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消費者余剰概念と一般均衡

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(1)

消費者余剰概念と一般均衡

著者 林 貴志

雑誌名 同志社商学

巻 66

号 1

ページ 107‑124

発行年 2014‑07‑25

権利 同志社大学商学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013678

(2)

消費者余剰概念と一般均衡

林 貴 志

Ⅰ 所得効果ゼロの仮定

Vives(1987)の極限定理

Ⅲ 「密度」しての支払用意

Ⅳ 不確実性下での消費者余剰分析と一般均衡分析

Ⅴ 結語

概 要

本稿は,Vives[9]およびHayashi[4, 5]を中心に,所得効果ゼロの仮定に基づく消費者余剰分析と一般 均衡分析との間の,「財の小ささ」を媒介とした関係付けの議論を紹介する。

本稿を吉町昭彦君の霊前に捧ぐ。吉町君とは,大阪大学大学院以来,一般均衡理論へ の興味関心を共有してきた仲であった。この小文を以って,彼に捧げる「途中報告」と したい。

Ⅰ 所得効果ゼロの仮定

消費者余剰概念に基づく部分均衡分析は応用経済分析において支配的なフレームワー クと言ってよい。

だが,部分均衡分析が一般均衡分析のいかなる意味で「部分」であるのかについて は,マーシャル以来の「他を一定とする」という言い訳以外のものを見ることはない。

その結果,中級のミクロ経済学においてまで,前半で複数財について無差別曲線を用い た消費者理論と簡単な一般均衡理論を教えながらも,後半で部分均衡分析に入ると前半 で教えたことなどまるでなかったかのように「それはそれ,これはこれ」式の説明に終 始することになる。

もう少し気の利いた説明になると,「部分均衡分析の対象たる財には所得効果が無い ことが仮定される」と言われる。説明のため,第

1

財を部分均衡分析の対象,第

2

財を それ以外の財の消費に振り向けられる所得の増減と考えよう。なお,財

2

の量が負であ る場合には,それは財

1

を得るために他の財に割り当てる所得を減らす,つまり支払う ことを意味する。つまり消費空間は平面の右半分

!

×

!

である。例えば,第

1

図のよ うに

x=(x

1

, x

2)が与えられたとき,所得増減が負だから,消費者は|

x

2|単位の所得を 支払うことになる。

107)107

(3)

この設定において,部分均衡分析の対象たる財

1

に所得効果が無いことは,第

2

図の ように無差別曲線群が財

2

軸に沿って平行であることによって記述される。というの も,無差別曲線が財

2

軸に沿って平行であるということは,限界代替率が財

2

の量に依 存しない,つまり,追加的

1

単位の当該財を得るために犠牲にしてもよい所得の量(つ まり限界的な支払用意)はそのとき維持している所得がいくらであるかに依らないこと と同値だからである。このような選好を準線形選好と呼ぶ。

所得効果ゼロの仮定は厚生判断を行う上で重要である。というのも,もし所得効果が 無視できないにも関わらずそれを無視してしまったら,消費者の財に対する見た目の支 払用意が低かった場合に,それがその消費者がその財を相対的にさほど好きでないから のか,あるいは実は存在する所得効果のためにそうなのか,区別がつかないからであ る。

2

について準線形な選好は

u

(x)=f(v(x1)+x2

の形で効用表現される。この

v

(x1)+x2が所得で測った消費者余剰に相当するが,効用 表現自体はどんな単調変換

f

をも許容するので,これは序数効用論と整合的である。

消費者余剰概念の補償変分・等価変分に対する近似としての妥当性は,Willig[10]

を始めとして広範に研究されている。だが,いかなる実質的仮定が所得効果ゼロの仮定 を導くかについてのな研究が行われたのは,かなり遅れてのことである。

準線形選好および消費空間

!

×

!

の背後にある実質的仮定は,「財

1

市場の規模が経 済全体に比して極めて小規模なので,消費者は財

1

に比してすでに十分多くの所得を持 っており局所的には無尽蔵だとみなすことができ,そこで問題になっているのは他の財 に当てる所得の相対的増減のみだ」ということである。つまり,第

3

図のように,もと もとその他の財に当てる所得が大きい所を拡大して得られたのが消費空間

!

×

!

