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加熱殺菌における容器詰食品内の温度センサー位置の特定方法

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(1)

1.はじめに

 加熱殺菌において最も重要な管理値の一つに殺菌値が挙 げられるが,殺菌値は最遅速加熱点で測定されなければな らない1).最遅速加熱点で温度測定したという証拠を得る ために通常の生産活動の範囲内で温度センサー位置が特定 できれば,最遅速加熱点測定に関連する種々の課題の解決 に有用と考えられる.

 通常,伝導で伝熱する内容物では温度センサーは容器の 幾何学的中心に配置されることが多いが1),容器内の含気 や雰囲気温度パターン等の影響により必ずしも殺菌値の 最小点は容器の幾何学的中心および最遅速加熱点ではな い2)3)ことが知られている.

 今回,最遅速加熱点を特定する方法として,ATS 法4)

の遅れ時間が利用可能か検討した.ATS 法では,雰囲気 温度の変化が中心部に反映されるまでの時間が遅れ時間で あるとされている.容器詰食品の中心軸上で高さを変えて 温度データを取得し,それらの位置における ATS 法の遅 れ時間,容器内温度分布から求めた最遅速加熱点および殺 菌値との関係から,温度センサー位置が特定できるか検討 した.

加熱殺菌における容器詰食品内の温度センサー位置の特定方法

稲葉 正一

Method of Positioning Temperature Sensor during Thermal Processing of Packaged Food

Shoichi Inaba

To measure the F0 value during the thermal processing of packaged food, the temperature sensor needs to be located at the slowest heating point. Confirming this location quantitatively would provide advantage for trouble shooting and running safety trials when developing new packaged foods. In this study, the temperatures were measured at various locations inside plastic cups containing 6% liquid starch and in metal cans containing milky coffee.

Using the ambient temperature slide (ATS) calculation method, it was clear that the greater the heating delay times, the smaller the F0 values achieved just before the cooling period started. This means that the method could be used to locate the slowest heating point. Although the location for the smallest F0 value was not at the slowest heating point, the difference between these F0 values was less than 1 minute. Therefore, this method is essential for knowing where to place the temperature sensor inside packaged food when checking the efficiency of a thermal process.

Key words: thermal processing, cold spot, the slowest heating point, F0 value, temperature sensor, ATS Method, delay time, packaged food, canned beverage

2.実験方法 2.1.内容物

 伝導伝熱である食品として 6 wt%デンプン水溶液プラ スチックカップ詰を使用した.ワキシーコーンスターチ 30 g に水を加えて 500 g にし,かき混ぜながら 70℃まで 加熱した後に徐冷した.

 対流伝熱である飲料としてミルク入りコーヒーを使用し た.日本コカ・コーラ株式会社製 Georgia エメラルドマ ウンテンをリパックした.

2.2.容器,充填,密封

 削り出しで製作した肉厚 1 mm の円筒形プラスチック カップにデンプン水溶液 82.5 g を充填し,シンワ機械製 単発カップシール機 SN-2S 型を用いて,多層構成(12 µm PET / 7 µm アルミ / 15 µm ナイロン / 50 µm ポリプロ ピレン)の蓋材を蓋の裏に気泡が残らないようデンプン液 に密着させてから熱溶着で密封した.

 東洋製罐製 TULC 缶 J200TF2 にミルク入りコーヒー 182 g を常温で充填し,スコア加工等を施していないシェ ル蓋を巻締めた.

2.3.加熱殺菌装置,方式,条件

 加熱殺菌は東洋製罐製シミュレーターレトルト(H130-

(2)

C110)を使用した.雰囲気温度は装置内の右奥,中央,

左手前にスペーサーを用いて殺菌棚の底面から約 2 mm 浮かせてセンサーを取り付けた.

 デンプン水溶液プラスチック詰の加熱殺菌は熱水シャ ワー・一定圧方式で行った.25℃から 120℃まで 11.1 分間で昇温し,殺菌温度 120.1℃で 30.2 分間保持した 後,7 分間で 100℃までその後 13 分間で 30℃まで冷却 し,30℃で 17.7 分間保持した.圧力は,昇温時に雰囲気 温度が 50℃になった 3.7 分から加圧を開始し,2 分間で 0.18 MPa まで昇圧し,その後終了まで一定圧を保持した.

