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章末問題解答

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(1)

1

章 分析化学序論

1.1 「化学分析」は「物質(試料)を一つ一つの要素や成分に分け,その構成などを明らかにすること」を意味し,「分析」

という行為そのものを指す。一方,「分析化学」は化学分析に関連する化学の学問としての一分野を表す言葉である。

1.2 「定性分析」は試料を構成している化学成分が何であるかを調べることを意味し,「定量分析」はその量や濃度を調

べることを意味する。

1.3 「機器分析」は分析機器を使った分析を意味し,その多くはエネルギーと物質の相互作用,すなわち,物理現象に基

づいている。

1.4 「分離」は分析成分を他の共存物質から取り出すことを意味し,「検出」は分析成分の信号を得ることをいう。「感度」

と「検出限界」は,ともにどこまで少ない量(濃度)を測定できるかを表す指標である。「選択性」は,共存成分の影響 を受けずにどこまで分析成分のみを測定できるかを表す。「精確さ」は測定値の「真の値」への近さと「ばらつき」の大 きさを表す。(なお,より厳密な定義は

3

章や

11

章を参照。)

1.5 試料サンプリングにおいては,分析の目的に応じ,必要最小限の試料をサンプリングする。また,その過程で分析

成分の汚染,損失あるいは変質にも注意する必要がある。

  「試料前処理」は,一般に,分析機器で測定するために,試料の形態を変化させたり,分析成分を共存物から分離・

濃縮したりする化学操作のことを呼ぶ。

2

章 単 位 と 濃 度

2.1  1

) エネルギー

J = N m = m 2 kg s −2

2

) 圧力

Pa = N m −2 = m −1 kg s −2

3

) 仕事率

W = J s −1 = m 2 kg s −3 2.2 キログラムは周波数が

(299 792 458)

2 /6.626 069 57} × 10 34 Hz

の光子のエネルギーに等価な質量と定義される。

2.3 SI

に基づいて測定の正しさを評価・証明できる体系のことを「トレーサビリティー体系」と呼ぶ。

2.4 理想気体の場合,気体の種類によらず PVnRT

の関係が成り立つ。体積分率は

p

T

一定として考えるので,以

下の例のように体積分率はモル分率に等しくなる。

VnRT

pkn なので  V 1

V 1 + V 2 = kn 1

kn 1 + kn 2 = n 1

n 1 + n 2

2.5 共洗いするもの:ホールピペット,ビュレット

  これらの場合,試料溶液の濃度が問題となる。共洗いせずに,洗浄した蒸留水がわずかにでもこれらの中に残ってい ると,それだけ薄まってしまい濃度が変わってしまう。そこで,こうした濃度変化を防ぐために,共洗いをする必要が ある。

 共洗いしてはいけないもの:メスフラスコ

  メスフラスコは通常,溶液を正確に希釈するために使う。ホールピペットで試料溶液をメスフラスコに移したのち希 釈する。ここで,メスフラスコを試料溶液で共洗いしてしまうと,ホールピペットの試料溶液のほか,共洗いでも試料 溶液が余分に入ってしまうことになり,正確な希釈率がわからなくなってしまう。そのため,通常メスフラスコは共洗 いしてはいけない。

3

章 分析値の取扱いとその信頼性

3.1 「確定誤差」は何か決まった原因がデータ(測定値)にいつも一方向のかたよりを生む誤差で,「系統誤差」ともいう。

確定誤差は,原因がわかれば除去ないし補正できる。一方,想定される系統誤差の原因をみな除いたうえ測定をくり返 しても,なお不規則な誤差が残る。そうした誤差を「不確定誤差」,あるいは「偶然誤差」や「ランダム誤差」ともいう。

3.2 「真度」は測定値群の平均値が真の値にどれだけ近いかを表す。

  「精度」は測定値群の個々の値がその平均値の周りにどの程度集合しているかを表し,通常,測定値群の標準偏差に よって表現される。

章 末 問 題 解 答

(2)

  「精確さ」は個々の測定値がどれだけ真の値に近いかを表す概念で,真度と精度の総合概念。ともに優れているとき にのみ優れているといえる。

3.3 測定値のばらつきの原因が不確定誤差なら,データは正規分布になる。「標準偏差」 s

は平均値

m

を中心としてその

広がりを表す指標(m ±

s

の範囲に

68 %

の測定値が分布する)であり,通常,精度の指標となる。

3.4 ある測定値群から,測定値の母集団(正規分布すると仮定する)の真の平均値 m

(無限回測定を行ったときの平均値)

の存在しうる範囲を統計的に推定することができる。この範囲は「信頼区間」(confidential interval)と呼ばれ,また,

この範囲の上限と下限を「信頼限界」(confidential limit)という。真の平均値

m

がその信頼区間に存在する確率を「信頼 水準」(

confidential level

)と呼び,通常は

で表される。信頼水準には

90 %

95 %

99 %

などがよく用いられる。

3.5 前問のように測定値は通常 m ± s

として表される誤差を含む値である。したがって,平均値

m

の桁数は

s

の値に

よって決まり,それよりも低い桁の数値は意味をもたない。そのため,適切な有効桁数が存在する。

3.6 「不確かさ」は「測定値のばらつきを特徴付ける負でない指標」と定義され,測定値のばらつきと未知のかたよりの

評価指標である。

A

タイプの標準不確かさは実験的に求めることができるばらつきで,

B

タイプの標準不確かさは実験 的に求めることが困難なばらつきと未知のかたよりを意味する。

3.7 「t

検定」は,「真の値」と測定値群の平均値との差の判定や二つの測定値群の平均値の差の判定に用いられる。

  「Q検定」は代表的な異常値の棄却法である。

3.8 いずれも,分析値の信頼性を保証するための手段として利用される。

  「公定法」は,社会で広く必要とされる分析項目について,信頼できる分析法として,国などの公的機関により定め られた標準分析法であり,方法そのものの信頼性を保証する制度である。

  「試験所認定制度」は,分析室の技術レベルや分析データの管理体制を保証する制度で,例えば,国際標準化機構

ISO

)のような国際的に認められた機関が定めた基準に従って分析室の管理を行い,さらに,それが正しく実行されて いるかどうかの認定を受ける制度である。すなわち,ある分析室が

ISO

の認定を得ていれば,第三者もその分析室が 信頼できると判断できる。

  「組成標準物質」は,実際の分析値の信頼性の評価に有効な手段として利用される。すなわち,組成標準物質は,実 際の分析試料と類似の組成をもつ標準物質で,分析成分の量(濃度)が前もって厳密に測定され,また均質性や保存性 が保証されている。そうした試料を分析試料と同時に分析する。その標準物質についての実際の分析値と,標準物質に 付与された値を比較することにより,分析値(分析法)の信頼性,特に真度を評価することができる。その分析法を用 いて,標準物質の値と一致する値が得られれば,その方法は信頼できると判断される。

