原 著 465
‘せとか’
および ‘不知火’ における品種および台木の違いが
花芽分化に及ぼす影響
西川芙美恵
1*・古川 忠
2a・荒牧貞幸
2b・田中加奈子
2 1農研機構果樹茶業研究部門 424-0292 静岡県静岡市清水区興津中町 2長崎県農林技術開発センター果樹・茶研究部門 856-0021 長崎県大村市鬼橋町Effects of Scion Cultivar and Rootstock on Flowering in ‘Setoka’ and ‘Shiranuhi’
Fumie Nishikawa
1*, Tadashi Furukawa
2a, Sadayuki Aramaki
2band Kanako Tanaka
2 1Division of Citrus Research, Institute of Fruit Tree and Tea Science, NARO, Shizuoka 424-0292 2Fruit Tree and Tea Research Division, Agricultural and Forestry Technical Development Center,Nagasaki Prefectural Government, Omura, Nagasaki 856-0021
Abstract
In this study, the effects of the scion cultivar and rootstock on reproductive growth were investigated with ‘Setoka’ and ‘Shiranuhi’ grafted on trifoliate orange (Poncirus trifoliata L. Raf.) or ‘Hiryu’ (Flying Dragon) for three or four years. In November, which is the period of floral induction in citrus, expression of one of the flowering-related genes, citrus FLOWERING
LOCUS T (CiFT), was quantified in stems of trees with each combination of scion cultivar and rootstock. In the analysis without
distinction of the combination, the mRNA level of CiFT was correlated with flower numbers in the following spring. In both ‘Setoka’ and ‘Shiranuhi’, the average CiFT mRNA level in each combination was markedly changed annually when the trees were grafted on ‘Hiryu’. Yields were about 3 kg・m–3 every year in all combinations of the scion cultivar and rootstock, and there were no significant differences in each combination among years. Two-way ANOVA of the alternate bearing index in each tree showed that the annual change in the CiFT mRNA level was significant in trees grafted on ‘Hiryu’. These results suggest that using ‘Hiryu’ as a rootstock makes flowering unstable in ‘Setoka’ and ‘Shiranuhi’, although this instability has no impact on their yield.
Key Words:alternate bearing, CiFT, citrus, FT, Hiryu
キーワード:CiFT,FT,ヒリュウ,隔年結果,カンキツ
緒 言
