米国の生保会社会計の現状
栁 田 宗 彦
■アブストラクト
米国生命保険会計には,保険監督官向けの法定会計であるSAPと,投資 家向けのGAAPとの異なる会計基準がある。財務諸表は,現在も全生保が SAPを単体ベースで作成し,上場生保はGAAPを連結ベースで作成してい る。1996年からは,SAPの財務諸表に対して公認会計士からの適正意見が 付かなくなっており,相互会社は,アニュアルレポートにおいてSAPの財 務諸表を開示しているが,公認会計士の意見は載っていない。GAAPにお ける有価証券の会計処理は,投資方針を反映した各社区々の対応をしている。
また,保険会計のGAAPにおいてはIFRSと整合性をとった会計基準を協 力しながら作成しようとしており,資産側だけでなく負債の時価評価も取り 入れようとしているが,2011年6月完成の予定だったものの,まだ完成して いない。米国の監督当局は,IFRSやヨーロッパのソルベンシー規制にどの ように対応すべきかを検討している。
■キーワード
米国保険,生命保険会計,IFRS
1 はじめに
米国における生命保険会計動向について,1993年と2001年に論文を書いて きた。当初は研究所で仕事として書いていたが,現在は会社も変わり,仕事 と会計のかかわりもなくなっているが,当初の興味を持ち続けてフォローし
/平成23年10月10日原稿受領。
ている。
米国における保険会社の会計基準は,全米保険監督官連合(National Association of Insurance Commissioners ,以下NAIC)が制定する保険
監督官向けの法定会計(Statutory Accounting Practices,以下SAP およ び会計基準設定機関である米国財務会計基準審議会(Financial Account- ing Standards Board,以下FASB)が制定する投資家向けである一般に 認められた会計基準(Generally Accepted Accounting Principles,以下 GAAP がある。ただ,過去と比較すると,SAPの会計基準にGAAPの会 計基準が取り入れられており,違いは減ってきている。
米国生保会計を巡る動向において,アニュアルレポートの入手も容易にな り,中身も変わってきているなど,大きく変わってきたという印象を受けた。
変化した内容は,以下の三点である。
①国際財務報告基 準(International Financial Reporting Standards,以 下,IFRS)の保険契約の公開草案を受け,議論が行われている
②SAPもGAAPの要素を取れ入れ,変わってきており,さらにIFRSの 動向を受けて変わることも視野に入れている
③インターネットを通じた情報公開が進むとともに,新たな取り組みが行わ れている
これらの点について,以下にまとめてみた。
2 米国生保会社の財務報告
2.1 SAP と GAAP の相違
保険監督のための会計であるSAPは,現時点の収益性よりも将来にわた
1)
Practicesという単語が使われているのは,必ずしも統一した規定がないこ
とによる。一方,NAICとしては
SAPに Principlesの単語を用いている。
2)
GAAPの会計基準は,過去からの民間の会計基準設定機関が公表してきた
多数の基準の積み重ねにより構成されている。これらの基準は,業界共通だけ ではなく,特定分野,特定業種向けの会計処理も規定しており,わが国の企業 会計原則のように企業会計全体を包括するのではなく,新たな基準が公表され
って保険金を確実に支払うことを主眼とした 健全性を適切に判断するため の会計基準 である。そのため,SAPは保険金支払い能力であるソルベン シーに焦点を置いている。
これに対して,GAAPは投資家のための会計であることから収益に焦点 を置いており,他業態も含めた比較可能性を重視している。そのため,
SAPとGAAPにおける大きな差異は,①SAPが単体ベースであるのに対 して,GAAPが連結ベースであること,②SAPは資産評価が原則として取 得原価であり,資産 と し て 認 識 し な い 非 認 容 資 産 が あ る の に 対 し て,
GAAPは原則として時価により評価していること,③新契約費の資産計上 と責任準備金の評価方法の三点である。
米国において保険会社は,連邦ベースでの監督を受けておらず,州の監督 官の規制を受け,会計報告は州の監督官に提出している。そのため,SAP は全ての生保会社が作成している。一方,GAAPは投資家報告向けの会計 基準としてすべての業界共通の会計基準として存在しているが,公開してい ない保険会社は作成していないことから必ずしも全ての生保会社が作成して いない。
例えば,メットライフ アリコはアメリカン・ライフ・インシュアランス・