4

章 水溶液の化学平衡

4.1 水がイオンをよく溶かす理由として,主に比誘電率が非常に大きいことと,水和があげられる。以下にその内容を

まとめる。

1

) 水が大きな比誘電率をもつ理由とイオンの溶解度への効果

  比誘電率の大小は,媒質の分極で決まり,分極が大きいほど比誘電率も大きい。分極は分子の双極子モーメントを反 映するため,一般に双極子モーメントが大きい分子の集団ほど比誘電率が大きい。水分子の双極子モーメントは大きい が,双極子モーメントだけでは水の異常に大きい比誘電率は説明できない。水の異常性は,水素結合を通じて分子の双 極子モーメントが一方向に整列し,巨大分子のようにふるまうことなどに由来するといわれている。

  クーロンの法則により比誘電率が大きいほど,電荷同士に働く力は弱い。水の比誘電率は極めて大きく,水中の電荷 同士に働く引力も反発力も,ほかの溶媒中に比べて大変小さい。すなわち,塩が溶ける際の,陽イオン

陰イオン間の 引力が切れ,イオンが自由になるためのエネルギーが小さくてすむため塩が溶けやすい。

2

) 水和

  水和とは,イオンと,大きな双極子モーメントをもつ水分子との間には静電引力が働き,その結果,水分子は一部水 の構造を乱してイオンの周りに集まりイオンが安定化する現象を指す。この水和により,水中でイオンが安定に存在で きるようになる。

4.2 電解質が溶質の活量(活量係数)を変える現象を「電解質効果」という。電解質効果には,下記二つの特徴がある。

(3)

  ① 効果の大きさは,電解質の種類にはあまり関係なく,主にイオン強度で決まる。

  ② 平衡にからむ物質の電荷が大きいほど効果は大きい。

4.3 電解質溶液中のイオンは,溶液中の電解質とイオン対をつくり動きにくくなる。その中で自由なイオンの濃度を「活

量」と呼び,その割合が「活量係数」である。

4.4 「モル濃度平衡定数」 K

と「熱力学的平衡定数」

K

の関係は活量係数を用いて以下のように表される。

K

g C

c

g D

d

g A

a

g B

b

K

4.5 最も一般的な改良型に,以下のような拡張デバイ―ヒュッケルの式がある。

log g

±

= − A |z + z − | 1 m

  

1 + B 1 m

  

+ Cm

  さらに(

+Dm 2

)を付け加えることもある。詳しくは以下の参考書などを参照のこと。

  『アトキンス物理化学(上)』第

10

版(東京化学同人)

pp.167

170

5

章 酸 塩 基 平 衡

5.1 (a) アレニウスの酸・塩基

     酸(

HA

):水に溶けて

H

H 3 O

)を出す物質       HA   H

+ A

    (1)

    塩基(BOH):水に溶けて

OH

を出す物質       BOH   

B + OH

  (

2

   と定義されるが,水溶液にしか適用できないなどの問題点がある。

   (b) ブレンステッド―ローリーの酸・塩基(プロトン説)

     酸:何かに

H

を与える物質     塩基:何かから

H

を受けとる物質

   と定義され,水以外の溶媒(非水溶媒)にも適用でき,酸塩基反応を定量的に扱うために最も適した定義であり,

分析化学で特に重要である。

   (c) ルイスの酸・塩基(電子説)

     酸:何かから電子対を受けとる物質     塩基:何かに電子対を与える物質

    と定義され,錯生成反応をはじめとする多様な有機化学反応も酸・塩基反応とみなせる。ただし,酸・塩基の中和 を定量的に扱えないなどの問題もある。

5.2  1

) シアン化水素(

HCN

) 

2

) リン酸二水素イオン(

H 2 PO 4 −

) 

3

) フェノール(

C 6 H 5 OH

)  

4

) アンモニウムイオン(

NH 4 +

) 

5

) アニリニウムイオン(

C 6 H 5 NH 3 +

5.3 HCl

HClO 4

の酸としての強さを比較すると,氷酢酸中では

HClO 4

は完全解離するが,HClは一部しか解離しな

い。すなわち,HClO

4

は本来的には

HCl

よりも強い酸である。一方,水溶液中ではどちらも完全解離する。このため,

強酸(

HCl

HNO 3

HClO 4

など)の場合には定量的に

H 3 O

が生成するので,水溶液の酸性度は

H 3 O

の強さによって 決まってしまい,

H 3 O

の強さに均一化してしまう。

      HCl

+ H 2 O  →

 H

3 O + Cl

    (完全解離)

      HCl

+ CH 3 COOH 

 CH

3 COOH 2 + + Cl

   (一部解離)

      (氷酢酸)

      

HClO 4 + H 2 O

H 3 O + ClO 4 −

    (完全解離)

      HClO

4 + CH 3 COOH  →

 CH

3 COOH 2 + + ClO 4 −

   (完全解離)

(4)

5.4 

 1) 強塩基水溶液の

pH

BOH 

 B

 OH

 (完全解離) (1)

H 2 O 

 H

 OH

(2)

5.6

節(

p. 54

)の

3

条件を具体的に書く。

  ① 物質収支 C

BOH =

[BOH]

[B

[B

] (完全解離) (3)

  ② 電荷均衡 [H

[B

[OH

] (4)

  ③ 化学平衡

C BOH =

B

] (完全解離) (

5

H

][

OH

K w

6

 (

1

) 塩基の濃度が高く,C

BOH

B

H

](C

BOH 2 ≫ K w

)とみてよいときは [

OH

B

C BOH

だから,

   

pOH = − log C BOH

となるので,

pH = 14 − pOH = 14 −

− log C BOH

 (

2

) 酸の濃度が薄くて(

1

)の条件が成り立たないときは,式(

5

)と(

6

)を式(

4

)に代入し,次の結果を得る。

[OH

C BOH + K w

[OH

] (7)

 整理すると,次の二次方程式になる。

OH

2 − C BOH

OH

− K w = 0

8

)  方程式を解き,次の結果を得る。

[OH

C BOH + 1 C 2 BOH + 4 K w

2

(9)

 2) 弱塩基水溶液の

pH

  弱塩基

B

の水溶液中では,以下二つの平衡が成り立つ。

B

H 2 O

   

BH

OH

10

H 2 O

   

H

OH

11

  弱塩基の総濃度を

C B

として,本文中の

3

条件はこう書ける。

① 物質収支:[B]

[BH

C B

(12)