 ミルク入りコーヒー缶詰の加熱殺菌は飽和蒸気加熱・

シャワー冷却方式で行った.25℃から 105℃まで 2 分間 で昇温し,105℃を 5 分間保ったのち,120℃まで 1 分間 で昇温し,殺菌温度 120.3℃で 12.4 分間保持した後,1.5 分間で 30℃に降温し,30℃で 6 分間保持した.圧力は,

105℃までは大気圧と同等で,その後,殺菌工程終了まで の圧力は蒸気圧と同じである.冷却直前に 0.18 MPa ま で空気加圧を行い,冷却開始とともに 2 分間保持したの ち,15 分間で大気圧まで徐々に減圧するペースで減圧し た.

2.4.加熱殺菌温度の測定方法と装置

 温度測定は,エラブ社有線式温度計測システム(E-Val Flex)を使用した.

 デンプン水溶液プラスチックカップ詰の場合,φ1.2 で プローブ長さ 100 mm の温度センサー SSA12100E-ID を容器の横側面から挿入し,感温部を底部から高さ 5, 10, 15, 20, 25 mm の高さの中心軸上に設置した.その位置 関係を図 1に示す.

 ミルク入りコーヒー缶詰の場合,φ2 の 4 点センサー

(5, 10, 15, 20 mm)および SSR-20100 センサーの温度 センサーを正立した缶のシェル蓋中央から挿入し,感温部 を中心軸上の底部から高さ 5, 10, 15, 20, 30, 40, 50, 70, 90mm に設置した.その位置関係を図 2に示す.

2.5.ATS 法による解析

 得られた雰囲気温度,各部における温度を経時時間と 共に ATS 法ソフト ATS-TiFT ver1.0.05)で解析し,そ れぞれ加熱側,冷却側の遅れ時間:δh,δc,伝熱係数:

τh,τc,および F0値を計算した.また加熱側,冷却側 それぞれで得られる F0値も計算した.

3.実験結果と考察 3.1.温度の経時変化について ,

 各容器詰食品を加熱殺菌試験して得られた温度と F0値 の経時変化を図 3, 4に示す.

 図 3より,高さが 5 mm と 25 mm の温度は,中央部 である高さ 10 mm, 15 mm, 20 mm より雰囲気温度への 追従性が高く,中央部の 3 点はほぼ同等の温度であった.

高さ 25 mm の位置では雰囲気温度への追従性は高かった が,F0値は中央部の 3 点とほぼ同等の 9 分程度となった.

 図 4より,ミルク入りコーヒーの場合にはデンプン液 よりすべての位置で雰囲気温度への追従性が高く,F0値 のばらつきもデンプン水溶液より小さかった.これは伝導 伝熱と対流伝熱の違いにより起こったと考えられる.上方 の温度が下方の温度より雰囲気温度への追従性が高い傾向 があった.

図 1 でんぷん水溶液円筒カップ詰の寸法および温度測定 位置

図 2 ミルク入りコーヒー缶詰の寸法と温度測定位置

㼔㻩㻡㻌 㼔㻩㻝㻜㻌

㼔㻩㻝㻡 㼔㻩㻞㻜㻌

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㻥㻡㻚㻠 㻝㻜㻠㻚㻞㻌

㻞㻚㻣㻌

㼔㻩㻜㻌

(3)

図 3 でんぷん水溶液円筒カップ詰の加熱殺菌中の雰囲気温度内部温度と F0値の経時変化 0

2 4 6 8 10 12 14 16 18

0 20 40 60 80 100 120 140

0 20 40 60 80

䠄㼙㼕㼚㻕

 ᗘ䠄䉝䠅

⤒㐣᫬㛫 㻔㼙㼕㼚㻕

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㻭㻌

㼔㻩㻡㻌 㼔㻩㻝㻜㻌 㞺ᅖẼ ᗘ㻌

図 4 ミルク入りコーヒー缶詰の加熱殺菌中の雰囲気温度内部温度と F0値の経時変化 0

2 4 6 8 10 12 14 16 18

0 20 40 60 80 100 120 140

0 5 10 15 20 25 30

䠄㼙㼕㼚㻕

 ᗘ䠄䉝䠅

⤒㐣᫬㛫 㻔㼙㼕㼚㻕

㞺ᅖẼ ᗘ

h=5 mm h=10mm h=15mm h=20mm h=30mm h=40mm h=50mm h=60mm h=70mm h=90mm ẅ⳦ᕤ⛬

ຍ⇕ᮇ ෭༷ᮇ

3.2.温度分布

 デンプン水溶液プラスチックカップ詰について 5 分毎 の中心軸高さ方向の温度分布を図 5(A, B)に示す.加熱 側,冷却側ともに中央部が遅れて変化していた.また,高 さが 10 mm から 20 mm までの範囲で温度がほぼ同等に 推移しており,中心軸上での温度がほぼ均一な領域が存在 した.図 5 Aより最も昇温が遅い位置は高さ 15 mm であ り,最遅速加熱点であることがわかった.

