認知的能力の成長に及ぼす社会的なごっこ遊びの効果 [ PDF
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(2) が終了した後にクラスの園児達 1 人ずつに実験を実施. プレテストと同内容の質問紙調査と実験を行った.. した.評価にあたっては 2 つの課題にどちらも成功し. 5. 観察記録の分析. た場合には 3 点,どちらか1つの課題に成功した園児. 自己制御能力や心の理論の獲得といった認知的能力. は 2 点,どちらの課題にも成功しなかった場合には 1. の成長が見られた観察対象児がどのようなやりとりを. 点とした.. 経験していたのかを明らかにするために,SDP 場面にお. 2. 観察対象児の選定. ける観察対象児の言語反応がどのように変化したのか. 観察を開始する前に観察対象となる子ども達を選定し. を検討した.. た.観察の前後で自己制御能力得点や心の理論課題得. 5-1. カテゴリー分け. 点に変化が見られたかどうかを確かめるために,まず. 他児の発話記録をもとに,そのやりとりを捉えるため. プレテストの段階で既に自己制御能力得点や心の理論. に Table 1-1,Table 1-2 のようなカテゴリーを作成し. 得点が高かった子どもではなく,自己制御能力得点や. て,それぞれのカテゴリーを a1 から f4 のように記号. 心の理論得点が低かった子どもを選定した.また,本. で表した.分類の結果,子ども達のやりとりのターン. 研究では自然場面で展開される SDP 場面に注目してい. の 90%以上を各カテゴリーに当てはめることが出来た.. ることから,日常から自発的に SDP に取り組む子ども. 5-2. 各カテゴリーの頻度の算出. を選定した.選定にあたっては調査者とクラスの担当. 結果をもとに,各カテゴリーの頻度を算出し,それぞ. 教諭が話し合って,今回の観察に最も適していると考. れの観察対象児ごとに 1 週目から 8 週目までの期間の. えられる子どもを選定した.選定を行った結果,観察. 中でどのような変化が見られるかを検討した.. 対象児にされたのは 6 名(年齢平均 5.17:男児 4 名,. カテゴリー名. 3. 観察. 道具あり 対象児の 提案や演技の 受容. 実際に SDP に取り組む場面において. 子どもは他児とどのようなやりとりを行っているかを 明らかにするために,観察象児となった子ども達が SDP に取り組む場面の観察を行った. 3-2. 観察方法. 2009 年 10 月中旬から 12 月中旬までの. 道具あり 対象児の 提案や演技の 無視または拒否. 道具あり 他児の 提案や演技の 受容. 約 8 週間にわたって観察対象児が自然場面において他 児と SDP に取り組む様子の観察を行った.一斉に複数 の子どもの様子を観察するのは困難であることから 1 日につき 1 人の子どもの様子を観察する形をとり,日 替わりで観察対象児をかえて観察を行った.ビデオカ メラとワイヤレスマイクロフォンを用いて園児達の行 動および会話内容を記録した. 4. ポストテスト 4-1. ポストテストの目的. SDP への取り組みの前後で. 道具あり 他児の 提案や演技の 無視または拒否. 道具なし 対象児の 提案や演技の 受容. 道具なし 対象児の 提案や演技の 無視または拒否. 道具なし 他児の 提案や演技の 受容. 自己制御能力および心の理論の獲得が達成された観察 対象児と変化が見られなかった観察対象児を把握する ためにポストテストを行った. 4-2. 実施内容 8 週間の観察を終えた 2009 年 12 月中旬に福岡市内の幼 稚園の年長組の園児達 6 名(年齢平均 4.95)を対象に. カテゴリー分類の. Table 11 カテゴリーの内容(a1b4). 女児 2 名)だった.. 3-1. 観察の目的. SDP 場面における観察対象児と. 