カンパニーの日本支店であるが,そのアメリカン・ライフ・インシュアラン ス・カンパニーは公開会社ではないためSAPの財務諸表は作成しているが,
GAAPの財務諸表は作成していない。その親会社のメットライフはSAPと GAAPの財務諸表を作成している。ただし,SAPの財務諸表は個社ごとに のみ作成されており,連結では作成されていない。例えば,メットライフ
(MetLife Inc.)のホームページには,Metropolitan Life Insurance Com- pany, MetLife Insurance Company of Connecticutお よ びMetLife Life and Annuity Company of Connecticut の3社のSAPの報告書が掲載さ
れている。逆にGAAPの財務諸表は個社ごとに作成されておらず,連結の
たときには,過去に公表されている該当する基準が修正または廃止されること もある。
みが作成されている。
2.2 GAAP 採用状況
1992年度の米国の生保会社のアニュアルレポートにおける会計基準の選択 状況を見たところ,米国の相互会社はSAPを使用しており,株式会社は GAAPを使用していた。その後,1999年度においては,株式会社移行を表 明していた会社と株式会社化を予定していない相互会社でガーディアン・ラ イフがGAAPを採用していた。そのため,相互会社であり株式会社移行を 表明していないニューヨーク生命とノースウェスタン・ミューチュアル生命 を除いた保険会社上位10社のうち8社がGAAPにより報告を行っていた。
1992年において大手12社のうち8社が相互会社であったが,2000年前後の 時点に大手社の株式会社が進んだことにより,2010年時点ではそれらのうち 相互会社として残っている会社は4社であった。
今回,2010年度の会社形態別のアニュアルレポートにおける会計原則採用 状況について同じ会社をみたところ,株式会社がGAAPを相互会社はSAP を採用しており,相互会社によるGAAP採用は行われていない。また,ア ニュアルレポートにおいて,株式会社は公認会計士による監査報告は掲載さ
表1 米国の大手生命保険会社の株式会社化
(出典) 拙著 米国の生保会社会計の現状 にその後の状況を加筆修正
Equitable Life
1992年7月に株式会社化Principal Mutual Life
2001年10月に株式会社化Prudential Insurance of America
2001年12月に株式会社化Metropolitan Life Insurance Company
2000年4月に株式会社化John Hancock Mutual Life
2000年1月に株式会社化Manulifeの子会社
会社名 備考
れているが,4社の相互会社には掲載されていない。
なお,1999年度のアニュアルレポートにおいてGAAPを採用していたガ ーディアン生命の会計原則の選択は2010年度においてはSAPに戻っていた。
ガーディアン生命のアニュアルレポートは1年分しかホームページに掲載さ れていないため,いつからなぜ変更されたのかは不明である。
2.3 有価証券の時価評価
GAAPで は 有 価 証 券 を 保 有 目 的 に 応 じ て 満 期 保 有(held to matu- rity) , 売買目的(trading) , 売却可能(available for sale) に分類し
表2 米国生保のアニュアルレポートにおける会計原則採用状況
(出典) 各社アニュアルレポートにより作成
*Annual Reportに財務諸表が掲載されていない
*1992年は拙著 米国生保会社の
GAAP会計 ,1999年は拙著 米国の生保会社
会計の現状 による。会社名 1992年度 1999年度 2010年度 会計原則
GAAP GAAP
SAP GAAP
GAAP
GAAP
GAAP GAAP
SAP SAP
SAP 会社形態
株式 株式 相互 株式 株式 株式 株式 株式
相互
相互
相互 会計原則
GAAP GAAP
SAP GAAP
GAAP
GAAP
GAAP GAAP
GAAP
SAP
SAP
GAAP 会社形態
相互 相互 相互 相互 相互 株式 株式 株式 株式
相互
相互
相互 会計原則
SAP SAP SAP SAP SAP
GAAP
* GAAP
GAAP
SAP
SAP
SAP 会社形態
相互 相互 相互 相互 相互 株式 株式 株式 株式
相互
相互
相互 プルデンシャル
メトロポリタン ニューヨークライフ プリンシパル ジョン・ハンコック (ManuLifeの子会社) エトナ
ハートフォード リンカーン・ナショナル トラベラーズ
(MetLifeの子会社) ノースウェスタン・ミュ ーチュアル