 ミルクコーヒー缶詰について 1 分ごとの中心軸上の温 度分布を同様に図 6(A, B)に示す.図 6 Aよりミル クコーヒー缶詰の場合,加熱側の昇温は 5 ~ 20 mm が最 も遅く,上部に行くほど速くなった.最も昇温が遅かった のは高さ 5 mm の位置であり,最遅速加熱点である.図 6 Bより冷却側では 50 ~ 70 mm の領域の温度が下がり にくい傾向にあり,最も冷却が遅いのは高さ 70 mm の位 置であった.

(4)

3.3.F0値と温度センサー位置の関係

 図 7にデンプン水溶液プラスチックカップ詰の加熱側,

冷却側,および最終的な F0値を示す.加熱側の F0値が最 も小さかった位置は高さ 15 mm の位置であり,10 mm と 20 mm の加熱側の F0値も同等であったが,20 mm の 方がより小さかった.冷却側で最も F0値が小さかったの は,高さ 20 mm の位置で最終的な F0値も高さ 20 mm が最小であった.

 細かく見ると F0値にわずかな差はあるが,10 mm か ら 20 mm までの最終的な F0値の差は 0.5 分であった.

例えば,加熱殺菌の指標となる耐熱性菌の一種である Bacillus coagulansの 場 合,121℃ で D 値 が 1.6 分,z 値 7.8 分との報告がある6).120℃では D 値は約 2 分とな るため,菌数は 0.5 分で 50%減少する程度であり,対数 で考察する殺菌効果においては実質的な差はないと考えら れる.

 図 8にミルク入りコーヒー缶詰の加熱側,冷却側,お よび最終的な F0値を示す.ミルク入りコーヒー缶詰の場 合には,最終的な F0値がすべて 8.5 分から 9.9 分の間に 入っており差は非常に小さかった.加熱側の F0値は最終 図 5 でんぷん水溶液円筒カップ詰内高さ方向の温度分布

推移(A:加熱側 B:冷却側)

図 6 ミルク入りコーヒー缶詰内高さ方向の温度分布推移

(A:加熱側 B:冷却側)

0 20 40 60 80 100 120 140

0 10 20 30

 ᗘ㸦Υ

 ᗘ ᐃ఩⨨ 㸸 h (mm) ຍ⇕ᮇ

0 5 10 15 20 25 30 35 40

0 20 40 60 80 100 120 140

0 10 20 30

 ᗘ㸦Υ

 ᗘ ᐃ఩⨨ 㸸 h (mm) ෭༷ᮇ

40 45 50 55 60 65 70 75

0 20 40 60 80 100 120 140

0 20 40 60 80 100

 ᗘ䠄䉝䠅

 ᗘ ᐃ఩⨨ 䠖 㼔㻌㻔㼙㼙㻕

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ຍ⇕ᮇ

0 20 40 60 80 100 120 140

0 20 40 60 80 100

 ᗘ䠄䉝䠅

 ᗘ ᐃ఩⨨ 䠖 㼔㻌㻔㼙㼙㻕

19 20 21 22 23 24 25 26 ෭༷ᮇ

図 7 でんぷん水溶液円筒カップ詰内中心軸上高さ方向の F0値の分布

8.6

4.8 4.1 4.3

6.2 2.7

4.7 5 4.6

3.2 11.2

9.4 9.1 8.9 9.5

0 5 10 15 20

5 10 15 20 25

 ᗘ ᐃ఩⨨ 䠖 㼔㻌㻔㼙㼙㻕 ຍ⇕ഃ ෭༷ഃ ᭱⤊

的な F0値とほぼ同等であり,加熱側の影響が大きいこと が確認された.高さ 15 mm を除く 20 mm より底に近い 位置の F0値が小さく,中でも最終的な F0値は高さ 5 mm が最も小さかった.高さ 15 mm では殺菌工程で 5 mm,

10 mm,20 mm より 0.2 ~ 0.3℃高温に維持されたため に,F0値が大きくなった.

(5)

3.4.ATS 法パラメータ

 図 9にデンプン水溶液プラスチックカップ詰で位置ご とに ATS 法の遅れ時間を求めた結果を示す.中央部の遅 れ時間が大きく周辺で小さい値となり,中央部と周辺部の 位置による差異が明確に表れた.ATS 法の理論では,遅 れ時間は温度センサーの位置が容器表面に近い場合にはゼ ロに近づくが理論的には負にはならない.しかし,温度セ ンサーが中心部にない場合には温度センサー周辺の熱流分 布の対称性がなく,中心部に温度センサーが位置するとし て構築された ATS 法では想定されない負の値に計算され たと考えられる.本報では温度センサーの位置の議論には 影響しないため,そのまま負の値で議論を進めた.