であ

1図 消費空間!×! 2図 準線形選好 同志社商学 第66巻 第1号(2014年7月)

108(108

(4)

1

る。

この議論はマーシャルに遡るが,彼はおおよそ「当該財が全ての財の集合に比して限 りなく小さいならば所得効果は無視できる」と考え,所得効果が無視できる局面では,

購買量は支払用意と価格との比較のみによって定まると考えたのである。

だがマーシャルはこのことをフォーマルに取り扱うには至らなかった。

Vives(1987)の極限定理

これが最初になされたのは

Vives[9]によってである。Vives

は,財の数が限りなく 大きくなっていき,所得も同じように限りなく大きくなっていくならば,各単一の財は 全ての財と総予算に比して限りなく小さくなるので,その所得効果はゼロに収束するこ とを示した。

任意の消費者を固定する。財の数を

n

と表記し,これが限りなく大きくなっていく ことを考える。所与の

n

について,消費空間

!

n++上の選好が関数

u

n

: !

n++

!

で表現さ れるものとする。このとき,価格ベクトル

p

n

!

n++と所得

w

n>0のもとで,消費者は最 適消費問題

x

max

n∈!n++

u

(xn n

!

n

k=1

p

kn

x

kn=wn

を解く。その解を

x

(pn n

, w

n)と表記すると,適切な仮定のもとでそれは微分可能であ る。そこで上の予算制約式において所得の変化を

a

と表記し,それに対応する需要の 変化を

Δ x

knと表記すると,

────────────

1 同方向のアプローチとしてMiyake[7]がある。

3図 既に大きい所得を持っているときの所得の相対的増減

消費者余剰概念と一般均衡(林) 109)109

(5)

!

n

k=1

p

(xkn kn

Δ x

kn)=wn+a

が成り立つので,上の予算制約と合わせると

!

n

k=1

p

kn

Δ x

kn=a

これにより,所謂エンゲル公式

!

n

k=1

p

kn

! x

(pkn n

, w

n+a)

! a

=1

が得られる。

ここで,価格と所得の列{pn

, w

n}を固定し,以下が成り立つとする。

1

.ある

0<p<p

について,あらゆる

n

k=1, . . . , n

について

p !p

kn

!p

が成り 立つ。

2

.ある

0<b<b

について,あらゆる

n

について

b ! w

n

n !b

が成り立つ。

1

はすべての財の価格が一様有界であること,2は,所得が財の数と同じマグニチュ ードで無限に大きくなっていくことを意味している。2が先に見たような,消費者が予 め持っている所得が十分大きいことに対応している。

簡単のため,ここではすべての財が正常財である場合について話を進めよう。このと き,あらゆる

n

について

! x

(p1n n

, w

n+a)

! a , . . . , ! x

(pnn n

, w

n+a)

! a

は同じマグニチュードの数を掛けて足すと

1

になる

n

個の正の数なのだから,n が大 きくなるにつれてそれらが何らかの形で小さくなってゆくことは予想がつこう。これが 基本的アイデアである。

これだけではもちろん,あらゆる財の所得効果がそれぞれ

0

に収束することは示せな い。ただし,「全ての財に掛かる選好のウェイトが一様有界である」という仮定のもと では,あらゆる

n

について

! x

(p1n n

, w

n+a)

! a , . . . , ! x

(pnn n

, w

n+a)

! a

が全て同じマグニチュ ードを持つことが示せるので,それらが全て

1

n

のスピードで

0

に収束することが示さ れる。

ここで重要なことは,既に消費者が持ち合わせている所得

w

nと,そこからの所得の 増減

a

とを区別することである。Vivesの結果は,前者が後者に対して限りなく小さく

同志社商学 第66巻 第1号(2014年7月)

110(110

(6)

なる,あるいは後者が前者に対して限りなく小さくなるときには,後者の意味で測られ た所得効果がほぼ無視できることを示している。

Ⅲ 「密度」しての支払用意

上述の

Vives[9]の残した問題として次のことが考えられる。

1

.上では所得が財の数と同じマグニチュードで限りなく増加していくので,極限を 取ることが出来ない。

2

.「全ての財に掛かる選好のウェイトが一様有界である」という仮定は,極限にお いて実際に財が(可算)無限個ある場合に拡張できない。というのも(可算)無 限個の財の全てに同じ選好のウェイトが一応に下から有界であれば,効用表現の 値が無限大になってしまうからである。

3

.上

2

点により,極限における支払用意・消費者余剰を正確な形で記述することが 困難である。

そこで,Hayashi[4]はまず全ての財の特徴の集合を連続体として与え,有限の所得 を固定して話を進めることにした。そして,財の特徴の集合を限りなく細かく分割して ゆくにつれ,任意の

