうStackelberg Walfare
は起こりうる*2。ゲーム 均衡あるいはゲーム結果は,図表3における最適反応曲線の実線部分の右側*2 このStackelberg Walfareという概念について,H・S(1990)は批判的である。その理 由は,両企業が相互に最適反応を行なっていないということであり,仮に,このような 結果が得られるならば,それは何らかのエラーによると指摘している。この論点につい ては,ゲームの均衡戦略を意図しているか,あるいはゲームの結果(理論的な均衡が出 現するとは限らない)を意図しているかの相違が大きく影響しているのではないかと推 定される。模索過程の有無が関連するともいえる。
領域(境界含む)になる。追加生産可能なため,ゲーム結果が位置する可能 性のある領域は,前節モデルに比して狭くなる。このゲーム構造では,いわ ゆるコミットメントは有効でない。
図表3:手番戦略ないゲームのナッシュ均衡(2)
追加縮小生産可能な場合
各複占企業は,複数回に分割して生産をおこなうことができるものとする。
また,本項モデルに限って,事後的な生産縮小も可能とする。1回かぎりの ゲームである。数量観察ステージは存在するものとする。このとき,追加生 産可能であるから,両企業の最適反応曲線の左側領域にゲーム均衡は存在し ない。また,縮小生産可能であるから,両企業の最適反応曲線の右側領域に ゲーム均衡は存在しない。したがって,同時手番ナッシュ均衡(クールノー
=ナッシュ均衡)のみがゲーム均衡となる。これ以外に均衡は存在しない。
事後的な追加生産および縮小生産を可能とすることにより,ゲーム結果が位 置する可能性のある領域は完全に限定される*3。通例の複占ゲームでは,唯
*3 追加生産および縮小生産の両方が可能である場合には,一方の企業による任意の正値 生産量を始点として,相互に最適反応を繰り返すことにより,両企業の最適反応曲線交 点に収斂していく(収束)過程を検討することも可能になる。
一のナッシュ均衡が存在するというとき,この状況を念頭に置いているとも 考えられる。事後的な追加縮小生産可能な場合が,事前の生産計画段階での 模索過程と同等な効果を発揮する。このゲーム構造では,いわゆるコミット メントが有効となる可能性はない。
外部経済と均衡戦略
ここでは,外部経済があると仮定する。このために,2つのシュタッケル ベルグ均衡点が,両企業の最適反応曲線の交点からみて同じ側に位置するも のとし,両企業ともに後手有利であると仮定する*4。このケースでも,追加 的な生産が可能であれば,各企業の最適反応曲線より左側には,ゲーム均衡 点およびゲーム結果のいずれも位置していないことは前節と同様である*5。 ただし,クールノー点より右側では第2企業の最適反応曲線上において,クー ルノー点より左側では第1企業の最適反応曲線上において,第2企業先手の シュタッケルベルグ均衡点に至るまで,第2企業の利潤は単調増加となり,
第2企業先手のシュタッケルベルグ均衡点のみが,唯一のゲーム均衡となる 可能性がある。
このことは,外部経済効果を受ける企業(たとえば第1企業)が,第2企 業にたいして,以下のコミットメントを実施するときに起こりうる。もちろ
*4 外部経済効果が第1企業後手の場合にのみ発生して,第1企業先手の場合には発生し ないならば,ゲーム均衡は唯一になる可能性がある。この仮定を満足する具体的数値例 モデルを構築するならば,外部経済効果を発生させている第2企業にはしばしば支配戦 略(先手)が発生し,そのため,外部経済効果を受ける第1企業に支配戦略(後手)を 発生させることがある。この結果を発生させるには,複雑な外部経済項の設定は必要で なく,たとえば1次の外部経済項を第1企業利潤関数に追加するだけでも十分である。
*5 外部経済効果が第1企業後手の場合にのみ発生して,第1企業先手の場合には発生し ないならば,ゲーム均衡は唯一になる可能性があることを既に指摘した。この結果を得 るのに,模索ステージの存在は必要でない。一方,模索ステージがある場合,そこに無 限繰り返し(模索)ゲームの存在を仮定すれば,やはり,ゲーム均衡を唯一化すること が可能な場合もある。このとき,パレート優位なシュタッケルベルグ均衡をゲーム結果 とするためには,パレート劣位なクールノー=ナッシュ均衡を罰則経路とするトリガー 戦略を想定すればよい。
ん,このコミットメントを何時アナウンスするかについて疑問は残るが,ど ちらにしろ,このことは事前に予想され,結局,このコミットメントの有無 にかかわらず,
E
S2点は実現されることになる。コミットメント:自企業(第1企業)は,最適反応戦略に従って追加 生産する。
図表4:手番戦略のないゲームの均衡(3)