永年生の木本植物である果樹では,豊作と不作を交互に 繰り返す隔年結果現象が発生する.カンキツでも,前年に 着果が多いと花が着かず不作となり,逆に前年に着果が少 ないと花が多く着生し豊作となる.この隔年結果現象は, 着果が花芽分化を抑制することが主要な原因であると考え られている(Nishikawa, 2013).これまでに,隔年結果を 是正することを目的に,カンキツの花芽分化に関する栽培 生理的な知見が多く蓄積されてきた.カンキツでは,秋冬 季の気温の低下に伴って花芽分化が誘導される.また,過 度の乾燥によってもその分化は誘導され,着果や落葉,ジ ベレリン処理によって抑制されることが知られている (Nishikawa, 2013).花芽分化の初期段階では,高温・湿潤 条件下で強制的に発芽させると花芽が着生するが,そのよ うな条件下に置かれない限り形態的に分化しない.このよ うな花芽分化を生理的花芽分化と呼ぶ(井上,1990).ウン シュウミカンの場合,生理的花芽分化は10 月頃から,ま た,形態的な花芽分化は1 月頃から進行し,3~4 月に発 芽,5 月に開花に至る. 最近の研究では,カンキツの花芽分化に関する分子生物 学 的 な 研 究 が 進 み, 花 成 誘 導 遺 伝 子 の 一 つ で あ る FLOWERING LOCUS T (FT) のカンキツホモログ CiFT が カンキツの花芽分化の鍵遺伝子となることが示唆されてい る.このCiFT を遺伝子組み換えによりカンキツで恒常的 に発現させると花成が促進することが確認されている (Endo ら, 2005).また, CiFT の発現は低温と乾燥によっ て誘導され,着果や落葉,ジベレリン処理によって抑制さ れることが報告されている(Chica・Albrigo, 2013; Muñoz-Fambuena ら, 2012; Nishikawa, 2013; Nishikawa ら, 2007, 2012, 2013, 2016).自然条件下では,秋冬季の生理的花芽 分化の進行と一致してCiFT の発現量が増大し,11 月の CiFT 発現量が翌春の花数と密接に関連することが明らか doi: 10.2503/hrj.16.4652016 年 12 月 19 日 受付.2017 年 4 月 7 日 受理. * Corresponding author. E-mail: [email protected]
a 現在:長崎県立農業大学校 b 現在:長崎県農産園芸課
になっている (Nishikawa ら, 2007; 2017).これらの結果か ら,花芽分化を制御する様々な因子の情報はCiFT に収束 し,CiFT の発現量によって花芽分化の程度が決まり,翌 春の花数に反映されると考えられた.また,CiFT 発現量 は生理的花芽分化を評価する指標として有用であると思わ れた. 近 年, わ い 化 効 果 の 高 い ‘ヒリュウ’ を台木にして, 様々なカンキツ品種への適用が検討されている(古川・山 下,2004; 神山ら,2009; 高原ら,2001; 矢羽田ら,2003; 米本ら,2005).台木は地上部の樹勢とともに果実品質に も影響することが知られており,ウンシュウミカンでは, カラタチ台と比較して ‘ヒリュウ’ 台で果実の糖含量が増 加することが報告されている(小林ら,1995; 矢羽田ら, 2003).一方,中晩生カンキツのなかでも有望品種として 注目されている‘せとか’(松本ら,2003)および‘不知 火’(松本,2001)の施設栽培では,限られた空間のなか で樹の拡大が行われることから,密植により果実品質や生 産量の低下が問題となる.また,光熱費の高騰により燃料 使用量が少ない作型で高品質果実を安定生産する技術が求 められており,わい性台木の利用によるコンパクトな樹冠 形成や高品質果実生産などが期待されている.しかし, カンキツ栽培で問題となる隔年結果性に関わる花芽分化に ついて,台木による影響を報告した例はない.そこで本研 究では, カラタチ台あるいは ‘ヒリュウ’ 台の ‘せとか’ お よび ‘不知火’ における CiFT 発現量と花数,収量を調査 し,品種および台木の違いが花芽分化と果実生産量に及ぼ す影響,また,隔年結果性を評価する際にCiFT 発現量を 利用することの有効性を検討した.
材料および方法
1.供試材料 実験には,長崎県農林技術開発センター(長崎県大村 市)で周年被覆型施設栽培をしている7 年生(2012 年時 点)カラタチ(中葉系)台あるいは‘ヒリュウ’ 台 ‘せと か’ および‘不知火’各 4 樹を使用した.両品種ともカラ タチ台は着果3 年目, ‘ヒリュウ’ 台は着果 2 年目のものを 供試した.植栽時,カラタチ台は株間2 m,畝幅 3 m で, ‘ヒリュウ’ 台は株間 1.5 m,畝幅 3 m とした.冬期におけ る温度管理は最低温度5°C で管理し,発芽とともに最低温 度を徐々に上昇させ,外気温15°C 程度でサイドビニール を開放して自然夜温とした.灌水は,果実肥大期は週に2 回,1 回当たり 10–20 t 程度行い,9 月中旬以降の成熟期に は週1 回,1–2 t 程度の灌水を行った.摘果は 6 月中旬から 8 月に行った.収穫は,2 月上旬に実施した.肥料は,長 崎県中晩柑施肥基準に準じて(春30%,夏 30%,初秋肥 20%,晩秋肥 20%)施用した.カラタチ台の場合,年間 施用窒素量は7 年生(2012 年)で 24 kg,8 年生(2013 年) で27 kg,9 年生(2014 年)以降は収量換算とし, 30, 33 kg をそれぞれ9, 10 年生で施用した.