1

つの細切れの財とそれ以外の財に振り向けられる所得移転との上 の選好が準線形形式に収束することを示した。これは,財が全ての財の集合に比して限 りなく小さくなるとき,そこにかかる所得効果はゼロに収束すること,また,それ以外 の財に振り向けられる所得移転で測った支払用意の極限が「密度」として明確に計算で きることを示している。

この「密度」という表現は,単に小さい財に対して支払う用意の絶対額はまたゼロに 収束するわけであるから,対応する所得移転の尺度が当該の財の「小ささ」に応じてス ケールを調整された上で支払用意が取り直されていることを示唆している。

財の特徴の集合を

T

=[0, 1]で与え,

μ

T

上のルベーグ測度とする。このとき,

任意の消費の束は適切な数学的条件を満たす関数

f : T

!

++の形で与えられる。また,

価格システムは密度関数

p : T

!

++で与えられる。

任意の消費者を固定する。説明の簡単のため,消費者の選好は加法分離的関数

U

f

)=

T

v

(t

f

),t)

d μ

(t)

で表現されるものとする。また,消費者の所得を

w

と表記する。

このとき,財の特徴の集合

T

の分割{

"

n}を,簡単のため各

n

について

消費者余剰概念と一般均衡(林) 111)111

(7)

"

n=⎧

0, 1

2

n

2 1

n

, 2 2

n

, . . . ,

2

n−2

2

n

2

n−1

2

n

2

n−1

2

n

, 1

とする。つまり,財の特徴の集合を半分,また半分,またまた半分,と細分化していく ことを考える。

そのとき,所与の

n

について

K

"

nで記述される財

1

単位の価格は

p

K

K

p

(t

d μ

(t)で与えられる。

所与の

n

と分割

"

nについて,その要素

J

"

nを部分均衡分析の対象とする。そこ では,2次元のベクトル(x, a)は

x:財 J

の消費

a:「J

に属する

1

点あたりの」J 以外の財の消費に向けられる所得の増減と解釈す る。ただし,後者は負の値も取ることができ,そのときは支払を表すと解釈される。

この,合成財としての

2

次元ベクトルの上に導かれる選好を,以下のようにヒックス 的集計によって定義する。

定義

1

所与の

n

J

"

nについて,(x, a),(y, b)∈

!

++×

μ

(J

w

),∞

,が関係

(x, a)

"

n, J(y, b)

を満たすとは,

V

n, J(x, a)

!V

n, J(y, b),

が成り立つことを言う。ただし,Vn, J(x, a)は

V

n, J(x, a)=

max

z−J∈!++"n−1

J

v

(x, t)

d μ

(t)+K∈#

!

n{J

K

v

(zK

, t) d μ

(t)

subject to

!

K∈"n{J

p

K

z

K=w+a

μ

(J)

で与えられる。Vn, J(y, b)についても同様。

上で注意すべきは,aは「J に属する

1

点あたりの」J 以外の財の消費に向けられる所 得の増減なので,他の消費に向けられる所得の増減の合計は

a μ

(J)となることであ

同志社商学 第66巻 第1号(2014年7月)

112(112

(8)

る。これは,J が細かくなればなるほど小さくなっていく。

つまりここでは,消費者がもともと持っている所得

w

と,部分均衡分析の対象の消 費と引き換えに増減する所得

a μ

(J)とを区別しているのである。

所与の

n

J

!

nのもとでの上の最適消費問題の解を

z

n, J(x, a)=(zKn, J(x, a))K∈!n\{J}

と表記し,それに対応して制約

!

K!n{J}

p

K

z

K=w+a

μ

(J)に掛かるラグランジュ乗数を

λ

n, J(x, a)と表記すると,一次条件は

! ! z

K

K

v

(zKn, J(x, a),t)

d μ

(t)=

λ

n, J(x, a)

p

K

for each K

!

n{J

で与えられる。

このとき,直接計算により

! V

n, J(x, a)

! x

J

! ! x v

(x, t)

d μ

(t)

! V

n, J(x, a)

! a

λ

n, J(x, a)

μ

(J).

