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紀伊山地の霊場と参詣道における景観分析

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Academic year: 2021

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紀伊山地の霊場と参詣道における景観分析

伊藤裕司,田中一成,吉川 眞

Landscape Analysis of Sacred Sites and Pilgrimage Routes in the Kii Mountain Range

Yuji ITO, Kazunari TANAKA and Shin YOSHIKAWA

Abstract: The “Sacred Sites and Pilgrimage Routes in the Kii Mountain Range” was registered with the world heritage of UNESCO. The buffer zone of the area, as pilgrimage routes, was set at both sides 50m. However, this was not set theoretically.

The purpose of this study is to clear the conformity of the buffer zone. The visible area is extracted by the analysis on topographical model using GIS. Furthermore, the landscape analysis on the forest models has been done in consideration of the effects by forest. The models according to the plant community has been proposed for the analysis.

Keywords:

環 境 保 全 (

environmental protection

) , 景 観 分 析 (

landscape analysis

), 可視・不可視分析(visibility analysis)

1.はじめに

近畿地方の南部に位置する紀伊山地は,豊富な自然 に恵まれており,美しい森林や河川、そして非常に良 好な空気が残されている.しかし、過疎化や地元産業 の後継者不足などといった問題が起こり,少子化や地 場産業の衰退が深刻な問題となっている.このような 状況下で「紀伊山地の霊場と参詣道」は2004年7月7 日に世界文化遺産に登録された.これは,「道」とし て線形に登録された,世界では2例目の貴重な世界文 化遺産である.だが,登録されることがゴールではな く,重要な課題として,登録された環境を維持する必

要がある.維持する上での問題点として,周辺で環境 破壊や開発行為が行なわれていることも確かであり,

この貴重な世界遺産をどのように保全していくかを考 える必要がある.本研究では線形の貴重な世界文化遺 産を囲むバッファゾーンについて着目する.世界遺産 周辺の環境を保全するために設定されたバッファゾー ンの多くの区間は、地形や景観を考慮にいれずに参詣 道の両サイドから一律50mに設定されており充分な根 拠を有していない.そこで本研究では,このバッファ ゾーンが「登録範囲の環境の適切な保全」という目的 を達成しているかということを客観的に検証していき,

文化的景観の向上に関する知見を得ることを目的とし ている.今回の研究では樹種に応じた可視領域の抽出 の方法を検討する。

伊藤:〒535-8585 大阪市旭区大宮 5-16-1

大阪工業大学大学院 工学研究科都市デザイン工学専攻 TEL: 06-6954-4109(内線3136)

e-mail: [email protected]

(2)

2.研究対象地

本研究では紀伊山地の霊場と参詣道のうち,和歌山 県の北東部に位置する高野山町石道を研究対象地とし た.この参詣道は弘法大師空海が,高野山を開創直後 に開いたもので,紀ノ川流域の慈尊院と高野山の奥の 院までを結び,全長約24kmである.1町おきに町石,

36町ごとに里石が建てられ,人々は1町ごとに祈りを 捧げながら参詣したとされている.このような人々の 営みと紀伊山地の自然が融合して良好な文化的景観が 保持されている.しかし,周辺には開発行為も行われ ており,現在の紀伊山地の霊場と参詣道において重要 な解決すべき要素を持ち合わせている参詣道でもある.

図―2 植生分布図

植生分布分析

スギ・ヒノキ植林

3.植生分布分析

まず、対象地の状況把握と問題点の抽出を行うため に植生分布分析を自然環境情報GISというデータウェ ア用いて行った.この分析は,高野山町石道における バッファゾーン内の植生分布を表示し(図―2),そ れぞれの群落ごとに面積を算出し,それをグラフ化し たものである(図―3).

その結果、スギ・ヒノキ植林が、約半数を占めてい ることがわかった.そしてモチツツジ-アカマツ群集 やコナラ群落などの二次林が多く分布しており,さら に北部の紀ノ川流域では大規模な果樹園も営まれてい ることがわかった.またゴルフ場なども存在している ために,開発行為がかなり行われていることがわかっ た.

4.可視・不可視分析

可視・不可視分析では,植生分析や法令の保護体 制などを考慮に入れ,高野山町石道で特徴的な箇所を 4地区選び近景域と中・遠景域に分けて分析を行った.

データウェアの作成方法は,国土地理院地勢図からコ ンターをベクタライズし,そのラインデータからTIN を生成しDEM(

Digital Elevation Model)を作成した.視

点の高さは1.5mで、視点を25mおきに置いた。左列 は近景域の、右列は中・遠景域の可視領域を表してい る(図―4).

この分析から近隣の山だけではなく遠方の山が多く 見え,遠方の景観も大きな影響を与えていることが示 された.バッファゾーンに含まれる近隣の景観を保全 するだけでなく、遠方に見える景観も保全していかな ければならないと考えられる.

この可視・不可視分析は地形モデルによる分析であ る.しかし植生分布分析の結果から対象地周辺はス ギ・ヒノキ植林をはじめとする施業林が多いことがわ かっている.この施業林は将来、伐採される可能性が 高いため,この分析で算出した可視領域の保全が必要 であると考えられる.