4 手番戦略あるゲーム
本節では,各複占企業は,数量戦略選択ステージの前に,手番選択ステー ジをもつと仮定する。このゲームは,
H
・S
(1990)により考案された。この 場合,手番ステージの結果を観察したうえで,数量戦略を決定するから,2 つのシュタッケルベルグ均衡(先手後手均衡)かクールノー=ナッシュ均衡(同時手番均衡)以外のゲーム均衡は出現しにくいが,クールノー=ナッシ ュ均衡(同時手番均衡)以外の均衡が出現しない場合に比べれば,均衡のタ イプは拡大している。このゲームで考慮すべきは,先手か後手かという二者 択一問題である。このため,僅かな数量的逸脱が本来的にありえないことが
特徴的である。
Wait
戦略ないゲーム各複占企業は,数量戦略を決定するステージの前に,手番選択ステージを もつものと仮定する(図表5参照)。そこでは,先手または後手という戦略 の選択がおこなわれる。手番選択は,同時手番で実行され,かつ1回限りの 選択であると仮定する。手番選択ステージ終了後,各企業はこのステージの 結果を観察可能であると仮定する*6。ここで,複占企業の一方が選択する手 番順序(たとえば先手)と他方が選択する手番順序(たとえば後手)が異な っている場合には問題はないが,両企業ともに同種類の手番(たとえば両企 業とも先手)を選択したときには,
H
・S
(1990)にしたがって,同時手番に なるものとする。このことについて,H
・S
(1990)での説明はないが,先手 選択が,たとえばゲーム第1日目における生産を意味しており,後手の選択 は,ゲーム第2日目における生産を意味していると解釈するのが相当である。図表5:手番選択ステージあるゲーム
*6 図表5では,手番選択ステージが同時手番で実行されると仮定されている。第2企業 は,第1企業の手番選択結果を知らないまま,手番を選択する。この場合,図表4の樹 形図下端(4つの節からなる)が共通の情報集合に含まれるのを通例とするが,本節モ デルでは,手番選択ステージ終了後に,各企業は同ステージの結果を観察可能であると 想定しているため,各々,異なった情報集合に属する形式で表現されていることに注意 が必要である。
すなわち,相手の出方に無関係に生産日を決定する構造である。このとき,
先手戦略の選択は,先手を必ずとるという強い意思決定を意味しない。
このケースでは,同時手番クールノー=ナッシュ均衡と2つのシュタッケ ルベルグ均衡のいずれもゲーム均衡になる可能性がある。また,これ以外の 純戦略均衡は存在しない。手番選択ステージ終了後,各企業は手番順序を確 認するのであって,その後,数量戦略ステージに移行することを考えれば,
これ以外の純戦略均衡が出現する理由はない。これが,
H
・S
(1990)定理7 の意味するところである。Wait
戦略あるゲーム各複占企業は,数量戦略を決定するステージの前に,手番選択ステージを もつものと仮定する。ただし,そこでは,先手または後手という戦略の他に,
Wait
戦略をとることができると仮定する。前節と同様に,先手後手の手番 選択は1回限りであると仮定する。また,Wait
戦略の選択も1回限りであ ると仮定する。本項ゲームにおける手番選択ステージも,前節と類似の樹形 図(図表5)によって記述することが出来るため,記述は省略するが,同図 表のどこかには,Wait
戦略が(各企業にとって最大1箇所,両企業合計で 最大で2箇所)追加される。もちろん,Wait
戦略がまったく含まれない樹 形も一部には存在することになる。このケースでは,同時手番クールノー=ナッシュ均衡は排除され,2つの シュタッケルベルグ均衡がゲーム均衡になる可能性をもつ。同時手番が均衡 から排除されるのは,結局,逸脱が起こるからである。同時手番に対応する 生産量が,手番選択ステージのなかの第1ステージ,第2ステージのいずれ にあると想定したところで逸脱が発生する。他方の企業が,選択ステージの なかの第1ステージで待機(
Wait
),第2ステージで最適反応(best Reply
) をとるという戦略への逸脱である。これが,H
・S
(1990)定理8の意味する ところである。外部経済と
Wait
戦略外部経済がある場合,2つのシュタッケルベルグ均衡点が,両企業の最適 反応曲線の交点(同時手番クールノー=ナッシュ均衡)からみて同じ側にあ り,2つのシュタッケルベルグ均衡が,共に,同時手番均衡(クールノー=
ナッシュ均衡)より,利得水準の意味でパレート優位になっていると仮定す る。さらに,一方のシュタッケルベルグ均衡が他方のシュタッケルベルグ均 衡より,利得水準の意味でパレート優位になっていると仮定する。各複占企 業が数量戦略を決定するステージの前に手番選択ステージをもち,先手,後 手または
