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教育 総合科学学術院における日本語研究の 10 年 卒論 / 修論 博論を振り返る 松木正恵 1. はじめに 本稿は 2010~2019 年度に早稲田大学教育 総合科学学術院に提出された卒業論文 修士論文 博士論文の題目を概観しながら この 10 年間における教育 総合科学学術院の日本語研究の動向を

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(1)

教育・総合科学学術院における日本語研究の 10 年

――卒論/修論・博論を振り返る――

松木 正恵 1

1.. ははじじ めめにに

本 稿 は 、2010~2019年度に早稲田大学教育・総合科学学術院に提出された卒 業論文・修士論文・博士論文の題目を概観しながら、この10年間における教育・

総合科学学術院の日本語研究の動向を探ろうとしたものである。

卒業論文は教育学部国語国文学科に提出されたもの、修士論文は教育学研究科 修士課程国語教育専攻に提出されたもの、博士論文は教育学研究科博士後期課程 教科教育学専攻(国語)に提出されたものを対象としている。厳密に言えば、教 育学部英語英文学科・複合文化学科や教育学研究科修士課程英語教育専攻等に提 出された論文の中にも、日本語学に関連する論文は多少存在するが、他言語との 対照等が中心で、日本語学の領域と言えるか否かの判断も難しいため、本稿では、

早稲田大学日本語学会に所属している教員の卒論指導、修論・博論主査によって なされた論文題目のみを対象とすることにした。

ちなみに筆者は、この期間中に提出された博論・修論については全て、主査や 副査の立場で審査に当たっているため、個々の論文の内容についても大体把握し ているが、卒論に関しては、自身がゼミ生として指導した論文以外のものについ ては、論文題目のみから判断せざるを得ない。そのため、後に示す卒論の研究分 野については、厳密とは言えない点もあることを最初にお断りしておく。

2.. 博博士士論論文文・・修修士士論論文文

ここで対象とした博論・修論の論文題目は、『教育学研究科紀要(別冊)』に 全て収録されている。収録状況は以下の通りである。

・2011年~2014年分…別冊18-1号~22-2号に掲載、16号館の教育学部教員図書 室に所蔵された冊子で閲覧可能。(リポジトリでは修論・博論一覧部分は非公開。)

・2015年9月以降…別冊23-1号~28-2号に掲載。教員図書室所蔵の冊子で閲覧 可能なほか、リポジトリでも公開。

https://waseda.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=reposito ry_view_main_item_snippet&index_id=202&pn=1&count=20&order=7&lang=japanese

&page_id=13&block_id=21

(2)

・狂言台本におけるバ行・マ行・ハ行四段活用動詞の音便に関する考察

【2012年度】・色彩語彙における,和語と外来語の使用傾向に関する考察

―品詞(語形),意味,使用率の観点より―

・多人数インタラクションにおける傍参与者の介入の諸相

・移動複合動詞の意味・用法

―単純動詞・漢語サ変動詞との比較による分析―

【2013年度】・一人称の表記とイメージの関係性

―雑誌・マンガの用例から共通認識を探る

【2014年度】・学習者に身近な言葉を用いた学校文法学習

―日本語について考える活動を目指して―

【2015年度】・動詞の時間的な特徴から見るテイルの習得

―テイルの多様な用法における使用改善を中心に―

・日本語の談話における「補足」発話とその文末表現

・行為要求発話における授受表現の働き

―「くれる」系表現と「もらう」系表現―

・日中同形四字熟語の品詞性に関する対照研究

【2016年度】・中国人日本語学習者における複合動詞の習得研究

・日本語学習者における終助詞ネとヨの習得に関する研究

―中国人上級日本語学習者を対象に―

・上代から中世前期における「ウチ+動詞」の意味拡張について

【2017年度】・複合語の辞書立項に関する考察

―歴史コーパスを用いた計量的分析から―

・雑談能力意識と発話の特徴の関わり

【2018年度】・ビジネス日本語における中国人日本語学習者に対する敬語教育の一考察

―自習用ワークブックの開発を中心に―

【2019年度】・指示詞系フィラーの体系と機能について―指示詞体系からの影響及び ディスコースマーカーとの連続性に着目して―

・日本語人称詞の通時的研究

教育学研究科国語教育専攻の日本語学研究指導は一研究室のみで、2013年7月 以降は筆者が担当している。2010年度修了生の論文は小林賢次先生のご専門から 三名とも日本語史だが、2012年度以降は筆者の学部卒論ゼミから進学した日本人 学生が多いためか、現代語の語彙・文法・文章・談話をテーマとする論文が多い。