‘ヒリュウ’ 台は, カラ タチ台より3 割増して施用した. 2.CiFT の発現解析 2012 年から 2014 年にわたって,11 月中旬に各樹の樹冠 表面の中位部から5 本の結果母枝を採取し,冷蔵条件で農 研機構果樹研究所口之津拠点(長崎県南島原市)に輸送 した.口之津拠点到着後は速やかに春枝から葉を除去し, 5 本の結果母枝の茎組織をまとめて液体窒素で凍結し, –80°C で保存した.組織が粉状になるまで摩砕後,RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen) とオンカラム DNase 処理により total RNA を抽出した.cDNA の合成は, 0.4 μg の total RNA とランダムヘキサマー, High Capacity cDNA Reverse Tran-scription Kits(Applied Biosystems)を用いて 20 μL の反応 系 で 行 っ た.CiFT 遺 伝 子 に 特 異 的 な PCR プ ラ イ マ ー (フォワードプライマー:5’-GCCTTAGGGAGTATTTGCATTGG-3’, リバースプライマー:5’-AAGCTGGCCCCTGTG GTT-3’) と TaqMan MGB プローブ(Applied Biosystems,5’- TGGTGACTGATATTCC-3’), TaqMan Universal PCR Master Mix (Applied Biosystems)を用いて,ABI PRISM 7000 シス テ ム(Applied Biosystems) に よ り 定 量 PCR を 行 っ た. ま た, レ フ ァ レ ン ス に は TaqMan Ribosomal RNA Control Reagents VIC Probe(Applied Biosystems)を使用した.PCR 反応液は900 nM プライマーと 250 nM TaqMan MGB probe, 2.5 μL cDNA を含み,反応は 95°C 10 分の後,95°C 15 秒, 60°C 60 秒のサイクルを 40 回繰り返した.遺伝子発現量は ABI PRISM 7000 Sequence Detection System ソ フ ト ウ ェ ア (Applied Biosystems) により解析し, 10–3から10–7 ng・μL–1 のCiFT プラスミド希釈系列により定量した.定量値は, サンプルの希釈系列(103から107倍)を使って定量した 18S リボゾーマル RNA の値で割ることにより補正した. 発現量の差を把握しやすいように,補正値に105を乗算し, 10 を底とする対数値を求めた(Nishikawa ら, 2017).定量 PCR はそれぞれのサンプルに対して 3 回繰り返し,それら の補正された相対量・対数値の平均値を統計解析などに用 いた. 3.花数と収量の調査 2013 年から 2015 年の 3 年間,出蕾前に 1 樹につき 20 本 の前年無着果 (花)枝を選びラベリングして,満開前に 節数,花数,発芽数を調査した.満開日は,‘せとか’が 4 月 20 日前後,‘不知火’が 4 月 15 日前後であった.2013 年から2016 年までの 4 年間,2 月上旬に果実を収穫して 1 樹ごとに収穫果実重量を調査した.収穫後に樹冠容積を 7 掛け法(樹高 × 樹の縦幅 × 樹の横幅 × 0.7)により算出し, 単位樹容積当たりの果実重を求めた. 4.年次変動指数の解析 CiFT 発現量と 100 節当たりの花数,発芽数当たりの花 数については3 年間の,樹冠容積当たりの収量については 4 年間の結果をもとに,各樹の年次変動指数を以下の式に より算出した.
年次変動指数 = (|a2 – a1|/(a2 + a1) + |a3 – a2|/(a3 + a2) + … + |a(n – 1) – an|/(a(n – 1) + an))/(n – 1) n は年数, a1, a2…a(n – 1), anは対応する年次のCiFT 発現量, 花数あるいは収量を示す.年次変動指数が0 の場合は連年 安 定 を, 1 の場合は完全な隔年交互を示す (Monselise・ Goldschmidt, 1982). 5.統計解析 CiFT 発現量と花数との関連解析において,回帰曲線の 作成はSigmaPlot 13 (Systat Software Inc.)を用いて行った. CiFT 発現量と 100 節当たりの花数,発芽数当たりの花数, 収量において,品種と台木の同じ組み合わせ内でテュー キーのHSD 検定により年次間の多重検定を行った.また, CiFT 発現量,100 節当たりの花数,発芽数当たりの花数, 収量および年次変動指数について,品種と台木を要因とし た2 元配置分散分析を行った.