Wait
戦略をとることができると仮定するならば,2つのシュタッ ケルベルグ均衡のうちいずれか一方のみがゲーム均衡となるように思われる が,確実に一方のシュタッケルベルグ均衡に誘導できない。5 コミットメントとゲーム均衡
前節の
Wait
戦略は,H
・S
(1990)によれば,ひとつのコミットメントと 考えられている。本節では,より強力なコミットメントをともなう数量戦略 複占ゲームにおいて,ゲーム均衡がひとつに確定することがあるかどうかを 検討する。無限
Wait
戦略H
・S
(1990)のゲームでは,両企業がともに先手戦略を選択した場合には,ゲーム結果は同時手番になるとされている。両企業がともに後手を選択した 場合も同様である。ただし,どうしても先手をとるという戦略的コミットメ ントはありうる。たとえば,一方の企業(たとえば第2企業)が後手を選択 したい場合には,相手企業(たとえば第1企業)が先手を選択するまで待機
(
Wait
)するという戦略である。このような戦略は,外部経済効果のない 通常の数量戦略複占ゲームでは奏功しない。この場合,両企業が選択したい 手番順序は同一になるから,両企業ともに無限Wait
戦略をとれば,ゲームは終わらない。しかし,外部経済効果により,両企業が選択したい手番順序 が異なる場合には,奏功する可能性がある。
例えば,第1企業のみが外部経済による生産費用逓減効果を受けており,
そのため,どちらの企業が先手であれシュタッケルベルグ均衡が同時手番均 衡よりパレート優位になっているとする。また,第2企業先手のシュタッケ ルベルグ均衡が,利潤の意味で,第1企業先手のシュタッケルベルグ均衡よ りパレート優位であるとする。さらに,ゲーム均衡は,クールノー=ナッシュ 均衡か2つのシュタッケルベルグ均衡のいずれかになることが分かっている と仮定する。このような特殊状況のもとでは,無限
Wait
戦略が有効である。手番決定戦略
両企業がともに先手戦略を選択した場合には,次の数量戦略決定ステージ にゲームが移行しないゲームもありうる。もちろん,完全対称な両企業が,
ともに先手を主張すれば,永遠にゲームは進行しないから,その点では無意 味な自己主張であるが,対象性が崩れているゲームにあっては,このような 戦略がむしろゲーム均衡をもたらすことがある。これが有効となるゲーム状 況は,直前の項(無限
Wait
戦略)が参考になる。追加生産とゲーム均衡
コミットメント戦略は,ゲーム均衡を特定化するうえで有力な概念のよう に思われるが,外部経済効果により一方のシュタッケルベルグ均衡利得が他 方のシュタッケルベルグ均衡利得よりパレート優位である場合でも,決定的 な解決手段とはならない。これにたいして,本項では,追加生産ステージを もつゲームの場合,外部経済効果の影響によっては,ゲーム均衡がひとつに 確定する可能性を確認する。
ここでは,基本的には,
H
・S
(1990)のゲームに従うものとするが,事後 的な追加生産(増産に限る)が可能であり,また,外部経済効果により第2 企業先手のシュタッケルベルグ均衡(E
S2)が第1企業先手のシュタッケル ベルグ均衡(E
S1)および同時手番のクールノー=ナッシュ均衡(E
c)より,利得の意味でパレート優位であると仮定する。このとき,少なくとも同時手 番均衡をもたらす手番順序である(
F
,F
)および(S
,S
)では,逸脱が発生す る(図表6参照)。この段階での逸脱は,計画段階での逸脱である。模索ス テージにおける逸脱であるといってもよい。したがって,事前の意味での純 戦略ゲーム均衡は,(F
,S
)あるいは(S
,F
)のいずれかの手番順序のとき に実現され,その均衡点はE
S2あるいはE
S1になる。図表6:手番の一覧
ところが,事後的な追加生産を可能とみれば,ふたつのシュタッケルベル グ均衡点の配置が図表8のとき,第1企業先手のシュタッケルベルグ均衡
(
E
S1)は事後的に排除される。ここで,第1企業のみが追加生産可能なら,同企業は増産する。これは,ゲームの手番選択ステージで予想されるから,
第1企業先手のシュタッケルベルグ均衡(
E
S1)は,例えば図表7における(
E
S1)*7等として,最初から認識される。この利得表(図表7)に支配戦略 があれば,そして,第2企業先手のシュタッケルベルグ均衡(E
S2)が選択図表7:追加生産ある場合の利得表
*7 必ずES1になるとは限らない。ただし,BR1上になることは明らかである。
されれば,これが唯一のゲーム均衡になり*8,手番順序は確定する。コミッ トメントあるいは手番選択ステージがあるかどうかはそれほど重要でない。
罰則経路の付随しないコミットメントに威力はない。第2企業のみ追加生産 可能な場合でも,類似の結果を指摘できる*9。