また 2015 年度修了生は、筆者が初めて修士課程の初年度から研究指導を担当し た院生であり、この頃から中国人留学生が増えたことにより、日中対照や中国人 日本語学習者を対象とした日本語教育をテーマとする論文が増えている点が特徴 的である。筆者の研究室に在籍している院生は中国人留学生の方が多くなってい

※9 月刊行の●-1号と3月刊行の●-2号があり、修士論文一覧は各年度の●-1号 に、博士論文一覧は各年度の●-2号に掲載されている。

教育学研究科は1990年3月に修士課程(学校教育・国語教育・英語教育・社会 科教育の4専攻)が設置され、その後1995年に博士後期課程(教育基礎学・教科 教育学の2専攻)設置、1998年に修士課程数学教育専攻が設置され、さらに2017 年からは大学院教職研究科を統合し、専門職学位課程である高度教職実践専攻(教 職大学院)を設置している。日本語学を研究する大学院生は、修士課程は国語教 育専攻に、博士後期課程は教科教育学専攻の国語科内容学に所属している。(修 士学位は「修士(教育学)」に、博士学位は「博士(教育学)」または「博士(学 術)」から選択可能。)日本語学に関して言えば、教育学研究科に進学する者の 多くは教育学部出身者であるが、博士課程には、文学研究科や日本語教育研究科 で修士課程を修了した者もおり、またここ数年修士課程には、他大学出身者や中 国からの留学生も増えていることから、教育学研究科創設30周年を迎え、対外的 にも認知されてきたと言えるだろう。

まず、当該期間に教育学研究科に提出された日本語学関係の博士論文は以下の 6本である。(全て課程博士)

【2010年度】・日本語談話における「働きかけ」と「わきまえ」の研究 ―目上に対する「ほめ」と「謙遜」の分析を中心に―

【2012年度】・夏目漱石を中心とする小説テクストの語りの表現特性

・否定表現を伴う副詞の日韓対照研究

【2013年度】・話し言葉におけるハダカ名詞のあり方とはたらき

【2014年度】・日本語感覚表現語彙の歴史的研究―嗅覚を中心に―

【2015年度】・近世後期江戸語から明治期東京語における尊敬表現研究

2010~2013年度の博士論文は、2007年3月まで研究指導を担当なさっていた岩

淵匡先生の元で学んだ院生によるもので、それ以降は故小林賢次先生(2007年4 月~2013年6月ご担当)のご指導を受けた院生によるものである。2013年7月 以降筆者が研究指導を引き継いだが、論文題目からは、それぞれにご指導の先生 方の専門領域が色濃く反映されていることがよくわかる。今期より前には、教育 学研究科における日本語学の博士学位取得者はわずか一名に過ぎなかったことを 考えると、大学院として確固たる地位を築いた大変意義深い 10 年間であったと 言えよう。

次に、今期提出された日本語学関係の修士論文は以下の20本である。

【2010年度】・嗅覚表現語彙の史的研究

・近世前期上方語における終助詞の研究

(3)