マサチューセッツ・ミュ ーチュアル
ガーディアン 1
2 3 4 5 6 7 8 9
10
11
12
てそれぞれ異なる会計処理を行っている。 満期保有 は負債証券のうち企 業が満期まで保有する明確な意志と能力を持っている場合に分類され,償却 原価評価される。 売買目的証券 は,負債証券および持分証券を短期間で 売却することを目的として購入した場合に分類され,時価評価が行われ,評 価損益は損益計算書に算入される 。 売却可能 は,そのどちらにも分類 されない場合であり,時価評価が行われ,評価損益は包括利益(compre- hensive income)として,当期損益には算入されない。
米国生保では資産構成のうち最も多いのが債券で,株式の占める割合は低 い。このことから,債券を時価評価すると,資産側のほとんどを時価評価す ることになる。資産全体に占める債券の割合は52.1%,株式は27.9%となっ ている。しかし,全てが時価評価される分離勘定を除き一般勘定だけで見る と,債券の割合は71.0%,株式は2.3%となり,株式の割合は少なく,日本 の生保との資産構成は異なっている。
生保の有価証券は,売却可能にもっとも多く分類されている。表4に,
2000年,2005年,2010年の三年分についてアニュアルレポートにより有価証 券の分類を確認できたメットライフ,プルデンシャル生命,エトナ生命の三
3) 持分証券は企業に対する所有持分を表す証券であり株式に代表され,転換社 債や償還可能な優先株式は含まれない。負債証券は債券に代表される発行体と 債権者の関係を示す有価証券を指している。
表3 米国生命保険会社の資産構成 (%)
(出典)
ACLI, “Life Insurers Fact Book
2010”より作成
一般勘定 分離勘定 資産全体10.1 5.4
12.6 その他
契約者貸付 3.7 0.0 2.5
不動産 0.6 0.5 0.6
株式 2.3 80.0 27.9
債券 71.0 13.5 52.1
6.8 0.6
9.8 モーゲージ
社について比較した。メットライフは,満期保有には全く分類せず,債券に ついてほとんど売却可能に分類していたが,売買目的証券が増加してきてい る。2010年の売買目的証券が185億ドルであるが,前年度は23億ドルである。
表4 米国生保各社における有価証券の区分状況
メットライフ (百万ドル)
プルデンシャル生命 (百万ドル)
2000 2005
2010
0 0
0 満期保有証券
115,172 (112,979)
(2,193) 233,388
(230,055) (3,338) 330,890
(327,284) (3,606) 売却可能証券
(負債証券)
(持分証券)
0 825
18,589 売却目的証券
2000 2005
2010
12,448 3,362
5,226 満期保有証券
86,144 (83,827)
(2,317) 160,164
(15,5153) (5,011) 202,724
(194,983) (7,741) 売却可能証券
(負債証券)
(持分証券)
0 0
0 売却目的証券
(出典) 各社ホームページのアニュアルレポートおよび拙著 米国の生保会社会計の現状 により作成
エトナ生命 (百万ドル)
売却目的証券 18,589 825 0
売却可能証券
(負債証券)
(持分証券)
330,890 (327,284)
(3,606)
233,388 (230,055)
(3,338)
115,172 (112,979)
(2,193)
満期保有証券 0 0 0
2010 2005 2000
アニュアルレポートによれば,買収したアメリカン・ライフ・インシュアラ ンス・カンパニーが販売しているユニットリンク保険に対応する資産が売買 目的証券に該当したからとされている。エトナ生命は,満期保有には全く分 類せず債券について全部,売却可能に分類している。また,株式についても 同様に全て売却可能に分類している。一方,プルデンシャル生命は,債券を 一部ではあるが満期保有にも分類しており(売買目的にはゼロ),株式も売 却可能に分類している。一般的に,債券を満期保有に分類しないのは,資産 運用における自由度を確保するためと考えられる。債券を満期まで保有する として固定してしまうことが運用への制約となってしまうからである。これ に対して,プルデンシャル生命が一部を満期保有に分類しているということ は,満期まで保有する意思と可能性を持っていることを示している。このよ うに,各社の投資方針などを反映して分類されている。
3 米国生保会計における動向
3.1 SAP の見直しの動き
銀行・証券が基本的に連邦規制であるのに対し,保険監督は伝統的に州レ ベルで行われてきため,州によって会計基準は異なることがあった。そのた め,SAPは1871年に複数の州において営業している保険会社会計を調整す ることを目的として設定された。SAPに関する規制等は州によって異なり,