結果および考察
1.CiFT 発現量と花数との関連性 CiFT 遺伝子には 3 種類のホモログがあり,そのうちの CiFT2 が生理的花芽分化の時期に誘導されるなど,花芽 分化の制御に関与していることが示唆されている(Shalom ら, 2012).我々の研究グループはこれまで, CiFT1 および CiFT2 の 2 種類を検出するプローブ・プライマーを用いた 研究から, ウンシュウミカンにおける 11 月茎組織の CiFT 発現量と翌春の花数は密接に関連し,その関連性は年次や 地域で大きく異ならないことを報告している(Nishikawa ら, 2017).また,冷蔵条件で輸送した枝における CiFT 発 現量を用いた場合でも同様の結果を得ている.このことか ら,花芽分化に関与しないと思われるCiFT1 の 11 月中旬 の発現は無視できるほど極めて小さい,あるいは外的・内 的条件に関わらず一定であると考えられる.そこで,本研 究でも同じプローブ・プライマーを用いてCiFT の発現を 定量した.本研究ではまず,ウンシュウミカンと栽培性が 異なる中晩生カンキツにおいて,CiFT 発現量と翌春の花 数との関連を調査した.品種や台木の区別なく解析した結 果,3 年間の調査で得られた CiFT 発現量は翌春に観察さ れた100 節当たりの花数および発芽数当たりの花数と関連 を示した(第1 図).11 月茎組織における CiFT 発現量と 100 節当たりの花数あるいは発芽数当たりの花数の関連 は, それぞれ指数曲線あるいはシグモイド曲線に回帰し た.また, それらの相関係数はそれぞれ 0.92 および 0.78 だった.これらの回帰曲線の種類は,ウンシュウミカンで 報告したものと一致していた(Nishikawa ら, 2017).また, 品種と台木の異なる組み合わせ間において,CiFT 発現量 と花数の関連性が大きく異なることはなかった.異なる年 次間でもこれらの関連性は類似していた(データ省略). 2.品種と台木が花芽分化に及ぼす影響 次に,品種や台木の種類によって花芽分化がどう変化す るかを明らかにするために,CiFT 発現量と花数に対して 分散分析を行った.3 年分のデータについて解析した結果, 11 月の CiFT 発現量と 100 節当たりの花数は品種間で有意 に異なっており,いずれも‘せとか’で高かった(P < 0.05, 第1 表).発芽数当たりの花数では, ‘せとか’で多くなる 傾向にあったものの,品種間で有意差は検出されなかっ た.一方,CiFT 発現量や花数の平均値は ‘ヒリュウ’ 台で 高くなる傾向を示したが,台木間で有意差は検出されな かった.これらの3 か年分のデータについて分析した結果 では,それぞれの樹の隔年結果パターンの違いを考慮した とき,品種や台木の影響を正確に把握できていない可能性 が考えられた.そこで,連続する2 年分のデータについて も同様に解析した.その結果,CiFT 発現量および 100 節 当たりの花数において,3 年間の実験期間のうちの後半 2 年分の解析で品種間に有意差が検出された(データ省略). また,前半あるいは後半のいずれの2 年分のデータセット に対しても,CiFT 発現量あるいは花数において台木間で 有意差が検出されることはなかった.これらの結果から, CiFT 発現量および花数は‘せとか’ と ‘不知火’で異なる ことが示唆されたが,台木の種類による影響は明らかにな らなかった. 台木と品種の組み合わせが生殖成長の年次変化に及ぼす 影響を明らかにするために,品種と台木の各組み合わせに 第1 図 11 月茎組織における CiFT 発現量と翌春の 100 節当た りの花数 (A) あるいは発芽数当たりの花数 (B) の関連ついて各年次の平均値を比較した(第2 図).その結果, ‘ヒリュウ’台‘せとか’とカラタチ台‘不知火’, ‘ヒリュ ウ’ 台 ‘不知火’ では,2013 年 11 月の CiFT 発現量が前年 および翌年のCiFT 発現量より有意に低かった(第 2 図 A). CiFT 発現量の平均値の変動は,‘ヒリュウ’ 台 ‘せとか’ で最も大きく,次いで‘ヒリュウ’ 台 ‘不知火’で大きかっ た.CiFT 発現定量実験を行った 2012 年から 2014 年の 3 年 間では,温度や降水量などの気象条件に極端な違いが見ら れなかったことから,施設内の環境条件も年次間で変わら なかったと推測される.このため,2013 年 11 月の CiFT の低発現は,環境条件以外の要因によって引き起こされた と思われる.4 月の 100 節当たりの花数では,いずれの組 み合わせでも年次間に有意差は検出されなかったが,両品 種とも‘ヒリュウ’台で2014 年 4 月のものが前年および 翌年のものより極端に少ない傾向にあった(第2 図 B). 