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若者のキャリア形成の社会学的考察 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)若者のキャリア形成の社会学的考察. −若年層の離職行動に関する意識調査を中心にして−. キーワード:早期離職, フリーター, 若年層, ワークシェアリング,職業訓練. 発達・社会システム専攻 井場. 1.はじめに. 大輔. また、人材育成の問題以外には社会保障の問題が多く. 近年、景気の低迷による失業問題、なかでも新卒の. あげられる。フリーターは正社員に比べ収入が低いた. 雇用においては就職氷河期と言われ続けて久しいが、. め社会全体の労働人口の所得が減少し年金等の保険料. これと並行して入社後数年で会社を辞めてしまう早期. 収入が伸び悩むことになる。現在の日本の税制や社会. 離職も問題となっている。平成14(2002)年の総務省の. 保障制度では基本的に正規雇用、すなわち正社員であ. 調査でも30歳以下の転職率・離職率は著しく高く、. ることが前提となっているため、少子高齢化と重なっ. とりわけ24歳以下の転職率・離職率は全体の平均の. て深刻な税収の不足や年金制度の崩壊といった危険性. 倍以上である。. が考えられている。フリーターの平均収入は 12 万から. 早期離職はやめることそのものが問題ではなく、企. 14 万円の間で推移しているので、年金、雇用保険、健. 業と雇用者の双方にとって不利益となり将来的にもデ. 康保険といった公的負担を払えるような余裕があると. メリットが大きいということにある。最終的には、企. はいえない。現在の年金制度は、世代間扶養のシステ. 業側も必要な人材が安定して確保できることが望まし. ムが採られているので、払う人間が少なくなれば年金. い状態であり、雇用者の側としても自分の満足のいく. 制度は受給金額の減額か負担の増加といった対策を講. ような形で働くことが望ましい状態であるはずだ。早. じる必要がでてくるといった問題も指摘されている。. 期離職という行動は互いに不利益を与える行動であり、. フリーターという層をどのように処理していくかとい. そのときの一時的なリスクは諦めなくてはいけないか. う方向性は2つしかないと思われる。一つ目は、従来. もしれないが、その不利益が将来にまで関わってくる. のように正社員という雇用のあり方を重視し、フリー. ものになることは避けなくてはならない。それらの問. ターに代表される非正規社員を正規社員へと後押しす. 題に対して幾つかの仮説を提示することが出来たので. る方向性だ。現在のわが国でもこの方針が採られてい. はないかと考える。. る。なぜならば、フリーターの問題はフリーターが増 加しているから生じるわけであり、従来までの正社員. 2. フリーターの問題. が主流であった雇用のあり方に戻してやる、正常な雇. フリーターは現在ではかなり一般的な言葉として認知. 用のありかたに戻してやる、というスタンスでの方策. されているといえるだろう。まず、フリーターは正社. である。これはフリーターの問題解決に有効か否かは. 員ではないが、フリーターは収入がある以上当然のこ. わからないが、フリーターをキャリアアップのための. とだが「失業」ではない。平成 15(2003)年の調査で. 自己修練の場ととらえて前向きにとらえ、正規雇用を. は 2001 年の段階で 417 万人となっている。. ひとつの目標とするというのは現段階では間違ってい. フリーターが増加することによって起こると考えられ. るとはいえない。. ているひとつめの問題は、人材の育成が阻まれるので. フリーターの労働力の質が正規従業員とは異なってい. はないかという懸念である。人材開発こそ日本の雇用. る、劣っている、と考えられるために,正規雇用とは. とくらしを支える競争力の貴重な源泉であり、本人に. 分断された労働市場にとどまり続けているという指摘. とっても最も貴重な人材開発の時期を、転々として熟. があるのであれば,労働市場が 2 つに分断され求人と. 練労働者としての成長が望めない仕事に終始していて. 求職とのミスマッチが起きているとも指摘できる。今. は生涯にわたっての損失になる。. 後はこれらの市場間の移動を円滑にするような労働政.