また規制が同じであってもその運用においても州の監督官による裁量がある ことから,SAPの統一要請や監督官の裁量による部分の開示が要求されて いた。NAICは保険監督の調和の観点から会計規制の統一に向け取り組み,
モデル法の制定などを行ってきたが,州におけるモデル法採択についても必 ずしも強制力はなかった。
その後,1980年代に保険会社の経営破綻が続発したことから,保険会社の 財政状態およびそれを的確に示す会計基準に対する関心が高まっていた。
NAICはソルベンシー規制の整備・拡充を行い,1989年に採択したソルベン シー規制の重点協議事項の一つとして統一した会計基準を作成する法典化
(Codification)を採り上げた。法典化は1991年から始まり,1994年から本 格化した。1996年からはSAPによる財務諸表を作成していると公認会計士 からの監査意見として 一般に認められた会計基準に基づいて作成した と の適正意見を取得できないこととなり,相互会社もGAAPに準拠した会計 処理が求められることとなった。このことから,適正意見を取得するために,
GAAPではないが,適正意見が付けられる会計基準となる,その他の包括 的 な 会 計 基 準(Other comprehensive basis of accounting,以 下 OCBOA)としてSAPを認定してもらうために,全米での会計規制の統一 を行い包括的な基準書を作成する必要性が高まってきた。
法典化の検討過程において,NAICには財務報告としてGAAPを使い,
ソルベンシーのモニタリングおよび調整には別のツールを使用する,つまり,
カナダ・オーストラリアのようなGAAPとソルベンシー関連の付加情報を 使う制度とする方向性をとりえたが,NAICは,その方向を選ばずSAPに よる財務報告を通じてソルベンシーのモニタリングを行うことを選んだ。そ して,GAAPをそのままSAPに適用するのではなく,部分的に取り入れて いく方法をとっている。具体的には,税効果会計,退職給付会計の導入,死 亡率を含まない預託型契約の収入保険料を負債に直接計上する方式を取り入 れている。
法典化は,まず,1994年9月にNAICがSAPの基礎的フレームワークと し てSAP概 念 基 準 書(Statutory Accounting Principles Statement of Concepts)を 採 択 し,こ の 基 準 書 に 基 づ く テ ー マ ご と の 論 点 書(Issue Papers)を作成した。SAPの基本コンセプトとして①保守主義(conserva-
tism),②継続性(consistency),③認識基準(recognition)の三点とされ た。論点書は,保険業界等からのコメントを受け,これを修正・整理統合す ることにより基準作りが進められ,2001年1月から適用され始めている。
法典化後においても残る,SAPとGAAPにおける大きな差異は,①単体 財務諸表か連結財務諸表か,②資産評価,③新契約費の資産計上と責任準備 金の評価方法の三点である。
SAPでは財務諸表は単体のみで作成されている。NAICは連結を採用し ない理由として,基本コンセプトのひとつである認識基準をあげている。す なわちソルベンシーの表示ができるように認識すべきであり,現在および将 来の債務弁済期において容易に換金できる資産によって裏付けられねばなら ないとしている。
資産評価として,保険会社の資産を貸借対照表に計上できる 認容資産 , 非計上の 非認容資産 に分け,資産の過大な計上しないようにするととも に,取得原価で計上している。併せて,AVR(資産評価準備金),IMR(金 利変動準備金)の計上が行われている。資産評価準備金は投資資産の価格下 落等に対処するため負債として法定上限まで積み立てが求められる。金利変 動準備金は確定利付資産の売却益を売却時に認識するのではなく,保有して いたのと同様に,残存期間にわたって償却原価で計上しているのと同じよう に収益認識するための準備金として負債に計上され,償却される。
責任準備金の基礎率は,利率(保険種類別に市場利率に一定の安全度を設 定),死亡率(保険監督官指定の死亡表―80年保険監督官死亡表)であり,
評価方式は保険監督官式責任準備金評価法(初年度定期式またはその修正方 式)と規定され,保守的な責任準備金積立が行われている。また,SAPで は新契約費を支出した年度に一括費用処理しているが,GAAPでは新契約 費を資産計上している。