 図 10にミルク入りコーヒー缶詰で測定位置ごとに ATS 法遅れ時間を求めた結果を示す.下方においては,

δhが大きくδcが小さくなった.温度分布を反映してい ると考えられる.特に高さ 5 mm と 15 mm の加熱側の遅 れ時間が大きかった.

 デンプン水溶液プラスチックカップ詰(図 11)とミル ク入りコーヒー缶詰(図 12)で位置ごとにτh,τcを求 めた結果を示す.どちらの容器詰でも測定位置とはほぼ無 関係と言えることがわかった.

図 8 ミルク入りコーヒー缶詰内中心軸上高さ方向の F0値の分布

8.1 8.2 8.6 8.2 8.5 8.5 8.8 8.8 9.1 9.8

0.4 0.6 0.6 0.7 0.7 0.6 0.7 0.7 0.9

0.2

8.5 8.8 9.2 8.8 9.1 9.1 9.6 9.5 9.9 9.9

0 5 10 15

5 10 15 20 30 40 50 60 70 90

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ຍ⇕ഃ ෭༷ഃ ᭱⤊

図 9 でんぷん水溶液円筒カップ詰内中心軸上における ATS 法の遅れ時間の分布

-102

126

198

129

-96 -69

102

159

120

-15

-200 -100 0 100 200 300

5 10 15 20 25

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 ᗘ ᐃ఩⨨PP

ຍ⇕ഃ ෭༷ഃ

図 10 ミルク入りコーヒー缶詰内中心軸上における ATS 法の遅れ時間の分布

42 36

45 36

24 27

15 15

9 0 0

12 12 12 18

12

21 18

30

-10 -3 0 10 20 30 40 50 60

5 10 15 20 30 40 50 60 70 90

㐜䜜᫬㛫㻔㼟㼑㼏

 ᗘ ᐃ఩⨨ 䠖 㼔㻌㻔㼙㼙㻕 ຍ⇕ഃ ෭༷ഃ

図 11 でんぷん水溶液円筒カップ詰内中心軸上における ATS 法の伝熱係数の分布

2.3 1.8 2.1 1.6 2.1 1.7 2.0 1.7 2.0 2.0

0 5

5 10 15 20 25

㽢㻝䠋㻝㻜㻜㻜ఏ⇕ಀᩘ

 ᗘ ᐃ఩⨨㻔㼙㼙䠅 ຍ⇕ഃ ෭༷ഃ

図 12 ミルク入りコーヒー缶詰内中心軸上における ATS 法の伝熱係数の分布

16 16

23

15 17 17 20 19 22

42

17 15 12 10 9 9 8 8 9

56

0 10 20 30 40 50 60 70

5 10 15 20 30 40 50 60 70 90

㽢㻝䠋㻝㻜㻜㻜ఏ⇕ಀᩘ

 ᗘ ᐃ఩⨨ 䠖 㼔㻌㻔㼙㼙㻕 ຍ⇕ഃ ෭༷ഃ

(6)

図 13 でんぷん水溶液円筒カップ詰中心軸上における ATS 法の遅れ時間と加熱側 F0値の関係

y = 5.0㽢10-5 x2- 0.017 x + 5.6 R² = 0.89

0 2 4 6 8 10

-150 -100 -50 0 50 100 150 200 250

ຍ⇕ഃ್㻔㼙㼕㼚㻕

ຍ⇕ഃ㐜䜜᫬㛫䠖䃓㻔㼟㼑㼏㻕

3.5.ATS 法加熱側遅れ時間と加熱側 F0値の関係  前節 3.3 および 3.4 の結果を合わせると,δhと加熱側 での F0値に相関関係がある可能性が考えられた.そこで デンプン水溶液プラスチックカップ詰(図 13),ミルク 入りコーヒー缶詰(図 14)におけるδhと加熱側 F0値の 関係を調べた.その結果,δhが大きくなるほど加熱側 F0 値が単調に小さくなる傾向であることが分かった.また R2は図 13では 0.89,図 14では 0.94 と強い相関があっ た.実験結果からも今回の容器詰の場合には,δhにより 温度センサーが,F0値が小さくなる位置に配置されたか を特定できる可能性が高いことがわかった.

 予め製品内で位置を変えて行う温度測定等から最小とな る F0値と最大となるδhを求めておき,問題や疑問が生 じた場合に当該データからδhを求めて事前の記録と比較 することにより温度センサー位置の特定が可能になると考 えられる.