が得られるので,財

J

とその他の財に振り向けられる所得移転との間の限界代替率は

MRS

n, J(x, a)=

! V

n, J(x, a)

! x! V

n, J(x, a)

! a

1

λ

n, J(x, a)・

J

! ! x v

(x, t)

(t)

μ

(J)

となる。

ここで,Jnが限りなく細かくなって

1

τ

へと収束してゆくことを考える。する と,ラグランジュ乗数

λ

n, J(x, a)は分割を限りなく細かくした後の極限の問題

max

f

T

v

(t),t)

f d μ

(t

subject to

T

p

(t)(t

f

d μ

(t)=w

におけるラグランジュ乗数

λ

に収束することが示される。

消費者余剰概念と一般均衡(林) 113)113

(9)

このとき,微分積分学の基本定理により,

Jn

! ! x v

(x, t)

d μ

(t)

μ

(Jn) は

! ! x v

(x,

τ

へと一様収束するので,

MRS

n, J(x, a)=n

1

λ

n, J(x, a)n

Jn

! ! x v

(x, t)

d μ

(t)

μ

(Jn

MRS

(x, a)=τ

! ! x v

(x,

τ

λ

へと一様収束することが示される。

さて,この限界代替率の極限を見ると,所得の増減

a

に依存していないことが分か る。この極限の限界代替率によって記述される選好の無差別曲線群は

a

軸について平 行である(第

4

図参照)。つまり,財が限りなく細かくなった極限においては,財

1

点 に掛かる所得効果はゼロであることが示される。そして,その限界代替率の極限がその まま限界的な支払用意に対応するのである。

この,極限の限界代替率によって記述される選好を

!

τ と表記すると,これは財

τ

の 消費とそれ以外の消費に振り向けられる所得の増減のペアの上の選好である。上の極限 の限界代替率を積分することにより,この選好

!

τ

4図 準線形選好への収束 同志社商学 第66巻 第1号(2014年7月)

114(114

(10)

U

(x, a)=τ

v

(x,

τ

λ

+a

の形で表現される。これはまさしく冒頭で見た準線形形式である。

上の方法は,より一般に加法分離的でない選好にも拡張できる。一般に,適当な数学 的性質を満たす効用表現

U

f

)について,

ΔU

(x,

τ ; f

)=

lim

μ(J)→0

! ! x U

(x1J+f

1

T\ J

μ

(J)

を「限界効用密度」と呼ぼう。このとき,上と同様の極限定理が成立し,極限の選好

!

τ

, f

U

τ(x, a)=, f

0x

Δ U

(z,

λ τ ; f

dz+a

の形で表現される。

Ⅳ 不確実性下での消費者余剰分析と一般均衡分析

前節の議論は

Hayashi[5]によって不確実性下の状況に拡張された。不確実性下の

部分均衡分析においては,状態集合を

S

と表記すると,消費者の当該財とそれに伴う 所得移転の条件付き受け取り(x, a)=((x1

, a

1

, . . . ,

(xS|

, a

S|))に対する選好は

f

s∈S

!

{v(xs)+as

π

s

.

で表現されるのがもっぱらである。ただし,v は支払用意を表す関数で,f は任意の単 調変換である。

期待消費者余剰の使用については,以下の問題点が挙げられる。

1

.所得効果がゼロであることを前提にしている。既に見たように,これは確実性の 下でも問題であるが,ここでもやはり問題である。

2

.危険中立性を前提にしている。危険中立性のこの文脈での実証的妥当性は措くと しても,一般均衡論的視点からは,本来構造的に特定されるべき危険態度は一般 均衡レベルにおけるそれであって,部分均衡における危険態度は,消費者がその 背後にある資産市場においていかなるポジションを取るかによって内生的に定ま る性質のものである。

消費者余剰概念と一般均衡(林) 115)115

(11)

3

.上では状態間の所得移転の限界代替率が確率の比と等しいが,やはり一般均衡論 的視点からは,各状態における所得移転の価値は,消費者がその背後にある資産 市場においていかなるポジションを取るかによって内生的に定まる性質のもので あり,しかも,所得移転の価値の状態間での異なり方は消費者たちの間で一般に 異なるはずである。とすれば,期待消費者余剰の集計が効率性尺度として有効で あるのは,資産市場がいかなる性質を満たしているときか?

上記の問題に答えるためには,資産市場を陽表的に取り込んだ一般均衡モデル,それ

Arrow-Debreu[1, 3]的なそれではなく Radner[8]のそれにおいて,前節の議論を

行う必要がある。

状態集合を

S

と表記し,有限とする。財の(不確実性を除いた)特徴の集合を先と 同じく

T

=[0, 1]で与える,

μ

T

上のルベーグ測度とする。このとき,任意の条件 付き消費は関数

f : S

×T→

!