しかしながら,法典化による会計基準が州の立法・規制権限に優先しない こと,SAPは引き続き州の法令・監督に基づいて作成することとされ,新 会計基準がSAP唯一の会計基準とならなかったことから,新会計基準が全 保険会社に適用されないこととなり,新基準はOCBOAと見なされるには いたらなかった。そのためか,相互会社はSAPを採用しているアニュアル レポートにおいて,公認会計士の監査報告書を掲載していない。
.2 IFRS と GAAP における会計処理
IFRSを審議しているのは国際会計基準審議会(International Account-
ing Standards Board,以下IASB)であり,世界100カ国以上が採用しよ うとしている。IFRSの目的は,国際的に一貫した単一の認識および測定基 準であり,財務諸表利用者への有用な情報を提供している。ただし,日本に おける当初予定されていた2015年強制適用は,延期することが見込まれてい る。
保険契約の会計処理について検討が行われてきた背景には,現在の保険会 計はブラックボックスであることが挙げられている。つまり,国によって基 準が異なり,さらに同一基準の中であってもばらつきがあること,他業態も 含めた比較可能性および透明性が欠如しており,保険会社間における比較を 困難にするとともに,保険事業における経済的価値の反映できない可能性が ある。そのため,現行の保険会計では,財務諸表の利用者に目的適合的な情 報が提供されないとされている。
米国では自国の会計基準がグローバルスタンダードであるという自負から,
IFRSへの関心は従来においては高くはなかった。しかし,IFRSへの認知 が高まり,米国基準よりも緩い基準が世界で通用することを避けるため,
FASBも保険契約プロジェクトに積極的に関わりを持っている。そのため,
FASBがプロジェクトに参加した後は,FASBとIASB共同で議論が行わ れている。さらに,NAICでも1999年8月に,IFRSワーキンググループを 結成し,IFRSへの対応を開始している。
IFRSにおける保険契約のプロジェクトは2つのフェーズに分けられてお り,2004年にそのフェーズⅠとして,IFRS第4号 保険契約 を公表した。
IFRS第4号では,各国で使用されている保険契約に関する多くの既存の会 計処理の継続適用を容認していた。
IASBは,FASBとともに,保険契約のためのIFRSの策定を推進してい る。しかし,多くの基礎的な論点について,未だ議論されている状況にあり,
さらにこれらの論点についてIASBとFASBとの間で見解が異なっている。
そのため,保険契約の測定に関する基本的な考え方である測定アプローチな どの重要な分野の決定においてまだ変更される可能性がある。
2010年7月にIASBは,IASBとFASBとの間で合意に至らない論点か があったことから,単独でフェーズⅡとして公開草案を公表した。公開草案 は,保険契約に関する国際的に統一した認識および測定基準を策定すること を意図しており,最終基準化された場合には,IFRS第4号と置き換えられ る。これに対してFASBは2010年9月に,IASBの公開草案,FSABが至 った暫定決定,およびこれらの比較を示したディスカッション・ペーパーを 公表し,意見を求めている。当初は2011年6月には公開草案から基準化の予 定とされていたが,FASBとの不一致事項が残っていることから,検討期 間が延長され,最終基準化は2012年度にずれ込むことが見込まれている。
IFRSの特徴として,資産・負債双方への時価評価がある。特に,保険負 債への時価評価導入は,利率だけでなく,死亡率・事業費率についても評価 時に見直しが行われる。保険負債の計算を,SAPやGAAPが採用している 利率や死亡率を契約時から変更しないロックイン方式ではなく,最新の利率 や死亡率に合わせて計算する方式が採用される。
保険負債の計算は, ビルディング・ブロック(積み木) ・アプローチを 用いる。IFRSにおけるこのアプローチにおいて保険契約の履行に関連して 生ずるキャッシュ・フロー(履行キャッシュ・フロー)の現在価値は,将来
キャッシュ・フローの現時点での見積り,割引率,およびリスク調整の3つ から構成されている。 リスク調整 とは,将来キャッシュ・フローの金額 履行キャッシュ・フローおよび時期に関する不確実性の影響の見積りとされ ている。この履行キャッシュ・フローの現在価値と残余マージンの合計が契 約時点の保険負債となる。そして,この 残余マージン は保険期間にわた って損益として認識されることになる。FASBでは,この リスク調整 と 残余マージン を合わせて複合マージンとして保険期間にわたって損益 として認識するとしているところが異なっている。
保険会社への影響は,資産側の時価評価よりも,保険負債への時価評価導 入のほうが大きいととらえられている。しかし,IASBは,資産と負債双方 の時価評価が行われれば,資産側と負債側のキャッシュ・フローが見合って いればボラティリティは相殺されるとして影響は大きくないとしている。