(2) 策が必要であり、技能形成への啓発や就労インセンテ. 善の策として就職をひかえている高校生や大学生を対. ィブを高めるプログラムを通じて,かれらを正規雇用. 象にして行うことにした。. の市場に移行させることが求められる。. それらの結果から、早期離職をする場合は次の仕事を 確保してやめる場合再就職が難しい正社員よりもフリ. 3.インタビュー調査、アンケート調査から. ーターを選好しているのではないかと考えられる。賃. 調査の対象とした早期離職者はアクセスが困難であり、. 金に対する強い志向も見られなかったことからも、そ. インタビュー調査を行ったもののそのサンプル数は限. の仕事で自らの能力を発揮できてやりがいを感じられ. られてしまった。またその対象は性格も能力も関心も. るのであればフリーターに代表される非正規社員のキ. ことなっているし、それぞれに共通する要素が必ずし. ャリアを選ぶことは理にかなった行動であるといえる. もあるとはいえないが、話を聞いていくなかで、賃金. だろう。会社をかえずに勤続することはよいことであ. に対する要望がそれほど強烈ではなかったように感じ. ると考えてはいるものの、不満があるのであれば見切. られた。これはもちろんお金に対して執着がないとい. りをつけてやめることも想定している。以上が分析か. うわけではなく、お金以上に人間関係であるとか仕事. ら言えることだろう。しかしながら、離職・転職後の. の内容であるとか、時間的制約や拘束といったような. 経済的な問題に対しては楽観視しているきらいがあり、. 部分を重視しているということである。賃金の高さは. 十分な知識もない制度を重視していることは問題であ. それらの問題を補償するほどではないと考えているよ. るといえるだろう。雇用保険にはさまざまな規定があ. うに感じられた。すなわち、 「ちょっと給料は安くなる. り仕事がなくなれば誰にでも支給されるというもので. かもしれないけれど、もっと自分にあった仕事がある」. はなく、当然支給される期間も限りがあるし雇用され. というような考え方が一様に感じられた。反面、将来. ていたときと全く同じ金額を補償してくれるわけでも. のリスクに対する意識はそれほど強くなく、漠然とな. ない。会社を変えることに関しては心理的な抵抗感と. るようになるという具合の志向が見られた。また、両. いうものは薄れているが、それに伴って起こる経済的. 親の経済的な支援を受けたくない、自立したい、負担. なリスクに関しての関心はやや低いといえるだろう。. をかけたくない、という主張はするのだが、いざ経済 的に困窮した場合は支援してもらえるという安心感の. 4.ワークシェアリングの可能性. ような一見矛盾したような印象を幾つかの言葉のなか. オランダでは賃金の安定を図るとともにパートタイマ. からうけた。また、自分の適正や夢という観点から職. ーの積極的な導入を試みた結果、1980 年当初 500 万人. 業観を語りながらも、同年代の友人がどうだったとい. であった雇用者が 2000 年には 700 万人に拡大したとい. うような他社と自分との比較も思った以上に口にした。. う。. このことから考えるに、 「自分らしさ」を求めることが. わが国においても 2001 年に政府と日経連の合同案で. 若者にとって一種のスタンダードとなってしまったの. は、 「労働時間と賃金をシェアすることにより多くの雇. かもしれないと感じた。自分の周りの誰もが「自分ら. 用機会を作り出す」方法を緊急対応型、そしてオラン. しさ」をもとめてそれを職業に反映させて成功を収め. ダの方式を多様就業型と分類して、これらを組み合わ. ているように感じられるのだろう。少なくとも私が出. せて「日本型ワークシェアリング」を目指す、として. 会って話を聞くことのできたものの多くは「自分らし. いる。 「労働白書」では従来では企業内における雇用維. さ」を求める一種の強迫観念のようなものを大なり小. 持に重きがおかれていたが、最近では「失業無き労働. なり感じているようにみえた。一方、アンケート調査. 移動」というキャッチフレーズのもとで転職支援シス. を行った対象はインタビュー調査同様の理由でアクセ. テムの必要性を強調している。今後の産業構造の変化. スが困難なことから一定量を確保するために回行った. は労働市場を通して人の以上の重要性をより高めるこ. 調査では直接的に早期離職者にあたるのではなく、次. とだろう。.