++の形で与えられる。

選好は期待効用理論に従うと仮定し,簡単のため確実な消費上で加法分離的とする。

U

f

)=

!

s∈S

φ (∫

T

v

(t),t)

f

s

d μ

(t

π

s

.

スポット市場における条件付き価格は関数

p : S×T

!

++で,条件付き所得はベクトル

w=(w

1

, . . . , w

S|)で与えられる。

資産市場で売買可能な証券の集合を

H

と表記し,そのリターン行列を

R

で表記し,

これは|

S

|×|

H

|行列である。つまり,状態

s

が起こったら証券

h

はリターン

R

shを 支払う。

そして,証券価格のベクトルを

q=(q

1

, . . . q

|H|)と表記する。

再び,財の(不確実性を除いた)特徴の集合

T

の分割{

"

n}を,簡単のため各

n

に ついて

"

n=⎧

0, 1

2

n

2 1

n

2 2

n

, . . . ,

2

n−2

2

n

2

n−1

2

n

2

n−1

2

n

, 1

とする。つまり,財の特徴の集合を半分,また半分,またまた半分,と細分化していく ことを考える。

そのとき,所与の

n

について

K

"

nで記述される財

1

単位の状態

s

におけるスポッ ト価格は

p

sK

K

p

(s, t)

d μ

(t)で与えられる。

所与の

n

と分割

"

nについて,その要素

J

"

nを部分均衡分析の対象とする。そこ では,2|

S

|次元のベクトル(x, a)は

同志社商学 第66巻 第1号(2014年7月)

116(116

(12)

x=(x

1

, . . . , x

S|):財

J

の条件付き消費

a=(a

1

, . . . , a

S|):「J に属する要素

1

つあたりの」J 以外の財の消費に向けられ る所得の条件付き

と解釈する。ただし,後者は負の値も取ることができ,そのときは支払を表すと解釈 される。

この設定においては,ヒックス的集計は以下のように定義される。

定義

2

所与の

n, J

"

nについて,(x, a),(y, b)∈

!

++S|×

μ

(J

w

),∞

S|,が関係

(x, a)

"

n, J(y, b)

を満たすのは

V

n, J(x, a)

!V

n, J(y, b),

となるときである。ただし,

V

n, J(x, a)=

max

ζ∈!|H|, z−J∈!(|++"n−)1)×|S|

!

s∈S

φ (∫

J

v

(xs

, t) d μ

(t)+K

!

#n{J}

K

v

(zsK

, t) μ

(t)

π

s

subject to

!

h∈H

q

h

ζ

h=w0+a0

μ

(J)

!

K∈"n{J

p

sK

z

sK=ws

!

h∈H

R

sh

ζ

h+as

μ

(J)

for each s∈S

であり,Vn, J(y, b)についても同様。

所与の

n, J

"

nについての最適ポートフォリオ選択を

ζ

n, J(x, a)=(

ζ

hn, J(x, a))h∈H, スポット市場における消費選択を

z

n, J(x, a)=(zsKn, J(x, a))K∈"n\{J},s∈S,事前の予算制約

!

h∈H

q

h

ζ

h=0

に掛かるラグランジュ乗数を

λ

0n, J(x, a),各

s∈S

について事後の予算制約

!

K∈"n{J

p

sK

z

sK=ws

!

h∈H

R

sh

ζ

h+as

μ

(J)

消費者余剰概念と一般均衡(林) 117)117

(13)

に掛かるラグランジュ乗数を

λ

sn, J(x, a)と表記する。

このとき,一次条件は各

h∈H

について

λ

0n, J(x, a)

q

h

!

s∈S

λ

sn, J(x, a)

R

sh

および各

K

!

n{J\ }と

s∈S

について

π

s

φ

(v′sn, J(x, a))

!

! z

sK

K

v

(zsKn, J(x, a),t)

d μ

(t)=

λ

sn, J(x, a)

p

sK

である。ただし,

v

sn, J(x, a)=

J

v

(xs

, t) d μ

(t)+K∈

!

"n{J

K

v

(zsKn, J(x, a),t)

d μ

(t).