3.3 ソルベンシー規制(ソルベンシーⅡ)
米 国 に お い て,ソ ル ベ ン シ ー はNAICが 規 定 す るRBC(Risk Based Capital)により規制されている。なお,RBC には,ソルベンシーⅡで容認
している内部モデルの使用は認められていない。
保険監督におけるソルベンシー規制は,現在のところ,銀行業におけるバ ーゼルⅡのような共通の国際基準がなく,各国・地域ごとに異なる規制が行 われている。しかし,国際的に活動する保険グループの増加等により,国際 的な統一的な基準作りが重要となっており,保険監督者の国際機関である保 険監督者国際機構(International Association of Insurance Supervisors, IAIS)では,健全性における国際共通基準の策定を進めている。
EUにおける保険規制は,バーゼルⅡで採用されたのと同じ三本柱アプロ ーチが採用されている。①定量的要件(資産・負債・資本を時価評価),②監 督活動(保険会社は良好なリスク管理を行い,監督機関は十分な資本を確保 するよう支援する),③法定報告と情報開示(会社間で資本十分性比較が可 能になる開示),である。これらの各柱が相互に補完することで,適切な保
険規制がなされると考えられている。
①における負債時価評価は,将来の保険金支払・保険料収入などの現在価 値を出し,健全性を判定する部分であり,EUソルベンシーⅡとIFRSとは 同じ方向性である。
EUにおける保険会社向けのソルベンシーは,保険監督者の集まりである 欧 州 保 険・年 金 監 督 者 会 議(Committee of European Insurance and Occupational Pensions Supervisors,CEIOPS)が規定している。従来の
保険会社向けのソルベンシーⅠは,簡単かつ堅実だが,リスクの考慮が不十 分であり,また,負債の時価評価を反映していない等の問題があった。2012 年から新たなソルベンシー規制としてソルベンシーⅡが適用されようとして いる。ソルベンシーⅡは,IAIS等の国際的な議論を踏まえて作成されてお り,統一した財務報告をベースにしてソルベンシー規制を行おうとしている。
そのため,ソルベンシーⅡはEUにおける規制ではあるが,米国においても 関心を持っており,そのことにより米国のソルベンシー規制も見直しが行わ れることもありうる。
. NAIC の会計における動向
IFRSの保険契約は,規制当局等から可能な調整を行ったうえで監督目的 に使用することを提唱されていることから,NAICはこれをどのように取 り入れていくべきかを検討しており,監督向けの財務諸表は,公開企業とし て財務諸表として使用できるようにすべきなのか,または,公開向けの報告 には別の財務諸表を使うのが良いのかを含めて検討が必要あるとしている。
その際に,監督官のルールは他の手段で適用することができるとして,財務 報告としてIFRSを使用し,別に監督官としての保守主義に基づいたRBC, 規制などを行う選択肢をとりうるかも検討している。
また,現在は公開会社である保険会社はGAAPに基づく財務諸表を作成 しているが,IFRSを適用したときには非公開会社である保険会社にも同じ 会計基準を適用すべきなのか,個別会社ごとの報告は必要か。他の規制当局
とのコミュニケーションするための手段は提供すべきか,についても検討が 必要としている。
NAICとしてIFRSにどのように対応するかは,現在の公開草案が案とな った時点で判断するとしている。
4 米国生保のインターネットによる情報発信
1992年度のアニュアルレポートを入手しようとしたとき,当時でもホーム ページを持っている会社もあったものの,アニュアルレポートが載っている ことはなく,主要数値のみの開示程度であった。
さらに,1999年度のアニュアルレポートを入手しようとしたときは,ほと んどの会社についてホームページからアニュアルレポートがダウンロードで きるようになっていた。ただし,各社のホームページでは過去にさかのぼっ て掲載している会社は少なく,最新年度の情報のみが掲載されている場合が ほとんどであった。
今回,2009年度のアニュアルレポートを入手しようとしたときは,すべて の会社においてアニュアルレポートをダウンロードできただけでなく,10年 以上分が掲載されていたのが9社中5社,SAPのアニュアルステートメン トが掲載されていたのが9社中5社あった。さらに株主総会議案書は全ての 株式会社において掲載されていた。どの会社も情報発信を充実させており,
特に株式会社においてInvestors Relationとして,積極的な開示を行おう としている。