・狂言台本におけるバ行・マ行・ハ行四段活用動詞の音便に関する考察

【2012年度】・色彩語彙における,和語と外来語の使用傾向に関する考察

―品詞(語形),意味,使用率の観点より―

・多人数インタラクションにおける傍参与者の介入の諸相

・移動複合動詞の意味・用法

―単純動詞・漢語サ変動詞との比較による分析―

【2013年度】・一人称の表記とイメージの関係性

―雑誌・マンガの用例から共通認識を探る

【2014年度】・学習者に身近な言葉を用いた学校文法学習

―日本語について考える活動を目指して―

【2015年度】・動詞の時間的な特徴から見るテイルの習得

―テイルの多様な用法における使用改善を中心に―

・日本語の談話における「補足」発話とその文末表現

・行為要求発話における授受表現の働き

―「くれる」系表現と「もらう」系表現―

・日中同形四字熟語の品詞性に関する対照研究

【2016年度】・中国人日本語学習者における複合動詞の習得研究

・日本語学習者における終助詞ネとヨの習得に関する研究

―中国人上級日本語学習者を対象に―

・上代から中世前期における「ウチ+動詞」の意味拡張について

【2017年度】・複合語の辞書立項に関する考察

―歴史コーパスを用いた計量的分析から―

・雑談能力意識と発話の特徴の関わり

【2018年度】・ビジネス日本語における中国人日本語学習者に対する敬語教育の一考察

―自習用ワークブックの開発を中心に―

【2019年度】・指示詞系フィラーの体系と機能について―指示詞体系からの影響及び ディスコースマーカーとの連続性に着目して―

・日本語人称詞の通時的研究

教育学研究科国語教育専攻の日本語学研究指導は一研究室のみで、2013年7月 以降は筆者が担当している。2010年度修了生の論文は小林賢次先生のご専門から 三名とも日本語史だが、2012年度以降は筆者の学部卒論ゼミから進学した日本人 学生が多いためか、現代語の語彙・文法・文章・談話をテーマとする論文が多い。

また 2015 年度修了生は、筆者が初めて修士課程の初年度から研究指導を担当し た院生であり、この頃から中国人留学生が増えたことにより、日中対照や中国人 日本語学習者を対象とした日本語教育をテーマとする論文が増えている点が特徴 的である。筆者の研究室に在籍している院生は中国人留学生の方が多くなってい

※9 月刊行の●-1号と3月刊行の●-2号があり、修士論文一覧は各年度の●-1号に、博 士論文一覧は各年度の●-2号に掲載されている。

教育学研究科は1990年3月に修士課程(学校教育・国語教育・英語教育・社会 科教育の4専攻)が設置され、その後1995年に博士後期課程(教育基礎学・教科 教育学の2専攻)設置、1998年に修士課程数学教育専攻が設置され、さらに2017 年からは大学院教職研究科を統合し、専門職学位課程である高度教職実践専攻(教 職大学院)を設置している。日本語学を研究する大学院生は、修士課程は国語教 育専攻に、博士後期課程は教科教育学専攻の国語科内容学に所属している。(修 士学位は「修士(教育学)」に、博士学位は「博士(教育学)」または「博士(学 術)」から選択可能。)日本語学に関して言えば、教育学研究科に進学する者の 多くは教育学部出身者であるが、博士課程には、文学研究科や日本語教育研究科 で修士課程を修了した者もおり、またここ数年修士課程には、他大学出身者や中 国からの留学生も増えていることから、教育学研究科創設30周年を迎え、対外的 にも認知されてきたと言えるだろう。

まず、当該期間に教育学研究科に提出された日本語学関係の博士論文は以下の 6本である。(全て課程博士)

【2010年度】・日本語談話における「働きかけ」と「わきまえ」の研究 ―目上に対する「ほめ」と「謙遜」の分析を中心に―

【2012年度】・夏目漱石を中心とする小説テクストの語りの表現特性

・否定表現を伴う副詞の日韓対照研究

【2013年度】・話し言葉におけるハダカ名詞のあり方とはたらき

【2014年度】・日本語感覚表現語彙の歴史的研究―嗅覚を中心に―

【2015年度】・近世後期江戸語から明治期東京語における尊敬表現研究

2010~2013年度の博士論文は、2007年3月まで研究指導を担当なさっていた岩

淵匡先生の元で学んだ院生によるもので、それ以降は故小林賢次先生(2007年4 月~2013年6月ご担当)のご指導を受けた院生によるものである。2013年7月 以降筆者が研究指導を引き継いだが、論文題目からは、それぞれにご指導の先生 方の専門領域が色濃く反映されていることがよくわかる。今期より前には、教育 学研究科における日本語学の博士学位取得者はわずか一名に過ぎなかったことを 考えると、大学院として確固たる地位を築いた大変意義深い 10 年間であったと 言えよう。

次に、今期提出された日本語学関係の修士論文は以下の20本である。

【2010年度】・嗅覚表現語彙の史的研究

・近世前期上方語における終助詞の研究

(4)