である。

すると,直接計算により

! V

n, J(x, a)

! x

s

π

s

φ

(v′sn, J(x, a))

J

! ! x

s

v

(xs

, t) d μ

(t)

,

∀s∈S

! V

n, J(x, a)

! a

s

λ

sn, J(x, a)

μ

(J)

,

∀s∈S

が得られ,これにより

MRS

xn, Js, as(x, a)=

π

s

φ

(v′(x, a))s

λ

sn, J(x, a) ・

J

! ! x

s

v

(xs

, t)

(t)

μ

(J)

MRS

as, as′n, J(x, a)=

λ

sn, J(x, a)

λ

s′n, J(x, a)

ここで,先と同様な収束

J

n→{

τ

}を考えると,

MRS

xs, asn, J(x, a)n

π

s

φ

(v′s

!

! x

s

v

(xs

, τ

λ

s

同志社商学 第66巻 第1号(2014年7月)

118(118

(14)

へと一様収束し,

MRS

as, as′n, Jn(x, a)

λ

s

λ

s′

へと一様収束することが,各

s, s′

∈S について得られる。ただし,

λ

0

,{ λ

ss∈Sは極限に おける最適消費問題

ζ∈!|H|, f

max

∈L+++ (TS

!

s∈S

φ (∫

T

v

f

(t, s),t)

d μ

(t)

π

s

subject to

!

h∈H

q

h

ζ

h=m

T

p

(t, s)(t, s)

f d μ

(t)=wsh∈H

! R

sh

ζ

h

for each s∈S

に対応するラグランジュ乗数で,vsは各

s

についての

T

v

(t, s),t)

f μ

(t)の最適消費

における値である。

この,極限の限界代替率によって記述される選好を

!

τ と表記すると,これは財

τ

の 条件付き消費とそれ以外の消費に振り向けられる所得の条件付き増減のペアの上の選好 である。上の極限の限界代替率を積分することにより,この選好

!

τ

U

(x, a)=τ

!

s∈S

π

s

φ

(v′s

λ

0

v

(xs

, τ

)+

λ

s

λ

0

a

s

⎭.

の形で表現される。これを,期待調整済消費者余剰と呼ぼう。

次の

2

点に注意すべきである。

1

.上で得られた選好は当該財に所得効果が無いことを示すだけでなく,危険中立的 でもある。つまり,2つの条件は不可分の関係にある。どういうことかという と,所得効果が無いことの根拠を財の小ささに求めるとすれば,その財の取引に 伴う所得の増減のリスクもまた小さくなるはずである。我々は,Arrow[2]の 古典的結果により,スムーズな(微分可能な)期待効用選好は小さいリスクにつ

消費者余剰概念と一般均衡(林) 119)119

(15)

いてはほぼ危険中立的となることを知っている。だから,所得効果が無いことを 仮定したままで消費者の危険選好を自由にいじくることは原理的にはできないの である。

2

.状態間の所得移転の限界代替率は,状態間のラグランジュ乗数の比に等しい。し たがって,条件付き所得移転の価値は一般に状態ごとに異なり,その異なり方は 各人の間で異なる。

上の方法は,より一般に加法分離的でない選好にも拡張できる。一般に,適当な数学 的性質を満たす期待効用表現

U

f

)=

!

s∈S

u

f

s

π

s

.

について,各状態について限界効用密度を

Δ u

(xs

, τ ; f

s)=

lim

μ(J)→0

! ! x

s

U

(xs

1

J+fs

1

T\ J

μ

(J)

で与える。このとき,上と同様の極限定理が成立し,極限の選好

!

τ, f

U

τ(x, a)=, f

!

s∈S

π

s

λ

0

0xs

Δ u

(zs

, τ , f

s

dz

s

λ λ

0s

a

s

⎭ の形で表現される。

では,期待調整済消費者余剰の集計は,効率性基準として有効であろうか?

資産市場が完備であるときには,期待調整済消費者余剰の集計の最大化は事前のパレ ート(およびカルドア・ヒックス)基準と整合的であることが分かっている。

命題

4.1

資産市場が完備だとする。このとき,もし

!

i∈I

!

s∈S

π

is

λ

i0

0xis

Δ u

(zi is

, τ , f

is

dz

is

λ λ

i0is

a

is

!

i∈I

!

s∈S

π

is

λ

i0

0yis

Δ u

(zi is

, τ , f

is

dz

is

λ λ

i0is

b

is

ならば,全ての

s∈S

について

!

i∈I

a

is

!

i∈I

a

isを満たすある(aiSi∈I について,全ての

i∈I

について(xi

, a

i

!