また,facebook,twitter,YouTubeといった情報発信をメットライフ,
ニューヨークライフ,ノースウエスタン・ミューチュアルなど数社で行って いる。メットライフのように,スヌーピーというイメージキャラクターによ る季節の話題の提供を行っているのに対して,会社が行っている慈善事業の 紹介や保険関係そのものの紹介を行っている場合もある。ただし,まだこれ らの情報発信は発展途上にあり,どの会社もなにを提供していくかについて の試行錯誤の状態であるように見えた。
ま た,ACLIの Life Insurers Fact Book 2010 も 今 回 はACLIの ホ ームページから入手できており,インターネットによる情報収集ができやす くなっている。
5 おわりに
米国の会計を巡る動向,そしてIFRSやソルベンシーⅡを巡る動きをまと めた。会計の動向をフォローするきっかけとなった相互会社の株式会社化の 進行は収まり,相互会社へのGAAP適用の動きは止まっている。栁田宗彦
(2001)からの10年における米国保険会計を巡る変化として,IFRSへの対 応やソルベンシーⅡといったヨーロッパのソルベンシー規制の影響を受けて 監督における動きが見られている。資産の内訳や商品内容の構成も異なる米 国と日本が同一の会計基準で測るのは難しい。しかし,IFRSは世界共通の 会計基準であり,IFRSにおいて日本だけは別の基準というわけにはいかな
表5 米国生保のホームページにおけるアニュアルレポート掲載状況
(出典) 平成23年8月時点の各社ホームページにより作成。ブランクは見つけら れなかったことを示している
会社名
Annual Report SAP
株主総会 議案書 12 3 4 5 6 7 8 10
Prudential Insurance of America
Metropolitan Life Insurance Company
New York Life Insurance Company
Principal Mutual Life John Hancock Mutual Life Aetna Life Insurance Company
Hartford Life Insurance Company
Lincoln National Life Insurance Company
Northwestern Mutual Life Insurance
10年 11年 4年 3年 11年 10年 4年 10年 1年
3社 8年 3社 4年
24社 7年 3社 5年 2社 1年
10年 11年 相互会社
3年 8年 1年 5年 1年 相互会社
い。
SAPと異なるGAAPが存在する米国の実情は,日本の生命保険会計にお いて規制目的の会計が主体であるところに,IFRSを導入しようとしたとき の対応を考える参考となろう。米国の生保会社会計においては,SAPは GAAPの良いところを取り入れて改善しながら,ソルベンシーを重視した SAPとしての独自性を保っている。このように,米国においては,目的が 異なれば,異なった会計基準がある。
生命保険会社は,金融資産を保有している量が多いため,そのリスクを明 らかにするためには,評価損益を利益に含めるかは別として,貸借対照表に おいて時価評価を積極的に行うべきであると考えている。資産側だけの時価 評価ではバランスが取れないが,IFRSの公開草案やFASBのディスカッ ション・ペーパーのように,保険契約の負債の時価評価の議論が進んできて いることから,資産と負債の双方を時価評価することができる環境が整って きている。この点については,保険会社の会計は全体としてどうあるべきか,
負債の評価はどうあるべきか,といった議論とあわせて,会計基準設定機関 だけではなく幅広く保険業界や学会も含めた検討を通じて結論を出していく べきであろう。
米国で起きていることは,日本でも起こりうることである。米国における 動きを見て,それが日本で起きたならばどうすべきかを考えることは,日本 が取るべき道を考える際には有効であると考えており,今後もその動向は注 視すべきだと考えている。
(筆者はメットライフアリコ勤務) 参考 献
・小松原章 米国保険法定会計の動向―会計基準統一化の動きを中心として―
ニッセイ基礎研
REPORT
2000.8・栁田宗彦 (1993
a
) 米国生保会社にGAAP会計適用の動き 生命保険経営第六
一巻第五号(平成五年九月)・栁田宗彦 (1994) 米国生保会社会計の
GAAP会計 生命保険経営第六二巻第五
号(平成六年九月)・栁田宗彦 (2001) 米国の生保会社会計の現状 生命保険経営第六九巻第五号
(平成十三年九月)
・栁田宗彦 (1993
b
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