② 電荷均衡:[

BH

H

OH

] (

13

③ 化学平衡:[

BH

][

OH

[B]

K b

14

)        [H

][OH

K w

(15)

 式 (13)の [BH

[OH

[H

]と,式 (12)を整理した [B]

C B −

([OH

[H

])を式 (14)に代入し,次 式を得る。

OH

]([

OH

H

])

C B −

([

OH

H

])

K b

16

)  式(

15

)と(

16

)を組み合わせれば,次の三次方程式ができる。

[OH

3 + K

[OH

b

2

(K

b C B + K w

)[OH

− K b K w = 0

(17)

 (

1

) [

OH

H

](

K b C B ≫ K w

)の場合

  式 (16)の[H

]は無視できるため,次のように簡単化する。

OH

2

C B −

OH

K b

18

  書き直せば次の二次方程式になる。

[OH

2 + K

[OH

b

− K b C B = 0

(19)

  方程式を解き,次の結果を得る。

OH

= −K b + 1 K  b 2 + 4 K  b C B

2

20

(5)

 (

2

) さらに

C B ≫

OH

](1

C B ≫ 1 K b

)の場合   式 (20)は次のように簡単化できる。

OH

2K b C B

21

)   両辺の対数をとって整理し,次の結果を得る。

pOH = 1

2 =

pK b − log C B

) (

22

pH

は次式に従う。

pH = 7 + 1

2

(pK

a + log C B

5.5 酢酸の pK a = 4.75

(〜

4.8

),アンモニア水の

pK b = 4.8

 弱酸と弱塩基の塩の水溶液の

pH = 7.0 + 1

2

(pK

a − pK b

= 7.0 + 1

2

(4.8

− 4.8) = 7.0

5.6 

 例として

a 0

を導出する。

a 0 =

H 3 PO 4

C H

3

PO

4 (1)

C H

3

PO

4

H 3 PO 4

H 2 PO 4 −

HPO 4 2−

PO 4 3−

] (

2

)  したがって

a 0 =

[H

3 PO 4

H 3 PO 4

H 2 PO 4 −

HPO 4 2−

PO 4 3−

= 1

1 +

[H

2 PO 4 −

H 3 PO 4

[HPO

4 2−

H 3 PO 4

[PO

4 3−

H 3 PO 4

(3)

 式(

5.61

)〜(

5.63

)より

K a1 =

H

][

H 2 PO 4 −

[H

3 PO 4

] ,したがって [

H 2 PO 4 −

[H

3 PO 4

K a1

[H

] (

4

K a1

×

K a2 =

H

][

H 2 PO 4 −

[H

3 PO 4

] ×[

H

][

HPO 4 2−

[H

2 PO 4 −

H

][

2 HPO 4 2−

[H

3 PO 4

] したがって [

HPO 4 2−

[H

3 PO 4

K a1 K a2

[H

(5)

K a1

×

K a2

×

K a3 =

H

][

H 2 PO 4 −

[H

3 PO 4

] ×[

H

][

HPO 4 2−

[H

2 PO 4 −

] ×[

H

][

PO 4 3−

[HPO

4 2−

]       

H

][

3 PO 4 3−

[H

3 PO 4

] したがって [

PO 4 3−

[H

3 PO 4

K a1 K a2 K a3

[H

3

(6)

 (4)

(6)を(3)に代入することにより

a 0 = 1

1 + K a1

[H

K a2 K a2

[H

2K a1 K a2 K a3

[H

3

H

3

[H

3 + K a1

[H

2 + K a1 K a2

[H

+ K a1 K a2 K a3

 同様に式(

5.68

)〜(

5.70

)も導出できる。

5.7 リン酸の pK a

pK a1 = 2.15,pK a2 = 7.20,pK a3 = 12.35

であり,第一酸解離過程だけを考えればよい。pK

a1

はか なり小さいので,[H

[OH

]は成り立つが,C

HA ≫

[H

](1

C HA ≫ 1 K a

)は成り立たないので,pHの計算には 式(

5.50

)を用いる必要がある。すなわち,C

HA = 0.10

,K

a1 = 7.1

×

10 −3

を代入すると

H

= − 7.1

×

10 −3 + 1

7.1

×

10 −3

2 + 4

×

7.1

×

10 −3

×

0.10

2

= 2.3

×

10 −2 mol dm −3

pH = 1.6

(6)

5.8 

 (1) Na

2 HPO 4

水溶液の

pH

 Na

2 HPO 4

の総濃度

C

とする。

 物質収支より

C

H 2 PO 4 −

HPO 4 2−

PO 4 3−

Na

2

         (

1

)      ここで[

H 3 PO 4

]は無視している。

 電荷収支より

[Na

[H

[H

2 PO 4 −

+ 2

[HPO

4 2−

+ 3

[PO

4 3−

[OH

]  (2)

 (

1

),(

2

)より

H

= −

H 2 PO 4 −

PO 4 3−

OH

]   

= −

[HPO

4 2−

][H

K a2 + K a3

HPO 4 2−

H

K w

H

]  この式を整理すると

[H

= 4 K a2 K w + K a3 K a2

HPO 4 2−

K a2 +

[HPO

4 2−

]  (2) Na

3 PO 4

水溶液の

pH

  

Na 3 PO 4

の総濃度

C

とする。

  リン酸イオン

PO 4 3−

は強い塩基であり以下のように塩基解離する。

PO 4 3− + H 2 O 

 HPO

4 2− + OH

     ここで

K b3 = K w

K a3

  したがって,弱塩基の水溶液の

pH

の求め方で

pH

を計算できる。ただし,K

b

がかなり大きいため,C ≫ [

OH

]は 成り立たないので二次方程式を解く必要がある。すなわち,

OH

= − K b3 + 1 K b3 2 + 4 K b3 C 2

6

章 酸 塩 基 滴 定

6.1 

 図のように,pK

w = 7

としたときの滴定曲線は,pK

w = 14

の場合に比べて

pH

のジャンプが小さくなることがわかる。

これは,錯滴定,沈殿滴定などでそれぞれ生成定数や溶解度積が大きくなったときの変化と同じで,当量点後も酸の濃 度が下がらないことに起因する。

0 2 4 6 8 10 12 14

0 10 20

pH

滴下量

/ cm

3

pK

w=

14

pK

w=

7

(7)