(yτi i

, b

i)となる。

完備市場においては,一般性を失うことなくリターン行列は正方で逆行列を持つと想 定できるので,全ての

i

について

1

λ

i0

λ

iS=qR−1が成り立つ。よって状態間の所得移転の

同志社商学 第66巻 第1号(2014年7月)

120(120

(16)

限界代替率がすべての消費者の間で均等する。

だが,一般に資産市場が不完備なときにはこの均等が成り立たない。したがって,よ り大きな集計期待調整済消費者余剰を与える配分であっても,事後の所得移転によって 全員の期待調整済消費者余剰をより大きくすることができる。よって集計期待調整済消 費者余剰の最大化は事前のパレート基準(および事前のカルドア・ヒックス基準)と整 合的でない。つまり,集計期待調整済消費者余剰を最大化しているからといって,それ が社会的に効率的であるとは限らない。

一般競争均衡は,部分均衡レベルにおいて「制約付きで」効率的である。というの も,競争均衡配分(

f

ii∈I がスポット市場価格

p

および資産価格

q

および資産取引

ζ

を所与とした上で競争均衡配分であるなら,一次条件より,ほとんど全ての財について

π

is

Δ u

i

f

is

τ

),

τ , f

is)=

λ

is

p

s

τ

が全ての

i

s

とほとんどすべての

τ

において成り立つ。よって,ほとんど全ての

τ

∈T についてその配分(

f

is

τ

))i∈Iは最大化問題

(x

max

ii∈I

!

i∈I

!

s∈S

π

is

Δ u

i

f

(τ),τis

, f

is

λ

i0

λ

is

λ

i0

p

s

τ

x

is

⎭.

の解であるから,各財について期待調整済消費者余剰の集計を最大化している。

だがこれは,不完備資産市場をにおいて一般競争均衡が制約付きでパレート効率的な のと同様に,制約付きのものである。以下の例(Hayashi[5]より)を見てみよう。

4.1 2

人の消費者

AB

を考える。状態は

2

つ,資産は

1

つしかないとする。ABそ れぞれの条件付き初期保有を

ω

A=(

ω

A1

, ω

A2)と

ω

B=(

ω

B1

, ω

B2)で表記し,

ω

A1=(

δ

ε

1, ω

A2

ε 1 ω

B1

ε 1, ω

B2=(

δ

ε

1

で与えられるものとする。

A

B

は同じ選好を持ち,i=A, B. について

U

f

)=

1

2 φ (∫

T

v

f

(t),ti1

d μ

(t

1 2 φ (∫

T

v

f

i2(t),t)

d μ

(t

で表現されるとする。

一般性を失うことなく,スポット価格は各状態

s=1, 2

について

消費者余剰概念と一般均衡(林) 121)121

(17)

T

p

(ts

d μ

(t)=1

と正規化され,資産は

1

つしかないので

q=1

とする。

このとき,競争均衡は

p

1=p2=1

f

A1=(

δ

ε

1, f

A2

ε 1 f

B1

ε 1, f

B2=(

δ

ε

1 λ

A1

1

2 φ

(v′(

δ

ε

))

v′

δ

ε

, λ

A2

1

2 φ

(v′(

ε

))

v′

ε

λ

B1

1

2 φ

(v′(

ε

))

v′

ε

, λ

B2

1

2 φ

(v′(

δ

ε

))

v′

δ

ε

λ

A0

λ

B0

1

2

φ

(v′(

δ

ε

))

v′

δ

ε

)+

φ

(v′(

ε

))

v′

ε

)}≡

λ

0 で与えられる。

上の結果に従えば,ABそれぞれの任意の財とそれ以外の財の消費への所得移転につ いての選好は

U

(xA A

, a

A)=

1 2

φ

(v′(δ+ε))

λ

0

v

(xA1)+

φ

(v′(δ+ε))

v′

(δ+ε)

λ

0

a

A1

1 2

φ

(v′(ε))

λ

0

v

(xA2)+

φ

(v′(ε))

v′

(ε)

λ

0

a

A2

U

(xB B

, a

B)=

1

2

φ

(v′(ε))

λ

0

v

(xB1)+

φ

(v′(ε))

v′

(ε)

λ

0

a

B1

1

2

φ

(v′(δ+ε))

λ

0

v

(xB2)+

φ

(v′(δ+ε))

v′

(δ+ε)