発芽数当たりの花数では,‘ヒリュウ’台の‘せとか’お よび‘不知火’において,2014 年 4 月のものが前年および 翌年のものより有意に少なかった(第2 図 C).このよう に,CiFT 発現量で観察された品種と台木の各組み合わせ における年次間の差は,翌春に観察された花数に反映され ていた.すなわち,CiFT 発現量の年次変動の程度が大き かった‘ヒリュウ’台では,100 節当たりおよび発芽数当 たりの花数でも年次変動が激しかった.以上の結果から, ‘ヒリュウ’台ではCiFT 発現量が不安定になりやすく,こ のことが翌春の花数に反映されると思われた. 3.品種と台木が収量に及ぼす影響 4 年間の収量に対する品種と台木を要因とした分散分析 では,いずれの要因においても有意差はなかった(第1 表).年次比較では,台木と品種の各組み合わせにおいて, 有意差は検出されなかった(第3 図).このように,第 2 図で示したような台木による花芽分化の年次変化の違い は,収量に反映されていなかった.果実の肥大を抑えて糖 の集積を図るために着果量を多く設定するウンシュウミ カンでは,花芽分化および花数の多少が収量に現れやす い.これに対して,‘せとか’および‘不知火’では果実の 肥大を促すために多くの果実を摘果して着果量を減らす. 本実験において,2014 年 4 月の着花数は‘ヒリュウ’台に おいて極端に少なかった(100 節当たりの花数が‘せとか’ で9.5,‘不知火’で 2.8)ものの,2015 年 2 月において両 品種とも平均で2 kg・m–3以上の収量が確保されていた. このことは,‘せとか’で100 節当たり 9 花あるいは‘不知 火’で2 花以上あればある程度の収量が見込めることを示 唆している.これらの結果から,‘せとか’および‘不知 火’では‘ヒリュウ’台の利用により花芽分化および着花 数が不安定になるものの,生理落果時期を過ぎても一定数 が着果し続けると考えられた.一方で,収穫時(2 月)の 第2 図 品種と台木の各組み合わせにおける各年次の茎組織 におけるCiFT 発現量 (A) と翌春の 100 節当たりの花 数 (B) あるいは発芽数当たりの花数 (C) 垂線は標準誤差(n = 4) 棒グラフ上部のアルファベットの異なる文字間には, 品種と台木の同じ組み合わせにおいてテューキーの HSD 検定による有意差あり (5%) 第1 表 台木と品種の各組み合わせにおける CiFT 発現量,花数および収量 品種 台木 (相対量,CiFT 発現量 対数値)z 100 節当たりの 花数z 発芽数当たりの花数z 収量 y (kg・m–3) せとか カラタチ 3.26 70.15 0.44 3.01 ‘ヒリュウ’ 3.31 172.77 0.60 3.49 不知火 カラタチ 2.96 21.70 0.40 3.03 ‘ヒリュウ’ 2.99 45.97 0.59 3.09 有意差x 品種 * * n.s. n.s. 台木 n.s. n.s. n.s. n.s. 交互作用 n.s. n.s. n.s. n.s. z 3 年間の平均値 y 4 年間の平均値 x 二元配置分散分析により n.s.:有意差なし,*:5%水準で有意差有り
着果量の年次変化は前年11 月の CiFT 発現量に反映されて おらず,このことはCiFT 発現量が秋冬季の着果量以外の 要因によって制御されたことを示唆している.前述したよ うに,着果はCiFT の発現を抑制する要因になり,隔年結 果は毎年の着果の多少が秋冬季の花芽分化および翌春の着 花数に影響するために発生すると考えられている.本実験 ではいずれの組み合わせでも摘果により毎年3 kg・m–3前 後に着果量が調整されたにもかかわらず,実験に供試した 2 品種の‘ヒリュウ’台における CiFT 発現量と花数は多い ときと少ないときを1 年ごとに交互に繰り返す傾向を示し た.このことから, ‘ヒリュウ’ 台ではカラタチ台に比べて 着花量や摘果時期までの着果負担の違いが11 月の CiFT の 発現により強く影響した可能性が考えられた. 4.品種と台木が生殖成長の年次変動指数に及ぼす影響 第2 および 3 図では,それぞれの組み合わせ 4 樹ずつの 平均値について年次変動を比較した.しかし,同じ組み合 わせでもばらつきが大きい年次が見られ,このことが年次 変動の比較を不明確にさせていると考えられた.そこで, 品種および台木の違いがCiFT 発現量,花数および収量の 年次変動に及ぼす影響を明確に把握するために,1 樹ごと に年次変動指数を算出し,分散分析により品種あるいは台 木の影響を解析した.