6.2,6.3

 6.2と

6.3

の滴定曲線を以下に同時に示す。

6.4 問 6.2,6.3

ともに酸性側で変化するメチルオレンジなどが適している。強酸

強塩基の場合は,変色域からはフェ

ノールフタレインも使用可能であるが,赤色から無色への変化は見づらいので通常は使われない。

 酢酸の

pK a = 4.75

(〜 4.8),アンモニア水の

pK b = 4.8 6.5 

 濃度が薄くなるにつれ,

pH

のジャンプが小さくなることがわかる。

7

章 錯生成平衡とキレート滴定

7.1 

 逐次生成定数と全生成定数の関係は以下の式で表される。

b

n

K 1

・K

2

……

K

n

7.2,7.3

  7.2,7.3

の滴定曲線を以下(次ページ)に同時に示す。低

pH

では,見かけの安定度定数が小さくなるため,当量点 付近の

pCa

の値のジャンプが小さくなることがわかる。

0 2 4 6 8 10 12 14

0 5 10 15 20

強酸−強塩基 強酸−弱塩基

pH

滴下量

/ cm

3

0 2 4 6 8 10 12 14

pH

0 5 10 15 20

滴下量

/ cm

3

1.0 mol dm

−3

0.1 mol dm

−3

0.01 mol dm

−3

(8)

7.4  pH = 3.0

のときの

a 4 = 2.5

×

10 −11

なので

K′ CuY = 6.8

× 10

18 × 2.5 × 10 −11 = 1.8 × 10 8

  K′

BaY = 5.4

× 10

7 × 2.5 × 10 −11 = 1.4 × 10 −3

 Cu

2+

の条件安定度定数は

10 8

より大きいので滴定可能だが,Ba

2+

の滴定はできない。

7.5 [Ca 2+

[Mg

2+

= 0.0100 × 3.14

50.0 = 6.28 × 10 −4 mol dm −3

 CaCO

3

の式量は

100

であるので,硬度

= 6.28 × 10 −4 × 100 = 6.28 × 10 −2 g dm −3

 すなわち,

62.8

mg dm −3

)。

8

章 酸化還元平衡と酸化還元滴定

8.1

1

) (酸化反応) 

Sn 2+

   

Sn 4+ + 2 e

   (還元反応) 

Ce 4+ + e

   

Ce 3+

  式 (8.15)より,K

a Sn

4+

a 2 Ce

3+

a Sn

2+

a 2 Ce

4+

= exp 3 2F

(1.72 − 0.15)

RT 4 = 1.2 × 10 53

 2) (酸化反応) Fe

2+

   Fe

3+ + e

   (還元反応) MnO

4 − + 8 H + 5 e

   Mn

2+ + 4 H 2 O

  式(

8.15

)より,K

a 5 Fe

4+

a Mn

2+

a 5 Fe

2+

a MnO

4−

= exp 3 5F

1.54 − 0.77

RT 4 = 1.2

×

10 65

3

) (酸化反応) 

2 S 2 O 3 2−

   

S 4 O 6 2− + 2 e

   (還元反応) 

I 2 + 2 e

   

2 I

  式 (8.15)より,K

a 2 I

a S

4

O

62−

a I

2

a 2 S

2

O

32−

= exp 3 2F

(0.54 − 0.08)

RT 4 = 3.6 × 10 15

 酸化・還元両半反応式からそれぞれネルンスト式を立て,平衡では両方の電極電位が等しい(起電力が

0

である)こと から,最終的に式 (8.15)が導かれる。このとき各半反応式の電子数に注意すること。

8.2  1

E = − 0.26 − RT 2F ln a Ni

a Ni

2+

= − 0.26 − RT 2F ln 1

a Ni

2+  

2

) E

= 0.36 − RT

F ln a Fe

(CN)64−

a Fe

(CN)63−

3

E = 0.22 − RT

F ln a AgCl a Cl

a AgCl = 0.22 − RT

F ln a Cl

  

4

) E

= 1.36 − RT

6F ln a Cr

3+

a Cr

2

O

72−

a H

14

8.3  1

E = 0.77 − RT F ln 10

2 = 0.73 V

  

2

) E

= 0.80 − RT F ln 1

10 −3 = 0.62 V   

3

E = 0.22 − RT

F ln 0.1 = 0.28 V 8.4 E Ag

/Ag = 0.80 − RT

F ln 1

a Ag

,E

AgBr/Ag,Br

E

AgBr/Ag,Br

RT F ln a Br

 平衡状態では

E Ag

/Ag = E AgBr/Ag,Br

より,

0 2 4 6 8 10 12

pC a

0 5 10 15 20

滴下量

/ cm

3

pH 10

pH 7

(9)

E

AgBr/Ag,Br

RT

F ln a Br

= 0.80 − RT F ln 1

a Ag

E

AgBr/Ag,Br

= 0.80 − RT F ln 1

a Ag

a Br

= 0.80 − RT F ln 1

4 × 10 −13 = 0.067 V 8.5 EE

RT

nF ln a R

a O a m H

E

RT nF ln 1

a m H

RT nF ln a R

a O = E

− 0.059 m

n pH − RT nF ln a R

a O

1 RT nF ln 1

a H

= − 0.059 log a H

である

2

9

章 沈殿平衡とその応用

9.1 「溶解度」は難溶性塩の飽和溶液の濃度を表し,S

で表記されることが多い。「溶解度積」(K

sp

)は難溶性塩の溶解平

衡における平衡定数を表す。今,

M

m

X

nという塩の溶解平衡を考えると,

     

M

m

X

n   mM

nX

 純粋な固体の活量

= 1

なので      K

sp =

[M]m[X]n

 となる。また,このとき溶解度

S

K sp

の関係は      K

sp =

(mS)m(nS)n

m

m

n

n

S

m+n  となる。

9.2 [Mg 2+

= 1.2 × 10 −11

OH

2 < 10 −6

  [OH

2 > 1.2

× 10

−11

10 −6 1.2 × 10 −5

  [OH

> 3.5 × 10 −3

  

pH > log

(3.5 × 10

−3

+ pK w = 11.5

  

pH = 11.5

以上にする。

9.3 以下の表の値をプロットすることにより,滴定曲線が得られる。(実際の滴定曲線は図 9.1

参照)

      試料:0.100 mol dm

−3 Cl

 10.00 cm

3 0.100 mol dm −3

硝酸銀

標準溶液の量

/ cm 3

[Cl

mol dm −3

pCl

0.00 0.100 1.00

 5.00

3.3 × 10 −2 1.48

9.00 5.3

×

10 −3 2.28

 9.90

5.0 × 10 −4 3.30

10.00 1.3

×

10 −5 4.89

10.10 3.6 × 10 −7 6.44

11.00 3.8

×

10 −8 7.42

20.00 5.5 × 10 −9 8.26

9.4 当量点では,「溶液 + 沈殿」全体で,銀イオンとチオシアン酸イオンの総量は等しく,塩化銀の飽和溶液なので,

[SCN

]は次のようになる。

     [

SCN

Ag

= 1 K sp

 すなわち,[

SCN

= 1.0

×

10 −6 mol dm −3

9.5 沈殿剤を溶液中で生成させる方法で,相対的過飽和度を小さく保てるので,不純物の少ない沈殿を生成させること

ができる。

(10)