 F0値の最小値はδhが最大値をとる位置と少し異なる場 所にあった.今回の結果では最遅速加熱点の最終的な F0 値は,カップ詰の高さ 15 mm の 9.1 分で殺菌値の最小値 である高さ 20 mm の 8.9 分と差は小さかった.缶詰の最 遅速加熱点である高さ 5 mm の 8.5 分は殺菌値の最小値 でもあった.

 δhが最大値をとる位置の殺菌値はカップ詰の高さ 15 mm の 9.1 分, 缶 詰 の 高 さ 15 mm の 9.2 分 で あ り,

F0値の最小値との差は 1 分以下であった.前述の通り耐 熱性菌における殺菌効果の差は実質的にないと思われる.

 上記の結果より,今回実験で使用したカップ詰と缶詰の 場合には,δhが最大の位置であれば,それは最遅速加熱 点であり,最遅速加熱点の F0値は最小値であることが推 測される.クレーム対応,実験時の解析,更に HACCP 管理等に利用価値がある可能性があると考える.

 ただし,伝導伝熱の内容物で容器内に空隙がある場合に ついては,冷却時に空隙の影響で上部が速く冷却される可 能性があるので改めて試験する必要がある2)

4.まとめ

 伝導伝熱方式である 6wt%でんぷん水溶液カップ詰お よび対流伝熱方式であるミルク入りコーヒー缶詰で加熱殺 菌試験を行い,温度分布と F0値,ATS 法の加熱側遅れ時 間:δhの分布とそれらの相関を調べた.δhが温度測定 位置および殺菌値と高い相関関係があり,加熱殺菌におけ る温度センサー位置の特定方法となりうる可能性が示唆さ れた.

5.引用文献

 1 ) 殺菌主任技術者資格認定講習会テキスト「容器詰食品 の加熱殺菌」公益社団法人 日本缶詰協会 p54  2 ) 食品化学新聞社「ほんねで語るモノづくり」―食品エ

ンジニアのひとり言― 日本食品工学会 インダスト リー委員会編 p87-95

 3 ) 寺島好己「レトルト殺菌における容器詰伝導食品の F0値の最小点」缶詰時報,Vol.81,No.6,553 ~ 560(2002)

 4 ) 向井勇,朱政治,温度履歴曲線の相似関係による ATS 法の理論的課題の解明,日本食品工学会誌,

Vol.16,No.3,pp209-207,Sep.2015  5 ) 公益財団法人 東洋食品研究所ホームページ

 6 ) 中條均紀「変敗した低酸性食品缶詰より分離した Bacillus coagulance胞子の耐熱性」Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi Vol.32,No.10,725 ~ 730(1985)

図 14 ミルク入りコーヒー缶詰中心軸上における ATS 法の遅れ時間と加熱側 F0値の関係

y = 0.0012 x2- 0.084 x + 9.8 R² = 0.94

0 2 4 6 8 10 12

0 10 20 30 40 50

ຍ⇕ഃ್㻔㼙㼕㼚㻕

ຍ⇕ഃ㐜䜜᫬㛫䠖䃓㻔㼟㼑㼏㻕

図 3 でんぷん水溶液円筒カップ詰の加熱殺菌中の雰囲気温度内部温度と F 0 値の経時変化024681012141618020406080100120140020406080㻲㻜䠄㼙㼕㼚㻕 ᗘ䠄䉝䠅⤒㐣᫬㛫 㻔㼙㼕㼚㻕ຍ⇕ᮇ෭༷ᮇ㼔㻩㻝㻡㼔㻩㻞㻜㼔㻩㻞㻡ẅ⳦ᕤ⛬ 㻭㻌㼔㻩㻡㻌㼔㻩㻝㻜㻌㞺ᅖẼ ᗘ㻌 図 4 ミルク入りコーヒー缶詰の加熱殺菌中の雰囲気温度内部温度と F 0 値の経時変化024681012141618020406080100120140051015202530㻲㻜䠄㼙㼕㼚㻕 ᗘ䠄䉝䠅⤒㐣᫬㛫 㻔
図 14 ミルク入りコーヒー缶詰中心軸上における ATS 法の遅れ時間と加熱側 F 0 値の関係y = 0.0012 x2 - 0.084 x + 9.8R² = 0.940246810120102030 40 50ຍ⇕ഃ㻲㻜್㻔㼙㼕㼚㻕ຍ⇕ഃ㐜䜜᫬㛫䠖䃓㼔㻔㼟㼑㼏㻕

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