その結果,CiFT 発現量の年次変動 指数は, ‘ヒリュウ’ 台で有意に高かった(第 2 表).一方, 100 節当たりの花数,発芽数当たりの花数および収量では, 品種あるいは台木間で年次変動指数に有意な差はなかった が,花数では‘ヒリュウ’ 台で,収量ではカラタチ台で高 くなる傾向にあった.このように,CiFT 発現量の年次変 動指数が‘ヒリュウ’台で有意に高かったことから,台木 の違いは11 月の CiFT 発現量に影響すると考えられる.‘ヒ リュウ’台ウンシュウミカンの葉の水ポテンシャルはカラ タチ台に比べて低く(矢羽田ら, 2003),CiFT の発現は乾 燥によっても誘導されることから(Chica・Albrigo, 2013), ‘ヒリュウ’台では樹が継続的に乾燥ストレス状態におか れ,CiFT 発現量が増大しやすい状態にある可能性が考え られた.このことから,‘ヒリュウ’台ではCiFT 発現量の 増大がきっかけとなって花数が不安定になり,CiFT 発現 量の年次変動が助長したと思われた.一方,年次変動指数 における有意差はCiFT 発現量でのみ検出されたことから, CiFT 発現量はばらつきの大きい花数と比べてより明確に 品種や台木の生殖成長に及ぼす影響を表すことができると 考えられる.通常,隔年結果性は収量の年次変動により評 価されるが,摘果により着果量が調整される慣行栽培で は,収量を用いて品種や台木による隔年結果性の違いを評 価するのは難しい.本研究の結果から,CiFT 発現量は潜 在的な隔年結果性の評価に有効な指標となることが示唆さ れた. ウンシュウミカンでは, ‘ヒリュウ’ 台の利用により着色 や糖度といった果実品質の向上が報告されている(小林 ら, 1995; 高原ら, 2001; 矢羽田ら, 2003).ウンシュウミ カンと同様,‘せとか’および‘不知火’でも,‘ヒリュウ’ 台を利用したときの果実品質はカラタチ台を利用したとき のものと同等あるいはそれ以上となることがわかっている (未発表).本研究の結果から,‘ヒリュウ’ 台では,収量 に お い て 明 確 な 年 次 変 動 は 観 察 さ れ な か っ た も の の, CiFT 発現量における年次変動指数はカラタチ台に比べて 有意に高く,花数においても連続する年次間で有意に異 なっていた.以上のことから,‘せとか’および‘不知火’ において,わい性台木‘ヒリュウ’ の利用は果実の安定生 産と省力化に寄与すると考えられるが,栽培の際にはカラ 第3 図 品種と台木の各組み合わせにおける各年次の収量 垂線は標準誤差(n = 4) 第2 表 台木と品種の各組み合わせにおける CiFT 発現量,花数および収量の年次変動指数 品種 台木 CiFT 発現量z,y 100 節当たりの 花数y 発芽数当たりの花数y 収量x せとか カラタチ 0.44 0.67 0.61 0.21 ‘ヒリュウ’ 0.76 0.77 0.64 0.13 不知火 カラタチ 0.50 0.53 0.37 0.21 ‘ヒリュウ’ 0.66 0.89 0.85 0.17 有意差w 品種 n.s. n.s. n.s. n.s. 台木 * n.s. n.s. n.s. 交互作用 n.s. n.s. n.s. n.s. z 相対量を用いて算出 y 3 年間の平均値 x 4 年間の平均値 w 二元配置分散分析により n.s.:有意差なし,*:5%水準で有意差有り
タチ台より着花が不安定になりやすいことを考慮する必要 があると思われた.
摘 要
カラタチ台あるいは‘ヒリュウ’ 台の‘せとか’および ‘不知火’を用いて,品種や台木が生殖成長に及ぼす影響 を3~4 年間調査した.カンキツの花芽分化時期である 11 月に花芽分化促進遺伝子CiFT の発現を定量した結果,11 月のCiFT 発現量は翌春の花数と密接に関連していた.両 品種とも, ‘ヒリュウ’ 台の CiFT 発現量と花数において, 年次間の差が大きかった.一方,摘果により着果数が調整 されたため,収量はいずれの品種・台木の組み合わせでも 毎年平均3 kg・m–3前後だった.CiFT 発現量,花数および 収量について年次変動指数を算出し分散分析を行ったとこ ろ,‘ヒリュウ’台におけるCiFT 発現量の年次変動指数が カラタチ台と比べて有意に高かった.以上の結果から, ‘せとか’ や‘不知火’ では,収量には影響しないものの ‘ヒリュウ’ 台の利用により花芽分化が不安定になること が示唆された.引用文献
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