10

章 分 離 と 濃 縮

10.1 1) 分配係数(K D

 分配平衡は,水相の目的物質の濃度を[S]

a

,有機相の濃度を[S]

o

とすると,次のように表される。

K D =

[S]

o

S

a

(1)

 平衡定数

K D

を分配係数という。式(

1

)は,単一物質の分配平衡を表す。

2

) 分配比(D)

  実際の抽出系では通常,解離した酸と未解離の酸など,複数の物質が平衡に関わる。溶質

S

が水相で示す総濃度が

C a

,有機相で示す総濃度が

C o

とすると,分配比

D

は次のように定義される。

DC o

C a

(2)

3

) 抽出率(

%E

  抽出率(

%E)は次式で定義される。

%E =

有機相中の全溶質量

有機相中の全溶質量

水相中の全溶質量 ×

100 = C o

×

V o

C o × V o + C a × V a

×

100

(3)

  V

o

は有機相の体積,V

a

は水相の体積を指す。式(2)と(3)を組み合わせると,式(4)が成り立つ。

%E = D D + V a

V o

×

100     (4)

4

) 抽出平衡定数(

K ex

  キレート抽出系において,酸解離していないキレート剤

HA

と金属錯体

MA

nはすべて有機相に分配し,それ以外の 反応していない金属イオンや水素イオンはすべて水相に分配していると考えても差し支えないことが多い。その場合,

抽出平衡は以下のように表される。

M

n+

nHA o

   

MA

n,o

nH

     (

5

 ここで添え字

o

は当該化学種が有機相に,添え字なしは水相に存在することを意味する。

  ここで抽出平衡定数

K ex

は,次のように定義される。

K ex =

[MAn

o

[H

n

M

n+][

HA

o

n

10.2 1) キレート抽出法

  有機キレート剤と金属イオンから中性の錯体をつくり,有機溶媒に抽出する方法で,金属イオンの分離・濃縮に使 う。弱酸の有機キレート剤が金属イオンに配位した中性の錯体は,有機溶媒になじむので抽出されやすい。この反応を 利用して目的の金属イオンを有機相に抽出し,そのほかの金属イオンなどから分離・濃縮する。

  2) イオン対抽出法

  電荷が中和した大きなイオン対は,誘電率の大きい有機溶媒に抽出されやすくなる。この現象を利用して,金属イオ ンや界面活性剤などの濃縮・分離を行う。たとえば,高濃度の塩酸に溶けた

Fe 3+

を,ジエチルエーテル

R 2 O

に抽出す る方法では,陰イオンの

FeCl 4 −

と陽イオンの

R 2 OH

が生じ,イオン対になってエーテル相に抽出される。

10.3 1

回の抽出操作で水相に残る溶質

S

)は

S = 100 − %E = 100

×

i V w

V o

D + V w

V o

j

  V

w /V o = 5

のとき

S = 100 × 1 5

5 + 5 2 = 50 %

 この操作を

3

回繰り返すと, (0.5)

3 × 100 = 12.5 %

(11)

  V

w /V o = 0.2

のとき

S = 100 × 1 0.2

5 + 0.5 2 3.8 %

 この操作を

3

回繰り返すと, (0.038)

3 × 100 5.5 × 10 −310.4 抽出平衡の式から,以下の式が導かれる。

log D = log K ex 1 + n log

[HA]

o + n pH

(1)

 今,

3

価金属イオンと

8

―キノリノールは

1

3

錯体として有機相に抽出されるので

n = 3

,ここで,それぞれの金属イ オン(M

1

,M

2

)の半抽出

pH

pH 1

および

pH 2

とすると,半抽出

pH

では

log D = 0

なので,

log K ex 1 + 3 log

HA

o = − 3 pH 1

2

log K ex 2 + 3 log

[HA]

o = − 3 pH 2

(3)

 (

1

)と(

2

),(

3

)より

log D M1 = − 3 pH 1 + 3 pH

(4)

log D M2 = − 3 pH 2 + 3 pH

(5)

 今,

pH 1 < pH 2

として,

M 1

を有機相に抽出し

M 2

を水相に残して分離することを考えると,

log D M1 > 2

を満たす

pH

条件は(

4

)より 

pH > pH 1 + 2/3

A

),

log D M2 < −2

を満たす条件は(

5

)より 

pH < pH 2 − 2/3

。今,

pH 2 = pH 1 + a

と おくと,

pH < pH 1 + a − 2/3

(B)。式 (A)と(B)を同時に満たす領域が存在するためには

a > 4/3

である必要がある。

すなわち,半抽出

pH

の値の差が

4/3

(1.3)以上であることが条件となる。

10.5  Cu 2+

H

のイオン交換反応は以下のように表される。

Cu 2+ + 2 H R

   

Cu 2+ R 2 + 2 H

 すなわち,Cu

2+ 1 mol

に対し

2 mol

H

が放出される。

 今,イオン交換により生成した

H

の量

n H

n H

= 0.100

×

7.36

1000 = 0.736 mmol

Cu 2+

の濃度に換算すると,[

Cu 2+

= 0.736

÷

2

÷

0.02 = 18.4 mmol dm −3

0.0184 mol dm −3

11

章 機器分析概論

11.1 

 光(電磁波):ラジオ波から

g

線まで,エネルギーの異なる様々な電磁波が,プローブエネルギーとして様々な分光分 析法の中で用いられている(10章および

11

章参照)。

 電気的エネルギー:試料(主に溶液)に電圧を印加し,化学反応を起こさせ,そのとき発生する電流を測定するのが電 気化学分析法の基本的な原理の一つである。試料溶液と参照電極の電位差を測定する方法も,電気化学分析法の原理の 一つであるが,この場合は試料がもつ化学エネルギーを起電力として取り出す。その他,電気泳動法は,電場中におか れた物質の泳動速度の差により物質を分離する方法である。

 熱エネルギー:試料に熱を与え,試料の質量変化を観測する熱分析法は,熱がプローブエネルギーとなる。その他,原 子スペクトル分析などにおいて,フレームやプラズマの高温を利用して試料を原子化する方法は,分光法や質量分析法 と組み合わせて用いられている。

 化学エネルギー:化学反応を利用する方法(容量分析法など)は,すべて化学エネルギーを利用している。化学発光法 は,高い化学エネルギーをもつ物質(反応性の高い物質)をプローブとして試料に加え,光エネルギーを観測する方法 である。