道具なし 他児の 提案や演技の 無視または拒否. カテゴリーの内容 道具が用いられており, 遊びが成立している状況で 対象児による 遊びの設定や展開の提案, 役割演技を他児が受け入れ, 応答する 道具が用いられており, 遊びが成立している状況で 対象児による 遊びの設定や展開の提案, 役割演技を他児が 無視または拒否をする 道具が用いられており, 遊びが成立している状況で 他児による 遊びの設定や展開の提案, 役割演技を対象児が受け入れ, 応答する 道具が用いられており, 遊びが成立している状況で 他児による 遊びの設定や展開の提案, 役割演技を対象児が 無視または拒否をする 道具が用いられず, 遊びが成立している状況で 対象児による テーマ設定や展開の提案, 役割演技を他児が受け入れ, 応答する 道具が用いられず, 遊びが成立している状況で 対象児による テーマ設定や展開の提案, 役割演技を他児が 無視または拒否をする 道具が用いられず, 遊びが成立している状況で 他児による テーマ設定や展開の提案, 役割演技を対象児が受け入れ, 応答する 道具が用いられず, 遊びが成立している状況で 他児による テーマ設定や展開の提案, 役割演技を対象児が 無視または拒否をする. 具体例 対象児「これ,ビールね,シュワワってする.」 →他児「いいね.あ,これってどうする?」 →対象児「それね,コーヒー.」. 対象児「それ,ここにおいて」 →他児「えー,いやだ.おれが使うもん」 →対象児「いいから,おいといて!」. 他児「あのさ,これ(新聞紙を丸めて作った棒) 使って,ゴルフしよう」 →対象児「うん,いいねえ.」. 他児A「おれ,剣使うけん」 他児B「おれも剣.おまえはそのヤリね.」 →対象児「なんで?勝手に決めんで.」. 対象児「ねえ,ここ(何もないところ)に透明の敵 がおるってことにせん?」 →他児「わかった!」. 対象児「ここがおふとんね」 →他児「ここはおふとんじゃなくて,おふろ!」. 対象児「なんしようと?」 →他児「ここでドーナツを売っとると.」 →対象児「じゃ,仲間に入れて.」. 他児「これがドーナツやけん.ドーナツがあるって ことにしとくと.」 →対象児「なにもないやん..馬鹿みたい.」. 記号. a1. a2. a3. a4. b1. b2. b3. b4.
(3) みられた 4 名は他の 2 名よりも自己制御能力の高い成. Table 12 カテゴリーの内容(c1f4) カテゴリー名. カテゴリーの内容. 具体例. 対象児の 暴力または 逃避による 失敗 他児の 暴力または 逃避による 失敗. 意見の食い違いやいざこざが 起こっている状況で, 対象児の暴力や逃避が見られ, 遊びの中止など失敗に終わる 意見の食い違いやいざこざが 起こっている状況で, 他児の暴力や逃避が見られ, 遊びの中止などの失敗に終わる いざこざが起こっている時に 対象児が言語的手段を用いた結果, 双方が納得して遊びを続けるなどの 解決に至る いざこざが起こっている時に 対象児が言語的手段を用いた結果, 双方が納得することが出来ずに 遊びの中止などの失敗に終わる いざこざが起こっている時に 他児が言語的手段を用いた結果, 双方が納得して遊びを続けるなどの 解決に至る いざこざが起こっている時に 他児が言語的手段を用いた結果, 双方が納得することが出来ずに 遊びの中止などの失敗に終わる 幼稚園で定められたルール (「遊びに入るときは 『仲間に入れて』と言う」 など)を 用いる、または それに沿ったやりとりを行う. 対象児が ごっこ遊びとは無関係な行動や おしゃべりをして, 他児もそれに合わせるなど, 双方が満足している 対象児が ごっこ遊びとは無関係な行動や おしゃべりをして, 他児がそれに怒りを見せるなど, 双方の満足は見られない 他児が ごっこ遊びとは無関係な行動や おしゃべりをして, 対象児もそれに合わせるなど, 双方が満足している 他児が ごっこ遊びとは無関係な行動や おしゃべりをして, 対象児がそれに怒りを見せるなど, 双方の満足は見られない. (対象児,新聞紙で作った棒で他児を叩 く) →(他児,泣き出す.) →対象児「もういい,もう遊ばん!」. 対象児の 言語的手段による 問題解決の成功 対象児の 言語的手段による 問題解決の失敗 他児の 言語的手段による 問題解決の成功 他児の 言語的手段による 問題解決の失敗 ルールに 定められた 行動の実行 対象児による 無関係な行動や おしゃべりによる 満足 対象児による 無関係な行動や おしゃべりによる 不満足 他児による 無関係な行動や おしゃべりによる 満足 他児による 無関係な行動や おしゃべりによる 不満足. 