表1:2010~2019年度における卒業論文の分野及び日本語史の対象時代

分野 該当論文数(%) ⑮日本語史 論文数

①音声・音韻 6 (2.3) 上代 5

②文字・表記 15 (5.7) 中古 6

③語語彙彙・・意意味味 7777 ((2299..22)) 中世 3

④文法 21 (8.0) 近世 0

⑤文章・文体 20 (7.6) 近代 5

⑥談談話話 3344 ((1122..99))

⑦待遇表現 9 (3.4) 変遷 7

⑧方言 8 (3.0) 計 26

⑨社社会会言言語語学学 4466 ((1177..44))

⑩国語教育 5 (1.9)

⑪国語問題・国語政策 3 (1.1)

⑫対照研究 10 (3.8)

⑬日本語教育 8 (3.0)

⑭認知言語学 2 (0.8)

計 264(100)

表2:「③語彙・意味」「⑨社会言語学・言語行動」「⑥談話」の下位項目

③の下位項目 論文数 ⑨の下位項目 論文数 ⑥の下位項目 論文数 人称詞・代名詞 13 位相 12 ストラテジー 10 慣用句・表現 13 インターネット等 10 シナリオ分析 8 品詞・複合語 11 役割語 9 話芸・笑いの構造 7

オノマトペ・色彩語 10 広告 6 フィラー・相槌 6

語種 7 表現 6 会話展開構造 3 新語・流行語・略語 5 歌詞 3

接辞・助数詞 6 ※「歌詞」は①⑤⑫にも分布。

類義語・対義語 5

命名 5

辞書 2

古代語を専門とする教員が二人いた2010年が1/21本だったのに対し、古代 語・現代語教員一人ずつである2017年は3/13本、2018年は4/19本と、20% る現状からすると、今後この傾向がより加速するものと思われる。

3.. 卒卒業業論論文文

ここで対象とした卒論の論文一覧は、教育学部教員図書室に所蔵された冊子『が くぶほう 号外』(2010~2019年度版)で全て確認可能である。

教育学部国語国文学科の卒論指導は、2010~2012年度は小林賢次先生・仁科明 先生・筆者の三研究室で担当したが、2013年度途中から小林研究室の学生を仁科 先生が引き継ぎ、その後2014年度以降は、仁科先生・筆者の二研究室で担当して いる。国語国文学科の卒業生は例年 150~220 名程度だが、そのうち一割前後の

10~25名程度が日本語学関係の卒論を書いている。(今期では、2013年度の29本

が最多。)今期の対象となる卒論は175本あったが、それらをいくつかの分野に 分けることで、この10年間の特徴と変化について概観したいと思う。その分野に ついては、各種分類を参考にしたうえで、以下の15分野を設定した。

①音声・音韻・アクセント・イントネーション ②文字・表記

③語彙・意味 ④文法 ⑤文章・文体

⑥談話(話芸・漫才・笑い・語用論を含む) ⑦待遇表現 ⑧方言

⑨社会言語学・言語行動(電子メディア・広告・位相・役割語を含む)

⑩国語教育 ⑪国語問題・国語政策 ⑫対照研究 ⑬日本語教育

⑭認知言語学 ⑮日本語史

当然ながら、複数の分野に関わる研究がありうるため、まずは「⑮日本語史」

に該当するか否かで分けた上で、各論文につき①~⑭のうち最大2種類の分野を 認定した。例えば、以下のような処理を施している。

○「動詞「おる」の語史と現代の使用意識一待遇表現を中心に―」(2011)

→⑮/③・⑦

○「日本語・中国語・韓国語母語話者の漢字認識の違いについて」(2014)

→⑫・②

○「演劇を主題とした漫画作品における読者の認知を意識した表現装置の特徴について」

(2019)→⑭・⑤

その結果、各分野の分布状況を表1に、上位3分野の下位項目を表2に示す。

全175論文のうち、2分野にまたがっているものが66.3%あるのに対し、日本 語史を扱っているものは14.9%に留まった。年々減少しているわけでもなく、

(5)

表1:2010~2019年度における卒業論文の分野及び日本語史の対象時代

分野 該当論文数(%) ⑮日本語史 論文数

①音声・音韻 6 (2.3) 上代 5

②文字・表記 15 (5.7) 中古 6

③語語彙彙・・意意味味 7777 ((2299..22)) 中世 3

④文法 21 (8.0) 近世 0

⑤文章・文体 20 (7.6) 近代 5

⑥談談話話 3344 ((1122..99))