 力学的エネルギー:プローブエネルギーの概念からは外れるが,多くの分離法における分離を起こすための基本的なエ ネルギーとして,力学的エネルギーが用いられている。たとえば,溶媒抽出法における相分離は,通常重力を利用して いる。固相抽出,クロマトグラフィーは,流れ,すなわち力学的エネルギーを利用している。また,遠心分離,沈降 法,ろ過法,透析法なども,重力,圧力などの力学的エネルギーを利用している。

(12)

11.2 

 検量線法:ほとんどすべての機器分析法において,検量線法は最も基本となる定量法である。まず濃度の異なる分析成 分の標準溶液をいくつか準備し,それらの標準溶液を分析機器で測定する。横軸に標準溶液の濃度,縦軸にそれぞれの 標準溶液で得られる信号強度をプロットし,それらを近似した曲線(たいていは直線)が検量線である。分析試料につ いて同じように測定すると,分析試料の信号強度から,検量線を用いて,分析成分の濃度を計算することができる。

 標準添加法:分析試料のマトリックスによる干渉が大きく,その対策を立てにくい場合に有効な方法である。マトリッ クスの影響により信号の強度が変化しても,その影響が一定であれば,それをキャンセルすることができる。まず,分 析試料にブランク溶液および様々な濃度の標準溶液をそれぞれ加えた試料をつくり,それらを用いて検量線を描く。こ のときの検量線を

yax + b

とすると,

x = 0

x

軸)のときの信号

b

は,分析試料にもともと入っていた分析成分に よる信号であり,この信号に相当する試料濃度は

b/a,すなわち,直線の x

切片(その絶対値)に相当する濃度となる。

11.3 「感度」は,通常,その方法でどこまで微量の分析成分を検出できるかを意味する用語であり,検量線の傾き S = Dx

Dc

       (1)

 として定義される。傾きが大きいほど感度が高く,傾きが小さいほど感度が低いことになる。しかし,信号の大きさに は様々な単位が用いられ,感度(検量線の傾き)は一般的な尺度になりにくいことが多い。

  「検出限界」は,分析機器での測定において,検出できる分析成分の最小量として定義される。すなわち,統計論に 従って,「本当は分析成分が存在していないにもかかわらず,検出値が検出限界以上となったため,分析成分は存在し ていると誤って判断されてしまう確率が

0.14 %

となる信号」といった定義がなされる。通常,ブランク溶液を複数回

10

回以上)測定し,平均値

X

とその標準偏差

s

を得,そして

X + 3s

の信号を与える分析成分の濃度を検出限界とす ることが一般的である。

11.4 スペクトル測定の場合には,積算により S/N

を改善することができる。一般に,S/Nは積算回数の平方根に比例

して増加する。すなわち,

S

N ∝ 1 n

         (2)

 の関係式が成り立つ(ここで

n

は積算の回数)。

11.5 「選択性」とは,分析成分の信号に対する共存成分の影響がどれほどかを評価するための概念である。分析成分の

信号に対して共存成分の影響が小さいほど「高い選択性」をもつ方法ということになり,逆に,共存成分の影響が大き ければ選択性は低いことになる。機器分析法の選択性が,試料を直接分析できるほど充分ではない場合には,共存物質 を前もって分離するなどの化学的な操作(試料前処理)が必要になる。

11.6 「頑健性」は,分析条件を小さな範囲で故意に変動させたときに,測定値がどれだけ影響を受けるかを評価するた

めの概念である。一方,「堅牢性」は,同じ分析室において,異なる分析者,機器,環境条件,供給元の異なる試薬と いった様々な条件下において得られる結果の再現性の度合いとされている。一方,頑健性と堅牢性は,どの要因が分析 値の再現性に影響を与えるかを解析するための概念である点で共通している。

12

章 光と物質の相互作用

12.1 

 吸収:物質のエネルギー準位間のエネルギー差に相当するエネルギーをもつ光子が,そのエネルギーを物質に与え,消 滅し,物質はそのより高い準位に遷移する過程。

 放出:より高いエネルギー準位にある物質が,準位間のエネルギー差に相当するエネルギーをもった光を放出して,よ り低いエネルギー準位に遷移する過程。

 散乱:散乱は,量子論では二光子過程の遷移とされており,照射した光のエネルギーが分子のエネルギー準位に一致し なくとも,分子により光が吸収され,「同時」に入射した光と同じ波長の光(レイリー散乱)や,あるいは波長がやや違 う光(ラマン散乱)が放出される現象。

(13)

12.2 原子には分子のような化学結合がないので,ほかの原子との相互作用(回転・振動)がない。そのため,主に紫外・

可視領域に,最外殻電子の遷移による極めて幅の狭い線状のスペクトルを与える。

12.3 

 回転スペクトル

  分子の回転スペクトルはマイクロ波領域で測定され,分子が自由に回転できる気体分子がその測定対象となり,分子 の結合長の測定や,電波望遠鏡による星間物質の観測に用いられている。

  二原子分子の回転エネルギーは回転の量子数

J

を用いて,以下のように表される。

E

j

hcBJ

( J + 1) (1)

  また,純回転スペクトルを与えるためには,二つの選択律を考える必要がある。一つは,永久双極子モーメントをも つことである。もう一つの重要な選択律は

D J = 1

である。

+1

は吸収を表し,

−1

は放出を表す。準位

J

から

J + 1

に励起するエネルギーは

D EE

j+1

−E

j

= 2hcBJ

(2)

 と表され,Jの値が大きくなっていくに従って,間隔が広がっていくスペクトルが得られる。このスペクトルから,回 転定数

B

を求めると,結合の長さが計算できる。

 振動スペクトル

  振動エネルギー準位は赤外領域に相当するため,分子振動スペクトルは主に赤外領域に得られる。代表的な振動分光 法には,赤外吸収法とラマン分光法があり,これらは,物質の同定や構造の推定,また場合によっては定量にも用いら れる。気体分子の振動スペクトルには回転スペクトルが重畳して複雑なスペクトルとなるが,液体や固体の試料では分 子の回転が抑制されるので,振動のみのスペクトルとなる。

  二原子分子の振動の場合,振動のエネルギーは量子化されて以下のように表される。

G

(v)