記号. 長が見られたと判断した.また,そのうちの 2 名 A,B. c1. は心の理論課題についても安定した理解を示す 3 点を 示すようになったため,心の理論の成長が見られたと. (他児,だまって対象児の背中をたたく) →対象児,泣きながらその場を離れる). c2. 対象児「わかった,じゃあ2人ともお母さんね」 →他児B「・・いいよ.」. d1. 判断した.自己制御能力において大幅な得点増加が見 られなかった 2 名 E,F は心の理論課題においても理解 の不安定さを表す 2 点や理解の困難さを表す 1 点を示. 対象児「じゃあ,どうすれば良いと?お母さん役を 譲ればいいと?」 →他児「もう,いい!やめる!」 対象児「それじゃ,おもしろくないやん!」 →他児「じゃあ,じゃんけんで決めよう!」 →(対象児,じゃんけんに参加する) 他児「次にやる時は剣を使っても良いけん」 →対象児「いや!じゃあ,もうやめる!.」. d2. していた. 観察対象児の群分け. d3. d4. 群分けにおいては,自己制御能力と心の理論の両方 が達成された 2 名 A,B を心の理論・自己制御能力獲得 群とした.一方で,自己制御能力については成長が見. 他児B「仲間に入れて」 →観察対象児&他児A「いいよ」. e. られるが心の理論については明確な成長が見られなか った 2 名 C,D を自己制御のみ獲得群,自己制御能力と. 対象児「ねえ,この間のテレビ見た?」 →他児「見た,見た」. f1. 心の理論のどちらも獲得がみられなかった 2 名 E,F を 変化なし群とした.. (対象児,先生を見つけ,駆け寄っていく ) →他児「勝手に抜けんでよ」. f2. 心の理論の獲得についての比較 心の理論の獲得に影響を及ぼすやりとりがどのような. 他児「あのカメラマン,弱いもんね」 →対象児「そうそう,弱い弱い」. f3. やりとりであるかを明らかにするために,心の理論獲 得あり群(心の理論・自己制御能力獲得群)と心の理. 他児「ちょっと外行ってくるけん」 →対象児「他のところ行ったらダメ!」. f4. 結果 プレテストとポストテストの比較. 論獲得なし群(自己制御のみ獲得群および変化なし群) のそれぞれに見られる各 カテゴリーの頻度を比較した. その結果、心の理論獲得あり群は心の理論獲得なし群 に比べて,対象児が発した提案が他児に受容されるこ. プレテストでは自己制御能力得点の平均が 2.36 点,. とを示す a1 の頻度が次第に増加していくと同時に,提. 心の理論課題の得点の平均が 1.5 点だったのに対して,. 案を他児に拒否される a2 の頻度が下がっており,さら. ポストテストでは自己制御能力得点の平均が 4.43 点,. に他児の提案を対象児が受容する a3 の頻度が後半にな. 心の理論課題得点の平均が 2.17 点であった.それぞれ. って増加するという特徴を示していた.また,心の理. の得点について Table 2 に示す.. 論獲得あり群は対象児が暴力をふるうことで失敗を招. Table 2 自己制御得点と心の理論課題得点. くことを表す c1 の減少が見られた.さらに心の理論獲. 自己制御得点 心の理論 プレテスト ポストテスト プレテスト ポストテスト 2.27 4.59 1 3 2.27 4.68 1 3 2.41 4.77 2 2 2.22 4.54 2 2 2.55 4.04 1 1 2.27 3.86 2 2 2.33 4.41 1.5 2.17. 得あり群は心の理論獲得なし群に比べて,幼稚園や社. 観察対象児 6 名のうちの 4 名 A,B,C,D は自己制御能. 避に走ってしまい,他児や幼稚園教諭から責められた. 力の高い増加がみられ、E,F の 2 名は増加の幅が比較. り,注意をされたりという失敗を経験する.次に,こ. 的低かった.幼稚園教諭の意見も踏まえ、高い増加が. うした失敗の反省から,子どもは徐々に他児に提案を. A B C D E F 平均. 会でルールとされている事柄に沿った発言や行動を示 す e のカテゴリーの頻度の増加が見られたことも大き な特徴であった. 心の理論の獲得に影響を及ぼしたやりとり 最初,子どもは SDP の中で自身の提案を発言しても他 児にそれを受け入れてもらうことが出来ずに暴力や逃.