図表8:シュタッケルベルグ均衡の配置
6 あとがき
本稿では,基本的には
H
・S
(1990)の手番形成ゲームを拡張することによ って,手番が確定するのはどのような場合であるかを検討した。結果的には,何らの非対称性もない場合に,先手後手が確定することを論証できない。こ の結論は,すでに
H
・S
(1990)によって予想されている。ただし,外部経済 による費用逓減効果を一方の企業が受けるときには,事後的な生産追加可能*8 この条件を満たす数値例を考案することは容易である。なお,先手第1企業の最適反 応戦略にともなう事後的増産が発生することを,ゲームの手番選択ステージで予測でき る後手第2企業は,最初から第2企業先手の均衡(ES2)に対応する生産量が最適生産に なる可能性は高い。この結果がもたらされるかどうかは,設定されるゲームモデルの数 値に依存する。
*9 両企業ともに追加生産可能なときでも,両企業の増産にともなって,事後的に最適反 応曲線から離れてしまうことはない。どちらのシュタッケルベルグ均衡にしても,一方 の企業の最適反応曲線上にあるため,両企業が共に逸脱(増産)する状況は起こらない。
な状況のもとで,同企業の均衡生産量がより少ない側のシュタッケルベルグ 均衡は,ゲーム均衡から排除できることを論証した。また,外部経済効果が あるとき,特殊なコミットメントを実施可能であればゲーム均衡を特定化で きる可能性をめぐっては疑念がもたれる。各複占企業によるコミットメント のタイミングに先手後手関係が認められれば問題はないが,それが同時手番 で実行される場合を排除できなければ,結局のところ,ゲーム均衡の特定化 にいたらない。とはいえ,本稿で検討したコミットメント戦略がすべてでは ない。これ以外の種類の戦略によって,特定手番順序によるゲーム均衡のみ がゲーム均衡となりうる場合を本稿は排除できたわけではない。
外部経済等の効果によって,先手・後手にもとづく利得表に,もともと支 配戦略が存在していれば,追加的仮定なしに自働的に,
E
S2点は達成される。また,原初的には支配戦略がなく,したがって,相手企業の行動をコントロー ルなしには
E
S2の達成困難なときでも,外部経済を受ける企業が相手企業に たいして(事前に)給付をおこなえば,支配戦略が出現することがありうる。さらに,本稿における無限
Wait
戦略が合理的なときにも,やはり支配戦略 の出現はありうる。ただし,原初的に支配戦略がなく,給付などの自企業行 動のみによっては,支配戦略を出現させることが困難なとき,E
S2点を実現 しようとすれば,結局,次の2要素を想定しなければならない。ひとつは,何らかの態度表明(コミットメント)または事実(既知または実現可能)で ある。これは,相手企業の行動を誘導する要素である。もうひとつは,この 要素について,それを実現させる実行力である。これは,結局のところ,合 理的な罰則経路(
punishment path
)の構築可能性を意味する。ここで合理 的というのは,この罰則経路の実行によって自企業利潤を低下させることが ないという意味である。これがなければ,態度表明は強制力を持ち得ない。本稿での追加生産可能性をめぐる仮定はこれに対応するものになっている。
なお,
Wait
戦略型のコミットメント導入は,同時手番均衡を成立しにく くする性質がある。参 考 文 献
[1] Amir,R.(1995). Endogenous Timing Two-Player Games:A Counter Example, Games and Economic Behavior.9.234‑237.
[2]Dowrick,S.(1986). von Stackelberg and Cournot Duopoly:Choosing Roles, Rand Journal of Economics.17.251‑260.
[3]Gal-Or,E.(1985). First Mover and Second Mover Advantages, International Eco- nomic Review.26.649‑652.
[4]Hamilton,J.and S.Slutsky.(1990). Endogenious Timing in Duopoly Games:Stack- elberg or Cournot Equilibria, Games and Economic Behavior.2.29‑46.
[5] 村田省三(2008).「外部経済と複占ゲームの均衡」応用経済学研究.第2巻.30‑43.
[6] 村田省三(2008).「Amir条件と等利潤線の形状」九州経済学会報告論文.