⑦待遇表現 9 (3.4) 変遷 7

⑧方言 8 (3.0) 計 26

⑨社社会会言言語語学学 4466 ((1177..44))

⑩国語教育 5 (1.9)

⑪国語問題・国語政策 3 (1.1)

⑫対照研究 10 (3.8)

⑬日本語教育 8 (3.0)

⑭認知言語学 2 (0.8)

計 264(100)

表2:「③語彙・意味」「⑨社会言語学・言語行動」「⑥談話」の下位項目

③の下位項目 論文数 ⑨の下位項目 論文数 ⑥の下位項目 論文数 人称詞・代名詞 13 位相 12 ストラテジー 10 慣用句・表現 13 インターネット等 10 シナリオ分析 8 品詞・複合語 11 役割語 9 話芸・笑いの構造 7

オノマトペ・色彩語 10 広告 6 フィラー・相槌 6

語種 7 表現 6 会話展開構造 3 新語・流行語・略語 5 歌詞 3

接辞・助数詞 6 ※「歌詞」は①⑤⑫にも分布。

類義語・対義語 5

命名 5

辞書 2

古代語を専門とする教員が二人いた2010年が1/21本だったのに対し、古代 語・現代語教員一人ずつである2017年は3/13本、2018年は4/19本と、20% る現状からすると、今後この傾向がより加速するものと思われる。

3.. 卒卒業業論論文文

ここで対象とした卒論の論文一覧は、教育学部教員図書室に所蔵された冊子『が くぶほう 号外』(2010~2019年度版)で全て確認可能である。

教育学部国語国文学科の卒論指導は、2010~2012年度は小林賢次先生・仁科明 先生・筆者の三研究室で担当したが、2013年度途中から小林研究室の学生を仁科 先生が引き継ぎ、その後2014年度以降は、仁科先生・筆者の二研究室で担当して いる。国語国文学科の卒業生は例年 150~220 名程度だが、そのうち一割前後の

10~25名程度が日本語学関係の卒論を書いている。(今期では、2013年度の29本

が最多。)今期の対象となる卒論は175本あったが、それらをいくつかの分野に 分けることで、この10年間の特徴と変化について概観したいと思う。その分野に ついては、各種分類を参考にしたうえで、以下の15分野を設定した。

①音声・音韻・アクセント・イントネーション ②文字・表記

③語彙・意味 ④文法 ⑤文章・文体

⑥談話(話芸・漫才・笑い・語用論を含む) ⑦待遇表現 ⑧方言

⑨社会言語学・言語行動(電子メディア・広告・位相・役割語を含む)

⑩国語教育 ⑪国語問題・国語政策 ⑫対照研究 ⑬日本語教育

⑭認知言語学 ⑮日本語史

当然ながら、複数の分野に関わる研究がありうるため、まずは「⑮日本語史」

に該当するか否かで分けた上で、各論文につき①~⑭のうち最大2種類の分野を 認定した。例えば、以下のような処理を施している。

○「動詞「おる」の語史と現代の使用意識一待遇表現を中心に―」(2011)

→⑮/③・⑦

○「日本語・中国語・韓国語母語話者の漢字認識の違いについて」(2014)

→⑫・②

○「演劇を主題とした漫画作品における読者の認知を意識した表現装置の特徴について」

(2019)→⑭・⑤

その結果、各分野の分布状況を表1に、上位3分野の下位項目を表2に示す。

全175論文のうち、2分野にまたがっているものが66.3%あるのに対し、日本 語史を扱っているものは14.9%に留まった。年々減少しているわけでもなく、

(6)

社会科学研究科・社会科学部における日本語研究

笹原 宏之 1 ははじじめめにに

早稲田大学においては、現在、文学学術院、教育・総合科学学術院、国際学 術院日本語教育研究科においてそれぞれ複数の教員によって日本語研究に関連 する教育、研究指導が行われている。稿者が社会科学総合学術院に赴任してか ら、社会科学研究科と社会科学部においても日本語研究に関わる内容を持つ講 義とゼミナールが初めて実施されるようになった。