= 1 v + 1

2 2 n

̅ 

v = 0, 1, 2,

… (

1

  振動スペクトルの場合も二つの選択律が重要となる。一つは,分子が振動するときに双極子モーメントが変化しなけ ればならないことである。また,Dv

±1も重要な選択律であり,Dv

= +1

は吸収にあたり,Dv

= −1

は放出にあた る。

  N個の原子からなる分子は,非直線分子なら

3N − 6

種類,直線分子なら

3N − 5

種類の振動をもつ。こうした振動 モードを基準振動といい,振動分光法における分子の同定や定量の基本となる。

 電子スペクトル

  最外殻電子のエネルギー準位は,紫外・可視領域に相当するため,分子の電子スペクトルは紫外・可視領域で得られ る。電子遷移に基づく方法としては,吸光光度法,蛍光光度法,りん光分析法など数多くの有力な分析法が知られてい る。電子スペクトルは分子軌道のエネルギー準位間の電子遷移により生じるが,回転・振動遷移が重畳しその形状に影 響を与える(気体分子の電子スペクトルには回転・振動スペクトルが重畳する。一方,液体や固体の電子スペクトルに は振動スペクトルが重畳する)。また,分子軌道や電子スピンに基づく選択則により,スペクトルの形状や強度が決ま る。

12.4 光がわずかな距離 Dl

の間に減衰する光の量を

DI

とすると,∆Iは,光の量

I

と濃度

c

∆l

に比例する。これを式 で表すと,

− ∆I = kIc∆l 

(ここで

k

は比例係数) (

1

 となる。これを微分方程式として書き表せば,

− dI

dl = kcI

(2)

 となり,この式は以下のように変形できる。

− dI

Ikcdl

3

(14)

 この式を積分すると(

I

I 0

から

I

まで,

l

に関しては

0

から

1

まで)

ln I 0

Ikcl

(4)

 となり,これを常用対数に直し,e

= 0.4343 k

とおくと

A = log 10 1 I 0

I 2 = e cl

5

 また,

II 0 e k

cl

I 0 e − 2.303ecl

(6)

 と表すこともできる。

12.5 回折格子は,鏡の表面に 1 mm

間に数千にも及ぶ溝を彫ったものである。この回折格子は,回折現象により光を波

長に基づき分散させる性質をもつ。その性質を利用して,入口スリットから入射した光のうち,目的の波長の光を単色 光として出口スリットから取り出す装置が分光器(モノクロメーター)である。また,出口スリットの位置に,スリッ トの代りに

CCD

検出器を置くことにより,一度にスペクトルを測定できる装置(ポリクロメーター)もある。

12.6 光電子増倍管は真空管の一種で,通常,アルカリ金属を含む化合物半導体でできた光電面と,ダイノードと呼ば

れる複数段の電極からなっている。光電面に光子がぶつかると,光電効果により光電子が放出される。この光電子に電 圧をかけて加速し,ダイノードに衝突させると,ダイノードからは,1個の光電子につき数個の二次電子が放出される。

この二次電子をさらに多段のダイノードで増幅することにより,1個の光電子当り

10 6 〜 10 7

個程度の電子を得る。す なわち,電流として

10 6

10 7

倍の増幅が得られ,微弱光も電流として検出することができる。

13

章 原子スペクトル分析法

13.1 高温媒体中の励起状態にある原子数はボルツマン分布に従うが,原子共鳴線の波長が長い(D E

が小さい)アルカ

リ金属元素やアルカリ土類金属元素は,比較的低温のフレームでも,励起状態にある原子数が多く,充分な発光強度が 得られる。一方,遷移金属元素のほとんどは,その共鳴線が紫外領域にあり(D Eが大きい),フレームでは充分に励起 できないため,測定できない。

13.2 原子吸光分析法は,基底状態の原子の光吸収を利用する方法であり,原子さえ効率よく生成できれば,原子を励

起できなくとも,その元素を高感度に測定できる。フレームの温度は,多くの重金属元素に対して,この目的には充分 であるため,遷移金属元素の微量定量に有効である。

 長所:1) 比較的安価で操作が簡単であること。

    2) 多くの遷移金属元素の微量定量に有効であること。

 短所:

1

) ホウ素やランタンのように酸化物の非常に安定な金属は充分に原子化されず,感度が極端に低いこと。

    2) 1元素ごとに違うランプが必要なために,多元素を同時に測定することが難しいこと。

13.3 ICP

の温度は

6000 K

7000 K

に及ぶ。そのため,酸化物が安定な元素も原子化可能であり,さらに,こうした原

子や原子イオンの励起も可能である。そのため,ほとんどすべての金属元素の,原子発光による微量定量が可能となっ た。

 長所:1) ほとんどすべての元素(H, N, F, Cl, Brを除く)の高感度分析ができる。

    2) 検量線の直線範囲が

4 〜 5

桁と広い。

    

3

) 共存成分による化学干渉やイオン化干渉がほとんどない。

    

4

) 多元素同時または迅速な分析ができる。

 短所:1) 高分解能の分光器を用いるため,装置が比較的高価となる。

    2) 分光干渉や物理干渉に注意を払う必要がある。

(15)

13.4 

 長所:1)  ほとんどすべての元素(H, N, Fを除く)の超高感度分析が可能であることが,まず大きな長所である。さら に,以下の通り,ICP発光分析法の長所は,ほとんどそのまま

ICP

質量分析法の長所となる。

    2) 検量線の直線範囲が

4 〜 5

桁と広い。

    

3

) 共存成分による化学干渉やイオン化干渉がほとんどない。

    4) 多元素同時または迅速な分析ができる。

 短所:1) 質量分析計は高価であるため,ICP質量分析計も高価となる。

    

2

) 下記のようなスペクトル干渉を受けやすい。

  アルゴンや溶媒により生成する多原子イオンが,測定金属元素と同じ

m/z

を与える場合,その定量を妨害する。こ れをスペクトル干渉と呼ぶ。代表的な例として,

56 Fe

40 Ar 16 O

75 As

40 Ar 35 Cl

などがあげられる。

  近年では,質量分析計の前段にコリジョン

/

リアクションセルと呼ばれる特殊な装置を置き,そうした多原子イオ ンを分解してしまう手法なども開発され,その対策が進んでいる。また,高分解能質量分析計を用いると,そうした多 原子イオンの信号から目的イオンの信号を分離することもできる。

13.5 同位体希釈法は,ある元素の存在量を推定するために,既知量の安定同位体を添加し,精製後に同位体の存在比

を検定することで,もともと存在した元素の量を推定する方法である。回収率が

100 %

でなくてもよく,また,質量 分析法により同位体比を精確に測定できるため,精確な定量が可能である。

14

章 分子スペクトル分析法

14.1 赤外活性でラマン不活性な基準振動をもつ分子: CO 2

   赤外不活性でラマン活性な基準振動をもつ分子: 

N 2

O 2

CO 2

   赤外,ラマンとも活性な基準振動をもつ分子:  