(4) 受け入れてもらえるようにはどのような伝え方をすれ. が用いる言語的な手段に他児も応答するようになり,. ば良いかについて考えるようになる.そして,幼稚園. 結果的に葛藤を解決することに成功するようになった.. のルールを引用して主張を行うなど、伝え方の工夫を. こうしたやりとりが自己制御の獲得に影響を与えたの. していくことで結果的に他児に提案を受容してもらえ. ではないかと考えられる.. るようになっていく.このような他者とのやりとりを 経験し,やりとりの内容が変化していくことが心の理. 考察 心の理論の獲得が見られた対象児は,観察期間の初. 論の獲得につながったと考えられた.. 期には道具を用いる SDP に取り組んでいる時に他児に. 自己制御能力の獲得についての比較. 自身の提案や意見を主張しても,それを受け入れても. 自己制御能力の獲得に影響を及ぼすやりとりがどのよ. らえないことが多かったが、徐々にルールの引用など. うなやりとりであるかを明らかにするために,自己制. の工夫をして他児に受け入れられるような形で主張す. 御獲得あり群(心の理論・自己制御能力獲得群および. るようになっていた.こうした結果は他者に拒否をさ. 自己制御のみ獲得群)と自己制御獲得なし群(変化な. れた経験が心の理論の獲得に影響を及ぼすとする. し群)のそれぞれに見られる各カテゴリーの頻度を比. Badenes, Estevan, Bacete(2000)の主張、心の理論獲. 較した.その結果,自己制御獲得あり群は自己制御獲. 得とルールを守るなどの向社会的な行動との関連を指. 得なし群に比べて,道具がある状況で他児が発した提. 摘した森野( 2006)と一致していた .こうしたことか. 案を対象児が拒否することを示す a4 の頻度,他児が暴. ら対象児は他者に意見を拒否される経験を繰り返すう. 力や逃避に走ることを表す c2 の頻度が次第に減少して. ちに他者が自身とは異なる心的表象を抱いていること. おり,それに伴って言語的な手段を用いて問題解決に. を実感するようになり, 他者の心的状態を表象する能. 成功することを示す d1 の頻度が増加していた.また,. 力である心の理論の獲得が達成されたのではないか.. 対象児または他児が SDP とは直接無関係なおしゃべり. また、自己制御の 獲得が見られた対象児は当初,他. や行動をとった時にお互いの満足が得られたことを示. 児との間で意見が衝突するなどの葛藤が生じたときに. す f1,f3 の頻度が増加していっていた.. 対象児が他児の提案を単純に拒否するばかりで言語的. 自己制御能力の獲得に影響を及ぼしたやりとり. な解決方法を用いることが出来ず、他児の暴力や逃避. 最初のうちは他児との間で意見が衝突するなどの葛. を受けるという対人葛藤を経験しており、葛藤経験が. 藤が生じたときに対象児が他児の提案を単純に拒否す. 自己制御の発達に影響を及ぼすとする山岸(1995)や水. るばかりで言語的な解決方法を用いることが出来ず,. 野・本城(1998)の研究結果と一致していた.. 結果として他児の暴力や逃避を受けるという経験をし. 主要引用文献. ていた.また、対象児が SDP とは異なる遊びやおしゃ. Berkowitz, M. W. & Gibbs, J. C. (1983). Measuring. べりを他児と楽しみたくなったときに他者に対して唐. the developmental features of moral discussion.. 突にそうした行動やおしゃべりを展開することに他児. Merrill Palmer Quarterly, 29, 399-410.. が不満を感じていたり、逆に他児が SDP とは無関係な. Goncu, A. (1993). Development of intersubjectivity in. 行動やおしゃべりをして、対象児がそのことに我慢が. social. 出来ずに SDP を続けることにこだわることが多かった.. 36,185-198.. その結果,他児は対象児に対して怒りを覚えて暴力を. pretend. play.. Human. Development,. Rommetveit, R. (1979). Studies of Language,. ふるったり,SDP をやめてしまったりしていた.それが,. Thought, and Verbal Communication. London,. 対象児がこうした失敗を生かして他児との間に葛藤が. Academic Press. 生じたときに単純に他児の提案を拒否するばかりでな. Victoria,. W.,. &. Irene,. F.. (2009).. Creating. く,言語的な手段によって解決しようとするようにな. intersubjectivity during socio-dramatic play at an. り,結果として他児が暴力や逃避によって主張を通そ. Australian kindergarten. Early Child Development. うとすることも少なくなっていった.そして,対象児. and Care,179,143-156..
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