(3) さまざまな就業形態を企業も労働者も選択できること. せるシステムである。その歴史は古く、一定の成果を. は大事であり、またそれ以上に企業の競争力をそこな. 収めている。一方、我が国では若者の失業対策として. わないことが重要なはずである。緊急対応型のワーク. 厚生労働省が一昨年末から「トライアル雇用制度」を. シェアリングというのは、基本的に短期的な失業者対. 導入している。これは 30 歳未満の求職者を対象に最長. 策であり、経済状況が好転すればそもそも必要のない. 3カ月の試用期間を経て、正社員への採用を決める制. 議論であることは明らかだ。問題は、経済状況が好転. 度であるが、利用者のうち3割近くが期間満了前に離. した場合に事業の拡大のための十分な人材が育ってい. 職するなど効果のほどはいま一つである。より本格的. ないことが深刻である。経済不況に伴う失業率の上昇. な若年者対策を望む声は高いが、行政だけで問題を解. といった問題も大きな問題であるが、目先の問題解決. 決するのは難しく、企業や地域を含め幅広い対策の必. のために将来の可能性を失うことは危険である。ワー. 要性が指摘されている。. クシェアリングの議論においては失業という問題を解. 現在の仕事の業務そのものに、あるいは業務を通して. 決するためだけではなく、今後の人材育成という観点. 何が今得られるのかを意識させ、明確にさせることが、. から考えていかなくてはならない。. 若手社員の早期離職の予防になり得る対策である。ま. 若年層の離職が顕著になりフリーター化やニート化が. た、就職活動中の学生に対しても同様にそれをアピー. 進むことは問題であるが、それを解決する手段として. ルし、その上で共感した学生を採用することができれ. ワークシェアリングを用いるのは人材育成を考えるな. ば、就職後のミスマッチや早期離職を減少させること. らばデメリットが大きいように思われる。若者に対し. ができるはずである。. て安易にワークシェアリングを用いるのではなく、若. 企業の側としても人材育成はするもののパートタイマ. 年層は今後の経済産業界を担う層として成長させてい. ーや派遣社員等で代替が可能な部分は活用し、正社員. かなくてはならないと考える。ワークシェアリングに. にしても学力や即戦力が高いものを選んでいく傾向が. よって作らねばならないのは若者の長時間労働という. 見られる。これは労働市場を通じた人的資源の移動が. 雇用機会であると思う。若年層の賃金を低く設定して. 活発になったと考えられるわけだが、即戦力となるよ. でも長時間労働を確保し、人材を育成していかなくて. うなスキルが備わっていない場合には就職が不利にな. は、今度の産業構造の変化や技術革新にともなう技能. ってしまうことは否めない。不況期においては経験の. の陳腐化、そして労働力人口の急激な減少といった問. 浅い未熟な労働者よりも豊富な熟練をもつ中高年の方. 題に直面した場合に生き残っていける人材がいなくな. が雇用の確保には有利であると考えられるだろう。. ってしまう。. しかし、これから問題となってくるのは失業ではなく、 労働人口不足である。これは非常に皮肉な事実である. 6.職業訓練とカウンセリング. が、今後少子高齢化の影響で働く人の数は確実に減っ. 現在の経済・雇用環境ではもちろんキャリアの浅い若. てくる。つまり、正社員になることが労働市場の構造. 年層の離職がそのまま転職へと結びつきにくいのは明. 的に容易になってしまう。そのような状況では、労働. らかである。企業の求人は即戦力を求める方向に推移. 市場は売り手市場となり、フリーターを余儀なくされ. しており、多くのフリーターやニートの予備軍がこの. るという若者は減りフリーターの問題は収束するかも. ような環境から新たに生まれてしまう。フリーターに. しれない。だが、そうなった場合少ない労働力をめぐ. 限らず、就職について今の若者が必要としているのは. り企業間で激しい争奪戦が行われることになるだろう。. 本格的な就業経験であり、キャリア形成である。. その場合若者はどういった行動をとるか。. 例えばフランスには見習い訓練制度というものがある。. おそらくは自分にとってより条件の良い企業を選好し、. これは企業から総人件費に応じて一定の訓練税を徴収. 転職するだろう。つまり、早期離職の企業におけるデ. し、それを財源に未就労の若者に補助金をつけて雇わ. メリットが今後も残ると考えられる。人的資源に投資.