λ

0

a

B2

⎭. で表現される。

このとき,単一の財の市場における部分均衡が与える期待調整済消費者余剰は

U

((A

δ

ε , ε

,

(−(

δ

ε

,

ε

))=U((B

ε , δ

ε

,

(−

ε ,

−(

δ

ε

)))=

u+u

2

である。ただし,

u= φ

(v′(δ+ε))

λ

0 {v(

δ

ε

)−v′(

δ

ε

)(

δ

ε

)}

同志社商学 第66巻 第1号(2014年7月)

122(122

(18)

u= φ

(v′(

ε

))

λ

0 {v(ε)−v′(ε)

ε

である。

ここで,状態

1

においては

A

から

B

へと

γ

1単位の所得移転,状態

2

においては

B

から

A

へと

γ

2単位の所得移転をすることを考える。ただし,

γ

1=γ2

λ

(u−u)0

φ

(v′(

δ

ε

))

v′

δ

ε

)+

φ

(v′(

ε

))

v′

ε

).

である。

すると,AB双方の期待調整済消費者余剰は

U

((δA +ε

, ε

,

(0,−(δ+ε)−γ1

,

−ε+γ2))

=U((εB

, δ

+ε)

,

(0,−ε+γ1,−(δ+ε)−γ2))

u+u

2

(u−u)

φ

(v′(

ε

))

v′

ε

)−

φ

(v′(

δ

ε

))

v′

δ

ε

))

φ

(v′(

δ

ε

))

v′

δ

ε

)+

φ

(v′(

ε

))

v′

ε

) >

u+u

2

となり,パレート改善する。

以上の結果を如何に解釈すべきか?我々が通常用いている集計期待消費者余剰は,上 においてすべての消費者の信念が等しく,かつラグランジュ乗数の比が共通の信念に等 しい場合

!

i∈I

!

s∈S

Δ u

i

f

is

τ

),

τ , f

is

λ

i0 +ais

π

s

に相当するが,これは仮に全ての消費者の信念が同じだとしても,資産市場が不完備な らば,消費者の期待効用最大化の前提と整合的ではない。一方,上に見たように,期待 調整済消費者余剰の集計はパレート基準と整合的でない。

Ⅴ 結

本稿では,財が全ての財の集合に比して十分「小さい」ときにはそこにかかる所得効 果が無視でき,消費者余剰概念が整合的に与えられる,という議論を紹介した。これは 当然,所得効果が無視できない場合にも消費者余剰概念が濫用されることを勧めるもの ではない。

また最後の結果は,一般に資産市場が不完備であるような不確実性下の状況において

消費者余剰概念と一般均衡(林) 123)123

(19)

は,各人にとっての各状態の所得の価値は,彼の稼得の

insurability

に依存することに 留意すべきことを示唆している。所得効果を無視できる世界であっても,「支払う用意 のある額」と資産市場を通じて「調達できる額」の間に乖離があることは無視できない のだ。

参考文献

1]K. J. Arrow, Le role des valeurs boursieres pour la repartition la meilleure des risques , in Econometrie, CNRS, Paris, 41−47(translated as The role of securities in the optimal allocation of risk-bearing , in Review of Economic Studies31, 91−96, 1964).

2]K. J. Arrow,Essays in the Theory of Risk Bearing,Chicago, IL : Markham Publishing Company, 1971.

3]G. Debreu,Theory of Value : An Axiomatic Analysis of Economic Equilibrium,New Haven and London, Yale University Press 1959.

4]T. Hayashi, Smallness of a commodity and partial equilibrium analysis,Journal of Economic Theory, 148

(2013):279−305.

5]T. Hayashi, Consumer surplus analysis under uncertainty : a general equilibrium perspective, forthcoming inJournal of Mathematical Economics.

6]A. Marshall,Principle of Economics,Macmillan, London, 1920.

7]M. Miyake, On the applicability of Marshallian partial-equilibrium analysis,Mathematical Social Sciences 52.2(2006):176−196.

8]R. Radner, Competitive Equilibrium Under Uncertainty,Econometrica, Vol.36, No.1(Jan., 1968), pp.31−

58.

9]X. Vives, Small income effects : A Marshallian theory of consumer surplus and downward sloping demand,Review of Economic Studies54(1)(1987)87−103.

[10]Willig, Robert D. Consumer’s surplus without apology. The American Economic Review(1976):589

−597.

同志社商学 第66巻 第1号(2014年7月)

124(124

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