そこでは、ゼミ生による博士学位請求論文(課程内)の提出があったほか、

修士論文、卒業論文が毎年提出されている。担当している大学院のゼミの名称 は、博士後期課程、修士課程ともに「漢字文化圏研究」であり、学部は「メデ ィアと言語の研究」である。社会科学総合学術院は、学際、国際、臨床を学修 目標として掲げているように、そこでは、日本語学や漢字学に加えて言語学の うちとくに社会言語学や言語地理学に関する内容についても教育が行われてい る。

そうして院生や学部生によって執筆される論文は、対象領域が多岐に渡ってい る。早稲田大学におけるこの10年間の日本語研究の動向を振り返るために、こ れらの博士論文・修士論文・卒業論文においてテーマや方法の面で日本語研究に 比較的強い関わりをもつといえるものについて、学内における日本語研究の状況 の1つの現れとして概要を紹介していきたい。

2 博博士士論論文文・・修修士士論論文文

社会科学研究科には、社会科学部から進学する者もあるが、国内外の外部の 大学から受験を経て入る大学院生の方が多い。当研究科では、取得できる学位 は、現在、博士(社会科学)(かつては博士(学術))と修士(社会科学)であり、

専門分野の関係から他大学や学内の他研究科に進むケースもある。逆に、学内 の他学部から進学してくる院生もいる。日本人学生のほか、他大学、他研究科 と同様に中国からの留学生が増えているが、韓国、ロシアからも国費留学生が 入っている。その韓国人留学生は、学術用語の比較対照により修士論文、博士 論文を記し、それぞれの学位を取得した。

程度見られた年度もある。表1の対象時代別で上代・中古が多いことからわか るように、主に仁科先生の専門性にもよると思われるが、筆者の元で日本語史的 な研究をする学生も一定数いるため、3年次必修「日本語学」(日本語学の各分 野・領域について古代語・現代語両面から学ぶ講義で、筆者が担当)や2~3年 次の演習等で扱う内容が卒論題目に反映していると言えるかもしれない。

語彙分野は一貫して多いが、社会言語学的なアプローチを取り入れる傾向が強 まり、位相と関連させた役割語的な分析も増えている。ここ数年で特徴的なの は、SNS・インターネット等を対象とした研究が増えたことであり、メディアの 変化が言語に与える影響に着目した、以下のような研究もある。

○「仮想文字入力デバイスの変遷とそれに伴う日本語の変質と変容」(2019)

○「アンダーグラウンドの言葉の表層化の過程の研究」(2019)

また談話分野では、会話展開構造そのものより、依頼・謝罪・言い訳等をど のように効果的に伝えるかといったストラテジーに着目した研究や、お笑いブー ムに伴う漫才等の笑いの構造に興味を持つ学生が増えている。待遇表現と隣接す るポライトネス理論に基づいた分析も見受けられるようになり、研究の幅も奥行 きも10年前よりかなり広がってきていると言えよう。

研究対象として使用した資料を題目に明示しているものが少ないため確実なこ とは言えないが、予想したよりマンガやアニメ等を使用したものは少なかった

(明示されていたものは8/175本)。一方、歌詞の研究(8/175本)は、①~⑤や

⑨⑫にもまたがる広いアプローチが可能であり、最近ではKHCoder等を使用した 計量言語学的研究も徐々に増加している。

なお、教育学部にしては国語教育関係の論文数が少ないという印象を持たれる かもしれないが、本稿では11 で 述 べ た よ う に 日 本 語 学 担 当 者 に 提 出 さ れ た 卒 論のみを 対象としたため、 国 語教育論文の中にも 日本語学関連のもの は一定数存 在する は ず だ が、こ こでは紹介すること ができなかった。

4.. おおわわりりにに

以上のように、10年間の博論・修論・卒論の題目をもとに、その傾向・特徴を 概観してみた。コーパスや各種検索・集計ソフト類が充実し、学生でも手軽に利 用できる環境が整ってきた昨今、量と質の両面を兼ね備えた学際的な日本語研究 を探求する試みは、今後一層盛んになっていくものと期待できる。自身も共に学 びながら、今後の発展を真摯に見守っていきたい。

―まつき まさえ 教育・総合科学学術院・教授―

参照

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