(4) をしても離職されるリスクがあるのならば、人的資源. 友枝敏雄. (2001) 『 規範意識に関する社会学的研究』. に対する投資を控えるかもしれない。こうなってしま. 安田雪. (2003) 『働きたいのに… 高校生就職難の. うと状況は現在とあまり変わらず、企業は即戦力志向 となり企業の側が積極的に人材育成を行わないという ような悪循環となってしまう恐れがある。 この流れが今後もそのまま継承するようであれば、若 者は自らの技能を会社に拠らず自分の力で高めて労働 力としての品質を向上させていかなくてはならない。 つまりは、OJTではない形の職業訓練が必要なので. 欧米の雇用対策では教育訓練、職業紹介、カウンセリ ング等の効果が認められているし、日本でも効果が出 た例がいくつか紹介されてきている。これらの対策が まとめて行えるような機関を設けることが必要である. 今後必要となるのは、企業と雇用者との間をとりもつ コーディネーターの役割を果たすものだろうと考える。 企業の求める能力や適性と労働者が持つ能力や希望す る条件等をすり合わせその仲立ちとなる存在である。 現在ハローワークもそのような業務を行いつつあるよ うだ。しかしもう一歩踏み込んで、企業が求める技能 をそこで教育するようなシステムを作ることが理想で はないかと考える。. (1994). 『日本の雇用システム. 普遍性と強み』 小野旭. ――その. 東洋経済新報社. (1997). 『変化する日本的雇用慣行』. 日本労働研究機構 脇坂明. (2002). 『日本型ワークシェアリング』. PHP研究所 (2004) 『「人口減少経済」の新しい公式―. 「縮む世界」の発想とシステム』 井口泰. 日本経済新聞社. (2001)『外国人労働者新時代』. ちくま新書、 大久保幸夫(2002) 『新卒無業。―なぜ、彼らは就職し. 宮本みち子 (2002)『若者が≪社会的弱者』に転落する』 洋泉社 (1999). 『パラサイト・シングルの時代』. 筑摩書房 (2002)『仕事の中の曖昧な不安』. 中央公論新社 小杉礼子・堀有喜衣(2003) 「学校から職業への移行を支援する諸機関へのヒア リング調査結果−日本におけるNEET問題の所在 と対応」 JIL Discussion Paper Series 玄田有史・曲沼美恵 (2004). 「ニート. -フリーターで. もなく失業者でもなく」幻冬舎 博明 (2002). 小杉礼子. (2003). 『フリーターという生き方』. 勁草書房 大橋勇雄,中村二朗 (2004)『労働市場の経済学』 有斐閣 大橋勇雄 (1990). 『労働市場の理論』. 東洋経済新報社 小杉礼子 (2002). 『自由の代償 / フリーター』. 日本労働研究機構. 7.主要参考文献. 榎本. 勁草書房、. ないのか』東洋経済新報社. と思う。. 玄田有史. 小池和男. 松谷明彦. はないかということである。. 山田昌弘. 社会構造』. ほんとうの自分 のつくり方―自. 己物語の心理学 講談社現代新書.

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