図―1 対象地域図

3%3%

2%

5%

6%

6%

8%

12%

47%

モチツジ・アカマツ群集 コナラ群落

落葉果樹園 モミ-シキミ群集 常緑果樹園 緑の多い住宅地 水田雑草 市街地

ツガ・コカンスゲ群集 畑地雑草群落 ゴルフ場 シイ・カシ萌芽林 その他

図―3 植生分布割合

(3)

図―5 森林モデル作成のイメージ図

可視線長 (正方形植え)

0.00 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00

5.00 20.00 35.00 50.00 65.00 80.00 95.00 視点からの距離

長さ

40年 正方形植え 50年 正方形植え 60年 正方形植え

図―4 可視・不可視分析の結果

可視確率 (正方形植え)

0.00 10.00 20.00 30.00 40.00 50.00 60.00 70.00 80.00 90.00 100.00

5.00 20.00 35.00 50.00 65.00 80.00 95.00 視点からの距離

確率

5.森林モデル用いた景観分析

40年 正方形植え 50年 正方形植え

この分析では森林を通して見たときの可視線長や,

可視確率を求めた.対象とする樹種は植生分布分析で 最も高い割合を示していたスギ人工林である.作成し た森林モデルは,森林資源構成表に基づいて,高野山 町石道が通過している市町村(九度山町,かつらぎ町,

高野町)の割合が高い7~12齢級(植栽後40~60年 後)の森林を対象としている.植栽配列についてはそ れぞれの施業計画ごとに差があるため,本研究では全 国的に用いられている,正方形植えと三角形植えを考 えた. 作図の方法は,視点を設定し観測線を5mお きに引き,観測線の内側に不可視領域を作図すること で可視線長を計測した.そのイメージを示したのが

(図―5)である.計測結果から,高野山町石道にお ける平均的なスギ人工林では80~90m先まで見えるこ とがわかった.また,可視線長は30~35mの地点で最 大になっており,この付近の景観を操作することによ り効率的な景観の改変が行える事がわかった(図―

6).これらの結果から見てもバッファゾーンは50m では足りないということが言えるだろう.

60年 正方形植え

可視線長 (三角形植え)

0.00 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00

5.00 20.00 35.00 50.00 65.00 80.00 95.00 視点からの距離

長さ

40年 三角形植え 50年 三角形植え 60年 三角形植え

可視確率 (三角形植え)

0.00 10.00 20.00 30.00 40.00 50.00 60.00 70.00 80.00 90.00 100.00

5.00 20.00 35.00 50.00 65.00 80.00 95.00 視点からの距離

確率

40年 三角形植え 50年 三角形植え 60年 三角形植え

図―6 森林モデルの分析結果

(4)

6.果樹園モデルの作成

高野山町石道の北部にあたる紀ノ川沿いには,柿を 始めとする果樹園が多く分布している.そこで果樹園 地が参詣道から見える景観に,どの程度影響を及ぼす のかを考えてみる.対象は和歌山県で多く栽培されて いる柿を対象とする(図―7).

具体的な方法としてはまず,柿をデジタルカメラに よって撮影しその画像から1本の柿から背景が見える 確率である透過率を求める.具体的な透過率は以下の 式で求めた.

ここで重要となるのは,樹木ピクセル数を計測する にあたっての樹木の範囲である.樹木の最も外側のア ウトラインを取り樹木の範囲とした(図―8).作業 方法は,撮影した画像を対象となる柿木を除いて背景 を全て消す方法をとった.そして合計10枚の画像サン プルから,距離との相関関係をとりグラフ化した.さ らにそのグラフから透過率の数式を推定し距離と透過 率の関係を求めた.その結果、果樹園地では15m付近 まで見えることがわかった.

7.二次林・自然林の透過率

二次林・自然林に関しては人工的に植栽されたもの とは異なりモデル化することは困難である.そこでま ず,森林内をデジタルカメラによって撮影しその画像 の中で空が見えている部分のピクセル数を計測した.

そして様々な角度から撮影し透過率と撮影角度との相 関関係を導き出し、距離と透過率との関係を数式化し た.

8.おわりに

DEMを用いた可視・不可視分析や,森林モデル,果 樹園モデルなどを作成することにより,参詣道から見 える景観要素である森林の定量化を図ることが出来た.

また結果、バッファゾーンは50mでは必ずしも満足し ているとは言えない可能性を見いだした.ただ、果樹 園モデルなどの結果を見ると樹冠などにより前方の景 観を遮る場合もあり、今後はそれぞれの樹種によって 求めた可視領域をGIS上にプロットしビジュアル化を 図る予定である.また森林モデルに地形という要素を 加える事によって森林モデルの三次元的な解析も行う.

さらに多くの対象地区を扱うことにより、例えば高野 山などの霊場にも研究を展開していき、バッファゾー ンの検証を行う.また,一部を既に発表を試行してい るが(伊藤ほか:土木学会関西支部学術講演会2006),

樹冠の特性を生かし参詣道から見える人工の構造物を 隠すシミュレーションを行っていきたい.

透過ピクセル数/樹木ピクセル数×100=透過率

9.謝辞

本研究を行うにあたり世界遺産一覧表記載推薦書を始 めとする様々な資料を提供していただいた和歌山県教 育委員会事務局生涯学習課文化遺産課の方々には,こ の場をお借りして感謝の意を表します.

図―7 柿木の画像

参考文献

平田俊一(2002)熊野古道中辺路沿道における景観管 理に関する研究 ~文化的景観としてのバッファゾー ン管理~ 「日本建築学会学術講演梗概集」,715- 716

和歌山県(2003)世界遺産一覧表記載推薦書

図―8 樹木の範囲

参照

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