CO

H 2 O 14.2 水は強い赤外吸収を示し測定を妨害するため。

14.3 514.5 nm

レーザー光の波数

= 19436 cm −1

 ストークス線と反ストークス線の波数は,それぞれ

17936 cm −1

20936 cm −1

となる。これらを波長に変換すると,

557.5 nm

477.6 nm

となる。

632.8 nm

の場合も同様に,レーザー光の波数

= 15803 cm −1

 ストークス線と反ストークス線の波数は,それぞれ

14303 cm −1

17303 cm −1

となる。これらを波長に変換すると,699.2 nmと

577.9 nm

となる。

14.4 1.0

× 10

−5 mol cm −3

[Fe(phen)

3

2+

水溶液の吸光度

= 1.1

× 10

4 × 1.0

× 10

−5 × 1.0 = 0.11

濃度

cA

el = 0.2

1.1

× 10

4 × 1.0 = 1.8

×

10 −5 mol cm −3

14.5 従来,ビーカーやフラスコを用いてバッチ法で行ってきた発色反応などを,テフロンやポリエチレンなどの内径

0.5 mm,長さ 10 m

程度のキャピラリー管の流れの中で行い,下流部でその生成物を,流れ分析用検出器を用いてオ

ンラインで検出する。1.迅速であること,2.反応がキャピラリー管の中で進行するため,分析者の熟練は必要ではな く,また,検出までの反応時間が一定となるため,再現性が高くなる,

3

.さらに,反応が完結していなくともそれを 定量分析に用いることができること,などが特徴としてあげられる。

14.6 基底状態と励起状態のポテンシャルの形状や位置に差があり,さらにフランク―コンドン効果のために,鏡像関係

となる。

14.7 蛍光強度は光源の強度に比例するので,レーザーのような高輝度の光源を用いることにより,蛍光強度を上げる

ことができるため。

15

章 X線分析法と電子分光法

15.1 

 (

a

) 特性

X

線 

  内殻電子の準位間の遷移に基づき,不連続な線スペクトルを与える。この

X

線は特性

X

線と呼ばれ,そのエネルギー は原子の種類により決まっており,元素の定性・定量に用いられる。

(16)

 (

b

) 連続

X

線 

  X線管球ターゲットの特性

X

線のほかに,連続的なエネルギー分布をもつ

X

線も発生する。これを連続

X

線と呼ぶ。

この連続

X

線は,高速の電子がターゲットに衝突して急速に減速されると,その減速により失われた運動エネルギー の一部が

X

線に変換されて放出される過程による。

 (

c

) オージェ電子 

  K殻電子のエネルギー準位よりも大きいエネルギー

hn

をもつ

X

線が入射すると,K殻電子はそのエネルギーを受け 取り,原子の外に飛び出し(光電効果),K殻には空孔ができる。この空孔を埋めるために,L殻や

M

殻の電子が

K

殻 に遷移する。その場合,図

15.1

のように両者のエネルギー差

E k − E L1

に相当する

X

線(特性

X

線)を放出する場合と,

そのエネルギーをほかの同じ殻(この場合

L

殻)の電子に与えて電子が外に飛び出す場合がある。前者が蛍光

X

線であ り,後者はオージェ効果と呼ばれ,飛び出した電子はオージェ電子と呼ばれる。この場合のオージェ電子のエネルギー は

E k − E L1 − E L2

である。

 (

d

) 光電子

  

K

殻電子のエネルギー準位よりも大きいエネルギー

hn

をもつ

X

線が入射すると,

K

殻電子はそのエネルギーを受け 取り,原子の外に飛び出す。この効果を光電効果という。飛び出した電子は光電子と呼ばれ,hn

− E k

のエネルギーを もつ。

 (

e

) コンプトン散乱

  

X

線が電子に衝突するときに,電子に運動エネルギーを与えることによりエネルギーの一部を失い,入射

X

線よりも 長い波長で散乱される現象(非弾性散乱の一種)。

15.2 「ゴニオメーター」

(測角器)は

X

線回折装置の心臓部であり,その上に

X

線管,試料台,X線検出器を配置し,さ

らに試料台と検出器は連動して動き,入射角(q)と反射角が常に等しくなるように,また,検出器は試料台の角速度 の

2

倍の角速度で回転する。このとき回折角(

2q

)に対する回折光強度が記録される。この記録は回折図形と呼ばれ,

これを解析することにより格子面間隔

d

が求められる。

15.3 

 単結晶

X

線回折法:分子構造解析に用いられる。この方法では,

4

軸ゴニオメーターと呼ばれる回転軸を四つ設け,結 晶をあらゆる方向に向けて測定できるゴニオメーターを備えた

4

X

線回折計が用いられる。得られる非常に複雑な 回折図形から,コンピュータを用いて解析し分子構造を得る。

 粉末

X

線回折法:汎用性の高い方法として,様々な分野で広く用いられている。この方法は,粉末の多結晶体を試料 として扱う方法で,ゴニオメーターで得られた回折図形を既知物質の回折図形のデータベースと比べることにより,試 料の定性,また,場合によっては定量も行える。本法の応用範囲は極めて広く,粘土鉱物やアスベストの同定など,環 境・地球化学分野,金属・半導体などの材料分野,食品,製薬分野など,様々な分野で用いられている。

 X線小角散乱法:小角散乱ゴニオメーターにより

2q < 10°

以内の小角領域の回折図形を記録することで,1 nm〜

100 nm

程度の大きさの物質の構造情報を得る方法で,高分子,生体物質,コロイドなどの研究に,近年特に用いられ

るようになっている。

15.4 X

線吸収分光法は,X線の吸収を測定することにより,対象原子の電子状態や局所構造を調べる方法で,測定対象

は主に固体だが,液体や気体にも応用できる。試料に

X

線を照射し,そのエネルギーを連続的に変化させて(約

0.1 keV

100 keV

),

X

線の入射強度と透過強度を測定し,入射

X

線の強度を横軸に,縦軸には吸光度をプロットしたものが

X

線吸収スペクトルである。特に,測定元素の内殻電子のイオン化エネルギーに相当する領域で吸収強度が急激に増加 したのち,エネルギーの増加とともに緩やかに波打ちながら減衰する。この急激に増加する領域を吸収端と呼ぶ。吸収 端のエネルギーは元素に固有であり,元素の定性が可能である。一方,吸収端の高エネルギー側には様々な微細構造が 現れる。

  これらの微細構造から元素の存在状態を解析する手法は

X

線吸収微細構造(XAFS)と呼ばれる。XAFSはさらに二つ に分類される。すなわち,吸収端立ち上がりの微細構造を

X

線吸収端近傍構造(XANES),吸収端より数十

eV

以上離 れた高エネルギー領域に現れる波打ち構造を広域

X

線吸収微細構造(

EXAFS

)と呼ぶ。前者は内殻電子が外側の空軌道 に遷移する過程から生じる。この領域の微細構造から,対象原子の電子状態(価数など)や,局所的な三次元立体構造

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